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成長戦略タスクフォース
成長に向けた新たな航路への舵取り
日本の指導者への提言
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在日米国商工会議所
東京都港区麻布台2­4­5
メソニック39MTビル10階
Tel:  81  3  3433  5381  
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Layout  and  design:  Alan  Rowe,  Mindful  Planet  Communications
Editor:  Doug  Jackson,  Fresh  Eyes  Communications
成長に向けた新たな航路への舵取り
日本の指導者への提言
会長からのメッセージ ........................................................................... !
タスクフォースメンバーおよびスポンサー.................................................... "
概要 ................................................................................................. #
総論 : 新成長戦略のすゝめ ...................................................................... $
在日米国商工会議所の成長戦略タスクフォース・プロジェクト.................................... !
希望的観測によらず、分析に基づいた政策 ............................................................. !
真の政治的リーダーシップの尺度 ...................................................................... ""
技術は成長の源泉 .......................................................................................... "#
日本はもっと出来る! ...................................................................................... "$
実現した国の例.............................................................................................. "%
深尾・権レポート:的を射た分析 ......................................................................... "&
Eberhart-Gucwaレポート:進展の兆し............................................................ "!
重要な分析結果と政策的含意 ........................................................................... #'
日本の新経済戦略への舵取り ........................................................................... #"
起業を促進し市場にイノベーションをもたらし未来の企業を創出 ...................... "%
成長促進及び雇用創出の為の対日直接投資の拡大 ....................................... %&
全ては教育から始まる:日本の国際化、若年層の再活性化、知識産業の推進 ......... '(
税制で成長と競争力を活性化させ、生産性ある投資とイノベーションを推進 ......... ##
日本への投資を促進させる為の規制や法制度の透明性及びアクセスの向上 ......... (%
「オープンコンバージェンス」の推進でインターネット・エコノミーの最大化 ........... ()
労働流動性の向上が、世界市場における日本の競争力を改善 ............................ &)
投資と成長を刺激する為の日本の移民政策の緩和 ......................................... ()
目次
!成長戦略タスクフォース白書
在日米国商工会議所(ACCJ)は、国家経済を
強化するための新しい方法を確立するという
日本政府のイニシアティブを認識したうえで、
日本の経済成長戦略を今年の重要課題として
取り上げることとしました。
これに次いで、ACCJは、ニコラス・ベネシュと
佐藤玖美のリーダーシップのもとに約70人の
メンバーから成る成長戦略タスクフォースを設
立しました。また、客観的な分析を行い、日本の
経済成長の推進力を明らかにするため、生産性
とイノベーションの専門家として最も権威のあ
る一橋大学・深尾京司教授と日本大学・権赫旭
准教授の協力を得ました。二人が作成したレポ
ート、「日本経済再生の原動力を求めて」は多く
の興味深い事実を提供しています。最も重大な
二つの調 査 結 果は、現 在 、日本のG D P( 国内
総生産)の80%をサービス業が占めるという
こと、1996年から2006年の間、外国企業と
新たに設立された企業だけが雇用をネットベ
ースで増加(純増)させたということです。
次に、タスクフォースはこの白書「成長に向け
た新たな航路への舵取り-日本の指導者への
提 言 」を作 成しました。この政 策 文 書は深 尾
教授と権准教授の実証的分析と結果、そして
スタンフォード大学の研究者たちによる最新
で独自の分析に基づいて、経済成長を強化す
るという日本の目標を可 能にするためのイニ
シアティブを明らかにしています。
ACCJは深尾教授と権准教授の優れた分析、
またこの計画を達成させたメンバーたちを称
賛いたします。特に、この計画の委員長を務め、
研究者たちと協調し、政策文書の重要な部分を
作成したベネシュ氏に感謝します。彼のリーダ
ーシップ、実行力、創造性はこの事業の成功に
とって極めて重要でした。
この非常に複雑な計画に時間と才能を費やし
貢献してくれたチームリーダー、そしてタスク
フォースのメンバー、特にダグラス W. ジャク
ソン、ブライアン・ノートンとアーロン・フォース
バーグに感謝したく存じます。頁4にあるこの
白書の原稿作成や編集に携わった方々、また、
頁3にあるこの計画をサポートしていただいた
スポンサーの皆 様の御 厚 意に心から謝 意を
表します。最後に、専務理事サミュエル・キダー
のもと、長い時 間と労力をかけてこの計 画が
スムーズに進行することを確実にしたACCJ
スタッフ、ライアン・アームストロング、伊 地
知 徳 子 、井 手 麻 美 、野 田 由 比 子 に感 謝 いた
します。
在日米国商工会議所 会頭
トーマス・ウィッソン
会頭からのメッセージ
在日米国商工会議所!
委員長
ニコラス・ベネシュ、一般社団法人会社役員育成機構
副委員長
マイケル・アルファント、フュージョン・システムズ・ジャパン株式会社
ローレンス・ベイツ、日本GE
ジム・フォスター、マイクロソフト
佐藤 玖美、コスモ
アラン・スミス
成長戦略タスクフォースチームリーダー
起業環境
マイケル・アルファント、フュージョン・システムズ・ジャパン株式会社
ニコラス・ベネシュ、一般社団法人会社役員育成機構
海外直接投資
ニコラス・ベネシュ、一般社団法人会社役員育成機構
セオドア・A.・パラダイス、デービス・ポーク・アンド・ウォードウェル外国法事務弁護士事務所
ケン・レブラン、シャーマン アンド スターリング
ブライアン・ノートン、ティー・マーク株式会社
移民政策
佐藤 玖美、コスモ
労働流動性
森 康明、インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社
君嶋 祥子、日本GE
インターネット・エコノミー
ジム・フォスター、マイクロソフト
杉原 佳尭、インテル株式会社
税制
ゲーリー・トーマス、ホワイト&ケース外国法事務弁護士事務所
上村 聡、日本GE
法制度
エリック・セドラック、ジョーンズ・デイ法律事務所
教育
ブルース・ストロナク、テンプル大学ジャパンキャンパス
在日米国商工会議所成長戦略タスクフォース
成長戦略タスクフォース白書 !
ゴールド・スポンサー
シティグループ
シルバー・スポンサー
日本GE
マイクロソフト
ティー・マーク株式会社
ブロンズ・スポンサー
アフラック
シャーマン アンド スターリング
ホワイト&ケース外国法事務弁護士事務所
スポンサー
コスモ
ジョンソン・エンド・ジョンソン
フェデックス
フュージョン・システムズ・ジャパン株式会社
インテル株式会社
株式会社ジェイ・ティ・ピー
日本ベクトン・ディッキンソン株式会社
株式会社オークローンマーケティング
六興電気株式会社
成長戦略タスクフォーススポンサー
在日米国商工会議所!
協力者
浅井 英里子、マイクロソフト
ダレン 令実 、フュージョン・システムズ・ジャパン株式会社
デバリエ いづみ、ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(SAIS)
C. ウォレス・デ ウィット、デービス・ポーク・アンド・ウォードウェル外国法事務弁護士事務所
クラウス・アイルリッヒ、ドイツ大使館
アーロン・フォースバーグ、在日米国大使館
福島 真保、デービス・ポーク・アンド・ウォードウェル外国法事務弁護士事務所
附野 徹也、ジョーンズ・デイ法律事務所
堀 勝彦、一般社団法人会社役員育成機構
デビー・ハワード、ジャパン マーケット リソース ネットワーク
池原 晃、国際基督教大学
フランク・ヤンセン、新日本アーンストアンドヤング税理士法人
上林 奈津子、テンプル大学ジャパンキャンパス
近藤 龍治、コスモ
エリック・コジンスキー、ホワイト&ケース外国法事務弁護士事務所
熊谷 瑞穂
松井 有恒、丸紅株式会社
松本 紗代子、株式会社ジェイ・ティ・ピー
中井 正人、行政書士法人 中井イミグレーションサービス
パトリック・ニュウエル、21 Foundation
岡山 浩子、ホワイト&ケース外国法事務弁護士事務所
デイヴ・ペリー、ジャパン マーケット リソース ネットワーク
榊原 裕希、UCLA アンダーソン・スクール
志熊 秀生 マイケル、ホワイト&ケース外国法事務弁護士事務所
ダニエル・サイモン、コスモ
マキ・ソモソット 、コスモ
ジョナサン・ストラドリング、ジョーンズ・デイ法律事務所
鈴木 悦子、テンプル大学ジャパンキャンパス
瀧野 啓太、国際基督教大学
谷口 光、一般社団法人会社役員育成機構
ティー・マークチーム
内山 貴子、日本GE
ブラッドフォード・ワルターズ
ユン ヨンド、早稲田大学
湯原 心一、デービス・ポーク・アンド・ウォードウェル外国法事務弁護士事務所
!成長戦略タスクフォース白書
概要
はじめに
成 功する経 済 成 長 政 策 は 、分 析 に裏 打ちさ
れた将来ビジョンに基づくもので、単なる希望
的 観 測で成し遂げられるものではない。その
ビジョンを明 快に語る、強い政 治 的リーダー
シップが必要である。
核心的分析
在 日 米 国 商 工 会 議 所( A C C J )が 委 託した
独自の経済調査によれば、日本は以下のよう
な課題を抱えている。
1 9 9 6 年 以 前に設 立された多くの企 業を
中 心に、製 造 業 が 次 第に海 外に移 転した
ことで、数 百 万 の 雇 用 機 会 が 失 わ れ た 。
今 や、製 造 業 は G D P の 2 0 % を占めるに
過ぎない。サービス業が日本経済の80%も
占めるに至った。
労 働 市 場の 縮 小と、すでに潤 沢 な 資 本を
抱えているという現 状を考えると、今 後の
日本の経済成長には生産性の向上が急務
である。
日本の労働生産性は、米国水準の60%弱
であり、すでにキャッチアップする過 程 が
止 まった 。サ ー ビ ス 業 にお いては 、労 働
生産性はさらに低く、米国の半分にも届か
ない。これらの弱みが全要素生産性の成長
を抑えている。
多くの産業において、他国と比べ情報通信
技術(ICT)向けの投資が遅れたことが低迷
する生産性向上の主たる原因であった。ICT
及 び イン タ ー ネ ット 革 命 は 、日 本 で は
米国にみられたような生産性向上を起こさ
なかった。
日本の低 調な経 済 的「 新 陳 代 謝 」、つまり
資源再配分が、長年にわたる生産性の低成
長率のもう一つの原因である。
資 源 を最 適 に配 分 するためには 、日本 は
産 業により多くの参 入 者を積 極 的に迎え
入れなければならない。さらに、弱体化して
いる事業者には非主力事業から撤退させ、
競 争 力 の ある 中 核 事 業 に 投 資 をす すめ
させるべきである。
起こりつつある変化の兆し
しかし、日 本 経 済 にはまだ 大 きな 潜 在 力 が
残っている。日本には生産性と経済成長率を
大きく伸ばすことのできる有力な技術基盤が
ある。この技術基盤を最大限に活用し、「スピル
オーバー 」効 果( 波 及 効 果 )を推 進し、外 国
からのものも含めてノウハウを広めることが、
日 本 の 発 展 のカギで ある 。事 実 、A C C J が
委託した分析によると、新規参入企業の貢献に
よって、すで に日 本 経 済 に「 改 革 」が 起こり
つつあるかもしれないというのである。
日 本 の 外 資 系 企 業 は 平 均 値 で 最 も高 い
生 産 性 と 高 い 雇 用 創 出 比 率 を 示 して
いる。企業レベルデータを使って計算する
と、1996年から2006年にかけて、雇用を
25万人から41万人に増加させた。この雇用
純 増のほとんどはM & Aによるものという
より、単に事業拡張によるものか、グリーン
フィー ルド 市 場 参 入 によるもの で ある 。
従って外国企業がM&Aの市場によりアク
セス出 来るなら、か なりの 追 加 的 投 資 が
見込めるということである。
国内の起 業 家あるいは「イントレプレナー
( 企 業 内 起 業 )」は 、同 期 間 において経 済
成 長 と 雇 用 創 出 にさらに 大 きな 貢 献 を
し た 。1 9 9 6 年 以 降 に 設 立 し た 企 業 は
成長に向けた新たな航路への舵取り
日本の指導者への提言
在日米国商工会議所 成長戦略タスクフォース
在日米国商工会議所!
成長に向けた新たな針路を示す
!
2006年までに、約120万人の雇用の純増
を生み出した。
最 近 、若い日本 の 企 業 は 古 手 企 業よりも
より高い 雇 用 創 出 率 、高い 残 存 率を持ち
始 め た 。若く、R & D や 国 際 化 に 積 極 的
な 小 規 模 企 業の 生 産 性 は 高く、その他の
新しい企 業よりも高い生 産 性 水 準と生 産
性上昇を示している。
2 0 0 4 年 から2 0 0 8 年 に設 立されたハイ
テク企 業のおよそ5 %が 、2 0 0 8 年までに
5 億 円 の 年 間 売 上 を 達 成している 。この
グループの平 均 的 企 業 年 齢は2 年を若 干
上回る程度であることから、ベンチャー企業
が 成 功するのに必 要な時 間 が 短くなって
いることが分かる。
1996年から2006年にかけて、外国企業と
新たに設立された企業、この二つのグループ
だけが雇用をネットベースで増 加させた。
これに対して、2006年現在、独立系の大企
業と1996年以前に設立された企業の雇用
者数はそれぞれ1996年と比べて数百万ほ
ど減少した。
これまでの15年間に起こった多岐にわたる
法的、規制的改革は、起業家と対日直接投資
(FDI)に好ましい影響を及ぼし始めている
という兆しがある。
成長戦略への提言 ‒ 核心テーマ
説得力のある、効果的な日本の成長戦略の策
定に、今や若い企業と外国企業の対日直接投
資が成長のカギだという現実を反映すべきで
あろう。戦 略は、単 一 省 庁の指 導によるので
はなく、総 理 大 臣 及び連 帯する内閣によって
率先されるべきで、下記の核心テーマに焦点
を当てる必要がある。
1. 新 規 参 入 者と起 業 家 ‒ M & Aを含めて、
日 本 経 済 へ の 新 規 参 入 者 によって 活 性
化を図る。新 規 立 上げ 企 業だけではなく、
スピンオフによるもの、「イントレプレナー」、
外資系企業などが日本市場への新規参入
者である
2. 技 術 的スピルオーバーと「 突 破 的 な 技 術
革新」、新しいビジネスモデル
3. 「内 向きのグローバリゼーション」 の利
点をFDI、コーポレートガバナンスの改善、
教育、移民政策によって加速させる
4. 市 場 ベ ースの 政 策 ‒ 恣 意 的 な 勝 者 の
選 定と適 正な競 争を歪めかねない無 条 件
のサポート(支援)を回避し、投資家にとっ
て魅力的な市場にする
5. インセンティブを伴う税 制 体 系によって、
新 規 参 入 者( F D Iを含む)、生 産 性が 高い
長 期 的 な 投 資 、技 術 スピ ル オ ー バ ー を
促進する
6. 規制上の透明性 ‒ 公正さを増し、コストを
下げ、規 制 環 境と市 場をもっと参 入し易く
ユーザーフレンドリーにすることで、日本は
新しい参入者と新規投資を呼び込める
7. インターネット・エコノミーでの「オープン・
コンバージェンス」を、規 制 緩 和と通 信と
放 送 の 融 合 を 介 して 展 開 。「 ガラパゴ ス
症候群」を回避する
8. サービス分 野の生 産 性 向 上 ‒ 効 率 性 向
上のために、ICT(インターネットを含む)の
活用に対する規制と障害の撤廃
9. 労働市場の活性化と移民政策 ‒ 労働者が
再訓練できる余裕をもてるよう、セーフティ
ネットを強化し、公正で柔軟な採用と雇用
調 整 の 自 由 度 を 高 め る 。新 規 参 入 者 が
成長するために必要なスタッフの採用を容
易にする
明るい未来へ
ACCJは、適正な政策によって日本には以下
の可能性があると確信している。
成長戦略タスクフォース白書 !
成長に向けた新たな針路を示す
!
