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MDAフレームワークの紹介
IGDA SIG-BoardGame
MDAフレームワークとは?
 ゲームの構造を共有するためのフレームワーク
 2004年にMarc LeBlancが提唱
 GDCでは毎回ワークショップを開催
 ゲームの設計、分析、研究を繋げるフレームワーク
 設計(ゲームデザイン)、ゲームの分析、学術レベルでの研
究、という3つの立場に対して、統一された理論が無かった。
 (※というより今でも確立はされていない)
 そこを繋ぐための理論として提唱されたのが、MDAフレーム
ワーク。
そもそもMDAって何?
Mechanics
Dynamics
Aesthetics
 です。
 これら3つの要素に分解して、ゲームの構造につい
て考えましょう、ということ。
ゲームをM/D/Aに分解して考える
Mechanics
(メカニクス)
Dynamics
(ダイナミクス)
Aesthetics
(アッセティクス)
ゲームの基本ルール
根本的な仕組み
1つ1つのアルゴリズム
Mechanicsから発生する展開
ユーザーが取る行動
ユーザーが受ける感情や体験
Mechanics : ゲームの基本ルール
 ゲームにおける最も基本となるルール、要素のこ
と。
 必要なDynamicsを実現するための要素
 同時に、不要なDynamicsを発生させないための要素
 アクションゲームのMechanics
 Aボタンでジャンプ、谷に落ちたら死ぬ、アイテムで変身、等
 ポーカーのMechanics
 カードを5枚配る、他人のカードが見えない、任意の枚数を変
更できる、等
Dynamics : Mechanicsから生まれる展開
 様々なMechanicsの相互作用から、プレイヤーが取
る行動や展開。
 プレイヤーの行動を予測したり、ゲームバランスを取る
ために必要となる項目。
 アクションゲームのDynamics
 谷に落ちたら死ぬから谷を飛び越える
 距離を飛ぶためにダッシュしてギリギリでジャンプする
 ポーカーのDynamics
 高い手を作るために不要なカードを交換する
直接的なDynamics、間接的なDynamics
 Dynamicsには、以下の2パターンがある。
 直接的なDynamics
 特定のMechanicsから生まれるDynamics。
 予測しやすく、評価・検証が行いやすい。
 間接的なDynamics
 複数のMechanicsの相互作用によって生まれるDynamics。
 ユーザーがMechanicsを「最大限利用した場合」の想定。
 複雑ゆえに、テストプレイするまでわからないこともある。
 作り手は、間接的なダイナミクスまで想定し、
Mechanicsを取捨選択する必要がある。
直接的なDynamics、間接的なDynamics
Mechanics
空中で攻撃を
受けると吹き飛ぶ
Mechanics
食らいモーション中は無
敵
直接的Dynamics
空中で攻撃を食らうと
仕切り直しになる
間接的Dynamics
空中の方がリスクが低い
ので、ずっとジャンプし
続ける
Mechanics
空中からでも
リターンが取れる
※地上での駆け引きを楽しませたいアクションゲームを想定
相互作用によって
目的と異なるDynamicsが発生
目的通りのDynamics
Aesthetics : 体験、感情、その他諸々
 MechanicsやDynamicsから生まれる面白さ。
 ゲームの面白さをモデル化し、共有しやすくする。
 あのゲームは楽しいよねー、というのは簡単だが、それ
では「そのゲームの何が面白いのか?」が共有できな
い。
 MDAフレームワークでは、特定の8個のAestheticsを
ベースにゲームを評価、分析する。
本来のAestheticsの分類
 Sensation : 知覚的な喜びとしての楽しさ
 Fantasy : 仮想世界として楽しさ
 Narrative : 物語としての楽しさ
 Challenge : 障害を乗り越える楽しさ
 Fellewship : 仲間意識を得られる楽しさ
 Discovery : 探検、探索の楽しさ
 Expression : 自己実現の楽しさ
 Submission : 暇つぶしとしての楽しさ
 まずはこの8種類で認識を共有しよう!
本来のAestheticsの適用
 FFのAesthetics
 Fantasy, Narrative, Expression, Discovery, Challenge, Su
bmission
 QuakeのAesthetics
 Challenge, Sensation, Competition, Fantasy
 The SimsのAesthetics
 Discovery, Fantasy, Expression, Narrative
※先に挙げたものほど強い
正直、Aestheticsが理解しづらい
 ・・・というのが本来のMDAフレームワークにおけ
るAですが、強引に8個に分類する必要もないかと
思います。
 指定の8分類は無視して、より広義の「感情」や
「体験」という捉え方をした方が、開発には役立つ
のではないでしょうか。
 実用的なAestheticsの例
 相手との駆け引きがドキドキする!面白い!
