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 •   特別対談


 •   第 4 回 明日の試合のために時間を使いますか。昨日の試合を正確に反省する

     ことに時間を使いますか?(前半)

第 4 回 明日の試合のために時間を使いますか。昨日の試合を正確に反省
することに時間を使いますか?(前半)




島村 隆志氏
株式会社ナイキジャパン 人事本部長



【ナビゲーター】
楠田祐(戦略的人材マネジメント研究所 代表)


島村 隆志(しまむら たかし)氏 プロフィール
1987 年大学卒業後、 商事株式会社入社。
                            JFE       鋼管部にて5年間鉄鋼




の営業を担当後、人事部へ異動。採用・研修に3年間従事した後、労政・海外人事・給与厚
生・総人件費担当。
1996 年株式会社ジュピターテレコムへ入社し、経営企画室人事課長として会社の立ち上げ
を組織人事面からサポート。
1999 年株式会社ユー・エス・ジェイ(ユニバーサルスタジオジャパン)へ入社し、人材開
発課長として主に採用・人材開発・外国人マネジメント面からテーマパークの立ち上げを
サポート。
2002 年より人事部長。
2006 年株式会社ナイキジャパンへ入社し、人事本部長。
2009 年よりナイキ本社、タレントアクイジション(人材スカウト)部門アジア太平洋地区
統括本部長を兼務、現在に至る。




新しい価値を常に世の中に提供し続けているNIK E。その日本本社で、HRのトッ
プを務める島村氏。現在は人事本部のトップであるだけではなく、米国本社組織にお
いて、アジア地域のタレントアクイジション(人材スカウト)部門の統括本部長も
兼任しています。NIKE Japan における組織開発や人材開発から、グローバル人材に
必要な考え方まで、豊富な経験に基づいた具体的なお話を伺いました。




HRも、Inspiring で Innovative であることが求められる。

【楠田】 
今日は、NIKE Japan の HR 部門のヘッドである島村さんに、NIKE における Human Resource
Management の考え方と実践について伺いたいと思います。最初に、NIKE という会社につい
て教えていただけますか?


【島村】
はい。まず、NIKE の Culture について簡単にご説明します。NIKE のミッションの核となるの
は、Inspiration & Innovation です。この言葉はあらゆる場面で顔を出します。世界のトップが
リーダーシップやマネジメントの話をするときから、マネジャーが部下にメールを出すと
きまで、”We are inspiring and innovative company”という趣旨の一文が必ずといっていいほど
入っています。


例えば、商品開発でも、Inspiring で Innovative なものをいかに世の中に提供していくかとい
うことが、コンセプトの中心になります。2006年に発表した NIKE+というシステムがあ
ります。専用のセンサーをシューズに装着して走ると、ワイヤレスでその情報が iPod Nano
やスポーツバンドに転送され、ペース、距離、消費カロリーがわかります。そしてその情報は、
コンピュータを通じて世界中のランナーと共有することができる。どこにいても、誰とでも
バーチャルに競争することができるというわけです。


また、テニスウエアやトレーニングウェアでも、アスリートのパフォーマンスを高めるため
に、プレー中熱を発散させて体温調節を助けるというテクノロジーを開発しました。しかも、
見た目が魚のウロコにそっくりで、機能デザインとしても優れています。


ただ機能だけが優れているとか、見た目が格好いい・奇抜ということでは不十分で、ユーザ
ーの使用場面が総合的に考えられていて、しかもこれまでに見たことがないようなものを
提供し続ける。刺激的で革新的であることを常に求められているのです。


そして、もうひとつ。Maxim という、いわゆる社是・行動指針に 「NIKE is Growth Company 」
                                、
「We are on the offence always」というフレーズがあります。
                                          「ナイキは成長し続ける」
                                                     「守り に
入らない」ということです。成長がない、現状維持ということは、結局は後退しているという
ことだ、という認識がとても強い。アスリートの世界がそうですよね。
                               「ここまでできたか ら、
まあこのあたりでいいか」などと考えてしまったら、必ず競争相手に負けてしまう。だから 、
Growth(成長)、Offense(攻撃)を企業文化の中に組み込む努力をしています。


そして、皆さんがご存じの「Just do it」 簡潔に日本語にすれば
                        。          「あれこれ難しく理屈を考え る
前に動く」ということですよね。理論も大事だけれど、まずは Trial & Error でやっていかない
と前に進めないと。


こうした考え方の実践については、サポート部門、HR だからといって例外として扱われる
わけではありません。我々も、Inspiring and Innovative であることを求められますし、Growth
や Offense を意識し続けなければならないし、あれこれ言っているばかりでなく、まずは前
進することを期待されています。
たとえ業績があまり振るわないときでも「世界の経済状況が悪いから仕方ないね」などと足
踏みしていることは絶対に許されません。Innovative に考えて offensive に Just do it、と言われ
ますね(笑)。


「人事制度」「研修制度」など、「制度」という言葉は敢えて使わな                           い

【楠田】
そうした企業文化が、会社全体で徹底しているわけですね。そんな中で、NIKE の人事の特徴
はありますか?


【島村】
そもそも NIKE Japan では、「人事制度」とか「研修制度」という言葉は一切使いません 。


【楠田】
え、人事制度や研修制度がない、ということですか?


【島村】
というよりは考え方の問題で、
             「制度」と言った瞬間に、仕組みが固定されてしまうイメー ジ
を嫌っている、ということになるでしょうか。特にサポート部門では、制度ができた時点で
すべてが完成したように思ってしまう傾向があります。制度はあくまで箱であって、それが
できたことはあくまでスタート。その中身を運用しながらブラッシュアップしていき、どの
ようにビジネスや社員個人の成長を助けるように影響させるかが本来の目的であることを
忘れないために、敢えて「制度」という言葉を使わないように意識しているのです。


【楠田】
それは米国企業特有の考え方?


【島村】
そんなことはないと思いますね。私は、日本企業、日本と米国の合併企業、そして米国の企業
を経験していますが、NIKE 的な考え方だと思います。


自分の経験を通じて強く感じるのですが 「制度」を作るということにフォーカスしてし ま
                  、
うと、実際にビジネスや社員個人の成長に貢献しないようなものを作り込んでいってしま
いがちです。ですから、人事制度とか研修制度という言葉・枠組みにとらわれないで、その
中身は何か、目的は何なのか、という意識を常に持ち続けるように心がけています。
NIKE も含め、米国の企業では、Organizational Development(OD:組織開発)とか 、
Organizational Effectiveness(OE:組織効果)といった言葉が使われますが、これも言葉だけ
に引きずられてしまって、変化していくものとして中身を捉えなくなったら同じことだと
思います。ともすると、わかった気になって OD、 と簡単に使ってしまいますが、
                        OE             実は、人
や企業によってイメージが異なっていることが少なくなく、定義が難しい言葉・概念です。
これらを固定的に考えてしまうと、
               「制度」と同じく、ビジネスへの貢献から離れていって し
まう危険性があると思います。


【楠田】
島村さんが考える、OD、OE というのは?


【島村】
OD というのは、基本的に、組織のビジネスに対する影響力(OE)を増やす活動です。ただし、
その範囲についてはいろいろな考え方があって、例えば、Leadership Development といった、
人材の要素を初めから狭義の OD の概念の中に入れて考える人もいるようです。ただ、私は
そこまで拡げずに、まずは「ビジネスに良いインパクトを与えるために組織がどのように効
果的に働くか」を実現していく活動と捉えるようにしています。そのために組織をどうデザ
インしていくか、その組織をどう運用していくか、組織にいる Talent をどう生かしていくの
か、チームの組合せはどういうときに効果が上がるか、組織の Culture をいかに築いていくか。
そういったことを考え実行していくのが OD であり、その結果として OE を上げていくこと
ができると考えています。


そうしたことがうまく回るようになれば、Organizational Capability(組織の能力)は上がり、
その結果としてリアルで良質な Leadership を開発できる環境が形成される。そこで育成され
た Leadership が OD を活性化させて OE を押し上げていく。こうした好循環が、Spiral Up して
いく状況を作っていくことが、広義の OD なんだろうと思いますね。


重要なのは、 とか OE、
      OD     Leadership といったものが単体で存在するわけではなく、それぞれ
が有機的に関係し合ってビジネスのプロセスに影響を与え、結果にインパクトを与えてい
くということを認識、理解すること。その中で、何故 HR という組織が存在し、どのように関
わっていくべきかと考えていくことが大事だろうと思います。


中長期目標達成のための最初のステップは、そのE na blerとしての
「人と組織」の開発
【島村】
また、NIKE Japan の特徴としては「人と組織」
                     、     がビジネス目標達成のなかの重要な要素 と
して組み込まれているということではないかと思います。


どの企業でも、中期経営計画、長期経営計画というものがあると思いますが、NIKE Japan の
場合、最初の項目に人と組織に関する項目が出てきます。例えば、
                             「いついつまでに売り上 げ
をこのレベルまで持っていく」という目標があったとします。それを達成するための最初の
ステップは、多様性のあるリーダーと組織を創造・開発することです。Marketing や Sales の
前に、
  「人と組織」が出てくるのです。何をするにしても 、Foundation(基礎・基盤)としての
人や組織がなければ、実際には実行に移せないでしょう?と考えるからです。


【楠田】
マーケティングやセールスではなく、人と組織が先にくるのですか。日本企業で「人と組織」
を戦略マップ上そこまで明確に、高い位置付けにしているケースは少ないですよね。


【島村】
他の企業について詳しく知っているわけではありませんが、人事部門の目標が中長期計画
の一番末尾にくっついている、というパターンは多いように思いますね。でも、そうだとし
たら、人と組織がビジネスの最大の「Enabler」 という位置づけになっていないということ
                         だ、
ですよね。


【楠田】
「Enabler」とは?


