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観測不可な確率変数に関する推計と
ファイナンス工学への応用
京都大学 博士(経済学)
三田 光星
公開にあたって (2023.05.19)
 以下のスライドは2023年2月1日、京都大学にて行った博士論文公聴会の発表資
料である
 アップロードにあたり、所属の部分や一部誤植を修正したが、内容は変わって
いない
 なお、事情により編集ソフトがPowerPointからKeynoteに変わっているため、グ
ラフ等の一部表示の崩れが存在する
目次
 Chapter 1. Introduction
 Chapter 2. フィルタリングによる配当確定後株価の推計
 Chapter 3. 災害債券市場における逆問題の数値的解法
 Chapter 4. Occupation Timeの動学的費用最小化問題への応用
Chapter 2.
フィルタリングによる
配当確定後株価の推計
Chapter 2.の概要
ゆうちょ銀行の株価 (2020年7月1日〜2021年6月30日)
750
850
950
1050
1150
7/2/24 7/29/24 8/22/24 9/16/24 10/14/24 11/7/24 12/3/24 12/26/24 1/23/25 2/18/25 3/16/25 4/8/25 5/7/25 6/1/25 6/24/25
モチベーション
 株価は将来キャッシュフローの現在価値として考えられている
 しかし、実際の市場は各期末に株価が上昇し、突然大きく下落することがある
 この現象をモデルによって捉え, 理論上の株価の動きを分析したい
 株価は企業価値と深い関係があり、株価の一時的な過熱は企業価値を測る上でノイズ
となる
 期間途中に過熱を察知して、権利確定後の株価を事前に予測したい
 予測できればリスクヘッジの新たな方法や投資戦略の開発などに役立つ
今回の仮説
[仮説 (本文より)]
比較的少額から投資が可能な個別株について, 将来キャッシュフローの一部として
株価に織り込み済みであるはずの当期配当が期間の途中で強く意識され, 株価のド
リフトが変化する. そして配当を受け取る権利が確定した直後, 株価の過熱が下方
ジャンプによって調整される.
 この仮説を要約すると以下の2点
 株価はある時期から期末にかけて上昇率 (ドリフト)が大きくなる
 配当の権利が確定した直後, 下方ジャンプによって過熱した株価が調整される
モデルの設定① 株価と配当について
 確率空間 において株価 は以下のような幾何ブラウン運動に従う
 株価の対数を , そのドリフトを とする
 このとき は というドリフト付きブラウン運動となる
 株価は設定上ジャンプするが、今回はジャンプを伴う確率過程は使わない
 ジャンプする時刻が権利確定日の翌営業日と決まっている
 年に高々2度しかジャンプしない
 投資家は配当の額 を事前に知っている
 実際に前年度の配当やアナリストの分析により一定の精度で予測されている
(Ω, ℱ,
𝑃
)
𝑋
𝑡
𝑑
𝑋
𝑡
𝑋
𝑡
=
𝜇
𝑑
𝑡
+
𝜎
𝑑
𝑊
𝑡
⟺
𝑋
𝑡
=
𝑋
0e(
𝜇
−
𝜎
2
2 )
𝑡
+
𝜎
𝑊
𝑡
𝑌
𝑡
= log
𝑋
𝑡
𝑟
=
𝜇
−
𝜎
2
2
𝑌
𝑡
𝑑
𝑌
𝑡
=
𝑟
𝑑
𝑡
+
𝜎
𝑑
𝑊
𝑡
𝐷
モデルの設定② 状態空間とパラメータ
 状態空間は という2つの状態を持っている
 は平常時, は配当を強く意識している時期を指す
 各時点の状態は というように表す
 時刻 においては必ず , つまり状態 にいる
 配当の権利が確定した直後は次の配当を強く意識することはないと考える
 ドリフトは を満たす
 過熱状態に入るとドリフトが上昇するという仮説に整合するよう設定
 状態問わずボラティリティ は一定
 分析期間が単年度と短いことと、興味のあるパラメータがドリフトであるため
I = {0, 1}
𝑖
= 0
𝑖
= 1
𝑆
𝑡
=
𝑖
𝑡
= 0 S0 = 0 0
𝜇
0 <
𝜇
1
𝜎
分析の流れ
以下の2つの手順によって仮説の確認を行う
1. レジームスイッチングモデルで状態が仮説通り移行しているかを確認する
 「 」と「 が時間経過によって上昇する」の2つを確認する
 1つ目は前述の設定の通りの条件
 2つ目は途中で状態 に戻らないかを確認するため
2. カルマンフィルターによって「本来あるべき」株価のパス を推計する
 期間最終日である端点 の値と権利確定日の翌営業日の始値を比較
 ジャンプによる株価の調整と推計されたパスが一致するか確認
𝜇
0 <
𝜇
1
𝑃
(
𝑆
𝑡
= 1)
0
{
𝛼
𝑡
}
𝛼
𝑇
利用したデータ
[期末一括配当銘柄]
 ゆうちょ銀行 (TYO: 7182)
 ハードオフ (TYO: 2674)
※ 2020年度、2021年度のデータを使用
[中間配当ありの銘柄]
 日東工業 (TYO: 6651)
 旭化成 (TYO: 3407)
※ 2021年度上半期と下半期のデータを使用
第1段階: レジームスイッチングモデル
 前述の設定に加えて、推移確率行列 を以下のように設定する


 推計パラメータは の5つ
 推計にはEMアルゴリズムを用いる
 欠測値がある際に、欠測値を条件付き期待値で置き換えるパラメータ推計の手法
 適当な初期値 から出発し、収束するまでパラメータを更新する
 今回は状態変数 という欠測値があるのでEMアルゴリズムを用いる
 収束判定には尤度関数の差を用いた
𝑃
𝑝
𝑖
𝑗
は状態
𝑖
から状態
𝑗
に移行する確率
𝑃
=
(
1 −
𝑝
01
𝑝
10
𝑝
01 1 −
𝑝
10)
(
𝜎
,
𝜇
0,
𝜇
1,
𝑝
01,
𝑝
10)
𝜃
0
{
𝑆
𝑡
}
パラメータ推計結果 (期末一括配当)
企業名 年度 σ μ0 μ1 p01 p10
ゆうちょ銀行
2020年度
推計値 0.2245845 0.2667084 0.6915573 5.97E-13 0.01004683
標準偏差 2.24E-05 0.02697477 0.02753254 6.78E-09 0.00078158
2021年度
推計値 0.2602232 0.1738067 0.23042 9.70E-06 0.0163673
標準偏差 2.73E-05 0.02689778 0.0399231 2.08E-05 0.00124364
ハードオフ
2020年度
推計値 0.2561547 -0.0235916 0.5780303 1.02E-13 0.01587911
標準偏差 2.62E-05 0.02690422 0.03809124 2.63E-09 0.00118609
2021年度
推計値 0.1818151 0.04439213 0.1351205 1.31E-11 0.00725834
標準偏差 1.33E-05 0.02341415 0.02088203 3.07E-08 0.00062384
状態確率 (期末一括配当)
 上段: ゆうちょ
 下段: ハードオフ
 左列: 2020年度
 右列: 2021年度
第1段階 期末一括配当の結果 (まとめ)
 検証事項はふたつとも確認できた
 ドリフトは標準誤差が少し大きい
 使用データが少ないこと、2つ状態があることが理由として挙げられる
 状態確率が0.5を超えるのは10月〜12月の間である
 投資家はこの時期から年度末の配当を意識し始める
 この時期は中間決算の内容が発表される期間でもある
 決算の内容を確認した投資家たちが動き始め、該当銘柄の保有を検討する可能性
パラメータ推計結果 (中間配当あり)
企業名 年度 σ μ0 μ1 p01 p10
旭化成
上半期
推計値 0.2876533 0.00911204 0.1664644 2.49E-13 0.02276982
標準偏差 5.77E-05 0.05325805 0.06861922 6.04E-09 0.00231022
下半期
推計値 0.34518032 -0.5490604 -0.0262189 9.99E-11 0.04127302
標準偏差 7.89E-05 0.05714119 0.10943475 1.12E-07 0.00402448
日東工業
上半期
推計値 0.2594873 -0.5662943 0.433552 7.36E-17 0.03355923
標準偏差 4.91E-05 0.04475538 0.07199297 1.21E-10 0.00326415
下半期
推計値 0.2571181 -0.7897349 -0.2991414 7.31E-13 0.05172063
標準偏差 4.67E-05 0.04140454 0.0915975 9.32E-09 0.00502832
状態確率 (中間配当あり)
 上段: 旭化成
 下段: 日東工業
 左列: 上半期
 右列: 下半期
第1段階 中間配当ありの結果 (まとめ)
 期末一括配当銘柄と同様に、検証事項は確認できた
 状態確率が0.5を超えるのは上半期は6月〜7月、下半期は11月〜12月
 いずれも決算の内容が発表される期間である
 期末一括配当と同様に、投資家は決算の内容を見て保有の意思決定を行う可能性
 状態確率の上昇は上半期より下半期の方が速い
 上半期終了時の配当支払いは一部銘柄のみ
 一方で下半期は多くの企業が配当を支払う
 ⇨ 下半期の方が投資家が配当を強く意識する可能性がある
第2段階: カルマンフィルター
 欠測値と線形の関係にあるデータを用いて、欠測値を推計する手法
 状態 1に移行した時刻を とし、 以降の株価データに対し
てカルマンフィルターを実行する
 以下のような線形システムを仮定し、理論上の株価 のパスを推計する
 ここで と は対数系列であることに注意
 (1)の右辺第2項は、観測される株価 が時間経過により から乖離していく大きさを
表している
𝜏
= min
𝑡
∈[0,
𝑇
]
{
𝑃
(
𝑆
𝑡
= 1) > 0.6}
𝜏
{
𝛼
𝑡
}
𝑌
𝑡
=
𝛼
𝑡
+
𝑡
𝑇
{log
𝑋
𝑇
− − log(
𝑋
𝑇
− −
𝐷
)} + ⊿
𝑡
𝜖
𝑡
…(1)
𝛼
𝑡
+1 =
𝛼
𝑡
+
𝛿
⊿
𝑡
+ ⊿
𝑡
𝜂
𝑡
{
𝑌
𝑡
} {
𝛼
𝑡
}
{
𝑌
𝑡
} {
𝛼
𝑡
}
推計結果 (期末一括配当・年率)
企業名 年度 σε ση δ 権利落ち日 始値 推計値
ゆうちょ銀行
2020年度 0.000169805 0.16833862 0.783621954 3月30日 1080 1081
2021年度 0.04512366 0.22335355 0.23964609 3月30日 1010 1012.0197
ハードオフ
2020年度 0.1147628 0.1473191 0.5857408 3月30日 851 861.5245
2021年度 0.085502 0.1521737 0.2302181 3月30日 766 767.8029
価格と推計値 (ゆうちょ2020)
価格と推計値 (ゆうちょ2021)
価格と推計値 (ハードオフ2020)
価格と推計値 (ハードオフ2021)
第2段階 期末一括配当の結果 (まとめ)
 推計値は十分な精度で一致し、権利確定後の下落を捉えられている
 特筆すべき点は2022年2月下旬の動き
 2月24日のロシアによるウクライナ侵攻で市場全体が急激な下落を起こした
 モデルが比例配分であるという設定上、その動きをしっかり捉えられる
 ドリフトを示す の値がレジームスイッチにおける に近い
 配当への過剰な期待により、配当額以上の上昇を市場
が
起こしている
 直後の下落だけでなく、数日間の不安定な変動により調整される
 この調整については考えない設定を採用しているので自然な結果である
𝛿𝜇
1
推計結果 (中間配当あり・年率)
企業名 年度 σε ση δ 権利落ち日 始値 推計値
旭化成
上半期 3.760622 ∗ 10−5 0.1945771 0.1920378 9月29日 1224 1238
下半期 0.00044122 0.25848391 0.34308413 3月30日 1104 1097
日東工業
上半期 0.1662292 0.1266583 0.4426067 9月29日 2090 2119
下半期 0.0992967 0.1595216 -0.1780125 3月30日 1611 1601
価格と推計値 (旭化成上半期)
価格と推計値 (旭化成下半期)
価格と推計値 (日東工業上半期)
価格と推計値 (日東工業下半期)
第2段階 中間配当ありの結果 (まとめ)
 期末配当よりも推計の精度が下がっている
 データ数の差が考えられる要因
 推定された のパスは乖離が小さい
 配当利回り自体は高いが、年に2回という形で分割して支払われる
 1回1回の配当が小さいため、乖離が小さくなる
 ドリフト は期末一括配当と同様の結果を示す
{
𝛼
𝑡
}
𝛿
配当確定後株価の事前予測
 期間途中のデータを用いて、前述の分析と同じことが可能かを検証する
 以下の手順で検証する
1. は変化が少ないと仮定し、ヒストリカルに計算しておく
