まずさっそく、「ベーシックインカムとは」ということですが、ベーシックインカムは日本語で言うと「基本所得」と言い換えることができます。 主な特徴ですが、本当に大ざっぱな特徴を2点あげました。 ひとつめの特徴は、全員に食料などの現物ではなく、現金が配られるということです。 ふたつめの特徴は、ひと月ごとに給付といったように定期的に、かつ、無条件で、つまり大金持ちの人から、生まれたての赤ちゃんにまで給付されることになります。 大ざっぱに言うと、“一律で全員に”というところが BI の特徴であるといえます。 ここまでは、 BI という大まかな定義ですので、ほとんどの人と見解の相違はないかと思われます。 しかし以後のスライドに関してですが、 BI が十分に認知されていない概念であるため、 BI を知っている人でも見解が相違することがあるものであることは注意してほしいと思います。
BI (ベーシックインカム)はいくらくらい給付されるのかという話です。 BI は「基本所得」ですから、全員が一気に大金持ちになれる金額がもらえるという制度ではありません。 「最低限の生活を送るのに必要な現金」ということですが、これは憲法の 25 条で定められている 「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」を保障する程度の金額として受け取られることが一般的なようです。 具体的によく目にするのは、月額 5 万円から 12 万円くらいのあいだであることが多いです。 また、月額ではなく、日額で給付するという案もあります。 電子マネーを利用して 1 秒あたりいくらということで給付するという考えもあり、そうすることで BI を抵当に入れてしまうことを制度として防ぐことも議論されています。
BI はどのようにして配られるかということに関しては、個人、世帯単位ではなく個人単位で給付されるとされることがほとんどです。 こうすることにより、子供を増やすインセンティブが高まり少子化への効果が期待されている他、別居中の夫婦など細かな対応が取りやすいという利点があります。 無条件である意味は、例えばなぜお金持ちにも給付されるのかという点に関してですが、仮に高所得者にお金を配らない制度にしようとした場合はどうでしょう。 最も大きなものは、労働の意欲が削がれることです。 労働をして給付を受けられなくなるのであれば、もらえなくなるところで労働をやめてしまう人も出てくるでしょう。 また、高所得者に給付しない制度にした場合、すべての国民に対して資力調査を行う必要があるため、その分 BI の利点である行政のコストカットが達成されなくなります。 また、高所得者に給付しない制度にした場合は、高所得者以外の者は、低所得者にスティグマ(屈辱)が発生することが考えられます。
BI の3つの大きなメリットについてです。 1. BI は全員に無条件に配られるため、国民全員の基本的人権や生存権が尊重されることになります。 次に、いわゆるブラック企業に勤めている人も、 BI があることによって食べていくためにその企業に勤め続けなければならないという“負の連鎖”を止め、退職し、新たな職を安心して探すことができるようになります。 余暇の充実というのは、労働環境が改善されることによって長時間労働や休日出勤が減り、自由に使える余暇の時間が増えます。 余暇の時間に、今まではすることのできなかったクリエイティブな活動や趣味、 NPO 活動やボランティアを行うことができます。 そのような人が増えることによって、芸術や文化が豊かな社会になるのではないか、ということが言われています。 もちろん、たくさん報酬を得たい人は、今まで通り働き続けることが可能です。 2. BI は完全雇用を前提としない従来とはかなりことなる制度です。 従来は完全雇用を徹底しようとして、労働市場を歪める政策が取られることが多かったですが、それはなくなります。 BI は資本主義の根幹と言える市場システムに干渉しません。 むしろ BI によって労働者保護のための規制を緩和されることができるため、今まで以上に市場システムを徹底したものにできるのです。 製造業をはじめとする国際競争力の低下が懸念される日本ですが、そういった競争力を取り戻すことができるという人もいます。 3. 行政のスリム化です。 現在の福祉制度は、様々な公的負担や社会保障が乱立し、行政の手続きや運営組織が肥大化し、多大なコストがかかっています。 BI は、年金や生活保護などと一本化されることによって、管理や運営が非常にスリム化されコストが削減されます。
先程、 BI のメリットを説明しましたが、問題点も指摘されています。 主なものはここにあげた4つです。 そのうちでも最も大きな争点となっているのが BI の財源についてです。 当初より論じられてきた所得税の場合、給付額に拠りますが概算で 45 %~ 50 %程度まで税率を引き上げなければならないと言われることが多いです。 この例からも分かるとおり、 BI は多額の財源を必要とします。 例に示した所得税率引き上げの場合ですと、一般的なサラリーマン世帯において、給付額よりも税額の方が上回る可能性も指摘されています。 BI は世帯でなく個人単位で給付されるものであるため、家族という形態を保つ意義が薄れると言われています。 しかしこれは、お金目的での意義が薄れるというものに限るため、 BI が夫婦や親子間の愛情関係に影響を及ぼすことではありません。 そのため、愛情関係に基づいたより理想的な家族制度ができるという意見や、従来の結婚制度に縛られない多様な生き方が許される制度であるとする見方もあります。 同性愛の人や、また小さなコミュニティを作って子育てをするという新しい考え方に期待する人もいます。 外国人の移民についてですが、 BI が全員に無条件に配られることを目的として、多数の移民がやってくるのではないか、その人々にも給付を認めることはできない、とする問題もあります。 これは、 BI の細かな給付基準や、何をもって日本国民と見なすのかという複雑な問題にもつながっています。 勤労者の減少というのが一番よく言われる BI の問題点であるかもしれません。 しかし、 BI は最低限の生活を営むための給付ですから、少なくとも現状の生活を維持しようとすれば働くのを辞める人は少ないのではないか、という意見があります。 これらの問題に関しては、長期的な予測は立てにくい問題となっているため、離島などで BI 特区を実験的に行うことも提唱されています。
