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神戸大学法学研究科 博士課程後期課程 
秦 正樹
108j055j@stu.kobe-u.ac.jp
いつ,イデオロギーは「活性化」するのか?
  :JGSS2003を用いた投票外参加の規定要因に関する分析	
2015/02/13 2014年度JGSS研究報告会 1
パズル:政治参加とイデオロギー
●  投票外参加:選挙での投票を除く政治参加(デモ・署名など)
●  イデオロギーとの関連(安田 2012;小熊 2013)
 (例)脱原発は「左翼」?在特会デモは「右翼」?
2015/02/13 2014年度JGSS研究報告会 2
リサーチクエスチョン
●  左右イデオロギーどちらの人でも,投票外参加には積極的でありうる
●  では,(高いコストを払って)デモにわざわざ出向くのは誰か?
●  「我々」とは遠い世界に生きる人:プロ市民?活動家?
●  「我々」に近いようなふつうの人:サラリーマン?主婦?
●  リサーチクエスチョン
●  なぜ,イデオロギー保有者は,投票外参加に積極的になるのか?
p  「右派か左派か」(方向性)だけでなく「強度」にも注目
●  本研究のこたえ
●  極端イデオロギー層は争点態度の保有量(資源),中道的イデオロギー
層はネットワーク(動員)による政治参加のメカニズムで説明される
2015/02/13 2014年度JGSS研究報告会 3
先行研究の検討
●  イデオロギーのもつ機能
●  信念の体系(belief system) (Campbell et al., 1960)
p  争点態度を束ねる「態度の一貫性」(Converse 1964)
p  ただし,必ずしも政治的洗練を意味するわけでない(Jacoby 1986ほか)
p  ヒューリスティックス機能(Lupia & McCubbins 1998=2005)
→ イデオロギーそのものが,政治行動を規定するわけではない
●  イデオロギーと政治参加
●  政治参加のメカニズム:資源・動員・心理
p  資源:金銭的・時間的余裕や市民的技能(Verba et al., 1995)
p  動員:組織ネットワークからの勧誘(Rosenstone & Hansen 1993)
p  心理:政治的関与にもとづく(Levi & Stoker 2000)
→ 日本では,イデオロギーと参加の明確な関連はみられない(山田 2004)
2015/02/13 2014年度JGSS研究報告会 4
先行研究の課題
●  実証的課題
l  イデオロギー尺度は連続変数として処理してよいのか?
●  理論的課題:参加メカニズムの相互作用
l  イデオロギーは心理要因のみ? → 資源や動員との相互作用
l  イデオロギーを先有傾向として仮定
 :どういう条件下(刺激)で,イデオロギーは 活性化 するか?
2015/02/13 2014年度JGSS研究報告会 5	
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1.4	
  
1.6	
  
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2	
  
1	
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   4	
   5	
   6	
   7	
  
参
加
数
平
均
値	
革新的     ←    中立    →     保守的	
R2=1e-­‐06	
連続変数的に捉えると
効果は見えない
→ カテゴリカル変数
として扱うべき!
理論と仮説
●  イデオロギー強度における政治参加の特徴
●  極端なイデオロギー層(極右/左)
p   明確な政策選好をもち,それ自体が政治参加に対するモチベーション
  であるために,行動を引き起こす手がかり(cue)として機能
p   争点への態度保有そのものが,参加のための「資源」(resource)
●  中道的なイデオロギー層(中道右派/左派)
p  明確な政策選好はもたないものの,社会運動を支える人的資源として
の役割を果たす(Verba et al., 1995)
p  組織やネットワークからの「動員圧力」(mobilizaiton)によって参加
●  本稿の仮説
①  極端イデオロギー層は,政策意見を多く有するほど,活発に参加する
②  中道イデオロギー層は,ネットワーク内の動員圧力が強いほど,活発に参加する
2015/02/13 2014年度JGSS研究報告会 6
分析準備(1)
●  用いるデータ:JGSS-2003,B票留置(有効サンプル=700)
●  操作的定義
●  従属変数:「選挙で投票した」を除く参加経験の合成変数(問28)
●  分析手法:負の2項回帰分析
      