2. 時刻 までのデータを用いてレジームスイッチングモデルを適用する
3. を確認し、状態確率が0.6を超えた点を と設定する
 ない場合は とする
4. までのパスを2.で推計したパラメータでシミュレーションする
5. までのデータと4.のパスでカルマンフィルターを行い、下落後の株価を推計する
 ゆうちょ銀行の2020年度のデータを使用
 代表点として11月16日以降で10営業日ごとの日程を2月末まで取る
𝜎𝑡
𝑛
𝜇
0 <
𝜇
1
𝜏
𝜏
=
𝑡
𝑛
(
𝑡
𝑛
,
𝑇
]
𝑡
𝑛
配当確定後株価の事前予測の結果
 推計値は大きく外れてしまうことが多い
 原因の一つにカルマンフィルターの(1)式が に強く依存していることがある
 は今回シミュレーションで導出しており、その乖離が推計にも影響している
 正確な の推計ができれば精度が上がる
𝑋
𝑇
𝑋
𝑇
𝑋
𝑇
日付 推計値 標準誤差 実際の始値
2020 年 11 月 16 日 1072.4627 1.5113122
1080
2020 年 12 月 2 日 800.5312 1.0197476
2020 年 12 月 17 日 853.3827 0.9520759
2021 年 1 月 5 日 806.8956 0.8021015
2021 年 1 月 21 日 886.5152 0.8979321
2021 年 2 月 5 日 934.2802 0.7958022
2021 年 2 月 24 日 1013.3976 0.6676675
結論と課題①
 期末にかけて発生する株価の過熱と下落を捉えるフレームワークを作成
 配当への過剰な期待として考え、実際のデータから一定の有効性を確認
 レジームスイッチングとカルマンフィルターという単純な設定
 今後は非線形フィルタや一般の状態空間モデルへの応用に取り組む予定
 今回は下落直後の株価を捉える設定を採用
 カルマンフィルターにおけるドリフトが大きくなる
 数日にわたる変動の末の株価を推計する場合はモデルを変えれば良い
 ドリフトの固定や自己励起過程のHawkes過程の利用が考えられる
結論と課題②
 途中までのデータを用いて行う予測の精度は悪い
 終端の に依存するモデルの性質による
 の推測精度を上げることも今後の課題
 業績変化による増配/減配の発表の影響がある場合はこの方法で分析できない
 増配の発表によって将来キャッシュフロー自体が大きく増加する
 結果、株価も大きく上昇(ジャンプ)する
 発表が期末に近い場合、配当に対する期待がジャンプに吸収される場合がある
 このとき、レジームスイッチングによるドリフト変化の分析が難しくなる
𝑋
𝑇
𝑋
𝑇
参考文献
 Cheang, Gerald HL and Carl Chiarella (2011). “Exchange options under jump-diffusion dynamics”. In:
Applied Mathematical Finance 18.3, pp. 245–276.
 Fortune, Peter et al. (1999). “Are stock returns different over weekends? A jump diffusion analysis of
the weekend effect”. In: New England Economic Review 10, pp. 3–19.
 Hainaut, Donatien and Franck Moraux (2019). “A switching self-exciting jump diffusion process for
stock prices”. In: Annals of Finance 15.2, pp. 267–306.
 Hamilton, James D. (1990). “Analysis of time series subject to changes in regime”. In: Journal of
Econometrics 45.1, pp. 39–70
 Hamilton, James Douglas (2020). Time series analysis. Princeton university press.
 Hanson, Floyd B and John J Westman (2002). “Optimal consumption and portfolio control for jump-
diffusion stock process with log-normal jumps”. In: Proceedings of the 2002 American Control
Conference (IEEE Cat. No. CH37301). Vol. 5. IEEE, pp. 4256–4261.
 Kabutan, 株探 (n.d.). 【特集】まだ間に合う, 9 月配当【高利回り】ベスト 30「スタンダード他」編 割
安株特集. https://kabutan.jp/news/marketnews/?b=n202209240146 (参照 2022-10-29).
 Kim, Chang-Jin, Charles R Nelson, et al. (1999). “State-space models with regime switching: classical
and Gibbs-sampling approaches with applications”. In: MIT Press Books 1.
 Kou, Steven G (2002). “A jump-diffusion model for option pricing”. In: Management science 48.8, pp.
1086–1101.
参考文献
 Ma, Hui and Yang Li (2020). “Stock Price Jump-diffusion Process Model Based on Fractional Brownian
Motion Theory”. In: 2019 3rd International Conference on Education, Economics and Management
Research (ICEEMR2019). Atlantis Press, pp. 374–378.
 Maekawa, Koichi et al. (2008). “Jump diffusion model with application to the Japanese stock
market”. In: Mathematics and Computers in Simulation 78.2-3, pp. 223–236.
 Merton, Robert C (1976). “Option pricing when underlying stock returns are discontinuous”. In:
Journal of financial economics 3.1-2, pp. 125–144.
 Ramezani, Cyrus A and Yong Zeng (1998). “Maximum likelihood estimation of asymmetric jump-
diffusion processes: Application to security prices”. In: Available at SSRN 606361.
 Scott, Louis O (1997). “Pricing stock options in a jump-diffusion model with stochastic volatility and
interest rates: Applications of Fourier inversion methods”. In: Mathematical Finance 7.4, pp. 413–
426.
 Simonato, Jean-Guy (2011). “Computing American option prices in the lognormal jump–diffusion
framework with a Markov chain”. In: Finance Research Letters 8.4, pp. 220–226.
 Tsay, Ruey S (2010). Analysis of Financial Time Series. John Wiley & Sons.
 小西貞則, 越智義道, and 大森裕浩 (2008). 計算統計学の方法: ブートストラップ・EM アルゴリズム・
MCMC. シリーズ予測と発見の科学 / 北川源四郎, 有川節夫, 小西貞則, 宮野悟編. 朝倉書店.
 沖本竜義 (2010). 経済・ファイナンスデータの計量時系列分析. 朝倉書店.
Chapter 3.
災害債券市場における
逆問題の数値的解法
Chapter 3.の概要
 災害債券の評価モデルと価格データから根源的なリスクの推計を行う
 通常は被害状況のデータからリスクの推計を行い債券価格を評価する
 今回はモデルと価格の実現値からリスク過程を求める逆問題を定義
 Subordinatorという一般的な設定で解くフレームワークを作成
 実際の債券価格と簡単なモデルによる分析
 Subordinatorの中で最も単純な複合ポアソン過程を採用
 リスクの推計結果を用い、複雑なフィーチャーを持つ災害債券を評価する
 例として閾値が複数あるタイプの債券を想定
災害債券とは
 地震や台風などの大規模な自然災害に関連する債券(保険)
 対象の自然災害による被害が大きい場合、補償金を受け取ることが可能
 大災害発生時のリスクをヘッジするために保険会社がかける再保険の側面もある
 契約で定められた指標が特定の閾値を超えた場合に補償金が支払われる
 指標の例: 被害総額、マグニチュードの値 etc.
 本質的なリスクは災害であり、市場と関係ないところにある
 一般的な金融資産との相関が小さく、市場の影響を受けづらい
 利回りも高く、分散投資の対象として用いられる
モチベーション
 通常は被害状況のデータからリスクの推計を行い債券価格を評価する
 Burnecki [2005]など先行研究多数
 Burnecki [2005]ではProperty Claim Servicesのデータを使用し、リスク過程を推計
 発行元の保険会社と投資家との間に情報の非対称性が存在する可能性
 実際の請求の頻度や支払額のデータを保険会社は多く持っている
 投資家は主な情報源が公開情報
 もっともオープンな情報である過去の債券価格から推計することは有用
一般的な議論: モデル構築
 ゼロクーポン債のモデル (cf. 誘導型モデル Capinski and Zastawniak [2016])
 指標となるリスク過程 : Lévy Measure の斉時的なSubordinator
 はドリフトがなくジャンプによってのみ増加する
 契約で定められる閾値
 リスクフリーレート : 時刻によらず一定
 デフォルト時刻

 Subordinatorは単調増加の確率過程であることから成立
 時間経過による連続的な増加と のジャンプによる不連続な減少
 本質的な価値の変動は後者の不連続な減少にある
{
𝐴
𝑡
}
𝑡
∈[0,
𝑇
]
𝜇
{
𝐴
𝑡
}
𝑢𝑟
𝜏
= inf{
𝑠
∈
𝑅
+
𝐴
𝑠
>
𝑢
}
𝑉
𝑡
=
𝑒
−
𝑟
(
𝑇
−
𝑡
)
𝐸
[
𝐼
{
𝜏
>
𝑇
} ℱ
𝑡
] =
𝑒
−
𝑟
(
𝑇
−
𝑡
)
𝐸
[
𝐼
{
𝐴
𝑇
<
𝑢
} ℱ
𝑡
] =
𝑒
−
𝑟
(
𝑇
−
𝑡
)
𝑃
[
𝐴
𝑇
<
𝑢
ℱ
𝑡
]
{
𝐴
𝑡
}
一般的な議論: 推計手順
1. が下方にジャンプしている点を特定 (順に とつけていく)
 減少はジャンプによってのみ起こり、その変動は大きい
 となる点を全て抽出する
2. を初期値として逐次的に を計算、 } とする
 斉時的なSubordinatorなので、ジャンプによって変わるのは閾値 までの距離のみ

とデータを照らし合わせれば計算可能
 はSubordinatorの性質より逆ラプラス変換で数値的に計算できる
3. }と より理論価格 } を再現する
4. } と を比較して誤差が一番小さい を推計値とする
𝑉
𝑡
𝑡
1,
𝑡
2…
𝑑
𝑉
𝑡
≤ 0
𝐴
0 = 0
𝐴
𝑡
𝑖
{ ^
𝐴
𝑡
𝑢
𝑑
𝑉
𝑡
𝑛
+1
=
𝑒
−
𝑟
(
𝑇
−
𝑡
𝑛
+1)
𝑢
−
𝐴
𝑡
𝑛
∫
𝑢
−
𝐴
𝑡
𝑛
+1
𝑃
(
𝐴
𝑇
∈
𝑑
𝑎
)
𝑃
(
𝐴
𝑇
∈
𝑑
𝑎
)
{ ^
𝐴
𝑡
𝜃
{ ^
𝑉
𝑡
(
𝜃
)
{ ^
𝑉
𝑡
(
𝜃
) {
𝑉
𝑡
}
𝜃
今回の設定: 複合ポアソン過程
 Subordinatorの中でも単純な過程の1つ
 ジャンプの回数は通常のPoisson過程 (パラメータ )
 ジャンプの大きさは毎回独立で、回数とも独立 (今回はパラメータ の指数分布)
 が複合ポアソン過程なら分布 は明示的に表せる
