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2011.11.27

第 30 回庄内医師集談会(酒田)




   慢性連日性頭痛と薬物乱用について


                    黒木  亮
                    くろき脳神経クリニック
                    酒田市富士見町3丁目
第 28 回庄内医師集談会(酒田)     2009.11.29



頭痛の外来診療、特に薬物乱用頭痛について



第 29 回庄内医師集談会(鶴岡) 2010.11.28


薬物乱用頭痛、その後


                                   2
前回のまとめ
• 開院以来2年 9 ヶ月の間に、分類可能な一次性
  頭痛 1356 例を診察した。
• 最も多いのは筋収縮性頭痛 684 例 (50. 4%) 。
• 続いて片頭痛 425 例 (31.3%) 。
• 安易な鎮痛剤服用による「薬物乱用頭痛」を
  27 例 (2.0%) 経験した。
慢性連日性頭痛 (CDH) とは
•   1 日 4 時間以上の頭痛が 1 ヶ月に 15 日間以上
•   3 ヶ月 (6 ヶ月、 180 日以上とも ) 以上存在
•   次の4型に分類:1)変容性片頭痛 (66%)       
        2)慢性緊張型頭痛 (27%)
        3)新規発症持続性連日性頭痛 (7%)
        4)持続性片側頭痛
•   薬物乱用を伴うものと伴わないものに細分
•   国際頭痛学会分類 (ICHD-II) に記載ないが、現在2)3)4)は最
    新分類でコード化可能。
頭痛患者:1875例 ( H20.3.3 〜 H23.11.26)
★ ( 二次性または分類不能を除く)



     • MCH :          
       850 例 (45. 3%)
     • 片頭痛:                 634
       例 (33.8%)
     • 混合性頭痛:         216 例  
       ( 11.5% )
     • 群発頭痛:         
       11 例   (0.5%)
     • 薬物乱用頭痛:        47例  
症例1
初診時 32 才、女性
病歴: 25 才頃から頭痛が多くなった。
  片頭痛タイプ。市販薬飲んでいた。
  27 才妊娠出産。この時期は頭痛は軽かった。
  それ以降、また頭痛持ちになった。
  H19 年からAクリニック受診。片頭痛の診断でレルパックスとロ キ
  ソニン処方。頭痛があるとすぐに飲む。
  H21 年3月〜毎日ロキソニン内服(日に2、3回)。
  レルパックスもほぼ毎日服用(言えばくれる)。
現症:神経脱落症状なし
    脳 MRI で器質的疾患を否定。
症例1
治療:
1)薬物乱用頭痛であることの説明・教育。
2)極力鎮痛剤を控える必要があることを指導。
3)デパケン R(200) 2錠分2から開始。
  テルネリン (1) 3錠分3、デパス (0.5) 1錠就寝前も追加。
4)鎮痛剤は SG 顆粒に変更。徐々に使用を控えるように
  指導。片頭痛タイプにはゾーミッグを処方。
5)経過をみながらデパケン R(200) 3錠 / 日に増量。トリプ
 タノール (10) 1錠分2、ミグシス (5) 2錠分2も追加。
症例1

N:
16
T:6




N:2
T:1
症例1
経過:
  1ヶ月程で、1日中まったく頭痛のない日が出現するよう
 になる。鎮痛剤の使用頻度が減少する。典型的な片頭痛が主
 体となってくる。トリプタン製剤の使用頻度が増えると、教
 育指導および「予防薬」増量。 
  その後、デパケン減量、トリプタノール中止しても頭痛の
 頻度、程度は増えず。
  重苦しい頭痛に対して鎮痛剤を服用すると、以前より早く
 効いてくる感じがする。
  まったく頭痛がなく、頓挫薬を使用する頻度が激減し現在
 に至っている。




                           9
薬物乱用の実例
• 某医院から処方されたクリアミン A を毎日、多
  い日には1日3錠使用して5年。
• 某医院で SG 顆粒1日3包処方1年以上。
• 某病院職員で、頭痛に対し毎朝ロキソニンを必
  ず1錠、頭痛があればさらに追加。
• ハッキリエースを1日 2 回 10 年以上。
• 家庭常備鎮痛剤を毎日 30 年使用。



