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未来材料:チタン・レアメタル
110711_金曜特別講講座_原稿_未来材料:チタン・レアメタル_final.doc
7/27/2011 11:56:28 AM




未来材料:チタン・レアメタル
                                                           東京大学 生産技術研究所                        岡部 徹
Future Materials: Titanium, Rare Metals
                                 The University of Tokyo, Institute of Industrial Science, Toru H. Okabe

1234567890123456789012345678901234



アニメやSF世界におけるレアメタル


  高校生の皆さんにとって、レアメタルというと、あまり馴染みがないかも
知れませんが、アニメやSFが好きな人にとっては、親しみが持てる材料で
ないでしょうか。なぜなら、近未来の世界を舞台とするアニメやSF映画に
は、未来材料であるレアメタルが溢れかえっているからです。(図1参照)


  一例を挙げると、初期の機動戦士ガンダムのモビルスーツ(MS)の装甲は、
ルナチタンという超高強度のレアメタル合金でつくられています。この合金
は、連邦軍の宇宙要塞・ルナ2というアステロイド基地で採掘されたチタン
(Ti)に、レアアース(希土類金属, Rare Earth Metals, REMs)などを加えて製
造した特殊合金です。この合金を使って作られたガンダムの絶大な戦果を受
けて、のちにガンダリウム合金と名称を改められました。ルナチタンは、チ
タン系超高張力合金に分類されるもので、耐熱性・耐腐食性・靭性・放射線
絶縁性に優れ、高硬度かつ軽量というモビルスーツの装甲として最適な材質
です。しかし、チタン自体の分離・加工の技術的難易度の高さ、高価なレア
メタルを使用する合金であるために非常にコストが高いというデメリットが
SFの世界でも指摘されていました。宇宙世紀 0064 年でもチタンは高価なレ
アメタルなのかも知れません。現実的には、チタンとレアアースは水と油の
ように混ざり合わないのですが、おそらく未来世界では互い反発しあうレア
メタルを上手く混合する特殊技術が完成しているのでしょう。


  また、最近のガンダム00(ダブルオー)では、レアメタルと情報産業の
繁栄によって中東で最も豊かなスイール国王という未来国家が舞台の一つと
なっています。最新のガンダムは、レアメタル合金ではなく、Eカーボンと
いう炭素系のハイテク素材で作られているようです。レアメタルオタクの私
としてはちょっと残念です。


  古いSFアニメなので、皆さんは知らないかもしれませんが、私たちの世
代は、マジンガーZなど、レアメタル合金で出来た高性能ロボットの活躍に
胸をときめかす少年時代を過ごしました。マジンガーZに使われる「超合金
Z」は、マジンガーZの操縦者でありヒーローの「兜甲児(かぶと こうじ)」
の祖父に当たる物理学者、兜博士によって作られました。富士火山帯洪積世

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の地層から発見された新元素「ジャパニウム」を用いて開発されたレアメタ
ル合金です。その強度は、鋼鉄を一瞬で破壊する「レーザービーム」の照射
にも微塵も傷つかず、機械獣の放つ「熱線」「火炎」にもびくともしません。
また、マジンガーZの内蔵武器である、「ルストハリケーン」(口部より放た
れ、相手の身体を酸化風化させる突風)を使用しても自らの身体は錆びず、
また、「ブレストファイヤー」(胸部高熱板より放熱され、相手を一瞬にして
溶かしてしまう熱線)を放っても自らの身体は燃え尽きないという、無敵の
レアメタルです。私は今でも大学院生を相手に、この架空元素ジャパニウム
(Jp)の製造法や耐腐食性の評価などに関する講義を行なっています。


 ハリウッド映画のSF大作である「ターミネーター」は皆さんも知ってい
るでしょう。主人公のジョンを殺害するため、未来のスカイネット(人工知
能を有する戦略防衛コンピュータシステムの名称)が時空を越えて送り込ん
だ最新型モデル T-1000 型ターミネーターは、特殊な液体金属で作られてい
ます。変幻自在に形や色を変え、自己修復できる合金が何で出来ているかは
秘密のようですが、私は未来のレアメタル合金であると思っています。


 最近のターミネーター作品のサラ・コナー・クロニクルズ・シーズン1で
は、T-888 型ターミネーター「クロマティ」が自分の骨格の修復のためにコル
タンというレアメタルを狙ってやってくるテーマで盛り上がりました。コル
タンとは、学術的には、タンタル(Ta)の鉱石(複合酸化物)のことを指す
のですが、この話の中では、レアメタルの一つであるタンタル合金として扱
われています。タンタルは、3,000℃という超高融点で耐腐食性に富み、皮膚
や血液と相性のよいレアメタルですので、レアメタルの話としては本質的に
は間違っていません。
         「キャメロン」という、美人ターミネーターの骨格もコ
ルタンで出来ているそうですが、タンタルはとても重たい金属なので、おそ
らく細身の彼女の体重は相当重いものと予想できます。


 レアメタル鉱石のコルタンは、ゲリラの資金源、最近ではゴリラ殺戮や環
境破壊の元凶としても話題になりました。超一流の日本人スナイパーの活躍
を描いたゴルゴ13でも物語のテーマとして登場します。コルタンからつく
られるレアメタルの一つであるタンタルは、高性能コンデンサを必要とする
ハイテク機器を作るのにとても重要な材料であり、日本にとっては不可欠な
レアメタルの一つです。


 このように、レアメタルはアニメやSFでのネタとしては、話題に事欠き
ません。私としては、攻殻機動隊(GHOST IN THE SHELL)やエヴァンゲリ
オンにおけるレアメタルの役割について、アニメオタクの若者と延々と語ら
いたいのですが、この話を始めると、ここでの演題である「未来材料:チタ
ン・レアメタル」について説明できなくなりますので、そろそろ本題に入り
ましょう。


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レアメタル研究への取り組み


 私は20年間一貫してレアメタルの新しい製造プロセスやリサイクル技
術・環境技術の開発に関する研究を行なってきました1)。今も研究の軸足は
まったく動いていません。この超オタッキーな研究姿勢に対して、10年前
に、東北大学から東京大学に移ってきた直後には、
                      「そんなマイナーなテーマ
掲げて大丈夫か?」「レアメタルのリサイクル?」というネガティブなムー
        、
ドの批判が周囲に漂っていました。このため、最初は研究資金の調達にも苦
労し、溶接機や中古の小さな旋盤を購入し、自ら鋼材の加工や溶接を行なっ
て、ゼロスタートで実験室を立ち上げました。


 ところが、最近は状況が一変して、
                「トレンディな研究ですね!」とか、
                                「磁
石スクラップからのレアアースをリサイクルする研究はとても重要だね!」
と、周囲から以前とはまったく逆の評価を受けるようになったので、戸惑っ
ています。でも、これは私自身の研究テーマや取り組み姿勢は、一貫してい
てほとんど変化していないのにもかかわらず、私を取り巻く環境が大きく変
化したために起こっただけのことです。


 ハイテク・省エネ製品の発展に伴って、数年前から「レアメタル・ブーム」
が続いています。さらに昨年9月の尖閣諸島の領有問題に端を発した「中国
のレアアース禁輸」騒動が起こりました。高性能磁石をつくるのに不可欠な
レアアースが日本に供給されなくなり、日本のハイテク産業は窮地に立たさ
れたのです。この結果、レアアースをはじめとするレアメタルの重要性や供
給障害がもたらす産業への影響について、日本の社会全体が強い関心を示す
ようになってきたのです。一連のニュースは大きな話題となりましたので、
若者の皆さんも一度は「レアアース」という言葉を耳にしたことと思います。


 この授業では、まずレアアースや白金族金属などのレアメタル一般につい
て概説し、そのあと、レアメタルの中でもっとも将来性があり、
                            “レアメタル
の王様”とも呼ばれる「未来材料:チタン」を中心にその現状と将来につい
て紹介しましょう。



レアメタルの現状


 私たちの豊かな生活の中では、多種多様のレアメタルが使われています。
(図2参照)とくに、携帯電話やテレビなど、ハイテク機器の心臓部である
電子部品、さらには、各種センサ、高性能なモータ類は、レアメタルの塊と
言っても過言ではありません。


 ハイテク産業にとって不可欠であるレアメタルの重要性や将来性について

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は、一部の専門家の間では古くから認識されていました。しかし、実際には
数年前までは、レアメタルというと、あまり重要でない「超マイナーな金属」、
あるいは、基幹材料以外の(産業上は誤差範囲である)
                        「その他の金属」とし
ての認識が一般的でした。これまで一般社会には、レアメタルの重要性や将
来性については、ほとんど認められていなかったのが実情です。
 レアメタルは、欧米では「スペシャリティー・メタル」や「マイナー・メ
タル」と呼ばれていますが、その名のとおり、
                    “特殊金属”や“稀少金属”と
いう意味で広く一般に受けとめられています。レアメタルとは、鉄(Fe)や
アルミニウム(Al)、銅(Cu)、鉛(Pb)、亜鉛(Zn)などの「コモンメタル
(汎用金属、ベースメタル) を除いた金属の総称で、
             」           資源的には必ずしも“レ
ア”な金属であるとは限りません。4)~7) (図3参照)
                     。      「レアメタル」とい
う言葉は、学会で認められた厳密な定義が存在する術語ではなく、解釈の仕
方や分類の方法は時代とともに変化するため、対象となる金属元素を一義的
に定義することはできません。ただ、おおまかに言えば、自然界に存在する
89 元素のうち、すくなくとも 47 の金属元素がレアメタルに分類されています。


 レアメタルは、白金(プラチナ、Pt)やインジウム(In)のような資源的に
稀少なものから、チタン(Ti)やシリコン(Si)などのように資源的には豊富
なものまで、その種類は多岐にわたっています。一般的には、図3の①~③
の何れかに該当すれば、レアメタルです。また、図3の④に示すように、純
度や用途によってもレアメタルとなる場合やその範疇から外れる場合もあり
ます。


 レアメタルは、用途についても多様であり、用途別の分類方法は人によっ
て千差万別です4)~8)。図4は、ふだん、周期表を目にすることがない一般
の人に対し、私が説明に利用しているレアメタルの分類法の一例です。この
分類法は、科学的でないため多くの問題を含んでいますが、レアメタルの歴
史や今後の動向を理解するのには有用です。


 これまでレアメタルは、主として電子材料や磁性材料として利用され、製
品中の部品の素材として利用されていました。このため、通常の生活では直
接目にすることがなく、馴染みの少ない金属元素でした。しかし、デジタル
機器の高性能化と普及に伴ってレアメタルの用途が拡大した結果、
                             「①電子材
料用レアメタル」の中には価格が高騰するものも多くなり、メディアに登場
して一般の話題となるレアメタルも多くなっています。最近は、電子機器に
は不可欠な“産業のビタミン”として、レアメタルの重要性は一般にも認識
されてきました。