 以下の2点から を書き下せる
 指数分布の和はガンマ分布になる
 複合ポアソン過程はマルコフ性を持つ
 と考え、実データの を用いて について解く
 逐次的に計算すると は既知の値になっている
 に関して単調減少な関数なので一意かつ容易に解くことができる
𝜆𝜂
{
𝐴
𝑡
}
𝑃
(
𝐴
𝑇
∈
𝑑
𝑎
)
𝑑
𝑉
𝑡
𝐴
𝑡
=
𝐴
𝑡
− +
𝑧
𝑑
𝑉
𝑡
𝑧
𝐴
𝑡
−
𝑧
使用データと特性
 MedQuake.Ltdの日次データを使用
 対象の災害は地中海周辺の地震で、100万ドルの補償を行う
 期間は2007年5月から2010年5月までの3年間
 価格データは2008年11月3日から2010年4月23日までが利用可能 (Datastream
®︎
)
 該当期間の2009年7月1日に対象の地域であるクレタ島で大地震が発生している
 実際にその時期に大きく価格が下がっている (次ページグラフ参照)
 記録的な地震があったがデフォルトしていない
 市場リスクは十分小さい
 Taylor展開によりモデルの式から差分方程式を導出し、そこに市場リスクを足す
 Ait-sahalia [2004] Proposition 1の結果を応用して推計
グラフ
モデルによる推計: 状況設定
 閾値:
 契約により決まっている確定の値
 データポイントの幅:
 一律に とするより正確な時間経過を計ることが重要
 リスクフリーレート:
 MedQuake.Ltd の
デ
ータの期間における
ポ
ン
ド
翌日物平均金利 (SONIA) の平均の値
 2022年現在LIBORを使うことが不可であるためSONIAを使っている
 ジャンプ前の値 のデータは存在しない
 時間経過による増加が微小であるため、代替として を用いる
𝑢
= 100
𝑑
𝑡
=
1
365
∗ (経過日数)
1
252
𝑟
= 0.00699612626262626
𝑉
𝑡
−
𝑉
𝑡
− =
𝑉
𝑡
−1
結果のグラフ
^
𝜆
= 0.74531781
^
𝜂
= 0.05928405
整合する推計値を求めること
 価格のグラフを見ると上にジャンプしている部分がある
 Subordinatorを使ったモデルからは発生することがないジャンプ
 発生理由は災害に対する過剰な反応の調整と考えられる
 被害が発生した瞬間に正確な被害額がわかるわけではない
 悲観的な反応を調整する過程で上方のジャンプが発生する
 本質的なジャンプではない
 投資家は変わらず の複合ポアソン過程で動いていると考えている
 最終的に落ち着く場所が正確な被害額と考えられる
 落ち着くまでのバッファがあるだけ ⇨ 想定のモデルは変わらない
(
𝜆
,
𝜂
)
整合する推計値を求める
 基本的に解く式と方法は最初の設定と同じ
 パラメータは事前に推計した を用いる
 ただし、価格の上方のジャンプの抽出は下方と同じようにはいかない
 時間経過による連続的な増加が微小ながら存在するため、以下のような手順をとる
1. の点について、前後15営業日の価格の平均値 を計算する
2. となる時刻 を価格が上方にジャンプした点として考える
 ジャンプした点のみでリスク過程が変動する
 逆にジャンプしていない点で が正しく を説明できるとは限らない
 推計値を用いてジャンプした点の辻褄を合わせても、他が合致する保証はない
(^
𝜆
, ^
𝜂
)
𝑑
V
𝑡
≥ 0
𝜇
𝑡
𝑑
𝑉
𝑡
−
𝜇
𝑡
> 10−3
𝑡
{
~
𝑉
𝑡
} {
𝑉
𝑡
}
グラフ (価格)
グラフ (リスク過程)
応用
 ここまでの議論により、災害の頻度と被害の大きさが推計できた
 同種の災害リスクを伴う債券についてはこの結果を用いることができる
 推計したパラメータとシミュレーションによって、複雑なフィーチャーを持つ
債券の評価も容易になる
 明示的な解が存在しない場合や、モデル自体が複雑な場合 (例: 一般のSubordinator)
にも対応可能
 もし、債券価格自体をジャンプを伴う拡散過程として分析した場合は、全く同じ
フィーチャーの債券しか評価できず、応用が難しい
応用例
 以下のような災害債券の価格を評価する
 モデルや推計値、対象の災害はMedQuake.Ltdと同じ
 被害総額が 万ドルを超えた場合は全額償還されない
 1回の被害額が1回でも を超えた場合、額面の半額が償還されない
 額面が の場合のペイオフは以下の通り

 ,
 リスクフリーレート:
 期間は3年、4年、5年の3通り
 閾値 は100, 200, 300, 400, 500の5通り
𝑢
𝑢
4
𝐹
𝑉
𝑇
=
𝐹
∗
𝐼
{
𝜏
𝑎
>
𝑇
}
(
𝐼
{
𝜏
𝑧
>
𝑇
}
+ 0.5 ∗
𝐼
{
𝜏
𝑧
≤
𝑇
}
)
𝜏
𝑎
= inf{
𝑡
|
𝐴
𝑡
>
𝑢
}
𝜏
𝑧
= inf{
𝑛
|
𝑍
𝑛
>
𝑢
4
}
𝑟
= 0.001, サンプル数:
𝑁
= 105
, 分割幅:
𝑑
𝑡
=
1
365
𝑢
シミュレーション結果
 結果は以下の通り () 内は標準誤差
 閾値が上がると価値は上がる ⇨ 直観に適合する
 期間が長くなっても価値が上がる場合がある ⇨ 直観に反する
閾値 u/期間 T 3年 4年 5年
100 0.658352 (0.001182095) 0.6414242 (0.001160678) 0.5912812 (0.0012021)
200 0.8361029 (0.001038578) 0.8715767 (0.0008630181)
0.8776756
(0.0007878012)
300 0.8766361 (0.0009959085) 0.9277715 (0.0007404161)
0.9489782
(0.0005765699)
400 0.8866311 (0.0009820007) 0.9417405 (0.0007017396 0.966182 (0.0005042584)
500 0.8892831 (0.0009770631) 0.9452564 (0.0006894186)
0.9706297
(0.0004804709)
結論と今後の課題
 一般的な設定の債券価格モデルと価格データからリスクを推計する逆問題を数値的に
解くフレームワークを構築
 ドリフトのないSubordinatorであれば数値計算により推計が可能
 同種のリスクであれば複雑な構造を持っていても評価が可能となる
 フレームワークに基づく実データを用いた分析
 複合ポアソン過程という単純な設定でも十分な結果を得られる
 実データはモデルで捉えきれない上方のジャンプが存在する
 調整過程で発生するジャンプなので、リスクとしては本質的ではない
 この調整を含めたモデルの構築が今後の課題
 より一般的なSubordinatorの設定における分析も今後の課題
参考文献
 Aıt-Sahalia, Yacine (2004). “Disentangling diffusion from jumps”. In: Journal of financial economics
74.3, pp. 487–528.
 Artemis (n.d.). Deal Directory: MedQuake Ltd. https://www.artemis.bm/deal-directory/medquake-
ltd/.
 Barndorff-Nielsen, Ole E and Neil Shephard (2003). “Realized power variation and stochastic volatility
models”. In: Bernoulli 9.2, pp. 243–265.
 Burnecki, Krzysztof (2005). “Pricing catastrophe bonds in a compound non-homogeneous Poisson
model with left-truncated loss distributions”. In: Mathematics in Finance Conference.
 Capin ́ski, M. and T. Zastawniak (2016). Credit Risk. Mastering Mathematical Finance. Cambridge
University Press. isbn: 9781107002760. url: https://books.google.co.jp/books?id=XAVQDQAAQBAJ.
 C ̧ ınlar, E. (2011). Probability and stochastics. Vol. 261. Springer Science & Business Media.
 Environmental Information, National Centers for (n.d.). Search Earthquake Events. https://
www.ngdc.noaa.
 gov/hazel/view/hazards/earthquake/search.
 Halsted, D.J. and D.E. Brown (1972). “Zakian’s technique for inverting Laplace transforms”. In: The
Chemical Engineering Journal 3. An International Journal of Research and Development, pp. 312–313.
 Härdle, Wolfgang Karl and Brenda López Cabrera (2010). “Calibrating CAT bonds for Mexican
earthquakes”. In: Journal of Risk and Insurance 77.3, pp. 625–650.
 Jarrow, Robert A (2010). “A simple robust model for CAT bond valuation”. In: Finance Research
Letters 7.2, pp. 72–79.
参考文献
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model”. In: Management science 50.9, pp. 1178–1192.
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Wahrscheinlichkeitstheorie und Verwandte Gebiete 36.4, pp. 295–316.
 Ma, Zong-Gang and Chao-Qun Ma (2013). “Pricing catastrophe risk bonds: A mixed approximation
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 Nowak, Piotr and Maciej Romaniuk (2013). “Pricing and simulations of catastrophe bonds”. In:
Insurance: Math- ematics and Economics 52.1, pp. 18–28.
 Ramezani, Cyrus A and Yong Zeng (2007). “Maximum likelihood estimation of the double exponential
jump- diffusion process”. In: Annals of Finance 3.4, pp. 487–507.
 Utsu, Tokuji (2002). “A list of deadly earthquakes in the world: 1500–2000”. In: International
Geophysics. Vol. 81. Elsevier, 691–cp1.
 Vaugirard, Victor E (2003). “Pricing catastrophe bonds by an arbitrage approach”. In: The Quarterly
Review of Economics and Finance 43.1, pp. 119–132.
 Wei, Longfei, Lu Liu, and Jialong Hou (2022). “Pricing hybrid-triggered catastrophe bonds based on
copula-EVT model”. In: Quantitative Finance and Economics 6.2, pp. 223–243.
 近江崇宏 and 野村俊一 (2019). 点過程の時系列解析. 統計学 one point / 鎌倉稔成 [ほか] 編 14. 共立出
版. url: https://ci.nii.ac.jp/ncid/BB28340640.
Chapter 4.