                        10
                        12
治療のまとめ1
• 「薬物乱用頭痛」 MOH は、3年9ヶ月で47例
  経験した。
• 5 回以上通院または現在も通院中なのは23例で
  、半数近くの患者が脱落した。 1 回のみの受診
  (次回予約しながら再受診せず)が12名いた。
• 現在も継続通院中 10 例で明らかに鎮痛剤の使用が
  減量出来た。4例で頭痛予防薬・改善剤を必要と
  しなくなり、治癒(寛解)と判断した。




                          11
治療のまとめ2
• 鎮痛剤を減量・中止後2ヶ月以上経過しても頭
  痛が軽減しない MOH を伴わない CDH には、
  変容性片頭痛よりも慢性緊張性頭痛タイプが多
  い印象であった。
• チザニジン(テルネリン)などの筋弛緩薬やエ
  チゾラム(デパス)を投与しても改善しない例
  には、アミトリプチン(トリプタノール)やパ
  ロキセチン(パキシル)などの SSRI が有効で
  あった。
• 3例で、頭痛予防薬、筋弛緩薬、漢方薬に
  SSRI や抗不安薬などを併用し、頭痛の頻度は
  著明に減少した。
                          12
CDH 患者の治療
• 慢性の頭痛となった原因薬物を突き止め、これを減量、中
  止する。
• 慢性的に使用している鎮痛剤を中止しても改善しない
  MOH を伴わない CDH には、アミトリプチンや SSRI など
  が有効とされている。
• 頭痛に対する痛覚閾値の低下(感受性の亢進)を改善する
  ために VPA などの抗てんかん薬が有効とされており、実
  際これらの投与によって頭痛の頻度・程度が極端に減少し
  たり、ほとんど鎮痛剤が必要なくなった患者も経験した。
結語
• 「慢性連日性頭痛」 (CDH) の診断は、疑う事から始まり、
  正しい診断と適切な治療で改善する。
• CDH 患者のうち、薬物乱用頭痛 (MOH) は指導教育しても脱
  落しやすい傾向があるが、 MOH を伴わない CDH は適切な
  治療を行えば継続通院する傾向が見られた。
• 頭痛診療を行う医師には診断治療の豊富な知識が必要であ
  り、安易な鎮痛薬投与によって「医源性」 MOH を作り出し
  ている可能性もある。
• 「慢性連日性頭痛」や「薬物乱用頭痛」について正しい知
  識と経験を持ち、頭痛ダイアリーなどを利用して適切な患
  者教育が必要である。
薬物乱用頭痛とは(3)
  薬物乱用頭痛( MOH )診断基準( 2005 )
A. 頭痛は1ヵ月に 15 日以上存在し、 C および D を満た
   す
B. 頭痛の急性治療および対症療法(あるいはその両方)
   のために使用された1つ以上の薬物を3ヵ月を超えて
   定期的に乱用している
C. 頭痛は薬物乱用のある間に出現もしくは著明に悪化す
   る
D. 乱用薬物の使用中止後、 2 ヵ月に以内に頭痛が消失、
   または以前のパターンにもどる
薬物乱用頭痛とは(4)
慢性片頭痛と薬物乱用頭痛の付録診断基準の追加について (2006)
A8.2 薬物乱用頭痛の診断基準 ( Appendix 8.2 )
• A  頭痛は1ヵ月に 15 日以上存在する.
• B  8.2 のサブフォームで規定される 1 種類以上の急性期・対
  症的治療薬を 3 ヵ月を超えて定期的に乱用している     
               1.   3 ヵ月以上の期間、定期的に1ヵ月に
 10 日以上エルゴタミン、  トリプタン、オピオイド、または複合鎮痛薬
 を使用している                           
             2.  単一成分の鎮痛薬、あるいは、単一では乱用
 には該当しないエルゴタミン、トリプタン、オピオイドのいずれかの組み合
 わせで合計月に 15 日以上の頻度で 3 ヵ月を超えて使用している.
• C  頭痛は薬物乱用により発現したか、著明に悪化している.
まとめ
• 初診時だけでなく再診時以降も繰り返して、鎮痛剤
  乱用の弊害を説明指導する必要性を感じた。
• 鎮痛剤の処方を徐々に減らし、頭痛の性状に合致す
  る対症薬、予防薬を選択し投与する。
• 患者の自覚を促し、使用薬剤量を減らす上でも「頭
  痛ダイアリー」は有用である。
• 薬物乱用頭痛に関する無関心のせいか、安易に鎮痛
  剤やトリプタン製剤を長期大量に処方されている症
  例もあり、啓蒙活動の必要性を感じている。
痛み止めをどれくらい
服用しているか?

