【目的】先行研究で明らかとなっている新人教員の困難感をふまえ、それに対する対応行動を把握する。
【方法】全国の看護系大学の助教を対象に、自作質問紙による調査を実施した。質問紙の選択項目は、統計解析ソフトIBM SPSS Statistics 24を用い、自由記述内容はText Mining Studio 4.2にて分析した。<倫理的配慮>本研究は、所属大学倫理審査委員会の承認を得た。
【結果】全国の看護系大学250校のうち、研究承諾の得られた64校の対象者136名に質問紙を配布し 、74名(54%)より回答が得られた。新人教員が抱えやすい困難は「新人教員自身の能力」「看護学生」「実習環境」「実習指導者」「上司や業務」に関する5つの項目に分類され、対象者の抱えている困難の程度に基づく対象者の分類では、(1)困難低群、(2)困難中群、(3) 困難高群の3群が抽出された。新人教員の困難への対応行動は「文献を調べる」「状況の記録」「指導者への相談」「学生との面接」の他、「上司・同僚に相談する」という行動が最も多い。抱えている困難の数が多い困難高群ほど、相談という対応行動をとる対象者が多かった(χ2(2) =38.7、p <.001)。そして、困難中群に属する対象者は必ずこの対応行動をとっていた。しかし、困難の解決状況をふまえると、上司や同僚に相談していても困難を解決するまでに至らず、上司や業務に関する困難では、対応行動の結果、ネガティブな感情を抱く対象者が有意に多かった(χ2(2) = 32.5、p <.005)。テキストマイニングの分析では、全体では「上司」「相談」という単語が多くみられ、困難高群ではさらに「実習指導者」「調整」「コミュニーケーション」という単語が多くみられた。
【考察】新人教員が困難を抱えた際には「上司・同僚に相談する」という対応行動が全般的に行われていたことが明らかとなった。しかし、この行動では困難が解決せず、上司や業務内容、臨地実習現場といった環境に関する困難について、新人教員の個別対応では限界があることも示唆された。困難を感じていない教員が抱えやすい困難の中には、他者に頼るのではなく自助努力といった対応行動が必要な場合もある。しかし、困難を多く抱えている教員はその困難の質が個人では対応できない困難でもある。そのため、上司からのサポートに加え、教員同士のチームワークの形成など組織的な介入も必要である。また、新人教員が抱く困難の解決には時間と経験が必要なことも多い。教員職を長く続けられる環境の整備や、教員能力を獲得していくためのFDや研修会などが展開され、新人教員が参加できる体制が整うことが望ましい。そのために、他の教員も新人教員のもつ困難や行っている対応行動を理解することが必要である。