【島村】
ビジネスを遂行することを可能にする機能・要素、ということになるでしょうか。人や組織
を、ビジネス中でそのように位置づけていないと、例えば Talent Management や人事異動と言
っても、単に個人レベルの話で終わってしまう可能性が非常に高くなると思います 「○○ さ
                                     。
んは、何年入社だけれど飛び級して一番の出世頭だ」 、
                        とか「○○さんは栄転で、あの部署に 抜
擢された」とか。そこには、
            「それが具体的にビジネスとそのタレントの成長にどういうイ ン
パクトがあるのか」という発想が入っていないですよね。


【楠田】
それは、グローバルで統一された考え方ですか?
【島村】
「人と組織」を意識的に重要視しているのは、日本で決めたことです。ただ、具体的な表現方
法は異なっても「人と組織」
       、     がビジネス の Enabler であり、非常に重要だという認識は世界
で共通しています。例えば、Vice President レベルから中堅の Manager まで、目標管理システム
の中に必ず人と組織に関する項目が入っています。つまり、売り上げ目標などの、他の目標
を結果として達成することばかりが大切なのではなく、人と組織についてのマネジメント
も同様に成果をあげていることが評価される、というメッセージが、ゴール(目標)設定や評
価に組み込まれているということです。


【楠田】
それは徹底していますね。


【島村】
はい。そこはトップがコミットして決めていますから。そういう意味では、人事が戦略的に
動きやすい環境だと思います。


【楠田】
確かに、人事の目標が計画の一番下に書いてあったら動きにくいですよね。


【島村】
ええ。そうだとしたら、人や組織の課題がどうしても日々の多忙な業務の中で埋もれてしま
い、優先順位が下がってしまうと思いますよ。人事が何か人や組織、ひいてはビジネスにと
って効果やバリューのあることをしようとしても「面倒」 「ただでさえ忙しいのに、 ま
                      、   とか
た時間の取られるプロセスをつくって」とかね(笑)。確かに面倒なことも多いかもしれな
いし、きれいなプロセスばかりで内容が伴っていないものには本当に気をつけないといけ
ないけれど、優先順位が上の方にありますから、効果のあるものについては、面倒だとか時
間がないという理由で嫌とは言えない。これは、以前日本企業で働いていた経験と比較する
と本当に違うところの一つだと思います。


もちろん、ここで我々人事が、
             「制度=箱」を作るのではなくて「中身」を提供していく、 れ
                                        そ
らをビジネスにインパクトを与えるという発想で運用していく、という意識を持ち続ける
ことが大前提だと思います。そうしないと人事が単なる権威主義に陥って、ビジネスの最前
線のラインが無駄なことに時間をかけることになってしまいますから。難しいところもあ
りますが、今はその2つがうまくかみ合っているのではないかと思いますね。


Talent Management には、「統合」という考え方が重 要
【楠田】
さきほど、Talent Management という言葉が出てきました。最近、日本でも Talent Management
という言葉が使われるようになりましたが、NIKE における Talent Management の特徴はあ
りますか?


【島村】
Talent Management とは、人材のポテンシャルを高めて、その持てる力を十分に活用していく
ことだと思いますが、NIKE の中では、Integrated Talent Management(ITM)という考え方を
持っています。これには2つの意味があります。


まず、一定の Job Band(職位等級)以上の人は、グローバル共通の人材として扱われ、所属し
ている国や地域に関係なく、統一したかたちで Talent Management が行われます。これが一つ
目の「Integration」(統合)。


その職位等級に達するまでに国や地域内で行われる Talent Management も含め、教育、コーチ
ング、ローテーションといった、教育・育成に関わるそれぞれのファンクションをバラバラ
に行うのではなく、ひとつのプログラムとして統合しておこなっていく、ということ。これ
が二つ目の「Integration」です。


例えば人事異動では、事業部長が「○○さん、そろそろ違う種類の仕事にチャレンジした方が
いいよね」と言っていて、それとはまったく関係ないところで、人材開発部が「この研修に○○
さんに出てもらおうか」と相談している、そして直属の上司は、
                            「最近どう?将来どんな仕 事
に就きたいと思っているの?」といった面談を行っている。そして、それらの情報がほとん
どリンクしていない。結構ありがちではないですか?人事制度を運用している部署と、教育
研修の部署が別々という会社も少なくないですからね。でも、これでは一人のポテンシャル
を総合的に引き上げていくことは難しいと思います。少なくとも、非常に非効率的です。


ただ、我々が行っている ITM は新しい考え方ではないと思います。多分、日本の大企業でも、
高度成長期あたりでは、こういうことが自然にできていたんだと思います。ただ、意識しな
いでできてしまっていたから、何かひとつの歯車が狂ったときに、~それが内容を理解しな
い形だけの「成果主義」の導入だったのかもしれませんが~、うまく修正できなかったとい
うことなのだろうと思います。


日本を「輸出」し、海外を日本に「輸入」する試みを
【楠田】
NIKE Japan における「人と組織」に対する考え方がわかりました。次に、グローバル企業の中
の日本という視点でお話を伺いたいと思います。


【島村】
はい。グロ―バルという視点で見たとき、外資系であれ日本の企業であれ、 としての課題
                                  HR
は、日本の人材をいかに国際化・グローバル化していくか、ということだと思います。NIKE
JapanのHRの課題も同じです。


【楠田】
外資系でもまだまだ国際化・グローバル化していない?


【島村】
残念ながらまだ十分には。日本は、まだまだ「Super Unique Country」ということで下駄を履か
せてもらっているところがどこかあります「日本はユニークだ」
                   。         ということで、長い間、 贔
屓されてきてしまった「日本はあまりに違うので、
          。            わからない。わからないから、わかっ て
いる日本人に任せておくしかない」といった感じでしょうか。


ただ、2008年秋のリーマンショック以降、そうした考え方が急速に変化しているのを感
じています。中国のプレゼンスが益々大きくなってきていますし、アセアンの国々も成長し
てきています。また、消費者の感覚もボーダレスになってきている。日本がその独自性を売
りにすることがしづらい状況になってきているのです。組織構造上も、グローバル組織の一
部としてマネジメントから直接見られる位置づけに変わってきています。そこで、日本の人
と組織の Globalization ということが大きな課題になってきました。


具体的には、グローバル人材の開発、日本からの「輸出」と日本への「輸入」を強化する必要が
あると思っています。日本の Talent がグロ―バルで通用しないと、もはや総合的な Talent
Planning もできないし、そうなるとビジネスの目標を実現していく基盤や Enabler が機能し
ていけない状況にまでなってしまいます。


【楠田】
そうしたことは、2008年くらいから?


【島村】
そうですね。組織構造やプロセスが変わり始めたのが2008年ですから、そのとき真剣に
考えました「このことは、
     。      日本にとって何を意味するのだろうか」と。そこで出た結論は 、
「日本はこのまま放っておいたら置いていかれる」ということでした。


そこで、 、
    まず 「Export」 とにかく日本人を外に出す、
               。             無理してでも海外で働く機会を提供 す
ることにしています。


英語がある程度できたなら、あとは向こうで実践を通じて覚えればいい。要は中身だ、と割
り切って積極的に日本人を海外に出すようにしています。彼ら・彼女らには、こういって送
り出すんです「グローバルの世界では、
      。           日本人 が Second Language として英語を話している
ことは誰もが百も承知しているので、言葉で完璧であろうとする必要はない。ただし、中身
をきっちり伝えるように強く意識して自信を持って臨んでほしい」と。


私は、外国人が日本人はユニークだと思ってきたことには根拠があると思っています。実際
にグローバルで仕事をするなかで、我々が他の国の人たちにはない独自の視点を持ってい
ると感じることが少なくありません。ただ、多くの日本人はそれを自覚していないし、語学
のコンプレックスが邪魔をして、きちっと伝えられていないことが多いのです。


一方で、西欧の人の中にはプレゼンテーションの技術はあるけれど、内容は普通ということ
も少なくないんですよ。だから、自信をもって自分が持っているコンテンツを表現してきて
ほしいと伝えています。コンテンツの質が良ければ、必ず respect されますから。ただ、コミュ
ニケーションのスタイルが違うので、日本人に伝える時に意識的に、もしくは無意識に使っ
てしまっている前提を極力排して、詳細を事細かく説明する努力をするようにアドバイス
しています。そうすれば通用するからと。実際に海外で活躍する日本人が出てきてくれてい
ますし、少なくとも、本社での日本人社員の Visibility(見られる機会)が急速に上がってき
ていると思います。


【楠田】
ただ、海外で通用するような人材は国内でも活躍している可能性が高いと思うので、マネジ
ャーや組織のトップから 「今このタレントは出したくない」といった抵抗が出たりしな い
           、
ですか?


【島村】
通常はそういったこともあるでしょうね。ただ、先ほど申し上げたように、彼ら・彼女らの
ゴール(目標)の中に 「Succession Panning」
          、                    (後継者育成)とか「Talent Management」といった
「人を育てる」いう要素が組み込まれていますから、そこは評価に直結する仕組みで機能す
るようにしていますし、必ず同等以上のタレントを後任に充てることによってタレントマ
ネジメントの仕組みが機能するようにしています。確かにそうしたことがセットになって
いないと、社内政治に翻弄されて、本来目指すべきことを実現するのは難しいかもしれませ
んね。


【楠田】
なるほど。一方で 「Import」というのは?
        、


【島村】
Export だけですと、海外に行く機会を与えられる、限られた人しかグローバル化できません。
多くの人は日本の組織で働いているわけで、その部分のグローバル化も考える必要があり
ます。そこで、
      「海外」を日本に「Import」しています。具体的には、米国本社や西欧地域からだ
けでなく、中国や香港、その他のアジア諸国からも日本の組織に人を送ってもらい、
                                     「国連 化」
を加速することにしました。


ただ、日々の業務をしながら、言葉も文化も違う人を受け入れるのは大変なことではありま
す。また、費用増をどうするかといった問題から任用期間、雇用形態の問題等、実務的に越え
なくてはならないハードルもあります。


実は、これには、単に日本人社員のグローバル化だけではなく、ビジネスインパクトもある
と思っています。例えば、大手小売チェーン。彼らはどんどん中国や他のアジア諸国に進出
しています。そこでは、既に日本と現地の購買が連携していて、当然こちらも日本と現地が
連携したかたちでのビジネスをしていくことになる。そうなると、日本の中に現地の消費セ
ンスを理解できる人がいる意味は大きいわけです。


後半に続く(後半は2010年11月11日公開予定です)


<後半の内容>



グローバル人材とは、多様な環境で確実にパフォーマンスを出せる人
「ベンチの厚さ」が、変化する環境に強い組織を作る
人の育成は、70・20・10の割合で
「明日の試合のために時間を使いますか。昨日の試合を正確に反省することに時間を使いま
すか?」
次世代リーダー候補に必須な、Learning Ability, Learning Agility
店舗のアルバイトが、商品開発のグローバルのヘッドに
役員・部長クラスの仕事からオペレーション実務の仕事、修羅場まで、様々な場面を無理を
してでも経験せよ


(2010年8月/




第 4 回 明日の試合のために時間を使いますか。昨日の試合を正確に反省
することに時間を使いますか?(後半)
島村 隆志氏
株式会社ナイキジャパン 人事本部長



【ナビゲーター】
楠田祐(戦略的人材マネジメント研究所 代表)


島村 隆志(しまむら たかし)氏 プロフィール




                1987 年大学卒業後、 商事株式会社入社。
                            JFE       鋼管部にて5年間鉄鋼




の営業を担当後、人事部へ異動。採用・研修に3年間従事した後、労政・海外人事・給与厚
生・総人件費担当。
1996 年株式会社ジュピターテレコムへ入社し、経営企画室人事課長として会社の立ち上げ
を組織人事面からサポート。
1999 年株式会社ユー・エス・ジェイ(ユニバーサルスタジオジャパン)へ入社し、人材開
発課長として主に採用・人材開発・外国人マネジメント面からテーマパークの立ち上げを
サポート。
2002 年より人事部長。
2006 年株式会社ナイキジャパンへ入社し、人事本部長。
2009 年よりナイキ本社、タレントアクイジション(人材スカウト)部門アジア太平洋地区
統括本部長を兼務、現在に至る。
新しい価値を常に世の中に提供し続けているNIK E。その日本本社で、HRのトッ
プを務める島村氏。現在は人事本部のトップであるだけではなく、米国本社組織にお
いて、アジア地域のタレントアクイジション(人材スカウト)部門の統括本部長も
兼任しています。NIKE Japan における組織開発や人材開発から、グローバル人材に
必要な考え方まで、豊富な経験に基づいた具体的なお話を伺いました。


前回の対談内容はこちらから↓
第 4 回 明日の試合のために時間を使いますか。昨日の試合を正確に反省することに時間を
使いますか?(前半)




グローバル人材とは、多様な環境で確実にパフォーマンスを出せる人

【楠田】
島村さんが考えるグローバル人材とは?