Occupation Timeの
動学的費用最小化問題への応用
Chapter 4.の概要
 Occupation TimeとLast Exit Timeの同時分布を導出する (Theorem)
 結果は正則な斉時拡散過程について成立する
 標準ブラウン運動の具体例
 Theoremの結果を用いて費用最小化問題を解く
 不況期において政府が経済への介入を行う状況を考える
 費用は国民の生活支援に関する費用と景気の後押しのための資金投入の2つ
Last Exit TimeとOccupation Timeの説明
-9
-6.75
-4.5
-2.25
0
2.25
4.5
6.75
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48
Occupation Time
 確率過程 がある領域 で過ごした時間の長さ

といった形で定義されるAdditive Functionalの一種
 今回は 以下の領域で過ごした時間の長さとして定義する
 を大きくするとOccupation Timeも大きくなる設定
 確率過程が辿ってきた経路によって値が決まる「経路依存型指標」
 確率過程がどういった動きをしたかが見える
 Occupation Timeの先行研究は数多く存在する
 代表例: Lévy’s Arcsine Law
𝑋
𝑡
𝐷
𝐴
𝑡
=
𝑡
∫
0
𝐼
{
𝑋
𝑠
∈
𝐷
}
𝑑
𝑠
𝑦
𝑦
Last Exit Time
 確率過程がある領域を最後に脱出した時刻
 今回は 以下の領域を最後に脱出した時刻として考える
 Occupation Timeを更新しなくなった時刻と同値
 ある状態を脱した時刻と考えられる
 通常のフィルトレーションにおいて可測でない (= 停止時刻でない)
 領域を脱出した時刻自体は停止時刻
 ただそれが最後であるかどうかは、実際に確率過程が止まるまでわからない
𝐿
𝑦
𝑦
Last Exit Timeをシミュレーション
[グラフの設定]
 ドリフト付きブラウン運動
 横軸: 閾値
 縦軸:
 各 について10万回試行
𝑦𝐿
𝑦
𝑦
同時分布を考えるのは何がいいのか
 Last Exit Timeは可測ではない
 領域を脱出した時刻 が本当にLast Exit Timeなのかは確率でしかわからない
 自体は停止時刻である ⇨ それまで辿った経路は情報として持っている
 Occupation Timeの値は時刻 において可測である
 Occupation TimeはAdditive Functionalの特殊例
 確率過程 から生成されるフィルトレーションに適合する
 Occupation Timeを所与としたLast Exit Timeの条件付き分布が計算できる
 条件付き分布を用いることでLast Exit Timeをより正確に分析できるようになる
𝜏𝜏
𝜏
𝑋
𝑡
設定とNotation①
 対象の確率過程 : で状態空間が の拡散過程
 状態空間の内点は a.s. で有限時間で到達できる (regularity)
 killing boundaryは とする
 がkillされるまでの 以下のOccupation Timeは とする
 その他Notationは以下の通り
 のFirst Passage Time:
 のScale Function: , Speed measure: , に対する推移密度:
 2階の微分作用素:
 の単調増加(減少)解: , のWronskian:
𝑋𝑋
0 =
𝑥
I = (
𝑙
,
𝑟
)
𝑏𝑋𝑦𝐴
𝑦
𝑧
∈
𝐼
𝑇
𝑧
𝑋𝑆𝑚𝑚𝑝
𝒪
𝑥
=
1
2
𝜎
(
𝑥
)2
𝑑
2
𝑑
𝑥
2
+
𝜇
(
𝑥
)
𝑑
𝑑
𝑦
𝒪
𝑥
(
𝑓
) =
𝛼
𝑓
𝜙
±
𝜙
±
𝑊
設定とNotation②
 パス空間上の記法 (cf. Pitman and Yor [1982])
 実現値であるパスを1つ1つの要素として取る空間 (Excursion Theoryなど)
 生存時間 のパス空間上の測度:
 生存時間 のパスを全体として、割合を測ることで確率を表すようなイメージ
 パス空間上の測度 のTime Reversalの像:
 時間を逆行させて考えたパス空間の測度
 独立なパス空間を連結した際の測度:
𝜉
𝑃
𝜉
𝑥
𝜉
𝑄
𝑄
∧
𝑄
∘
𝑄
′

Main Theorem
[Statement]
斉時拡散過程 は状態空間 内の全ての点 について が成立し、Killing
boundary を持つとする。このとき、 について以下が成立する。
ただし、 である
[Brief Summary]
Occupation TimeとLast Exit Timeの同時分布のラプラス変換は、Occupation TimeとFirst
Passage Timeのラプラス変換を用いて表すことが可能である
𝑋𝐼𝑥
<
𝑦
𝑃
𝑥
(
𝑇
𝑦
< ∞) = 1
𝑏𝑥
,
𝑦
∈ (
𝑙
,
𝑏
),
𝛼
≥ 0,
𝛽
> 0
𝐸
𝑥
[
exp(−
𝛽
𝐴
𝑦
−
𝛼
𝐿
𝑦
)
𝐿
𝑦
> 0
]
=
1
𝑆
(
𝑏
) −
𝑆
(
𝑥
∨
𝑦
)
𝑏
∫
𝑥
∨
𝑦
𝑆
(
𝑑
𝑧
)
𝐹
𝛼
,
𝛽
(
𝑥
,
𝑦
,
𝑧
)
𝐹
𝛼
,
𝛽
(
𝑦
,
𝑦
,
𝑧
)
𝐹
𝛼
,
𝛽
(
𝑥
,
𝑦
,
𝑧
) =
𝐸
𝑥
[exp −
𝛽
𝑇
𝑧
∫
0
𝐼
{
𝑋
𝑢
<
𝑦
}
𝑑
𝑢
−
𝛼
𝑇
𝑧
]
Main Theoremの証明にあたって
 2つのPropositionを使う
1. First Passage TimeとOccupation Timeの同時分布のラプラス変換
 Zhang [2015]のCorollary 1、式は割愛するがScale FunctionとWronskianで表される
2. 生存時間が のパス空間における確率測度に関するProposition
 2つのLemmaにより導出される結果
 1つはPitman and Yor [1996]のCorollary 3、パスの分解に関する命題 (後述)
 1つはEgami and Kevkhishvili [2017]によるLast Exit Timeの分布、こちらも割愛する
 証明のポイントは2点
 今の設定ではLast Exit Time以降、Occupation Timeは増えない
 斉時拡散過程なのでTime Reversalも同じ推移半群を持つ
𝐿
𝑦
Lemma 1 (cf. Pitman and Yor [1996])
[statement]
斉時拡散過程 は状態空間 内の全ての点 について が成立
すると仮定する。このとき、すべての について、パス空間
上における以下の調和式が成立する。
[Brief Summary]
端点が と決まっているパスは最大値を取った時刻の前後で分割ができ、それ
ぞれ独立なパス空間として扱うことができる
𝑋𝐼𝑥
<
𝑦
𝑃
𝑥
(
𝑇
𝑦
< ∞) = 1
𝑥
,
𝑦
∈ (
𝑙
,
𝑟
),
𝛼
≥ 0,
𝛽
> 0
∞
∫
0
𝑑
𝑡
𝑝
(
𝑡
,
𝑥
,
𝑦
)
𝑃
𝑡
𝑥
,
𝑦
=
∞
∫
𝑥
∨
𝑦
𝑆
(
𝑑
𝑧
)(
𝑃
𝑇
𝑧
𝑥
) ∘ (
𝑃
𝑇
𝑧
𝑦
)
∧
𝑥
,
𝑦
Lemma 1の証明のイメージ
具体例1: 標準ブラウン運動の同時分布
具体例2: Last Exit Timeの条件付き分布
 を標準ブラウン運動、閾値を の状況を考える
 標準ブラウン運動の場合、Theoremのラプラス変換は明示的に表せる
 逆ラプラス変換によって同時密度関数 を求めることができる
 条件付き密度の定義より と計算できる

P.Lévy’s Arcsine lawより である
 以上から条件付き密度が計算できる
 何も情報がない密度 を使って考えるより、Occupation Timeの値を元に考える
方が、より正確にLast Exit Timeを捉えることができる
𝑋𝑦
= 0
𝑓
(
𝑙
,
𝑎
)
𝑓
(
𝑙
𝑎
) =
𝑓
(
𝑎
,
𝑙
)
𝑓
(
𝑎
)
𝑓
(
𝑎
) =
1
𝜋
𝑎
(
𝑡
−
𝑎
)
𝑓
(
𝑙
)
応用例: 費用最小化問題
 不況期における政府の費用最小化問題
 政府は景気判断指標 が を下回っている間は不況であると考える
 不況の間、政府は失業者に対する社会保障等で国民の生活支援を行う
 一方で好況に転じたと判断する水準を とする
 政府は最後に不況を脱却した時から水準 に到達するまで景気の後押しに資金を投入する
 この2つの費用にはトレードオフが存在する
 閾値 が低く設定されている場合、不況であると考える時間は短くなる
 国民の生活支援の費用が小さくなる
 一方でkilling boundary までの距離は長くなり、好況になるまでの時間は長くなる
 景気の後押しのための資金投入額が大きくなる
𝑋𝑦𝑏
𝑏
𝑦𝑏
問題設定と定式化
 政府は不況に入ってから対策を考えることとする ( )
 以上から費用関数は以下のように定式化できる
 ; ただし は について増加、 について減少
 具体例として以下の設定を考える
 ドリフト付きブラウン運動
 費用関数
 の項は が大きければ大きいほど1に近づく
 の項は が小さければ小さいほど1に近づく
 この費用関数は第2項を最大化することで最小値を達成できる
 よって最小化問題は に帰着する
𝑥
<
𝑦
min
𝑦
∈(
𝑥
,
𝑏
)
𝐸
𝑥
[
𝐶
(
𝐴
𝑦
,
𝐿
𝑦
)]
𝐶
(
𝑎
,
𝑙
)
𝑎𝑙𝑋
𝑡
=
𝜇
𝑡
+
𝜎
𝐵
𝑡
𝐶
(
𝑎
,
𝑙
) = 1 − exp(−
𝛽
𝑎
)[1 − exp(−
𝛼
𝑙
)] = 1 − exp(−
𝛽
𝑎
) + exp( −
𝛽
𝑎
−
𝛼
𝑙
)
[1 − exp(−
𝛼
𝑙
)]
𝑙
exp(−
𝛽
𝑎
)
𝑎
max
y
(
𝐸
𝑥
[
exp(−
𝛽
𝐴
𝑦
)]
+
𝐸
𝑥
[
exp(−
𝛽
𝐴
𝑦
−
𝛼
𝐿
𝑦
)]
)
結果
 横軸: 水準
 縦軸: 費用関数の値
 パラメータ設定


𝑦
𝜎
= 3,
𝑥
= 0
𝑏
= 50,
𝛼
=
𝛽
= 0.05
結論と今後の課題
 拡散過程におけるLast Exit TimeとOccupation Timeの同時分布を導出した
 Last Exit Timeの条件付き分布を考えることができる
 ラプラス変換の形で導出されている点は注意
 密度関数を明示的に表せるわけではない
 数値計算の精度が上がれば密度や最適化も一般的な設定で行える
 同時分布を費用最小化問題に応用した
 分布が特定されたことで経路依存型の動学的な費用最小化問題を解くことが可能
 Last Exit Timeが停止時刻でないことが問題設定に織り込まれていない点に注意
 Last Exitであることの誤認のペナルティを加えた問題設定
参考文献
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 Borodin, Andrei N and Paavo Salminen (2015). Handbook of Brownian motion-facts and formulae.
Springer Science & Business Media.
 Cohen, Alan M (2007). Numerical methods for Laplace transform inversion. Vol. 5. Springer Science &
Business Media.
 Csáki, Endre, Antónia Fóldes, and Paavo Salminen (1987). “On the joint distribution of the maximum
and its location for a linear diffusion”. In: Annales de l’IHP Probabilite ́s et statistiques. Vol. 23. 2,
pp. 179–194.
 Dassios, Angelos (2005). “On the quantiles of Brownian motion and their hitting times”. In: Bernoulli
11.1, pp. 29–36.
 Egami, Masahiko and Rusudan Kevkhishvili (2017). “AN APPLICATION OF TIME REVERSAL TO CREDIT
RISK MANAGEMENT”. In: arXiv preprint arXiv:1701.04565.
 Getoor, RK and MJ Sharpe (1973). “Last exit times and additive functionals”. In: The Annals of
Probability 1.4, pp. 550–569.
 Karatzas, Ioannis et al. (1991). Brownian motion and stochastic calculus. Vol. 113. Springer Science &
Business Media.
 Pitman, Jim and Marc Yor (1982). “A decomposition of Bessel bridges”. In: Zeitschrift für
Wahrscheinlichkeits- theorie und verwandte Gebiete 59.4, pp. 425–457.
 Pitman, Jim and Marc Yor (1996). “Decomposition at the maximum for excursions and bridges of one-
dimensional diffusions”. In: Ito’s stochastic calculus and probability theory. Springer, pp. 293–310.
参考文献
 Rogers, Leonard CG and David Williams (2000). Diffusions, markov processes, and martingales:
Volume 1, foun- dations. Vol. 1. Cambridge university press.
 Salminen, P (1984). “One-dimensional diffusions and their exit spaces”. In: Mathematica scandinavica
54.2, pp. 209–220.
 Wang, Zewen and Dinghua Xu (Jan. 2005). “Numerical inversion of multidimensional Laplace
transforms using moment methods”. In: Numerical Mathematics 14.