アジア圏において、アントレプレナー 、イノ
ベー ション、金 融 面 の 躍 進 するセンター
となる
1 人 当りG D P がより高く、人 口 動 態 的 、
金 融 的な諸 問 題に対 処できる力を備えた
国づくり
日 本 の 若 者 に と っ て 、多 くの エ キ サ イ
ティング な 雇 用 機 会 を 創 出する 、動 きの
速い国づくり
日本への投資、熟練労働力、税、活力といった
面で貢献してくれる移民に魅力的な市場
! 在日米国商工会議所
21世紀に入って最初の10年が経過したが、
日本経済は人口統計学的、財政的な泥沼には
まり込んでいる。この20年、GDP及び生産性
の伸びは、それ以 前の4 0 年 間にくらべると、
きわめて低いものであった。現実のGDPと潜在的
なGDPの差異として定義されるGDPギャップ
は、1993年以降マイナスである。国の労働力
は高 齢 化し、その上 低 下し、若 者には精 気が
無く、税 収 基 盤は徐々に弱 体 化し、国内株 式
市場は長期にわたり低迷している。公的負債
がGDPの200%を超える日も近い。
日本は早急に、より速い成長を達成するための
道を探さなければならない。社団法人日本経済
研究センターが予測した図1の成長シナリオ
(日本は殆ど横ばい)を回避するために、日本は
全く新たな成長戦略を構築する必要がある。
上に述べた課題の多くは日本に限ったことで
はないが 、日本の場 合 、これらの課 題が 特に
速いペースで起きており、しかも長期間続いて
いる。低い出生率や厳格な移民政策と、急速に
進 む 高 齢 化 が 相 まって、近 い 将 来 、殆どの
先進国も経験することのないような厳しい人口
統計上のハードルに直面している。
日本はこれまで、疑いもなく急 速かつ長 期 的
な経 済 成 長や強い社 会 的・産 業 的 安 定 性を
誇 りとしてきており、そ の 過 去 が 語 る 経 済
実 績 はつとに 有 名 であった 。過 去 の 成 功 や
安 定 は 、当 然 ゆ る や か な 政 策 の 改 善 に 対
する信 頼 や 政 治 的 支 持 を生 む 傾 向 がある。
しかし、どの 国 においてもこのことは 国 家を
既得権者の保護や現状維持へと眠りこませる
ことにもなり、現 実 に立ち向 かい 、急 が れる
変革に直面することのできない政府にさせて
しまうことがある。
最 近の政 治 的 事 象で明らかになったことは、
ほとんどの日 本 人 が 、国 の 直 面 する 厳しい
課 題 につ いて、危 惧 の 念 を 抱 いていること
である。国民は古い政策や公共支出の慣習の
多くがもはや機 能しないことを理 解している
(日本 の G D P の 増 加 率 の 低さは 図2に示さ
総論:新成長戦略のすゝめ
!
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日本
米国
韓国
インド
ASEAN
EU
出所 : 日本経済研究センター、
'年%月
GDP予測 (US 億ドル)
(PPP Basis, 2000年 US億ドル)
図1
成長戦略タスクフォース白書 !
総論:新成長戦略のすゝめ
!
れている)。これは将来の公共政策について、
さらに透明で具体的な議論を巻き起こすこと
になった。
過 去 の 経 済 政 策 の 成 功 や 欠 点 を 指 摘 する
ことは簡単だが、困難な時期に将来に向けた
明確な指針を示すことは容易ではない。最近
の 急 速 な 変 化 や、よりオ ープンで 実 質 的 な
政 策 論 争 の 突 然 の 高 まりは 、何 をなすべき
かについて、むしろ多くの 混 乱を招いている
ように見受けられる。
こうした 混 乱 の 一 因 は 、日 本 国 民 や 政 治 指
導 者に伝えられるべき徹 底した分 析 が 行 わ
れてこなかったことに起 因する、とA C C J は
考える。実証されていない仮定が頻繁に政治
的美辞麗句を支えるために使われ、徹底した
データの解析が行われるのを妨げてきた。その結
果、政治哲学的、対立的、感情的な選好が、最善
どころか 時に実 行 不 可 能 な 政 策に突き進む
時ですら、支配する傾向にある。
在日米国商工会議所の成長戦略
タスクフォース・プロジェクト
A C C J な ら び に そ の 会 員 企 業 は 、日 本
の 将 来 を 明 る い も の に す る こ と に ひ た
むきに取り組 んでいる「 ステークホルダー 」
である。日本の経済が回復し、再び力強く成長
することによってのみ、我々の長期的な目標が
達 成 され る 。A C C J で は 、この 問 題 を 深く
憂慮しているものとして、2010年初めに成長
戦 略 タ ス クフ ォ ース を 立 ち 上 げ て 、日 本
経済に影響を及ぼす現実と要因に関する徹底
した分析を外部に委託した。我々は、この分析
が現在の混迷を少しでも払拭する一助となり、
現 実 的 な 政 策 提 言 を示 すものになることを
確信している。
この 報 告 書 は 、外 部 委 託 調 査( 個 別 に 入 手
可 能 )の主 要な結 論 、スタンフォード大 学の
研 究 者 から頂いた最 新 報 告 書( 同 様 に入 手
可 能 )に、多くの産 業の現 状について我々が
独自に現場で得た知識を組み合わせた日本の
経 済 成 長 戦 略である。A C C Jは、日本の指 導
者が政策立案に役立てられるよう、実証的な
研 究 成 果と具 体 的 な 戦 略 提 言を提 供する。
我々が伝えたい中核となるメッセージは、「より
説得力をもつ効果的な国家成長戦略の実行が
求められている今、時間を無駄に費やす余裕は
ない」ということである。
希望的観測によらず、分析に基づいた政策
成長戦略タスクフォースは、図3が示す最善の
状態には程遠い、日本が直面する現実を評価
することから始めた。私たちは 、一 橋 大 学 の
!"!#
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イタリア 日本 ドイツ フランス 米国 英国 カナダ スペイン
出所 )*世界銀行 平均名目GDP成長率(現地通貨ベース)
GDPの増加率1999-2008(年ベース%) 図2
在日米国商工会議所!"
総論:新成長戦略のすゝめ
!"
深尾京司教授及び日本大学の権赫旭准教授
( 両 教 授は、日本における成 長 経 済 学 、生 産
性分析、イノベーションに関する最高権威)に、
日本 経 済の「 失われた2 0 年 」の分 析と、この
間の主 要トレンドと変 化 、及び 今 後も続くと
思われるものについての提 示をお願いした。
低成長が日本の財政状況に与える影響を認識
したうえで、我々は、なぜ経済が低迷している
のか、どのような要 因がこれを改 善に向かわ
せるのか、そしてどのような企業や投資が近年
の雇用の伸びや経済活動に最も貢献している
かについて、分析を依頼した。
A C C J は 、両 教 授 のこれらの 質 問 に対 する
実証的で事実に基づいた回答は、日本の政治
的 な 膠 着 状 態 を打 破し、既 に進 行 中である
経 済 的 変 化の最も深い洞 察に基づいた政 策
を 実 行 す る た め の 一 助 に な ると 考 え る 。
「 深 尾・権 レ ポ ート 」と 呼 ぶ 両 教 授 の 洞 察
力に満ちた分析は、将来の成長政策に明確な
指針を与えている。
タス クフォ ース チ ー ム は ま た 、S t a n f o r d
Program on Regions of Innovation and
Entrepreneurshipの研 究 者であるRobert
Eberhart、Michael Gucwaの両 氏からも、
近 年 日 本 で 設 立 され た 独 立 企 業 に 関 する
最近の調査結果を受け取る機会に恵まれた。
Eberhart-Gucwaレポートとしてまとめられた
彼らの調査結果は、近年日本で会社を起こした
起 業 家 た ち の 成 長 と 挑 戦 に つ いて 貴 重 な
統計分析に基いた解釈を与えてくれた。
経済成長政策は、現在のトレンドを注意深く分
析したうえで策定すべきものである。我々が深
尾教授と権准教授に調査を依頼した主な理由
は、次のような本質的な質問について切迫した
必要性を感じていたからである。その質問とは、
どのような企業が成長や新規雇用の創出に貢
献してきたのか。また、それらの企業はどのよう
にそれを達成したのか、というものである。
さらに、我々はこれまで日本 政 府または主 要
団 体・利 害 関 係 者による、これらの質 問に対
する 徹 底 分 析 に 基 づく包 括 的 な 国 の 経 済
成 長 戦 略があることを寡 聞にして知らない。
このところの政 治 的 変 化 が 緊 急 性や新 鮮 な
代 替 案 を検 討 する必 要 性 をもたらしたこと
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世界GDPにおけるシェア%(左目盛),)
GDPに占める負債総額%(右目盛)
日本のGDPシェアと公的負債の推移 図3
成長戦略タスクフォース白書 !!
総論:新成長戦略のすゝめ
!!
から 、A C C J は「 分 析 第 一 」の 手 法 が 政 策
決 定 において 将 来 に 向 けさらに 根 付くこと
を期待する。
真の政治的リーダーシップの尺度
成長は、挑戦が正しい対応を喚起する
場合に起きる。そして、次の新たな挑戦を
呼び起こすのである。
̶ アーノルド・J・トインビー(歴史学者)
成 長 戦 略 は 、現 実 を 認 識 することにとどま
らない。リーダーシップとは、現実が提起する
挑戦を受け入れ、行動することであり、さらに
変化の好循環を引き起こすことである。そこで
我々は、まず 最 初に、この日本の成 長 戦 略に
関 する 提 言 に 影 響 する 可 能 性 の ある 別 の
課 題 につ いても 認 識した 。日 本 にお ける 国
家 経 済 戦 略は依 然としてその大 部 分に整 合
性がなく、省庁間で断片化されている。これは
恐らく、日 本 の 急 速 な 経 済 成 長 が 輝 きを見
せていた9 0 年 代 初 頭までは機 能していたと
いうことを引きずっているからである。
従 来 か ら 、経 済 産 業 省 は 国 家 の 中 核 的 な
産 業 戦 略 を 担 ってきたと認 識 されており、
その 大 きな 功 績 にたが わず、経 済 産 業 省 は
現在、総括的な成長戦略案に近いものを策定
しているに違いないと思われる。しかし経 済
産業省は一部の産業(主として製造業と小売
業 )を管 轄 下に置いているに過ぎず、必 然 的
に 大 きなギャップ が 存 在 する。したがって、
日 本 が 明 言 する「 成 長 戦 略 」が 依 然として
輸出向け工業製品に集中しているのも、歴史
的に経 済 産 業 省が 最も関 心を寄せる分 野で
あったため驚くに値しない。また、日本の政策
が 伝 統 的 に 、特 定 の 政 治 団 体 や 世 界 的 な
「 勝 者 」になる可 能 性がある産 業を補 助 金や
優 遇 税 制で支 援する傾 向 があったのも当然
のことである。
残念ながら、21世紀の現実は日本のGDPの
8割が製造業ではなくサービス業から生み出さ
れている。さらに、いずれの先 進 国でもG D P
成 長 率 に 大 きく貢 献しているの は 、規 制 が
強く及ぶ医療や通信サービス、その他ICTが
効 率 を 高 める 業 種 な の で ある 。このことは
日本にも当てはまるが、日本はGDP成長率や
I C T 投 資 が 貢 献する生 産 性において他 国の
後塵を拝している。
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生産性が向下した国
生産性が向上した国
ICT利用サービスにおける付加価値への寄与度
(就業者1人当り, 1995-2002)
出所 : !年"月
図4
在日米国商工会議所!"
総論:新成長戦略のすゝめ
!"
技術は成長の源泉
経済政策にとって最も重要な任務は、
技術の進歩を支援する制度的環境を
醸成することである。
̶ ポール・ローマー
(スタンフォード大学経済学教授)
経済成長論は数多くある。それらの数学的方
程式は異なっても、すべての経済成長論には、
成長の大部分は技術の進歩とそれがもたらす
国 家・世 界 経 済 への技 術の拡 散と「 波 及 」に
より起きるという概念に基いている。例えば、1%
の生産性向上は、投下資本の1% 増よりもはる
かに大きな成長を生む。
深 尾 教 授 がしばしば 指 摘 するように 、単 に
日 本 国 内 で 投 資 を 増 や す だ け で は 解 決 に
ならないことは明かである。仮にそうであれば、
日本の課題はそれほど我々を悩ませることに
はならない。むしろ、必要なのは、より生産性が
高い投 資である。それには迅 速に使 用でき、
有 効 活用でき、拡 散させることのできる技 術
もうひとつの基本的な問題は、経済産業省が
これらの問題に関して建設的な提言を行って
はいるが、国の経済成長戦略の立案者・調整
役として権限を与えられた単一の省庁や機関
が存在しないということである。それどころか、
総務省や厚生労働省などのように、分離した
「サイロ」が権限をもっている。
日本 の 成 長 戦 略 には 、客 観 的 かつ 徹 底した
経 済 分 析が必 要 不 可 欠である。しかし、最 大
限 に 効 果 を 上 げ る た め に は 、そ れ 以 上 の
ものが必要である。日本が力強く成長して行く
ため には 、有 害 な 省 庁 間 の 競 争 意 識 、その
結 果としての 連 携 の 欠 如を排 除しなけれ ば
ならない。日本が 必 要としているのは統 一 的
な成長戦略であり、それが中央政府の強力な
リーダーシップの下に策定され、実行されること
である。つまり国全体の利益のために官 庁の
足並みをそろえて重要な経済成長政策に取り
組ませるリーダーシップが必要である。そして、
そのリーダーシップを支える中立的な組織を
内閣府の中に設けることである。
米国
日本
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地域別R&D集中度指数
1991-2004 GDP比(%)
図5
成長戦略タスクフォース白書 !"
総論:新成長戦略のすゝめ
!"
である(図6参照)。同じく、GDP比でみた
対日直接投資(FDI)の累計残高もきわめて
低い。帰結:新規参入者が少ないため、市場
にもたらされる新たなビジネス手法、戦略、
突破的な技術革新も少ない。
日本の技術基盤の多くは「休耕状態」であ
る。専門家によれば、日本企業が達成した多
くの技術的進歩が商業化されていないか、
ライセンス 供 与 されておらず、使 わ れ る
スピードも遅い。(タスクフォースでは、技術を
話 題 にした 際 に、いか に多くの 関 係 者 が
即 座にこの点について言 及したかに驚か
された。また、O E C Dの調 査もこれを裏 付
けている。)日本の研 究 開 発における国 際
共同研究の比率はEU平均のおよそ半分に
過ぎず、日本の産 業 構 造の変 化( 例えば 、
海外生産の増加)も、大企業から中小企業
への技術拡散のペースを遅らせているよう
である。
日本はもっと出来る!
日本 の 優 れた 技 術 や 人 的 資 本 は 、追 求する
政策路線次第で、この国に依然大きな成長の
潜 在 力 が あることを 意 味している。さらに 、
日 本 がこれらの 要 素 からほとんど恩 恵 を受
けていないため、もし起業家の増加、対日直接
投資、国際共同研究開発、迅速な資源の再配
分、移民、労働市場の流動性向上などを後押
へ の 投 資と、状 況 を 一 転 させるような 突 破
的な技 術の創 造が 含まれる。特に、いわゆる
「 破 壊 的 」な 技 術 開 発 と 活 用 は 日 本 の
国 際 競 争力を高め、従 来の技 術 体 系の延 長
線 上に見られる緩やかな技 術の改 善と比べ
ると、より大きくより広範な拡散と波及効果を
もたらす。
日 本 は 幸 い にも、世 界 のどの 国とも比 肩 で
きる豊かで強力な技 術 基 盤に恵まれている。
長 年 、日本 の 研 究 開 発 指 数( G D P に対する
研 究 開 発 費 の 割 合 )及 び G D P に 対 す る
特許出願率は、図5が示すようにOECD諸国
内でトップ、またはそれに準ずる地位にある。
また、O E C D 加 盟 国 内で高 等 教 育の比 率が
最も高い国のひとつであり、栄あるノーベル
賞受賞者リストにおいても科学分野での功績
がある人物が多い。
もし、日本が生 産 性を高め、経 済 成 長を加 速
させるのに不可欠な要素である強力な技術的
蓄積や人的資本を持っているのであれば、何が
この国を停滞させているのか。調査結果を再検
討し専門家と討議した結果、日本がその巨大
な技術基盤をフルに活用していないという事
実が明らかになった。その理由として、以下の
ようなものが挙げられる。
日 本 にお いては 、他 の 先 進 国と比 べ て、
新規創業企業の参入率が極めて低いまま
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英国 ドイツ オーストラリア 米国 フランス インド 日本
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出所 : 世界銀行
ドイツ($!!$%!")*'オーストラリア'($!!+%!&)*'米国'($!!,%!")*'フランス'($!!!%!-)*'インド'($!!#%!-)*'日本'($!!$%!")のデータ
平均新規参入率、2000-07
全登記済み企業に対する新規登録企業割合
図6
在日米国商工会議所!"
総論:新成長戦略のすゝめ
!"