【島村】
グローバル人材というのは、結局のところ、Diverse(多様)な環境で確実にパフォーマンス
を出せる人、ということだと考えています。


もちろん、基本的な英語力は大事なのですが、そもそも日本人はコミュニケーションのスタ
イルが異なるということに自覚的であることがもっと重要だと思います。日本人は同質性
の高いコミュニティの中で、暗黙の前提でコミュニケーションすることに慣れてしまって
います。その感覚でいると、バックグラウンドの異なる人と話しても肝心なことが全く通じ
ないということが起きます。ですから、先ほど申し上げたように、
                             「何でここまで説明しな け
ればならないの?」というくらいまできっちりと説明していく癖をつけるといいと思いま
すね。そして、臆することなく自分なりの視点で意見を言っていく。そうすれば、Diverse な環
境でも受け入れられていくと思います。


また、気になるのは、グローバル人材といったとき、今だに「アメリカ化」
                                 「西欧化」だと勘 違
いしている人が多いということです。もう少し具体的に言うと、欧米的なロジカル思考を持
っている人がグローバルに通用する人で、その他は通用しない、逆にそれさえあればグロー
バルに通用すると思い込んでいる人が少なくない、ということです。それは、実は20年前
の姿だと思っています。
今、人材の強みを見る際に、Strategy(戦略立案)に強いか、Engagement(チームの人たちや
周囲の巻き込み)に強いかという見方をすることが多いのですが、従来の欧米的なロジッ
クだけで考えると、Strategy に強い人がグローバル人材の要件として適性があると考えがち
です。逆に、Engagement を重視するのは、達成志向・結果志向のプロ意識に反していてグロ
ーバル化にとってはマイナスではないか、と。


しかし、実際にグローバルで活躍している人、つまり Diverse な環境でパフォーマンスを出
している人を見ると、両方のバランスが取れているんですね。逆に、Diverse なチームの中で
脱落していくのは、実は、Strategy「だけ」の人なんです。


怖いなと思うのは、外資系企業に長くいることで、グローバル化を理解していると考えてい
る人も少なくないということです。西欧的なロジックで仕事をしていることをアイデンテ
ィティにして表層的な個人主義を崇拝し、チームに対する貢献や巻き込みを軽視するとい
った態度を取っている人もまだまだ見受けられます。そうした人たちは、次々に欧米系企業
に転職していくので、ますますその発想から抜け出せなくなる。個人的には「外資系メリー
ゴーラウンド」と呼んでいるのですが ・
                 ・ ・。そういった発想は、かえってこれからのグ ロ
ーバル化を阻害することになっていくと思いますね。


「ベンチの厚さ」が、変化する環境に強い組織を作る

【楠田】
さて、次に、Succession Planning(後継者育成)について伺いたいと思います。 日本企業で
                                              今、
は次世代リーダー育成に悩んでいるところが多いように感じています。そのあたり、どのよ
うに考えられているのか教えていただけますか?


【島村】
Succession Planning の話で必ず出てくるのが ベンチの厚さ」
                               、
                               「       を形成するということです。チ
ームスポーツの世界で、試合に出ていない選手層が厚いチームが強い、と言われることと同
様です。野球なら9人、サッカーなら11人のレギュラーメンバー以外に、どれだけの選手
を揃えることができるのか。その厚みがあるチームは、様々な状況や変化へ対応することが
できるため、強いチームとなっていく。その考え方を組織に当てはめています。


具体的に言えば、ひとつのポジションに対して、後継者候補を2名作っていくことを目指し
ています。そして、その後継者候補一人一人に対して、その後継者候補を2名作ってい
く ・・と考えていきます。
 ・           2名というのには意味があって、一人 は Strategy に強い、もう一
人は Engagement が高いといったように、異なるタイプを育てていくことで、変化に対する柔
軟性を担保していく。これも「厚さ」形成の戦略のひとつです。


たとえば役員が15名いるとします。今、そのレベルに行ける人、次世代リーダー候補を3
0名作る、その下にまた High Potential(ポテンシャル人材) な人のグループを60名作る
というぐあいに・・・。そして、役員の15名と次世代リーダー候補の30名は、グローバルタ
レントとして、常に誰かが「Export」されている状態を作るといったメカニズムを作るという
ことです。


人の育成は、70・20・10の割合で

【楠田】
後継者を作っていく、ということですが、そこでの教育・研修についてはどのような考え方
を持っていらっしゃるのですか?


【島村】
人が学習・成長をするときのリソースは、70・20・10と言われていて、我々もそれに
沿って育成を考えています。


【楠田】
70・20・10とは?


【島村】
これは、研修や書籍から学べることは10、コーチングや他人の行動から学べるのは20、
残りの70は自らの経験から学ぶ、という考え方です。ただ、実は、これは日本人にとって新
しくも珍しいものでもなくて、内容的にはそれぞれ、研修、OJT、ローテーションに当てはま
るんですよ。ただ、それを、70・20・10とわかりやすく説明して、受けている本人が今
何をしているのかを明確に意識できるようにした、という点が異なるということです。また、
これに明確な Operating Mechanism(運用の仕組み)を組み込むことが成否を分けるポイン
トでしょう。


【楠田】
具体的に Operating Mechanism とは?


【島村】
例えば、
   「20」のコーチングについて言えば、上司は1週間に一回、もしくは二週間に一回 、
必ず一対一のミーティングを部下と行うことがどの部署でも行われているような仕組みや
リズムが組織に埋め込まれているような状態のことです。それも、単に業務進捗報告を受け
るという漠然としたものではなく「今、
               、  何がキツイのか「どうやったら成功をサポート で
                         」
きるのか」
    「どのボタンを押したらやりやすくなるのか」など、次の行動につながる具体的 な
話し合いをすることが必要です。このような各論での行動の基準を持っているかどうかが、
大きな差になってくると思います。


これを 「OJT で育成していく」
   、             といった漠然とした話で終わらせてしまうと、新卒の期間だ
けの話と解釈されたり、人によっては「彼女はもう一人前だから、あとは一人で頑張らせれ
ば大丈夫」といった何となくの解釈をしてしまって、実質機能が止まってしまう危険性があ
ると思います。


こうして上司と部下の間で、具体的な話を定期的に一対一で必ず実施するということが全
社的に行われるようになると、それが組織のカルチャーになっていきます。そうなると、決
められた期間以外でも、必要に応じてそうしたコミュニケーションが取られるようになり、
組織運営の面でも持続的な強さが出てくると思います。


【楠田】
確かに、昔の日本企業ではそうしたことが自然に行われていたように思いますね。


【島村】
そうですね。 と言ったらフォーマルな感じで腹を割って話がしにくい。
      OJT                        だからといって、
飲み会だとカジュアルすぎて真剣な話がしづらい。だから、喫煙ルームでこそ、本当の話が
聞ける、なんて言われていましたよね。そんななかで、ちゃんとした上司はうまく部下の本
音を聞き出していたんでしょうけれど、今の若い人はお酒もあまり飲まないし、煙草も吸わ
ない。いろいろなことで接触機会が減っていくなかで、人工的にその世界を作っていかなく
てはならないというのが現状で、それが今我々がやっていることだと思っています。


【楠田】
島村さんご自身も上司と定期的な個別ミーティングをしているんですか?


【島村】
はい。私には2人の上司がいますが、日本の上司とは通常の業務に関するミーティング以外
に、週一回必ず一対一で、そして、米国本社にいる上司とは、週に一回電話でミーティングを
しています。このコーチングカルチャーが定着していくと、実は、パフォーマンス評価に時
間がかからないというメリットもあります。通常の査定というのは、中間評価とか期末評価
というのがあって、そのたびに社内が大騒ぎするようなところがありますよね。一旦つけら
れた評価を、部門調整にかけ、本部長調整、役員調整を通して、社長決裁まで上げていくと、
2、3カ月くらいかかったりもする。それに対して、NIKE Japan の場合は、すべてが2週間く
らいで終わってしまいます。


「明日の試合のために時間を使いますか。昨日の試合を正確に反省するこ
とに時間を使いますか?」

【楠田】
パフォーマンス評価にあまり重きを置いていない?


【島村】
そんなことはありません。しかし、毎週毎週、上司と部下は具体的な仕事や課題の話、個人の
成長に関することまで話をしているわけですから、査定だからといって、いきなり半期の業
績の棚卸をする必要はないんです。もちろん、配下の組織の評価点のバランスは確認します
が、実際にほとんど大きなぶれは見られません。


パフォーマンスを正しく評価することは大事だと思いますが、たとえば「売り上げが上位目
標に5万円足りないから評点は○○だ」といった具合に、近視眼的な正確さに多大な時間と工
数をかけすぎるのはナンセンスだとは思っています。なぜならば、パフォーマンスはあくま
でも過去のことだからです。未来のことを語るベースとなるのは、一人ひとりのポテンシャ
ルです。そちらに時間を使う方が建設的だと思いませんか?つまり 「明日の試合のため に
                              、
時間を使いますか。昨日の試合を正確に反省することに時間を使いますか」ということです。


ですから、私が Talent Management の分野で使っている時間を考えると、8:2でポテンシャ
ルに関する仕事ですね。Talent Management をちゃんとやっていこうと思ったら、こうした発
想が必要だと思います。


【楠田】
Succession Plan での具体的な育成例を伺えますか?


【島村】
実は NIKE では、生え抜きの社員がトップマネジメントに上がっていくというケースが少な
くありません。現在の CEO であるマーク・パーカーは、もともとフットウェアのデザイナー
でした。決して最初から経営のプロとして採用されたわけではありません。また、現在のリ
テール部門のヘッドは、スポーツインストラクターからスタートしています。彼らは、ある
時期にポテンシャル人材として認められ、Succession Plan に乗って、今の地位まで上がって
いっています。


彼らのように一旦ポテンシャルを認められた人材に対しては、一人一人に対して長期的な
プランを作成するんです。これは、例えば、
                   「5年後にこの人はどこにいてどんな貢献をし て
いてもらわなければいけないの?」という問いから発して、達成目標を決め、それを達成す
るために必要な経験を具体的なポジションレベルに落とし込んでいくものです。それが、先
ほどの話でいくと、70の「経験」の部分。それに合わせて、20の「コーチング 、
                                     」 10の 研
                                          「
修・学習」のプランを立てていきます。


【楠田】
これはまったく一人一人に対して個別の作業なんですか?パターンなどはない?


