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平成 18 年度内閣府経済社会総合研究所 イノベーション国際共同研究プロジェクト
社会イノベーション研究会「Social Enterprise / Social Entrepreneurship 関連文献レビュー集」より




“Measuring Economic and Social Impacts of Membership in a Community
Development Financial Institution”
(コミュニティ開発金融機関における経済的・社会的インパクトの評価)
By Jane Kolodinsky, Caryl Stewart and Antonia Bullard
Journal of Family and Economic Issues, Vol.27, No.1, Spring 2006, Springer Science+Business
Media, Inc.
<要約>
                                東京工業大学ノンプロフィットマネジメントコース 茂木 勇


  本研究は、“地域開発金融機関(CDFI: community development financial institution)は、会
員に計測可能な水準の社会的便益をもたらしているのか”という問いに、量的および質的
評価を用いて答えるものである。結論的には CDFI は、参加者の人生の転機として大きく作
用していて、必要とする住宅が買えるようになったり、財政的な将来設計を立てられるよ
うになったり、ついにはその個人ないし世帯が財政面を超えて、ある種のエンパワメント
を達成することが分かった。
  また、総じて、CDFI のもたらすインパクトは、「低所得かつ低学歴な世帯」「子育て世
                                       、
帯」「より多くのサービスを利用する世帯」
  、                 、そして「財産・資産形成サービスが最重要と
回答する世帯」において、大きいことが分かった。


  キーワード:銀行業               地域開発金融機関             ファイナンス        低所得      ソーシャル・キャピ
タル


◆はじめに
  都会であれ田舎であれ、孤立していて、与信が欠乏している人がいる。通常の金融機関
はサジを投げ、町金の連中は彼らのなけなしの資産を剥ぎ取り、食い物にする。蓄積され
た財産や教育がなく、また潤沢で信頼できる金融サービスを利用できないため、彼ら個人、
世帯、そして地域コミュニティまで、抜け出せない貧困、借金、堕落、そして絶望に直面
することになる。
  この状況は、米国内でも諸外国でも、およそどこでも見られる光景である。米国では、
金融業界の大変革が’70~’80 年代に行われ、これにより低所得者層は貯蓄、小切手、モーゲ
ージローンをはじめとする金融サービスから閉め出されていった(Barr 2004, Campden
1998)。
  1970 年代に、シカゴの Shore 銀行やノースカロライナのセルフヘルプなどは、新しいタ
イプの貧困解消戦略となる地域開発金融会社(CDFI)の先駆けとなった。CDFI はそれまで
非営利セクターで採られていた手法ではなく、むしろ金融業界のそれに近いスタイルを採
った。



                                                                                       378
平成 18 年度内閣府経済社会総合研究所 イノベーション国際共同研究プロジェクト
社会イノベーション研究会「Social Enterprise / Social Entrepreneurship 関連文献レビュー集」より




  CDFI は民間セクターに属し、コミュニティ開発を第 1 ミッションとする金融専門のイン
ターミディアリーである。CDFI はマーケット原理に基づきながら、地域密着の経営を行う
組織であり、活動の成果指標として金融業績と地域開発成果の 2 つの指標を用いている。
  伝統的な NPO が助成金を受けて事業プログラムを実施していたのに対し、CDFI は社会
的目標達成のために、公的資金、慈善的資金、民間資金と、融資、投資その他の金融業界
が提供する各種のサービスとを組み合わせて提供している。
  CDFI は、金融業界で主流の仮説―低所得層は信用リスクが乏しいという経済合理的な理
由があるために与信が欠乏している―に対して異を唱えた。彼らは、財政的に自律持続的
な手法でサービス提供することが可能である旨を実証しようとしはじめた(Shore Bank
Corporation 2002)。
  1994 年、Riegle Community Development and Regulatory Improvement Act が超党派によって
成立、CDFI ファンドが米国財務省に設置された。同法により、銀行やクレジット協会、リ
ボルビング・ローン・ファンド、ベンチャーキャピタル・ファンドを含む CDFI の設立に弾
みをつけ、規模を拡大させようとした。それ以降、CDFI ファンドは 6 億ドル超(700 億円
超)を投じ、米国全土の 675 の CDFI の設立を支えた(米国財務省 2003)。
  CDFI は比較的、順調に財政面の業績をあげていった。規定に基づく預託者として、地域
開発銀行と地域開発クレジット協会は、本業機関と同様の監督を受けることとされた。そ
の他の CDFI は州法適用ないし監督を受けるが、公的機関からの預金を受託することが認め
られた指定預託者の受けるような監督レベルに比べれば、それはかなり低い水準のもので
ある。これらの CDFI には、例えば地域開発ベンチャーキャピタルないしローンファンドな
どがある。厳しい規制の代わりに、ビジネスとしては、CDFI は投資家や基金創設者たちに、
財務効率性を測るたくさんの指標を用いて、比較的、統一的な報告書を作成するようにな
った。しかしながら、社会的なインパクトを測ることについては、より大きな課題が浮き
彫りとなった。CDFI は対象としている消費者や地域コミュニティの生活ぶりに改善をもた
らしたのか?        本研究は、ある CDFI から得られた調査データを用いて、その質問-CDFI
は会員に対して測定可能な社会的便益をもたらしているか-に答えることとしたい。