 Zhang, Hongzhong (2015). “Occupation times, drawdowns, and drawups for one-dimensional regular
diffusions”. In: Advances in Applied Probability 47.1, pp. 210–230.
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観測不可な確率変数に関する推計とファイナンス工学への応用

  • 2. 公開にあたって (2023.05.19)  以下のスライドは2023年2月1日、京都大学にて行った博士論文公聴会の発表資 料である  アップロードにあたり、所属の部分や一部誤植を修正したが、内容は変わって いない  なお、事情により編集ソフトがPowerPointからKeynoteに変わっているため、グ ラフ等の一部表示の崩れが存在する
  • 3. 目次  Chapter 1. Introduction  Chapter 2. フィルタリングによる配当確定後株価の推計  Chapter 3. 災害債券市場における逆問題の数値的解法  Chapter 4. Occupation Timeの動学的費用最小化問題への応用
  • 5. Chapter 2.の概要 ゆうちょ銀行の株価 (2020年7月1日〜2021年6月30日) 750 850 950 1050 1150 7/2/24 7/29/24 8/22/24 9/16/24 10/14/24 11/7/24 12/3/24 12/26/24 1/23/25 2/18/25 3/16/25 4/8/25 5/7/25 6/1/25 6/24/25
  • 6. モチベーション  株価は将来キャッシュフローの現在価値として考えられている  しかし、実際の市場は各期末に株価が上昇し、突然大きく下落することがある  この現象をモデルによって捉え, 理論上の株価の動きを分析したい  株価は企業価値と深い関係があり、株価の一時的な過熱は企業価値を測る上でノイズ となる  期間途中に過熱を察知して、権利確定後の株価を事前に予測したい  予測できればリスクヘッジの新たな方法や投資戦略の開発などに役立つ
  • 7. 今回の仮説 [仮説 (本文より)] 比較的少額から投資が可能な個別株について, 将来キャッシュフローの一部として 株価に織り込み済みであるはずの当期配当が期間の途中で強く意識され, 株価のド リフトが変化する. そして配当を受け取る権利が確定した直後, 株価の過熱が下方 ジャンプによって調整される.  この仮説を要約すると以下の2点  株価はある時期から期末にかけて上昇率 (ドリフト)が大きくなる  配当の権利が確定した直後, 下方ジャンプによって過熱した株価が調整される
  • 8. モデルの設定① 株価と配当について  確率空間 において株価 は以下のような幾何ブラウン運動に従う  株価の対数を , そのドリフトを とする  このとき は というドリフト付きブラウン運動となる  株価は設定上ジャンプするが、今回はジャンプを伴う確率過程は使わない  ジャンプする時刻が権利確定日の翌営業日と決まっている  年に高々2度しかジャンプしない  投資家は配当の額 を事前に知っている  実際に前年度の配当やアナリストの分析により一定の精度で予測されている (Ω, ℱ, 𝑃 ) 𝑋 𝑡 𝑑 𝑋 𝑡 𝑋 𝑡 = 𝜇 𝑑 𝑡 + 𝜎 𝑑 𝑊 𝑡 ⟺ 𝑋 𝑡 = 𝑋 0e( 𝜇 − 𝜎 2 2 ) 𝑡 + 𝜎 𝑊 𝑡 𝑌 𝑡 = log 𝑋 𝑡 𝑟 = 𝜇 − 𝜎 2 2 𝑌 𝑡 𝑑 𝑌 𝑡 = 𝑟 𝑑 𝑡 + 𝜎 𝑑 𝑊 𝑡 𝐷
  • 9. モデルの設定② 状態空間とパラメータ  状態空間は という2つの状態を持っている  は平常時, は配当を強く意識している時期を指す  各時点の状態は というように表す  時刻 においては必ず , つまり状態 にいる  配当の権利が確定した直後は次の配当を強く意識することはないと考える  ドリフトは を満たす  過熱状態に入るとドリフトが上昇するという仮説に整合するよう設定  状態問わずボラティリティ は一定  分析期間が単年度と短いことと、興味のあるパラメータがドリフトであるため I = {0, 1} 𝑖 = 0 𝑖 = 1 𝑆 𝑡 = 𝑖 𝑡 = 0 S0 = 0 0 𝜇 0 < 𝜇 1 𝜎
  • 10. 分析の流れ 以下の2つの手順によって仮説の確認を行う 1. レジームスイッチングモデルで状態が仮説通り移行しているかを確認する  「 」と「 が時間経過によって上昇する」の2つを確認する  1つ目は前述の設定の通りの条件  2つ目は途中で状態 に戻らないかを確認するため 2. カルマンフィルターによって「本来あるべき」株価のパス を推計する  期間最終日である端点 の値と権利確定日の翌営業日の始値を比較  ジャンプによる株価の調整と推計されたパスが一致するか確認 𝜇 0 < 𝜇 1 𝑃 ( 𝑆 𝑡 = 1) 0 { 𝛼 𝑡 } 𝛼 𝑇
  • 11. 利用したデータ [期末一括配当銘柄]  ゆうちょ銀行 (TYO: 7182)  ハードオフ (TYO: 2674) ※ 2020年度、2021年度のデータを使用 [中間配当ありの銘柄]  日東工業 (TYO: 6651)  旭化成 (TYO: 3407) ※ 2021年度上半期と下半期のデータを使用
  • 12. 第1段階: レジームスイッチングモデル  前述の設定に加えて、推移確率行列 を以下のように設定する    推計パラメータは の5つ  推計にはEMアルゴリズムを用いる  欠測値がある際に、欠測値を条件付き期待値で置き換えるパラメータ推計の手法  適当な初期値 から出発し、収束するまでパラメータを更新する  今回は状態変数 という欠測値があるのでEMアルゴリズムを用いる  収束判定には尤度関数の差を用いた 𝑃 𝑝 𝑖 𝑗 は状態 𝑖 から状態 𝑗 に移行する確率 𝑃 = ( 1 − 𝑝 01 𝑝 10 𝑝 01 1 − 𝑝 10) ( 𝜎 , 𝜇 0, 𝜇 1, 𝑝 01, 𝑝 10) 𝜃 0 { 𝑆 𝑡 }
  • 13. パラメータ推計結果 (期末一括配当) 企業名 年度 σ μ0 μ1 p01 p10 ゆうちょ銀行 2020年度 推計値 0.2245845 0.2667084 0.6915573 5.97E-13 0.01004683 標準偏差 2.24E-05 0.02697477 0.02753254 6.78E-09 0.00078158 2021年度 推計値 0.2602232 0.1738067 0.23042 9.70E-06 0.0163673 標準偏差 2.73E-05 0.02689778 0.0399231 2.08E-05 0.00124364 ハードオフ 2020年度 推計値 0.2561547 -0.0235916 0.5780303 1.02E-13 0.01587911 標準偏差 2.62E-05 0.02690422 0.03809124 2.63E-09 0.00118609 2021年度 推計値 0.1818151 0.04439213 0.1351205 1.31E-11 0.00725834 標準偏差 1.33E-05 0.02341415 0.02088203 3.07E-08 0.00062384
  • 14. 状態確率 (期末一括配当)  上段: ゆうちょ  下段: ハードオフ  左列: 2020年度  右列: 2021年度
  • 15. 第1段階 期末一括配当の結果 (まとめ)  検証事項はふたつとも確認できた  ドリフトは標準誤差が少し大きい  使用データが少ないこと、2つ状態があることが理由として挙げられる  状態確率が0.5を超えるのは10月〜12月の間である  投資家はこの時期から年度末の配当を意識し始める  この時期は中間決算の内容が発表される期間でもある  決算の内容を確認した投資家たちが動き始め、該当銘柄の保有を検討する可能性
  • 16. パラメータ推計結果 (中間配当あり) 企業名 年度 σ μ0 μ1 p01 p10 旭化成 上半期 推計値 0.2876533 0.00911204 0.1664644 2.49E-13 0.02276982 標準偏差 5.77E-05 0.05325805 0.06861922 6.04E-09 0.00231022 下半期 推計値 0.34518032 -0.5490604 -0.0262189 9.99E-11 0.04127302 標準偏差 7.89E-05 0.05714119 0.10943475 1.12E-07 0.00402448 日東工業 上半期 推計値 0.2594873 -0.5662943 0.433552 7.36E-17 0.03355923 標準偏差 4.91E-05 0.04475538 0.07199297 1.21E-10 0.00326415 下半期 推計値 0.2571181 -0.7897349 -0.2991414 7.31E-13 0.05172063 標準偏差 4.67E-05 0.04140454 0.0915975 9.32E-09 0.00502832
  • 17. 状態確率 (中間配当あり)  上段: 旭化成  下段: 日東工業  左列: 上半期  右列: 下半期
  • 18. 第1段階 中間配当ありの結果 (まとめ)  期末一括配当銘柄と同様に、検証事項は確認できた  状態確率が0.5を超えるのは上半期は6月〜7月、下半期は11月〜12月  いずれも決算の内容が発表される期間である  期末一括配当と同様に、投資家は決算の内容を見て保有の意思決定を行う可能性  状態確率の上昇は上半期より下半期の方が速い  上半期終了時の配当支払いは一部銘柄のみ  一方で下半期は多くの企業が配当を支払う  ⇨ 下半期の方が投資家が配当を強く意識する可能性がある
  • 19. 第2段階: カルマンフィルター  欠測値と線形の関係にあるデータを用いて、欠測値を推計する手法  状態 1に移行した時刻を とし、 以降の株価データに対し てカルマンフィルターを実行する  以下のような線形システムを仮定し、理論上の株価 のパスを推計する  ここで と は対数系列であることに注意  (1)の右辺第2項は、観測される株価 が時間経過により から乖離していく大きさを 表している 𝜏 = min 𝑡 ∈[0, 𝑇 ] { 𝑃 ( 𝑆 𝑡 = 1) > 0.6} 𝜏 { 𝛼 𝑡 } 𝑌 𝑡 = 𝛼 𝑡 + 𝑡 𝑇 {log 𝑋 𝑇 − − log( 𝑋 𝑇 − − 𝐷 )} + ⊿ 𝑡 𝜖 𝑡 …(1) 𝛼 𝑡 +1 = 𝛼 𝑡 + 𝛿 ⊿ 𝑡 + ⊿ 𝑡 𝜂 𝑡 { 𝑌 𝑡 } { 𝛼 𝑡 } { 𝑌 𝑡 } { 𝛼 𝑡 }
  • 20. 推計結果 (期末一括配当・年率) 企業名 年度 σε ση δ 権利落ち日 始値 推計値 ゆうちょ銀行 2020年度 0.000169805 0.16833862 0.783621954 3月30日 1080 1081 2021年度 0.04512366 0.22335355 0.23964609 3月30日 1010 1012.0197 ハードオフ 2020年度 0.1147628 0.1473191 0.5857408 3月30日 851 861.5245 2021年度 0.085502 0.1521737 0.2302181 3月30日 766 767.8029
  • 25. 第2段階 期末一括配当の結果 (まとめ)  推計値は十分な精度で一致し、権利確定後の下落を捉えられている  特筆すべき点は2022年2月下旬の動き  2月24日のロシアによるウクライナ侵攻で市場全体が急激な下落を起こした  モデルが比例配分であるという設定上、その動きをしっかり捉えられる  ドリフトを示す の値がレジームスイッチにおける に近い  配当への過剰な期待により、配当額以上の上昇を市場 が 起こしている  直後の下落だけでなく、数日間の不安定な変動により調整される  この調整については考えない設定を採用しているので自然な結果である 𝛿𝜇 1
  • 26. 推計結果 (中間配当あり・年率) 企業名 年度 σε ση δ 権利落ち日 始値 推計値 旭化成 上半期 3.760622 ∗ 10−5 0.1945771 0.1920378 9月29日 1224 1238 下半期 0.00044122 0.25848391 0.34308413 3月30日 1104 1097 日東工業 上半期 0.1662292 0.1266583 0.4426067 9月29日 2090 2119 下半期 0.0992967 0.1595216 -0.1780125 3月30日 1611 1601
  • 31. 第2段階 中間配当ありの結果 (まとめ)  期末配当よりも推計の精度が下がっている  データ数の差が考えられる要因  推定された のパスは乖離が小さい  配当利回り自体は高いが、年に2回という形で分割して支払われる  1回1回の配当が小さいため、乖離が小さくなる  ドリフト は期末一括配当と同様の結果を示す { 𝛼 𝑡 } 𝛿