【島村】
まったく、個別です。マネジメントグループと HR で決めていきます。


【楠田】
マネジメントグループと HR が、テーラーメイドで決めていく、と。


【島村】
はい、まさにテーラーメイドで。先ほど、
                  「ベンチの厚さ」のお話をしたときに、たとえとし て、
役員レベルに上がる可能性のある次世代リーダー候補を30人作るという話をしましたね。
このたとえでは、30通りのテーラーメイドのキャリアプランを作っていくということに
なります。これはまさに、ポテンシャルをどんどん引き出して更に上げていく作業。8割の
時間が必要だという理由をご理解いただけると思います。


【楠田】
それが NIKE の強さの根源なんですね。しかし、例えば5年というのは、今のビジネスのスピ
ード感からいくとずいぶん先のこと、という感じがあります。おそらく誰も5年先のことな
ど確約できないのではないかと思いますが ・ 。
                   ・ ・


【島村】
おっしゃる通りだと思います。これは会社として5年先を約束する、ということではありま
せん。5年後に、会社が期待する成長と、本人が目指したいことをすり合わせて、明文化し、
実行に移していくということです。実際に、毎年毎年見直します。一回決めたら固定される
ものではないのです。
【楠田】
毎年見直しが入るわけですね。それで理解できました。


【島村】
ただし、テーラーメイドのディベロップメントプランを立てる中で、勤務地(国)が変わる
ような場合には、いつ戻ってくるかという点については契約できちんと決めるようにして
います 「Repatriate(本国への帰任)がない、
   。                       Expatriate(海外赴任)はない」というのが原則
です。つまり、Expatriate(海外赴任)は、Repatriate(帰任)後に会社が本人にどのような期
待をするか、それに対するディベロッププランとして海外でどのような経験を積む必要が
あるのか、という位置づけにしているということです。逆に、帰任後に向けてのディベロッ
プメントと位置づけない海外勤務もあり、その場合は「海外への人事異動」ということで
「Expatriate(海外赴任)」とは区別して、勤務地(国)のローカル社員として位置づけられ
ます。


【楠田】
日本の企業を見ていると、そこがあいまいなケースが多いですよね。海外に駐在員として赴
任したはいいけれど、戻ってきたときにポジションがなかったという話を、残念ながらよく
聞きます。NIKIE ではそのあたりの仕組みがきちっとできているから、総合的な Talent
Management ができるのでしょうね。


【島村】
勤務地(国)の問題を除けば、毎年見直しが入るわけですが、それは個々人のキャリアプラ
ンだけではありません。5 year aimed role & Development Plan の対象となりうるポテンシャ
ル人材であるか、Talent Pool 自体にも見直しがかかります。


【楠田】
「ベンチ」の入替があるわけですね。


【島村】
はい。ビジネスの状況とその変化に応じた組織力・リーダーシップを先行確保するために、
そのあたりは、かなりシビアに見ています。


次世代リーダー候補に必須な、Learning Ability, Learning Agility
【楠田】
ただ、そもそも誰に高いリーダーシップポテンシャルがあるのかを判断することは難しく
はありませんか?


【島村】
おっしゃる通りです。言葉として条件を上げていくと、多分どこの企業でも当てはまるリー
ダーシップ像になってしまうと思います。ですから、そうした項目をチェックリスト的に使
って、一番チェックの多い人をピックアップするという方法は取りません。現実的ではない
ですからね。実際には各部門と人事でポテンシャルを見る視点やレベル感を合わせながら、
最終的には高いレベルでポテンシャルに対する信頼性を得られている候補を常にリストア
ップしています。


ただし、必ずチェックをするのが、Learning Ability, Learning Agility(学習能力・学習機敏性)
です。学習能力が高い人は、リーダーシップに必要な要素を後からでも吸収していけるんで
すよね。ですから、最終的に選抜する際には、その人の Learning Ability, Learning Agility のレ
ベルを必ずしっかりと確認します。 、 この人は 、 Description(決められた職務記述書)
                また「      Job
の内容の範囲で仕事をしたい人なのか、それを自分から越境していきたい人なのか」を確認
します。自ら越境していきたい人でないと、新しいことを学習しようなんて思わないですか
らね。


また、少し違った観点からポテンシャル人材を考えてみると、そこにもヒントがあります 。
Leader として期待されていた人物が脱落してしまう時というのは、High Performer がそのま
ま Leader になろうとしているケースが多いんですね。そういう人は、自分がずっと High
Performance を達成してきたからか、他人に求めるレベルの高さが程度を超えて上がってい
る場合や、どのように仕事を進めていくかとか、遂行していくかという「How」ばかりに気を
取られすぎて、どうやってチームメンバーを engage させて、drive し、チームとして結果を出
させていくかという視点を持てない場合が多いんです。どうしても、how から what という発
想に行けない。ポテンシャル人材を考えたときには、こうした点も重要な要素になってくる
と思います。


店舗のアルバイトが、商品開発のグローバルのヘッドに

【楠田】
ここで日本での採用についてお伺いしたいのですが、NIKE Japan では、新卒4月1日正社員
採用は実施しているんですか?
【島村】
現在、基本的には、新卒4月1日入社のための採用は行っていません。 、
                                ただ「結果新卒」 い
                                        と
うのはあります。


【楠田】
結果新卒?


【島村】
NIKE Japan では直営の小売店を持っているので、そこで働いている学生アルバイトも少な
くありません。そのなかで、たまたま大学3年の終わりを迎えた学生で、実績を上げている
し、将来のポテンシャルも見えるという人がいた場合は、彼ら・彼女らが大学を卒業するの
を待って正式採用ということもあります。これが「結果新卒」ですね。


例えば、現在、あるスポーツカテゴリーのフットウェアの商品開発のグローバルのヘッドは
日本人なのですが、彼は、国内のある店舗のアルバイトからスタートしたのです。


彼はとにかくシューズが好きで、店でも頭角を現して、先ほどいった「結果新卒」として
NIKE Japan に入社しました。その後、Job Posting(社内公募)で、Sample Coordinator という
仕事に自ら手を上げて、その店舗から日本の本社に異動しました。Sample Coordinator という
のは、商品開発を行うときのテストに使われるサンプルを準備する役割で、コアの仕事では
ありませんが、靴の開発の近くにいることができるポジションです。彼はその中で学んだこ
とを基に、新商品に対する自分の意見を表明するようになり、そのクリエイティブなアイデ
アが認められて、まず、狭いラインの商品開発のマネジャーに抜擢されます。その後、ポテン
シャル人材として長期のキャリアプランを与えられ、様々な経験を経て、2年前に米国本社
の今のポジションに就いたのです。


【楠田】
総合的な Talent Management が実際に機能して、ポテンシャル人材を花開かせているんです
ね。すばらしい。


それにしても、これまでの島村さんの発言を伺っていると、 「人事部長」
                           単に     というよりは、
完全にビジネスパートナーとして発想していますよね。それはどういうところからきてい
るんでしょう?


【島村】
まずは最初にお話した NIKE の文化の影響が大きいと思います。それに加えて、個人的に私
がもともと商社の営業からキャリアをスタートさせたから、ということも影響しているか
もしれませんね。5年間、鉄鋼部門で国内外の単位の大きい取引に携わっていました。その
商社でその後、海外人事および労務担当に異動しました。そこでは全社にまたがる大きな経
営課題との接点も多かったことも、今の視点を持つきっかけになっているのかもしれませ
ん。


【楠田】
ここで、島村さんご自身が日常どんな風に海外の上司・同僚と仕事をしているのか、お聞き
したいと思います。


【島村】
私の同僚になるのは、中国やヨーロッパなど各地域の HR のヘッドと、 Function、
                                  各         マーケテ
ィングやリテール部門などの HR のトップです。このグループは、Quarter に一回本社に集ま
ってグローバルHRリーダーシップミーティングを持ちます。そのほか、このグループでは、
2週間に一回テレコンファレンスを行っています。


【楠田】
そこではどんな話をするのですか?


【島村】
多岐に渡りますね。Talent Management の話もありますし、具体的な組織の話がでることもあ
ります。


詳細にはお話できませんが、例えば、ある function の組織が成長戦略に対して十分 Effective
じゃないのでは?という問題提起がされて、それについて話し合うといった感じです。どこ
がボトルネックになっていて、どのようにそれを解消できて、何が変化のレバーになるのか
など、具体的に問題点をさぐり、解決策を考えていくこともあります。


また、ある国での Compensation(報酬)レベルが十分競争力を持っているのかという課題が
上がったこともあります。今よりかなり多く報酬を払わないと優秀な人材が流出してしま
う恐れがあると。ではどのレベルだったら流出しないのか。そもそも本当に報酬レベルの問
題なのか。など、様々なバックグラウンドと経験を持つ専門家が意見を出し合います。


私は、現在 NIKE Japan の HR のヘッドの他に、Talent Acquisition(人材スカウト)部門のアジ
アチームのヘッドも兼任しているのですが、こちらも2週間に1回、同様のテレコンファレ
ンスを行っています。
それから、先ほど申し上げたように、アメリカの上司と、週に一回のミーティングを、これも
電話で行っています。


役員・部長クラスの仕事からオペレーション実務の仕事、修羅場まで、様々
な場面を無理をしても経験せよ

【楠田】
思った以上に海外の同僚たちと頻繁にコミュニケーションを取っているのですね。では最
後に、島村さんから、20代、30代のビジネスパーソンにメッセージがあればお願いしま
す。


【島村】
20代、30代ということでしたら、無理をしてでも役員・部長クラスの仕事からオペレー
ション実務の仕事まで、多岐にわたった業務を経験した方がいいと思います。


役員・部長クラスの仕事というのは、ビジネスにインパクトを与えるような、全社的なプロ
ジェクトといったイメージです。同時に、オペレーション実務、例えば人事業務で言うなら
ば、ペイロールのような仕事も経験しておいた方がいいと思っています。役員・部長クラス
の仕事を経験すると 「そんなルーティン業務はやりたくない」と考えてしまう人もいる よ
         、
うですが、プロになっていきたいなら、あらゆる仕事を無理にでも経験するくらいの気持ち
が大事だと思います。


というのは、そうした経験を積んでいると、実際に役員・部長クラスのポジションに就いて
から問題に直面したときに、どこが本当に現実的に解決できるポイントかが見えるんです。
それが見えないと全体をダイナミックにドライブできないし、そうしないとビジネスにイ
ンパクトがある仕事ができないと思います。ですから、えり好みせずに、とにかく広く経験
することを意識した方がいいいと思います。