簡素化、産業の規制撤廃、大学の知的財産権
や共同研究などに影響を与えている。
実現した国の例
天然資源に乏しく、世界の中でも軍事的、政治
的に不安定な地域に位置する国がある。ほんの
20年前、この国の国民1人あたりの起業家数、
ハイテク新興企業数、革新的特許件数は、日本
と比較してはるかに少なかった。
しかし、わず か 2 0 年 間 で、この 国 は 起 業 家
精 神 のセンターと化し、イノベーションでは
高 位 置 に 、N A S D A Q 市 場 で は 外 国 新 興
企業による新規上場件数で最大となっており、
国民1人当たりのベンチャー・キャピタル投資
額でも世界最大となっている。
しすれば、多くの望ましい結果が生まれるはず
である。外国直接投資と移民(図7,図8参照)
においては多少の進展があるが、国際的な比較
ではまだ少ない。まだまだ、「上昇余力」がある
ということである。
この潜在性は、日本がこうした機会を活かす政策
を構築できて初めて現実のものとなり得る。
事 実 、深 尾・権レポートとEberhart-Gucwa
レポートの 研 究 結 果 によると、9 0 年 代 後 半
に日本が実 施した数 多くの改 革が、ビジネス
環 境 や 新 規 市 場 参 入 者 の 機 会 にプ ラス の
大きい影響をおよぼす結果になったことを示唆
しており、これらの改革をさらに推し進め、改善
していくべきである。これらの広範囲にわたる
改革は、会社法や労働法、会社設立と採用の
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世界
先進国
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出所 -./012
内国向け外国直接投資ベース名目GDP比(%) 図7
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OECD加盟国の外国人労働力
全労働力に占める割合(%)
図8
成長戦略タスクフォース白書 !"
総論:新成長戦略のすゝめ
!"
全 要 素 生 産 性を示した。また、その分 析では
外資系企業が同期間に156,000人の新しい
雇用(純増)を創り出したことも示した。これらの
結 論 は 、生 産 性の 高い 企 業のみが 恒 常 的 に
雇 用 を 増 やせるという意 味 で は 、理 論 的 に
整合性が取れている。
さらに、深尾・権レポートの分析では日本経済の
雇用増の現在のドライバーは、外資系企業と
社齢の若い新しく設立された企業である。日本
の全 雇 用が 数 百 万 人も減 少した同じ時 期に
こ れ ら の 2 つ の グ ル ープ は 、ネット ベ ース
( 純 増 )で持 続 的に雇 用を創出したグループ
であった。
これ らの 調 査 で 確 認 さ れ た 傾 向 が 物 語 る
のは、直接外国投資、アントレプレナー(起業家)
と「 イ ントレプ レ ナ ー 」( 企 業 内 起 業 家 )
の 増 加 、そ の 他 の 新 た な 新 規 参 入 が 日 本
経 済の拡 大には不 可 欠だということである。
こ れ が 、マ ー ケ ット に 新 し い ビ ジ ネ ス と
ビジネスモデルを最も早く持ちこみ、より生産
性 が 高 い 活 用 に 向 け て 資 源 の 再 配 分 が
行われる流 れである。それらは、既 存の競 合
者との間で更なる競争を生み、それが経済と
消費者に恩典をもたらす。
以下に、深尾・権レポートの最も重要な発見を
抄訳した。
なぜ「失われた20年」が起きたのか。どのよう
な 傾 向 と 要 因 が 日 本 に 影 響 を 与 え 続 ける
のか。
日本の「失われた20年」は法的、人口動態的
な変化の結果であって、低い生産性と低調な
需要、同時に起きた労働者の減少と平均労働
時間の短縮という、破壊的な組み合わせによる
ものであった。全体として労働生産性は1997
年ごろ米 国 にキャッチアップするのを止め 、
現在は米国の60%のレベルにある。
二つの要因が重なり被害を助長した。
まず、1 9 8 9 年の株 式 市 場のバブル崩 壊より
も前に、日本の経済的な「新陳代謝」は危険な
その国はイスラエルである。日本に比べると
経 済 規 模 は 小 さい が 、イスラエル の 事 例 は
日 本 にとって 貴 重 な 手 掛 かりとな る 。この
国が成功したのは、ノウハウを学ぶため、ベン
チャー・キャピタル による海 外ファンドとの
パートナーシップを奨 励し、ベルリンの壁 が
崩壊した時にソビエト連邦から大量の移民を
受 け 入 れ 、そ の 移 民 を 素 早 く社 会 に 組 み
入 れ る など 自ら 再 改 造 を 成 し 遂 げ た か ら
で あ る 。さら に 、イスラ エ ル の 軍 隊 は 類 を
見 ない「フラット」な 組 織 構 造 であり、国 民
皆 兵と相 まって、若 者 を企 業 家 的 な 機 知 や
柔軟性に富む自信にあふれたリーダーとして
社会化し、教育したという発見もある。
イスラエル の目 覚しい 変 革 の 秘 訣 は 、外 国
直 接 投 資 、移 民 、資 源 再 配 分と統 合 、そして
教育である。
深尾・権レポート:的を射た分析
深尾・権レポートが想起させることは、国がGDP
の成 長を促すために必 要なのは、わずか3つ
のドライバーであるということである。①投下
資 本の 増 加 、② その 国の 労 働力の 規 模の 拡
大または 総 労 働 時 間 の 増 加 、③ 研 究 やイノ
ベーションを活用して労 働・資 本の生 産 性を
上げるという3つである。
日本の労働力が減少し、高齢化し、しかし投資
水準が相当に高いレベルにあるとすれば、深尾
教授と権准教授は日本の「全要素生産性」を
増強する道を見つけることが、GDP拡大へ完全
復調するために絶対的に重要だと結論づけた。
つまり、生産性の伸びを加速することが、現実
に残された唯一の主要なドライバーで、国民に
より高い成 長 率と、さらによい仕 事を与える
ために、日本が使える唯一の道なのである。
このこと自体は目新しく驚くような結論ではな
い。真の問いかけは、「日本が以前の高い生産
性を取り戻すにはどうしたらよいか」である。
この 点 について、研 究 の 分 析 結 果 は 対 象と
なった全てのタイプの企 業において、1 9 9 6
年から2 0 0 6 年の間に外 国 企 業が 一 番 高い
在日米国商工会議所!"
総論:新成長戦略のすゝめ
!"
したがって、日本に影響を与える主たる傾向と
経済的力学は次のようなものである。
移民政策や労働市場に女性や高齢者を投入
するほか、労働生産性の向上によってGDP、
賃金、税収を引き上げて、落ちこみを相殺し
ないかぎり、労働力供給の連続的な低下で、
さらに需要を冷やし税収基盤を失う。
新市場に新規参入の波が興り、資本市場で
生 産 的な企 業の参 入が 促がされ、非 効 率
な企業の退場がおきない限り、低い「新陳
代 謝 」と資 源の再 配 分の低 迷は続く。これ
に 関 連 して 、民 間 企 業 部 門 で の 過 度 の
内部留保がデフレ効果を持つようになる。
多くのサービス産 業では速い成 長 が 続く
が 、その 生 産 性 の 成 長 は 鈍 い 。生 産 性 を
上げるための広 範なソリューションとして
は 、新 し い ビ ジ ネ ス モ デ ル の 波 、新 規
参 入と、より大 きな I C T 投 資とその I C T
投資を使いこなすための組織的な構造改革
が必要であろう。
製造業におけるグローバリゼーションによる、
さらなる「空洞化」と規模縮小。これは、GDP
全体の中で生産性の低いサービスの比率を
引き上げることになり、サービススセクター
の生産性向上の必要性を増す。
日本の経 済 成 長 戦 略は、このように進 行して
いるトレンドを矯 正し、対 抗するよう設 計さ
れることが必要である。
どのような企業や投資が経済活動を増やし、
雇 用 の 純 増 を招き、より高 い 生 産 性 指 数 を
上げるのか。
深尾・権レポートでは、外資企業、新規参入者、
R & Dや国 際 化( 輸 出 関 連や外 資 系を含む)
に積 極 的な企 業が 直 近の分 析 期 間において
他 のタイプの 投 資 家 に比 べて目立って高 い
生 産 性を示した。一 般 的には、彼らはより多
くの 雇 用 を生 み 、その 経 済 活 動 は日 本 の 成
長 に寄 与した 。分 析では 新 興 企 業 やその 他
の新 規に立ち上がった起 業 家が日本の雇 用
に大きく貢 献していることを明らかにした 。
ほど低いものであった。つまり、資 本 、労 働と
技 術の資 源を最 適に利用する為の再 配 分の
ペースが著しく鈍かった。それを最もよく示す
例として、何年も生産性の高い企業が業界を
撤退し、生産性の低い企業が残り、従って業界
の平均生産性は落ちた。普通は、これとは逆の
ことが 起きるはずである。その結 果 、「 残 存 」
企業の労働力の多くは凍結され、仕事の入れ
替え 、再 訓 練 や 配 置 転 換 は日本 がやるべき
レベルには届かなかった。
こじらせた二つ目の要 因は、日本のサービス
産業は伸び続け、GDPの80%に達するに至った
ことである。しかし、日本のサービス産業は何
十年もの間、低い生産性に苦しんでおり、その
傾向は残っていた。非製造産業の労働生産性は、
未 だに米 国 の 水 準 の 半 分 以 下 である。した
がって、今や日本の経済活動の約80%が、低生
産性サービス業種によって構成されている。
この 圧 倒 的 にサ ービスを主 力とする経 済 転
換に貢献したものは、過去20年間にわたって
多くの 大 企 業 メーカ ー が 強 い 円 に 対 処し、
グ ロ ーバ ル な 競 争 圧 力と闘うために 、低 い
労 働コストを 利 用し、生 産 の 拠 点 を 海 外 に
移したことである。深 尾・権レポートは、上 場
企 業の多くと多 国 籍 企 業 が 不 振に陥ったの
は 2 0 年 間 で は なく、せ い ぜ い4、5 年 の 間
だったことを示している。彼らは連 結 決 算で
黒 字 を 上 げ ても 、日 本 にお いては ほとんど
新規雇用をしなかった。消費需要は低迷した
ままであった。
深尾教授の広範な分析では、日本のサービス
産 業 の 低 い 生 産 性 は 、低 い( あるい は 遅 す
ぎ た )I C T へ の 投 資 の 結 果 で あ る ことを
物 語 っており、そ れ は 日 本 の 低 水 準 の「 無
形 資 産 投 資 」の 表 れ の 一 つということな の
かもしれない。日本はサービス産業のR&Dに
は多額の開発資金を投じるが、他国と比較する
と 費 用 対 効 果 の 高 い I C T や I C T サ ー ビ ス
と、ブランド・エクイティ、ビジ ネスモ デル 、
組 織 構 成などの部 門に向けられる投 資 額は
少ない。また、従 業員のための職 場 外 研 修に
投じる額も少ない。
成長戦略タスクフォース白書 !"
総論:新成長戦略のすゝめ
!"
選 ん だ 業 種 で は な いところで 起 きている 。
1996年から2006年の期間では、外国企業は
新しい 業 種 に 投 資した 。外 国 企 業 は 深 尾・
権レポートで調べた112業種のうち、1996年
にはわずか 3 7 業 種に不 在で、2 0 0 6 年には
さらに19にまで下がった。
新興企業とその他の新規参入企業
外国企業や日本企業の子会社を除いた独立系
企業に限定すると、2006年現在で1996年
以降に設立された「新規参入」の国内企業は、
過 去 5 年 の 間 にネットベースで 1 2 1 万 人 の
新規雇用を生み出したが、これは1996年以前
(図10参照)に設立された全企業で310万人
の雇用喪失が起きたことと好対照である。
古 い 企 業 と 違 い 、若 手 企 業 はどの 業 種 に
おいても平 均 で 雇 用 者 数 を 上 げ た 。彼らは
古い会社よりも高い定着率を持っていた。R&D
に活 発な企 業と輸出や外 国 投 資 家など国 際
戦略を持つ企業は、その他の新しい企業よりも
高い生産性水準と生産性上昇を示した。
これ に 対して、独 立 系 の 大 企 業と1 9 9 6 年
以 前 に 設 立 され た 企 業 の 雇 用 者 数 はそ れ
ぞれ2006年現在で1996年と比べて数百万
ほど減少した。
外国企業
深 尾 教 授 と 権 准 教 授 は 、サ ー ビ ス 産 業 に
おいて外国企業の全要素生産性は、独立した
日本 企 業より( 他の要 因をコントロールした
上で比較して)平均で21%高いと推計した。
外 国 企 業 は 非 常 に 高 い 生 産 性と 相 俟 って
1996年から2006年にかけて日本における
雇用を249,000人から405,000人へと60%
近く増加させた。外国企業によるこの156,000
人の純 増は、グリーンフィールド投 資や事 業
拡 張 によって起こった 。その 結 果 は 、図 9 に
示されている(M&A取引による雇用増効果は
この図から除かれている)。
外 国 企 業 による投 資と雇 用は 多くの 業 種 に
流 布し、しばしば日本 企 業が拡 大 分 野として
日本の独立系企業 -3,752,215
日本企業の子会社 +96,501
外資系企業 +147,248
1996-2006間の雇用純増
(深尾・権レポートによる推計、企業レベルデータ)
図9
1996年以前に設立 -3,102,648
1996-2001に設立 +409,488
2001年以降に設立 +795,813
独立企業による2001-2006年における雇用純増
(深尾・権レポートによる推計、企業レベルデータ)
図10
在日米国商工会議所!"
総論:新成長戦略のすゝめ
!"
に、どの業種においてもその業種への新規参入
企業による雇用創出の貢献は大きい。
日本経済における現在と将来のドライバーと
成 長と生 産 性 の 根 源 は 何 か 。主 たる課 題と
障害とは。
深尾・権レポートの結論と含意は、日本の主要
な潜在的ドライバーと成長の根源として、以下
の事柄がある。
国内に向けた外 国 企 業の投 資はきわめて
高い生産性を持ち、その結果多くの雇用を
生む。雇用創出をもたらす対日直接投資の
貢献の多くは、今のところグリーンフィールド
市場参入か単なる事業拡大によるもので、
もし外国企業によるM&Aが増えるならば
この貢献はさらに伸びるであろう。
起業家的経済活動。若手企業が1,000人
前後の従業員を抱えるまでに成長すれば、
純増ベースの雇用増貢献は大きい。
スピンオフとイントレプレナーを含む、一般
的な新 規 参 入 者 。新 規 参 入 企 業が市 場に
高 い 生 産 性 と 新 しい ビ ジ ネ スモ デ ル を
持 ち込 み 、規 制 緩 和 によってさらに 魅 力
的になる。
政府の調達計画に中小企業者向けの予算
額 を 別 途 に 確 保して、その 枠 内 において
競 争 ベ ースで 業 者 を 選 ぶ などによって、
市場機能を生かしながら新規企業にとって
競争しやすくする。
技術のより速い商業化と拡散。日本版バイ・
ドール法の拡充等により中小企業がより多く
の大学の技術にアクセスしやすくなる。
国内の新興企業や中堅企業によるR&Dと
輸出の増加。日本企業は最初から「Think
Global」を実践しなくてはならない。
労働市場でのより大きな公正さ、移動性と
流動性は、小企業が要員を採用したり撤退
するコストの削減を容易にする。セーフティ
ーネットの拡充も従業員に再訓練を施すう
えで、補完的に作用する。
子会社
1996年から2001年の間に、大手独立系企
業の子会社・系列企業は607,000人の雇用
者を減らした。次の5 年 間には、ネットベース
で約703,000人増やしたが、増加のかなりの
部分は親会社のリストラによるものであった。
例えば、2 0 0 1 年から2 0 0 6 年の間に全ての
子 会 社と親 会 社 の 雇 用 者 数 変 動 の 合 計 値
は1 1 3 万 人の純 減であった。そのようなリス
トラは 往 々にして従 業 員の 賃 金 が 低 い 系 列
会 社への移 転を伴うので、本当の雇用ネット
増にはならないし、一 度 限りの現 象である。
しかし 、そ の 他 の ケ ースで は 、系 列 企 業 の
ネット増は多分に親会社によって成功した企
業内起業(イントレプレナー)が、意志決定を
速め、戦略に集中し、より厳密なガバナンスを
敷くために親会社から当該部門をスピンオフ
させた結果起きたものである。
日本の多国籍企業
国際事業展開をする日本企業は、外資系企業
の次に高い生産性を上げた。しかし、その開き
は大きく、しかも多くは日本での雇用の純増を
生まなかった。
日本はすでに再改造を始めている
特に歴 史の浅い産 業で、しばしばサービスセ
クターかあるいは規 制 緩 和や業 界 再 編が 進
んだ業種で、1995年以降にできた企業の多
くが2006年までに雇用者数で測った企業規
模で見ると、全企業のうちの上位1/4グルー
プに名を連ねている(情報通信、保険、ホーム
サービスがその例)。これはいくつかの業界に
おいてダイナミックな変化が起こっていること
の証左である。
そのほかのダイナミックな動きの兆候:15%以
上もの雇用削減をした業界が製造業を中心に
24あったが、サービス産業を中心に19の業種
で10%以上の雇用を増やした。これらの産業は
外資系参入企業があった業種で、彼らも新しい
マーケット拡大に寄与したと考えられる。さら
成長戦略タスクフォース白書 !"