  • 32. 配当確定後株価の事前予測  期間途中のデータを用いて、前述の分析と同じことが可能かを検証する  以下の手順で検証する 1. は変化が少ないと仮定し、ヒストリカルに計算しておく 2. 時刻 までのデータを用いてレジームスイッチングモデルを適用する 3. を確認し、状態確率が0.6を超えた点を と設定する  ない場合は とする 4. までのパスを2.で推計したパラメータでシミュレーションする 5. までのデータと4.のパスでカルマンフィルターを行い、下落後の株価を推計する  ゆうちょ銀行の2020年度のデータを使用  代表点として11月16日以降で10営業日ごとの日程を2月末まで取る 𝜎𝑡 𝑛 𝜇 0 < 𝜇 1 𝜏 𝜏 = 𝑡 𝑛 ( 𝑡 𝑛 , 𝑇 ] 𝑡 𝑛
  • 33. 配当確定後株価の事前予測の結果  推計値は大きく外れてしまうことが多い  原因の一つにカルマンフィルターの(1)式が に強く依存していることがある  は今回シミュレーションで導出しており、その乖離が推計にも影響している  正確な の推計ができれば精度が上がる 𝑋 𝑇 𝑋 𝑇 𝑋 𝑇 日付 推計値 標準誤差 実際の始値 2020 年 11 月 16 日 1072.4627 1.5113122 1080 2020 年 12 月 2 日 800.5312 1.0197476 2020 年 12 月 17 日 853.3827 0.9520759 2021 年 1 月 5 日 806.8956 0.8021015 2021 年 1 月 21 日 886.5152 0.8979321 2021 年 2 月 5 日 934.2802 0.7958022 2021 年 2 月 24 日 1013.3976 0.6676675
  • 34. 結論と課題①  期末にかけて発生する株価の過熱と下落を捉えるフレームワークを作成  配当への過剰な期待として考え、実際のデータから一定の有効性を確認  レジームスイッチングとカルマンフィルターという単純な設定  今後は非線形フィルタや一般の状態空間モデルへの応用に取り組む予定  今回は下落直後の株価を捉える設定を採用  カルマンフィルターにおけるドリフトが大きくなる  数日にわたる変動の末の株価を推計する場合はモデルを変えれば良い  ドリフトの固定や自己励起過程のHawkes過程の利用が考えられる
  • 35. 結論と課題②  途中までのデータを用いて行う予測の精度は悪い  終端の に依存するモデルの性質による  の推測精度を上げることも今後の課題  業績変化による増配/減配の発表の影響がある場合はこの方法で分析できない  増配の発表によって将来キャッシュフロー自体が大きく増加する  結果、株価も大きく上昇(ジャンプ)する  発表が期末に近い場合、配当に対する期待がジャンプに吸収される場合がある  このとき、レジームスイッチングによるドリフト変化の分析が難しくなる 𝑋 𝑇 𝑋 𝑇
  • 36. 参考文献  Cheang, Gerald HL and Carl Chiarella (2011). “Exchange options under jump-diffusion dynamics”. In: Applied Mathematical Finance 18.3, pp. 245–276.  Fortune, Peter et al. (1999). “Are stock returns different over weekends? A jump diffusion analysis of the weekend effect”. In: New England Economic Review 10, pp. 3–19.  Hainaut, Donatien and Franck Moraux (2019). “A switching self-exciting jump diffusion process for stock prices”. In: Annals of Finance 15.2, pp. 267–306.  Hamilton, James D. (1990). “Analysis of time series subject to changes in regime”. In: Journal of Econometrics 45.1, pp. 39–70  Hamilton, James Douglas (2020). Time series analysis. Princeton university press.  Hanson, Floyd B and John J Westman (2002). “Optimal consumption and portfolio control for jump- diffusion stock process with log-normal jumps”. In: Proceedings of the 2002 American Control Conference (IEEE Cat. No. CH37301). Vol. 5. IEEE, pp. 4256–4261.  Kabutan, 株探 (n.d.). 【特集】まだ間に合う, 9 月配当【高利回り】ベスト 30「スタンダード他」編 割 安株特集. https://kabutan.jp/news/marketnews/?b=n202209240146 (参照 2022-10-29).  Kim, Chang-Jin, Charles R Nelson, et al. (1999). “State-space models with regime switching: classical and Gibbs-sampling approaches with applications”. In: MIT Press Books 1.  Kou, Steven G (2002). “A jump-diffusion model for option pricing”. In: Management science 48.8, pp. 1086–1101.
  • 37. 参考文献  Ma, Hui and Yang Li (2020). “Stock Price Jump-diffusion Process Model Based on Fractional Brownian Motion Theory”. In: 2019 3rd International Conference on Education, Economics and Management Research (ICEEMR2019). Atlantis Press, pp. 374–378.  Maekawa, Koichi et al. (2008). “Jump diffusion model with application to the Japanese stock market”. In: Mathematics and Computers in Simulation 78.2-3, pp. 223–236.  Merton, Robert C (1976). “Option pricing when underlying stock returns are discontinuous”. In: Journal of financial economics 3.1-2, pp. 125–144.  Ramezani, Cyrus A and Yong Zeng (1998). “Maximum likelihood estimation of asymmetric jump- diffusion processes: Application to security prices”. In: Available at SSRN 606361.  Scott, Louis O (1997). “Pricing stock options in a jump-diffusion model with stochastic volatility and interest rates: Applications of Fourier inversion methods”. In: Mathematical Finance 7.4, pp. 413– 426.  Simonato, Jean-Guy (2011). “Computing American option prices in the lognormal jump–diffusion framework with a Markov chain”. In: Finance Research Letters 8.4, pp. 220–226.  Tsay, Ruey S (2010). Analysis of Financial Time Series. John Wiley & Sons.  小西貞則, 越智義道, and 大森裕浩 (2008). 計算統計学の方法: ブートストラップ・EM アルゴリズム・ MCMC. シリーズ予測と発見の科学 / 北川源四郎, 有川節夫, 小西貞則, 宮野悟編. 朝倉書店.  沖本竜義 (2010). 経済・ファイナンスデータの計量時系列分析. 朝倉書店.
  • 39. Chapter 3.の概要  災害債券の評価モデルと価格データから根源的なリスクの推計を行う  通常は被害状況のデータからリスクの推計を行い債券価格を評価する  今回はモデルと価格の実現値からリスク過程を求める逆問題を定義  Subordinatorという一般的な設定で解くフレームワークを作成  実際の債券価格と簡単なモデルによる分析  Subordinatorの中で最も単純な複合ポアソン過程を採用  リスクの推計結果を用い、複雑なフィーチャーを持つ災害債券を評価する  例として閾値が複数あるタイプの債券を想定
  • 40. 災害債券とは  地震や台風などの大規模な自然災害に関連する債券(保険)  対象の自然災害による被害が大きい場合、補償金を受け取ることが可能  大災害発生時のリスクをヘッジするために保険会社がかける再保険の側面もある  契約で定められた指標が特定の閾値を超えた場合に補償金が支払われる  指標の例: 被害総額、マグニチュードの値 etc.  本質的なリスクは災害であり、市場と関係ないところにある  一般的な金融資産との相関が小さく、市場の影響を受けづらい  利回りも高く、分散投資の対象として用いられる
  • 41. モチベーション  通常は被害状況のデータからリスクの推計を行い債券価格を評価する  Burnecki [2005]など先行研究多数  Burnecki [2005]ではProperty Claim Servicesのデータを使用し、リスク過程を推計  発行元の保険会社と投資家との間に情報の非対称性が存在する可能性  実際の請求の頻度や支払額のデータを保険会社は多く持っている  投資家は主な情報源が公開情報  もっともオープンな情報である過去の債券価格から推計することは有用
  • 42. 一般的な議論: モデル構築  ゼロクーポン債のモデル (cf. 誘導型モデル Capinski and Zastawniak [2016])  指標となるリスク過程 : Lévy Measure の斉時的なSubordinator  はドリフトがなくジャンプによってのみ増加する  契約で定められる閾値  リスクフリーレート : 時刻によらず一定  デフォルト時刻   Subordinatorは単調増加の確率過程であることから成立  時間経過による連続的な増加と のジャンプによる不連続な減少  本質的な価値の変動は後者の不連続な減少にある { 𝐴 𝑡 } 𝑡 ∈[0, 𝑇 ] 𝜇 { 𝐴 𝑡 } 𝑢𝑟 𝜏 = inf{ 𝑠 ∈ 𝑅 + 𝐴 𝑠 > 𝑢 } 𝑉 𝑡 = 𝑒 − 𝑟 ( 𝑇 − 𝑡 ) 𝐸 [ 𝐼 { 𝜏 > 𝑇 } ℱ 𝑡 ] = 𝑒 − 𝑟 ( 𝑇 − 𝑡 ) 𝐸 [ 𝐼 { 𝐴 𝑇 < 𝑢 } ℱ 𝑡 ] = 𝑒 − 𝑟 ( 𝑇 − 𝑡 ) 𝑃 [ 𝐴 𝑇 < 𝑢 ℱ 𝑡 ] { 𝐴 𝑡 }
  • 43. 一般的な議論: 推計手順 1. が下方にジャンプしている点を特定 (順に とつけていく)  減少はジャンプによってのみ起こり、その変動は大きい  となる点を全て抽出する 2. を初期値として逐次的に を計算、 } とする  斉時的なSubordinatorなので、ジャンプによって変わるのは閾値 までの距離のみ  とデータを照らし合わせれば計算可能  はSubordinatorの性質より逆ラプラス変換で数値的に計算できる 3. }と より理論価格 } を再現する 4. } と を比較して誤差が一番小さい を推計値とする 𝑉 𝑡 𝑡 1, 𝑡 2… 𝑑 𝑉 𝑡 ≤ 0 𝐴 0 = 0 𝐴 𝑡 𝑖 { ^ 𝐴 𝑡 𝑢 𝑑 𝑉 𝑡 𝑛 +1 = 𝑒 − 𝑟 ( 𝑇 − 𝑡 𝑛 +1) 𝑢 − 𝐴 𝑡 𝑛 ∫ 𝑢 − 𝐴 𝑡 𝑛 +1 𝑃 ( 𝐴 𝑇 ∈ 𝑑 𝑎 ) 𝑃 ( 𝐴 𝑇 ∈ 𝑑 𝑎 ) { ^ 𝐴 𝑡 𝜃 { ^ 𝑉 𝑡 ( 𝜃 ) { ^ 𝑉 𝑡 ( 𝜃 ) { 𝑉 𝑡 } 𝜃