また、あるときブレイクスルーした人を見ていると、必ず Tough Experience、修羅場を乗り
越えていますよね。海外駐在をして誰にも助けてもらえない状態で新しい拠点を作ったと
か、関係会社を閉めにいったとか。そういう状況を、歯を食いしばって乗り越えてみると、気
がつかないうちに成長しているものです。是非できるだけ若いうちに、そうした経験ができ
る機会を、無理をしても取りにいってほしいですね。


【楠田】
本日はどうもありがとうございました。
(2010年8月/構成・文:インフォテクノスコンサルティング株式会社 大島由起子)

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201009 破壊と創造の人事Final

  • 1. 人材・組織システム研究所 TOP • 特別対談 • 第 4 回 明日の試合のために時間を使いますか。昨日の試合を正確に反省する ことに時間を使いますか?(前半) 第 4 回 明日の試合のために時間を使いますか。昨日の試合を正確に反省 することに時間を使いますか?(前半) 島村 隆志氏 株式会社ナイキジャパン 人事本部長 【ナビゲーター】 楠田祐(戦略的人材マネジメント研究所 代表) 島村 隆志(しまむら たかし)氏 プロフィール
  • 2. 1987 年大学卒業後、 商事株式会社入社。 JFE 鋼管部にて5年間鉄鋼 の営業を担当後、人事部へ異動。採用・研修に3年間従事した後、労政・海外人事・給与厚 生・総人件費担当。 1996 年株式会社ジュピターテレコムへ入社し、経営企画室人事課長として会社の立ち上げ を組織人事面からサポート。 1999 年株式会社ユー・エス・ジェイ(ユニバーサルスタジオジャパン)へ入社し、人材開 発課長として主に採用・人材開発・外国人マネジメント面からテーマパークの立ち上げを サポート。 2002 年より人事部長。 2006 年株式会社ナイキジャパンへ入社し、人事本部長。 2009 年よりナイキ本社、タレントアクイジション(人材スカウト)部門アジア太平洋地区 統括本部長を兼務、現在に至る。 新しい価値を常に世の中に提供し続けているNIK E。その日本本社で、HRのトッ プを務める島村氏。現在は人事本部のトップであるだけではなく、米国本社組織にお いて、アジア地域のタレントアクイジション(人材スカウト)部門の統括本部長も 兼任しています。NIKE Japan における組織開発や人材開発から、グローバル人材に 必要な考え方まで、豊富な経験に基づいた具体的なお話を伺いました。 HRも、Inspiring で Innovative であることが求められる。 【楠田】  今日は、NIKE Japan の HR 部門のヘッドである島村さんに、NIKE における Human Resource Management の考え方と実践について伺いたいと思います。最初に、NIKE という会社につい て教えていただけますか? 【島村】 はい。まず、NIKE の Culture について簡単にご説明します。NIKE のミッションの核となるの
  • 3. は、Inspiration & Innovation です。この言葉はあらゆる場面で顔を出します。世界のトップが リーダーシップやマネジメントの話をするときから、マネジャーが部下にメールを出すと きまで、”We are inspiring and innovative company”という趣旨の一文が必ずといっていいほど 入っています。 例えば、商品開発でも、Inspiring で Innovative なものをいかに世の中に提供していくかとい うことが、コンセプトの中心になります。2006年に発表した NIKE+というシステムがあ ります。専用のセンサーをシューズに装着して走ると、ワイヤレスでその情報が iPod Nano やスポーツバンドに転送され、ペース、距離、消費カロリーがわかります。そしてその情報は、 コンピュータを通じて世界中のランナーと共有することができる。どこにいても、誰とでも バーチャルに競争することができるというわけです。 また、テニスウエアやトレーニングウェアでも、アスリートのパフォーマンスを高めるため に、プレー中熱を発散させて体温調節を助けるというテクノロジーを開発しました。しかも、 見た目が魚のウロコにそっくりで、機能デザインとしても優れています。 ただ機能だけが優れているとか、見た目が格好いい・奇抜ということでは不十分で、ユーザ ーの使用場面が総合的に考えられていて、しかもこれまでに見たことがないようなものを 提供し続ける。刺激的で革新的であることを常に求められているのです。 そして、もうひとつ。Maxim という、いわゆる社是・行動指針に 「NIKE is Growth Company 」 、 「We are on the offence always」というフレーズがあります。 「ナイキは成長し続ける」 「守り に 入らない」ということです。成長がない、現状維持ということは、結局は後退しているという ことだ、という認識がとても強い。アスリートの世界がそうですよね。 「ここまでできたか ら、 まあこのあたりでいいか」などと考えてしまったら、必ず競争相手に負けてしまう。だから 、 Growth(成長)、Offense(攻撃)を企業文化の中に組み込む努力をしています。 そして、皆さんがご存じの「Just do it」 簡潔に日本語にすれば 。 「あれこれ難しく理屈を考え る 前に動く」ということですよね。理論も大事だけれど、まずは Trial & Error でやっていかない と前に進めないと。 こうした考え方の実践については、サポート部門、HR だからといって例外として扱われる わけではありません。我々も、Inspiring and Innovative であることを求められますし、Growth や Offense を意識し続けなければならないし、あれこれ言っているばかりでなく、まずは前 進することを期待されています。
  • 4. たとえ業績があまり振るわないときでも「世界の経済状況が悪いから仕方ないね」などと足 踏みしていることは絶対に許されません。Innovative に考えて offensive に Just do it、と言われ ますね(笑)。 「人事制度」「研修制度」など、「制度」という言葉は敢えて使わな い 【楠田】 そうした企業文化が、会社全体で徹底しているわけですね。そんな中で、NIKE の人事の特徴 はありますか? 【島村】 そもそも NIKE Japan では、「人事制度」とか「研修制度」という言葉は一切使いません 。 【楠田】 え、人事制度や研修制度がない、ということですか? 【島村】 というよりは考え方の問題で、 「制度」と言った瞬間に、仕組みが固定されてしまうイメー ジ を嫌っている、ということになるでしょうか。特にサポート部門では、制度ができた時点で すべてが完成したように思ってしまう傾向があります。制度はあくまで箱であって、それが できたことはあくまでスタート。その中身を運用しながらブラッシュアップしていき、どの ようにビジネスや社員個人の成長を助けるように影響させるかが本来の目的であることを 忘れないために、敢えて「制度」という言葉を使わないように意識しているのです。 【楠田】 それは米国企業特有の考え方? 【島村】 そんなことはないと思いますね。私は、日本企業、日本と米国の合併企業、そして米国の企業 を経験していますが、NIKE 的な考え方だと思います。 自分の経験を通じて強く感じるのですが 「制度」を作るということにフォーカスしてし ま 、 うと、実際にビジネスや社員個人の成長に貢献しないようなものを作り込んでいってしま いがちです。ですから、人事制度とか研修制度という言葉・枠組みにとらわれないで、その 中身は何か、目的は何なのか、という意識を常に持ち続けるように心がけています。
  • 5. NIKE も含め、米国の企業では、Organizational Development(OD:組織開発)とか 、 Organizational Effectiveness(OE:組織効果)といった言葉が使われますが、これも言葉だけ に引きずられてしまって、変化していくものとして中身を捉えなくなったら同じことだと 思います。ともすると、わかった気になって OD、 と簡単に使ってしまいますが、 OE 実は、人 や企業によってイメージが異なっていることが少なくなく、定義が難しい言葉・概念です。 これらを固定的に考えてしまうと、 「制度」と同じく、ビジネスへの貢献から離れていって し まう危険性があると思います。 【楠田】 島村さんが考える、OD、OE というのは? 【島村】 OD というのは、基本的に、組織のビジネスに対する影響力(OE)を増やす活動です。ただし、 その範囲についてはいろいろな考え方があって、例えば、Leadership Development といった、 人材の要素を初めから狭義の OD の概念の中に入れて考える人もいるようです。ただ、私は そこまで拡げずに、まずは「ビジネスに良いインパクトを与えるために組織がどのように効 果的に働くか」を実現していく活動と捉えるようにしています。そのために組織をどうデザ インしていくか、その組織をどう運用していくか、組織にいる Talent をどう生かしていくの か、チームの組合せはどういうときに効果が上がるか、組織の Culture をいかに築いていくか。 そういったことを考え実行していくのが OD であり、その結果として OE を上げていくこと ができると考えています。 そうしたことがうまく回るようになれば、Organizational Capability(組織の能力)は上がり、 その結果としてリアルで良質な Leadership を開発できる環境が形成される。そこで育成され た Leadership が OD を活性化させて OE を押し上げていく。こうした好循環が、Spiral Up して いく状況を作っていくことが、広義の OD なんだろうと思いますね。 重要なのは、 とか OE、 OD Leadership といったものが単体で存在するわけではなく、それぞれ が有機的に関係し合ってビジネスのプロセスに影響を与え、結果にインパクトを与えてい くということを認識、理解すること。その中で、何故 HR という組織が存在し、どのように関 わっていくべきかと考えていくことが大事だろうと思います。 中長期目標達成のための最初のステップは、そのE na blerとしての 「人と組織」の開発
  • 6. 【島村】 また、NIKE Japan の特徴としては「人と組織」 、 がビジネス目標達成のなかの重要な要素 と して組み込まれているということではないかと思います。 どの企業でも、中期経営計画、長期経営計画というものがあると思いますが、NIKE Japan の 場合、最初の項目に人と組織に関する項目が出てきます。例えば、 「いついつまでに売り上 げ をこのレベルまで持っていく」という目標があったとします。それを達成するための最初の ステップは、多様性のあるリーダーと組織を創造・開発することです。Marketing や Sales の 前に、 「人と組織」が出てくるのです。何をするにしても 、Foundation(基礎・基盤)としての 人や組織がなければ、実際には実行に移せないでしょう?と考えるからです。 【楠田】 マーケティングやセールスではなく、人と組織が先にくるのですか。日本企業で「人と組織」 を戦略マップ上そこまで明確に、高い位置付けにしているケースは少ないですよね。 【島村】 他の企業について詳しく知っているわけではありませんが、人事部門の目標が中長期計画 の一番末尾にくっついている、というパターンは多いように思いますね。でも、そうだとし たら、人と組織がビジネスの最大の「Enabler」 という位置づけになっていないということ だ、 ですよね。 【楠田】 「Enabler」とは? 【島村】 ビジネスを遂行することを可能にする機能・要素、ということになるでしょうか。人や組織 を、ビジネス中でそのように位置づけていないと、例えば Talent Management や人事異動と言 っても、単に個人レベルの話で終わってしまう可能性が非常に高くなると思います 「○○ さ 。 んは、何年入社だけれど飛び級して一番の出世頭だ」 、 とか「○○さんは栄転で、あの部署に 抜 擢された」とか。そこには、 「それが具体的にビジネスとそのタレントの成長にどういうイ ン パクトがあるのか」という発想が入っていないですよね。 【楠田】 それは、グローバルで統一された考え方ですか?
