SlideShare uma empresa Scribd logo
1 de 1
Baixar para ler offline
鳥の複雑なさえずりの進化的デザイン	
  
                                                                     	
  
                                   笹原和俊 1,Mar%n	
  Cody2,Charles	
  Taylor2	
  
                                                                      	
  

                                          1	
  名古屋大学大学院情報科学研究科	
  
                                  2	
  Dept.	
  of	
  Ecology	
  and	
  Evolu%onary	
  Biology,	
  UCLA	
  

                                                 sasahara@is.nagoya-­‐u.ac.jp	
  


         はじめに	
    鳥類の中には数百,数千もの多様な音要素から構成される複雑なさえずり(歌)をもつ種がいる.明らかにそれ
   らの歌の構造はワンパターンでもランダムでもない.このような複雑な歌にはどんなデザイン原理が働いているの
   だろうか.これは信号の進化を探求する上で重要な問題であるが,まだ分からないことが多い. 	
  
    本研究では,複雑ネットワークを用いた歌構造の分析手法を提案し,オオムジツグミモドキ(California	
  Thrasher)
   の複雑な歌の構造特性を定量化する.	
                                                                                           結果	
       データと解析手法	
                                                                               歌ネットワーク(無向)の構造特性	
  
録音:	
  カリフォルニア州アマドールとサンタモニカで,オ                                                                       さえずり                                                               ランダム
オムジツグミモドキから自発的な歌を長時間録音	
  
	
  

歌ネットワークの作り方:	
  音要素タイプをノード,音要素                                                     ネット
                                                                                   ワーク
                                                                                                                             #ノード
                                                                                                                                =182
タイプ間の遷移をリンクとして,無向グラフと有向グラフ
を構成	
                                                                                L                3.15                       ≈                                            2.98
	
  
                                                                                     C                0.21                       >                                            0.03
歌ネットワーク(無向)の分析:	
  平均距離(L),クラスター
係数(C),次数分布(P(k))を求め,ランダムネットワークと                                                     P(k)
                                                                                                                                <k>
                                                                                                                                =6.4
比較	
  
	
  

歌ネットワーク(有向)の分析:	
  5種類の遷移モチーフの                                                 歌ネットワーク(有向)の構造特性	
  
含有量を調べ,ランダムネットワークのそれらと比較	
  
	
  
                                                                                      さえずり	
                                                                                           ランダム	
アマドールデータの例:	
  
音要素数:	
  2897,	
  音要素タイプ:	
  182	
  
図は歌の一部のソナグラムとその歌ネットワーク	
  




                                                                               個体間比較	
  
                                                                                 歌ネットワーク         L     Lrand      C     Crand    S (スモールワールドネス)
                                                                                  (無向)                                            =	
  (L	
  /	
  Lrand)	
  /	
  (C	
  /	
  Crand)	
                                                                                アマドール#1         3.15 2.98±0.09 0.21 0.03±0.01                                                6.62
                                                                                サンタモニカ#1        2.81 2.58±0.03 0.37 0.09±0.02                                                3.68
                                                                                サンタモニカ#2        6.61 3.44±0.04 0.31 0.03±0.01                                                4.86
                                                                                歌ネットワーク        一方通行型           ボトルネック型               マージン型                                  分岐型            砂時計型
                                                                                  (有向)
                                                                                アマドール#1 0.19 (0.01)            0.11 (0.07)      0.01 (0.04)                      0.08 (0.07)            0.61 (0.81)
                                                                                サンタモニカ#1 0.37 (0.02)           0.07 (0.11)      0.00 (0.07)                      0.07 (0.11)            0.49 (0.70)
                                                                                サンタモニカ#2 0.37 (0.02)           0.07 (0.11)      0.01 (0.15)                      0.10 (0.15)            0.43 (0.51)

         参考文献	
                                                                                     まとめ	
1.  K.	
  Sasahara,	
  M.	
  L.	
  Cody,	
  D.	
  Cohen,	
  and	
  C.	
  E.	
  Taylor,	
  	