総論:新成長戦略のすゝめ
!"
設立された独立系企業(帝国データバンクの
デ ータから抽出した5 万 社 )に関する詳 細な
分析である。
深尾・権レポートの結果と同様に、この分析は
会社法や労働法、産業の規制撤廃、大学の知
的 財 産 保 有や共同研 究に関する近 年の広 範
な改 革が、日本における起 業にプラスの影 響
をもたらしていることを示唆している。以下は
その事例のいくつかである。
日本の新興企業のうち目覚ましい割合の企
業が、今や急速に高いレベルの成功を収めて
いる。ごく最近の2006年の時点までに設立
され生き残った、データ内全企業の5%以上
が、2008年末時点でそれぞれの業界の売
上高ランキングで90パーセンタイル以内に
入っている。また、1999年に設立された企
業の9%近くが、2008年までに同水準に到
達している。(図11参照)
注目すべきは、このトレンドが2、3の業界に
とどまらず、実 際に相当広 範 囲に広がりを
見せていることである。
I C Tを活用する産 業において、より大きな
投資をすることにより生産性を高めるICT投
資と関連の無形資産を増加させる。
経済成長を加速するうえで起きる課題と障害
には下記の事柄があるであろう。
低 い 生 産 性 を 持 つ 旧 態 依 然 の 競 争 者 が
収縮し、市場退出に時間がかかる。
超過貯蓄と、多くの大企業に見られるように、
現 金を投 資や配当に回さず負債の返 済に
あてることなど、機能不全に陥った企業統
治が 、最 適な利 用のための資 源の再 配 分
を阻害する。
労働市場の不全と流動性不足が、労働資源
の最適化を遅らせる。
Eberhart-Gucwaレポート:進展の兆し
S t a n f o r d P r o g r a m o n R e g i o n s o f
Innovation and Entrepreneurshipの
助成で書かれたEberhart-Gucwaレポートは、
1999年から2008年にかけて日本で新たに
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国内新興企業の業界売上高ランキング
業界ランキングで90パーセンタイル以内の%(設立された年別)
図11
在日米国商工会議所!"
総論:新成長戦略のすゝめ
!"
のに必 要 な 時 間 が 短くなっていることを
示している。
新規ハイテク企業のCEOの出身校が、日本
の 技 術 系 大 学 で ある 割 合 は 異 常 な ほど
高い。また、海 外の大 学も多くのハイテク
企業のCEOを輩出している。
重要な分析結果と政策的含意
深尾教授と権准教授は、タスクフォースとの話し
合いの中で、日本の核心的な問題点は、生産性
の高い投資の欠如であり、これが構造的な低い
「新陳代謝」率と高齢化し縮小する労働力によ
り増幅されていると指摘している。データによる
と、多くの生産的企業が育つほど多くの雇用者
が採用される。生産性を上げることは、より多く
の 投 資 を日本 に惹き付 け、経 済 成 長 を加 速
させ、好循環のサイクルを作ることになる。
した がって、日 本 は 、資 本 、労 働 力 、技 術 を
生 産 性の高い用 途に配 分または再 配 分する
ことを加 速する政 策を採る必 要がある。すで
平均すると、最近の新興企業は古参の競合
他社に比べ、売上高ランキングを伸ばして
いるようである(図12参照)。同レポートに
よると、これら新 興 企 業は平 均してわずか
2、3年で業界売上ランキングで50パーセ
ンタイル(中央値)内に入ったことが示され
ている。1999年に設立された企業の売上
ベースの中央 値は、2 0 0 8 年までに約 7 0
パーセンタイル水 準になっている。この傾
向は、相当広範囲に分散されている。
ビジネス環境の大きな変化や新規参入者
にとって機会の拡大がなかったのなら、これ
は驚くべき結果である。それどころか、新興
企業はゆっくりと 50パーセンタイルである
中央値へ引き寄せられると予想される。
2004年から2008年に設立されたハイテク
企業のおよそ5%が、2008年までに5億円
の年間売上を達成している。このグループの
平均的企業は設立後2年を若干上回る若さ
であることから、ベンチャー企業が成功する
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国内売上高ランクのパーセンタイル
(2008年時点、設立年別)
図12
成長戦略タスクフォース白書 !"
総論:新成長戦略のすゝめ
!"
日本の新経済戦略への舵取り 
大 胆 な 新 国 家 経 済 戦 略を発 表し、実 行に移
すにあたり、日本の指導者は、エコノミストで
ある深 尾 、権 、Eberhart、Gucwaの 各 氏 が
提起した以下のような重要な課題を公に認め、
明確に対処する必要がある。
キーとなる存在は外資系企業、日本の起業
家 、新 規 参 入 者 : 多くの日 本 の 大 企 業 は
生 産 の 拠 点 を 海 外 に 移 すか 、リストラを
行った。将来においては、未開拓の潜在的
な 成 長 は 引 き 続 き 新 規 参 入 者 、外 資 系
企 業 、起 業 家から生み出されるであろう。
既に過 去 1 5 年にわたってこれらの新しい
事業者は、主に日本の経済成長の鍵となる
サ ー ビ ス 産 業 に お い て 、雇 用 の 純 増 と
生 産 性 向 上をもたらしてきた。リストラと
異なり、彼らがもたらす生産性向上は一時的
なものではなく、恒常的である。
キーとなるリソースは 突 破 的 技 術とノウ
ハウ:日 本 はその 素 晴らしい 技 術 基 盤 を
起 業や産 学 連 携といった形を通じて商 用
化するために、先に述べたような投資家や
日 本 の 教 育 機 関 に 協 力 を 求 めてい か な
ければ ならない 。日本 は 、新しいノウハウ
と 技 術 を 持 ち 込 む 事 業 家 をさら に 引 き
寄せ、インターネット・エコノミーの恩典を
享 受することに努力しなくてはならない。
しかし、技 術 ベースを 強 化し利 用 する 過
程においては、日本は上からの指導ではな
く市 場 が 有力な 技 術の 選 別をできるよう
図るべきである。
「内に向けたグローバル化」から得る便益:
これらの恩恵は対日直接投資の増加、教育
政 策の変 更 、国 境を越えるR & Dと移 民な
どといった 形 で 受 けられる。このことで、
日本の労働市場に現在生じているギャップ
を埋め、新しい技術やビジネス手法、戦略へ
のアクセスが可能になる。
規制環境を含めて、投資に向けた魅力ある
市 場 の 創 造:日 本 を 外 国 企 業 や 国 内
に述 べたとおり、エコノミストは 一 般 的 に、
研 究 開 発や技 術 の 潜 在 的 な 利 益 は 、この 点
において極めて大きなものであると認 識して
い る 。知 識 や 技 術 が より 速く拡 散 し 、市 場
化され、商業化されればされるほど、全要素生
産性の上昇は速くなる。
つまり、最も重要なのはスピードである。再配
分 が 速くな れ ば なるほど 、技 術 がより突 破
的 な力を 持 てば 持 つ ほど 、投 資 対 象となる
市 場が内外を問わず大きくなればなるほど、
より良い 方 向 へと向 かう。いかなる政 府も、
今日の急速に変化するビジネス界においては、
勝 者を選 別することは無 理であることから、
より効 率 的 な 市 場プロセスを促 進 すること
がもう一つのカギになる。一 貫した競 争 政 策
は極めて重要だが、労働市場及びこれに送り
込 む 教 育 シス テム も 同 様 に 極 めて 重 要 で
ある。な ぜ なら、今 日の 世 界 において、新 規
事 業 や 新 規 市 場 参 入 者 に は 、流 動 的 で 柔
軟 性 のある労 働 市 場 、そして国 際 的 に機 能
し 得 るスキル を 持 ち 、高 度 な 能 力 を 持 った
人材を輩出する有能な教育機関が必要である
ためである。
これらのニーズにうまく対応していけるだけの
大胆な経済成長戦略がないため、多くの日本
企業(特に中小企業や独立企業)は、競争力の
向 上に手 間 取っている。また、生 産 性の低い
旧来の競争相手ですら市場からの退出がなく、
依然として低水準な新興企業の市場参入率の
一因となっている。こうした状況で、あまりにも
多くの有望で収益性の高い技術が閉じ込めら
れたままとなっていると思われる。多くの外国
企業や国内企業さえも、日本は魅力に欠ける
投 資 市 場 であると見 ているため 、対 日 直 接
投 資の伸びや「 内に向けたグローバル化 」も
低調にとどまっている。
深尾・権レポートとEberhart-Gucwaレポート
のデ ータは 、過 去 1 5 年 間 の 改 革 がようやく
有 益 な 効 果 を 持 ち始 めていることを 示して
いる。両レポートは 、政 策 面でやらなければ
な ら な い こと が ま だ 山 積 み で あ る こと も
明確にしている。
在日米国商工会議所!!
総論:新成長戦略のすゝめ
!!
就職でき、より良い就労機会を見つけること
ができる環境を提供する必要がある。
ACCJは、日本政府がこれらの重要な課題を、
経済の回復と成長を促す効果のある新戦略と
ビジョンの中核 的な構 成 要 素として認 識し、
以 下に掲げる八つの提 言 書に描かれている
具体的な政策を実行するよう提議したい。この
白書は、総 論である本 章の後に続く、各々の
章は各提言書から成り立っている。
1. 起業を促進し市場にイノベーションをもた
らし未来の企業や雇用を創出する
2. 成長促進及び雇用創出のため、対日海外直
接投資の拡大を
3. 全 ては 教 育 から始 まる:日 本 の 国 際 化 、
若年層の再活性化、知識産業の推進を
4. 税制で成長と競争力を活性化させ、生産性
ある投資とイノベーションを推進
5. 日本 への 投 資 を促 進させるため 、規 制 や
法制度の透明性及びアクセスを高める
6. 「オープンコンバージェンス」の推進でイン
ターネット・エコノミーの最大化を
7. 労 働 流 動 性の向 上 が 、世 界 市 場における
日本の競争力を改善
8. 投 資と成 長を刺 激するための日本の移 民
政策の緩和
また、日本がどのように金 融セクターを強 化
し、グローバルな金融センターとしての役割を
増 やす 事 ができるかに焦 点 をあてた白 書 を
年内に刊行する予定である。
投 資 家 にとってより魅 力 的 な 市 場 にする
ことは 急 務である。これには 、市 場 に目を
向けた税政の改革や慣習、規制、基準等の
調 和 、そして 取 引の 複 雑 化 によるコスト
高 を生じさせる規 制 の 緩 和 が 含まれる。
また、日本にある外資系企業を日本経済に
不 可 欠なステイクホルダーとして認 知し、
審議会や研究会のような政府の諮問機関
などへの 参 加 を増 やすべく正 式メンバー
として招 致 することも適 切 である。また 、
それは、企 業のガバナンスとM & A 市 場を
改 善することである。それによって、新 規
参入企業を排除している競争力がない日本
企 業 が 市 場 か ら 撤 退 す る 一 方 で 、競 争
優位性を持つ中核的企業領域にさらに投資
を行う事になる。
サ ー ビ ス 産 業 の 生 産 性 向 上 の 重 要 性:
日 本 の G D P の 8 割 は 製 造 業 で は なく、
サービス業によるものであり、日本が経 済
全 体を支えるために、輸 出 主 導 型 の 製 造
業 の 成 長 に 頼 っていられ た 時 代 は 過 ぎ
去 っ た 。I C T 及 び I C T サ ー ビ ス 投 資 の
促 進 を図りつつ 、サ ービス業 の 生 産 性と
効率性を高めることが、至上命題である。
労働市場の改善:日本の労働市場には、被
雇用者が離 職中に受けられる研 修を施す
セーフティーネットに補完された、より高い
流 動 性 が 必 要である。さらに日本 の 大 学
は 、日 本 の 最 大 の 成 長 軌 道 が 依 存 す る
迅 速 な 新 規 市 場 参 入 企 業 と 投 資 家 が
求めるニーズに応えるため、より国際的で、
臨 機 応 変 で 、柔 軟 な 思 考 を 持 つ 学 生 を
輩出する必要がある。この新規雇用の多く
がサービス、サービス関連産業で創出され、
そこでは迅 速な対 応と間 断のない調 整が
最 重 要 で あ る た め 、社 員 の 素 養 と 雇 用
慣行の柔軟性は特に重要である。
職場の現実:日本の労働力は減少し続けて
おり、このギャップを埋めるために、国は必然的
に 女 性 や 退 職 者 、移 民 を 労 働 力として
活用しなくてはならないという厳しい現実が
ある。政府は、これらの人々がもっと容易に
!"成長戦略タスクフォース白書
I. 概 要
日本 の 起 業 家たちは 長 年 、国 の 経 済 発 展 や
世 界の消 費 文 化に対する貢 献で国 内 外から
称 賛 を 集 めてきた 。日 本 の 主 要 ブ ランドの
多くは、ホンダの本 田 宗 一 郎や松 下( 現パナ
ソニック)の松 下 幸 之 助 、ソニーの盛 田 昭 夫
や 井 深 大 など 、ビ ジ ネスの パイオニア 達と
永遠に結びついている。
日 本 の 経 済 が 活 況 を 呈 してい た 6 0 年 代・
7 0 年 代 、新 規 事 業 は 猛 烈 な 勢 いで 市 場 に
参 入していた。しかし、1 9 8 9 年までに新 規
参入者の割合は激減し、市場に参入した企業
の数とほぼ 変 わらない 数の企 業 が 市 場から
撤 退 するという具 合 で、経 済 成 長 を 支 える
エンジンを鈍 化させることになった。日本の
政治家や政策は、新規事業を育成するという
より、既存企業をいかに存続させるかに頑なな
までにこだわり続けている。
市場参入率の急落や、弱い日本経済の新陳代謝
にもかかわらず、深尾・権レポートは、1991年
から2 0 0 6 年 の 期 間 、新 興 企 業 が 依 然日本
の雇用成長の大部分に貢献していたことを明らか
にした。さらに、国際的に事業を展開し、研究
開発費に資金をより多く費やしている新興企業ほ
ど高い生産性を示していることが分かった。
日本の経 済 的 活力は 、次 世 代の起 業 家を輩
出できるか、また、創 造力に富む持 続 可 能な
企業を育てるために必要な知識やスキル、そして
ネットワー クを 企 業 家 に 与 えられるか にか
かっている。それには 、彼らを支 援する市 場
主導のエコシステム(生態系)や、彼らが経済
及び 社 会 的 繁 栄 の 主 な 担い 手であることを
国 民 が 認 識 する文 化 を育 成 することなども
含まれる。
それだけではなく、日本は資 本 市 場や競 争・
公正取引に関する補足的な政策を定めること、
労 働 市 場をもっと流 動 化させること、そして
リスク・キャピタル が この 国 の 巨 大 な テ ク
ノロジ ー 基 盤や知 的 財 産をより容 易に活 用
できるようにすることが必要である。これらの
変化は、産学連携や、市場主導の新規事業の
創 生を促 進し、商 品 市 場を変えるインパクト
をもたらす突破的、「破壊的」な新製品やテク
ノロジーを市場に送り出し、さらにはそれらを
世界市場に送り出すことを推進する。
II. 論点及び分析
日本における戦後の起業家政策:
誤った優先順位
初 め は 小 規 模 で あ っ た ホ ン ダ や ソ ニ ー 、
松 下 などの 企 業 は 、戦 後 日 本 が 急 成 長 を
成 し 遂 げ て い た 時 期 に 誰 も が 知 る 一 流
企 業へと成 長した。しかし、新 興 企 業が 経 済
成 長 へ 大 いに貢 献したことや 消 費 者 に全く
新しい概 念や商 品をもたらしたことを日本の
政 策 者は見 抜けなかった。政 府はより多くの
ベンチャー 企 業の創生を支 援する代わりに、
多くの場 合 大 手 企 業 に仕えてきた中 小 企 業
を 支 援 す ること に よって 大 企 業 と 既 存 の
中 小 企 業 間 の 生 産 性 ギャップを埋 めようと
努 め た 。こ れ ら の 中 小 企 業 の 殆 ど は 新 興
企業ではない。
1989年度中小企業白書は、起業活動の低下
が 景 気 低 迷につながる可 能 性があると警 告
していた。この予測は的中し、図1に示されて
いるように市場参入率が11%から約6%へと
低下した後、政府の担当者は、若い新興企業に
対する政策について真剣に再検討を始めた。
米 英 両 国の経 済が、8 0 年 代に新 興 企 業によ
り刺激を受けたとの認識が高まったことから、
この 再 評 価 が 促 進された 。近 年 の 参 入 率 の
国際比較は、図2に示されているように、日本
起業を促進し市場にイノベーションをもたらし
未来の企業を創出
在日米国商工会議所!"
起業の促進
!"