NSAIDs やトリプタン製剤な
どの

•種類
•量 / 回数
•期間
•効果

を詳細に聴取する
薬物乱用頭痛とは(1)
  国際頭痛分類第 2 版
「 8. 物質またはその離脱による頭痛」
• 8.1 急性の物質使用または曝露による頭痛
• 8.2 薬物乱用頭痛 (MOH)
• 8.3 慢性薬物使用による有害事象としての頭痛
• 8.4 物質離脱による頭痛
薬物乱用頭痛とは(2)
MOH (Medication Overuse Headache)
• 8.2.1 エルゴタミン乱用頭痛
• 8.2.2 トリプタン乱用頭痛
• 8.2.3 鎮痛薬乱用頭痛
• 8.2.4 オピオイド乱用頭痛
• 8.2.5 複合薬物乱用頭痛
• 8.2.6 その他の薬物乱用頭痛
• 8.2.7 薬物乱用頭痛の疑い
薬物乱用頭痛発生の理論
• 痛み調整系がコントロールを失い、痛み閾値が低下
  したもの
• 慢性頭痛患者はセロトニン性中枢性痛覚抑制系に障
  害がある
• 鎮痛剤連用によりさらに障害される( down
  regulation )=痛覚閾値が低下する
• エルゴタミン連用者は辺縁系、視床下部・下垂体・
  副腎系、青斑核のレセプターに変化があるという
薬物乱用頭痛患者の見分け方

1 . 頭痛が頻回に起こる
2. 痛み止めが効きにくい / 効かない
3. 2 日に1回以上のペースで数ヶ月に渡っ
   て鎮痛剤を服用している
4. 片頭痛の要素を持っている事が多い