  
                                                                                                オオムジツグミモドキの歌はスモールワールド構造を持ち,
    Structural	
  Design	
  Principles	
  of	
  Complex	
  Bird	
  Songs:	
  
                                                                                               規則と不規則がバランスした遷移多様性を持つ.このような
    A	
  Network-­‐Based	
  Approach,	
  PLoS	
  ONE,	
  2012	
  
                                                                                               複雑な歌は,雄間競争や求愛という信号の使用に関係して
2.  笹原和俊,	
  鳥の複雑なツイートとその進化的デザイン,	
  
                                                                                               進化的にデザインされたものだと考えられる.今後,野外で
    	
  「思想地図β	
  vol.1」(東浩紀編),	
  ゲンロン,	
  2010	
                                                                                               のプレイバック実験を通じてこれを定量的に探求する.

Mais conteúdo relacionado

Destaque

Soramame.Block 100行のJavaScriptで ビジュアルプログラミング言語(のフロントエンド)を作ってみた:
Soramame.Block 100行のJavaScriptで ビジュアルプログラミング言語(のフロントエンド)を作ってみた: Soramame.Block 100行のJavaScriptで ビジュアルプログラミング言語(のフロントエンド)を作ってみた:
Soramame.Block 100行のJavaScriptで ビジュアルプログラミング言語(のフロントエンド)を作ってみた: Yutaka Kachi
 
Decksetがよかった話
Decksetがよかった話Decksetがよかった話
Decksetがよかった話Kohki Miki
 
小さくて賢いロボット『マイクロマウス』を作ろう!
小さくて賢いロボット『マイクロマウス』を作ろう!小さくて賢いロボット『マイクロマウス』を作ろう!
小さくて賢いロボット『マイクロマウス』を作ろう!Teng Tokoro
 
ギークスマホ「Fx0」入手と運用
ギークスマホ「Fx0」入手と運用ギークスマホ「Fx0」入手と運用
ギークスマホ「Fx0」入手と運用Yutaka Kachi
 
WordPressプラグイン開発の めんどうな作業は執事(Jenkins)にお任せ
WordPressプラグイン開発の めんどうな作業は執事(Jenkins)にお任せWordPressプラグイン開発の めんどうな作業は執事(Jenkins)にお任せ
WordPressプラグイン開発の めんどうな作業は執事(Jenkins)にお任せSeto Takahiro
 
グローバル理工人材のための今日から使える検索テクニック ―もう日本語でググるのはやめよう
グローバル理工人材のための今日から使える検索テクニック ―もう日本語でググるのはやめようグローバル理工人材のための今日から使える検索テクニック ―もう日本語でググるのはやめよう
グローバル理工人材のための今日から使える検索テクニック ―もう日本語でググるのはやめようTeng Tokoro
 

Destaque (7)

Beamertemplete
BeamertempleteBeamertemplete
Beamertemplete
 
Soramame.Block 100行のJavaScriptで ビジュアルプログラミング言語(のフロントエンド)を作ってみた:
Soramame.Block 100行のJavaScriptで ビジュアルプログラミング言語(のフロントエンド)を作ってみた: Soramame.Block 100行のJavaScriptで ビジュアルプログラミング言語(のフロントエンド)を作ってみた:
Soramame.Block 100行のJavaScriptで ビジュアルプログラミング言語(のフロントエンド)を作ってみた:
 
Decksetがよかった話
Decksetがよかった話Decksetがよかった話
Decksetがよかった話
 
小さくて賢いロボット『マイクロマウス』を作ろう!
小さくて賢いロボット『マイクロマウス』を作ろう!小さくて賢いロボット『マイクロマウス』を作ろう!
小さくて賢いロボット『マイクロマウス』を作ろう!
 