  • 44. 今回の設定: 複合ポアソン過程  Subordinatorの中でも単純な過程の1つ  ジャンプの回数は通常のPoisson過程 (パラメータ )  ジャンプの大きさは毎回独立で、回数とも独立 (今回はパラメータ の指数分布)  が複合ポアソン過程なら分布 は明示的に表せる  以下の2点から を書き下せる  指数分布の和はガンマ分布になる  複合ポアソン過程はマルコフ性を持つ  と考え、実データの を用いて について解く  逐次的に計算すると は既知の値になっている  に関して単調減少な関数なので一意かつ容易に解くことができる 𝜆𝜂 { 𝐴 𝑡 } 𝑃 ( 𝐴 𝑇 ∈ 𝑑 𝑎 ) 𝑑 𝑉 𝑡 𝐴 𝑡 = 𝐴 𝑡 − + 𝑧 𝑑 𝑉 𝑡 𝑧 𝐴 𝑡 − 𝑧
  • 45. 使用データと特性  MedQuake.Ltdの日次データを使用  対象の災害は地中海周辺の地震で、100万ドルの補償を行う  期間は2007年5月から2010年5月までの3年間  価格データは2008年11月3日から2010年4月23日までが利用可能 (Datastream ®︎ )  該当期間の2009年7月1日に対象の地域であるクレタ島で大地震が発生している  実際にその時期に大きく価格が下がっている (次ページグラフ参照)  記録的な地震があったがデフォルトしていない  市場リスクは十分小さい  Taylor展開によりモデルの式から差分方程式を導出し、そこに市場リスクを足す  Ait-sahalia [2004] Proposition 1の結果を応用して推計
  • 47. モデルによる推計: 状況設定  閾値:  契約により決まっている確定の値  データポイントの幅:  一律に とするより正確な時間経過を計ることが重要  リスクフリーレート:  MedQuake.Ltd の デ ータの期間における ポ ン ド 翌日物平均金利 (SONIA) の平均の値  2022年現在LIBORを使うことが不可であるためSONIAを使っている  ジャンプ前の値 のデータは存在しない  時間経過による増加が微小であるため、代替として を用いる 𝑢 = 100 𝑑 𝑡 = 1 365 ∗ (経過日数) 1 252 𝑟 = 0.00699612626262626 𝑉 𝑡 − 𝑉 𝑡 − = 𝑉 𝑡 −1
  • 49. 整合する推計値を求めること  価格のグラフを見ると上にジャンプしている部分がある  Subordinatorを使ったモデルからは発生することがないジャンプ  発生理由は災害に対する過剰な反応の調整と考えられる  被害が発生した瞬間に正確な被害額がわかるわけではない  悲観的な反応を調整する過程で上方のジャンプが発生する  本質的なジャンプではない  投資家は変わらず の複合ポアソン過程で動いていると考えている  最終的に落ち着く場所が正確な被害額と考えられる  落ち着くまでのバッファがあるだけ ⇨ 想定のモデルは変わらない ( 𝜆 , 𝜂 )
  • 50. 整合する推計値を求める  基本的に解く式と方法は最初の設定と同じ  パラメータは事前に推計した を用いる  ただし、価格の上方のジャンプの抽出は下方と同じようにはいかない  時間経過による連続的な増加が微小ながら存在するため、以下のような手順をとる 1. の点について、前後15営業日の価格の平均値 を計算する 2. となる時刻 を価格が上方にジャンプした点として考える  ジャンプした点のみでリスク過程が変動する  逆にジャンプしていない点で が正しく を説明できるとは限らない  推計値を用いてジャンプした点の辻褄を合わせても、他が合致する保証はない (^ 𝜆 , ^ 𝜂 ) 𝑑 V 𝑡 ≥ 0 𝜇 𝑡 𝑑 𝑉 𝑡 − 𝜇 𝑡 > 10−3 𝑡 { ~ 𝑉 𝑡 } { 𝑉 𝑡 }
  • 53. 応用  ここまでの議論により、災害の頻度と被害の大きさが推計できた  同種の災害リスクを伴う債券についてはこの結果を用いることができる  推計したパラメータとシミュレーションによって、複雑なフィーチャーを持つ 債券の評価も容易になる  明示的な解が存在しない場合や、モデル自体が複雑な場合 (例: 一般のSubordinator) にも対応可能  もし、債券価格自体をジャンプを伴う拡散過程として分析した場合は、全く同じ フィーチャーの債券しか評価できず、応用が難しい
  • 54. 応用例  以下のような災害債券の価格を評価する  モデルや推計値、対象の災害はMedQuake.Ltdと同じ  被害総額が 万ドルを超えた場合は全額償還されない  1回の被害額が1回でも を超えた場合、額面の半額が償還されない  額面が の場合のペイオフは以下の通り   ,  リスクフリーレート:  期間は3年、4年、5年の3通り  閾値 は100, 200, 300, 400, 500の5通り 𝑢 𝑢 4 𝐹 𝑉 𝑇 = 𝐹 ∗ 𝐼 { 𝜏 𝑎 > 𝑇 } ( 𝐼 { 𝜏 𝑧 > 𝑇 } + 0.5 ∗ 𝐼 { 𝜏 𝑧 ≤ 𝑇 } ) 𝜏 𝑎 = inf{ 𝑡 | 𝐴 𝑡 > 𝑢 } 𝜏 𝑧 = inf{ 𝑛 | 𝑍 𝑛 > 𝑢 4 } 𝑟 = 0.001, サンプル数: 𝑁 = 105 , 分割幅: 𝑑 𝑡 = 1 365 𝑢
  • 55. シミュレーション結果  結果は以下の通り () 内は標準誤差  閾値が上がると価値は上がる ⇨ 直観に適合する  期間が長くなっても価値が上がる場合がある ⇨ 直観に反する 閾値 u/期間 T 3年 4年 5年 100 0.658352 (0.001182095) 0.6414242 (0.001160678) 0.5912812 (0.0012021) 200 0.8361029 (0.001038578) 0.8715767 (0.0008630181) 0.8776756 (0.0007878012) 300 0.8766361 (0.0009959085) 0.9277715 (0.0007404161) 0.9489782 (0.0005765699) 400 0.8866311 (0.0009820007) 0.9417405 (0.0007017396 0.966182 (0.0005042584) 500 0.8892831 (0.0009770631) 0.9452564 (0.0006894186) 0.9706297 (0.0004804709)
  • 56. 結論と今後の課題  一般的な設定の債券価格モデルと価格データからリスクを推計する逆問題を数値的に 解くフレームワークを構築  ドリフトのないSubordinatorであれば数値計算により推計が可能  同種のリスクであれば複雑な構造を持っていても評価が可能となる  フレームワークに基づく実データを用いた分析  複合ポアソン過程という単純な設定でも十分な結果を得られる  実データはモデルで捉えきれない上方のジャンプが存在する  調整過程で発生するジャンプなので、リスクとしては本質的ではない  この調整を含めたモデルの構築が今後の課題  より一般的なSubordinatorの設定における分析も今後の課題
  • 57. 参考文献  Aıt-Sahalia, Yacine (2004). “Disentangling diffusion from jumps”. In: Journal of financial economics 74.3, pp. 487–528.  Artemis (n.d.). Deal Directory: MedQuake Ltd. https://www.artemis.bm/deal-directory/medquake- ltd/.  Barndorff-Nielsen, Ole E and Neil Shephard (2003). “Realized power variation and stochastic volatility models”. In: Bernoulli 9.2, pp. 243–265.  Burnecki, Krzysztof (2005). “Pricing catastrophe bonds in a compound non-homogeneous Poisson model with left-truncated loss distributions”. In: Mathematics in Finance Conference.  Capin ́ski, M. and T. Zastawniak (2016). Credit Risk. Mastering Mathematical Finance. Cambridge University Press. isbn: 9781107002760. url: https://books.google.co.jp/books?id=XAVQDQAAQBAJ.  C ̧ ınlar, E. (2011). Probability and stochastics. Vol. 261. Springer Science & Business Media.  Environmental Information, National Centers for (n.d.). Search Earthquake Events. https:// www.ngdc.noaa.  gov/hazel/view/hazards/earthquake/search.  Halsted, D.J. and D.E. Brown (1972). “Zakian’s technique for inverting Laplace transforms”. In: The Chemical Engineering Journal 3. An International Journal of Research and Development, pp. 312–313.  Härdle, Wolfgang Karl and Brenda López Cabrera (2010). “Calibrating CAT bonds for Mexican earthquakes”. In: Journal of Risk and Insurance 77.3, pp. 625–650.  Jarrow, Robert A (2010). “A simple robust model for CAT bond valuation”. In: Finance Research Letters 7.2, pp. 72–79.
  • 58. 参考文献  Kou, Steven G and Hui Wang (2004). “Option pricing under a double exponential jump diffusion model”. In: Management science 50.9, pp. 1178–1192.  Lepingle, D. (1976). “La variation d’ordre p des semi-martingales”. In: Zeitschriftfür Wahrscheinlichkeitstheorie und Verwandte Gebiete 36.4, pp. 295–316.  Ma, Zong-Gang and Chao-Qun Ma (2013). “Pricing catastrophe risk bonds: A mixed approximation method”. In: Insurance: Mathematics and Economics 52.2, pp. 243–254.  Nowak, Piotr and Maciej Romaniuk (2013). “Pricing and simulations of catastrophe bonds”. In: Insurance: Math- ematics and Economics 52.1, pp. 18–28.  Ramezani, Cyrus A and Yong Zeng (2007). “Maximum likelihood estimation of the double exponential jump- diffusion process”. In: Annals of Finance 3.4, pp. 487–507.  Utsu, Tokuji (2002). “A list of deadly earthquakes in the world: 1500–2000”. In: International Geophysics. Vol. 81. Elsevier, 691–cp1.  Vaugirard, Victor E (2003). “Pricing catastrophe bonds by an arbitrage approach”. In: The Quarterly Review of Economics and Finance 43.1, pp. 119–132.  Wei, Longfei, Lu Liu, and Jialong Hou (2022). “Pricing hybrid-triggered catastrophe bonds based on copula-EVT model”. In: Quantitative Finance and Economics 6.2, pp. 223–243.  近江崇宏 and 野村俊一 (2019). 点過程の時系列解析. 統計学 one point / 鎌倉稔成 [ほか] 編 14. 共立出 版. url: https://ci.nii.ac.jp/ncid/BB28340640.
