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1(c) 2014 Masahiro Matsuura, All Rights Reserved.
衆議院
原子力問題調査特別委員会
2014年6月5日
参考人意見陳述 配布資料
東京大学公共政策大学院 特任准教授 松浦正浩
略歴:1974年生。東京大学工学部土木工学科卒、マサチューセッツ工科大学都市計画学科修士課程
、(株)三菱総合研究所研究員、マサチューセッツ工科大学都市計画学科 Ph.D. 課程、東京大学公共政策
大学院特任講師を経て、2008年10月より同大学院特任准教授(2012年8月より「科学技術イ
ノベーション政策の科学教育・研究ユニット」所属)。東京大学政策ビジョン研究センター「社会的合
意形成支援研究ユニット」責任者。 NPO 法人 PI-Forum 理事。専門は合意形成論、交渉学、科学技術イ
ノベーション政策、都市・環境政策等に関する研究。著書に『実践!交渉学:いかに合意形成を図る
か』(筑摩書房、 2010 )『 Localizing Public Dispute Resolution in Japan 』( VDM 、 2008 )、『コン
センサス・ビルディング入門』(共訳、有斐閣、 2008 )ほか。
連絡先は matsuura@pp.u-tokyo.ac.jp, http://www.mmatsuura.com/ 。
2(c) 2014 Masahiro Matsuura, All Rights Reserved.
「合意形成」とは
• コミュニケーションではない
– 伝えること、理解することではない
• 説得ではない
– 自分の考えへの賛同者を増やすことではない
• 異なる人々との共存手段・過程
• 互恵関係構築による相互利益の創出
• 共有する価値観の析出
3(c) 2014 Masahiro Matsuura, All Rights Reserved.
科学的情報と合意形成
弁
護
科
学
(advocacyscience)
対
立
的
科
学
(adversaryscience)
対立対
立
・
矛
盾
科学的情報
(根拠)の提供
利害関係者・
一般国民などによる
合意形成などの場面
専門家、科学者などの
コミュニティ
??????
科学的情報
(根拠)の提供
(資金等)
4(c) 2014 Masahiro Matsuura, All Rights Reserved.
科学的情報に係る合意形成の困難
• 複数の学術領域
Multiple Disciplines
• データへのアクセス
Access to Data
• 既存データの十分さ
Adequacy of Existing Data
• 確実性についてのあいまいさ
Unclear Significance
• データ公開の制限
Restricted Data
• 政治化された情報
Politicized Information
• 専門性不足
Lacks of Expertise
• 結論を断定できないデータ
Inconclusive Data
• 検討にお金が絡んでいる情報
Purchased Information
• 不確実性と科学者間の分断
Uncertainty and Division among the Scientists
• 科学そのものへの不信感
Distrusted Science
• 関係のない情報
Irrelevant Information
• 大量すぎるデータ
Data Overload
• 十分な科学的研究によって確認されてい
ない理論
Theory Unsupported by Sufficient Research
• ステークホルダーよりも科学者が前面に
出る Scientists Ahead of Stakeholders
• 情報が利用可能な形にまだまとまってい
ない Information Not Yet Usable
• 課題のフレーミング(枠組み設定)が不
適切 Poor Issue Framing
• 専門家のふりをした人たち
Pseudo-Professional Posturing
• 検討の枠組みが変動
Shifting Conceptual Framework
• 科学者に対する過剰な期待
Unrealistic Expectations of Scientists
• 古すぎるデータ、問題への対応の遅れ
Outdated Data and Organizational Lag
• 複雑さに対する許容度の違い
Differential Tolerance for Complexity
• 科学的環境論争にみせかけた政治論争
Pseudo-Scientific Environmental Conflicts
(From Adler et al. “Managing Scientific and Technical Information in Environmental Cases”)
5(c) 2014 Masahiro Matsuura, All Rights Reserved.
共同事実確認
• 情報の利用者が、共同で、信頼・納得できる情報を、確認・取得する
• 情報の利用者が、問題を定義する(専門家からの受け身にならない)
• 情報の利用者が、結論だけでなく、分析の仮定や不確実性に着目する
• 情報の利用者が、判断し、意思決定する(専門家に責任を押しつけない)
• 進行役が議論を進行するほうが効率的( ファシリテーター)
情報の利用者
(関係者・意思決定者・社会全体など)
専門家
質の高い情報交換
(仮定や不確実性を
 含む)
選任・委嘱
(信頼・納得)
議論の進行役
(ファシリテーター)
(Joint Fact-Finding)
6(c) 2014 Masahiro Matsuura, All Rights Reserved.