 一方、電子材料用のレアメタルと同様、古くから利用されてきたレアメタ
ルとして、
    「②合金用レアメタル」があります。その代表格は、工具材料や特
殊鋼の基幹素材としても不可欠なタングステン(W)やコバルト(Co)、クロ
ム(Cr)などです。また、バナジウム(V)やニオブ(Nb)などのように、

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鉄鋼材料の添加用の合金元素としての需要が大きいものもあります。これら
の元素は、鉄鋼やアルミニウム合金の性能を向上させる添加元素として利用
されます。当然のことながら、鉄鋼材料やアルミニウム合金はもちろん、銅
(Cu)やニッケル(Ni)などと比べれば、これらのレアメタルの使用量は微々
たるものです。しかし、鉄鋼関係に利用される「②合金用レアメタル」は、
鉄鋼やアルミニウム合金の産業の規模そのものが桁違いに大きいため、レア
メタルの中では消費量が大きいことも特徴のひとつです。化学プラントの反
応容器や配管材料にも、レアメタルを含む特殊合金が多量に使われます。


 電子機器や自動車などの付加価値が大きい工業製品の高性能化に伴い、図
4に示す「①電子材料用レアメタル」や「②合金用レアメタル」の需要はこ
の20年間で飛躍的に増大しました。今後もこれらのレアメタルの重要性は
さらに増大するため、レアメタルの用途や生産量は一層拡大するでしょう。
とくに、中国やインドなどの新興国の経済発展は、これらのレアメタルの需
要を今後さらに拡大させるものと予想されます。


 最近は、航空関連産業の発展に伴い、航空機などの構造材として使用され
る「③空飛ぶレアメタル」の需要も急増しています。これらの「空飛ぶレア
メタル」の代表格は、チタン合金やニッケル基超合金に使用されるレアメタ
ルです。軽くて抜群の強度を有するチタンは、リーマンショック以前は、航
空機の需要の拡大の影響により生産が追い付かず、フル生産と増産が続いて
いました。現在は、航空機産業もようやく低迷から立ち直り、生産が拡大し
つつあります。
      「空飛ぶレアメタル」としてのチタンの将来は明るく、今後も
一層発展するでしょう。ジェットエンジンのタービンブレードに利用される
レニウム(Re)やマイナーな白金族金属など、資源的に稀少で大幅な増産が
困難なレアメタルの供給動向も私の気がかりの一つです。


 自動車産業の発展に伴い、電子材料や合金用の「④走るレアメタル」の需
要も増大しました。今後もこの傾向は一層加速すると考えられます。なぜな
ら、燃費を向上させるためにより軽量・高強度かつ高機能な材料を使うよう
になるでしょうし、さらには、自動車に搭載される制御機器やセンサ、通信
機器に使用されるレアメタルは、これまで以上に増えることが予想されるか
らです。


 自動車に使われる電子部品は、同じ機能であっても携帯電話やPCなどに
使われる電子部品よりも、はるかに高い信頼性が要求されます。熱や振動、
温度などの環境変化に対する安定性を追及すると、自動車用の電子部品には、
一般の家電製品より多くのレアメタルが必要となります。このため、自動車
が高機能化すればするほど、「走るレアメタル」の需要は増大します。


 自動車の排気ガスの環境規制が世界的に強化されると、排ガス浄化触媒や
燃料電池の触媒として不可欠な白金(Pt)やパラジウム(Pd)ロジウム(Rh)

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などの白金族金属(Platinum Group Metals: PGMs)などの需要は一層増大しま
す。また、将来、ハイブリッド自動車や電気自動車が増産されるようになる
と、高出力モータの需要が大幅に拡大します。とくに、高性能磁石の素材と
して不可欠なネオジム(Nd)やジスプロシウム(Dy)などのレアアース(希
土類金属、Rare Earth Metals: REMs)や8)
                               、蓄電池に使われるリチウム(Li)
などのレアメタルの需要が大幅に増大するでしょう。将来、自動車産業の発
展に伴い、 走るレアメタル」
    「         の需要は、急激に増大する可能性が高いのです。


 さらに最近は、太陽電池をはじめとする、エネルギー関連のレアメタルも
注目を集めています。高純度シリコンを主原料とする多結晶シリコン太陽電
池や周辺の制御装置も基幹材料として多くのレアメタルが使われます。また、
今後発展が期待される新型太陽電池も多種多様のレアメタルを使用します。
太陽光発電には、蓄電や変換(インバータ) 送電などの設備も不可欠ですが、
                    、
これらの機器の基幹部品には、レアメタルやその化合物を多量に使われてい
ます 2)。


 レアメタルというと「枯渇」を前提とした報道が多く、
                         「工業製品からすべ
てのレアメタルをリサイクルするべきである」と言った論調で議論されるこ
とも多いようです。アニメやSFの世界では、多少の誤解や嘘は許されます
が、
 「将来、レアメタルは枯渇するので、レアメタルはすべてリサイクルする
べき」などという事実に則しない見解は、ともするとレアメタルに対する将
来像を大きく歪める一因ともなりますので、注意が必要です2)3)。



レアメタルの王様:チタン


 私の研究室では、さまざまなレアメタルの新規製造プロセスの開発やリサ
イクル技術の開発を行なっています。
                (図5参照)中でも、チタン鉱石から効
率良く直接金属チタンを製造する新製錬法の開発は、私のライフワークの一
つです。チタンの研究の醍醐味とその困難や苦労については、すでに解説を
各所で行っていますので1)9)~12)、ここでは、チタンの歴史と現状、その将
来性について紹介します。


 チタンの本質を理解するためには、まずは、図6に示すチタン製錬の歴史
に加えチタンの性質を知る必要があります。チタンは、地殻中に存在する元
素の中では、9番目に多い元素であり、資源的には無尽蔵です。天然鉱石の
中には、酸化物(TiO2)としての純度が 95%を越えるルチル鉱も存在します。
また、鉄とチタンの複合酸化物であるイルメナイト鉱は、資源的にほぼ無尽
蔵で、場所によっては海辺の砂にも多量に含まれています。冒頭のガンダム
の話でも紹介しましたが、月面にもチタンの酸化物は沢山あるようです。


 元素としての賦存量が多いため、チタンの発見は古く、18世紀の終わり

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には、すでに酸化物を構成する元素として発見されていました。当時の化学
者は、新元素が発見されると直ちに純粋な元素の単離を試みました。しかし、
チタンに関しては、純粋な金属への還元に誰も成功せず、純度の高いチタン
はどうしても得られませんでした。純度 99.9%の金属チタンが得られ、チタ
ン単体の物性が明らかになったのは、元素の発見から約 120 年も後の 1910 年
でした(図6参照)。


 資源は豊富で、酸化物の品位が高い鉱石が多量に存在するにもかかわらず、
純粋な金属が得られない最大の理由は、チタンと酸素の親和力が極めて強い
ためです。科学技術が飛躍的に進歩した今日でも、金属チタン中の不純物の
酸素を除去するのは極めて困難な課題の一つです。


 ちなみに     私が学生の頃、最初に与えられた研究テーマも、金属チタン中
の酸素を直接除去して高純度のチタンをつくる新技術を開発することでした。
当時は状況も解らず、振り返ってみると、無謀にもとても難易度の高い研究
に最初から取り組んだものです。運が良かったのでしょうか、偶然にもチタ
ン製錬の研究でいくつかの成功体験をして以来、チタン研究の醍醐味に魅せ
られ、今もその虜になっています1)12)。


 チタンは、純粋な金属を製造するのは極めて困難ですが、いったん高純度
の金属が得られれば、延性にも富んでいるためステンレス鋼と同様に圧延な
どの加工ができます。しかも、とても軽量で、単位重量あたりの強度(比強
度)が金属材料の中ではもっとも高く、靭性にも富み、抜群の耐腐食性を有
する「夢の金属材料」です。


 このため、高純度のチタンが得られてその物性が明らかになったときから、
工業的な生産法の開発が試みられました。しかし、チタン鉱石(酸化物)か
ら酸素をはじめ、鉄や炭素などの不純物を、効率良く除去する手法がなかな
か開発できませんでした。このため、チタンの量産プロセスが成功するには、
純粋な金属の単離からさらに 50 年の歳月を要しました。チタンの工業生産が
本格化したのは、第二次世界大戦後です(図6参照)。資源的には無尽蔵で、
抜群の性能を有しているのにチタンは、工業的にはとても新しい金属です。


 現在、工業的に確立されている主なチタンの量産法は、チタン鉱石(酸化
物)を塩化して、いったんチタンの塩化物(TiCl4)に変換し、酸素や鉄など
の不純物を完全に除去してから、この塩化物を金属マグネシウム(Mg)で還元
する手法を利用しています 13)
               。この手法は、
                     「クロール法」と呼ばれ、酸素濃
度の低い高純度のチタンを確実に生産できる点で優れています。しかし、チ
タンの還元反応における膨大な発熱を今もなお上手く制御できないため、現
状では還元プロセスの生産速度をこれ以上速められないのが大きな欠点です。


 現時点では、最新鋭の大型生産設備を使っても、一つの反応装置では、一

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日あたり1トンのチタンしか製造できません。したがって、資源的に豊富な
原料鉱石(チタン酸化物)のコストは低いにもかかわらず、これを還元して
金属を生産するのに、チタン 1 トンあたり 100 万円以上のコストがかかりま
す。仮に、チタンが 50 万円/トン以下のコストで生産できるようになれば、
現在普及しているステンレス鋼との価格競争力が生まれます。すると、現在
の年間 10 万トンレベルの需要は、飛躍的に増大し、現状の 10~100 倍の用途
が生まれ、資源的な制約のないレアメタルの王様として社会に多大な貢献を
することになると考えられます。


 チタンの生産量は着実に増大しています。
                   (図7参照)また、特筆すべき点
としては、日本は、全世界チタン生産量の 20%程度のシェアを占めるチタン
の生産大国であるという点です。電力コストや人件費が高いにもかかわらず、
また、環境規制が厳しいため、高価な原料を購入しなければならないという、
いくつものハンディを背負いながらも、現在、日本はチタンの製造に関して
は世界のトップランナーです。日本で生産されるチタンは、世界の中でも品
質が極めて高いために、米国などにも輸出され、航空機などの先端材料とし
て利用されているのです。



夢の材料チタン


 次世代航空機は、燃費性能を向上させるために機体に炭素繊維の部材を使
用する割合が増大するでしょう。コストをかけて機体の重量を低減するため
には、ジェットエンジンまわりや車輪を支える足回りなどの耐熱性や強度が
要求される金属部品の軽量化も重要です。チタンは、もともと航空機の足回
りやエンジンの構造材、戦闘機の機体材料としての用途がほとんどでした。
炭素複合材との接合性などの相性も良いため、最近は、アルミニウム合金に
代わって、新型航空機におけるチタンの使用割合が年々増大しています。将
来、高性能の新型航空機の需要が世界的に増えるにつれて、チタンの需要は
大幅に増大するものと予測されています。