  • 60. Chapter 4.の概要  Occupation TimeとLast Exit Timeの同時分布を導出する (Theorem)  結果は正則な斉時拡散過程について成立する  標準ブラウン運動の具体例  Theoremの結果を用いて費用最小化問題を解く  不況期において政府が経済への介入を行う状況を考える  費用は国民の生活支援に関する費用と景気の後押しのための資金投入の2つ
  • 61. Last Exit TimeとOccupation Timeの説明 -9 -6.75 -4.5 -2.25 0 2.25 4.5 6.75 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48
  • 62. Occupation Time  確率過程 がある領域 で過ごした時間の長さ  といった形で定義されるAdditive Functionalの一種  今回は 以下の領域で過ごした時間の長さとして定義する  を大きくするとOccupation Timeも大きくなる設定  確率過程が辿ってきた経路によって値が決まる「経路依存型指標」  確率過程がどういった動きをしたかが見える  Occupation Timeの先行研究は数多く存在する  代表例: Lévy’s Arcsine Law 𝑋 𝑡 𝐷 𝐴 𝑡 = 𝑡 ∫ 0 𝐼 { 𝑋 𝑠 ∈ 𝐷 } 𝑑 𝑠 𝑦 𝑦
  • 63. Last Exit Time  確率過程がある領域を最後に脱出した時刻  今回は 以下の領域を最後に脱出した時刻として考える  Occupation Timeを更新しなくなった時刻と同値  ある状態を脱した時刻と考えられる  通常のフィルトレーションにおいて可測でない (= 停止時刻でない)  領域を脱出した時刻自体は停止時刻  ただそれが最後であるかどうかは、実際に確率過程が止まるまでわからない 𝐿 𝑦 𝑦
  • 64. Last Exit Timeをシミュレーション [グラフの設定]  ドリフト付きブラウン運動  横軸: 閾値  縦軸:  各 について10万回試行 𝑦𝐿 𝑦 𝑦
  • 65. 同時分布を考えるのは何がいいのか  Last Exit Timeは可測ではない  領域を脱出した時刻 が本当にLast Exit Timeなのかは確率でしかわからない  自体は停止時刻である ⇨ それまで辿った経路は情報として持っている  Occupation Timeの値は時刻 において可測である  Occupation TimeはAdditive Functionalの特殊例  確率過程 から生成されるフィルトレーションに適合する  Occupation Timeを所与としたLast Exit Timeの条件付き分布が計算できる  条件付き分布を用いることでLast Exit Timeをより正確に分析できるようになる 𝜏𝜏 𝜏 𝑋 𝑡
  • 66. 設定とNotation①  対象の確率過程 : で状態空間が の拡散過程  状態空間の内点は a.s. で有限時間で到達できる (regularity)  killing boundaryは とする  がkillされるまでの 以下のOccupation Timeは とする  その他Notationは以下の通り  のFirst Passage Time:  のScale Function: , Speed measure: , に対する推移密度:  2階の微分作用素:  の単調増加(減少)解: , のWronskian: 𝑋𝑋 0 = 𝑥 I = ( 𝑙 , 𝑟 ) 𝑏𝑋𝑦𝐴 𝑦 𝑧 ∈ 𝐼 𝑇 𝑧 𝑋𝑆𝑚𝑚𝑝 𝒪 𝑥 = 1 2 𝜎 ( 𝑥 )2 𝑑 2 𝑑 𝑥 2 + 𝜇 ( 𝑥 ) 𝑑 𝑑 𝑦 𝒪 𝑥 ( 𝑓 ) = 𝛼 𝑓 𝜙 ± 𝜙 ± 𝑊
  • 67. 設定とNotation②  パス空間上の記法 (cf. Pitman and Yor [1982])  実現値であるパスを1つ1つの要素として取る空間 (Excursion Theoryなど)  生存時間 のパス空間上の測度:  生存時間 のパスを全体として、割合を測ることで確率を表すようなイメージ  パス空間上の測度 のTime Reversalの像:  時間を逆行させて考えたパス空間の測度  独立なパス空間を連結した際の測度: 𝜉 𝑃 𝜉 𝑥 𝜉 𝑄 𝑄 ∧ 𝑄 ∘ 𝑄 ′ 
  • 68. Main Theorem [Statement] 斉時拡散過程 は状態空間 内の全ての点 について が成立し、Killing boundary を持つとする。このとき、 について以下が成立する。 ただし、 である [Brief Summary] Occupation TimeとLast Exit Timeの同時分布のラプラス変換は、Occupation TimeとFirst Passage Timeのラプラス変換を用いて表すことが可能である 𝑋𝐼𝑥 < 𝑦 𝑃 𝑥 ( 𝑇 𝑦 < ∞) = 1 𝑏𝑥 , 𝑦 ∈ ( 𝑙 , 𝑏 ), 𝛼 ≥ 0, 𝛽 > 0 𝐸 𝑥 [ exp(− 𝛽 𝐴 𝑦 − 𝛼 𝐿 𝑦 ) 𝐿 𝑦 > 0 ] = 1 𝑆 ( 𝑏 ) − 𝑆 ( 𝑥 ∨ 𝑦 ) 𝑏 ∫ 𝑥 ∨ 𝑦 𝑆 ( 𝑑 𝑧 ) 𝐹 𝛼 , 𝛽 ( 𝑥 , 𝑦 , 𝑧 ) 𝐹 𝛼 , 𝛽 ( 𝑦 , 𝑦 , 𝑧 ) 𝐹 𝛼 , 𝛽 ( 𝑥 , 𝑦 , 𝑧 ) = 𝐸 𝑥 [exp − 𝛽 𝑇 𝑧 ∫ 0 𝐼 { 𝑋 𝑢 < 𝑦 } 𝑑 𝑢 − 𝛼 𝑇 𝑧 ]
  • 69. Main Theoremの証明にあたって  2つのPropositionを使う 1. First Passage TimeとOccupation Timeの同時分布のラプラス変換  Zhang [2015]のCorollary 1、式は割愛するがScale FunctionとWronskianで表される 2. 生存時間が のパス空間における確率測度に関するProposition  2つのLemmaにより導出される結果  1つはPitman and Yor [1996]のCorollary 3、パスの分解に関する命題 (後述)  1つはEgami and Kevkhishvili [2017]によるLast Exit Timeの分布、こちらも割愛する  証明のポイントは2点  今の設定ではLast Exit Time以降、Occupation Timeは増えない  斉時拡散過程なのでTime Reversalも同じ推移半群を持つ 𝐿 𝑦
  • 70. Lemma 1 (cf. Pitman and Yor [1996]) [statement] 斉時拡散過程 は状態空間 内の全ての点 について が成立 すると仮定する。このとき、すべての について、パス空間 上における以下の調和式が成立する。 [Brief Summary] 端点が と決まっているパスは最大値を取った時刻の前後で分割ができ、それ ぞれ独立なパス空間として扱うことができる 𝑋𝐼𝑥 < 𝑦 𝑃 𝑥 ( 𝑇 𝑦 < ∞) = 1 𝑥 , 𝑦 ∈ ( 𝑙 , 𝑟 ), 𝛼 ≥ 0, 𝛽 > 0 ∞ ∫ 0 𝑑 𝑡 𝑝 ( 𝑡 , 𝑥 , 𝑦 ) 𝑃 𝑡 𝑥 , 𝑦 = ∞ ∫ 𝑥 ∨ 𝑦 𝑆 ( 𝑑 𝑧 )( 𝑃 𝑇 𝑧 𝑥 ) ∘ ( 𝑃 𝑇 𝑧 𝑦 ) ∧ 𝑥 , 𝑦
  • 73. 具体例2: Last Exit Timeの条件付き分布  を標準ブラウン運動、閾値を の状況を考える  標準ブラウン運動の場合、Theoremのラプラス変換は明示的に表せる  逆ラプラス変換によって同時密度関数 を求めることができる  条件付き密度の定義より と計算できる  P.Lévy’s Arcsine lawより である  以上から条件付き密度が計算できる  何も情報がない密度 を使って考えるより、Occupation Timeの値を元に考える 方が、より正確にLast Exit Timeを捉えることができる 𝑋𝑦 = 0 𝑓 ( 𝑙 , 𝑎 ) 𝑓 ( 𝑙 𝑎 ) = 𝑓 ( 𝑎 , 𝑙 ) 𝑓 ( 𝑎 ) 𝑓 ( 𝑎 ) = 1 𝜋 𝑎 ( 𝑡 − 𝑎 ) 𝑓 ( 𝑙 )
  • 74. 応用例: 費用最小化問題  不況期における政府の費用最小化問題  政府は景気判断指標 が を下回っている間は不況であると考える  不況の間、政府は失業者に対する社会保障等で国民の生活支援を行う  一方で好況に転じたと判断する水準を とする  政府は最後に不況を脱却した時から水準 に到達するまで景気の後押しに資金を投入する  この2つの費用にはトレードオフが存在する  閾値 が低く設定されている場合、不況であると考える時間は短くなる  国民の生活支援の費用が小さくなる  一方でkilling boundary までの距離は長くなり、好況になるまでの時間は長くなる  景気の後押しのための資金投入額が大きくなる 𝑋𝑦𝑏 𝑏 𝑦𝑏
  • 75. 問題設定と定式化  政府は不況に入ってから対策を考えることとする ( )  以上から費用関数は以下のように定式化できる  ; ただし は について増加、 について減少  具体例として以下の設定を考える  ドリフト付きブラウン運動  費用関数  の項は が大きければ大きいほど1に近づく  の項は が小さければ小さいほど1に近づく  この費用関数は第2項を最大化することで最小値を達成できる  よって最小化問題は に帰着する 𝑥 < 𝑦 min 𝑦 ∈( 𝑥 , 𝑏 ) 𝐸 𝑥 [ 𝐶 ( 𝐴 𝑦 , 𝐿 𝑦 )] 𝐶 ( 𝑎 , 𝑙 ) 𝑎𝑙𝑋 𝑡 = 𝜇 𝑡 + 𝜎 𝐵 𝑡 𝐶 ( 𝑎 , 𝑙 ) = 1 − exp(− 𝛽 𝑎 )[1 − exp(− 𝛼 𝑙 )] = 1 − exp(− 𝛽 𝑎 ) + exp( − 𝛽 𝑎 − 𝛼 𝑙 ) [1 − exp(− 𝛼 𝑙 )] 𝑙 exp(− 𝛽 𝑎 ) 𝑎 max y ( 𝐸 𝑥 [ exp(− 𝛽 𝐴 𝑦 )] + 𝐸 𝑥 [ exp(− 𝛽 𝐴 𝑦 − 𝛼 𝐿 𝑦 )] )
  • 76. 結果  横軸: 水準  縦軸: 費用関数の値  パラメータ設定   𝑦 𝜎 = 3, 𝑥 = 0 𝑏 = 50, 𝛼 = 𝛽 = 0.05
  • 77. 結論と今後の課題  拡散過程におけるLast Exit TimeとOccupation Timeの同時分布を導出した  Last Exit Timeの条件付き分布を考えることができる  ラプラス変換の形で導出されている点は注意  密度関数を明示的に表せるわけではない  数値計算の精度が上がれば密度や最適化も一般的な設定で行える  同時分布を費用最小化問題に応用した  分布が特定されたことで経路依存型の動学的な費用最小化問題を解くことが可能  Last Exit Timeが停止時刻でないことが問題設定に織り込まれていない点に注意  Last Exitであることの誤認のペナルティを加えた問題設定
  • 78. 参考文献  Bertoin, Jean (1996). Lévy processes. Vol. 121. Cambridge university press Cambridge.  Borodin, Andrei N and Paavo Salminen (2015). Handbook of Brownian motion-facts and formulae. Springer Science & Business Media.  Cohen, Alan M (2007). Numerical methods for Laplace transform inversion. Vol. 5. Springer Science & Business Media.  Csáki, Endre, Antónia Fóldes, and Paavo Salminen (1987). “On the joint distribution of the maximum and its location for a linear diffusion”. In: Annales de l’IHP Probabilite ́s et statistiques. Vol. 23. 2, pp. 179–194.  Dassios, Angelos (2005). “On the quantiles of Brownian motion and their hitting times”. In: Bernoulli 11.1, pp. 29–36.  Egami, Masahiko and Rusudan Kevkhishvili (2017). “AN APPLICATION OF TIME REVERSAL TO CREDIT RISK MANAGEMENT”. In: arXiv preprint arXiv:1701.04565.  Getoor, RK and MJ Sharpe (1973). “Last exit times and additive functionals”. In: The Annals of Probability 1.4, pp. 550–569.  Karatzas, Ioannis et al. (1991). Brownian motion and stochastic calculus. Vol. 113. Springer Science & Business Media.  Pitman, Jim and Marc Yor (1982). “A decomposition of Bessel bridges”. In: Zeitschrift für Wahrscheinlichkeits- theorie und verwandte Gebiete 59.4, pp. 425–457.  Pitman, Jim and Marc Yor (1996). “Decomposition at the maximum for excursions and bridges of one- dimensional diffusions”. In: Ito’s stochastic calculus and probability theory. Springer, pp. 293–310.
  • 79. 参考文献  Rogers, Leonard CG and David Williams (2000). Diffusions, markov processes, and martingales: Volume 1, foun- dations. Vol. 1. Cambridge university press.  Salminen, P (1984). “One-dimensional diffusions and their exit spaces”. In: Mathematica scandinavica 54.2, pp. 209–220.  Wang, Zewen and Dinghua Xu (Jan. 2005). “Numerical inversion of multidimensional Laplace transforms using moment methods”. In: Numerical Mathematics 14.  Zhang, Hongzhong (2015). “Occupation times, drawdowns, and drawups for one-dimensional regular diffusions”. In: Advances in Applied Probability 47.1, pp. 210–230.