先程すでに「 BI の3つの大きなメリット」というものを説明しましたが、現行の制度と比較するなど、より細かく見ていきたいと思います。 はじめに現行の公的扶助である生活保護の問題点についてです。 捕捉率 20 %とありますが、当然これは正確な数字ではありません。 捕捉率というのは、生活保護が必要である人が、どのくらい給付を受けることが出来ているかという割合です。 政府は捕捉率の調査すら行っていませんが、複数の調査で捕捉率が 20 %程度か、それ以下であるとされています。 市役所で“水際作戦”と称し、違法な保護申請が行われた問題もありましたが、それらが捕捉率の低下の原因であるといえます。 しかし、どうして市役所が“水際作戦”を行うのかという根本の理由は、圧倒的な財源の不足です。 それにもかかわらず、不正受給の問題が発生するたびに厚生労働省では財源削減の姿勢が示しており、改善の余地は難しいと言われています。 この低捕捉率という問題はすなわち、全員の基本的人権が尊重されていないという点で、非常に問題があります。 BI は“一律で全員に”ということなので、捕捉率は 100 %に近くなるといえます。 受給者のスティグマは、生活保護の給付を受けている人が、その他の人々の税金から出されたものであるということから、“養ってやっている / もらっている”という感覚が生じて、受給者が屈辱を感じるということです。 BI の場合は “一律で全員に”であるため、受給者という視点では皆が平等でありスティグマは感じにくいとされています。 貧困の罠とは、簡単にいえばパートタイム労働者のいわゆる“ 103 万円の壁“というものと同じ構造です。 それ以上働くと、税金がかかるため、 103 万円以内で収めようとします。 それと同様に、生活保護の場合は、一定額以上の収入を得ると生活保護が止まってしまうため、働く意欲がなくなってしまうことです。 次に、労働と余暇です。 すでに「余暇の充実」というところで、労働環境が良くなって、芸術や文化が豊かな社会になるのではないかということを言いました。 しかし、「世界規模での雇用問題(労働の減少)」とありますが、もっと根本的な問題が指摘されています。 これはグローバル化により工場が中国に移転し、日本で空洞化が起こったという単純な話ではありません。 常識をくつがえすような話ですが、今はもう人類は全員が全員働かなくてもみんな食べるに困らないくらいに科学技術が発達して、少数の人が働くだけで社会が継続するような世界になりつつあるのではないか、というびっくりするような指摘がされています。 この点が、歴史上世界各国が完全雇用を達成しようとして一度も、どの国も成功させることができなかった理由であり、 BI が徐々に注目されるようになってきた理由ではないでしょうか。
BI は共産主義や社会主義である、という指摘をよく耳にします。 それらの指摘はあまり的を得たものではない、という主張が多くなされます。 それはなぜかというと、すでに市場システムと関連させて説明したように、 BI は資本主義に対立しない制度だからです。 対立しないどころかむしろ、より資本主義を徹底するものでもあります。 また、 BI が経済に良い影響を与えるのではないか、という点も議論されています。 最も注目すべき点は、起業が促進されるという点ではないでしょうか。 現在、起業は大きなリスクを伴うものであるため、多くの人が起業することに躊躇していると言われています。 これが、 BI によって最低限の生活を保証されているため、リスクをとって起業できるというのです。 ベンチャー企業では、大企業ではできないような斬新なビジネスやイノベーションが起こるということはよく耳にする話ですが、 それが BI によって促進されることになると言われています。 また、 BI が全国一律同額で配られれば、地価の安い地方へ移住したほうがいいと判断する人が増えて、地方へ移住する人が増えて、地方の人口も増えればその地方における消費や生産が活発化することが考えられます。 このように BI を地方活性化の起爆剤とする意見もあるのです。
BI によって、いわゆる「小さな政府」が実現されることになります。 しかし従来の「小さな政府」と異なり、最低限の福祉は確保された上で「小さな政府」を成立させることができるのです。 「小さな政府、広い福祉(手厚い福祉、ではない)」といえるかもしれません。
新党日本がベーシックインカムを公約に掲げています。 また、民主党内でも勉強会が発足したという話があります。 ちなみに、「子ども手当」が支給されましたが、これを 15 歳以下限定の“部分的 BI” と理解する人もいます。 また、 BI に近い「給付付き税額控除」が現実的に実現されそうなものとして引き合いに出されることもしばしばあります。 住基ネットを利用した給付体制など、 BI の仕組みの整備と見て取ることもできる部分も多くあるため、期待する人もいます。