◆背景
  本研究では Vermont 州の事例を取りあげる。かつて、同州は山がちな地形、厳しい気候、
痩せた土地、天然資源の少なさ、また地理的にも孤立していることから、米国全土で最も
貧しい州のひとつと言われたこともあった。ここ 30 年ほどで、連邦高速道路が走り、IBM
主力工場ができ、観光産業が立ち上がり、都市緑化や国土保全などが行われたため、比較
的、豊かな州へと転向し、平均家計収入は全国平均の 95%水準となって、高い生活水準と
して有名になった。
  しかし、これらの変化はすべての Vermont 州民に対して繁栄をもたらしたわけではない。
Madeline Kunin 前州知事は Vermont 州民を 2 種類に規定する。一方は、教育を受けており、



                                                                          379
平成 18 年度内閣府経済社会総合研究所 イノベーション国際共同研究プロジェクト
社会イノベーション研究会「Social Enterprise / Social Entrepreneurship 関連文献レビュー集」より




所得水準も高く、おおむね外部転入組、そして経済成長から恩恵を受けるタイプの人間。
他方は、土地生まれで農村部に住んでおり、生活に必要な賃金を稼げていない人間。後者
の Vermont 州民は 90,000 世帯の低所得層を含んでおり(US Census Bureau2000)、彼らは低
賃金・長時間労働ないし季節労働をしつつ、トレーラーハウスや標準以下の古い住宅に暮
らす。すでに働き盛りを過ぎ、子どもたちに上位の教育を受けさせられないでいる。
 1968 年、Vermont 州唯一の都市圏で、低所得者が多く居住する geater Burlington 地域にお
いて、奉仕ベースで社会問題解決に取り組む「Burlington キリスト教奉仕団(BEAM)」が設
立される。20 年間の活動の結果、BEAM は、数々の社会問題は「潤沢な資金と金融サービ
ス」の利用が出来ないことに根源があると分析、1989 年、社会ミッションに基づく金融機
関として Vermont Development Credit Union(VDCU)を設立する。
 VDCU は、
       「低所得者や恵まれない人々に対して、潤沢な資金と金融サービスの提供する
ことにより、資産の形成と草の根レベルのコミュニティ強化を狙う」とするミッションを
掲げるユニークな金融機関である。
○VDCU の概要
 *州政府公認、連邦保証 CU、米国 215 の地域開発 CU、財務省承認の 679CDFI の 1 つ
 *2001 年 VDCU 会員 6,000 名     →   2004 年 VDCU 会員 10,744 名(205 地区より)
 *総資産 2,150 万ドル、融資実績 10,000 件/8,800 万ドル、返済完納率 99.5%


◆先行研究
 ・従来の CDFI のインパクトを扱った研究は、経済的評価に限った議論をしている
 ・CDFI の家計に対する社会的インパクトに焦点を当てた研究を行う必要がある。


◆概念化(Conceptualization)
 経済学の範囲で容易に測定できるような意味合いを超えたインパクト(成果)について、
これまで体系的に研究されてこなかったのには、いくつか理由がある。
 ①そもそも測定しにくい
   「コミュニティの感覚がアップした」ってどうやって定量化するのか?
 ②定義があいまいである
   社会的なインパクトを個人レベルでどう表現する?                       個人の生活の質の向上とは?
 ③関連性が見えづらい
   数ある要素の中で 1 つのプログラムが影響を与えるのは極めて部分的だ


 *こんな複雑で不明瞭なテーマに、どう調査フレームを作ったらよいのか?
 *本研究では『定量的手法+定性的手法』をミックスした方法をとるのが良いだろう。
 (従来の定量的手法だけでは、モチベーション、複雑な関係性、投入→結果の因果関係
が不明)