がOECD諸国の中で最下位と、著しい対比を
成している。
新 興 企 業 や 成 長 企 業 は 今 や 技 術 革 新 を
もたらすものとして、また、成熟経済に雇用や
効 率 的 な資 源 再 配 分を生むものとして不 可
欠である、と広く認 知されている。さらに、成
長や競争性を促進する突破的なテクノロジー
や知識のスピルオーバーの極めて重要な源で
もある。
日本の近年の実績に関する表面的見解
9 0 年 代 後 半 に 広 まったこの 認 識 は 、会 社
設立のために必要とされていた最低資本金の
撤廃や、日本版LLCやLLPに当たる合同会社
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参入率
退出率
企業の参入・退出率の推移
出所 *
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図1
企業参入率の国際比較
(2000-2007の平均参入率)
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イギリス
ドイツ
ニュージーランド
オーストラリア
アメリカ
香港、中国
アイルランド
フランス
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参入率(%)
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平均:10.6%
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図2
成長戦略タスクフォース白書 !"
起業の促進
!"
や有 限 責 任 事 業 組 合の創 設 など、起 業 家を
後押しする様々な政策を促進することとなった。
この認 識は会 社の再 編やM & A 取引の手 段 、
労働契約の規制や報酬制度、産学の研究開発
連 携 をより柔 軟 化 させることになる一 連 の
改革を推進した大きな動機にもなった。
これらの 改 革 にもかかわらず、一 般 的 には 、
日本ではまだベンチャー 企 業の設 立や成 長
に急 速 な 進 展 は 見られないと思 われている
であろう。同様に、起業家にとって十分に魅力
的である買収やI P Oなどを通したエグジット
戦 略( 投 下 資 金 回 収 手 段 )の機 会も、まだ少
ない。図3から近年の日本のIPO件数の急激
な下落が読み取れる。
既 存の日本 企 業は概して投 資 家に魅力的な
エグジット戦略を提供していない。というのも、
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出所 +,-./0,12324,
日本のIPO件数 図3
ベンチャーキャピタル投資, 2008
100万$, 対GDP率
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日
本
(2006)
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図4
在日米国商工会議所!"
起業の促進
!"
ベンチャー企業買収が自社の存続に重要だと
は考えていないからである。
日本のベンチャー・キャピタル市 場の規 模の
小 ささは 、この 短 期 の エグ ジット選 択 肢 が
相 対 的 に少 ないことを反 映している。事 実 、
年 間 投 資 取 扱 高 は 米 国 の 水 準 から見ると、
絶対額でも対GDP比率でもごくわずかである
(図4参照)。
これらのトレンドが続いているのにはいくつか
理 由がある。まず、業 界 専 門 情 報を有するベ
ンチャー・キャピタル企業、司法サービス提供
者 及びエンジェル・インベスターなどの民 間
グループ間で横の連携が弱く、相互関連ネット
ワークが不十分であることが挙げられる。
第2に、失敗を極度に恐れることや、一流大手
企 業 への就 職を好むといった国 民の性 癖に
あまり変化がないことが挙げられる。起業家と
なるような優秀な人材は大企業や大学にとど
まる傾向がある。このところの新興企業による
不正行為に対するメディアの注目もサクセス
ストーリーに影を投げかけている。
最 後 に 、お そ らく 最 も 重 要 だ と 思 わ れ る
理 由 は 、「 失 わ れ た 2 0 年 」の 改 革 や 規 制
緩和の政策に対する政治的なコンセンサスは、
新規事業の機会づくりや取引を容易にし始め
た矢先に立ち消えたことである。
国 際 起 業 家 調 査( G E M )が 2 0 0 9 年 に
実 施 し た 起 業 に 対 す る 意 識 調 査 結 果 は 、
は っきりとこれ らの 問 題 を 反 映 してい る 。
図 5に 示 さ れて い るように 、日 本 国 民 は 、
G E M 調 査が分 析した「イノベーション主 導 」
経済の20カ国の中で、失敗することにもっと
も大きな 恐 れを示している。また 、起 業する
チャンスがあると感じている国民の数は20カ
国 中 、最 下 位 であった( 図6参 照 )。他 にも
起 業 家 になることが 賢 明 なキャリア 戦 略 で
あると考える国民の割合が最も低いといった
予想とおりの結果が挙げられる。
日 本 で 起 業 す ること の 難 しさ は こ の 意 識
調 査 に現 れている。新 興 企 業 は 経 験 豊 富 な
経 営 陣を雇うことに苦 労する。また、顧 客を
獲 得することも彼らにとっては困 難で、資 金
調達の困難さに輪をかけている。今の日本の
若者はバブル経済崩壊以降に出生したため、
生まれてこのかた好景気というものを知らず、
リスク回 避 的になっていることが 要 因として
挙げられる。起業家を希望したり、新興企業で
働きたいと考える人があまりにも少ないままで
は起業家精神の普及促進は困難である。
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失敗することへの恐れ 図5
成長戦略タスクフォース白書 !"
起業の促進
!"
しかしこれに関しては朗報がある。イスラエル、
アイルランド、チリ及び 韓 国 など様々な 国に
おける近年の経験から、規制緩和の推進、新規
参 入 者や移 民の支 援 及び新たな事 業 形 態や
新テクノロジーを迅 速に導 入し広めることを
優先順位の上位に据えた政策を実施すれば、
政 府 の 指 導 者 が「 起 業 」に 対 する 考 え 方 を
変えることができることを示している。30年前、
チリやアイルランドでは政府関係の仕事に就
くことが最も望ましいと考えられていた。イス
ラ エ ル で は 、軍 事 関 係 の 仕 事 が トップ で
あった 。現 在これらの 国 で は 、ベンチャー・
キャピタル市場や起業活動やそれらについての
意 識は大きく改 善されている。政 府は政 策に
よって変化をもたらすことができるのである。
最近の兆候
日本の 起 業 環 境 にはほとんど改 善 が 見られ
な いという 表 面 上 の 印 象 にもか か わらず、
日本が90年代後半に開始した様々な改革が、
ようやく新 規 参 入 者 のためのビジ ネス環 境
や機会にポジティブかつ大きな影響を与えて
いる兆候が見られる。
Stanford Program on Regions of Innova-
tion and Entrepreneurship(SPRIE:地域
イノベーションと起業に関するスタンフォード
大学の研究科)の後援で書かれたEberhart-
Gucwa レポートは、帝国データバンクから提
供された日本で1999年から2008年に新たに
設立された5万社のサンプルを基に独立企業に
関する詳細な分析を提示している。
日本の新 興 企 業のうち相当な割 合の企 業
が、今や急速に高いレベルの成功を収めて
いる。2006年に設立され生き残った企業
を見た場合でも、その5%以上が2008年末
時点でそれぞれの業界の売上高ランキング
で 9 0 パー センタイル 以 内に入っている。
また 、1 9 9 9 年 に 設 立 され た 企 業 の 9 %
近くが、2008年までに同パーセンタイルに
到達している(図7参照)。
このトレンドは2、3の業界にとどまらず、事
実、比較的広範囲に広がりを見せている。
平均すると、最近の新興企業は古手の競合
他社に比べ、売上高ランキングを伸ばして
いるようである。同レポートによると、これ
ら 新 興 企 業 は 平 均 してわず か 2 、3 年 で
業 界 売 上ランキングで5 0パーセンタイル
(中央値)内に入ったことが示されている。
1999年に設立された企業の売上ベースの
中央値は、2008年までに約70パーセンタ
イルになっている(図8参照)。この傾向は、
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機会の認識 図6
在日米国商工会議所!"
起業の促進
!"
上 記 のトレンドと同 様 に相 当 広 範 囲 に広
がっている。
これ は 、新 規 参 入 者 にとって商 機 をもた
ら す ビ ジ ネ ス 環 境 の 大 き な 変 化 が な
かったのなら、驚くべき結 果である。それ
どころか 、新 興 企 業 は 5 0 パーセンタイル
である中 央 値 へとゆっくり近 づくもので
あると想定されている。
2 0 0 4 年 から2 0 0 8 年 に設 立されたハイ
テク企 業のおよそ5 %が 、2 0 0 8 年までに
5 億 円 の 年 間 売 上 を 達 成している 。この
グループの平均的企業は設立後2年を若干
上 回る若さであることから、ベンチャー 企
業が成功するのに必要な時間も短くなって
いることを示している。
新規ハイテク企業のCEOの出身校が、日本
の技 術 系 大 学である割 合は異 常なほど高
い。また、海外の大学も多くのハイテク企業
のCEOを輩出している。
Eberhart-Gucwaレポートの分析結果は、
会社法や労働法、産業の規制撤廃、大学の技
術資産や共同研究に関する近年の広範な改革
が、日本における起業にプラスの影響をもたら
していることを示唆している。
新たな機会は新たな参入者を引き寄せるため、
多くの場合、新興企業は新しい「破壊的」なテ
クノロジーやメソッドを導入したり、あるいは
特 定の産 業の現 状 維 持を揺るがす変 化から
生じる機会を利用しようとして現れる。ACCJ
は、このようなダイナミクスが日本で加速して
いると確信しているが、それらは必要な改革、
規 制 緩 和やリーダーシップがあることにより
続くものである。
日本の指導者への進言:
機会を拡大し、リスクを減らす
日本政府は、国家の将来の繁栄を左右する新
会社やクリエイティブで突破的な新技術や新
製品を生み出すため、先導して起業家精神を
育む基盤を作らなければならない。ベンチャー
企業の成功は究極的には民間セクター次第で
あるとはいえ、政府は触媒としてまだ実現され
ていないポテンシャルを伸ばす機能を果たすこ
とができる。
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業界ランキングで90パーセンタイル以内の%(設立された年別)
国内新興企業の業界売上高ランキング 図7
成長戦略タスクフォース白書 !"
起業の促進
!"
日本の指導者が先ずしなければならないのは、
起業とは価値がある企てであり、国家成長政策
の中核となすべきことを宣言することである。こ
のようなリーダーシップは、21世紀の新たな
産業の中で起業家たちが初めから世界に打っ
て出るのに必要な国境を越えたつながりを築
く上で支えとなる。
成功しているベンチャー企業を認め、賞賛する
ことも国民の強い興味を集め、必要不可欠であ
る政策への政治的支援を築くために極めて重
要な役割を果たすことになろう。政財界の最高
幹部は、日本経済の未来を担う重要な存在とし
て起業家に注目するべきである。また、起業家
は利益のみを追求するため欲深い、あるいは規
模が小さいので取るに足らないというイメージ
を払拭しなければならない。
新興企業の成功にとっては、商品市場の拡大
や「 売 れる機 会 」が 不 可 欠である。成 熟した
市場で新たな製品、サービス、またはビジネス
モデルを持たず、既存の競合他社と正面から
ぶつかろうと思う企 業は少ない。日本 政 府は
農 業 や ヘ ルスケアなど 規 制 の 強 い 産 業 や、
収束するインターネット、メディア、コミュニケ
ーションの産業で規制改革を推進することに
より、新たなビジネスチャンスを生み出すこと
ができる。( インター ネット経 済 に関 する本
白書の章を参照されたい。)
政府はまた、起業家精神にあふれたライバルを
攻撃しようとする既得権による試みを鈍らせる
競争政策を追求することにより、チャンスを生
み出すこともできる。これはより多くの新規参
入者を既存の生産性の低い企業、深尾教授が
指 摘する退出しない低 生 産 性の既 存 企 業と
競争に向かわせることになる。OECDの調査に
よると、競争政策は多くの国の新規参入率に
大きな影響を与えることが判明している。
最後に、政府は補助金などの形で公費を使う
のではなく、小 企 業 優 先プログラムを通し、
新 興 企 業 が 政 府を新 規 顧 客として獲 得する
ことによって、手助けすることができる。[優先
!
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国内売上高ランクのパーセンタイル
(2008年時点、設立年別)
図8
在日米国商工会議所!"
起業の促進
!"
プログラム(例えば、いわゆるセット・アサイド
では、小規模企業に機会を与えるため、各省庁
の 支 出 の 一 部 を 小 規 模 企 業 からの 調 達 に
割り当てることを義務付ける。)
移民政策の章で述べているように、海外の起
業家が日本に移住しビザを取得することをより
簡単にし、迅速化することで、政府は肯定的な
意図を示すこともできる。
労働の流動性の重要性
労働の流動性は、個々の新興企業にとっても
全 体 にとっても成 功 するために重 要 な 要 素
である。ベンチャービジネスにとっては、エン
ジニア、科学者、その他の技術系エキスパート
に加えて、経 営 、財 務 、法 律 、知 的 所 有 権 や
マー ケティング などの 専 門 性 を備 えたベテ
ランの人材が必要不可欠である。
日本の新興ベンチャー企業にとって最も大き
な 挑 戦 の 一 つ は 、経 験 豊 富 なマネジメント
チームを作ることである。日本の会社における平
均的な在職期間は、米国の2倍程度も長く、大手
企業の有能な社員は新興企業を立ち上げたり、
新興企業に転職したりすると失うものが多い。
転 職 先 が 倒 産しても元の会 社に戻 れないば
かりか、他に職を探すことも容易ではない。また、
ベテランの力なくしては、新興の起業家はよく
ありがちな失敗を何度も繰り返し挫折する。
例えば、2005年に三菱総合研究所が行った
調査結果は、日本経済の研究者が実際固定化
していることを示している(図9参照)。
日本における緊急課題の一つは、正社員がつ
ながりを切ることなく、元の組織に復帰できる
形で、ベンチャービジネスに参加できる柔軟な
方法を考案することである。それにより倒産の
際のバックアップオプションを提供することに
なる。日本のセーフティネットの強化も大いに
助けとなるだろう。(労働力の流動性やセーフ
ティネットの改善の必要性に関する章を参照
されたい。)
出所:
日本の研究者の可能性は限られている
研究者の数と団体内/間の転職2003年
大学
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公共団体/非営利団
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民間企業
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図9
成長戦略タスクフォース白書 !"
起業の促進
!"
排除ではなく、資本市場を発展させる
資本がベンチャー企業の設立や成長に必要で
あるのは当然である。そのため、政 府が 資 金
調達に関する適正な政策を図ることは不可欠
である。直接政府から来る有り余る資金が民間
セクターの資金供給を締め出し、非効率企業に
資金が渡り結果的に公的資金が浪費されると
いう機能不全の依存関係を作り出している。
政 府 の 最 も 基 本 的 な 役 割 は 、民 間 資 本 の
流 れ が 利 益 を 上 げ、成 長 する 能 力を 示して
いる 新 たなビジ ネスに 向 かうことを 確 か な
もの にするた め 、適 切 な イン セン ティブ を
設 定 することである 。政 府 が 直 接 的 な 補 助
金 、借 入 保 証 、その他の手 段に踏み 込むと、
上 記 の 問 題 が 起 きる 可 能 性 が あ る た め 、
将 来の新 規 参 入 者も含めて新 興 企 業が市 場
勢力に立ち向かうチャンスを奪うことになる。
市 場 原 理 に 対 応 させることによって、国 内
外 において投 資 対 象としてのみならず 競 争
力 の あ る 魅 力 的 な 企 業 を 生 み 出 すこと が
できる。
日本はしばしば「リスクマネー」の欠如に悩ま
されていると言われる。この認 識は正 確では
ない。実際は余剰資本・貯蓄があり、新興国株
投資やオルタナティブ投資などに運用されて
いる。しかし、日本 の 若 い 企 業 はこのような
リスクマネーを国 内の 機 関 投 資 家 から呼び
込むのに苦労している。事実、機関投資家から
の資金調達は、米国が80%であるのに対し、
日本では3%程度に過ぎない。
このような状況の下、日本政府がベンチャー企
業を助けるために取ることのできる最善の方策
とは投資方針を変更し公的年金資金のほんの
一部をベンチャービジネスへの投資に向ける
ことである。ただしこの場合、その判断を民間
の運用業者に委ねる場合に限るという条件で
のみ許可する。現在、主要政府系年金基金の
ポートフォリオにベンチャー・キャピタルへの
投資は基本的に組み入れられていない。
これら公的年金基金がその資金のほんの一部
を投 資に値するベンチャー 企 業に振り向け、
民 間のファンドマネージャーが運用するとし
たら、そのメッセージは市 場に大きな影 響を
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日本
韓国
中国
台湾
インド
イスラエル
シンガポール
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F312:30 30@.G9;D32;;.H6950 3.036.I2;20:5J.7+3DK2:;D1<.8=.F@@D38D;.