共同事実確認の実施形態
専門家パネル
進行役
協議会
交渉・協議
反対派
専門家
進行役
推進派
専門家
推進派 反対派
事実確認とりまとめ型 背景情報確認型
判断の背後にある仮定・モデル等を
明らかにする
協議に必要な情報を、
弁護科学を回避しながら取得する
7(c) 2014 Masahiro Matsuura, All Rights Reserved.
原子力共同事実確認(米・ 2007 )
• 体制:
– 主催者: The Keystone Center ( NGO )
• 企画、招集、進行、とりまとめ
• エネルギー評議会(連邦議員等)が開催の契機
• 財団法人、企業等による助成、支援
– 27名の参加者(関係者)
– 16名の専門家
• 期間: 15 ヶ月間
• 組織:
• 結論:
1:気候変動への貢献
貢献するほど増えるかどうかは意見が分かれるが、
Pacala-Socolow の 1 Wedge 削減には、原子力発電が最も
成長著しかった時代の勢いにいますぐ戻す必要あり
2:経済性
原子力発電の経済性(発電単価)については産業界と反対派で大きな
食い違いがあったが、共同事実確認により、8~11セント/kWhに収斂
3:安全性、セキュリティ
安全性についてはさまざまな意見を併記
4:廃棄物、再処理
地層処分が最適であることを示した上で、立地選定に関するクライテリアを提示;
中間貯蔵の集約化;米国では再処理は非経済的
5:拡散リスク
GNEP には核不拡散などへの懸念あり
­全体会議 (Plenary) (全4回開催)
­ワーキンググループ
­実行委員会 (Steering Committee) 9名
キーストーンセンター
8(c) 2014 Masahiro Matsuura, All Rights Reserved.
HLW 双方向シンポ(日・ 2013 )
• 第2回「双方向シンポ
ジウム どうする高レベル
放射性廃棄物 2013 」
(資源エネルギー庁主催)
• 事業者( NUMO ・石黒
技術専門役)と研究者
(神奈川工科大・藤村
教授)の対話
• 松浦(東大)が進行役
• 2013/2/17
14時~16時半
• 対話の人選、場などは、関係者(推進~反対)で構成される
事務局会合で決定
• 結論(進行役のまとめ)
– 前提や仮定の重要性
– 立地選定における「安全」の判断基準
– 安全評価におけるシナリオの設定
– 操業時の「安全」
– その他の論点
http://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/nuclear/rw/sohoko/index.html
結論・配布資料・映像等はインターネット経由で取得できます↓
9(c) 2014 Masahiro Matsuura, All Rights Reserved.
原子力(規制)行政に関連して
• 新規制基準適合性審査と社会的合意形成
– 社会的意思決定・判断は「専門家」の仕事ではない
– 審査における許可・認可 ≠ 社会的合意
– 科学以外の視点(倫理、トランスサイエンス事項)の介入余地の所在
– 不確実性に関わる判断の所在
• 「健全な科学」⇔「予防原則」
• 原子力の「合意形成」問題にみられる
利害調整の課題とモラル論争の2つの側面
– 利害調整:異なる意向を持つ人たちの間の
交渉取引(補償)による共存
– モラル論争:全員が守る「べき」ことに関する
意見の相違
9(c) 2014 Masahiro Matsuura, All Rights Reserved.