                                                                        380
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社会イノベーション研究会「Social Enterprise / Social Entrepreneurship 関連文献レビュー集」より




  Organization Theory                      Drucker:基準がないときの基準はどうすれば良いか?
  Family Life Management     →   MIX   ←   Schorr:要は公的目標が達成されたかどうかだ
  Evaluation Theory


                           インパクト測定の概念化



 *本稿ではサービス業の流れを“Inputs-Throughputs-Outputs-Impact”に分類(図 1 参照)
 *さらにインパクトのレベルを 3 つに分類した。すなわち、
   (1)First Level       …クレジットユニオンのメンバー対象
   (2)Second Level …もう少し範囲を広くとったもの
   (3)Third Level       …もう少し範囲を広くとったもの


◆方法論(Methodology)
[データ収集]
 ○アンケート調査(2000 年はじめ)⇒定量的手法に相当(プレ調査)
 *データ出所:ある CDFI で実施したアンケート調査(標本数 3,000/全登録数の 50%
                相当)
 *質問内容:VDCU のメンバーになったことで、生活が良くなりましたか?
 *回答結果:回収率は 8%だったが、その 89%は YES と回答
 *分析結果:VDCU のメンバーになることは生活をポジティブに変える可能性があるこ
   とが分かった
 ○Focus Group Interview 調査(2000 年 6 月)⇒定性的手法に相当(プレ調査)
   FGI メリット:統計的にデータ処理できない等の不利な点はあるが、質的調査を厳格に
                  実施可能
   FGI デメリット:参加者抽出が困難…(1)人の流動性が高い、(2)低所得層の数は
                  定義により異なる
 *データ出所:FGI 参加者 10 名(VDCU での勧誘/電話勧誘/Newsletter 告知)
                  参加の条件&恩典=2 時間拘束/ピザ&ドリンク付き/$20 預金が謝礼
   →NVIVO という質的調査パッケージを使って解析 ⇒ インパクトには 3 つのレベル
 *Impact の 3 つのレベル(プレ調査の結果)




                                                                        381
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                                                (1)Home Dollars Programで自
     (1)借金を返した            (1)財務状況が改善している
                                                己成長した
     (2)高利のクレジットカードを持     (2)持ち家も無理ではないと思
  1st たない               2nd うようになった          3rd (2)自分に自信がついた
  レ                      レ                    レ
      (3)消費節約できる                                 (3)将来的な目標が広がった
  ベ                      ベ                   ベ
  ル (4)与信度が改善した          ル                   ル

     (5)預金できている


 ○本調査(2001 年実施)
 *調査対象 ある CDFI からの無作為抽出サンプル 244 95/6 有意水準相当 for 標本数 6,000)
      :                       (
 *調査方法:電話調査、質問紙調査、WEB 調査
 *質問内容:
   (1)メンバーと CU との関係に関する調査→(結果:表 1、表 2 参照)
     A)なぜ CU に参加したのか(4 変数)
     B)最重要サービスは何か(5 変数)
     C)銀行からサービスを断られたか
     D)人口統計学的質問項目
   ジェンダー、教育(3 変数)、家族構成(4 変数)、年収(3 変数)、年齢(3 変数)
   (2)VDCU に入って自分にインパクトが発生しているか?→(表 3 参照)
     *第 1 レベルでインパクトのあった人:77%                 ※左記より VDCU の会員になる
     *第 2 レベルでインパクトのあった人:72%                  ことは、生活にインパクトを
     *第 3 レベルでインパクトのあった人:67%                  与えるものと思料される!


[統計学的分析]
 *クレジットユニオンの会員になることによって得られるインパクトの期待値は享受す
   る便益の水準とは独立して決定されると考える。例えば、個人の QOL は、CU 会員に
   長い間なり続けることで改善するが、個人から CU への貢献はないという具合である。
 *このことを定式化すると以下になる。なお、y*は個人が受け取るインパクトレベルで
   ある。
     Prob[y*>0]=Φ(γ’z)
     Prob[y*,=0]=1-Φ(γ’z)
   このモデルは 2 本の方程式によって構造化できることになる。
   (1)ベネフィットを得ているかどうか?                  を表す方程式
   (2)どのレベルのベネフィットを得ているか?                     を表す方程式