 大人数で遊ぶと協力プレイが面白い!
 自分がどんどん強くなってヒーローのような体験ができ
る!
正直、Aestheticsが理解しづらい
 Aestheticsの階層分類
 Aestheticsは意味が広いので、あまりに広義のAを据えた
りすると、途端に構造が把握しづらくなります。
 「High Aesthetics(体験級)」と「通常のAesthetics(感
情級)」で分けると、要素の繋がりや分析がやりやすい
です。
 High Aesthetics の例
 広大な大地を探索する体験、最強の戦士の体験、物語に没入す
る体験、などなど。やや抽象的なものが多い気がする。
※こちらについてはSig-BoardGameで色々試すうちに感じたもので、
本来のMDAフレームワークで提唱されているものではありません。
MechanicsのAestheticsへの影響
M
haloCall of Duty
D
A
シールドがあるシールドがない
シールドの耐久ギリギリまで前
線で攻撃を食らいつつ打ち合う
一発食らうと死ぬので
隠れながら進む
ヒーローとしての戦場体験一般兵士としての戦場体験
消費者と開発者の視点の違い
Mechanics
Dynamics
Aesthetics 消費者
開発者
 開発者は「Mechanics」からゲームを組み立てが
ち。
 消費者は「Aesthetics」からゲームに触れる。
開発プロセスでAestheticsを意識しよう
 ユーザーにとって最も大事なのは「Aesthetics」。
 「Mechanics」や「Dynamics」だけでゲームを考え
ても、結局まとまりの無いゲームになることが多
い。
 「○○のゲームの○○って要素が面白かった!入れよう!」
などと、Aとの繋がりを明確にせずにMを導入すると、
 「この要素いるの?」という無駄なMが発生したり、
 想定外のDが発生して「これだけやってれば最強」とい
うようなクソゲーが生まれる可能性がある。
・Aestheticsから考える
・Aestheticsまで上って検討する
という意識が重要。
MDAを用いることの効果
 「求めるAesthetics」を明確にすることで、色々な
要素を考える際の軸が生まれる。
 大半の要素はメリット/デメリットがある。
 どの要素を採用するか、というジャッジには軸が必要。
 「面白さ」について語りやすくなる。
 チームで目指す方向がわかりやすくなる。
 チーム内でのコミュニケーションコストが圧縮できる。
 ゲームデザイン、というものを理論的に教えられる。
補足:アイディア考案の際のMDA
 アイディア考案の際、M/D/Aのどこから思い付くか
は人それぞれ。
 Aestheticsから考える、という枠に拘るのも効率が
悪い。
 Mechanicsから思い付いた場合
 Aesthetics まで上って考える。
 そのMechanicsは求めるAestheticsを実現する要素か?
 想定外のDynamicsは発生しないか?
補足:アイディア考案の際のMDA
M D A
 Aestheticsから思い付いた場合(今回はこっちが基本)
 Mechanics まで下って考える。
 求めるAestheticsを実現できるDynamicsは何か?
 求めるAestheticsを実現できるMechanicsは何か?
A D M
ところで「フレームワーク」って何?
 そもそも「フレームワーク」とは何か?
 物事を考えるために必要となる軸、枠組みのこと。
 「各論を考える前に、考えるべき大枠を考える。」
 色々な本や講座等で「フレームワーク思考」や「枠組み
で考える」などが提唱されています。
フレームワーク思考について
 世の中の色々な「フレームワーク」
 3C(市場分析のためのフレームワーク)
 Customer, Company, Competitor
 4P(マーケティングのフレームワーク)
 Product, Price, Promotion, Place
 走攻守(優秀な野球選手かどうかのフレームワーク)
 早い安い旨い(優秀な飯屋かどうかのフレームワーク)
いずれも「考えるための枠組み」であり、
思考そのものや判断をしてくれるものではない
フレームワーク思考について
 MDAも同じく「フレームワーク」の1つ。
 フレームワークは思考の補助線として有効。
 しかし、ゲームを面白くしてくれる万能ツールではな
い。
アイディア考案
評価・検証
フレームワークが
使えるのはこっち。
まとめ
 MDAフレームワークはゲームデザインについて考え
る際の補助線となるツール。
 要素の分析、検討、取捨選択などについて効果がある。
 MDAを(特にAを)共有することで、目指すべき方向性
が共有しやすい。
 チーム内のコミュニケーションコスト削減に役立つ。
 「フレームワーク」であり、万能のツールではな
い。
 アイディア考案段階で大事なのは人それぞれの発想。
 ただし、有効な部分を意識して使うことで、ゲーム制作
に役立つのではないかと思います。

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