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自治体課題設定手順
2019.6.17
APPLIC
吉本明平
1
自治体計画の“テーマ設定”
憧れ
問題点不満足
導入したい先進事例
取り組んでいるが
不十分な状態
解決しなければな
らない地域の問題
「官民データ活用推進計画」の策定や、それを具体
的実行計画に落とす際にはそもそもなにを目的とし
た計画なのか、テーマの設定が肝要です。
計画の位置づけや推進体制、具体的なスケジュール
やKPIなども確かに大切であり、記載すべき内容に
ついてはAPPLICでチェックシートとして整理して
います。
しかし、作成の目的が地域のニーズに合っていなければ計画は有効なものとなりません。
一般的に言われる“目的”を地域に合わせて見直す必要があります。
ただ、目的設定の段階で「地域課題」の着目しすぎると、解決すべき“現状の問題点”に
意識が集中し、いわゆるギャップアプローチに徹してしまいます。
より前向きなポジティブアプローチも強化すべきです。そのためにはブレーンストーミン
グなど行うにしても「問題点」だけではなく、強化したい「不満足」部分や、具体的に困
っていなくとも、こうあるべきだという「憧れ」にも注目することが重要です。
また、出てきたアイデアをこれらの視点でシフトすることで新たな発想も生まれます。単
なる“憧れ”と思っていることを、解決すべき“問題点”の視点で見直すとか、“不満足
”部分を“憧れ”の視点で方向性を考えるとかいった工夫が可能です。
2
自治体計画テーマ設定レンズ
憧れ
不満足 問題点
遠隔授業
WikiPedia
Town
メルマガ
窓口改革
過疎化
空き家
鳥獣被害
オープンデータ
3
自治体計画の“テーマ選定”
計画のテーマ検討においては、行政職員だけではなく、地域住民など広く参加を求め、
多様性を確保すべきです。
また、前述の通り“問題点”、“不満足”、“憧れ”など多視点で検討を進めるべきで
す。
多様性、多視点で検討することで、テーマに対する多くのアイデアを得ることができま
す。ブレーンストーミングなどで得られたアイデアは、親和図法で整理したり、2×2の
マトリックスで分類したり、既存の方法論で分析し合意を形成することができます。
より詳細かつ具体的にテーマを検討するには“データアカデミー”(*)で実践されている
データ分析に基づくEBPMのアプローチを活用することが有効です。
4
(*) https://da.code4japan.org/
自治体計画テーマのリフレーミング
元テーマ どうする?
なんのため?
5
このようにして「テーマ」が設定された際、課題と
なるのが表面的な事象と真の命題のギャップです。
そのテーマを“解決”するにしても、“発展”させ
るにしても、取り組むべき命題はその奥に潜んでい
る可能性があります。いわゆる「インサイト」を知
る必要があります。
“少子化”と表面的にみえていても、本当に議論すべき命題は子供を増やすことより、少
ない子供たちに寄り添った教育であったり、将来彼らが引き続き地元で活躍したいと思う
マインドセットの醸成であったりするかもしれません。
あるいは、テーマが壮大すぎてどこから取り組むべきか見当がつかないといった場合もあ
り得ます。“人口減”のような大きなテーマはそのままでは計画に落としづらいものとな
ります。
そこで、テーマを違った視点で見直し、リフレーミングする必要があります。そのために
はそもそも何のためだったのか、テーマを上位概念で見直し、どのように進めるのかの方
策に落としなおすことが有効です。これにはバリューグラフが活用できます。
バリューグラフ
少子化対策 どうする?
なんのため?
次世代を担う
地域の持続
教育・子育て
環境維持
親への支援
子供を増やす
転入させる
出生数を
増やす
一人一人に
手厚く
教育の充実
I・Uターン
6
自治体計画の分析
7
他団体、
自助、共助との関係
対象住民・地域課題解決の
方向性
対象住民・地域
との接点
対象住民・地域
との関連
価値の流れ
負担の流れ
利用可能な
リソース
計画すべき
活動
法・制度的
根拠・制約
12
3
4
5
6
78
9
テーマがリフレーミングされ、検討すべき命題が明
確になれば計画の作成を進めることができます。
計画の検討を具体的にするには前述の“データアカ
デミー” の活用が極めて有効です。
ワークショップを通じてデータに基づく実践的な検
討手法を学ぶことができます。
計画作成の手法は様々ですので、地域の実情に合わせて適切な方法をることができます。
その際にも多様性、多視点の確保に努めることが大切です。
手法は様々ですが、計画検討の段階で全体を俯瞰するにはビジネスモデルキャンバスの活
用など有効です。
通常のビジネスモデルキャンバスは収益事業を対象としたもので、自治体の事業とは少々
ニュアンスが違います。次ページのキャンバスは自治体向けにアレンジしたものです。
通常は“コスト”と“収益”が可視化対象ですが、この段階では制約条件としてコストよ
り法制度面が重要になるため、そのような形で改めています。
他団体、
自助、共助との関係
対象住民・地域課題解決の
方向性
対象住民・地域
との接点
対象住民・地域
との関連
価値の流れ
負担の流れ
利用可能な
リソース
計画すべき
活動
法・制度的
根拠・制約
12
3
4
5
6
78
9
自治体計画分析キャンパス
8
こども一人一人に
手厚いサポート
個々人の特性に合
わせた個別の育児
・教育サービス提
供
サービス提供時間
の自由度を広げる
空き教室
WiFi(学校設置
)
コミュニティバス
子育て世帯
(主に幼児、児童
を持つ世帯)
従来から暮らして
おり、児童会など
に参加している
新規転入世帯で地
域とのつながりが
薄い
市役所窓口
出張所
学校
保護者会
児童会
Webページ
育児サークル
児童会
PTA
NPO
子供の現状分析にかんして個人情報保護条例に
抵触の可能性あり
世帯所得の分析には地方税法22条の問題あり
原則受益者負担なし
事前申し込み者に限定(オプトイン)
いわゆる
計画部分
バリュープロ
ポーションキ
ャンパスで
分析
9
バリューマップ 地域・住民意識
ゲインクリエーター
ペインリリーバー
望み、将来
結局こうなりたい
でも、やりたくない
施策
行政視点、住民視点
自治体計画のテーマ設定と、解決策や計画の検討の
流れは一方通行ではありません。計画を検討する中
で、あるいは実行するなかでテーマは常に見直され
精査されていくべきです。
その際、つねに行政側の視点と住民側の視点を持っ
て検討を進める必要があります。
それぞれの視点から何を実現しようとしているのか、それは今得られている解決策とどの
ように異なるのかといった体系的な整理が必要となります。
バリュープロポーションキャンパスのような方法は、一つの手段にすぎませんが、テーマ
や解決の方向性についての認識を可視化し、合意形成につなげることは重要です。
バリューマップ 地域・住民意識
ゲインクリエーター
ペインリリーバー
望み、将来
結局こうなりたい
でも、やりたくない
バリュープロポーションキャンバス
施策
こども一人
一人に手厚
いサポート
親への支援充実
教育子育て環境充実
お金はかけたくない
仕事は続けたい
遠くには行かせたくない
無料で多彩な支援
通える距離の学校
でのサービス提供
児童数の減少伴い
個々に合わせた多彩な授業
学校施設の有効活用
児童数の減少伴い
無償部分の増加
サービス日程、時間の増加
10

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