原子力(規制)行政に関連して
• 新規制基準適合性審査と社会的合意形成
– 社会的意思決定・判断は「専門家」の仕事ではない
– 審査における許可・認可 ≠ 社会的合意
– 科学以外の視点(倫理、トランスサイエンス事項)の介入余地の所在
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• 「健全な科学」⇔「予防原則」
• 原子力の「合意形成」問題にみられる
利害調整の課題とモラル論争の2つの側面
– 利害調整:異なる意向を持つ人たちの間の
交渉取引(補償)による共存
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  • 1. 1(c) 2014 Masahiro Matsuura, All Rights Reserved. 衆議院 原子力問題調査特別委員会 2014年6月5日 参考人意見陳述 配布資料 東京大学公共政策大学院 特任准教授 松浦正浩 略歴:1974年生。東京大学工学部土木工学科卒、マサチューセッツ工科大学都市計画学科修士課程 、(株)三菱総合研究所研究員、マサチューセッツ工科大学都市計画学科 Ph.D. 課程、東京大学公共政策 大学院特任講師を経て、2008年10月より同大学院特任准教授(2012年8月より「科学技術イ ノベーション政策の科学教育・研究ユニット」所属)。東京大学政策ビジョン研究センター「社会的合 意形成支援研究ユニット」責任者。 NPO 法人 PI-Forum 理事。専門は合意形成論、交渉学、科学技術イ ノベーション政策、都市・環境政策等に関する研究。著書に『実践!交渉学:いかに合意形成を図る か』(筑摩書房、 2010 )『 Localizing Public Dispute Resolution in Japan 』( VDM 、 2008 )、『コン センサス・ビルディング入門』(共訳、有斐閣、 2008 )ほか。 連絡先は matsuura@pp.u-tokyo.ac.jp, http://www.mmatsuura.com/ 。
  • 2. 2(c) 2014 Masahiro Matsuura, All Rights Reserved. 「合意形成」とは • コミュニケーションではない – 伝えること、理解することではない • 説得ではない – 自分の考えへの賛同者を増やすことではない • 異なる人々との共存手段・過程 • 互恵関係構築による相互利益の創出 • 共有する価値観の析出
  • 3. 3(c) 2014 Masahiro Matsuura, All Rights Reserved. 科学的情報と合意形成 弁 護 科 学 (advocacyscience) 対 立 的 科 学 (adversaryscience) 対立対 立 ・ 矛 盾 科学的情報 (根拠)の提供 利害関係者・ 一般国民などによる 合意形成などの場面 専門家、科学者などの コミュニティ ?????? 科学的情報 (根拠)の提供 (資金等)
  • 4. 4(c) 2014 Masahiro Matsuura, All Rights Reserved. 科学的情報に係る合意形成の困難 • 複数の学術領域 Multiple Disciplines • データへのアクセス Access to Data • 既存データの十分さ Adequacy of Existing Data • 確実性についてのあいまいさ Unclear Significance • データ公開の制限 Restricted Data • 政治化された情報 Politicized Information • 専門性不足 Lacks of Expertise • 結論を断定できないデータ Inconclusive Data • 検討にお金が絡んでいる情報 Purchased Information • 不確実性と科学者間の分断 Uncertainty and Division among the Scientists • 科学そのものへの不信感 Distrusted Science • 関係のない情報 Irrelevant Information • 大量すぎるデータ Data Overload • 十分な科学的研究によって確認されてい ない理論 Theory Unsupported by Sufficient Research • ステークホルダーよりも科学者が前面に 出る Scientists Ahead of Stakeholders • 情報が利用可能な形にまだまとまってい ない Information Not Yet Usable • 課題のフレーミング(枠組み設定)が不 適切 Poor Issue Framing • 専門家のふりをした人たち Pseudo-Professional Posturing • 検討の枠組みが変動 Shifting Conceptual Framework • 科学者に対する過剰な期待 Unrealistic Expectations of Scientists • 古すぎるデータ、問題への対応の遅れ Outdated Data and Organizational Lag • 複雑さに対する許容度の違い Differential Tolerance for Complexity • 科学的環境論争にみせかけた政治論争 Pseudo-Scientific Environmental Conflicts (From Adler et al. “Managing Scientific and Technical Information in Environmental Cases”)