◆分析結果(Results)
○調査によって、第 1~第 3 インパクトに適用されるいくつかの結果がもたらされた。
 *第 1 に、
       「CU でのサービス利用数」が増えることにより、第 1、第 2、第 3 すべてのレ



                                                                            382
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社会イノベーション研究会「Social Enterprise / Social Entrepreneurship 関連文献レビュー集」より




   ベルにおけるインパクトに関わる期待値が高くなる。
 *第 2 に、
       「CU でのサービス利用数」が増えることにより、第 1、第 2、第 3 すべてのレ
   ベルにおけるインパクトの知覚の度合いが上がること。つまり、CU との関係性を深め
   ることで、インパクトがより大きくなる。
 *第 3 に、「会員の属性」がインパクトを与える。
 *第 4 に、「会員の目標」と「会員にとっての最重要サービス」は、インパクトに影響を
   与える
○測定されたモデルは非線形(non-linear)のため、各変数の係数はそのままインパクトを
 説明することはできない。表 4 は、独立変数それぞれの限界効果を算出したもので、こ
 れらは標本の条件付き平均値をもとに計算されているから、トータルインパクトに対し
 て影響を与える独立変数として説明される。
○インパクトへの貢献
 「サービス利用数の増加」の貢献度が高いが、これのみならず、「CU への参加理由」や
 「最重要サービスと思う内容」も貢献度が高い
○また、人口統計学的な特徴についても、インパクトへの影響はある(但し子どもの数を
 除く)
 *第 1 レベル:[probit]女>男、低所得>高所得、25 歳以下>26-64 歳の層
               [Degree]中卒>高卒以上、2 人大人世帯>2 人以上大人世帯
 *第 2 レベル:[probit]年収 35,000$未満>年収 35,000 以上、2 人以上大人世帯>独身世帯
               [Degree]高卒以下>大卒以上、子どもの数の増加↑、65 歳以上>26-64 歳
               の層
 *第 3 レベル:[probit]高卒>大卒以上、子どもの数が増加するごとに↑
               [Degree]子どもの数の増加↑、高卒以上>大卒以上、低所得者層>高所得
               者層、25 歳未満+65 歳以上>26-64 歳の層


◆ディスカッション-まとめ-(Discussion)
○本研究の目的
 CU 会員が、会員になることで生活が変わるのか否か、またどのように変わるものか、3
 つのレベルで測ることにあった。
○本研究の結果
(1)サービスの利用数を増やすほど、期待値も得られる便益のレベルも高くなること
(2)サービス利用の組合せとして、債務整理やローン利用などの信用関連サービスに重き
   を置くひとは、第 2、第 3 レベルのインパクトが最も大きい
○本研究の結果(内訳)
 *第 1 レベル・インパクト
   お金の管理と貯蓄といった銀行サービスとの関連した便益を想定



                                                                        383
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    →会員になることは、低学歴の単身世帯で経済的に恵まれていない人々に対して、財
      政的に独立するための初めの一歩を提供している
 *第 2 レベル・インパクト
   収入、雇用、住宅といった経済的機会に関連した便益を想定
   →会員になることは、債務を減らし、資産を増やすといった経済機会の拡大


 *第 3 レベル・インパクト
   広義の便益として QOL 向上や自信の獲得を想定
   →低学歴層、年寄り世帯、モーゲージローン利用者に強い相関
○結論
 *会員になることを通じて、「資産となる住宅を獲得すること」、そして「各種のサービ
   ス利用」は会員の生活を改善する。
 *本研究で取り上げた CU の事例は、従来の金融システムからあぶれている恵まれない
   人々に対して、サービス提供を継続することの意味を示している。
●本研究の限界と今後の課題
 *1 つの団体しか扱っていないため、CDFI の組織上の特性がどのように変数に効いてく
   るか、分からない(=複数団体から情報を取るべきである)。
 *伝統的に恵まれない人々の「銀行サービスに関する満たされない需要の代替」に過ぎ
   ないのか或いは「CDFI の運営のどこかが、会員のポジティブなインパクトに寄与」し
   ているのか、明らかにすべきであろう。
 *本研究で扱った指標は、すべて自己申告(自己評価)なので、将来的には会員の貯蓄
   や債務が長期間に渡って、どのように変化したか検証することが出来るかもしれない。
 *ただし、CU にとって、限られた資源のなかで「住宅価値」「雇用状況変化」「収入歴
                              、       、
   年変化」「近所との交わり」等について、データ収集することは、まず無理な話であ
       、
   る。