再生可能エネルギー関連特許の数
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図10
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  • 3. 成長に向けた新たな航路への舵取り 日本の指導者への提言 会長からのメッセージ ........................................................................... ! タスクフォースメンバーおよびスポンサー.................................................... " 概要 ................................................................................................. # 総論 : 新成長戦略のすゝめ ...................................................................... $ 在日米国商工会議所の成長戦略タスクフォース・プロジェクト.................................... ! 希望的観測によらず、分析に基づいた政策 ............................................................. ! 真の政治的リーダーシップの尺度 ...................................................................... "" 技術は成長の源泉 .......................................................................................... "# 日本はもっと出来る! ...................................................................................... "$ 実現した国の例.............................................................................................. "% 深尾・権レポート:的を射た分析 ......................................................................... "& Eberhart-Gucwaレポート:進展の兆し............................................................ "! 重要な分析結果と政策的含意 ........................................................................... #' 日本の新経済戦略への舵取り ........................................................................... #" 起業を促進し市場にイノベーションをもたらし未来の企業を創出 ...................... "% 成長促進及び雇用創出の為の対日直接投資の拡大 ....................................... %& 全ては教育から始まる:日本の国際化、若年層の再活性化、知識産業の推進 ......... '( 税制で成長と競争力を活性化させ、生産性ある投資とイノベーションを推進 ......... ## 日本への投資を促進させる為の規制や法制度の透明性及びアクセスの向上 ......... (% 「オープンコンバージェンス」の推進でインターネット・エコノミーの最大化 ........... () 労働流動性の向上が、世界市場における日本の競争力を改善 ............................ &) 投資と成長を刺激する為の日本の移民政策の緩和 ......................................... () 目次
  • 4.
  • 5. !成長戦略タスクフォース白書 在日米国商工会議所(ACCJ)は、国家経済を 強化するための新しい方法を確立するという 日本政府のイニシアティブを認識したうえで、 日本の経済成長戦略を今年の重要課題として 取り上げることとしました。 これに次いで、ACCJは、ニコラス・ベネシュと 佐藤玖美のリーダーシップのもとに約70人の メンバーから成る成長戦略タスクフォースを設 立しました。また、客観的な分析を行い、日本の 経済成長の推進力を明らかにするため、生産性 とイノベーションの専門家として最も権威のあ る一橋大学・深尾京司教授と日本大学・権赫旭 准教授の協力を得ました。二人が作成したレポ ート、「日本経済再生の原動力を求めて」は多く の興味深い事実を提供しています。最も重大な 二つの調 査 結 果は、現 在 、日本のG D P( 国内 総生産)の80%をサービス業が占めるという こと、1996年から2006年の間、外国企業と 新たに設立された企業だけが雇用をネットベ ースで増加(純増)させたということです。 次に、タスクフォースはこの白書「成長に向け た新たな航路への舵取り-日本の指導者への 提 言 」を作 成しました。この政 策 文 書は深 尾 教授と権准教授の実証的分析と結果、そして スタンフォード大学の研究者たちによる最新 で独自の分析に基づいて、経済成長を強化す るという日本の目標を可 能にするためのイニ シアティブを明らかにしています。 ACCJは深尾教授と権准教授の優れた分析、 またこの計画を達成させたメンバーたちを称 賛いたします。特に、この計画の委員長を務め、 研究者たちと協調し、政策文書の重要な部分を 作成したベネシュ氏に感謝します。彼のリーダ ーシップ、実行力、創造性はこの事業の成功に とって極めて重要でした。 この非常に複雑な計画に時間と才能を費やし 貢献してくれたチームリーダー、そしてタスク フォースのメンバー、特にダグラス W. ジャク ソン、ブライアン・ノートンとアーロン・フォース バーグに感謝したく存じます。頁4にあるこの 白書の原稿作成や編集に携わった方々、また、 頁3にあるこの計画をサポートしていただいた スポンサーの皆 様の御 厚 意に心から謝 意を 表します。最後に、専務理事サミュエル・キダー のもと、長い時 間と労力をかけてこの計 画が スムーズに進行することを確実にしたACCJ スタッフ、ライアン・アームストロング、伊 地 知 徳 子 、井 手 麻 美 、野 田 由 比 子 に感 謝 いた します。 在日米国商工会議所 会頭 トーマス・ウィッソン 会頭からのメッセージ
  • 6. 在日米国商工会議所! 委員長 ニコラス・ベネシュ、一般社団法人会社役員育成機構 副委員長 マイケル・アルファント、フュージョン・システムズ・ジャパン株式会社 ローレンス・ベイツ、日本GE ジム・フォスター、マイクロソフト 佐藤 玖美、コスモ アラン・スミス 成長戦略タスクフォースチームリーダー 起業環境 マイケル・アルファント、フュージョン・システムズ・ジャパン株式会社 ニコラス・ベネシュ、一般社団法人会社役員育成機構 海外直接投資 ニコラス・ベネシュ、一般社団法人会社役員育成機構 セオドア・A.・パラダイス、デービス・ポーク・アンド・ウォードウェル外国法事務弁護士事務所 ケン・レブラン、シャーマン アンド スターリング ブライアン・ノートン、ティー・マーク株式会社 移民政策 佐藤 玖美、コスモ 労働流動性 森 康明、インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社 君嶋 祥子、日本GE インターネット・エコノミー ジム・フォスター、マイクロソフト 杉原 佳尭、インテル株式会社 税制 ゲーリー・トーマス、ホワイト&ケース外国法事務弁護士事務所 上村 聡、日本GE 法制度 エリック・セドラック、ジョーンズ・デイ法律事務所 教育 ブルース・ストロナク、テンプル大学ジャパンキャンパス 在日米国商工会議所成長戦略タスクフォース
  • 7. 成長戦略タスクフォース白書 ! ゴールド・スポンサー シティグループ シルバー・スポンサー 日本GE マイクロソフト ティー・マーク株式会社 ブロンズ・スポンサー アフラック シャーマン アンド スターリング ホワイト&ケース外国法事務弁護士事務所 スポンサー コスモ ジョンソン・エンド・ジョンソン フェデックス フュージョン・システムズ・ジャパン株式会社 インテル株式会社 株式会社ジェイ・ティ・ピー 日本ベクトン・ディッキンソン株式会社 株式会社オークローンマーケティング 六興電気株式会社 成長戦略タスクフォーススポンサー
  • 8. 在日米国商工会議所! 協力者 浅井 英里子、マイクロソフト ダレン 令実 、フュージョン・システムズ・ジャパン株式会社 デバリエ いづみ、ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(SAIS) C. ウォレス・デ ウィット、デービス・ポーク・アンド・ウォードウェル外国法事務弁護士事務所 クラウス・アイルリッヒ、ドイツ大使館 アーロン・フォースバーグ、在日米国大使館 福島 真保、デービス・ポーク・アンド・ウォードウェル外国法事務弁護士事務所 附野 徹也、ジョーンズ・デイ法律事務所 堀 勝彦、一般社団法人会社役員育成機構 デビー・ハワード、ジャパン マーケット リソース ネットワーク 池原 晃、国際基督教大学 フランク・ヤンセン、新日本アーンストアンドヤング税理士法人 上林 奈津子、テンプル大学ジャパンキャンパス 近藤 龍治、コスモ エリック・コジンスキー、ホワイト&ケース外国法事務弁護士事務所 熊谷 瑞穂 松井 有恒、丸紅株式会社 松本 紗代子、株式会社ジェイ・ティ・ピー 中井 正人、行政書士法人 中井イミグレーションサービス パトリック・ニュウエル、21 Foundation 岡山 浩子、ホワイト&ケース外国法事務弁護士事務所 デイヴ・ペリー、ジャパン マーケット リソース ネットワーク 榊原 裕希、UCLA アンダーソン・スクール 志熊 秀生 マイケル、ホワイト&ケース外国法事務弁護士事務所 ダニエル・サイモン、コスモ マキ・ソモソット 、コスモ ジョナサン・ストラドリング、ジョーンズ・デイ法律事務所 鈴木 悦子、テンプル大学ジャパンキャンパス 瀧野 啓太、国際基督教大学 谷口 光、一般社団法人会社役員育成機構 ティー・マークチーム 内山 貴子、日本GE ブラッドフォード・ワルターズ ユン ヨンド、早稲田大学 湯原 心一、デービス・ポーク・アンド・ウォードウェル外国法事務弁護士事務所
  • 9. !成長戦略タスクフォース白書 概要 はじめに 成 功する経 済 成 長 政 策 は 、分 析 に裏 打ちさ れた将来ビジョンに基づくもので、単なる希望 的 観 測で成し遂げられるものではない。その ビジョンを明 快に語る、強い政 治 的リーダー シップが必要である。 核心的分析 在 日 米 国 商 工 会 議 所( A C C J )が 委 託した 独自の経済調査によれば、日本は以下のよう な課題を抱えている。 1 9 9 6 年 以 前に設 立された多くの企 業を 中 心に、製 造 業 が 次 第に海 外に移 転した ことで、数 百 万 の 雇 用 機 会 が 失 わ れ た 。 今 や、製 造 業 は G D P の 2 0 % を占めるに 過ぎない。サービス業が日本経済の80%も 占めるに至った。 労 働 市 場の 縮 小と、すでに潤 沢 な 資 本を 抱えているという現 状を考えると、今 後の 日本の経済成長には生産性の向上が急務 である。 日本の労働生産性は、米国水準の60%弱 であり、すでにキャッチアップする過 程 が 止 まった 。サ ー ビ ス 業 にお いては 、労 働 生産性はさらに低く、米国の半分にも届か ない。これらの弱みが全要素生産性の成長 を抑えている。 多くの産業において、他国と比べ情報通信 技術(ICT)向けの投資が遅れたことが低迷 する生産性向上の主たる原因であった。ICT 及 び イン タ ー ネ ット 革 命 は 、日 本 で は 米国にみられたような生産性向上を起こさ なかった。 日本の低 調な経 済 的「 新 陳 代 謝 」、つまり 資源再配分が、長年にわたる生産性の低成 長率のもう一つの原因である。 資 源 を最 適 に配 分 するためには 、日本 は 産 業により多くの参 入 者を積 極 的に迎え 入れなければならない。さらに、弱体化して いる事業者には非主力事業から撤退させ、 競 争 力 の ある 中 核 事 業 に 投 資 をす すめ させるべきである。 起こりつつある変化の兆し しかし、日 本 経 済 にはまだ 大 きな 潜 在 力 が 残っている。日本には生産性と経済成長率を 大きく伸ばすことのできる有力な技術基盤が ある。この技術基盤を最大限に活用し、「スピル オーバー 」効 果( 波 及 効 果 )を推 進し、外 国 からのものも含めてノウハウを広めることが、 日 本 の 発 展 のカギで ある 。事 実 、A C C J が 委託した分析によると、新規参入企業の貢献に よって、すで に日 本 経 済 に「 改 革 」が 起こり つつあるかもしれないというのである。 日 本 の 外 資 系 企 業 は 平 均 値 で 最 も高 い 生 産 性 と 高 い 雇 用 創 出 比 率 を 示 して いる。企業レベルデータを使って計算する と、1996年から2006年にかけて、雇用を 25万人から41万人に増加させた。この雇用 純 増のほとんどはM & Aによるものという より、単に事業拡張によるものか、グリーン フィー ルド 市 場 参 入 によるもの で ある 。 従って外国企業がM&Aの市場によりアク セス出 来るなら、か なりの 追 加 的 投 資 が 見込めるということである。 国内の起 業 家あるいは「イントレプレナー ( 企 業 内 起 業 )」は 、同 期 間 において経 済 成 長 と 雇 用 創 出 にさらに 大 きな 貢 献 を し た 。1 9 9 6 年 以 降 に 設 立 し た 企 業 は 成長に向けた新たな航路への舵取り 日本の指導者への提言 在日米国商工会議所 成長戦略タスクフォース
  • 10. 在日米国商工会議所! 成長に向けた新たな針路を示す ! 2006年までに、約120万人の雇用の純増 を生み出した。 最 近 、若い日本 の 企 業 は 古 手 企 業よりも より高い 雇 用 創 出 率 、高い 残 存 率を持ち 始 め た 。若く、R & D や 国 際 化 に 積 極 的 な 小 規 模 企 業の 生 産 性 は 高く、その他の 新しい企 業よりも高い生 産 性 水 準と生 産 性上昇を示している。 2 0 0 4 年 から2 0 0 8 年 に設 立されたハイ テク企 業のおよそ5 %が 、2 0 0 8 年までに 5 億 円 の 年 間 売 上 を 達 成している 。この グループの平 均 的 企 業 年 齢は2 年を若 干 上回る程度であることから、ベンチャー企業 が 成 功するのに必 要な時 間 が 短くなって いることが分かる。 1996年から2006年にかけて、外国企業と 新たに設立された企業、この二つのグループ だけが雇用をネットベースで増 加させた。 これに対して、2006年現在、独立系の大企 業と1996年以前に設立された企業の雇用 者数はそれぞれ1996年と比べて数百万ほ ど減少した。 これまでの15年間に起こった多岐にわたる 法的、規制的改革は、起業家と対日直接投資 (FDI)に好ましい影響を及ぼし始めている という兆しがある。 成長戦略への提言 ‒ 核心テーマ 説得力のある、効果的な日本の成長戦略の策 定に、今や若い企業と外国企業の対日直接投 資が成長のカギだという現実を反映すべきで あろう。戦 略は、単 一 省 庁の指 導によるので はなく、総 理 大 臣 及び連 帯する内閣によって 率先されるべきで、下記の核心テーマに焦点 を当てる必要がある。 1. 新 規 参 入 者と起 業 家 ‒ M & Aを含めて、 日 本 経 済 へ の 新 規 参 入 者 によって 活 性 化を図る。新 規 立 上げ 企 業だけではなく、 スピンオフによるもの、「イントレプレナー」、 外資系企業などが日本市場への新規参入 者である 2. 技 術 的スピルオーバーと「 突 破 的 な 技 術 革新」、新しいビジネスモデル 3. 「内 向きのグローバリゼーション」 の利 点をFDI、コーポレートガバナンスの改善、 教育、移民政策によって加速させる 4. 市 場 ベ ースの 政 策 ‒ 恣 意 的 な 勝 者 の 選 定と適 正な競 争を歪めかねない無 条 件 のサポート(支援)を回避し、投資家にとっ て魅力的な市場にする 5. インセンティブを伴う税 制 体 系によって、 新 規 参 入 者( F D Iを含む)、生 産 性が 高い 長 期 的 な 投 資 、技 術 スピ ル オ ー バ ー を 促進する 6. 規制上の透明性 ‒ 公正さを増し、コストを 下げ、規 制 環 境と市 場をもっと参 入し易く ユーザーフレンドリーにすることで、日本は 新しい参入者と新規投資を呼び込める 7. インターネット・エコノミーでの「オープン・ コンバージェンス」を、規 制 緩 和と通 信と 放 送 の 融 合 を 介 して 展 開 。「 ガラパゴ ス 症候群」を回避する 8. サービス分 野の生 産 性 向 上 ‒ 効 率 性 向 上のために、ICT(インターネットを含む)の 活用に対する規制と障害の撤廃 9. 労働市場の活性化と移民政策 ‒ 労働者が 再訓練できる余裕をもてるよう、セーフティ ネットを強化し、公正で柔軟な採用と雇用 調 整 の 自 由 度 を 高 め る 。新 規 参 入 者 が 成長するために必要なスタッフの採用を容 易にする 明るい未来へ ACCJは、適正な政策によって日本には以下 の可能性があると確信している。
