SlideShare uma empresa Scribd logo
1 de 11
第67回中国四国心理学会 2011年11月13日
                比治山大学現代文化学部



ルーブリック作成課題の導入
による議論スキル改善の試み


慶徳 直亮(愛媛大学大学院教育学研究科)
   富田 英司(愛媛大学教育学部)
コミュニケーション能力の重要性
・コミュニケーション能力の育成で、ワークショッ
プ型の授 業に高い関心が寄せられている(富田ら,
2010)。
 -ワークショップ型授業
  「参加者が自ら参加・体験して共同で何かを学び合ったり
作り 出したりする学びと創造のスタイル」(中野,2001)
ワークショップの問題点(大塚 ,2009)
・参加者の気づきと共有にとどまり、具体的な問題解決に
結び つける指向性が薄い。
・問題点に気づく具体的な手掛かりがないことがある。

1.問題点の共有
2.評価基準の設定が必要            ルーブリッ
                        ク       2
ルーブリックとは

・成功の度合いを示す数段階程度の尺度と,尺度に
 示された評点・標語のそれぞれに対応するパフォー
 マンスの記述語から成る評価基準表(西岡,2008)

・ルーブリック作成課題のねらい
 学習者らが自らつく
 る。

-目標や、評価基準を明確にする。
-議論を振り返る時、作成したルーブリックにより更に具体
 的な課題を明らかにし,次の目標を設定する。

                         3
目的
・ルーブリック作成課題が有効かどうかを検討すると
共  に、 回数を重ねることで議論スキルがどのよう
に改善される   かを検討する。
ルーブリック作成課題
-議論の評価を基に、グループ全体で問題点と次回の目標を
  ルーブリック作成シートに記入していく。
-ルーブリック作成課題導入群は2回目からの議論評価で、前
回 作成したルーブリックを用いて議論評価を行う

対象者:国立A大学教員養成課程学部2回生147名
    (1グループ12名程度とし12グループに振り分
け)
実施回数:3回                    4
議論の展開過程のモデル


           アイデアの
           提案と検討

目的と定義                 意見の要約

           建設的批判
    方向の
   コントロー           発言の促進
     ル




                              5
発話の種類
・「目的や定義」
-議論の目的や問題を決めているか、グループでそれが共有されているか
・「意見の要約」
-結論が曖昧なまま終わっていないか、目的や定義と合った結論を出してい
るか

・「アイデアの提案と検討」
-参加者が活発に意見やアイデアを出し合っているか、理由が伴っている
か。
・「建設的批判」
-質問や反論が出ているか、それをきっかけとした話し合いが見られるか
どうか
・「発言の促進」
-グループの発言を促しているか、促していても特定の人で終わっていな
いか
・「方向のコントロール」
-関係のない話題の抑制、適切な時間管理、議論の進め方などの議論のコ
                                6
ント  ロールは出来ているか
結果
・議論の最初の2分間を書き起こしをし、「目的と定
義」に関する発言の有無を検討
-議論開始時に、どのような目的、内容で話し合うか、また問
 題提 起に関する発言があれば、目的と定義の発言があると判
 断する。

・議論の書きおこし、発言の内容と、ルーブリック作
成課題  導入の有無との関連を検討する。

・質問紙の内容を検討


                            7
議論開始時の発言例1
・グループA前半1回目

 Aさん:じゃあどおしよ、誰から言いますか。我先にという
 人は。
 Bさん:とりあえずこれ、意見を言えばいいん。
 Aさん:じゃあ俺から時計回りに。一人ずつ言っていきましょ
う。じゃ      あまず僕の意見としてはまず、一人ずつ、
まあ数人とここ      に書いているんで、一人ずつ事情聴
取します。
   何について議論するのか不明確なまま議論に移って
   いる。

        「目的と定義」の発言な
        し                  8
議論開始時の発言例2
・グループA前半3回目
 Aさん:じゃあ、議論始めます。じゃあまず、Bさんからお 願
いします。
 Cさん:議論をなぜするのかみたいなことをせないけん。
 Dさん:まず。
 Aさん:そうそう
 Dさん:どういう話の展開で、どういう目的でやるか。
 Cさん:この事例を踏まえて、不登校について考えるというこ
とと、そ      の不登校に学校側がどう対応したいかとい
うことを考え          ることです。じゃあ一人一人
意見を言っていってください。     (「目的と定義」)
   何について議論するかを述べてから議論に移ってい
 る。
        「目的と定義の発言あ          9
        り」
議論開始時の「目的と定義」の有無の検
グループ 1回目   討
         2回目 3回目 目標
A 前半     なし         なし   目標あ あり 議論の最初に目的
    後半   なし         なし    り  あり と定義を掲げる
B   前半   なし         なし       なし
    後半   なし         なし       なし
D   前半   なし         なし   目標あ あり 話の前に目的と定
    後半   なし         なし    り  あり 義を確認
F   前半   なし         なし       なし
    後半   あり         なし       なし
G   前半   なし   目標あ   なし   目標あ なし 進行役が目的を
    後半   あり    り    あり    り  あり はっきりと言う
H   前半   なし   目標あ   あり       なし 問題をはっきり定
    後半   なし    り    なし       なし 義できている 10
                         (ルーブリック作成課題導入群)
結果の要約と今後の課題
・「目的と定義」について目標を立てたグループ
 ― 1回目6グループ中2グループ、2回目3グループ