                                                                        以上




                                                                        384

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【No29】社会的事業の資金調達
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ブレークスルーキャンプ By IMJ キックオフイベント
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2006-23

  • 1. 平成 18 年度内閣府経済社会総合研究所 イノベーション国際共同研究プロジェクト 社会イノベーション研究会「Social Enterprise / Social Entrepreneurship 関連文献レビュー集」より “Measuring Economic and Social Impacts of Membership in a Community Development Financial Institution” (コミュニティ開発金融機関における経済的・社会的インパクトの評価) By Jane Kolodinsky, Caryl Stewart and Antonia Bullard Journal of Family and Economic Issues, Vol.27, No.1, Spring 2006, Springer Science+Business Media, Inc. <要約> 東京工業大学ノンプロフィットマネジメントコース 茂木 勇 本研究は、“地域開発金融機関(CDFI: community development financial institution)は、会 員に計測可能な水準の社会的便益をもたらしているのか”という問いに、量的および質的 評価を用いて答えるものである。結論的には CDFI は、参加者の人生の転機として大きく作 用していて、必要とする住宅が買えるようになったり、財政的な将来設計を立てられるよ うになったり、ついにはその個人ないし世帯が財政面を超えて、ある種のエンパワメント を達成することが分かった。 また、総じて、CDFI のもたらすインパクトは、「低所得かつ低学歴な世帯」「子育て世 、 帯」「より多くのサービスを利用する世帯」 、 、そして「財産・資産形成サービスが最重要と 回答する世帯」において、大きいことが分かった。 キーワード:銀行業 地域開発金融機関 ファイナンス 低所得 ソーシャル・キャピ タル ◆はじめに 都会であれ田舎であれ、孤立していて、与信が欠乏している人がいる。通常の金融機関 はサジを投げ、町金の連中は彼らのなけなしの資産を剥ぎ取り、食い物にする。蓄積され た財産や教育がなく、また潤沢で信頼できる金融サービスを利用できないため、彼ら個人、 世帯、そして地域コミュニティまで、抜け出せない貧困、借金、堕落、そして絶望に直面 することになる。 この状況は、米国内でも諸外国でも、およそどこでも見られる光景である。米国では、 金融業界の大変革が’70~’80 年代に行われ、これにより低所得者層は貯蓄、小切手、モーゲ ージローンをはじめとする金融サービスから閉め出されていった(Barr 2004, Campden 1998)。 1970 年代に、シカゴの Shore 銀行やノースカロライナのセルフヘルプなどは、新しいタ イプの貧困解消戦略となる地域開発金融会社(CDFI)の先駆けとなった。CDFI はそれまで 非営利セクターで採られていた手法ではなく、むしろ金融業界のそれに近いスタイルを採 った。 378
  • 2. 平成 18 年度内閣府経済社会総合研究所 イノベーション国際共同研究プロジェクト 社会イノベーション研究会「Social Enterprise / Social Entrepreneurship 関連文献レビュー集」より CDFI は民間セクターに属し、コミュニティ開発を第 1 ミッションとする金融専門のイン ターミディアリーである。CDFI はマーケット原理に基づきながら、地域密着の経営を行う 組織であり、活動の成果指標として金融業績と地域開発成果の 2 つの指標を用いている。 伝統的な NPO が助成金を受けて事業プログラムを実施していたのに対し、CDFI は社会 的目標達成のために、公的資金、慈善的資金、民間資金と、融資、投資その他の金融業界 が提供する各種のサービスとを組み合わせて提供している。 CDFI は、金融業界で主流の仮説―低所得層は信用リスクが乏しいという経済合理的な理 由があるために与信が欠乏している―に対して異を唱えた。彼らは、財政的に自律持続的 な手法でサービス提供することが可能である旨を実証しようとしはじめた(Shore Bank Corporation 2002)。 