  • 7. 【島村】 「人と組織」を意識的に重要視しているのは、日本で決めたことです。ただ、具体的な表現方 法は異なっても「人と組織」 、 がビジネス の Enabler であり、非常に重要だという認識は世界 で共通しています。例えば、Vice President レベルから中堅の Manager まで、目標管理システム の中に必ず人と組織に関する項目が入っています。つまり、売り上げ目標などの、他の目標 を結果として達成することばかりが大切なのではなく、人と組織についてのマネジメント も同様に成果をあげていることが評価される、というメッセージが、ゴール(目標)設定や評 価に組み込まれているということです。 【楠田】 それは徹底していますね。 【島村】 はい。そこはトップがコミットして決めていますから。そういう意味では、人事が戦略的に 動きやすい環境だと思います。 【楠田】 確かに、人事の目標が計画の一番下に書いてあったら動きにくいですよね。 【島村】 ええ。そうだとしたら、人や組織の課題がどうしても日々の多忙な業務の中で埋もれてしま い、優先順位が下がってしまうと思いますよ。人事が何か人や組織、ひいてはビジネスにと って効果やバリューのあることをしようとしても「面倒」 「ただでさえ忙しいのに、 ま 、 とか た時間の取られるプロセスをつくって」とかね(笑)。確かに面倒なことも多いかもしれな いし、きれいなプロセスばかりで内容が伴っていないものには本当に気をつけないといけ ないけれど、優先順位が上の方にありますから、効果のあるものについては、面倒だとか時 間がないという理由で嫌とは言えない。これは、以前日本企業で働いていた経験と比較する と本当に違うところの一つだと思います。 もちろん、ここで我々人事が、 「制度=箱」を作るのではなくて「中身」を提供していく、 れ そ らをビジネスにインパクトを与えるという発想で運用していく、という意識を持ち続ける ことが大前提だと思います。そうしないと人事が単なる権威主義に陥って、ビジネスの最前 線のラインが無駄なことに時間をかけることになってしまいますから。難しいところもあ りますが、今はその2つがうまくかみ合っているのではないかと思いますね。 Talent Management には、「統合」という考え方が重 要
  • 8. 【楠田】 さきほど、Talent Management という言葉が出てきました。最近、日本でも Talent Management という言葉が使われるようになりましたが、NIKE における Talent Management の特徴はあ りますか? 【島村】 Talent Management とは、人材のポテンシャルを高めて、その持てる力を十分に活用していく ことだと思いますが、NIKE の中では、Integrated Talent Management(ITM)という考え方を 持っています。これには2つの意味があります。 まず、一定の Job Band(職位等級)以上の人は、グローバル共通の人材として扱われ、所属し ている国や地域に関係なく、統一したかたちで Talent Management が行われます。これが一つ 目の「Integration」(統合)。 その職位等級に達するまでに国や地域内で行われる Talent Management も含め、教育、コーチ ング、ローテーションといった、教育・育成に関わるそれぞれのファンクションをバラバラ に行うのではなく、ひとつのプログラムとして統合しておこなっていく、ということ。これ が二つ目の「Integration」です。 例えば人事異動では、事業部長が「○○さん、そろそろ違う種類の仕事にチャレンジした方が いいよね」と言っていて、それとはまったく関係ないところで、人材開発部が「この研修に○○ さんに出てもらおうか」と相談している、そして直属の上司は、 「最近どう?将来どんな仕 事 に就きたいと思っているの?」といった面談を行っている。そして、それらの情報がほとん どリンクしていない。結構ありがちではないですか?人事制度を運用している部署と、教育 研修の部署が別々という会社も少なくないですからね。でも、これでは一人のポテンシャル を総合的に引き上げていくことは難しいと思います。少なくとも、非常に非効率的です。 ただ、我々が行っている ITM は新しい考え方ではないと思います。多分、日本の大企業でも、 高度成長期あたりでは、こういうことが自然にできていたんだと思います。ただ、意識しな いでできてしまっていたから、何かひとつの歯車が狂ったときに、~それが内容を理解しな い形だけの「成果主義」の導入だったのかもしれませんが~、うまく修正できなかったとい うことなのだろうと思います。 日本を「輸出」し、海外を日本に「輸入」する試みを
  • 9. 【楠田】 NIKE Japan における「人と組織」に対する考え方がわかりました。次に、グローバル企業の中 の日本という視点でお話を伺いたいと思います。 【島村】 はい。グロ―バルという視点で見たとき、外資系であれ日本の企業であれ、 としての課題 HR は、日本の人材をいかに国際化・グローバル化していくか、ということだと思います。NIKE JapanのHRの課題も同じです。 【楠田】 外資系でもまだまだ国際化・グローバル化していない? 【島村】 残念ながらまだ十分には。日本は、まだまだ「Super Unique Country」ということで下駄を履か せてもらっているところがどこかあります「日本はユニークだ」 。 ということで、長い間、 贔 屓されてきてしまった「日本はあまりに違うので、 。 わからない。わからないから、わかっ て いる日本人に任せておくしかない」といった感じでしょうか。 ただ、2008年秋のリーマンショック以降、そうした考え方が急速に変化しているのを感 じています。中国のプレゼンスが益々大きくなってきていますし、アセアンの国々も成長し てきています。また、消費者の感覚もボーダレスになってきている。日本がその独自性を売 りにすることがしづらい状況になってきているのです。組織構造上も、グローバル組織の一 部としてマネジメントから直接見られる位置づけに変わってきています。そこで、日本の人 と組織の Globalization ということが大きな課題になってきました。 具体的には、グローバル人材の開発、日本からの「輸出」と日本への「輸入」を強化する必要が あると思っています。日本の Talent がグロ―バルで通用しないと、もはや総合的な Talent Planning もできないし、そうなるとビジネスの目標を実現していく基盤や Enabler が機能し ていけない状況にまでなってしまいます。 【楠田】 そうしたことは、2008年くらいから? 【島村】 そうですね。組織構造やプロセスが変わり始めたのが2008年ですから、そのとき真剣に
  • 10. 考えました「このことは、 。 日本にとって何を意味するのだろうか」と。そこで出た結論は 、 「日本はこのまま放っておいたら置いていかれる」ということでした。 そこで、 、 まず 「Export」 とにかく日本人を外に出す、 。 無理してでも海外で働く機会を提供 す ることにしています。 英語がある程度できたなら、あとは向こうで実践を通じて覚えればいい。要は中身だ、と割 り切って積極的に日本人を海外に出すようにしています。彼ら・彼女らには、こういって送 り出すんです「グローバルの世界では、 。 日本人 が Second Language として英語を話している ことは誰もが百も承知しているので、言葉で完璧であろうとする必要はない。ただし、中身 をきっちり伝えるように強く意識して自信を持って臨んでほしい」と。 私は、外国人が日本人はユニークだと思ってきたことには根拠があると思っています。実際 にグローバルで仕事をするなかで、我々が他の国の人たちにはない独自の視点を持ってい ると感じることが少なくありません。ただ、多くの日本人はそれを自覚していないし、語学 のコンプレックスが邪魔をして、きちっと伝えられていないことが多いのです。 一方で、西欧の人の中にはプレゼンテーションの技術はあるけれど、内容は普通ということ も少なくないんですよ。だから、自信をもって自分が持っているコンテンツを表現してきて ほしいと伝えています。コンテンツの質が良ければ、必ず respect されますから。ただ、コミュ ニケーションのスタイルが違うので、日本人に伝える時に意識的に、もしくは無意識に使っ てしまっている前提を極力排して、詳細を事細かく説明する努力をするようにアドバイス しています。そうすれば通用するからと。実際に海外で活躍する日本人が出てきてくれてい ますし、少なくとも、本社での日本人社員の Visibility(見られる機会)が急速に上がってき ていると思います。 【楠田】 ただ、海外で通用するような人材は国内でも活躍している可能性が高いと思うので、マネジ ャーや組織のトップから 「今このタレントは出したくない」といった抵抗が出たりしな い 、 ですか? 【島村】 通常はそういったこともあるでしょうね。ただ、先ほど申し上げたように、彼ら・彼女らの ゴール(目標)の中に 「Succession Panning」 、 (後継者育成)とか「Talent Management」といった 「人を育てる」いう要素が組み込まれていますから、そこは評価に直結する仕組みで機能す るようにしていますし、必ず同等以上のタレントを後任に充てることによってタレントマ
  • 11. ネジメントの仕組みが機能するようにしています。確かにそうしたことがセットになって いないと、社内政治に翻弄されて、本来目指すべきことを実現するのは難しいかもしれませ んね。 【楠田】 なるほど。一方で 「Import」というのは? 、 【島村】 Export だけですと、海外に行く機会を与えられる、限られた人しかグローバル化できません。 多くの人は日本の組織で働いているわけで、その部分のグローバル化も考える必要があり ます。そこで、 「海外」を日本に「Import」しています。具体的には、米国本社や西欧地域からだ けでなく、中国や香港、その他のアジア諸国からも日本の組織に人を送ってもらい、 「国連 化」 を加速することにしました。 ただ、日々の業務をしながら、言葉も文化も違う人を受け入れるのは大変なことではありま す。また、費用増をどうするかといった問題から任用期間、雇用形態の問題等、実務的に越え なくてはならないハードルもあります。 実は、これには、単に日本人社員のグローバル化だけではなく、ビジネスインパクトもある と思っています。例えば、大手小売チェーン。彼らはどんどん中国や他のアジア諸国に進出 しています。そこでは、既に日本と現地の購買が連携していて、当然こちらも日本と現地が 連携したかたちでのビジネスをしていくことになる。そうなると、日本の中に現地の消費セ ンスを理解できる人がいる意味は大きいわけです。 後半に続く(後半は2010年11月11日公開予定です) <後半の内容> グローバル人材とは、多様な環境で確実にパフォーマンスを出せる人 「ベンチの厚さ」が、変化する環境に強い組織を作る 人の育成は、70・20・10の割合で 「明日の試合のために時間を使いますか。昨日の試合を正確に反省することに時間を使いま すか?」 次世代リーダー候補に必須な、Learning Ability, Learning Agility 店舗のアルバイトが、商品開発のグローバルのヘッドに
  • 13. 島村 隆志氏 株式会社ナイキジャパン 人事本部長 【ナビゲーター】 楠田祐(戦略的人材マネジメント研究所 代表) 島村 隆志(しまむら たかし)氏 プロフィール 1987 年大学卒業後、 商事株式会社入社。 JFE 鋼管部にて5年間鉄鋼 の営業を担当後、人事部へ異動。採用・研修に3年間従事した後、労政・海外人事・給与厚 生・総人件費担当。 1996 年株式会社ジュピターテレコムへ入社し、経営企画室人事課長として会社の立ち上げ を組織人事面からサポート。 1999 年株式会社ユー・エス・ジェイ(ユニバーサルスタジオジャパン)へ入社し、人材開 発課長として主に採用・人材開発・外国人マネジメント面からテーマパークの立ち上げを サポート。 2002 年より人事部長。 2006 年株式会社ナイキジャパンへ入社し、人事本部長。 2009 年よりナイキ本社、タレントアクイジション(人材スカウト)部門アジア太平洋地区 統括本部長を兼務、現在に至る。