  • 11. 成長戦略タスクフォース白書 ! 成長に向けた新たな針路を示す ! アジア圏において、アントレプレナー 、イノ ベー ション、金 融 面 の 躍 進 するセンター となる 1 人 当りG D P がより高く、人 口 動 態 的 、 金 融 的な諸 問 題に対 処できる力を備えた 国づくり 日 本 の 若 者 に と っ て 、多 くの エ キ サ イ ティング な 雇 用 機 会 を 創 出する 、動 きの 速い国づくり 日本への投資、熟練労働力、税、活力といった 面で貢献してくれる移民に魅力的な市場
  • 12. ! 在日米国商工会議所 21世紀に入って最初の10年が経過したが、 日本経済は人口統計学的、財政的な泥沼には まり込んでいる。この20年、GDP及び生産性 の伸びは、それ以 前の4 0 年 間にくらべると、 きわめて低いものであった。現実のGDPと潜在的 なGDPの差異として定義されるGDPギャップ は、1993年以降マイナスである。国の労働力 は高 齢 化し、その上 低 下し、若 者には精 気が 無く、税 収 基 盤は徐々に弱 体 化し、国内株 式 市場は長期にわたり低迷している。公的負債 がGDPの200%を超える日も近い。 日本は早急に、より速い成長を達成するための 道を探さなければならない。社団法人日本経済 研究センターが予測した図1の成長シナリオ (日本は殆ど横ばい)を回避するために、日本は 全く新たな成長戦略を構築する必要がある。 上に述べた課題の多くは日本に限ったことで はないが 、日本の場 合 、これらの課 題が 特に 速いペースで起きており、しかも長期間続いて いる。低い出生率や厳格な移民政策と、急速に 進 む 高 齢 化 が 相 まって、近 い 将 来 、殆どの 先進国も経験することのないような厳しい人口 統計上のハードルに直面している。 日本はこれまで、疑いもなく急 速かつ長 期 的 な経 済 成 長や強い社 会 的・産 業 的 安 定 性を 誇 りとしてきており、そ の 過 去 が 語 る 経 済 実 績 はつとに 有 名 であった 。過 去 の 成 功 や 安 定 は 、当 然 ゆ る や か な 政 策 の 改 善 に 対 する信 頼 や 政 治 的 支 持 を生 む 傾 向 がある。 しかし、どの 国 においてもこのことは 国 家を 既得権者の保護や現状維持へと眠りこませる ことにもなり、現 実 に立ち向 かい 、急 が れる 変革に直面することのできない政府にさせて しまうことがある。 最 近の政 治 的 事 象で明らかになったことは、 ほとんどの日 本 人 が 、国 の 直 面 する 厳しい 課 題 につ いて、危 惧 の 念 を 抱 いていること である。国民は古い政策や公共支出の慣習の 多くがもはや機 能しないことを理 解している (日本 の G D P の 増 加 率 の 低さは 図2に示さ 総論:新成長戦略のすゝめ ! " #! #" $! $" %! %" &! $!!! $!!" $!$! $!%! $!&! $!"! 日本 米国 韓国 インド ASEAN EU 出所 : 日本経済研究センター、 '年%月 GDP予測 (US 億ドル) (PPP Basis, 2000年 US億ドル) 図1
  • 13. 成長戦略タスクフォース白書 ! 総論:新成長戦略のすゝめ ! れている)。これは将来の公共政策について、 さらに透明で具体的な議論を巻き起こすこと になった。 過 去 の 経 済 政 策 の 成 功 や 欠 点 を 指 摘 する ことは簡単だが、困難な時期に将来に向けた 明確な指針を示すことは容易ではない。最近 の 急 速 な 変 化 や、よりオ ープンで 実 質 的 な 政 策 論 争 の 突 然 の 高 まりは 、何 をなすべき かについて、むしろ多くの 混 乱を招いている ように見受けられる。 こうした 混 乱 の 一 因 は 、日 本 国 民 や 政 治 指 導 者に伝えられるべき徹 底した分 析 が 行 わ れてこなかったことに起 因する、とA C C J は 考える。実証されていない仮定が頻繁に政治 的美辞麗句を支えるために使われ、徹底した データの解析が行われるのを妨げてきた。その結 果、政治哲学的、対立的、感情的な選好が、最善 どころか 時に実 行 不 可 能 な 政 策に突き進む 時ですら、支配する傾向にある。 在日米国商工会議所の成長戦略 タスクフォース・プロジェクト A C C J な ら び に そ の 会 員 企 業 は 、日 本 の 将 来 を 明 る い も の に す る こ と に ひ た むきに取り組 んでいる「 ステークホルダー 」 である。日本の経済が回復し、再び力強く成長 することによってのみ、我々の長期的な目標が 達 成 され る 。A C C J で は 、この 問 題 を 深く 憂慮しているものとして、2010年初めに成長 戦 略 タ ス クフ ォ ース を 立 ち 上 げ て 、日 本 経済に影響を及ぼす現実と要因に関する徹底 した分析を外部に委託した。我々は、この分析 が現在の混迷を少しでも払拭する一助となり、 現 実 的 な 政 策 提 言 を示 すものになることを 確信している。 この 報 告 書 は 、外 部 委 託 調 査( 個 別 に 入 手 可 能 )の主 要な結 論 、スタンフォード大 学の 研 究 者 から頂いた最 新 報 告 書( 同 様 に入 手 可 能 )に、多くの産 業の現 状について我々が 独自に現場で得た知識を組み合わせた日本の 経 済 成 長 戦 略である。A C C Jは、日本の指 導 者が政策立案に役立てられるよう、実証的な 研 究 成 果と具 体 的 な 戦 略 提 言を提 供する。 我々が伝えたい中核となるメッセージは、「より 説得力をもつ効果的な国家成長戦略の実行が 求められている今、時間を無駄に費やす余裕は ない」ということである。 希望的観測によらず、分析に基づいた政策 成長戦略タスクフォースは、図3が示す最善の 状態には程遠い、日本が直面する現実を評価 することから始めた。私たちは 、一 橋 大 学 の !"!# !"$# %"!# %"$# &"!# &"$# '"!# '"$# ("!# イタリア 日本 ドイツ フランス 米国 英国 カナダ スペイン 出所 )*世界銀行 平均名目GDP成長率(現地通貨ベース) GDPの増加率1999-2008(年ベース%) 図2
  • 14. 在日米国商工会議所!" 総論:新成長戦略のすゝめ !" 深尾京司教授及び日本大学の権赫旭准教授 ( 両 教 授は、日本における成 長 経 済 学 、生 産 性分析、イノベーションに関する最高権威)に、 日本 経 済の「 失われた2 0 年 」の分 析と、この 間の主 要トレンドと変 化 、及び 今 後も続くと 思われるものについての提 示をお願いした。 低成長が日本の財政状況に与える影響を認識 したうえで、我々は、なぜ経済が低迷している のか、どのような要 因がこれを改 善に向かわ せるのか、そしてどのような企業や投資が近年 の雇用の伸びや経済活動に最も貢献している かについて、分析を依頼した。 A C C J は 、両 教 授 のこれらの 質 問 に対 する 実証的で事実に基づいた回答は、日本の政治 的 な 膠 着 状 態 を打 破し、既 に進 行 中である 経 済 的 変 化の最も深い洞 察に基づいた政 策 を 実 行 す る た め の 一 助 に な ると 考 え る 。 「 深 尾・権 レ ポ ート 」と 呼 ぶ 両 教 授 の 洞 察 力に満ちた分析は、将来の成長政策に明確な 指針を与えている。 タス クフォ ース チ ー ム は ま た 、S t a n f o r d Program on Regions of Innovation and Entrepreneurshipの研 究 者であるRobert Eberhart、Michael Gucwaの両 氏からも、 近 年 日 本 で 設 立 され た 独 立 企 業 に 関 する 最近の調査結果を受け取る機会に恵まれた。 Eberhart-Gucwaレポートとしてまとめられた 彼らの調査結果は、近年日本で会社を起こした 起 業 家 た ち の 成 長 と 挑 戦 に つ いて 貴 重 な 統計分析に基いた解釈を与えてくれた。 経済成長政策は、現在のトレンドを注意深く分 析したうえで策定すべきものである。我々が深 尾教授と権准教授に調査を依頼した主な理由 は、次のような本質的な質問について切迫した 必要性を感じていたからである。その質問とは、 どのような企業が成長や新規雇用の創出に貢 献してきたのか。また、それらの企業はどのよう にそれを達成したのか、というものである。 さらに、我々はこれまで日本 政 府または主 要 団 体・利 害 関 係 者による、これらの質 問に対 する 徹 底 分 析 に 基 づく包 括 的 な 国 の 経 済 成 長 戦 略があることを寡 聞にして知らない。 このところの政 治 的 変 化 が 緊 急 性や新 鮮 な 代 替 案 を検 討 する必 要 性 をもたらしたこと ! " # $ % &! &" &# &$ &% "! &''! &''" &''# &''$ &''% "!!! "!!" "!!# "!!$ "!!% "!&! "!&" "!&# 出所 ()!"#$%&'()$*+&,&-.+$/01(&&23$45657 4558年以降は、9:;と負債総額は!"#の予測 ! *! &!! &*! "!! "*! +!! 世界GDPにおけるシェア%(左目盛),) GDPに占める負債総額%(右目盛) 日本のGDPシェアと公的負債の推移 図3
  • 15. 成長戦略タスクフォース白書 !! 総論:新成長戦略のすゝめ !! から 、A C C J は「 分 析 第 一 」の 手 法 が 政 策 決 定 において 将 来 に 向 けさらに 根 付くこと を期待する。 真の政治的リーダーシップの尺度 成長は、挑戦が正しい対応を喚起する 場合に起きる。そして、次の新たな挑戦を 呼び起こすのである。 ̶ アーノルド・J・トインビー(歴史学者) 成 長 戦 略 は 、現 実 を 認 識 することにとどま らない。リーダーシップとは、現実が提起する 挑戦を受け入れ、行動することであり、さらに 変化の好循環を引き起こすことである。そこで 我々は、まず 最 初に、この日本の成 長 戦 略に 関 する 提 言 に 影 響 する 可 能 性 の ある 別 の 課 題 につ いても 認 識した 。日 本 にお ける 国 家 経 済 戦 略は依 然としてその大 部 分に整 合 性がなく、省庁間で断片化されている。これは 恐らく、日 本 の 急 速 な 経 済 成 長 が 輝 きを見 せていた9 0 年 代 初 頭までは機 能していたと いうことを引きずっているからである。 従 来 か ら 、経 済 産 業 省 は 国 家 の 中 核 的 な 産 業 戦 略 を 担 ってきたと認 識 されており、 その 大 きな 功 績 にたが わず、経 済 産 業 省 は 現在、総括的な成長戦略案に近いものを策定 しているに違いないと思われる。しかし経 済 産業省は一部の産業(主として製造業と小売 業 )を管 轄 下に置いているに過ぎず、必 然 的 に 大 きなギャップ が 存 在 する。したがって、 日 本 が 明 言 する「 成 長 戦 略 」が 依 然として 輸出向け工業製品に集中しているのも、歴史 的に経 済 産 業 省が 最も関 心を寄せる分 野で あったため驚くに値しない。また、日本の政策 が 伝 統 的 に 、特 定 の 政 治 団 体 や 世 界 的 な 「 勝 者 」になる可 能 性がある産 業を補 助 金や 優 遇 税 制で支 援する傾 向 があったのも当然 のことである。 残念ながら、21世紀の現実は日本のGDPの 8割が製造業ではなくサービス業から生み出さ れている。さらに、いずれの先 進 国でもG D P 成 長 率 に 大 きく貢 献しているの は 、規 制 が 強く及ぶ医療や通信サービス、その他ICTが 効 率 を 高 める 業 種 な の で ある 。このことは 日本にも当てはまるが、日本はGDP成長率や I C T 投 資 が 貢 献する生 産 性において他 国の 後塵を拝している。 !"#$ "#" "#$ "#% "#& "#' (#" (#$ (#% 米 国メ キ シ コ オ ー ス ト ラ リ アポ ル ト ガ ル ア イ ル ラ ン ド オ ラ ン ダ 英 国 カ ナ ダ デ ン マ ー ク ス イ ス フ ィ ン ラ ン ド ス ペ イ ン ノ ル ウ ェ イ オ ー ス ト リ アニ ュ ー ジ ー ラ ン ド 韓 国 日 本 ス エ ー デ ンベ ル ギ ーイ タ リ ア ド イ ツフ ラ ン ス ル ク セ ン ブ ル グ ) 生産性が向下した国 生産性が向上した国 ICT利用サービスにおける付加価値への寄与度 (就業者1人当り, 1995-2002) 出所 : !年"月 図4
  • 16. 在日米国商工会議所!" 総論:新成長戦略のすゝめ !" 技術は成長の源泉 経済政策にとって最も重要な任務は、 技術の進歩を支援する制度的環境を 醸成することである。 ̶ ポール・ローマー (スタンフォード大学経済学教授) 経済成長論は数多くある。それらの数学的方 程式は異なっても、すべての経済成長論には、 成長の大部分は技術の進歩とそれがもたらす 国 家・世 界 経 済 への技 術の拡 散と「 波 及 」に より起きるという概念に基いている。例えば、1% の生産性向上は、投下資本の1% 増よりもはる かに大きな成長を生む。 深 尾 教 授 がしばしば 指 摘 するように 、単 に 日 本 国 内 で 投 資 を 増 や す だ け で は 解 決 に ならないことは明かである。仮にそうであれば、 日本の課題はそれほど我々を悩ませることに はならない。むしろ、必要なのは、より生産性が 高い投 資である。それには迅 速に使 用でき、 有 効 活用でき、拡 散させることのできる技 術 もうひとつの基本的な問題は、経済産業省が これらの問題に関して建設的な提言を行って はいるが、国の経済成長戦略の立案者・調整 役として権限を与えられた単一の省庁や機関 が存在しないということである。それどころか、 総務省や厚生労働省などのように、分離した 「サイロ」が権限をもっている。 日本 の 成 長 戦 略 には 、客 観 的 かつ 徹 底した 経 済 分 析が必 要 不 可 欠である。しかし、最 大 限 に 効 果 を 上 げ る た め に は 、そ れ 以 上 の ものが必要である。日本が力強く成長して行く ため には 、有 害 な 省 庁 間 の 競 争 意 識 、その 結 果としての 連 携 の 欠 如を排 除しなけれ ば ならない。日本が 必 要としているのは統 一 的 な成長戦略であり、それが中央政府の強力な リーダーシップの下に策定され、実行されること である。つまり国全体の利益のために官 庁の 足並みをそろえて重要な経済成長政策に取り 組ませるリーダーシップが必要である。そして、 そのリーダーシップを支える中立的な組織を 内閣府の中に設けることである。 米国 日本 !"#$ "%&' "%(' &)' &)* &)+ ()& (), ()' ()* ()+ ,)& ,), &++& +( +, +- +' +. +* +/ ++ (000 0& 0( 0, (00- 出所 12!"#$%!&'()*')+!,)'-*./.01!2*3!4*356781!"57/..9!:;;< 地域別R&D集中度指数 1991-2004 GDP比(%) 図5
  • 17. 成長戦略タスクフォース白書 !" 総論:新成長戦略のすゝめ !" である(図6参照)。同じく、GDP比でみた 対日直接投資(FDI)の累計残高もきわめて 低い。帰結:新規参入者が少ないため、市場 にもたらされる新たなビジネス手法、戦略、 突破的な技術革新も少ない。 日本の技術基盤の多くは「休耕状態」であ る。専門家によれば、日本企業が達成した多 くの技術的進歩が商業化されていないか、 ライセンス 供 与 されておらず、使 わ れ る スピードも遅い。(タスクフォースでは、技術を 話 題 にした 際 に、いか に多くの 関 係 者 が 即 座にこの点について言 及したかに驚か された。また、O E C Dの調 査もこれを裏 付 けている。)日本の研 究 開 発における国 際 共同研究の比率はEU平均のおよそ半分に 過ぎず、日本の産 業 構 造の変 化( 例えば 、 海外生産の増加)も、大企業から中小企業 への技術拡散のペースを遅らせているよう である。 日本はもっと出来る! 日本 の 優 れた 技 術 や 人 的 資 本 は 、追 求する 政策路線次第で、この国に依然大きな成長の 潜 在 力 が あることを 意 味している。さらに 、 日 本 がこれらの 要 素 からほとんど恩 恵 を受 けていないため、もし起業家の増加、対日直接 投資、国際共同研究開発、迅速な資源の再配 分、移民、労働市場の流動性向上などを後押 へ の 投 資と、状 況 を 一 転 させるような 突 破 的な技 術の創 造が 含まれる。特に、いわゆる 「 破 壊 的 」な 技 術 開 発 と 活 用 は 日 本 の 国 際 競 争力を高め、従 来の技 術 体 系の延 長 線 上に見られる緩やかな技 術の改 善と比べ ると、より大きくより広範な拡散と波及効果を もたらす。 日 本 は 幸 い にも、世 界 のどの 国とも比 肩 で きる豊かで強力な技 術 基 盤に恵まれている。 長 年 、日本 の 研 究 開 発 指 数( G D P に対する 研 究 開 発 費 の 割 合 )及 び G D P に 対 す る 特許出願率は、図5が示すようにOECD諸国 内でトップ、またはそれに準ずる地位にある。 また、O E C D 加 盟 国 内で高 等 教 育の比 率が 最も高い国のひとつであり、栄あるノーベル 賞受賞者リストにおいても科学分野での功績 がある人物が多い。 もし、日本が生 産 性を高め、経 済 成 長を加 速 させるのに不可欠な要素である強力な技術的 蓄積や人的資本を持っているのであれば、何が この国を停滞させているのか。調査結果を再検 討し専門家と討議した結果、日本がその巨大 な技術基盤をフルに活用していないという事 実が明らかになった。その理由として、以下の ようなものが挙げられる。 日 本 にお いては 、他 の 先 進 国と比 べ て、 新規創業企業の参入率が極めて低いまま ! " #! #" $! 英国 ドイツ オーストラリア 米国 フランス インド 日本 $!!!%!&'平均 $!!& 出所 : 世界銀行 ドイツ($!!$%!")*'オーストラリア'($!!+%!&)*'米国'($!!,%!")*'フランス'($!!!%!-)*'インド'($!!#%!-)*'日本'($!!$%!")のデータ 平均新規参入率、2000-07 全登記済み企業に対する新規登録企業割合 図6