1994 年、Riegle Community Development and Regulatory Improvement Act が超党派によって 成立、CDFI ファンドが米国財務省に設置された。同法により、銀行やクレジット協会、リ ボルビング・ローン・ファンド、ベンチャーキャピタル・ファンドを含む CDFI の設立に弾 みをつけ、規模を拡大させようとした。それ以降、CDFI ファンドは 6 億ドル超(700 億円 超)を投じ、米国全土の 675 の CDFI の設立を支えた(米国財務省 2003)。 CDFI は比較的、順調に財政面の業績をあげていった。規定に基づく預託者として、地域 開発銀行と地域開発クレジット協会は、本業機関と同様の監督を受けることとされた。そ の他の CDFI は州法適用ないし監督を受けるが、公的機関からの預金を受託することが認め られた指定預託者の受けるような監督レベルに比べれば、それはかなり低い水準のもので ある。これらの CDFI には、例えば地域開発ベンチャーキャピタルないしローンファンドな どがある。厳しい規制の代わりに、ビジネスとしては、CDFI は投資家や基金創設者たちに、 財務効率性を測るたくさんの指標を用いて、比較的、統一的な報告書を作成するようにな った。しかしながら、社会的なインパクトを測ることについては、より大きな課題が浮き 彫りとなった。CDFI は対象としている消費者や地域コミュニティの生活ぶりに改善をもた らしたのか? 本研究は、ある CDFI から得られた調査データを用いて、その質問-CDFI は会員に対して測定可能な社会的便益をもたらしているか-に答えることとしたい。 ◆背景 本研究では Vermont 州の事例を取りあげる。かつて、同州は山がちな地形、厳しい気候、 痩せた土地、天然資源の少なさ、また地理的にも孤立していることから、米国全土で最も 貧しい州のひとつと言われたこともあった。ここ 30 年ほどで、連邦高速道路が走り、IBM 主力工場ができ、観光産業が立ち上がり、都市緑化や国土保全などが行われたため、比較 的、豊かな州へと転向し、平均家計収入は全国平均の 95%水準となって、高い生活水準と して有名になった。 しかし、これらの変化はすべての Vermont 州民に対して繁栄をもたらしたわけではない。 Madeline Kunin 前州知事は Vermont 州民を 2 種類に規定する。一方は、教育を受けており、 379
  • 3. 平成 18 年度内閣府経済社会総合研究所 イノベーション国際共同研究プロジェクト 社会イノベーション研究会「Social Enterprise / Social Entrepreneurship 関連文献レビュー集」より 所得水準も高く、おおむね外部転入組、そして経済成長から恩恵を受けるタイプの人間。 他方は、土地生まれで農村部に住んでおり、生活に必要な賃金を稼げていない人間。後者 の Vermont 州民は 90,000 世帯の低所得層を含んでおり(US Census Bureau2000)、彼らは低 賃金・長時間労働ないし季節労働をしつつ、トレーラーハウスや標準以下の古い住宅に暮 らす。すでに働き盛りを過ぎ、子どもたちに上位の教育を受けさせられないでいる。 1968 年、Vermont 州唯一の都市圏で、低所得者が多く居住する geater Burlington 地域にお いて、奉仕ベースで社会問題解決に取り組む「Burlington キリスト教奉仕団(BEAM)」が設 立される。20 年間の活動の結果、BEAM は、数々の社会問題は「潤沢な資金と金融サービ ス」の利用が出来ないことに根源があると分析、1989 年、社会ミッションに基づく金融機 関として Vermont Development Credit Union(VDCU)を設立する。 VDCU は、 「低所得者や恵まれない人々に対して、潤沢な資金と金融サービスの提供する ことにより、資産の形成と草の根レベルのコミュニティ強化を狙う」とするミッションを 掲げるユニークな金融機関である。 ○VDCU の概要 *州政府公認、連邦保証 CU、米国 215 の地域開発 CU、財務省承認の 679CDFI の 1 つ *2001 年 VDCU 会員 6,000 名 → 2004 年 VDCU 会員 10,744 名(205 地区より) *総資産 2,150 万ドル、融資実績 10,000 件/8,800 万ドル、返済完納率 99.5% ◆先行研究 ・従来の CDFI のインパクトを扱った研究は、経済的評価に限った議論をしている ・CDFI の家計に対する社会的インパクトに焦点を当てた研究を行う必要がある。 ◆概念化(Conceptualization) 経済学の範囲で容易に測定できるような意味合いを超えたインパクト(成果)について、 これまで体系的に研究されてこなかったのには、いくつか理由がある。 ①そもそも測定しにくい 「コミュニティの感覚がアップした」ってどうやって定量化するのか? ②定義があいまいである 社会的なインパクトを個人レベルでどう表現する? 個人の生活の質の向上とは? ③関連性が見えづらい 数ある要素の中で 1 つのプログラムが影響を与えるのは極めて部分的だ *こんな複雑で不明瞭なテーマに、どう調査フレームを作ったらよいのか? *本研究では『定量的手法+定性的手法』をミックスした方法をとるのが良いだろう。 (従来の定量的手法だけでは、モチベーション、複雑な関係性、投入→結果の因果関係 が不明) 380