  • 5. 5(c) 2014 Masahiro Matsuura, All Rights Reserved. 共同事実確認 • 情報の利用者が、共同で、信頼・納得できる情報を、確認・取得する • 情報の利用者が、問題を定義する(専門家からの受け身にならない) • 情報の利用者が、結論だけでなく、分析の仮定や不確実性に着目する • 情報の利用者が、判断し、意思決定する(専門家に責任を押しつけない) • 進行役が議論を進行するほうが効率的( ファシリテーター) 情報の利用者 (関係者・意思決定者・社会全体など) 専門家 質の高い情報交換 (仮定や不確実性を  含む) 選任・委嘱 (信頼・納得) 議論の進行役 (ファシリテーター) (Joint Fact-Finding)
  • 6. 6(c) 2014 Masahiro Matsuura, All Rights Reserved. 共同事実確認の実施形態 専門家パネル 進行役 協議会 交渉・協議 反対派 専門家 進行役 推進派 専門家 推進派 反対派 事実確認とりまとめ型 背景情報確認型 判断の背後にある仮定・モデル等を 明らかにする 協議に必要な情報を、 弁護科学を回避しながら取得する
  • 7. 7(c) 2014 Masahiro Matsuura, All Rights Reserved. 原子力共同事実確認(米・ 2007 ) • 体制: – 主催者: The Keystone Center ( NGO ) • 企画、招集、進行、とりまとめ • エネルギー評議会(連邦議員等)が開催の契機 • 財団法人、企業等による助成、支援 – 27名の参加者(関係者) – 16名の専門家 • 期間: 15 ヶ月間 • 組織: • 結論: 1:気候変動への貢献 貢献するほど増えるかどうかは意見が分かれるが、 Pacala-Socolow の 1 Wedge 削減には、原子力発電が最も 成長著しかった時代の勢いにいますぐ戻す必要あり 2:経済性 原子力発電の経済性(発電単価)については産業界と反対派で大きな 食い違いがあったが、共同事実確認により、8~11セント/kWhに収斂 3:安全性、セキュリティ 安全性についてはさまざまな意見を併記 4:廃棄物、再処理 地層処分が最適であることを示した上で、立地選定に関するクライテリアを提示; 中間貯蔵の集約化;米国では再処理は非経済的 5:拡散リスク GNEP には核不拡散などへの懸念あり ­全体会議 (Plenary) (全4回開催) ­ワーキンググループ ­実行委員会 (Steering Committee) 9名 キーストーンセンター
  • 8. 8(c) 2014 Masahiro Matsuura, All Rights Reserved. HLW 双方向シンポ(日・ 2013 ) • 第2回「双方向シンポ ジウム どうする高レベル 放射性廃棄物 2013 」 (資源エネルギー庁主催) • 事業者( NUMO ・石黒 技術専門役)と研究者 (神奈川工科大・藤村 教授)の対話 • 松浦(東大)が進行役 • 2013/2/17 14時~16時半 • 対話の人選、場などは、関係者(推進~反対)で構成される 事務局会合で決定 • 結論(進行役のまとめ) – 前提や仮定の重要性 – 立地選定における「安全」の判断基準 – 安全評価におけるシナリオの設定 – 操業時の「安全」 – その他の論点 http://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/nuclear/rw/sohoko/index.html 結論・配布資料・映像等はインターネット経由で取得できます↓
  • 9. 9(c) 2014 Masahiro Matsuura, All Rights Reserved. 原子力(規制)行政に関連して • 新規制基準適合性審査と社会的合意形成 – 社会的意思決定・判断は「専門家」の仕事ではない – 審査における許可・認可 ≠ 社会的合意 – 科学以外の視点(倫理、トランスサイエンス事項)の介入余地の所在 – 不確実性に関わる判断の所在 • 「健全な科学」⇔「予防原則」 • 原子力の「合意形成」問題にみられる 利害調整の課題とモラル論争の2つの側面 – 利害調整:異なる意向を持つ人たちの間の 交渉取引(補償)による共存 – モラル論争:全員が守る「べき」ことに関する 意見の相違
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Notas do Editor

