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地球温暖化が琵琶湖に及ぼす影響の理解と予測
五十嵐 康伸 1
藤原 務 2
佐藤 拓也 3,4
Yasunobu Igarashi 1
, Tsutomu Fujiwara 2
, and Takuya Sato 3,4
1
E2D3.org 2
滋賀県 琵琶湖環境部 琵琶湖保全再生課
3
NPO 法人 琵琶故知新 4
YuMake 合同会社
1
E2D3.org 2
Shiga Prefecture, Department of Lake Biwa and the Environment, Lake Biwa
Conservation and Restoration Division 3
NPO Biwakochisin 4
YuMake LLC
Abstract: 本研究では、地球温暖化が琵琶湖の水温と溶存酸素に与える影響を定量的に分析する
ために、琵琶湖の表層から底層までのデータを 41 年分集め、整理し、視覚化し、比較した。
1. はじめに
滋賀県の琵琶湖は日本で一番大きな湖である。琵琶
湖の北湖の今津沖にある第一湖盆の水深は 90m を超
え、全層循環が起こっている[1-4]。日本で全層循環が
起こっている湖は琵琶湖と、鹿児島県の池田湖だけで
ある。
気温の変化は、深層の水温よりも、表層の水温へ急
速にかつ大きく影響を与える。春から夏にかけて表層の
水温は大きく上がる。北湖では、春から初冬にかけて、
表層と深層の間に水温が急激に変わる水温躍層(すい
おんやくそう)が形成される。表層水は温度が上がること
で低密度になり、沈みにくくなる。水温躍層が形成され
ると、表層と深層の間で水の対流が減り、上下方向に湖
水が混ざりにくくなる。表層水は酸素を多く含んでいる
が、その酸素が底層に届かなくなる。底層では、溶存酸
素(DO)が供給されず、溶存酸素の消費が進む。晩秋
に底層の DO は最も低くなる。秋から冬にかけて表層の
水温は大きく下がる。水温躍層は緩和し、冬に無くなる。
表層水は温度が下がることで高密度になり、沈みやすく
なる。表層から深層に向かって湖水の混合が進む。湖
水の混合が底層まで進むことにより、底層まで酸素が届
き DO が回復し、冬には表層から底層まで水温と DO が
一様に近くなる。この現象を「全層循環」と言う。底層の
生物が住みやすい環境になるので、「琵琶湖の深呼吸」
とも呼ばれる。
平成 30 年度に観測史上初めて、全層循環が確認さ
れなかった。また令和元年度においても、全層循環は
確認されなかった。全層循環が起こらないことで、底生
生物への影響が懸念される。全層循環の起こらなくなっ
た理由として「地球温暖化により表層の水温が上がった
可能性」が議論されているが、その定量的分析は殆ど
行われていない。本研究においては今後の定量的分析
を目的に、北湖のデータを集め、整理し、視覚化した。
2. 材料と方法
滋賀県琵琶湖環境科学研究センターらが測定した水
温と DO のデータを用いた。位置は北湖にある今津沖
の第一湖盆の中央に限定して用いた。深さは水面から
深さ 0.5m・10m・20m・30m・40m・60m・80m 及び湖底上
1m の 8 点に限定して用いた。測定は毎月 1〜4 回実施
されていた。月内のデータを平均化して用いた。期間は
1979 年 4 月から 2020 年 3 月の 492 ヶ月・41 年に限定
して用いた。データの視覚化には Python 3.8.3 を用い
た。
3. 結果
北湖の DO と水温の時系列を作成した(図 1)。図 1A
において「湖底上 1m の DO」と「水面から深さ 0.5m の水
温と湖底上 1m の水温の差」はπ〜1/2π位ずれた位相
で振動していた。図 1B において、「水面から深さ 0.5m
から 20m まで」の水温の振幅は大きいが、それらと比べ
て「水面から深さ 30m 以上」の水温の振幅は小さかった。
図 1Cにおいて、DO の上向きの振幅は全ての深さでほ
ぼ揃っていた。しかし下向きの振幅は深いほど大きかっ
た、つまり底層ほど DO が小さくなっていた。位相は全ての深
さで大きくずれていなかった。図 1A・B・で見られる振動の
周期は全て約 1 年間であった。
北湖の DO と水温の散布図を作成した(図2)。図 1B
の結果に対応して、「水面から深さ 0.5m から 20m まで」
を示す図 2A〜2D では、水温のばらつきが大きかった。
その結果、DO と水温は輪っか状に散布していた。また
「水面から深さ 30m 以上」を示す図 2E〜2I では、水温
のばらつきが小さかった。その結果、DO と水温は線状
に散布していた。
図2 北湖の DO と水温の散布図。「湖底上 1m の DO」と「水面から深さ A 0.5m、B 10m、C 20m、D 30m、E 40m、F 60m、G 80m、
及び I 湖底上 1m の水温」の散布図を示している。
図 1 北湖の溶存酸素(DO)と水温の時系列。A は「湖底上 1m の DO」と「水面から深さ 0.5m の水温と湖底上 1m の水温の差」の
時系列を示している。B は「水面から深さ 0.5m・10m・20m・30m・40m・60m・80m、及び湖底上 1m の水温」の時系列を示している。C