・目標を立てたグループで改善がみられたグループ
 ― 2回目4グループ中2グループ
 ― 3回目6グループ中5グループ
 ―改善目標を明確にしなかったグループは改善は見られな
かった。

・問題点や良かった点だけでは次回の議論で改善が見
 られず,議論の改善のためには,明確な目標を立て
 る必 要があることが明らかになった。

・他の発話カテゴリについて同じことがいえるか検討
                       11

Mais conteúdo relacionado

Semelhante a ルーブリック作成課題導入による議論スキル改善の試み

140409 taiwa quick tips 17 and coaching question 420
140409 taiwa quick tips 17 and  coaching question 420140409 taiwa quick tips 17 and  coaching question 420
140409 taiwa quick tips 17 and coaching question 420Yuta Suzuki
 
埼玉工業大学 2011年秋学期 ボランティアの研究 第7回 プロジェクトの立て方・深め方
埼玉工業大学 2011年秋学期 ボランティアの研究 第7回 プロジェクトの立て方・深め方 埼玉工業大学 2011年秋学期 ボランティアの研究 第7回 プロジェクトの立て方・深め方
埼玉工業大学 2011年秋学期 ボランティアの研究 第7回 プロジェクトの立て方・深め方 Yoshihiko Suko (Ph.D) / BADO! Inc. of CEO
 
160208 質問づくりレジュメ
160208 質問づくりレジュメ160208 質問づくりレジュメ
160208 質問づくりレジュメKen-ichi Sato
 
埼玉工業大学 2011年秋学期 ボランティアの研究 第5回 マイプロ発表会
埼玉工業大学 2011年秋学期 ボランティアの研究 第5回 マイプロ発表会埼玉工業大学 2011年秋学期 ボランティアの研究 第5回 マイプロ発表会
埼玉工業大学 2011年秋学期 ボランティアの研究 第5回 マイプロ発表会Yoshihiko Suko (Ph.D) / BADO! Inc. of CEO
 
2012年01月29日 「スピーチ制作の方法論」ワークショップ資料
2012年01月29日 「スピーチ制作の方法論」ワークショップ資料2012年01月29日 「スピーチ制作の方法論」ワークショップ資料
2012年01月29日 「スピーチ制作の方法論」ワークショップ資料Takayuki Fujiwara
 
雑談から始まるファシリと場づくり 導入編
雑談から始まるファシリと場づくり 導入編雑談から始まるファシリと場づくり 導入編
雑談から始まるファシリと場づくり 導入編Takuji Hiroishi
 
20110108 論評ワークショップ(東京メトロポリタンTMC)
20110108 論評ワークショップ(東京メトロポリタンTMC)20110108 論評ワークショップ(東京メトロポリタンTMC)
20110108 論評ワークショップ(東京メトロポリタンTMC)raizo
 
反転授業におけるワークシートの利用が対面授業時のグループディスカッションの発話内容に与える影響
反転授業におけるワークシートの利用が対面授業時のグループディスカッションの発話内容に与える影響反転授業におけるワークシートの利用が対面授業時のグループディスカッションの発話内容に与える影響
反転授業におけるワークシートの利用が対面授業時のグループディスカッションの発話内容に与える影響Sachika Shibukawa
 
ネイティブ・オリエンテーション
ネイティブ・オリエンテーションネイティブ・オリエンテーション
ネイティブ・オリエンテーションIan Rudd
 
Rm20150617 7key
Rm20150617 7keyRm20150617 7key
Rm20150617 7keyyouwatari
 
0912 discussion
0912 discussion0912 discussion
0912 discussionsympo2011
 
【資料】Gd対策
【資料】Gd対策【資料】Gd対策
【資料】Gd対策anikinoyakata
 
プロソディの捉え方とその指導_06.03.2015
プロソディの捉え方とその指導_06.03.2015プロソディの捉え方とその指導_06.03.2015
プロソディの捉え方とその指導_06.03.2015Kazuhito Yamato
 