 チタンは、強度があり軽量なだけでなく、抜群の耐腐食性・耐候性があり
ます。このため、最近では羽田空港の沖合に新たに建設された海上滑走路(D
滑走路)の橋脚部分の海面に面している天井の保護膜としてチタンが多量に
使用されました。(図8参照)


 チタンは、海水に対してまったく腐食性がないため、原子力・火力発電所
から発生する蒸気を水に戻す復水器(コンデンサー)や海水淡水化プラント
の蒸発器などの基幹材料として利用されています。今では、腐食環境の熱交
換装置にはチタンは欠かすことの出来ない材料の一つとなっています。また、
抜群の耐腐食性を生かして、化学プラントの配管や反応容器、バルブの構造
材などにもチタンやその合金が広く利用されています。

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 民生用途も拡大しており、長期にわたる耐候性が要求される屋根材や外装
用の板などにも広く利用されています。誰もが知っている東京・浅草寺の屋
根瓦は、一見、陶器の素焼きのように見えます。
                     (図8参照)確かに昔は、重
たい焼き物の瓦が屋根の上に載っていました。しかし今では、特殊な塗装を
施して外見は陶器のように見せかけていますが、じつはチタン箔で作られた
中空の構造体が使われています。
              “焼き物のようなふり”をしたチタン製の非
常に軽いハイテク瓦が屋根にのっていて、木造建築本体への負担を軽減し長
寿命化に貢献しているのです。さらにチタンは、抜群の耐候性を備えた屋根
材ですのでメンテナンスが不要という大きなメリットがあります。


 近年は、メガネのフレームやゴルフクラブのヘッドだけではなく、各種、
生活用品にもチタンやその合金が使われるようになってきました。また、チ
タンは生体との適合性が良いため、人工骨や各種インプラント材などの、医
療用の材料あるいは生体材料としても利用されています。



チタン製錬法の新展開


 資源的には無尽蔵なチタン鉱石から低いコストで金属チタンを製造する新
技術が開発されれば、チタンは爆発的な普及し、超長寿命の高性能基盤材料
として社会に多大な恩恵をもたらします。


 このため私は、長年、チタンの新製錬法に関する様々な研究を行なってき
ました。1)9)~12)その一例を紹介しますと、TiCl2 などのチタンのサブハラ
イド(低級塩化物)を中間原料として利用して、高速でチタンを還元して効
率良く金属チタンを製造する新製錬法の開発です。この新精錬法で、原理的
にはチタンの超高速還元プロセスが実現できるのです。ただ、現時点ではチ
タンのサブハライドを製造するのが困難という壁に阻まれて、実用化は難し
いのが実情です。しかし、仮にチタンのサブハライドを効率良く製造する技
術が開発できて、このサブハライド還元法を利用すれば、還元に伴う発熱を
大幅に低減できます。また、この方法は、反応容器として原理的には金属チ
タンを利用できるため、高純度チタンを作るのにも適しているという利点も
あります。


 直接、チタン鉱石から、効率良く金属チタンを製造する新製錬法の開発も
私の夢の一つです。私たちが開発した「プリフォーム還元法」という方法を
利用すれば、酸化物(TiO2)を出発原料として、1日以内に鉱石から金属チ
タンを直接的に製造できます。しかし、現状では、プリフォーム還元法の還
元剤となる金属カルシウム(Ca)の安価な製造法が確立されていないために、
現在の技術レベルでは、工業的には利用できません。


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未来材料:チタン・レアメタル
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7/27/2011 11:56:28 AM




   現状では、鉱石から金属チタンが得られるまでに、幾多の反応操作を経て、
莫大なエネルギーを投入して、何週間もの時間がかけられています13)。そこ
で、将来的には短時間で効率良く金属チタンが製造する革新的な新技術の開
発が望まれています。遠くない将来に、東京湾上に作られたオールチタン製
の滑走路からレアメタル合金で作られた飛行機やロボットが離発着する日が
くるかもしれません。



夢とロマンを追いかけて


   社会が発展し、生活が豊かになれば、高性能の電子機器が数多く使われる
ようになります。日常社会では直接目にすることは少ないですが、電子機器
には多くのレアメタルが使われており、私たちは多種多様のレアメタルに囲
まれて生活しています。いまやレアメタル抜きには、私たちの生活は成り立
ちません。また、ハイテク製品だけでなく、省エネにもレアメタルは不可欠
です。たとえば、ハイブリッド自動車の高性能モータや蓄電池、太陽光発電
のパネルや制御器などは、レアメタルの塊と言っても過言ではありません
14)15)
     。グリーンイノベーション(省エネ技術革新)の推進には、「未来材料:
レアメタル」が不可欠です。


   レアメタルの中でも、資源的には無尽蔵にあるチタンは、今は年産 10 万ト
ンレベルの産業ですが、将来的には、100 万~1000 万トンの需要が発生して
も何ら不思議のない金属です。チタンは金属材料の中では最高水準の強度・
耐腐食性を有しているので、製造プロセスのイノベーションにより、レアメ
タルからコモンメタルに変わる可能性が高い未来材料の一つです。私の研究
室には「レアメタルからコモンメタルへ!!」という標語を掲げています。


私がチタンをはじめとするレアメタルの研究に取り組んで来たのは、
                              「未来材
料:チタン・レアメタル」の類稀なるポテンシャルの高さ、将来性の大きさ
に魅せられたからです。いまだに、私自身はこの難易度の高い研究テーマに
ついて、成功の糸口すら掴めていませんが、今後も、レアメタル製造のプロ
セスの技術革新を目指して鋭意努力するつもりです。そして同時に、レアメ
タルの研究の「夢とロマン」に魅せられる若者を一人でも多く育てて、次世
代に繋ぐことも私の責務の一つであると思っています。



謝辞
 〇〇社の〇〇様と〇〇社の〇〇様には、アニメの図をご提供戴きました。ま
た、社団法人日本チタン協会 専務理事、筒井政博氏に最新のチタン情報や映
像資料のご提供を戴きました。記して感謝の意を表します。




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未来材料:チタン・レアメタル
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(以上、約 10,000 字)


参考文献
1) 岡部 徹: '夢とロマンのチタン研究 ~20年間の苦労を振り返って~', チタン,
    vol.58, no.1, pp.3-9, (2010).
2) 岡部 徹: 'レアメタルの実情と日本の課題', 工業材料, vol.55, no.8, pp.18-25, (2007).
3) 岡部 徹: 'レアメタルにまつわる誤解', 現代化学, no.448 (7月号), pp.16-21, (2008).
4) 'レアメタル辞典', 堂山 昌男 監修, フジ・テクノシステム/日本工業技術振興協会編集,
    東京, (1991).
5) 'レアメタルとは何か?', ニュートン, (ニュートンプレス, 2008 年 3 月号), 第 28 巻 3
    号, pp.86-91, (2008).
6) 渡辺 正 監訳, “元素大百科事典”, (株)朝倉書店, pp. 203-273, (2007).
7) C.A. Hampel 著, 小川 芳樹 監修: “レアメタルハンドブック”, 東京, (株)紀伊国屋書店,
    pp. 389-408, (1957).
8) '希土類の化学', 足立 吟也 編著, 化学同人, 東京 (1999) 全 896 頁.
9) 岡部 徹、大井 泰史: 'チタン製錬技術の新展開', 金属, vol.77, no.11, pp.1247-1251,
    (2007).
10) 岡部 徹: '電気と技術の塊 金属チタンの製造法', 電気学会誌, vol.126, no.12, pp.801-805,
                               :
    (2006).
11) 岡部 徹、      二上 愛、      小野 勝敏: 'チタン製錬プロセスの最近の話題', ふぇらむ(日本鉄鋼
    協会会報), vol.7, no.1, pp.39-45, (2002).
12) 岡部 徹、中村 正信、植木 達彦、大石 敏雄、小野 勝敏: 'カルシウム-ハライドフラ
    ックス脱酸法による極低酸素チタンの製造方法', 日本金属学会会報, vol.31, no.4,
    pp.315-317, (1992).
13) 'レアメタル便覧 第1版', [監修]               足立吟也: 丸善株式会社 (ISBN 978-4-621-08276-8),
    東京, (2010). (1800 ページ)
14) 'ネオジム磁石のすべて―レアアースで地球(アース)を守ろう―', [監修]佐川眞人,発
    行 アグネ技術センター(ISBN 978-4-901496-58-2 C3054), (2011)
15) '自動車技術ハンドブック第 10 分冊(EV・ハイブリッド)編',(編集:自動車技術ハンド
    ブック編集委員会(委員長:堀洋一), 社団法人自動車技術会, 東京),[企画編集], '第 1
    章 自動車を取り巻く諸情勢, 1.6 自動車用のレアメタルとリサイクル', (2011).




                                                                               11/12
未来材料:チタン・レアメタル
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7/27/2011 11:56:28 AM



★著者情報

略 歴:1965 年京都生まれ。1988 年、京都大学工学部冶金学科卒業。1993 年、同大学大学院工学研究
   科博士課程修了(工学博士)            。その後、マサチューセッツ工科大学に博士研究員として 3 年間留
   学。1995 年東北大学素材工学研究所(現:多元物質科学研究所)助手。2001 年、東京大学生産技
   術研究所助教授。同研究所の准教授を経て、2009 年より現職。
   http://www.okabe.iis.u-tokyo.ac.jp
専 門:材料化学、環境科学、循環資源工学、レアメタルプロセス工学。プロセス技術がレアメタル
   をコモンメタルに変えることを夢見て、                 チタンなどの新製錬技術の開発を行っている。最近は、
   ニオブ、タンタル、スカンジウム、ガリウム、貴金属などのレアメタルやレアアースの製造プ
   ロセスや新規リサイクル技術、環境技術の研究も行っている。
受賞暦:本多記念奨励賞、井上研究奨励賞、市村学術賞・功績賞、本多記念奨励賞、日本金属学会功
   績賞、日本チタン協会技術賞など。




以下削除(備考)

略歴(1)
岡部 徹 (おかべ とおる)

1993 京都大学大学院博士課程修了(工博)
1993-1995 マサチューセッツ工科大学博士研究員
1995-2000 東北大学素材工学研究所助手
2001- 東京大学 生産技術研究所 助教授
(2004- 助教授から准教授に職名変更)
2009- 東京大学 生産技術研究所 教授(現職)
  プロセス技術がレアメタルをコモンメタルに変えることを夢見て、チタンなどの新製錬技術の開発
を行っている。最近は、ニオブ、タンタル、スカンジウム、貴金属などのレアメタルの製造プロセス
や新規リサイクル技術、環境技術の研究も行っている。
ホームページ:http://www.okabe.iis.u-tokyo.ac.jp/