ギークスマホ「Fx0」入手と運用
ギークスマホ「Fx0」入手と運用ギークスマホ「Fx0」入手と運用
ギークスマホ「Fx0」入手と運用
 
WordPressプラグイン開発の めんどうな作業は執事(Jenkins)にお任せ
WordPressプラグイン開発の めんどうな作業は執事(Jenkins)にお任せWordPressプラグイン開発の めんどうな作業は執事(Jenkins)にお任せ
WordPressプラグイン開発の めんどうな作業は執事(Jenkins)にお任せ
 
グローバル理工人材のための今日から使える検索テクニック ―もう日本語でググるのはやめよう
グローバル理工人材のための今日から使える検索テクニック ―もう日本語でググるのはやめようグローバル理工人材のための今日から使える検索テクニック ―もう日本語でググるのはやめよう
グローバル理工人材のための今日から使える検索テクニック ―もう日本語でググるのはやめよう
 

鳥の複雑なさえずりと進化的デザイン

  • 1. 鳥の複雑なさえずりの進化的デザイン     笹原和俊 1,Mar%n  Cody2,Charles  Taylor2     1  名古屋大学大学院情報科学研究科   2  Dept.  of  Ecology  and  Evolu%onary  Biology,  UCLA   sasahara@is.nagoya-­‐u.ac.jp   はじめに  鳥類の中には数百,数千もの多様な音要素から構成される複雑なさえずり(歌)をもつ種がいる.明らかにそれ らの歌の構造はワンパターンでもランダムでもない.このような複雑な歌にはどんなデザイン原理が働いているの だろうか.これは信号の進化を探求する上で重要な問題であるが,まだ分からないことが多い.     本研究では,複雑ネットワークを用いた歌構造の分析手法を提案し,オオムジツグミモドキ(California  Thrasher) の複雑な歌の構造特性を定量化する. 結果 データと解析手法 歌ネットワーク(無向)の構造特性   録音:  カリフォルニア州アマドールとサンタモニカで,オ さえずり ランダム オムジツグミモドキから自発的な歌を長時間録音     歌ネットワークの作り方:  音要素タイプをノード,音要素 ネット ワーク #ノード =182 タイプ間の遷移をリンクとして,無向グラフと有向グラフ を構成   L 3.15 ≈ 2.98   C 0.21 > 0.03 歌ネットワーク(無向)の分析:  平均距離(L),クラスター 係数(C),次数分布(P(k))を求め,ランダムネットワークと P(k) <k> =6.4 比較     歌ネットワーク(有向)の分析:  5種類の遷移モチーフの 歌ネットワーク(有向)の構造特性   含有量を調べ,ランダムネットワークのそれらと比較     さえずり ランダム アマドールデータの例:   音要素数:  2897,  音要素タイプ:  182   図は歌の一部のソナグラムとその歌ネットワーク   個体間比較   歌ネットワーク L Lrand C Crand S (スモールワールドネス) (無向) =  (L  /  Lrand)  /  (C  /  Crand) アマドール#1 3.15 2.98±0.09 0.21 0.03±0.01 6.62 サンタモニカ#1 2.81 2.58±0.03 0.37 0.09±0.02 3.68 サンタモニカ#2 6.61 3.44±0.04 0.31 0.03±0.01 4.86 歌ネットワーク 一方通行型 ボトルネック型 マージン型 分岐型 砂時計型 (有向) アマドール#1 0.19 (0.01) 0.11 (0.07) 0.01 (0.04) 0.08 (0.07) 0.61 (0.81) サンタモニカ#1 0.37 (0.02) 0.07 (0.11) 0.00 (0.07) 0.07 (0.11) 0.49 (0.70) サンタモニカ#2 0.37 (0.02) 0.07 (0.11) 0.01 (0.15) 0.10 (0.15) 0.43 (0.51) 参考文献 まとめ 1.  K.  Sasahara,  M.  L.  Cody,  D.  Cohen,  and  C.  E.  Taylor,      オオムジツグミモドキの歌はスモールワールド構造を持ち, Structural  Design  Principles  of  Complex  Bird  Songs:   規則と不規則がバランスした遷移多様性を持つ.このような A  Network-­‐Based  Approach,  PLoS  ONE,  2012   複雑な歌は,雄間競争や求愛という信号の使用に関係して 2.  笹原和俊,  鳥の複雑なツイートとその進化的デザイン,   進化的にデザインされたものだと考えられる.今後,野外で  「思想地図β  vol.1」(東浩紀編),  ゲンロン,  2010 のプレイバック実験を通じてこれを定量的に探求する.