  • 4. 平成 18 年度内閣府経済社会総合研究所 イノベーション国際共同研究プロジェクト 社会イノベーション研究会「Social Enterprise / Social Entrepreneurship 関連文献レビュー集」より Organization Theory Drucker:基準がないときの基準はどうすれば良いか? Family Life Management → MIX ← Schorr:要は公的目標が達成されたかどうかだ Evaluation Theory インパクト測定の概念化 *本稿ではサービス業の流れを“Inputs-Throughputs-Outputs-Impact”に分類(図 1 参照) *さらにインパクトのレベルを 3 つに分類した。すなわち、 (1)First Level …クレジットユニオンのメンバー対象 (2)Second Level …もう少し範囲を広くとったもの (3)Third Level …もう少し範囲を広くとったもの ◆方法論(Methodology) [データ収集] ○アンケート調査(2000 年はじめ)⇒定量的手法に相当(プレ調査) *データ出所:ある CDFI で実施したアンケート調査(標本数 3,000/全登録数の 50% 相当) *質問内容:VDCU のメンバーになったことで、生活が良くなりましたか? *回答結果:回収率は 8%だったが、その 89%は YES と回答 *分析結果:VDCU のメンバーになることは生活をポジティブに変える可能性があるこ とが分かった ○Focus Group Interview 調査(2000 年 6 月)⇒定性的手法に相当(プレ調査) FGI メリット:統計的にデータ処理できない等の不利な点はあるが、質的調査を厳格に 実施可能 FGI デメリット:参加者抽出が困難…(1)人の流動性が高い、(2)低所得層の数は 定義により異なる *データ出所:FGI 参加者 10 名(VDCU での勧誘/電話勧誘/Newsletter 告知) 参加の条件&恩典=2 時間拘束/ピザ&ドリンク付き/$20 預金が謝礼 →NVIVO という質的調査パッケージを使って解析 ⇒ インパクトには 3 つのレベル *Impact の 3 つのレベル(プレ調査の結果) 381
  • 5. 平成 18 年度内閣府経済社会総合研究所 イノベーション国際共同研究プロジェクト 社会イノベーション研究会「Social Enterprise / Social Entrepreneurship 関連文献レビュー集」より (1)Home Dollars Programで自 (1)借金を返した (1)財務状況が改善している 己成長した (2)高利のクレジットカードを持 (2)持ち家も無理ではないと思 1st たない 2nd うようになった 3rd (2)自分に自信がついた レ レ レ (3)消費節約できる (3)将来的な目標が広がった ベ ベ ベ ル (4)与信度が改善した ル ル (5)預金できている ○本調査(2001 年実施) *調査対象 ある CDFI からの無作為抽出サンプル 244 95/6 有意水準相当 for 標本数 6,000) : ( *調査方法:電話調査、質問紙調査、WEB 調査 *質問内容: (1)メンバーと CU との関係に関する調査→(結果:表 1、表 2 参照) A)なぜ CU に参加したのか(4 変数) B)最重要サービスは何か(5 変数) C)銀行からサービスを断られたか D)人口統計学的質問項目 ジェンダー、教育(3 変数)、家族構成(4 変数)、年収(3 変数)、年齢(3 変数) (2)VDCU に入って自分にインパクトが発生しているか?→(表 3 参照) *第 1 レベルでインパクトのあった人:77% ※左記より VDCU の会員になる *第 2 レベルでインパクトのあった人:72% ことは、生活にインパクトを *第 3 レベルでインパクトのあった人:67% 与えるものと思料される! [統計学的分析] *クレジットユニオンの会員になることによって得られるインパクトの期待値は享受す る便益の水準とは独立して決定されると考える。例えば、個人の QOL は、CU 会員に 長い間なり続けることで改善するが、個人から CU への貢献はないという具合である。 *このことを定式化すると以下になる。なお、y*は個人が受け取るインパクトレベルで ある。 Prob[y*>0]=Φ(γ’z) Prob[y*,=0]=1-Φ(γ’z) このモデルは 2 本の方程式によって構造化できることになる。 (1)ベネフィットを得ているかどうか? を表す方程式 (2)どのレベルのベネフィットを得ているか? を表す方程式 ◆分析結果(Results) ○調査によって、第 1~第 3 インパクトに適用されるいくつかの結果がもたらされた。 *第 1 に、 「CU でのサービス利用数」が増えることにより、第 1、第 2、第 3 すべてのレ 382