  1. 本日は貴重な機会を賜り誠にありがとうございます。東京大学公共政策大学院の特任准教授の松浦と申します。 まずはじめに、わたくしは原子力規制そのものについての専門家ではないことをお断りさせてください。 これまで「合意形成」をテーマに学術研究と実践にかかわってまいりましたので、その分野の専門家として、原子力規制に関連してご参考にしていただけそうなことがらを、かいつまんで発表させていただければと思います。
  2. まず第一に、合意形成という単語について、定義させてください。 みなさん合意形成という単語は、政治のいろいろな場面でお聞きになったことがあるかと存じます。しかし定義は人によってまちまちだと思いますし、そのことが混乱を招いているのではないかと心配しています。 まず、合意形成はコミュニケーションや説得ではないことを確認させてください。 合意形成とは、異なる意見や志向を持った人々と、共存していくための手段やプロセスです。ですから、合意形成は、異なる意見や志向を持った人たちの存在を認めること、否定しないところから始まるのです。 そのような自分と異なる人たちと、互恵関係、ウィンウィンなどともいいますが、そのような関係を通じて、自分と相手の両方に利益が生じるような取引を見つけることが、合意形成であります。 また、状況によっては、取引ではなく、誰もが共有する価値観やモラルを、言葉として具体化するという作業も、一種の合意形成ともいえます。
  3. では、原子力規制に関連する問題として、科学的情報と、合意形成のかかわりについてお話させてください。 利害関係者あるいは一般国民が、何らかの政治課題について議論しているとしましょう。そこに、専門家や科学者はどのように関わりをもつのでしょうか? よくあることですが、人々が対立していると、ある陣営の主張をサポートするための科学者や専門家グループ、そしてそれに対立する陣営をサポートする科学者や専門家グループが顕在化してきます。このような専門家の関わりかたは、弁護科学と呼ばれます。 こうなると、それぞれ対立する陣営は、個人の思いを語るのではなく、専門家グループのほうを指差して、自分たちのほうが正しい、相手は間違っている、といった批判をお互いに繰り返すことになります。このこと自体が絶対的に悪いとはいえませんけれども、もし、合意形成を目指すのであれば、このような形での専門家の関与は、残念ながら混乱を増幅させてしまいます。
  4. 実は合意形成を目指す場合に、科学的情報が関わってくると、非常に数多くの障壁が存在するということを、Peter Adlerさんという方がまとめています。ひとつひとつ説明できませんが、要は、科学的情報の扱いについて、十分考えておかないと、議論は容易に混迷するということです。
  5. そこで、科学的情報を必要とする合意形成については、共同事実確認、英語でJoint Fact-Findingと呼びますが、そのような枠組みを導入すべきだということが、80年代から米国の環境政策の文脈で言われるようになりました。 具体的には、情報の利用者、つまり、みなさんのような意思決定者、政府、関係者、国民全体などになりますが、そちらの側がもっと責任と自主性をもって科学的情報を扱うということです。 第一に、情報の利用者が個別に専門家に接触するのではなく、情報の利用者の集団として、専門家集団に対して情報を請求するということです。 第二に、どのような情報を要求するのかについても、原則として、情報の利用者側で決める、つまり、専門家から与えられるままに情報を受け取らないということです。 第三に、分析には必ずや、仮定や不確実性が含まれますので、どのような仮定をおいた分析なのか、どの程度不確実性があるのかということを、情報の利用者の側がきちんと聞いて、理解する必要があります。 第四に、判断は、情報の利用者が行うということ。つまり専門家は情報提供の役割に徹し、安全か危険かといった判断は、情報の利用者が責任を持つということです。不確実性がある以上、リスクを受け入れるのか、受け入れないのかは、専門家が判断することではなく、みなさんのような意思決定者なり究極的には国民が決めることなのです。
  6. このようなことを実際に行う場合には2つの型がありえます。先ほどのように、政治的な協議の場を設けた上で、専門家集団に対して科学的な専門知を請求するという事実確認とりまとめ型。あるいは、対立の規模が大きく、協議には至らないけれども、弁護科学の様相を呈している状況では、それぞれの陣営の専門家を連れてきて、安全や危険といった結論ではなく、仮定や不確実性について、公の場で確認するという、背景情報確認型も可能です。 抽象的な話が続きましたので、原子力の文脈で、2つの事例をご紹介したいと思います。