1965 年(昭和 40 年)京都市生まれ。ロンドン日本人学校、筑波大学附属高等学校を経て、88 年、京
都大学工学部冶金学科卒業。同大学院博士課程へと進み、チタンなどのレアメタルの精錬に関する研
究で 93 年に博士号を取得。その後、日本学術振興会海外特別研究員として渡米、マサチューセッツ工
科大学の博士研究員として約 3 年間留学。東北大学素材工学研究所(現:多元物質科学研究所)の助手
として5年間勤め、     2001 年より東京大学生産技術研究所の助教授に着任し、       同研究所の准教授を経て、
09 年から教授に就任した。専門分野は、材料化学、環境科学、循環資源工学、レアメタルプロセス工
学。20 年以上、一貫してレアメタルの研究に取り組んでいる。             “プロセス技術がレアメタルをコモンメ
タルに変える”ことを夢見て、チタンなどの新製錬技術の開発を行っている。最近は、PGM(白金族金
属)、レアアース(希土類金属)       、ニオブ、タンタル、ガリウムなどのレアメタルの製造プロセスや新
規リサイクル技術、環境技術の研究も行っている。
ホームページ: http://www.okabe.iis.u-tokyo.ac.jp
(440字)




                                                           12/12
チタンをはじめとするレアメタルは、アニメやSFの世界ではとても重要な未来材料である。
          ルナチタニウム合金(Luna-Titanium
          Alloy)は、宇宙世紀0064年に開発されたチ
機動戦士      タン、アルミニウム、希土類金属(レアアー
          ス)などから構成される合金である。月(ル
ガンダム      ナ)で精製されるチタン(チタニウム)の合金
          であるところからその名が付いた。月面上と
          いう特殊な重力下で精製することにより従来
          のチタン系合金よりも優れた様々な特性を有
          するという。

          超合金Zは、マジンガーZの装甲に用いられ
          る合金である。金属結晶の原子の並び方の
          乱れ、すなわち格子欠陥のない金属であり、
マジンガーZ    極めて堅牢とされている。日本の富士の裾
          野にしか存在しない特殊な鉱石に含まる新
          元素ジャパニウムを使って兜博士がつくった
          超合金である。


          一部のターミネータの骨格は、コルタンという
          タンタル化合物で出来ている。タンタルは、超
          高融点金属(融点3000度以上)のレアメタル
          であり、耐腐食性に富む。皮膚や血液と相性
ターミネーター   が良いため、生体材料としても使われる。最
          新型モデルのT-1000型は、自己修復能
          があり、変幻自在に形や色を変える特殊な
          液体合金で出来ているが、恐らくこれも未来
          型のレアメタル合金であろう。

          コルタン狂想曲というタイトルで、レアメタル
          の一つであるタンタルをめぐる話題がある。
ゴルゴ13     日本の電機メーカーが世界最強機種の携帯
          電話を開発した。しかし、その量産に必要な
          レアメタル鉱石“コルタン”の鉱山がゲリラに
          よって占拠されていた。そこで、無敵のゴル
          ゴ13が活躍する。


          戦艦ヤマトがレアメタルの塊であることは議
          論の余地はない。また、西暦2192年よりガミ
          ラスが地球に対する無差別攻撃に使った「遊
宇宙戦艦      星爆弾」にも放射能を含むレアメタルが沢山
ヤマト       ありそうである。最近の実写版では、古代進
          (木村拓也)は、地下組織でレアメタルの横
          流しをして生活をしていたようである。



             図1   アニメやSFにおけるレアメタル.
薄型テレビ
                携帯電話




レアアース(希土類金属, REM: Nd, Dy, Sm, ...):
 ハイブリッド自動車・電気自動車のモーター
 ハードディスク、携帯電話のバイブレーター

白金族金属(PGM: Pt, Rh, Pd,…):
                                      PCなどの
 自動車排ガスの触媒、                           ハードディスク
 燃料電池の触媒、各種電極

インジウム(In): 液晶、プラズマの透明電極
ガリウム(Ga): 青色発光ダイオード
タンタル(Ta): 小型・高性能コンデンサ
リチウム(Li: 高性能電池



                                            発光ダイオード




                                                      電気
                  太陽電池
                             出典 三菱自動車工業株式会社ホームページより転載



                図2   レアメタルの用途.
① 資源的に稀少な金属 (賦存量が少ない元素)
  →白金族金属 (Pt, Rh, Pd), インジウム (In),
   ガリウム (Ga), タンタル (Ta), ジスプロシウム (Dy), …

② 資源的に豊富でも、メタルを得るのが困難な金属
  →チタン (Ti), シリコン (Si), マグネシウム (Mg), …

③ 資源的に豊富でも、鉱石の品位が低い金属
  →バナジウム (V), スカンジウム (Sc), …

上記以外にも、以下の定義を加える場合もある。

④ 高純度等、特異な形態で優れた機能を発揮する元素
   →超高純度鉄 (Fe), 高純度非鉄金属, …

⑤ 少量、微量で特異な機能を発揮する元素
  (高付加価値を実現できる元素)

⑥ これまで用途が少なく、工業的には未開発である元素
  →オスミウム (Os), アクチノイド金属, 超高純度金属, …




            図3   レアメタルの定義.
① 電子材料用レアメタル(デジタル機器用レアメタル)
  →半導体(Si, Ge, GaAs)
  →磁性材料(Nd, Dy, Sm, Co, …)
  →各種電子材料(In, Ta, Li, Ba, Sr, …)

② 合金用レアメタル
  →工具用特殊合金(W, Co, Ta, …)
  →鉄鋼添加用(V, Cr, Mo, Nb, …)

③ 航空・宇宙材料用レアメタル(空飛ぶレアメタル)
  →航空機材料(Ti, Ni基超合金, Re, PGMs, Al-Sc合金, …)

④ 自動車用レアメタル(走るレアメタル)
  →合金添加元素(Mo, V, Nb, Ti …)
  →磁石材料(Nd, Dy, Sm, Co)
  →触媒(Pt, Pd, Rh, …)
  →電池(Li, Ni, Co, Mn, …)

⑤ エネルギー関連レアメタル
  →太陽光発電(Si, Cd, Te, In, Ga, Ru, Ag, …)
  →電池材料 (Li, Co, Ni, Pt, …)
  →電極・送電材料 (Ag, Nb, Sn, Bi, …)

⑥ 原子力用レアメタル
  →原子炉用材料 (Zr, Hf, 特殊合金…)
  →放射性廃棄物 (PGMs …)

⑦ 医療・生体用レアメタル、その他
  →生体材料(Ti, Nb, Ta, … )
  →薬品・健康食品



図4 レアメタルの用途別分類.これまでは、電子材料用、合金用、航空機
材料用のレアメタルが主な需要であったが、今後は、「走るレアメタル」、
  および、「エネルギー関連レアメタル」の需要が大幅に増大する.
未来材料:チタン・レアメタルの新規プロセス技術の開発

 •   高付加価値無機素材の高効率回収プロセスの開発
 •   チタンの製造プロセスの開発
 •   電子材料用レアメタル粉末(Nb, Ta)の製造
 •   貴金属などの高価なレアメタルの新規リサイクル技術の開発

   チタン鉱石                         金属チタン
        Ti ore or UGI
 Ti ore or UGI            Ti bulk bulk
                               Ti




                鉱石から直接チタンを製造する研究

 高度循環社会の確立を目指した材料工学


                             循環資源立国への挑戦


                        Rare Metals

        レアメタルの環境調和型リサイクル技術の開発



図5   岡部研究室(循環資源・材料プロセス工学)の研究ビジョンと取り組んでいる研
                  究テーマの一例.
1791年
 英国のR. W. Gregorによりmenachaniteという鉱石として発見される
 1795年
 ドイツの化学者Klaproth によりルチル鉱石の中に
 再発見されチタンと命名される
 1887年
 スウェーデンのNilson とPettersson は不純物を多く含む金属チタン(純度
 95%)を製造に成功
 1910年
 米国のM. A. Hunterが, TiCl4 と金属ナトリウムを
 鋼製反応容器内で反応させ純度99.9%のチタンの製造に成功
 (元素の発見から119年)
          →製錬がもっとも難しい元素の一つ
 1946年
 ルクセンブルグのW. Krollが TiCl4 を金属マグネシウムで還元する
 方法を開発し、米国にて工業的な生産が始まる

 1949年
 日本で製錬・加工の研究が始まる
 1950年
 京都大学西村研究室にて森山徐一郎博士らがクロール法を使ってスポン
 ジチタンの製造に成功
 1951年
 日本でチタンの生産開始(大阪特殊製鉄所)

 現在
 年間、10~20万トンのチタンが世界で製造されているが、
 今後も需要は増大すると考えられてる




図6 チタンの製錬の歴史.元素の発見から純金属の単離まで120年を要した最も製
 錬が困難な金属、かつ工業生産が開始されてまだ60年しか経っていない新金属.
展伸材(チタンを溶解・圧延・加工した板やパイプなど)の出荷量は、
     世界全体で約120,000㌧

     120,000                    その他
           電子材料
               ゴム                                                    28

     100,000
          化学繊維                                                            China

                                                                          Russia
      80,000           製                                             25
                       紙
                                                                          Ukraine

                      プラスチック                                        10
      60,000                               塗料                             EU

                                                                     20   Japan
      40,000                インキ・顔料
                                                                          USA
      20,000
                                                                     35

          0
               2000        01    02   03    04   05   06   07   08




図7     世界のチタン産業の規模.展伸材(チタンを溶解・圧延・加工したもの)の出荷
         量の推移.(情報提供:社団法人日本チタン協会、筒井政博氏)
図8   チタンの建築への実用例(浅草寺宝蔵門屋根).チタンが有する抜群の耐食性・
       耐候性と軽量化性能を生かして、屋根材として利用されている。
          (情報提供:社団法人日本チタン協会、筒井政博氏)
チタンの土木・建築への実用例: 羽田新滑走路(海上滑走路)の桟橋部




図9   チタンの民生品としての使用例.チタンが有する抜群の耐食性・耐候性を生かし
     て、滑走路の橋脚部の天井部分の表面に約1000トンも使用された.
              (情報提供:新日本製鐵提供)