  • 6. 平成 18 年度内閣府経済社会総合研究所 イノベーション国際共同研究プロジェクト 社会イノベーション研究会「Social Enterprise / Social Entrepreneurship 関連文献レビュー集」より ベルにおけるインパクトに関わる期待値が高くなる。 *第 2 に、 「CU でのサービス利用数」が増えることにより、第 1、第 2、第 3 すべてのレ ベルにおけるインパクトの知覚の度合いが上がること。つまり、CU との関係性を深め ることで、インパクトがより大きくなる。 *第 3 に、「会員の属性」がインパクトを与える。 *第 4 に、「会員の目標」と「会員にとっての最重要サービス」は、インパクトに影響を 与える ○測定されたモデルは非線形(non-linear)のため、各変数の係数はそのままインパクトを 説明することはできない。表 4 は、独立変数それぞれの限界効果を算出したもので、こ れらは標本の条件付き平均値をもとに計算されているから、トータルインパクトに対し て影響を与える独立変数として説明される。 ○インパクトへの貢献 「サービス利用数の増加」の貢献度が高いが、これのみならず、「CU への参加理由」や 「最重要サービスと思う内容」も貢献度が高い ○また、人口統計学的な特徴についても、インパクトへの影響はある(但し子どもの数を 除く) *第 1 レベル:[probit]女>男、低所得>高所得、25 歳以下>26-64 歳の層 [Degree]中卒>高卒以上、2 人大人世帯>2 人以上大人世帯 *第 2 レベル:[probit]年収 35,000$未満>年収 35,000 以上、2 人以上大人世帯>独身世帯 [Degree]高卒以下>大卒以上、子どもの数の増加↑、65 歳以上>26-64 歳 の層 *第 3 レベル:[probit]高卒>大卒以上、子どもの数が増加するごとに↑ [Degree]子どもの数の増加↑、高卒以上>大卒以上、低所得者層>高所得 者層、25 歳未満+65 歳以上>26-64 歳の層 ◆ディスカッション-まとめ-(Discussion) ○本研究の目的 CU 会員が、会員になることで生活が変わるのか否か、またどのように変わるものか、3 つのレベルで測ることにあった。 ○本研究の結果 (1)サービスの利用数を増やすほど、期待値も得られる便益のレベルも高くなること (2)サービス利用の組合せとして、債務整理やローン利用などの信用関連サービスに重き を置くひとは、第 2、第 3 レベルのインパクトが最も大きい ○本研究の結果(内訳) *第 1 レベル・インパクト お金の管理と貯蓄といった銀行サービスとの関連した便益を想定 383
  • 7. 平成 18 年度内閣府経済社会総合研究所 イノベーション国際共同研究プロジェクト 社会イノベーション研究会「Social Enterprise / Social Entrepreneurship 関連文献レビュー集」より →会員になることは、低学歴の単身世帯で経済的に恵まれていない人々に対して、財 政的に独立するための初めの一歩を提供している *第 2 レベル・インパクト 収入、雇用、住宅といった経済的機会に関連した便益を想定 →会員になることは、債務を減らし、資産を増やすといった経済機会の拡大 *第 3 レベル・インパクト 広義の便益として QOL 向上や自信の獲得を想定 →低学歴層、年寄り世帯、モーゲージローン利用者に強い相関 ○結論 *会員になることを通じて、「資産となる住宅を獲得すること」、そして「各種のサービ ス利用」は会員の生活を改善する。 *本研究で取り上げた CU の事例は、従来の金融システムからあぶれている恵まれない 人々に対して、サービス提供を継続することの意味を示している。 ●本研究の限界と今後の課題 *1 つの団体しか扱っていないため、CDFI の組織上の特性がどのように変数に効いてく るか、分からない(=複数団体から情報を取るべきである)。 *伝統的に恵まれない人々の「銀行サービスに関する満たされない需要の代替」に過ぎ ないのか或いは「CDFI の運営のどこかが、会員のポジティブなインパクトに寄与」し ているのか、明らかにすべきであろう。 *本研究で扱った指標は、すべて自己申告(自己評価)なので、将来的には会員の貯蓄 や債務が長期間に渡って、どのように変化したか検証することが出来るかもしれない。 *ただし、CU にとって、限られた資源のなかで「住宅価値」「雇用状況変化」「収入歴 、 、 年変化」「近所との交わり」等について、データ収集することは、まず無理な話であ 、 る。 以上 384