は「水面から深さ 0.5m・10m・20m・30m・40m・60m・80m、及び湖底上 1m の DO」の時系列を示している。
4. 今後の課題
本研究では、北湖のデータを集め、整理し、視覚化し
た。今後は、地球温暖化が北湖の水温と DO に与える
影響を定量的に分析したい。 位相のズレは Cross
Correlation で、時系列の因果関係は Granger 因果性で
理解したい。また地球温暖化により水温が上がることが
DO に及ぼす影響は SARIMAX モデルで予測したい。ま
た、DO 以外にマンガン、窒素、リン等への影響も検討し
たい。さらにそれらが琵琶湖の生態系において植物プラ
ンクトン、水草、魚介類に及ぼす影響も検討したい。
謝辞
過去 42 年間に渡り本研究で用いたデータを測定して
くださった方々、またその測定を支援してくださった方々
に深く感謝します。
参考文献
[1] 琵琶湖環境科学研究センター 環境監視部門: 平成 30
年度琵琶湖水質変動の特徴, 令和元年度第 1 回滋賀
県環境審議会水・土壌・大気部会, 2019 年 7 月 5 日,
https://www.pref.shiga.lg.jp/ippan/kankyoshizen/kanky
ou/306170.html (Access 2020 年 10 月 12 日)
[2] 琵琶湖環境科学研究センター 環境監視部門: 令和元年
度 琵琶湖水質変動の特徴, 令和 2 年度第 1 回滋賀県
環境審議会水・土壌・大気部会, 2020 年 6 月 22 日,
https://www.pref.shiga.lg.jp/ippan/kankyoshizen/kanky
ou/313082.html (Access 2020 年 10 月 12 日)
[3] 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター: 琵琶湖の全層循
環, https://www.lberi.jp/setting/learn/jikken/junkan
(Access 2020 年 10 月 12 日)
[4] 五十嵐 康伸, 藤原 務, 佐藤 拓也: データビジュアライ
ゼーションで語る 地球温暖化と地域 〜 Mother Lake
Biwa 編 〜, CODE for Japan Summit 2020, 2020 年 10
月 18 日,
https://summit2020.code4japan.org/program/?id=123,
https://www.youtube.com/watch?v=c11ajDARK0o
(Access 2020 年 10 月 12 日)

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  • 1. 地球温暖化が琵琶湖に及ぼす影響の理解と予測 五十嵐 康伸 1 藤原 務 2 佐藤 拓也 3,4 Yasunobu Igarashi 1 , Tsutomu Fujiwara 2 , and Takuya Sato 3,4 1 E2D3.org 2 滋賀県 琵琶湖環境部 琵琶湖保全再生課 3 NPO 法人 琵琶故知新 4 YuMake 合同会社 1 E2D3.org 2 Shiga Prefecture, Department of Lake Biwa and the Environment, Lake Biwa Conservation and Restoration Division 3 NPO Biwakochisin 4 YuMake LLC Abstract: 本研究では、地球温暖化が琵琶湖の水温と溶存酸素に与える影響を定量的に分析する ために、琵琶湖の表層から底層までのデータを 41 年分集め、整理し、視覚化し、比較した。 1. はじめに 滋賀県の琵琶湖は日本で一番大きな湖である。琵琶 湖の北湖の今津沖にある第一湖盆の水深は 90m を超 え、全層循環が起こっている[1-4]。日本で全層循環が 起こっている湖は琵琶湖と、鹿児島県の池田湖だけで ある。 気温の変化は、深層の水温よりも、表層の水温へ急 速にかつ大きく影響を与える。春から夏にかけて表層の 水温は大きく上がる。北湖では、春から初冬にかけて、 表層と深層の間に水温が急激に変わる水温躍層(すい おんやくそう)が形成される。表層水は温度が上がること で低密度になり、沈みにくくなる。水温躍層が形成され ると、表層と深層の間で水の対流が減り、上下方向に湖 水が混ざりにくくなる。表層水は酸素を多く含んでいる が、その酸素が底層に届かなくなる。底層では、溶存酸 素(DO)が供給されず、溶存酸素の消費が進む。晩秋 に底層の DO は最も低くなる。秋から冬にかけて表層の 水温は大きく下がる。水温躍層は緩和し、冬に無くなる。 表層水は温度が下がることで高密度になり、沈みやすく なる。表層から深層に向かって湖水の混合が進む。湖 水の混合が底層まで進むことにより、底層まで酸素が届 き DO が回復し、冬には表層から底層まで水温と DO が 一様に近くなる。この現象を「全層循環」と言う。底層の 生物が住みやすい環境になるので、「琵琶湖の深呼吸」 とも呼ばれる。 平成 30 年度に観測史上初めて、全層循環が確認さ れなかった。また令和元年度においても、全層循環は 確認されなかった。全層循環が起こらないことで、底生 生物への影響が懸念される。