  • 14. 新しい価値を常に世の中に提供し続けているNIK E。その日本本社で、HRのトッ プを務める島村氏。現在は人事本部のトップであるだけではなく、米国本社組織にお いて、アジア地域のタレントアクイジション(人材スカウト)部門の統括本部長も 兼任しています。NIKE Japan における組織開発や人材開発から、グローバル人材に 必要な考え方まで、豊富な経験に基づいた具体的なお話を伺いました。 前回の対談内容はこちらから↓ 第 4 回 明日の試合のために時間を使いますか。昨日の試合を正確に反省することに時間を 使いますか?(前半) グローバル人材とは、多様な環境で確実にパフォーマンスを出せる人 【楠田】 島村さんが考えるグローバル人材とは? 【島村】 グローバル人材というのは、結局のところ、Diverse(多様)な環境で確実にパフォーマンス を出せる人、ということだと考えています。 もちろん、基本的な英語力は大事なのですが、そもそも日本人はコミュニケーションのスタ イルが異なるということに自覚的であることがもっと重要だと思います。日本人は同質性 の高いコミュニティの中で、暗黙の前提でコミュニケーションすることに慣れてしまって います。その感覚でいると、バックグラウンドの異なる人と話しても肝心なことが全く通じ ないということが起きます。ですから、先ほど申し上げたように、 「何でここまで説明しな け ればならないの?」というくらいまできっちりと説明していく癖をつけるといいと思いま すね。そして、臆することなく自分なりの視点で意見を言っていく。そうすれば、Diverse な環 境でも受け入れられていくと思います。 また、気になるのは、グローバル人材といったとき、今だに「アメリカ化」 「西欧化」だと勘 違 いしている人が多いということです。もう少し具体的に言うと、欧米的なロジカル思考を持 っている人がグローバルに通用する人で、その他は通用しない、逆にそれさえあればグロー バルに通用すると思い込んでいる人が少なくない、ということです。それは、実は20年前 の姿だと思っています。
  • 15. 今、人材の強みを見る際に、Strategy(戦略立案)に強いか、Engagement(チームの人たちや 周囲の巻き込み)に強いかという見方をすることが多いのですが、従来の欧米的なロジッ クだけで考えると、Strategy に強い人がグローバル人材の要件として適性があると考えがち です。逆に、Engagement を重視するのは、達成志向・結果志向のプロ意識に反していてグロ ーバル化にとってはマイナスではないか、と。 しかし、実際にグローバルで活躍している人、つまり Diverse な環境でパフォーマンスを出 している人を見ると、両方のバランスが取れているんですね。逆に、Diverse なチームの中で 脱落していくのは、実は、Strategy「だけ」の人なんです。 怖いなと思うのは、外資系企業に長くいることで、グローバル化を理解していると考えてい る人も少なくないということです。西欧的なロジックで仕事をしていることをアイデンテ ィティにして表層的な個人主義を崇拝し、チームに対する貢献や巻き込みを軽視するとい った態度を取っている人もまだまだ見受けられます。そうした人たちは、次々に欧米系企業 に転職していくので、ますますその発想から抜け出せなくなる。個人的には「外資系メリー ゴーラウンド」と呼んでいるのですが ・ ・ ・。そういった発想は、かえってこれからのグ ロ ーバル化を阻害することになっていくと思いますね。 「ベンチの厚さ」が、変化する環境に強い組織を作る 【楠田】 さて、次に、Succession Planning(後継者育成)について伺いたいと思います。 日本企業で 今、 は次世代リーダー育成に悩んでいるところが多いように感じています。そのあたり、どのよ うに考えられているのか教えていただけますか? 【島村】 Succession Planning の話で必ず出てくるのが ベンチの厚さ」 、 「 を形成するということです。チ ームスポーツの世界で、試合に出ていない選手層が厚いチームが強い、と言われることと同 様です。野球なら9人、サッカーなら11人のレギュラーメンバー以外に、どれだけの選手 を揃えることができるのか。その厚みがあるチームは、様々な状況や変化へ対応することが できるため、強いチームとなっていく。その考え方を組織に当てはめています。 具体的に言えば、ひとつのポジションに対して、後継者候補を2名作っていくことを目指し ています。そして、その後継者候補一人一人に対して、その後継者候補を2名作ってい く ・・と考えていきます。 ・ 2名というのには意味があって、一人 は Strategy に強い、もう一
  • 16. 人は Engagement が高いといったように、異なるタイプを育てていくことで、変化に対する柔 軟性を担保していく。これも「厚さ」形成の戦略のひとつです。 たとえば役員が15名いるとします。今、そのレベルに行ける人、次世代リーダー候補を3 0名作る、その下にまた High Potential(ポテンシャル人材) な人のグループを60名作る というぐあいに・・・。そして、役員の15名と次世代リーダー候補の30名は、グローバルタ レントとして、常に誰かが「Export」されている状態を作るといったメカニズムを作るという ことです。 人の育成は、70・20・10の割合で 【楠田】 後継者を作っていく、ということですが、そこでの教育・研修についてはどのような考え方 を持っていらっしゃるのですか? 【島村】 人が学習・成長をするときのリソースは、70・20・10と言われていて、我々もそれに 沿って育成を考えています。 【楠田】 70・20・10とは? 【島村】 これは、研修や書籍から学べることは10、コーチングや他人の行動から学べるのは20、 残りの70は自らの経験から学ぶ、という考え方です。ただ、実は、これは日本人にとって新 しくも珍しいものでもなくて、内容的にはそれぞれ、研修、OJT、ローテーションに当てはま るんですよ。ただ、それを、70・20・10とわかりやすく説明して、受けている本人が今 何をしているのかを明確に意識できるようにした、という点が異なるということです。また、 これに明確な Operating Mechanism(運用の仕組み)を組み込むことが成否を分けるポイン トでしょう。 【楠田】 具体的に Operating Mechanism とは? 【島村】 例えば、 「20」のコーチングについて言えば、上司は1週間に一回、もしくは二週間に一回 、
  • 17. 必ず一対一のミーティングを部下と行うことがどの部署でも行われているような仕組みや リズムが組織に埋め込まれているような状態のことです。それも、単に業務進捗報告を受け るという漠然としたものではなく「今、 、 何がキツイのか「どうやったら成功をサポート で 」 きるのか」 「どのボタンを押したらやりやすくなるのか」など、次の行動につながる具体的 な 話し合いをすることが必要です。このような各論での行動の基準を持っているかどうかが、 大きな差になってくると思います。 これを 「OJT で育成していく」 、 といった漠然とした話で終わらせてしまうと、新卒の期間だ けの話と解釈されたり、人によっては「彼女はもう一人前だから、あとは一人で頑張らせれ ば大丈夫」といった何となくの解釈をしてしまって、実質機能が止まってしまう危険性があ ると思います。 こうして上司と部下の間で、具体的な話を定期的に一対一で必ず実施するということが全 社的に行われるようになると、それが組織のカルチャーになっていきます。そうなると、決 められた期間以外でも、必要に応じてそうしたコミュニケーションが取られるようになり、 組織運営の面でも持続的な強さが出てくると思います。 【楠田】 確かに、昔の日本企業ではそうしたことが自然に行われていたように思いますね。 【島村】 そうですね。 と言ったらフォーマルな感じで腹を割って話がしにくい。 OJT だからといって、 飲み会だとカジュアルすぎて真剣な話がしづらい。だから、喫煙ルームでこそ、本当の話が 聞ける、なんて言われていましたよね。そんななかで、ちゃんとした上司はうまく部下の本 音を聞き出していたんでしょうけれど、今の若い人はお酒もあまり飲まないし、煙草も吸わ ない。いろいろなことで接触機会が減っていくなかで、人工的にその世界を作っていかなく てはならないというのが現状で、それが今我々がやっていることだと思っています。 【楠田】 島村さんご自身も上司と定期的な個別ミーティングをしているんですか? 【島村】 はい。私には2人の上司がいますが、日本の上司とは通常の業務に関するミーティング以外 に、週一回必ず一対一で、そして、米国本社にいる上司とは、週に一回電話でミーティングを しています。このコーチングカルチャーが定着していくと、実は、パフォーマンス評価に時 間がかからないというメリットもあります。通常の査定というのは、中間評価とか期末評価
  • 18. というのがあって、そのたびに社内が大騒ぎするようなところがありますよね。一旦つけら れた評価を、部門調整にかけ、本部長調整、役員調整を通して、社長決裁まで上げていくと、 2、3カ月くらいかかったりもする。それに対して、NIKE Japan の場合は、すべてが2週間く らいで終わってしまいます。 「明日の試合のために時間を使いますか。昨日の試合を正確に反省するこ とに時間を使いますか?」 【楠田】 パフォーマンス評価にあまり重きを置いていない? 【島村】 そんなことはありません。しかし、毎週毎週、上司と部下は具体的な仕事や課題の話、個人の 成長に関することまで話をしているわけですから、査定だからといって、いきなり半期の業 績の棚卸をする必要はないんです。もちろん、配下の組織の評価点のバランスは確認します が、実際にほとんど大きなぶれは見られません。 パフォーマンスを正しく評価することは大事だと思いますが、たとえば「売り上げが上位目 標に5万円足りないから評点は○○だ」といった具合に、近視眼的な正確さに多大な時間と工 数をかけすぎるのはナンセンスだとは思っています。なぜならば、パフォーマンスはあくま でも過去のことだからです。未来のことを語るベースとなるのは、一人ひとりのポテンシャ ルです。そちらに時間を使う方が建設的だと思いませんか?つまり 「明日の試合のため に 、 時間を使いますか。昨日の試合を正確に反省することに時間を使いますか」ということです。 ですから、私が Talent Management の分野で使っている時間を考えると、8:2でポテンシャ ルに関する仕事ですね。Talent Management をちゃんとやっていこうと思ったら、こうした発 想が必要だと思います。 【楠田】 Succession Plan での具体的な育成例を伺えますか? 【島村】 実は NIKE では、生え抜きの社員がトップマネジメントに上がっていくというケースが少な くありません。現在の CEO であるマーク・パーカーは、もともとフットウェアのデザイナー でした。決して最初から経営のプロとして採用されたわけではありません。また、現在のリ テール部門のヘッドは、スポーツインストラクターからスタートしています。彼らは、ある