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  • 1. 未来材料:チタン・レアメタル 110711_金曜特別講講座_原稿_未来材料:チタン・レアメタル_final.doc 7/27/2011 11:56:28 AM 未来材料:チタン・レアメタル 東京大学 生産技術研究所 岡部 徹 Future Materials: Titanium, Rare Metals The University of Tokyo, Institute of Industrial Science, Toru H. Okabe 1234567890123456789012345678901234 アニメやSF世界におけるレアメタル 高校生の皆さんにとって、レアメタルというと、あまり馴染みがないかも 知れませんが、アニメやSFが好きな人にとっては、親しみが持てる材料で ないでしょうか。なぜなら、近未来の世界を舞台とするアニメやSF映画に は、未来材料であるレアメタルが溢れかえっているからです。(図1参照) 一例を挙げると、初期の機動戦士ガンダムのモビルスーツ(MS)の装甲は、 ルナチタンという超高強度のレアメタル合金でつくられています。この合金 は、連邦軍の宇宙要塞・ルナ2というアステロイド基地で採掘されたチタン (Ti)に、レアアース(希土類金属, Rare Earth Metals, REMs)などを加えて製 造した特殊合金です。この合金を使って作られたガンダムの絶大な戦果を受 けて、のちにガンダリウム合金と名称を改められました。ルナチタンは、チ タン系超高張力合金に分類されるもので、耐熱性・耐腐食性・靭性・放射線 絶縁性に優れ、高硬度かつ軽量というモビルスーツの装甲として最適な材質 です。しかし、チタン自体の分離・加工の技術的難易度の高さ、高価なレア メタルを使用する合金であるために非常にコストが高いというデメリットが SFの世界でも指摘されていました。宇宙世紀 0064 年でもチタンは高価なレ アメタルなのかも知れません。現実的には、チタンとレアアースは水と油の ように混ざり合わないのですが、おそらく未来世界では互い反発しあうレア メタルを上手く混合する特殊技術が完成しているのでしょう。 また、最近のガンダム00(ダブルオー)では、レアメタルと情報産業の 繁栄によって中東で最も豊かなスイール国王という未来国家が舞台の一つと なっています。最新のガンダムは、レアメタル合金ではなく、Eカーボンと いう炭素系のハイテク素材で作られているようです。レアメタルオタクの私 としてはちょっと残念です。 古いSFアニメなので、皆さんは知らないかもしれませんが、私たちの世 代は、マジンガーZなど、レアメタル合金で出来た高性能ロボットの活躍に 胸をときめかす少年時代を過ごしました。マジンガーZに使われる「超合金 Z」は、マジンガーZの操縦者でありヒーローの「兜甲児(かぶと こうじ)」 の祖父に当たる物理学者、兜博士によって作られました。富士火山帯洪積世 1/12
  • 2. 未来材料:チタン・レアメタル 110711_金曜特別講講座_原稿_未来材料:チタン・レアメタル_final.doc 7/27/2011 11:56:28 AM の地層から発見された新元素「ジャパニウム」を用いて開発されたレアメタ ル合金です。その強度は、鋼鉄を一瞬で破壊する「レーザービーム」の照射 にも微塵も傷つかず、機械獣の放つ「熱線」「火炎」にもびくともしません。 また、マジンガーZの内蔵武器である、「ルストハリケーン」(口部より放た れ、相手の身体を酸化風化させる突風)を使用しても自らの身体は錆びず、 また、「ブレストファイヤー」(胸部高熱板より放熱され、相手を一瞬にして 溶かしてしまう熱線)を放っても自らの身体は燃え尽きないという、無敵の レアメタルです。私は今でも大学院生を相手に、この架空元素ジャパニウム (Jp)の製造法や耐腐食性の評価などに関する講義を行なっています。 ハリウッド映画のSF大作である「ターミネーター」は皆さんも知ってい るでしょう。主人公のジョンを殺害するため、未来のスカイネット(人工知 能を有する戦略防衛コンピュータシステムの名称)が時空を越えて送り込ん だ最新型モデル T-1000 型ターミネーターは、特殊な液体金属で作られてい ます。変幻自在に形や色を変え、自己修復できる合金が何で出来ているかは 秘密のようですが、私は未来のレアメタル合金であると思っています。 最近のターミネーター作品のサラ・コナー・クロニクルズ・シーズン1で は、T-888 型ターミネーター「クロマティ」が自分の骨格の修復のためにコル タンというレアメタルを狙ってやってくるテーマで盛り上がりました。コル タンとは、学術的には、タンタル(Ta)の鉱石(複合酸化物)のことを指す のですが、この話の中では、レアメタルの一つであるタンタル合金として扱 われています。タンタルは、3,000℃という超高融点で耐腐食性に富み、皮膚 や血液と相性のよいレアメタルですので、レアメタルの話としては本質的に は間違っていません。 「キャメロン」という、美人ターミネーターの骨格もコ ルタンで出来ているそうですが、タンタルはとても重たい金属なので、おそ らく細身の彼女の体重は相当重いものと予想できます。 レアメタル鉱石のコルタンは、ゲリラの資金源、最近ではゴリラ殺戮や環 境破壊の元凶としても話題になりました。超一流の日本人スナイパーの活躍 を描いたゴルゴ13でも物語のテーマとして登場します。コルタンからつく られるレアメタルの一つであるタンタルは、高性能コンデンサを必要とする ハイテク機器を作るのにとても重要な材料であり、日本にとっては不可欠な レアメタルの一つです。 このように、レアメタルはアニメやSFでのネタとしては、話題に事欠き ません。私としては、攻殻機動隊(GHOST IN THE SHELL)やエヴァンゲリ オンにおけるレアメタルの役割について、アニメオタクの若者と延々と語ら いたいのですが、この話を始めると、ここでの演題である「未来材料:チタ ン・レアメタル」について説明できなくなりますので、そろそろ本題に入り ましょう。 2/12
  • 3. 未来材料:チタン・レアメタル 110711_金曜特別講講座_原稿_未来材料:チタン・レアメタル_final.doc 7/27/2011 11:56:28 AM レアメタル研究への取り組み 私は20年間一貫してレアメタルの新しい製造プロセスやリサイクル技 術・環境技術の開発に関する研究を行なってきました1)。今も研究の軸足は まったく動いていません。この超オタッキーな研究姿勢に対して、10年前 に、東北大学から東京大学に移ってきた直後には、 「そんなマイナーなテーマ 掲げて大丈夫か?」「レアメタルのリサイクル?」というネガティブなムー 、 ドの批判が周囲に漂っていました。このため、最初は研究資金の調達にも苦 労し、溶接機や中古の小さな旋盤を購入し、自ら鋼材の加工や溶接を行なっ て、ゼロスタートで実験室を立ち上げました。 ところが、最近は状況が一変して、 「トレンディな研究ですね!」とか、 「磁 石スクラップからのレアアースをリサイクルする研究はとても重要だね!」 と、周囲から以前とはまったく逆の評価を受けるようになったので、戸惑っ ています。でも、これは私自身の研究テーマや取り組み姿勢は、一貫してい てほとんど変化していないのにもかかわらず、私を取り巻く環境が大きく変 化したために起こっただけのことです。 ハイテク・省エネ製品の発展に伴って、数年前から「レアメタル・ブーム」 が続いています。さらに昨年9月の尖閣諸島の領有問題に端を発した「中国 のレアアース禁輸」騒動が起こりました。高性能磁石をつくるのに不可欠な レアアースが日本に供給されなくなり、日本のハイテク産業は窮地に立たさ れたのです。この結果、レアアースをはじめとするレアメタルの重要性や供 給障害がもたらす産業への影響について、日本の社会全体が強い関心を示す ようになってきたのです。一連のニュースは大きな話題となりましたので、 若者の皆さんも一度は「レアアース」という言葉を耳にしたことと思います。 この授業では、まずレアアースや白金族金属などのレアメタル一般につい て概説し、そのあと、レアメタルの中でもっとも将来性があり、 “レアメタル の王様”とも呼ばれる「未来材料:チタン」を中心にその現状と将来につい て紹介しましょう。 レアメタルの現状 私たちの豊かな生活の中では、多種多様のレアメタルが使われています。 (図2参照)とくに、携帯電話やテレビなど、ハイテク機器の心臓部である 電子部品、さらには、各種センサ、高性能なモータ類は、レアメタルの塊と 言っても過言ではありません。 ハイテク産業にとって不可欠であるレアメタルの重要性や将来性について 3/12
  • 4. 未来材料:チタン・レアメタル 110711_金曜特別講講座_原稿_未来材料:チタン・レアメタル_final.doc 7/27/2011 11:56:28 AM は、一部の専門家の間では古くから認識されていました。しかし、実際には 数年前までは、レアメタルというと、あまり重要でない「超マイナーな金属」、 あるいは、基幹材料以外の(産業上は誤差範囲である) 「その他の金属」とし ての認識が一般的でした。これまで一般社会には、レアメタルの重要性や将 来性については、ほとんど認められていなかったのが実情です。 レアメタルは、欧米では「スペシャリティー・メタル」や「マイナー・メ タル」と呼ばれていますが、その名のとおり、 “特殊金属”や“稀少金属”と いう意味で広く一般に受けとめられています。レアメタルとは、鉄(Fe)や アルミニウム(Al)、銅(Cu)、鉛(Pb)、亜鉛(Zn)などの「コモンメタル (汎用金属、ベースメタル) を除いた金属の総称で、 」 資源的には必ずしも“レ ア”な金属であるとは限りません。4)~7) (図3参照) 。 「レアメタル」とい う言葉は、学会で認められた厳密な定義が存在する術語ではなく、解釈の仕 方や分類の方法は時代とともに変化するため、対象となる金属元素を一義的 に定義することはできません。ただ、おおまかに言えば、自然界に存在する 89 元素のうち、すくなくとも 47 の金属元素がレアメタルに分類されています。 レアメタルは、白金(プラチナ、Pt)やインジウム(In)のような資源的に 稀少なものから、チタン(Ti)やシリコン(Si)などのように資源的には豊富 なものまで、その種類は多岐にわたっています。一般的には、図3の①~③ の何れかに該当すれば、レアメタルです。また、図3の④に示すように、純 度や用途によってもレアメタルとなる場合やその範疇から外れる場合もあり ます。 レアメタルは、用途についても多様であり、用途別の分類方法は人によっ て千差万別です4)~8)。図4は、ふだん、周期表を目にすることがない一般 の人に対し、私が説明に利用しているレアメタルの分類法の一例です。この 分類法は、科学的でないため多くの問題を含んでいますが、レアメタルの歴 史や今後の動向を理解するのには有用です。 これまでレアメタルは、主として電子材料や磁性材料として利用され、製 品中の部品の素材として利用されていました。このため、通常の生活では直 接目にすることがなく、馴染みの少ない金属元素でした。しかし、デジタル 機器の高性能化と普及に伴ってレアメタルの用途が拡大した結果、 「①電子材 料用レアメタル」の中には価格が高騰するものも多くなり、メディアに登場 して一般の話題となるレアメタルも多くなっています。最近は、電子機器に は不可欠な“産業のビタミン”として、レアメタルの重要性は一般にも認識 されてきました。 一方、電子材料用のレアメタルと同様、古くから利用されてきたレアメタ ルとして、 「②合金用レアメタル」があります。その代表格は、工具材料や特 殊鋼の基幹素材としても不可欠なタングステン(W)やコバルト(Co)、クロ ム(Cr)などです。また、バナジウム(V)やニオブ(Nb)などのように、 4/12
