人工市場シミュレーションを用いた金融規制・制度の研究の動向
第20回進化経済学会発表資料
2016/3/26,27 東京大学
スパークス・アセット・マネジメント株式会社
水田孝信
本発表資料はスパークス・アセット・マネジメント株式会社の公式見解を表すものではありません.すべては個人的見解であります.
本報告では最近,金融規制・制度の議論に貢献し始めた人工市場シミュレーションの特徴を示した上でいくつかの研究を紹介する.マルチエージェントシミュレーションの一種である人工市場シミュレーションでは,投資家(エージェント)の行動と取引所(価格決定メカニズム)の注文処理というミクロプロセスをモデル化し,それらの相互作用をコンピュータ上でシミュレーションしてマクロ現象を観察する.そのため,実証分析では難しいミクロとマクロの相互作用の分析を行い,規制・制度の変更でどのようなことが,どのようなメカニズムで起こりえるのかを議論することができる.本報告では,実際の市場で大きな議論があり,実際に変更が行われた規制・制度を議論した研究を紹介する.日本の株式市場ではかつて,空売りの価格規制(直近の取引価格以下で空売りの注文ができない規制)が導入されていたが2013年11月に一部の場合を除き撤廃となった.人工市場研究では,空売りの価格規制は価格上昇時にバブルを誘発するという副作用がある可能性を指摘していた.東京証券取引所は2014年7月に一部の株式で呼値(注文価格の最小の刻み幅)を1円から0.1円に引き下げた.東証ワーキングペーパー(現JPXワーキングペーパー)として発表された人工市場研究では,呼値の刻みの大きさがその銘柄の短期のボラティリティよりも大きいと,短期のボラティリティを大きくしてしまう可能性を指摘していた.ダークプールとは注文を公開せずに注文をつき合わせる取引市場であり米国や欧州でかなり普及しているが日本でも普及し始めている.欧州では2014年の金融商品市場指令の見直し(MiFID II)において,各銘柄のダークプールの売買代金を全体の8%に制限する規制が導入された.人工市場研究ではダークプールが50%以上のシェアになると金融市場の価格発見機能が破壊される可能性を指摘している.