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  • 1. 2011.11.27 第 30 回庄内医師集談会(酒田) 慢性連日性頭痛と薬物乱用について 黒木  亮 くろき脳神経クリニック 酒田市富士見町3丁目
  • 2. 第 28 回庄内医師集談会(酒田) 2009.11.29 頭痛の外来診療、特に薬物乱用頭痛について 第 29 回庄内医師集談会(鶴岡) 2010.11.28 薬物乱用頭痛、その後 2
  • 3. 前回のまとめ • 開院以来2年 9 ヶ月の間に、分類可能な一次性 頭痛 1356 例を診察した。 • 最も多いのは筋収縮性頭痛 684 例 (50. 4%) 。 • 続いて片頭痛 425 例 (31.3%) 。 • 安易な鎮痛剤服用による「薬物乱用頭痛」を 27 例 (2.0%) 経験した。
  • 4. 慢性連日性頭痛 (CDH) とは • 1 日 4 時間以上の頭痛が 1 ヶ月に 15 日間以上 • 3 ヶ月 (6 ヶ月、 180 日以上とも ) 以上存在 • 次の4型に分類:1)変容性片頭痛 (66%)                2)慢性緊張型頭痛 (27%)         3)新規発症持続性連日性頭痛 (7%)         4)持続性片側頭痛 • 薬物乱用を伴うものと伴わないものに細分 • 国際頭痛学会分類 (ICHD-II) に記載ないが、現在2)3)4)は最 新分類でコード化可能。
  • 5. 頭痛患者:1875例 ( H20.3.3 〜 H23.11.26) ★ ( 二次性または分類不能を除く) • MCH :           850 例 (45. 3%) • 片頭痛:        634 例 (33.8%) • 混合性頭痛:  216 例   ( 11.5% ) • 群発頭痛:          11 例   (0.5%) • 薬物乱用頭痛: 47例  
  • 6. 症例1 初診時 32 才、女性 病歴: 25 才頃から頭痛が多くなった。   片頭痛タイプ。市販薬飲んでいた。   27 才妊娠出産。この時期は頭痛は軽かった。   それ以降、また頭痛持ちになった。 H19 年からAクリニック受診。片頭痛の診断でレルパックスとロ キ ソニン処方。頭痛があるとすぐに飲む。 H21 年3月〜毎日ロキソニン内服(日に2、3回)。   レルパックスもほぼ毎日服用(言えばくれる)。 現症:神経脱落症状なし   脳 MRI で器質的疾患を否定。
  • 7. 症例1 治療: 1)薬物乱用頭痛であることの説明・教育。 2)極力鎮痛剤を控える必要があることを指導。 3)デパケン R(200) 2錠分2から開始。   テルネリン (1) 3錠分3、デパス (0.5) 1錠就寝前も追加。 4)鎮痛剤は SG 顆粒に変更。徐々に使用を控えるように 指導。片頭痛タイプにはゾーミッグを処方。 5)経過をみながらデパケン R(200) 3錠 / 日に増量。トリプ タノール (10) 1錠分2、ミグシス (5) 2錠分2も追加。
  • 9. 症例1 経過:   1ヶ月程で、1日中まったく頭痛のない日が出現するよう になる。鎮痛剤の使用頻度が減少する。典型的な片頭痛が主 体となってくる。トリプタン製剤の使用頻度が増えると、教 育指導および「予防薬」増量。    その後、デパケン減量、トリプタノール中止しても頭痛の 頻度、程度は増えず。   重苦しい頭痛に対して鎮痛剤を服用すると、以前より早く 効いてくる感じがする。   まったく頭痛がなく、頓挫薬を使用する頻度が激減し現在 に至っている。 9
  • 10. 薬物乱用の実例 • 某医院から処方されたクリアミン A を毎日、多 い日には1日3錠使用して5年。 • 某医院で SG 顆粒1日3包処方1年以上。 • 某病院職員で、頭痛に対し毎朝ロキソニンを必 ず1錠、頭痛があればさらに追加。 • ハッキリエースを1日 2 回 10 年以上。 • 家庭常備鎮痛剤を毎日 30 年使用。 10 12
  • 11. 治療のまとめ1 • 「薬物乱用頭痛」 MOH は、3年9ヶ月で47例 経験した。 • 5 回以上通院または現在も通院中なのは23例で 、半数近くの患者が脱落した。 1 回のみの受診 (次回予約しながら再受診せず)が12名いた。 • 現在も継続通院中 10 例で明らかに鎮痛剤の使用が 減量出来た。4例で頭痛予防薬・改善剤を必要と しなくなり、治癒(寛解)と判断した。 11
  • 12. 治療のまとめ2 • 鎮痛剤を減量・中止後2ヶ月以上経過しても頭 痛が軽減しない MOH を伴わない CDH には、 変容性片頭痛よりも慢性緊張性頭痛タイプが多 い印象であった。 • チザニジン(テルネリン)などの筋弛緩薬やエ チゾラム(デパス)を投与しても改善しない例 には、アミトリプチン(トリプタノール)やパ ロキセチン(パキシル)などの SSRI が有効で あった。 • 3例で、頭痛予防薬、筋弛緩薬、漢方薬に SSRI や抗不安薬などを併用し、頭痛の頻度は 著明に減少した。 12