全層循環の起こらなくなっ た理由として「地球温暖化により表層の水温が上がった 可能性」が議論されているが、その定量的分析は殆ど 行われていない。本研究においては今後の定量的分析 を目的に、北湖のデータを集め、整理し、視覚化した。 2. 材料と方法 滋賀県琵琶湖環境科学研究センターらが測定した水 温と DO のデータを用いた。位置は北湖にある今津沖 の第一湖盆の中央に限定して用いた。深さは水面から 深さ 0.5m・10m・20m・30m・40m・60m・80m 及び湖底上 1m の 8 点に限定して用いた。測定は毎月 1〜4 回実施 されていた。月内のデータを平均化して用いた。期間は 1979 年 4 月から 2020 年 3 月の 492 ヶ月・41 年に限定 して用いた。データの視覚化には Python 3.8.3 を用い た。 3. 結果 北湖の DO と水温の時系列を作成した(図 1)。図 1A において「湖底上 1m の DO」と「水面から深さ 0.5m の水 温と湖底上 1m の水温の差」はπ〜1/2π位ずれた位相 で振動していた。図 1B において、「水面から深さ 0.5m から 20m まで」の水温の振幅は大きいが、それらと比べ て「水面から深さ 30m 以上」の水温の振幅は小さかった。 図 1Cにおいて、DO の上向きの振幅は全ての深さでほ ぼ揃っていた。しかし下向きの振幅は深いほど大きかっ た、つまり底層ほど DO が小さくなっていた。位相は全ての深 さで大きくずれていなかった。図 1A・B・で見られる振動の 周期は全て約 1 年間であった。 北湖の DO と水温の散布図を作成した(図2)。図 1B の結果に対応して、「水面から深さ 0.5m から 20m まで」 を示す図 2A〜2D では、水温のばらつきが大きかった。 その結果、DO と水温は輪っか状に散布していた。また 「水面から深さ 30m 以上」を示す図 2E〜2I では、水温 のばらつきが小さかった。その結果、DO と水温は線状 に散布していた。
  • 2. 図2 北湖の DO と水温の散布図。「湖底上 1m の DO」と「水面から深さ A 0.5m、B 10m、C 20m、D 30m、E 40m、F 60m、G 80m、 及び I 湖底上 1m の水温」の散布図を示している。 図 1 北湖の溶存酸素(DO)と水温の時系列。A は「湖底上 1m の DO」と「水面から深さ 0.5m の水温と湖底上 1m の水温の差」の 時系列を示している。B は「水面から深さ 0.5m・10m・20m・30m・40m・60m・80m、及び湖底上 1m の水温」の時系列を示している。C は「水面から深さ 0.5m・10m・20m・30m・40m・60m・80m、及び湖底上 1m の DO」の時系列を示している。
  • 3. 4. 今後の課題 本研究では、北湖のデータを集め、整理し、視覚化し た。今後は、地球温暖化が北湖の水温と DO に与える 影響を定量的に分析したい。 位相のズレは Cross Correlation で、時系列の因果関係は Granger 因果性で 理解したい。また地球温暖化により水温が上がることが DO に及ぼす影響は SARIMAX モデルで予測したい。ま た、DO 以外にマンガン、窒素、リン等への影響も検討し たい。さらにそれらが琵琶湖の生態系において植物プラ ンクトン、水草、魚介類に及ぼす影響も検討したい。 謝辞 過去 42 年間に渡り本研究で用いたデータを測定して くださった方々、またその測定を支援してくださった方々 に深く感謝します。 参考文献 [1] 琵琶湖環境科学研究センター 環境監視部門: 平成 30 年度琵琶湖水質変動の特徴, 令和元年度第 1 回滋賀 県環境審議会水・土壌・大気部会, 2019 年 7 月 5 日, https://www.pref.shiga.lg.jp/ippan/kankyoshizen/kanky ou/306170.html (Access 2020 年 10 月 12 日) [2] 琵琶湖環境科学研究センター 環境監視部門: 令和元年 度 琵琶湖水質変動の特徴, 令和 2 年度第 1 回滋賀県 環境審議会水・土壌・大気部会, 2020 年 6 月 22 日, https://www.pref.shiga.lg.jp/ippan/kankyoshizen/kanky ou/313082.html (Access 2020 年 10 月 12 日) [3] 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター: 琵琶湖の全層循 環, https://www.lberi.jp/setting/learn/jikken/junkan (Access 2020 年 10 月 12 日) [4] 五十嵐 康伸, 藤原 務, 佐藤 拓也: データビジュアライ ゼーションで語る 地球温暖化と地域 〜 Mother Lake Biwa 編 〜, CODE for Japan Summit 2020, 2020 年 10 月 18 日, https://summit2020.code4japan.org/program/?id=123, https://www.youtube.com/watch?v=c11ajDARK0o (Access 2020 年 10 月 12 日)