  7. 第一に、事実確認とりまとめ型といえますが、2007年に、米国において原子力共同事実確認、Nuclear Power Joint Fact-Findingという取り組みが行われました。これは米国のNGOが主催で行ったのですが、NGOといっても、賛成反対のような、政治的スタンスをとらず、合意形成を支援することのみをミッションとしているキーストーンセンターという団体が、連邦政府の議員等のはたらきかけで実施しています。 27名の参加者たちが16名の専門家から情報提供を受けながら、政策提言をまとめています。ちなみにこの参加者には、現在アメリカのNRC、原子力規制委員会委員長のアリソン・マクファーレンさんも入っています。わたくしが数年前に主催した研究会でも、マクファーレンさんに来日いただいて、この事例についてご紹介いただきました。 で、たとえば、この議論の結果、原子力の発電コストはキロワットアワーあたり8~11セントだろうという点で、推進派から懸念を持つ人々まで、ある程度の意見の集約が図れたそうです。 これは福島第一事故以前のアメリカの話ですのでこの数字は参考にならないとは思いますし、現在の日本でこのような形での議論は可能ではないかもしれませんが、賛成反対の人たちが納得できる科学的な情報を、前提や不確実性まで含めて整理したうえで、政策や規制についての合意形成を目指すことは、現実はともかく、理想ではないでしょうか。
  8. つぎに私が実際に日本で関わった事例ですが、高レベル放射性廃棄物の地層処分について、事業者の方と、懸念を持たれている研究者の方の間で対話を実施した事例があります。 賛否を問うのではなく、むしろ、地層処分の安全性について考えるときに、どのような視点が必要で、どのようなことが事実として確認できそうかを、2時間半の対話で実施した事例です。 この議論の結論については、お二人にご相談させていただきながら作成したまとめの文章がございますので、詳細はそちらを見ていただきたいのですが、当時の法制度において、安全に係る判断基準がどのように設定されていたのか、あるいは実はまだ設定されていなかったのかといった点、あるいは安全評価の際のシナリオ設定、特に火山現象のような相対的には確率が小さい現象を評価することの技術的可能性などについて、ある程度の収斂が見られたのではないかと、個人的には思っています。 政治的判断についてはもちろん、そして技術的な要素についても、議論が分かれるところは多々あるかと思いますが、ピュアに技術的な側面だけ見れば、あるいは事実関係だけ見れば、共通認識が全く存在しないわけではないという事実は、重要なことではないかと思います。
  9. 最後に、原子力規制についてということで、少し絞って、私見を述べさせていただければと思います。 第一に、いま一番の懸念事項かと思われますが、新規制基準適合性審査の件です。まず、共同事実確認の思想を前提とするなら、意思決定や判断を専門家に委ねるべきではないということです。専門家は、新基準へ適合していますよ、していませんよ、あるいはしていないかもしれませんよ、という情報を提示する役割に限定されることが望ましいと、私は思います。また、審査を通じて許可・認可が出たことをもって、社会的合意が得られたとまで言うのは言いすぎかと思います。もちろん法制度の下で許可や認可が出ている事実にはかわらないでしょう。しかし、その後の自治体の同意が現実には必要であったりしますし、合意というのは言いすぎではないでしょうか、ということです。また、科学以外の視点がどこで介入するのか、気になるところです。適合性審査は科学的な調査分析がほぼすべてだと思いますが、そもそも、倫理として、甚大な被害をもたらす可能性がたとえ僅かでもある技術を導入するのか、高レベル放射性廃棄物のように超長期の将来世代にリスクを負わせることが認められるのかどうかといった問題について議論する場がどこにあるのだろうか、という点が気になっています。もちろん、適合性審査がその場ではないのではないかもしれませんが、どこで考慮されるのか、という点が気がかりです。そして、適合性審査において、不確実性のもとでの判断はどのように行われるのかが気がかりです。何かの危険性について、ある程度の幅があったとき、まんなかくらいで評価するのか、安全よりで評価するのかといった判断もありますし、そもそも危険性を定量的に評価できない事象があったときにどう判断するのか、といったことがらは、先ほどの共同事実確認の考えに基づけば、専門家ではなく、科学的情報の利用者が判断を下すことです。ここの判断を専門家に委ねてブラックボックス化してしまうのは、社会として望ましいことではないと思います。 第二に、規制だけでなく、原子力の合意形成全般についてですが、これは利害調整なのか、それともモラルなのかという疑問です。利害調整であれば、条件闘争のようなもので、補償の条件や安全性のレベルをどうするかといったところでの合意形成が可能かもしれません。しかしもし、モラルの問題、つまり、福島の事故という経験を踏まえた上で、社会として原子力を利用すべきか、あるいはすべきでないのかという「べき論」の論争が存在するのであれば、合意形成などそう簡単に実現できるものではできないでしょう。私が思うに、原子力利用の問題は、利害調整だけではなく、モラルの問題も孕んでいるから、そう簡単には解決しないのではないかと推測しています。逆に、モラル論争の存在を認めることで、合意には至らなくとも、現在の閉塞感を乗り越えることができるのではないかとも感じています。 以上です。どの程度お役に立てるかどうか不安ではございますが、みなさまのアイディアの種になれれば幸いです。ご清聴ありがとうございました。