身の回りの現象を数理の目で見ると！ ―現象数理学の新展開― (明治大学生田図書館Gallery ZERO)

1. 実用化のための経済理論の開発
吉川 満
背景・研究手法
近年ゲーム理論、実験経済学の発展を背景として、例えばオークションの設計(周
波数、電力など)、医学部生のインターンシップ配属、さらには臓器移植など実際の
市場の制度設計に経済理論が応用され始めています。ただしこれらは最適な制度設計
を考えるという規範的な研究であり、これを用いて実際の市場を分析しようとすると
理論と現実との乖離が存在します。そこで進化ゲーム理論における現象の記述性に着
目して理論を構築し、実証分析も行うことにより、実務へ応用しようとしています。
理論開発
ナッシュ均衡(ノーベル経済学賞受賞)の第 2 の解釈である統計的母集団という考え
方を統計力学を用いて定式化し、各主体の戦略を採用する確率を導出しました。実は
この関数はミクロ計量経済学という分野で使用されているロジットモデルと同様の
形をしており、これとのアナロジーで実証分析も行うことができます。
具体例：株式市場
株式市場を上述の開発したゲーム理論を用いて、数理的な模型を設計します。ここ
ではダブルオークションという取引制度を用いて、導出した関係式を用いると、各投
資家がある価格に注文を出す確率が分かります。一方で売り注文と買い注文から需
要・供給関数を導出し、需要と供給が一致する点、ワルラス均衡を導出します。ここ
で約定価格とこのワルラス均衡価格との差から今の板の状態(売り圧力が強いのか、
買い圧力が強いのかなど)を数値的に把握することができ、短期的な価格の変動を予
測することができます。また理論研究において導出した関係式を基に実証分析を行う
と、ある時間帯に売り急ぎや買い急ぎが行われやすいということが分かります。もち
ろんリアルタイムに板の状態を把握することもできます。
実社会への応用
この開発した理論を用いると、取引コストの削減のた
めのアルゴリズム取引や不正な取引の発見などに役立て
ることができます。 板情報