2015/02/13 2014年度JGSS研究報告会 7	
0
.1
.2
.3
.4
0 2 4 6 81 3 5 7 9
投票外参加の数
* 左に膨らむ分布
 ☓:ポアソン回帰分析
   通常OLS
 ○:負の二項回帰 
分析準備(2)
●  独立変数(イデオロギーカテゴリと各仮説の交差項を投入)
●  イデオロギーカテゴリ:問18(7件法)を利用
 → 1・2:極左,3:中道左派,4:中立(基準カテゴリ)
   5:中道右派,6・7:極右 
●  意見保有(仮説1):8争点群に対する意見有無の合成変数(問20)
 (最小値=0, 最大値=8,平均値=5.9,標準偏差=2.7)
●  動員圧力(仮説2):政治に関連する親しい知り合い数の合成変数(問27)
 (最小値=0, 最大値=15,平均値=1.9,標準偏差=2.2)
●  統制変数
●  性別,年齢,地域規模,教育程度,職業(正規雇用/非正規雇用/自営業/
無職),世帯収入,党派性ダミー(無党派=0,支持あり=1),政治関心,
加入団体(組織)数
2015/02/13 2014年度JGSS研究報告会 8
分析結果
2015/02/13 2014年度JGSS研究報告会 9	
0.12 (0.10) -0.03 0.13 0.02 0.12
0.05 (0.10) -0.02 0.10 -0.01 0.12
0.11 (0.09) 0.11 0.09 0.10 0.10
0.13 (0.09) 0.17† 0.10 0.11 0.10
0.35** (0.03) 0.35** 0.03 0.30** 0.05
0.04 (0.04) -0.05 0.06 0.04 0.04
0.39* 0.17
0.26* 0.11
0.05 0.11
-0.01 0.12
0.15† 0.08
0.09 0.07
0.03 0.07
0.05 0.07
-0.10 (0.08) -0.11 0.08 -0.10 0.08
0.01* (0.00) 0.01* 0.00 0.01* 0.00
0.06 (0.05) 0.06 0.05 0.06 0.05
No significance
: イデオロギーその
ものに規定力はない
仮説1の検証:意見保有に関する限界効果
2015/02/13 2014年度JGSS研究報告会 10	
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-2 -1 0 1 2 -2 -1 0 1 2 -2 -1 0 1 2
-2 -1 0 1 2 -2 -1 0 1 2
中立 極端:左派 中道:左派
中道:右派 極端:右派
予測される参加数の限界効果
意見保有量
※ 域内は95%信頼区間を示す
極端な左派・右派の
み有意
→ 仮説1を概ね支持
0
1
2
3
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-2 -1 0 1 2 -2 -1 0 1 2 -2 -1 0 1 2
-2 -1 0 1 2 -2 -1 0 1 2
中立 極端:左派 中道:左派
中道:右派 極端:右派
予測される参加数の限界効果
動員圧力の強さ
※ 域内は95%信頼区間を示す
仮説2の検証:動員圧力に関する限界効果
2015/02/13 2014年度JGSS研究報告会 11	
中道カテゴリは有意
であるが,他も有意
→ 仮説2を一部支持
実質効果の検証
2015/02/13 2014年度JGSS研究報告会 12	
-1
0
1
2
2
3
極端:左派 極端:右派 中道:左派 中道:右派 中立
1.76
2.36
2.152.33
2.91
)0.29)0.44
0.01
1.21
2.07
予
測
さ
れ
る
参
加
数
※1) キー変数以外はすべて平均値に固定
※2) 2SDから-2SDの予測値を減じたものを表記
l  意見保有(紫):意見保有の実質効果は,極端イデオロギー層でみられる
l  動員圧力(赤):動員圧力の実質効果は,全カテゴリで同様にみられる
結論と含意
●  仮説1は概ね支持されるが,仮説2は全面的には支持されない
●  極端イデオロギー層:争点への意見保有量が多いほど参加促進
●  中道イデオロギー層:動員圧力が高いほど参加促進,ただし中道イデオ
ロギー層に限らず,全カテゴリで動員は効果あり
→ ① 中道イデオロギー層は,意見保有を高めても投票外参加を促さない
  ② 極端なイデオロギー層による先鋭的な意見が顕在化しやすい?
●  本稿の課題
●  従属変数の精緻化:Dalton(1996)による参加形態の分化
→ 中道イデオロギー層と動員の関係をより明確できる?
●  意見保有とイデオロギーの内生性:潜在変数としての因果仮定の妥当性
→ より現実妥当性の高い理論構築をめざす
2015/02/13 2014年度JGSS研究報告会 13
2015/02/13 2014年度JGSS研究報告会
ご清聴ありがとうございました
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