This paper introduces the actualities of branchless banking, a financial enterprise without branches, to show that, despite its current difficulties, it can effectively help developing countries modernize. It enables the poor in these countries to easily access to financial services. I describe the characteristics of this new financial project in comparision with microfinance and mobile banking. Then, by taking M-PESA in Kenya
as a pioneering example of branchless banking, I suggest that M-PESA's success crucially illuminates the future expansion of the brand-new banking.
1. ブランチレスバンキングの現状
Branchless Banking in Actuality
宮本 瑛
Ei Miyamoto
miyamoto@towardthevirtual.com
This paper introduces the actualities of branchless banking, a financial enterprise without branches, to
show that, despite its current difficulties, it can effectively help developing countries modernize. It enables
the poor in these countries to easily access to financial services. I describe the characteristics of this new
financial project in comparision with microfinance and mobile banking. Then, by taking M-PESA in Kenya
as a pioneering example of branchless banking, I suggest that M-PESA's success crucially illuminates the
future expansion of the brand-new banking.
キーワード ブランチレスバンキング,モバイルバンキング,マイクロファイナンス,M-PESA
1.ブランチレスバンキングと開発
近年、ブランチレスバンキング(branchless
banking)という言葉が脚光を集めるようになった。
試みにカタカナで表記しておいたこの語は、店頭での
接客を前提とせず、町中の ATM や携帯電話
(mobile)やパソコンを介してサービスを提供する無
店舗型金融を指すものである1
。多くのブランチレス
バンキングでは、代理店(agent)としての小売業者
や郵便局を通じて顧客とのお金の受けわたしをおこな
なっている。
ブランチレスバンキングは、貧しい人々に対する小
規模の金融事業を意味するマイクロファイナンス
(microfinance)と緊密なつながりをもっている。バ
ングラデシュのグラミン銀行(Grameen Bank)が、五
人一組の連帯責任のもとに貧困層に対しお金を貸しつ
ける事業をおこなっていることはよく知られるように
なった。ブランチレスバンキングは、携帯電話などの
ICT(Information and Communication Technology)を取
りいれることで、従来のマイクロファイナンスを効率
化しようとする試みである。
ここで、アフリカをはじめとする開発途上国におけ
る金融を取りまく独特な状況を概観しておく必要があ
るだろう。途上国の金融制度は、先進国のそれとは比
較にならないほど低い水準にある。アフリカの多くの
地域では社会的基盤は脆弱であり、人口密度は低く、
都市と農村には長い距離がある。法律や経済をはじめ、
1
現在のところ数は限られているが、ブランチレスバンキ
ングを冠した先行研究には、(Ivatury・Mas, 2008);(Mas,
2009);(Pickens・Porteous・Rotman, 2009)などがある。
また、これらと非常に近しい問題意識を抱く研究としては、
モ バ イ ル バ ン キ ン グ を 論 じ た ( Duncombe, 2009 ) ;
(Kumar・McKay・Rotman, 2010)などが挙げられる。なか
でも、モバイルバンキングに関する研究の包括的なレビュ
ーである(Duncombe・Boateng, 2009)は味読に値する。
保健や教育などの基礎的な制度は未整備で、金融機関
が事業を展開するための環境はそろっていない。こう
した状況は、開発途上国において、人々が金融サービ
スを利用するうえでの足枷となっている。
実際に、農村の貧しい人々が金融機関を利用するに
は様々な障壁がある。銀行を利用しようにも、支店が
ある近隣の都市までいくことが難しい。貯金や送金な
どの需要があっても、金融機関を利用するために休日
を返上して遠距離バスに搭乗することは現実的ではな
いのだ。そもそも多くの銀行は、貧困層に対して門戸
を開いてさえいない。多くのマイクロファイナンス実
施機関(MFI: Microfinance Institution)は、こうした状
況のなかにビジネスのチャンスを見出し、二輪車や自
転車をもちいて行員を農村まで派遣することで、お金
を回収したり借り手の相談に乗ったりといった業務を
おこなっている。
ブランチレスバンキングは、ICT を最大限に活用す
ることで、従来のマイクロファイナンスにつきもので
あった金融機関と顧客との金銭と情報のやりとりを効