琉球大学「ベンチャー起業講座」概要
琉球大学「ベンチャー起業講座」概要琉球大学「ベンチャー起業講座」概要
琉球大学「ベンチャー起業講座」概要Lean Startup Japan LLC
 
Rm20140521 6key
Rm20140521 6keyRm20140521 6key
Rm20140521 6keyyouwatari
 
Tutorial2015 tomida
Tutorial2015 tomidaTutorial2015 tomida
Tutorial2015 tomidaEiji Tomida
 
会議の進め方
会議の進め方会議の進め方
会議の進め方pakuman
 

Semelhante a ルーブリック作成課題導入による議論スキル改善の試み (20)

140409 taiwa quick tips 17 and coaching question 420
140409 taiwa quick tips 17 and  coaching question 420140409 taiwa quick tips 17 and  coaching question 420
140409 taiwa quick tips 17 and coaching question 420
 
埼玉工業大学 2011年秋学期 ボランティアの研究 第7回 プロジェクトの立て方・深め方
埼玉工業大学 2011年秋学期 ボランティアの研究 第7回 プロジェクトの立て方・深め方 埼玉工業大学 2011年秋学期 ボランティアの研究 第7回 プロジェクトの立て方・深め方
埼玉工業大学 2011年秋学期 ボランティアの研究 第7回 プロジェクトの立て方・深め方
 
Naitou 20111015
Naitou 20111015Naitou 20111015
Naitou 20111015
 
160208 質問づくりレジュメ
160208 質問づくりレジュメ160208 質問づくりレジュメ
160208 質問づくりレジュメ
 
埼玉工業大学 2011年秋学期 ボランティアの研究 第5回 マイプロ発表会
埼玉工業大学 2011年秋学期 ボランティアの研究 第5回 マイプロ発表会埼玉工業大学 2011年秋学期 ボランティアの研究 第5回 マイプロ発表会
埼玉工業大学 2011年秋学期 ボランティアの研究 第5回 マイプロ発表会
 
2012年01月29日 「スピーチ制作の方法論」ワークショップ資料
2012年01月29日 「スピーチ制作の方法論」ワークショップ資料2012年01月29日 「スピーチ制作の方法論」ワークショップ資料
2012年01月29日 「スピーチ制作の方法論」ワークショップ資料
 
雑談から始まるファシリと場づくり 導入編
雑談から始まるファシリと場づくり 導入編雑談から始まるファシリと場づくり 導入編
雑談から始まるファシリと場づくり 導入編
 
広報担当者支援のためのワークショップ
広報担当者支援のためのワークショップ広報担当者支援のためのワークショップ
広報担当者支援のためのワークショップ
 
20110108 論評ワークショップ(東京メトロポリタンTMC)
20110108 論評ワークショップ(東京メトロポリタンTMC)20110108 論評ワークショップ(東京メトロポリタンTMC)
20110108 論評ワークショップ(東京メトロポリタンTMC)
 
反転授業におけるワークシートの利用が対面授業時のグループディスカッションの発話内容に与える影響
反転授業におけるワークシートの利用が対面授業時のグループディスカッションの発話内容に与える影響反転授業におけるワークシートの利用が対面授業時のグループディスカッションの発話内容に与える影響
反転授業におけるワークシートの利用が対面授業時のグループディスカッションの発話内容に与える影響
 
ネイティブ・オリエンテーション
ネイティブ・オリエンテーションネイティブ・オリエンテーション
ネイティブ・オリエンテーション
 
Rm20150617 7key
Rm20150617 7keyRm20150617 7key
Rm20150617 7key
 
座長ツール
座長ツール座長ツール
座長ツール
 
0912 discussion
0912 discussion0912 discussion
0912 discussion
 
【資料】Gd対策
【資料】Gd対策【資料】Gd対策
【資料】Gd対策
 
プロソディの捉え方とその指導_06.03.2015
プロソディの捉え方とその指導_06.03.2015プロソディの捉え方とその指導_06.03.2015
プロソディの捉え方とその指導_06.03.2015
 
琉球大学「ベンチャー起業講座」概要
琉球大学「ベンチャー起業講座」概要琉球大学「ベンチャー起業講座」概要
琉球大学「ベンチャー起業講座」概要
 
Rm20140521 6key
Rm20140521 6keyRm20140521 6key
Rm20140521 6key
 
Tutorial2015 tomida
Tutorial2015 tomidaTutorial2015 tomida
Tutorial2015 tomida
 
会議の進め方
会議の進め方会議の進め方
会議の進め方
 

ルーブリック作成課題導入による議論スキル改善の試み