  • 13. CDH 患者の治療 • 慢性の頭痛となった原因薬物を突き止め、これを減量、中 止する。 • 慢性的に使用している鎮痛剤を中止しても改善しない MOH を伴わない CDH には、アミトリプチンや SSRI など が有効とされている。 • 頭痛に対する痛覚閾値の低下(感受性の亢進)を改善する ために VPA などの抗てんかん薬が有効とされており、実 際これらの投与によって頭痛の頻度・程度が極端に減少し たり、ほとんど鎮痛剤が必要なくなった患者も経験した。
  • 14. 結語 • 「慢性連日性頭痛」 (CDH) の診断は、疑う事から始まり、 正しい診断と適切な治療で改善する。 • CDH 患者のうち、薬物乱用頭痛 (MOH) は指導教育しても脱 落しやすい傾向があるが、 MOH を伴わない CDH は適切な 治療を行えば継続通院する傾向が見られた。 • 頭痛診療を行う医師には診断治療の豊富な知識が必要であ り、安易な鎮痛薬投与によって「医源性」 MOH を作り出し ている可能性もある。 • 「慢性連日性頭痛」や「薬物乱用頭痛」について正しい知 識と経験を持ち、頭痛ダイアリーなどを利用して適切な患 者教育が必要である。
  • 15. 薬物乱用頭痛とは(3)   薬物乱用頭痛( MOH )診断基準( 2005 ) A. 頭痛は1ヵ月に 15 日以上存在し、 C および D を満た す B. 頭痛の急性治療および対症療法(あるいはその両方) のために使用された1つ以上の薬物を3ヵ月を超えて 定期的に乱用している C. 頭痛は薬物乱用のある間に出現もしくは著明に悪化す る D. 乱用薬物の使用中止後、 2 ヵ月に以内に頭痛が消失、 または以前のパターンにもどる
  • 16. 薬物乱用頭痛とは(4) 慢性片頭痛と薬物乱用頭痛の付録診断基準の追加について (2006) A8.2 薬物乱用頭痛の診断基準 ( Appendix 8.2 ) • A  頭痛は1ヵ月に 15 日以上存在する. • B  8.2 のサブフォームで規定される 1 種類以上の急性期・対 症的治療薬を 3 ヵ月を超えて定期的に乱用している                    1.   3 ヵ月以上の期間、定期的に1ヵ月に 10 日以上エルゴタミン、  トリプタン、オピオイド、または複合鎮痛薬 を使用している                                        2.  単一成分の鎮痛薬、あるいは、単一では乱用 には該当しないエルゴタミン、トリプタン、オピオイドのいずれかの組み合 わせで合計月に 15 日以上の頻度で 3 ヵ月を超えて使用している. • C  頭痛は薬物乱用により発現したか、著明に悪化している.
  • 17. まとめ • 初診時だけでなく再診時以降も繰り返して、鎮痛剤 乱用の弊害を説明指導する必要性を感じた。 • 鎮痛剤の処方を徐々に減らし、頭痛の性状に合致す る対症薬、予防薬を選択し投与する。 • 患者の自覚を促し、使用薬剤量を減らす上でも「頭 痛ダイアリー」は有用である。 • 薬物乱用頭痛に関する無関心のせいか、安易に鎮痛 剤やトリプタン製剤を長期大量に処方されている症 例もあり、啓蒙活動の必要性を感じている。
  • 19.
  • 20. 薬物乱用頭痛とは(1) 国際頭痛分類第 2 版 「 8. 物質またはその離脱による頭痛」 • 8.1 急性の物質使用または曝露による頭痛 • 8.2 薬物乱用頭痛 (MOH) • 8.3 慢性薬物使用による有害事象としての頭痛 • 8.4 物質離脱による頭痛
  • 21. 薬物乱用頭痛とは(2) MOH (Medication Overuse Headache) • 8.2.1 エルゴタミン乱用頭痛 • 8.2.2 トリプタン乱用頭痛 • 8.2.3 鎮痛薬乱用頭痛 • 8.2.4 オピオイド乱用頭痛 • 8.2.5 複合薬物乱用頭痛 • 8.2.6 その他の薬物乱用頭痛 • 8.2.7 薬物乱用頭痛の疑い
  • 22. 薬物乱用頭痛発生の理論 • 痛み調整系がコントロールを失い、痛み閾値が低下 したもの • 慢性頭痛患者はセロトニン性中枢性痛覚抑制系に障 害がある • 鎮痛剤連用によりさらに障害される( down regulation )=痛覚閾値が低下する • エルゴタミン連用者は辺縁系、視床下部・下垂体・ 副腎系、青斑核のレセプターに変化があるという
  • 23. 薬物乱用頭痛患者の見分け方 1 . 頭痛が頻回に起こる 2. 痛み止めが効きにくい / 効かない 3. 2 日に1回以上のペースで数ヶ月に渡っ て鎮痛剤を服用している 4. 片頭痛の要素を持っている事が多い