率化しようとする試みである。携帯電話から送金がで
きるようになれば、小額の振りこみのために人々が遠
くの都市にまで足を運ぶ必要はなくなる。MFI にとっ
ても、現地を訪問する営業活動は最小限にとどめ、通
話やメールで顧客との関係を維持することが可能にな
る。金融機関を利用するために来店が不要であること
は、先進国での同種のサービスが便利である以上に、
開発途上国において重要な意義をもっているのだ。
ブランチレスバンキングは、マイクロファイナンス
と同様、開発(development)の一つの試みとして位
置づけられる。典型的な農村の貧困層は、通常の金融
サービスを利用できないがために、家のなかにお金を
隠しておいたり、家族に送るための現金の入った封筒
を知りあいの手に委ねたりと、安全とはいいがたい行
動を取らざるをえなかった。携帯電話やパソコンから
5. 5
ないことに加え、金銭に関する健全なリテラシーをも
ちえないことに起因するものである。携帯電話を介し
てフォーマルな金融サービスを利用できるようになる
ことは、安全な貯金や決済の手段を用意することに加
え、お金に関するきちんとした感覚を人々のなかに養
う効果をもつものと考えられる。ブランチレスバンキ
ングは、金融という観点から開発途上国の人々の生活
を近代化する意義をもっているのだ。
現状よりさらに携帯電話を用いたお金のやりとりが
一般的なものとなれば、電子的なアカウントを利用し、
マイクロファイナンスの核たる融資をおこなうことも
可能になるだろう。金融機関からの借りいれはもちろ
ん、借り手からの継続的な返済は、電子的にやりとり
されることで安全かつ便利なものとなる。これと預金
や為替を組みあわせることで、蓄えられたお金を引き
だしたり、家族に送ったりすることも簡単にできるよ
うになる。ブランチレスバンキングにこの種のサービ
スを導きいれることは、金融機関と貧しい人々の双方
にとって利の多いものである。インフラとしての金融
サービスは、ひとたび整備されることで、先進国と同
等の生活を貧しい人にもたらしていく。
M-PESA は当初はマイクロファイナンスの提供を想
定して設計されていたのだが、リリース前におこなわ
れた予備調査の結果を踏まえ、急遽、送金を主たる目
的としたものに変更されたという経緯がある(Mas・
Morawczynski, 2009, p.89);(Mas・Radcliffe, 2010,
p.12)。M-PESA の登場をみたケニアにおいて貧困層
への事業融資にどれだけのニーズがあるのかは不明で
あるが、M-PESA がこの国においてこれだけの存在感
を獲得したいまとなっては、そのネットワークを別の
使途に広げることも十分に考えられるであろう。送金
以外にも、年金ファンドの管理・賃金の支給・緊急ロ
ーンの支払い・保険やクレジットの提供など、M-
PESA は幅広くもちいられうるものである(Omwansa,
2009, p.116)。さらに、M-PESA の経験にもとづき、
ブランチレスバンキングを他国・他地域に移転するこ
とでさらに広い範囲で金融の近代化が可能となろう8
。
3.ブランチレスバンキングの今後
以上、ケニアにおけるM-PESAをブランチレスバン
キングの先駆的な例として取りあげてきた。
ブランチレスバンキングは途上国を開発するための
万能のツールでは決してない。電波が届かない場所で
は携帯電話は使いものにならないが、そうしたところ
は開発途上国にはまだまだ多い(Singh, 2009)。有線
の電話ほどではないが、携帯電話を安定して使用でき
るようにするには大きな額の投資が必要となる。いか
8
このような展望に対する懸念もみられる。M-PESA はケ
ニアでは一定の成功を収めたものの、国柄など様々な違い
から隣国のタンザニアでは苦戦している(Camner・Pulver・
Sjöblom, 2009, pp.5-6)。M-PESA について詳細な調査をおこ
なった Morawczynski 自身、「ケニアでのモバイルバンキン
グの成功は他のところでは起こりえないかもしれない」と
述べている(Economist, 2009)。M-PESA の成功を広げてい
くために課題は数多い。
に革新的なものであろうと、技術の力によって一国全
体の状況を早急に変えることは困難である。
また、携帯電話やコンピュータなどのICTに大きく依
存した試みであるがゆえの弱点もある。高齢であるこ
とや読みかきができないことは、人々がブランチレス
バンキングを利用するうえでの支障となる。開発にお
いてICTを活用しようとする取りくみがしばしば批判さ
れるように、ブランチレスバンキングの当事者はデジ
タルデバイド(digital divide)の問題に無関心であって
はならないのだ。
さらに懸念されるのはセキュリティ上の問題である。
この種のサービスを運営するとき、他人へのなりすま
しやパスワードの盗用など、一部のユーザーによる悪
用の可能性をつねに念頭に置いておく必要がある。情
報や金融に関するリテラシーに乏しい途上国の人々を
対象としたものであるだけに、詐欺や横領などの犯罪
を未然に防ぐ制度やシステムの設計が求められる。
これらの欠点の一方で、ブランチレスバンキングが
まだまだ緒についたばかりの事業であることは銘記さ
れるべきであろう。銀行が主導する(banking-led)サ
ービスにすべきか、それとも通信事業者が主導する
(telecom-led)サービスにすべきかなど、試行錯誤を
くりかえしつつ各国の当事者たちはブランチレスバン
キングを実現しようとしている9
。ガーナやバングラデ
シュや南アフリカなど、世界の各地でM-PESAからの
影響を受けた事業がおこなわれはじめているのだ。
さらに付言するならば、島嶼部や山間部など、都市
化が進んでいない日本の奥地においてもブランチレス
バンキングがもたらしうるものが非常に大きいことは
忘却されてはならない。それぞれの事例の蓄積に加え、
これらに対する研究の蓄積が待たれるところである。
ブランチレスバンキングの動向から、今後とも目を離
せそうにない。
(みやもとえい・都市銀行勤務)
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