  • 5. 未来材料:チタン・レアメタル 110711_金曜特別講講座_原稿_未来材料:チタン・レアメタル_final.doc 7/27/2011 11:56:28 AM 鉄鋼材料の添加用の合金元素としての需要が大きいものもあります。これら の元素は、鉄鋼やアルミニウム合金の性能を向上させる添加元素として利用 されます。当然のことながら、鉄鋼材料やアルミニウム合金はもちろん、銅 (Cu)やニッケル(Ni)などと比べれば、これらのレアメタルの使用量は微々 たるものです。しかし、鉄鋼関係に利用される「②合金用レアメタル」は、 鉄鋼やアルミニウム合金の産業の規模そのものが桁違いに大きいため、レア メタルの中では消費量が大きいことも特徴のひとつです。化学プラントの反 応容器や配管材料にも、レアメタルを含む特殊合金が多量に使われます。 電子機器や自動車などの付加価値が大きい工業製品の高性能化に伴い、図 4に示す「①電子材料用レアメタル」や「②合金用レアメタル」の需要はこ の20年間で飛躍的に増大しました。今後もこれらのレアメタルの重要性は さらに増大するため、レアメタルの用途や生産量は一層拡大するでしょう。 とくに、中国やインドなどの新興国の経済発展は、これらのレアメタルの需 要を今後さらに拡大させるものと予想されます。 最近は、航空関連産業の発展に伴い、航空機などの構造材として使用され る「③空飛ぶレアメタル」の需要も急増しています。これらの「空飛ぶレア メタル」の代表格は、チタン合金やニッケル基超合金に使用されるレアメタ ルです。軽くて抜群の強度を有するチタンは、リーマンショック以前は、航 空機の需要の拡大の影響により生産が追い付かず、フル生産と増産が続いて いました。現在は、航空機産業もようやく低迷から立ち直り、生産が拡大し つつあります。 「空飛ぶレアメタル」としてのチタンの将来は明るく、今後も 一層発展するでしょう。ジェットエンジンのタービンブレードに利用される レニウム(Re)やマイナーな白金族金属など、資源的に稀少で大幅な増産が 困難なレアメタルの供給動向も私の気がかりの一つです。 自動車産業の発展に伴い、電子材料や合金用の「④走るレアメタル」の需 要も増大しました。今後もこの傾向は一層加速すると考えられます。なぜな ら、燃費を向上させるためにより軽量・高強度かつ高機能な材料を使うよう になるでしょうし、さらには、自動車に搭載される制御機器やセンサ、通信 機器に使用されるレアメタルは、これまで以上に増えることが予想されるか らです。 自動車に使われる電子部品は、同じ機能であっても携帯電話やPCなどに 使われる電子部品よりも、はるかに高い信頼性が要求されます。熱や振動、 温度などの環境変化に対する安定性を追及すると、自動車用の電子部品には、 一般の家電製品より多くのレアメタルが必要となります。このため、自動車 が高機能化すればするほど、「走るレアメタル」の需要は増大します。 自動車の排気ガスの環境規制が世界的に強化されると、排ガス浄化触媒や 燃料電池の触媒として不可欠な白金(Pt)やパラジウム(Pd)ロジウム(Rh) 5/12
  • 6. 未来材料:チタン・レアメタル 110711_金曜特別講講座_原稿_未来材料:チタン・レアメタル_final.doc 7/27/2011 11:56:28 AM などの白金族金属(Platinum Group Metals: PGMs)などの需要は一層増大しま す。また、将来、ハイブリッド自動車や電気自動車が増産されるようになる と、高出力モータの需要が大幅に拡大します。とくに、高性能磁石の素材と して不可欠なネオジム(Nd)やジスプロシウム(Dy)などのレアアース(希 土類金属、Rare Earth Metals: REMs)や8) 、蓄電池に使われるリチウム(Li) などのレアメタルの需要が大幅に増大するでしょう。将来、自動車産業の発 展に伴い、 走るレアメタル」 「 の需要は、急激に増大する可能性が高いのです。 さらに最近は、太陽電池をはじめとする、エネルギー関連のレアメタルも 注目を集めています。高純度シリコンを主原料とする多結晶シリコン太陽電 池や周辺の制御装置も基幹材料として多くのレアメタルが使われます。また、 今後発展が期待される新型太陽電池も多種多様のレアメタルを使用します。 太陽光発電には、蓄電や変換(インバータ) 送電などの設備も不可欠ですが、 、 これらの機器の基幹部品には、レアメタルやその化合物を多量に使われてい ます 2)。 レアメタルというと「枯渇」を前提とした報道が多く、 「工業製品からすべ てのレアメタルをリサイクルするべきである」と言った論調で議論されるこ とも多いようです。アニメやSFの世界では、多少の誤解や嘘は許されます が、 「将来、レアメタルは枯渇するので、レアメタルはすべてリサイクルする べき」などという事実に則しない見解は、ともするとレアメタルに対する将 来像を大きく歪める一因ともなりますので、注意が必要です2)3)。 レアメタルの王様:チタン 私の研究室では、さまざまなレアメタルの新規製造プロセスの開発やリサ イクル技術の開発を行なっています。 (図5参照)中でも、チタン鉱石から効 率良く直接金属チタンを製造する新製錬法の開発は、私のライフワークの一 つです。チタンの研究の醍醐味とその困難や苦労については、すでに解説を 各所で行っていますので1)9)~12)、ここでは、チタンの歴史と現状、その将 来性について紹介します。 チタンの本質を理解するためには、まずは、図6に示すチタン製錬の歴史 に加えチタンの性質を知る必要があります。チタンは、地殻中に存在する元 素の中では、9番目に多い元素であり、資源的には無尽蔵です。天然鉱石の 中には、酸化物(TiO2)としての純度が 95%を越えるルチル鉱も存在します。 また、鉄とチタンの複合酸化物であるイルメナイト鉱は、資源的にほぼ無尽 蔵で、場所によっては海辺の砂にも多量に含まれています。冒頭のガンダム の話でも紹介しましたが、月面にもチタンの酸化物は沢山あるようです。 元素としての賦存量が多いため、チタンの発見は古く、18世紀の終わり 6/12
  • 7. 未来材料:チタン・レアメタル 110711_金曜特別講講座_原稿_未来材料:チタン・レアメタル_final.doc 7/27/2011 11:56:28 AM には、すでに酸化物を構成する元素として発見されていました。当時の化学 者は、新元素が発見されると直ちに純粋な元素の単離を試みました。しかし、 チタンに関しては、純粋な金属への還元に誰も成功せず、純度の高いチタン はどうしても得られませんでした。純度 99.9%の金属チタンが得られ、チタ ン単体の物性が明らかになったのは、元素の発見から約 120 年も後の 1910 年 でした(図6参照)。 資源は豊富で、酸化物の品位が高い鉱石が多量に存在するにもかかわらず、 純粋な金属が得られない最大の理由は、チタンと酸素の親和力が極めて強い ためです。科学技術が飛躍的に進歩した今日でも、金属チタン中の不純物の 酸素を除去するのは極めて困難な課題の一つです。 ちなみに 私が学生の頃、最初に与えられた研究テーマも、金属チタン中 の酸素を直接除去して高純度のチタンをつくる新技術を開発することでした。 当時は状況も解らず、振り返ってみると、無謀にもとても難易度の高い研究 に最初から取り組んだものです。運が良かったのでしょうか、偶然にもチタ ン製錬の研究でいくつかの成功体験をして以来、チタン研究の醍醐味に魅せ られ、今もその虜になっています1)12)。 チタンは、純粋な金属を製造するのは極めて困難ですが、いったん高純度 の金属が得られれば、延性にも富んでいるためステンレス鋼と同様に圧延な どの加工ができます。しかも、とても軽量で、単位重量あたりの強度(比強 度)が金属材料の中ではもっとも高く、靭性にも富み、抜群の耐腐食性を有 する「夢の金属材料」です。 このため、高純度のチタンが得られてその物性が明らかになったときから、 工業的な生産法の開発が試みられました。しかし、チタン鉱石(酸化物)か ら酸素をはじめ、鉄や炭素などの不純物を、効率良く除去する手法がなかな か開発できませんでした。このため、チタンの量産プロセスが成功するには、 純粋な金属の単離からさらに 50 年の歳月を要しました。チタンの工業生産が 本格化したのは、第二次世界大戦後です(図6参照)。資源的には無尽蔵で、 抜群の性能を有しているのにチタンは、工業的にはとても新しい金属です。 現在、工業的に確立されている主なチタンの量産法は、チタン鉱石(酸化 物)を塩化して、いったんチタンの塩化物(TiCl4)に変換し、酸素や鉄など の不純物を完全に除去してから、この塩化物を金属マグネシウム(Mg)で還元 する手法を利用しています 13) 。この手法は、 「クロール法」と呼ばれ、酸素濃 度の低い高純度のチタンを確実に生産できる点で優れています。しかし、チ タンの還元反応における膨大な発熱を今もなお上手く制御できないため、現 状では還元プロセスの生産速度をこれ以上速められないのが大きな欠点です。 現時点では、最新鋭の大型生産設備を使っても、一つの反応装置では、一 7/12