  • 19. 時期にポテンシャル人材として認められ、Succession Plan に乗って、今の地位まで上がって いっています。 彼らのように一旦ポテンシャルを認められた人材に対しては、一人一人に対して長期的な プランを作成するんです。これは、例えば、 「5年後にこの人はどこにいてどんな貢献をし て いてもらわなければいけないの?」という問いから発して、達成目標を決め、それを達成す るために必要な経験を具体的なポジションレベルに落とし込んでいくものです。それが、先 ほどの話でいくと、70の「経験」の部分。それに合わせて、20の「コーチング 、 」 10の 研 「 修・学習」のプランを立てていきます。 【楠田】 これはまったく一人一人に対して個別の作業なんですか?パターンなどはない? 【島村】 まったく、個別です。マネジメントグループと HR で決めていきます。 【楠田】 マネジメントグループと HR が、テーラーメイドで決めていく、と。 【島村】 はい、まさにテーラーメイドで。先ほど、 「ベンチの厚さ」のお話をしたときに、たとえとし て、 役員レベルに上がる可能性のある次世代リーダー候補を30人作るという話をしましたね。 このたとえでは、30通りのテーラーメイドのキャリアプランを作っていくということに なります。これはまさに、ポテンシャルをどんどん引き出して更に上げていく作業。8割の 時間が必要だという理由をご理解いただけると思います。 【楠田】 それが NIKE の強さの根源なんですね。しかし、例えば5年というのは、今のビジネスのスピ ード感からいくとずいぶん先のこと、という感じがあります。おそらく誰も5年先のことな ど確約できないのではないかと思いますが ・ 。 ・ ・ 【島村】 おっしゃる通りだと思います。これは会社として5年先を約束する、ということではありま せん。5年後に、会社が期待する成長と、本人が目指したいことをすり合わせて、明文化し、 実行に移していくということです。実際に、毎年毎年見直します。一回決めたら固定される ものではないのです。
  • 20. 【楠田】 毎年見直しが入るわけですね。それで理解できました。 【島村】 ただし、テーラーメイドのディベロップメントプランを立てる中で、勤務地(国)が変わる ような場合には、いつ戻ってくるかという点については契約できちんと決めるようにして います 「Repatriate(本国への帰任)がない、 。 Expatriate(海外赴任)はない」というのが原則 です。つまり、Expatriate(海外赴任)は、Repatriate(帰任)後に会社が本人にどのような期 待をするか、それに対するディベロッププランとして海外でどのような経験を積む必要が あるのか、という位置づけにしているということです。逆に、帰任後に向けてのディベロッ プメントと位置づけない海外勤務もあり、その場合は「海外への人事異動」ということで 「Expatriate(海外赴任)」とは区別して、勤務地(国)のローカル社員として位置づけられ ます。 【楠田】 日本の企業を見ていると、そこがあいまいなケースが多いですよね。海外に駐在員として赴 任したはいいけれど、戻ってきたときにポジションがなかったという話を、残念ながらよく 聞きます。NIKIE ではそのあたりの仕組みがきちっとできているから、総合的な Talent Management ができるのでしょうね。 【島村】 勤務地(国)の問題を除けば、毎年見直しが入るわけですが、それは個々人のキャリアプラ ンだけではありません。5 year aimed role & Development Plan の対象となりうるポテンシャ ル人材であるか、Talent Pool 自体にも見直しがかかります。 【楠田】 「ベンチ」の入替があるわけですね。 【島村】 はい。ビジネスの状況とその変化に応じた組織力・リーダーシップを先行確保するために、 そのあたりは、かなりシビアに見ています。 次世代リーダー候補に必須な、Learning Ability, Learning Agility
  • 21. 【楠田】 ただ、そもそも誰に高いリーダーシップポテンシャルがあるのかを判断することは難しく はありませんか? 【島村】 おっしゃる通りです。言葉として条件を上げていくと、多分どこの企業でも当てはまるリー ダーシップ像になってしまうと思います。ですから、そうした項目をチェックリスト的に使 って、一番チェックの多い人をピックアップするという方法は取りません。現実的ではない ですからね。実際には各部門と人事でポテンシャルを見る視点やレベル感を合わせながら、 最終的には高いレベルでポテンシャルに対する信頼性を得られている候補を常にリストア ップしています。 ただし、必ずチェックをするのが、Learning Ability, Learning Agility(学習能力・学習機敏性) です。学習能力が高い人は、リーダーシップに必要な要素を後からでも吸収していけるんで すよね。ですから、最終的に選抜する際には、その人の Learning Ability, Learning Agility のレ ベルを必ずしっかりと確認します。 、 この人は 、 Description(決められた職務記述書) また「 Job の内容の範囲で仕事をしたい人なのか、それを自分から越境していきたい人なのか」を確認 します。自ら越境していきたい人でないと、新しいことを学習しようなんて思わないですか らね。 また、少し違った観点からポテンシャル人材を考えてみると、そこにもヒントがあります 。 Leader として期待されていた人物が脱落してしまう時というのは、High Performer がそのま ま Leader になろうとしているケースが多いんですね。そういう人は、自分がずっと High Performance を達成してきたからか、他人に求めるレベルの高さが程度を超えて上がってい る場合や、どのように仕事を進めていくかとか、遂行していくかという「How」ばかりに気を 取られすぎて、どうやってチームメンバーを engage させて、drive し、チームとして結果を出 させていくかという視点を持てない場合が多いんです。どうしても、how から what という発 想に行けない。ポテンシャル人材を考えたときには、こうした点も重要な要素になってくる と思います。 店舗のアルバイトが、商品開発のグローバルのヘッドに 【楠田】 ここで日本での採用についてお伺いしたいのですが、NIKE Japan では、新卒4月1日正社員 採用は実施しているんですか?
  • 22. 【島村】 現在、基本的には、新卒4月1日入社のための採用は行っていません。 、 ただ「結果新卒」 い と うのはあります。 【楠田】 結果新卒? 【島村】 NIKE Japan では直営の小売店を持っているので、そこで働いている学生アルバイトも少な くありません。そのなかで、たまたま大学3年の終わりを迎えた学生で、実績を上げている し、将来のポテンシャルも見えるという人がいた場合は、彼ら・彼女らが大学を卒業するの を待って正式採用ということもあります。これが「結果新卒」ですね。 例えば、現在、あるスポーツカテゴリーのフットウェアの商品開発のグローバルのヘッドは 日本人なのですが、彼は、国内のある店舗のアルバイトからスタートしたのです。 彼はとにかくシューズが好きで、店でも頭角を現して、先ほどいった「結果新卒」として NIKE Japan に入社しました。その後、Job Posting(社内公募)で、Sample Coordinator という 仕事に自ら手を上げて、その店舗から日本の本社に異動しました。Sample Coordinator という のは、商品開発を行うときのテストに使われるサンプルを準備する役割で、コアの仕事では ありませんが、靴の開発の近くにいることができるポジションです。彼はその中で学んだこ とを基に、新商品に対する自分の意見を表明するようになり、そのクリエイティブなアイデ アが認められて、まず、狭いラインの商品開発のマネジャーに抜擢されます。その後、ポテン シャル人材として長期のキャリアプランを与えられ、様々な経験を経て、2年前に米国本社 の今のポジションに就いたのです。 【楠田】 総合的な Talent Management が実際に機能して、ポテンシャル人材を花開かせているんです ね。すばらしい。 それにしても、これまでの島村さんの発言を伺っていると、 「人事部長」 単に というよりは、 完全にビジネスパートナーとして発想していますよね。それはどういうところからきてい るんでしょう? 【島村】 まずは最初にお話した NIKE の文化の影響が大きいと思います。それに加えて、個人的に私
  • 23. がもともと商社の営業からキャリアをスタートさせたから、ということも影響しているか もしれませんね。5年間、鉄鋼部門で国内外の単位の大きい取引に携わっていました。その 商社でその後、海外人事および労務担当に異動しました。そこでは全社にまたがる大きな経 営課題との接点も多かったことも、今の視点を持つきっかけになっているのかもしれませ ん。 【楠田】 ここで、島村さんご自身が日常どんな風に海外の上司・同僚と仕事をしているのか、お聞き したいと思います。 【島村】 私の同僚になるのは、中国やヨーロッパなど各地域の HR のヘッドと、 Function、 各 マーケテ ィングやリテール部門などの HR のトップです。このグループは、Quarter に一回本社に集ま ってグローバルHRリーダーシップミーティングを持ちます。そのほか、このグループでは、 2週間に一回テレコンファレンスを行っています。 【楠田】 そこではどんな話をするのですか? 【島村】 多岐に渡りますね。Talent Management の話もありますし、具体的な組織の話がでることもあ ります。 詳細にはお話できませんが、例えば、ある function の組織が成長戦略に対して十分 Effective じゃないのでは?という問題提起がされて、それについて話し合うといった感じです。どこ がボトルネックになっていて、どのようにそれを解消できて、何が変化のレバーになるのか など、具体的に問題点をさぐり、解決策を考えていくこともあります。 また、ある国での Compensation(報酬)レベルが十分競争力を持っているのかという課題が 上がったこともあります。今よりかなり多く報酬を払わないと優秀な人材が流出してしま う恐れがあると。ではどのレベルだったら流出しないのか。そもそも本当に報酬レベルの問 題なのか。など、様々なバックグラウンドと経験を持つ専門家が意見を出し合います。 私は、現在 NIKE Japan の HR のヘッドの他に、Talent Acquisition(人材スカウト)部門のアジ アチームのヘッドも兼任しているのですが、こちらも2週間に1回、同様のテレコンファレ ンスを行っています。
  • 24. それから、先ほど申し上げたように、アメリカの上司と、週に一回のミーティングを、これも 電話で行っています。 役員・部長クラスの仕事からオペレーション実務の仕事、修羅場まで、様々 な場面を無理をしても経験せよ 【楠田】 思った以上に海外の同僚たちと頻繁にコミュニケーションを取っているのですね。では最 後に、島村さんから、20代、30代のビジネスパーソンにメッセージがあればお願いしま す。 【島村】 20代、30代ということでしたら、無理をしてでも役員・部長クラスの仕事からオペレー ション実務の仕事まで、多岐にわたった業務を経験した方がいいと思います。 役員・部長クラスの仕事というのは、ビジネスにインパクトを与えるような、全社的なプロ ジェクトといったイメージです。同時に、オペレーション実務、例えば人事業務で言うなら ば、ペイロールのような仕事も経験しておいた方がいいと思っています。役員・部長クラス の仕事を経験すると 「そんなルーティン業務はやりたくない」と考えてしまう人もいる よ 、 うですが、プロになっていきたいなら、あらゆる仕事を無理にでも経験するくらいの気持ち が大事だと思います。 というのは、そうした経験を積んでいると、実際に役員・部長クラスのポジションに就いて から問題に直面したときに、どこが本当に現実的に解決できるポイントかが見えるんです。 それが見えないと全体をダイナミックにドライブできないし、そうしないとビジネスにイ ンパクトがある仕事ができないと思います。ですから、えり好みせずに、とにかく広く経験 することを意識した方がいいいと思います。 また、あるときブレイクスルーした人を見ていると、必ず Tough Experience、修羅場を乗り 越えていますよね。海外駐在をして誰にも助けてもらえない状態で新しい拠点を作ったと か、関係会社を閉めにいったとか。そういう状況を、歯を食いしばって乗り越えてみると、気 がつかないうちに成長しているものです。是非できるだけ若いうちに、そうした経験ができ る機会を、無理をしても取りにいってほしいですね。 【楠田】 本日はどうもありがとうございました。