  • 8. 未来材料:チタン・レアメタル 110711_金曜特別講講座_原稿_未来材料:チタン・レアメタル_final.doc 7/27/2011 11:56:28 AM 日あたり1トンのチタンしか製造できません。したがって、資源的に豊富な 原料鉱石(チタン酸化物)のコストは低いにもかかわらず、これを還元して 金属を生産するのに、チタン 1 トンあたり 100 万円以上のコストがかかりま す。仮に、チタンが 50 万円/トン以下のコストで生産できるようになれば、 現在普及しているステンレス鋼との価格競争力が生まれます。すると、現在 の年間 10 万トンレベルの需要は、飛躍的に増大し、現状の 10~100 倍の用途 が生まれ、資源的な制約のないレアメタルの王様として社会に多大な貢献を することになると考えられます。 チタンの生産量は着実に増大しています。 (図7参照)また、特筆すべき点 としては、日本は、全世界チタン生産量の 20%程度のシェアを占めるチタン の生産大国であるという点です。電力コストや人件費が高いにもかかわらず、 また、環境規制が厳しいため、高価な原料を購入しなければならないという、 いくつものハンディを背負いながらも、現在、日本はチタンの製造に関して は世界のトップランナーです。日本で生産されるチタンは、世界の中でも品 質が極めて高いために、米国などにも輸出され、航空機などの先端材料とし て利用されているのです。 夢の材料チタン 次世代航空機は、燃費性能を向上させるために機体に炭素繊維の部材を使 用する割合が増大するでしょう。コストをかけて機体の重量を低減するため には、ジェットエンジンまわりや車輪を支える足回りなどの耐熱性や強度が 要求される金属部品の軽量化も重要です。チタンは、もともと航空機の足回 りやエンジンの構造材、戦闘機の機体材料としての用途がほとんどでした。 炭素複合材との接合性などの相性も良いため、最近は、アルミニウム合金に 代わって、新型航空機におけるチタンの使用割合が年々増大しています。将 来、高性能の新型航空機の需要が世界的に増えるにつれて、チタンの需要は 大幅に増大するものと予測されています。 チタンは、強度があり軽量なだけでなく、抜群の耐腐食性・耐候性があり ます。このため、最近では羽田空港の沖合に新たに建設された海上滑走路(D 滑走路)の橋脚部分の海面に面している天井の保護膜としてチタンが多量に 使用されました。(図8参照) チタンは、海水に対してまったく腐食性がないため、原子力・火力発電所 から発生する蒸気を水に戻す復水器(コンデンサー)や海水淡水化プラント の蒸発器などの基幹材料として利用されています。今では、腐食環境の熱交 換装置にはチタンは欠かすことの出来ない材料の一つとなっています。また、 抜群の耐腐食性を生かして、化学プラントの配管や反応容器、バルブの構造 材などにもチタンやその合金が広く利用されています。 8/12
  • 9. 未来材料:チタン・レアメタル 110711_金曜特別講講座_原稿_未来材料:チタン・レアメタル_final.doc 7/27/2011 11:56:28 AM 民生用途も拡大しており、長期にわたる耐候性が要求される屋根材や外装 用の板などにも広く利用されています。誰もが知っている東京・浅草寺の屋 根瓦は、一見、陶器の素焼きのように見えます。 (図8参照)確かに昔は、重 たい焼き物の瓦が屋根の上に載っていました。しかし今では、特殊な塗装を 施して外見は陶器のように見せかけていますが、じつはチタン箔で作られた 中空の構造体が使われています。 “焼き物のようなふり”をしたチタン製の非 常に軽いハイテク瓦が屋根にのっていて、木造建築本体への負担を軽減し長 寿命化に貢献しているのです。さらにチタンは、抜群の耐候性を備えた屋根 材ですのでメンテナンスが不要という大きなメリットがあります。 近年は、メガネのフレームやゴルフクラブのヘッドだけではなく、各種、 生活用品にもチタンやその合金が使われるようになってきました。また、チ タンは生体との適合性が良いため、人工骨や各種インプラント材などの、医 療用の材料あるいは生体材料としても利用されています。 チタン製錬法の新展開 資源的には無尽蔵なチタン鉱石から低いコストで金属チタンを製造する新 技術が開発されれば、チタンは爆発的な普及し、超長寿命の高性能基盤材料 として社会に多大な恩恵をもたらします。 このため私は、長年、チタンの新製錬法に関する様々な研究を行なってき ました。1)9)~12)その一例を紹介しますと、TiCl2 などのチタンのサブハラ イド(低級塩化物)を中間原料として利用して、高速でチタンを還元して効 率良く金属チタンを製造する新製錬法の開発です。この新精錬法で、原理的 にはチタンの超高速還元プロセスが実現できるのです。ただ、現時点ではチ タンのサブハライドを製造するのが困難という壁に阻まれて、実用化は難し いのが実情です。しかし、仮にチタンのサブハライドを効率良く製造する技 術が開発できて、このサブハライド還元法を利用すれば、還元に伴う発熱を 大幅に低減できます。また、この方法は、反応容器として原理的には金属チ タンを利用できるため、高純度チタンを作るのにも適しているという利点も あります。 直接、チタン鉱石から、効率良く金属チタンを製造する新製錬法の開発も 私の夢の一つです。私たちが開発した「プリフォーム還元法」という方法を 利用すれば、酸化物(TiO2)を出発原料として、1日以内に鉱石から金属チ タンを直接的に製造できます。しかし、現状では、プリフォーム還元法の還 元剤となる金属カルシウム(Ca)の安価な製造法が確立されていないために、 現在の技術レベルでは、工業的には利用できません。 9/12
  • 10. 未来材料:チタン・レアメタル 110711_金曜特別講講座_原稿_未来材料:チタン・レアメタル_final.doc 7/27/2011 11:56:28 AM 現状では、鉱石から金属チタンが得られるまでに、幾多の反応操作を経て、 莫大なエネルギーを投入して、何週間もの時間がかけられています13)。そこ で、将来的には短時間で効率良く金属チタンが製造する革新的な新技術の開 発が望まれています。遠くない将来に、東京湾上に作られたオールチタン製 の滑走路からレアメタル合金で作られた飛行機やロボットが離発着する日が くるかもしれません。 夢とロマンを追いかけて 社会が発展し、生活が豊かになれば、高性能の電子機器が数多く使われる ようになります。日常社会では直接目にすることは少ないですが、電子機器 には多くのレアメタルが使われており、私たちは多種多様のレアメタルに囲 まれて生活しています。いまやレアメタル抜きには、私たちの生活は成り立 ちません。また、ハイテク製品だけでなく、省エネにもレアメタルは不可欠 です。たとえば、ハイブリッド自動車の高性能モータや蓄電池、太陽光発電 のパネルや制御器などは、レアメタルの塊と言っても過言ではありません 14)15) 。グリーンイノベーション(省エネ技術革新)の推進には、「未来材料: レアメタル」が不可欠です。 レアメタルの中でも、資源的には無尽蔵にあるチタンは、今は年産 10 万ト ンレベルの産業ですが、将来的には、100 万~1000 万トンの需要が発生して も何ら不思議のない金属です。チタンは金属材料の中では最高水準の強度・ 耐腐食性を有しているので、製造プロセスのイノベーションにより、レアメ タルからコモンメタルに変わる可能性が高い未来材料の一つです。私の研究 室には「レアメタルからコモンメタルへ!!」という標語を掲げています。 私がチタンをはじめとするレアメタルの研究に取り組んで来たのは、 「未来材 料:チタン・レアメタル」の類稀なるポテンシャルの高さ、将来性の大きさ に魅せられたからです。いまだに、私自身はこの難易度の高い研究テーマに ついて、成功の糸口すら掴めていませんが、今後も、レアメタル製造のプロ セスの技術革新を目指して鋭意努力するつもりです。そして同時に、レアメ タルの研究の「夢とロマン」に魅せられる若者を一人でも多く育てて、次世 代に繋ぐことも私の責務の一つであると思っています。 謝辞 〇〇社の〇〇様と〇〇社の〇〇様には、アニメの図をご提供戴きました。ま た、社団法人日本チタン協会 専務理事、筒井政博氏に最新のチタン情報や映 像資料のご提供を戴きました。記して感謝の意を表します。 10/12
  • 11. 未来材料:チタン・レアメタル 110711_金曜特別講講座_原稿_未来材料:チタン・レアメタル_final.doc 7/27/2011 11:56:28 AM (以上、約 10,000 字) 参考文献 1) 岡部 徹: '夢とロマンのチタン研究 ~20年間の苦労を振り返って~', チタン, vol.58, no.1, pp.3-9, (2010). 2) 岡部 徹: 'レアメタルの実情と日本の課題', 工業材料, vol.55, no.8, pp.18-25, (2007). 3) 岡部 徹: 'レアメタルにまつわる誤解', 現代化学, no.448 (7月号), pp.16-21, (2008). 4) 'レアメタル辞典', 堂山 昌男 監修, フジ・テクノシステム/日本工業技術振興協会編集, 東京, (1991). 5) 'レアメタルとは何か?', ニュートン, (ニュートンプレス, 2008 年 3 月号), 第 28 巻 3 号, pp.86-91, (2008). 6) 渡辺 正 監訳, “元素大百科事典”, (株)朝倉書店, pp. 203-273, (2007). 7) C.A. Hampel 著, 小川 芳樹 監修: “レアメタルハンドブック”, 東京, (株)紀伊国屋書店, pp. 389-408, (1957). 8) '希土類の化学', 足立 吟也 編著, 化学同人, 東京 (1999) 全 896 頁. 9) 岡部 徹、大井 泰史: 'チタン製錬技術の新展開', 金属, vol.77, no.11, pp.1247-1251, (2007). 10) 岡部 徹: '電気と技術の塊 金属チタンの製造法', 電気学会誌, vol.126, no.12, pp.801-805, : (2006). 11) 岡部 徹、 二上 愛、 小野 勝敏: 'チタン製錬プロセスの最近の話題', ふぇらむ(日本鉄鋼 協会会報), vol.7, no.1, pp.39-45, (2002). 12) 岡部 徹、中村 正信、植木 達彦、大石 敏雄、小野 勝敏: 'カルシウム-ハライドフラ ックス脱酸法による極低酸素チタンの製造方法', 日本金属学会会報, vol.31, no.4, pp.315-317, (1992). 13) 'レアメタル便覧 第1版', [監修] 足立吟也: 丸善株式会社 (ISBN 978-4-621-08276-8), 東京, (2010). (1800 ページ) 14) 'ネオジム磁石のすべて―レアアースで地球(アース)を守ろう―', [監修]佐川眞人,発 行 アグネ技術センター(ISBN 978-4-901496-58-2 C3054), (2011) 15) '自動車技術ハンドブック第 10 分冊(EV・ハイブリッド)編',(編集:自動車技術ハンド ブック編集委員会(委員長:堀洋一), 社団法人自動車技術会, 東京),[企画編集], '第 1 章 自動車を取り巻く諸情勢, 1.6 自動車用のレアメタルとリサイクル', (2011). 11/12
  • 12. 未来材料:チタン・レアメタル 110711_金曜特別講講座_原稿_未来材料:チタン・レアメタル_final.doc 7/27/2011 11:56:28 AM ★著者情報 略 歴:1965 年京都生まれ。1988 年、京都大学工学部冶金学科卒業。1993 年、同大学大学院工学研究 科博士課程修了(工学博士) 。その後、マサチューセッツ工科大学に博士研究員として 3 年間留 学。1995 年東北大学素材工学研究所(現:多元物質科学研究所)助手。2001 年、東京大学生産技 術研究所助教授。同研究所の准教授を経て、2009 年より現職。 http://www.okabe.iis.u-tokyo.ac.jp 専 門:材料化学、環境科学、循環資源工学、レアメタルプロセス工学。プロセス技術がレアメタル をコモンメタルに変えることを夢見て、 チタンなどの新製錬技術の開発を行っている。最近は、 ニオブ、タンタル、スカンジウム、ガリウム、貴金属などのレアメタルやレアアースの製造プ ロセスや新規リサイクル技術、環境技術の研究も行っている。 受賞暦:本多記念奨励賞、井上研究奨励賞、市村学術賞・功績賞、本多記念奨励賞、日本金属学会功 績賞、日本チタン協会技術賞など。 以下削除(備考) 略歴(1) 岡部 徹 (おかべ とおる) 1993 京都大学大学院博士課程修了(工博) 1993-1995 マサチューセッツ工科大学博士研究員 1995-2000 東北大学素材工学研究所助手 2001- 東京大学 生産技術研究所 助教授 (2004- 助教授から准教授に職名変更) 2009- 東京大学 生産技術研究所 教授(現職) プロセス技術がレアメタルをコモンメタルに変えることを夢見て、チタンなどの新製錬技術の開発 を行っている。最近は、ニオブ、タンタル、スカンジウム、貴金属などのレアメタルの製造プロセス や新規リサイクル技術、環境技術の研究も行っている。 ホームページ:http://www.okabe.iis.u-tokyo.ac.jp/ 1965 年(昭和 40 年)京都市生まれ。ロンドン日本人学校、筑波大学附属高等学校を経て、88 年、京 都大学工学部冶金学科卒業。同大学院博士課程へと進み、チタンなどのレアメタルの精錬に関する研 究で 93 年に博士号を取得。その後、日本学術振興会海外特別研究員として渡米、マサチューセッツ工 科大学の博士研究員として約 3 年間留学。東北大学素材工学研究所(現:多元物質科学研究所)の助手 として5年間勤め、 2001 年より東京大学生産技術研究所の助教授に着任し、 同研究所の准教授を経て、 09 年から教授に就任した。専門分野は、材料化学、環境科学、循環資源工学、レアメタルプロセス工 学。20 年以上、一貫してレアメタルの研究に取り組んでいる。 “プロセス技術がレアメタルをコモンメ タルに変える”ことを夢見て、チタンなどの新製錬技術の開発を行っている。最近は、PGM(白金族金 属)、レアアース(希土類金属) 、ニオブ、タンタル、ガリウムなどのレアメタルの製造プロセスや新 規リサイクル技術、環境技術の研究も行っている。 ホームページ: http://www.okabe.iis.u-tokyo.ac.jp (440字) 12/12
  • 13. チタンをはじめとするレアメタルは、アニメやSFの世界ではとても重要な未来材料である。 ルナチタニウム合金(Luna-Titanium Alloy)は、宇宙世紀0064年に開発されたチ 機動戦士 タン、アルミニウム、希土類金属(レアアー ス)などから構成される合金である。月(ル ガンダム ナ)で精製されるチタン(チタニウム)の合金 であるところからその名が付いた。月面上と いう特殊な重力下で精製することにより従来 のチタン系合金よりも優れた様々な特性を有 するという。 超合金Zは、マジンガーZの装甲に用いられ る合金である。金属結晶の原子の並び方の 乱れ、すなわち格子欠陥のない金属であり、 マジンガーZ 極めて堅牢とされている。日本の富士の裾 野にしか存在しない特殊な鉱石に含まる新 元素ジャパニウムを使って兜博士がつくった 超合金である。 一部のターミネータの骨格は、コルタンという タンタル化合物で出来ている。タンタルは、超 高融点金属(融点3000度以上)のレアメタル であり、耐腐食性に富む。皮膚や血液と相性 ターミネーター が良いため、生体材料としても使われる。最 新型モデルのT-1000型は、自己修復能 があり、変幻自在に形や色を変える特殊な 液体合金で出来ているが、恐らくこれも未来 型のレアメタル合金であろう。 コルタン狂想曲というタイトルで、レアメタル の一つであるタンタルをめぐる話題がある。 ゴルゴ13 日本の電機メーカーが世界最強機種の携帯 電話を開発した。しかし、その量産に必要な レアメタル鉱石“コルタン”の鉱山がゲリラに よって占拠されていた。そこで、無敵のゴル ゴ13が活躍する。 戦艦ヤマトがレアメタルの塊であることは議 論の余地はない。また、西暦2192年よりガミ ラスが地球に対する無差別攻撃に使った「遊 宇宙戦艦 星爆弾」にも放射能を含むレアメタルが沢山 ヤマト ありそうである。最近の実写版では、古代進 (木村拓也)は、地下組織でレアメタルの横 流しをして生活をしていたようである。 図1 アニメやSFにおけるレアメタル.
  • 14. 薄型テレビ 携帯電話 レアアース(希土類金属, REM: Nd, Dy, Sm, ...): ハイブリッド自動車・電気自動車のモーター ハードディスク、携帯電話のバイブレーター 白金族金属(PGM: Pt, Rh, Pd,…): PCなどの 自動車排ガスの触媒、 ハードディスク 燃料電池の触媒、各種電極 インジウム(In): 液晶、プラズマの透明電極 ガリウム(Ga): 青色発光ダイオード タンタル(Ta): 小型・高性能コンデンサ リチウム(Li: 高性能電池 発光ダイオード 電気 太陽電池 出典 三菱自動車工業株式会社ホームページより転載 図2 レアメタルの用途.
  • 15. ① 資源的に稀少な金属 (賦存量が少ない元素) →白金族金属 (Pt, Rh, Pd), インジウム (In), ガリウム (Ga), タンタル (Ta), ジスプロシウム (Dy), … ② 資源的に豊富でも、メタルを得るのが困難な金属 →チタン (Ti), シリコン (Si), マグネシウム (Mg), … ③ 資源的に豊富でも、鉱石の品位が低い金属 →バナジウム (V), スカンジウム (Sc), … 上記以外にも、以下の定義を加える場合もある。 ④ 高純度等、特異な形態で優れた機能を発揮する元素 →超高純度鉄 (Fe), 高純度非鉄金属, … ⑤ 少量、微量で特異な機能を発揮する元素 (高付加価値を実現できる元素) ⑥ これまで用途が少なく、工業的には未開発である元素 →オスミウム (Os), アクチノイド金属, 超高純度金属, … 図3 レアメタルの定義.
  • 16. ① 電子材料用レアメタル(デジタル機器用レアメタル) →半導体(Si, Ge, GaAs) →磁性材料(Nd, Dy, Sm, Co, …) →各種電子材料(In, Ta, Li, Ba, Sr, …) ② 合金用レアメタル →工具用特殊合金(W, Co, Ta, …) →鉄鋼添加用(V, Cr, Mo, Nb, …) ③ 航空・宇宙材料用レアメタル(空飛ぶレアメタル) →航空機材料(Ti, Ni基超合金, Re, PGMs, Al-Sc合金, …) ④ 自動車用レアメタル(走るレアメタル) →合金添加元素(Mo, V, Nb, Ti …) →磁石材料(Nd, Dy, Sm, Co) →触媒(Pt, Pd, Rh, …) →電池(Li, Ni, Co, Mn, …) ⑤ エネルギー関連レアメタル →太陽光発電(Si, Cd, Te, In, Ga, Ru, Ag, …) →電池材料 (Li, Co, Ni, Pt, …) →電極・送電材料 (Ag, Nb, Sn, Bi, …) ⑥ 原子力用レアメタル →原子炉用材料 (Zr, Hf, 特殊合金…) →放射性廃棄物 (PGMs …) ⑦ 医療・生体用レアメタル、その他 →生体材料(Ti, Nb, Ta, … ) →薬品・健康食品 図4 レアメタルの用途別分類.これまでは、電子材料用、合金用、航空機 材料用のレアメタルが主な需要であったが、今後は、「走るレアメタル」、 および、「エネルギー関連レアメタル」の需要が大幅に増大する.
  • 17. 未来材料:チタン・レアメタルの新規プロセス技術の開発 • 高付加価値無機素材の高効率回収プロセスの開発 • チタンの製造プロセスの開発 • 電子材料用レアメタル粉末(Nb, Ta)の製造 • 貴金属などの高価なレアメタルの新規リサイクル技術の開発 チタン鉱石 金属チタン Ti ore or UGI Ti ore or UGI Ti bulk bulk Ti 鉱石から直接チタンを製造する研究 高度循環社会の確立を目指した材料工学 循環資源立国への挑戦 Rare Metals レアメタルの環境調和型リサイクル技術の開発 図5 岡部研究室(循環資源・材料プロセス工学)の研究ビジョンと取り組んでいる研 究テーマの一例.
  • 18. 1791年 英国のR. W. Gregorによりmenachaniteという鉱石として発見される 1795年 ドイツの化学者Klaproth によりルチル鉱石の中に 再発見されチタンと命名される 1887年 スウェーデンのNilson とPettersson は不純物を多く含む金属チタン(純度 95%)を製造に成功 1910年 米国のM. A. Hunterが, TiCl4 と金属ナトリウムを 鋼製反応容器内で反応させ純度99.9%のチタンの製造に成功 (元素の発見から119年) →製錬がもっとも難しい元素の一つ 1946年 ルクセンブルグのW. Krollが TiCl4 を金属マグネシウムで還元する 方法を開発し、米国にて工業的な生産が始まる 1949年 日本で製錬・加工の研究が始まる 1950年 京都大学西村研究室にて森山徐一郎博士らがクロール法を使ってスポン ジチタンの製造に成功 1951年 日本でチタンの生産開始(大阪特殊製鉄所) 現在 年間、10~20万トンのチタンが世界で製造されているが、 今後も需要は増大すると考えられてる 図6 チタンの製錬の歴史.元素の発見から純金属の単離まで120年を要した最も製 錬が困難な金属、かつ工業生産が開始されてまだ60年しか経っていない新金属.
  • 19. 展伸材(チタンを溶解・圧延・加工した板やパイプなど)の出荷量は、 世界全体で約120,000㌧ 120,000 その他 電子材料 ゴム 28 100,000 化学繊維 China Russia 80,000 製 25 紙 Ukraine プラスチック 10 60,000 塗料 EU 20 Japan 40,000 インキ・顔料 USA 20,000 35 0 2000 01 02 03 04 05 06 07 08 図7 世界のチタン産業の規模.展伸材(チタンを溶解・圧延・加工したもの)の出荷 量の推移.(情報提供:社団法人日本チタン協会、筒井政博氏)
  • 20. 図8 チタンの建築への実用例(浅草寺宝蔵門屋根).チタンが有する抜群の耐食性・ 耐候性と軽量化性能を生かして、屋根材として利用されている。 (情報提供:社団法人日本チタン協会、筒井政博氏)
  • 21. チタンの土木・建築への実用例: 羽田新滑走路(海上滑走路)の桟橋部 図9 チタンの民生品としての使用例.チタンが有する抜群の耐食性・耐候性を生かし て、滑走路の橋脚部の天井部分の表面に約1000トンも使用された. (情報提供:新日本製鐵提供)