  • 18. 在日米国商工会議所!" 総論:新成長戦略のすゝめ !" 簡素化、産業の規制撤廃、大学の知的財産権 や共同研究などに影響を与えている。 実現した国の例 天然資源に乏しく、世界の中でも軍事的、政治 的に不安定な地域に位置する国がある。ほんの 20年前、この国の国民1人あたりの起業家数、 ハイテク新興企業数、革新的特許件数は、日本 と比較してはるかに少なかった。 しかし、わず か 2 0 年 間 で、この 国 は 起 業 家 精 神 のセンターと化し、イノベーションでは 高 位 置 に 、N A S D A Q 市 場 で は 外 国 新 興 企業による新規上場件数で最大となっており、 国民1人当たりのベンチャー・キャピタル投資 額でも世界最大となっている。 しすれば、多くの望ましい結果が生まれるはず である。外国直接投資と移民(図7,図8参照) においては多少の進展があるが、国際的な比較 ではまだ少ない。まだまだ、「上昇余力」がある ということである。 この潜在性は、日本がこうした機会を活かす政策 を構築できて初めて現実のものとなり得る。 事 実 、深 尾・権レポートとEberhart-Gucwa レポートの 研 究 結 果 によると、9 0 年 代 後 半 に日本が実 施した数 多くの改 革が、ビジネス 環 境 や 新 規 市 場 参 入 者 の 機 会 にプ ラス の 大きい影響をおよぼす結果になったことを示唆 しており、これらの改革をさらに推し進め、改善 していくべきである。これらの広範囲にわたる 改革は、会社法や労働法、会社設立と採用の !"#$% !&#'% ()#*% ($#"% ")#+% *#,% *#*% ,#'% &#"% +% $% "+% "$% !+% !$% (+% ($% &+% &$% 世界 先進国 英国 EU 米国 韓国 インド 中国 日本 "**+ !++, 出所 -./012 内国向け外国直接投資ベース名目GDP比(%) 図7 !"#$ %#& !'#( !)#) !*#+ * ) $ ( & ,* ドイツ 英国 フランス 韓国 日本 出所 -!./01! ! ,""" )**& OECD加盟国の外国人労働力 全労働力に占める割合(%) 図8
  • 19. 成長戦略タスクフォース白書 !" 総論:新成長戦略のすゝめ !" 全 要 素 生 産 性を示した。また、その分 析では 外資系企業が同期間に156,000人の新しい 雇用(純増)を創り出したことも示した。これらの 結 論 は 、生 産 性の 高い 企 業のみが 恒 常 的 に 雇 用 を 増 やせるという意 味 で は 、理 論 的 に 整合性が取れている。 さらに、深尾・権レポートの分析では日本経済の 雇用増の現在のドライバーは、外資系企業と 社齢の若い新しく設立された企業である。日本 の全 雇 用が 数 百 万 人も減 少した同じ時 期に こ れ ら の 2 つ の グ ル ープ は 、ネット ベ ース ( 純 増 )で持 続 的に雇 用を創出したグループ であった。 これ らの 調 査 で 確 認 さ れ た 傾 向 が 物 語 る のは、直接外国投資、アントレプレナー(起業家) と「 イ ントレプ レ ナ ー 」( 企 業 内 起 業 家 ) の 増 加 、そ の 他 の 新 た な 新 規 参 入 が 日 本 経 済の拡 大には不 可 欠だということである。 こ れ が 、マ ー ケ ット に 新 し い ビ ジ ネ ス と ビジネスモデルを最も早く持ちこみ、より生産 性 が 高 い 活 用 に 向 け て 資 源 の 再 配 分 が 行われる流 れである。それらは、既 存の競 合 者との間で更なる競争を生み、それが経済と 消費者に恩典をもたらす。 以下に、深尾・権レポートの最も重要な発見を 抄訳した。 なぜ「失われた20年」が起きたのか。どのよう な 傾 向 と 要 因 が 日 本 に 影 響 を 与 え 続 ける のか。 日本の「失われた20年」は法的、人口動態的 な変化の結果であって、低い生産性と低調な 需要、同時に起きた労働者の減少と平均労働 時間の短縮という、破壊的な組み合わせによる ものであった。全体として労働生産性は1997 年ごろ米 国 にキャッチアップするのを止め 、 現在は米国の60%のレベルにある。 二つの要因が重なり被害を助長した。 まず、1 9 8 9 年の株 式 市 場のバブル崩 壊より も前に、日本の経済的な「新陳代謝」は危険な その国はイスラエルである。日本に比べると 経 済 規 模 は 小 さい が 、イスラエル の 事 例 は 日 本 にとって 貴 重 な 手 掛 かりとな る 。この 国が成功したのは、ノウハウを学ぶため、ベン チャー・キャピタル による海 外ファンドとの パートナーシップを奨 励し、ベルリンの壁 が 崩壊した時にソビエト連邦から大量の移民を 受 け 入 れ 、そ の 移 民 を 素 早 く社 会 に 組 み 入 れ る など 自ら 再 改 造 を 成 し 遂 げ た か ら で あ る 。さら に 、イスラ エ ル の 軍 隊 は 類 を 見 ない「フラット」な 組 織 構 造 であり、国 民 皆 兵と相 まって、若 者 を企 業 家 的 な 機 知 や 柔軟性に富む自信にあふれたリーダーとして 社会化し、教育したという発見もある。 イスラエル の目 覚しい 変 革 の 秘 訣 は 、外 国 直 接 投 資 、移 民 、資 源 再 配 分と統 合 、そして 教育である。 深尾・権レポート:的を射た分析 深尾・権レポートが想起させることは、国がGDP の成 長を促すために必 要なのは、わずか3つ のドライバーであるということである。①投下 資 本の 増 加 、② その 国の 労 働力の 規 模の 拡 大または 総 労 働 時 間 の 増 加 、③ 研 究 やイノ ベーションを活用して労 働・資 本の生 産 性を 上げるという3つである。 日本の労働力が減少し、高齢化し、しかし投資 水準が相当に高いレベルにあるとすれば、深尾 教授と権准教授は日本の「全要素生産性」を 増強する道を見つけることが、GDP拡大へ完全 復調するために絶対的に重要だと結論づけた。 つまり、生産性の伸びを加速することが、現実 に残された唯一の主要なドライバーで、国民に より高い成 長 率と、さらによい仕 事を与える ために、日本が使える唯一の道なのである。 このこと自体は目新しく驚くような結論ではな い。真の問いかけは、「日本が以前の高い生産 性を取り戻すにはどうしたらよいか」である。 この 点 について、研 究 の 分 析 結 果 は 対 象と なった全てのタイプの企 業において、1 9 9 6 年から2 0 0 6 年の間に外 国 企 業が 一 番 高い
  • 20. 在日米国商工会議所!" 総論:新成長戦略のすゝめ !" したがって、日本に影響を与える主たる傾向と 経済的力学は次のようなものである。 移民政策や労働市場に女性や高齢者を投入 するほか、労働生産性の向上によってGDP、 賃金、税収を引き上げて、落ちこみを相殺し ないかぎり、労働力供給の連続的な低下で、 さらに需要を冷やし税収基盤を失う。 新市場に新規参入の波が興り、資本市場で 生 産 的な企 業の参 入が 促がされ、非 効 率 な企業の退場がおきない限り、低い「新陳 代 謝 」と資 源の再 配 分の低 迷は続く。これ に 関 連 して 、民 間 企 業 部 門 で の 過 度 の 内部留保がデフレ効果を持つようになる。 多くのサービス産 業では速い成 長 が 続く が 、その 生 産 性 の 成 長 は 鈍 い 。生 産 性 を 上げるための広 範なソリューションとして は 、新 し い ビ ジ ネ ス モ デ ル の 波 、新 規 参 入と、より大 きな I C T 投 資とその I C T 投資を使いこなすための組織的な構造改革 が必要であろう。 製造業におけるグローバリゼーションによる、 さらなる「空洞化」と規模縮小。これは、GDP 全体の中で生産性の低いサービスの比率を 引き上げることになり、サービススセクター の生産性向上の必要性を増す。 日本の経 済 成 長 戦 略は、このように進 行して いるトレンドを矯 正し、対 抗するよう設 計さ れることが必要である。 どのような企業や投資が経済活動を増やし、 雇 用 の 純 増 を招き、より高 い 生 産 性 指 数 を 上げるのか。 深尾・権レポートでは、外資企業、新規参入者、 R & Dや国 際 化( 輸 出 関 連や外 資 系を含む) に積 極 的な企 業が 直 近の分 析 期 間において 他 のタイプの 投 資 家 に比 べて目立って高 い 生 産 性を示した。一 般 的には、彼らはより多 くの 雇 用 を生 み 、その 経 済 活 動 は日 本 の 成 長 に寄 与した 。分 析では 新 興 企 業 やその 他 の新 規に立ち上がった起 業 家が日本の雇 用 に大きく貢 献していることを明らかにした 。 ほど低いものであった。つまり、資 本 、労 働と 技 術の資 源を最 適に利用する為の再 配 分の ペースが著しく鈍かった。それを最もよく示す 例として、何年も生産性の高い企業が業界を 撤退し、生産性の低い企業が残り、従って業界 の平均生産性は落ちた。普通は、これとは逆の ことが 起きるはずである。その結 果 、「 残 存 」 企業の労働力の多くは凍結され、仕事の入れ 替え 、再 訓 練 や 配 置 転 換 は日本 がやるべき レベルには届かなかった。 こじらせた二つ目の要 因は、日本のサービス 産業は伸び続け、GDPの80%に達するに至った ことである。しかし、日本のサービス産業は何 十年もの間、低い生産性に苦しんでおり、その 傾向は残っていた。非製造産業の労働生産性は、 未 だに米 国 の 水 準 の 半 分 以 下 である。した がって、今や日本の経済活動の約80%が、低生 産性サービス業種によって構成されている。 この 圧 倒 的 にサ ービスを主 力とする経 済 転 換に貢献したものは、過去20年間にわたって 多くの 大 企 業 メーカ ー が 強 い 円 に 対 処し、 グ ロ ーバ ル な 競 争 圧 力と闘うために 、低 い 労 働コストを 利 用し、生 産 の 拠 点 を 海 外 に 移したことである。深 尾・権レポートは、上 場 企 業の多くと多 国 籍 企 業 が 不 振に陥ったの は 2 0 年 間 で は なく、せ い ぜ い4、5 年 の 間 だったことを示している。彼らは連 結 決 算で 黒 字 を 上 げ ても 、日 本 にお いては ほとんど 新規雇用をしなかった。消費需要は低迷した ままであった。 深尾教授の広範な分析では、日本のサービス 産 業 の 低 い 生 産 性 は 、低 い( あるい は 遅 す ぎ た )I C T へ の 投 資 の 結 果 で あ る ことを 物 語 っており、そ れ は 日 本 の 低 水 準 の「 無 形 資 産 投 資 」の 表 れ の 一 つということな の かもしれない。日本はサービス産業のR&Dに は多額の開発資金を投じるが、他国と比較する と 費 用 対 効 果 の 高 い I C T や I C T サ ー ビ ス と、ブランド・エクイティ、ビジ ネスモ デル 、 組 織 構 成などの部 門に向けられる投 資 額は 少ない。また、従 業員のための職 場 外 研 修に 投じる額も少ない。
  • 21. 成長戦略タスクフォース白書 !" 総論:新成長戦略のすゝめ !" 選 ん だ 業 種 で は な いところで 起 きている 。 1996年から2006年の期間では、外国企業は 新しい 業 種 に 投 資した 。外 国 企 業 は 深 尾・ 権レポートで調べた112業種のうち、1996年 にはわずか 3 7 業 種に不 在で、2 0 0 6 年には さらに19にまで下がった。 新興企業とその他の新規参入企業 外国企業や日本企業の子会社を除いた独立系 企業に限定すると、2006年現在で1996年 以降に設立された「新規参入」の国内企業は、 過 去 5 年 の 間 にネットベースで 1 2 1 万 人 の 新規雇用を生み出したが、これは1996年以前 (図10参照)に設立された全企業で310万人 の雇用喪失が起きたことと好対照である。 古 い 企 業 と 違 い 、若 手 企 業 はどの 業 種 に おいても平 均 で 雇 用 者 数 を 上 げ た 。彼らは 古い会社よりも高い定着率を持っていた。R&D に活 発な企 業と輸出や外 国 投 資 家など国 際 戦略を持つ企業は、その他の新しい企業よりも 高い生産性水準と生産性上昇を示した。 これ に 対して、独 立 系 の 大 企 業と1 9 9 6 年 以 前 に 設 立 され た 企 業 の 雇 用 者 数 はそ れ ぞれ2006年現在で1996年と比べて数百万 ほど減少した。 外国企業 深 尾 教 授 と 権 准 教 授 は 、サ ー ビ ス 産 業 に おいて外国企業の全要素生産性は、独立した 日本 企 業より( 他の要 因をコントロールした 上で比較して)平均で21%高いと推計した。 外 国 企 業 は 非 常 に 高 い 生 産 性と 相 俟 って 1996年から2006年にかけて日本における 雇用を249,000人から405,000人へと60% 近く増加させた。外国企業によるこの156,000 人の純 増は、グリーンフィールド投 資や事 業 拡 張 によって起こった 。その 結 果 は 、図 9 に 示されている(M&A取引による雇用増効果は この図から除かれている)。 外 国 企 業 による投 資と雇 用は 多くの 業 種 に 流 布し、しばしば日本 企 業が拡 大 分 野として 日本の独立系企業 -3,752,215 日本企業の子会社 +96,501 外資系企業 +147,248 1996-2006間の雇用純増 (深尾・権レポートによる推計、企業レベルデータ) 図9 1996年以前に設立 -3,102,648 1996-2001に設立 +409,488 2001年以降に設立 +795,813 独立企業による2001-2006年における雇用純増 (深尾・権レポートによる推計、企業レベルデータ) 図10
  • 22. 在日米国商工会議所!" 総論:新成長戦略のすゝめ !" に、どの業種においてもその業種への新規参入 企業による雇用創出の貢献は大きい。 日本経済における現在と将来のドライバーと 成 長と生 産 性 の 根 源 は 何 か 。主 たる課 題と 障害とは。 深尾・権レポートの結論と含意は、日本の主要 な潜在的ドライバーと成長の根源として、以下 の事柄がある。 国内に向けた外 国 企 業の投 資はきわめて 高い生産性を持ち、その結果多くの雇用を 生む。雇用創出をもたらす対日直接投資の 貢献の多くは、今のところグリーンフィールド 市場参入か単なる事業拡大によるもので、 もし外国企業によるM&Aが増えるならば この貢献はさらに伸びるであろう。 起業家的経済活動。若手企業が1,000人 前後の従業員を抱えるまでに成長すれば、 純増ベースの雇用増貢献は大きい。 スピンオフとイントレプレナーを含む、一般 的な新 規 参 入 者 。新 規 参 入 企 業が市 場に 高 い 生 産 性 と 新 しい ビ ジ ネ スモ デ ル を 持 ち込 み 、規 制 緩 和 によってさらに 魅 力 的になる。 政府の調達計画に中小企業者向けの予算 額 を 別 途 に 確 保して、その 枠 内 において 競 争 ベ ースで 業 者 を 選 ぶ などによって、 市場機能を生かしながら新規企業にとって 競争しやすくする。 技術のより速い商業化と拡散。日本版バイ・ ドール法の拡充等により中小企業がより多く の大学の技術にアクセスしやすくなる。 国内の新興企業や中堅企業によるR&Dと 輸出の増加。日本企業は最初から「Think Global」を実践しなくてはならない。 労働市場でのより大きな公正さ、移動性と 流動性は、小企業が要員を採用したり撤退 するコストの削減を容易にする。セーフティ ーネットの拡充も従業員に再訓練を施すう えで、補完的に作用する。 子会社 1996年から2001年の間に、大手独立系企 業の子会社・系列企業は607,000人の雇用 者を減らした。次の5 年 間には、ネットベース で約703,000人増やしたが、増加のかなりの 部分は親会社のリストラによるものであった。 例えば、2 0 0 1 年から2 0 0 6 年の間に全ての 子 会 社と親 会 社 の 雇 用 者 数 変 動 の 合 計 値 は1 1 3 万 人の純 減であった。そのようなリス トラは 往 々にして従 業 員の 賃 金 が 低 い 系 列 会 社への移 転を伴うので、本当の雇用ネット 増にはならないし、一 度 限りの現 象である。 しかし 、そ の 他 の ケ ースで は 、系 列 企 業 の ネット増は多分に親会社によって成功した企 業内起業(イントレプレナー)が、意志決定を 速め、戦略に集中し、より厳密なガバナンスを 敷くために親会社から当該部門をスピンオフ させた結果起きたものである。 日本の多国籍企業 国際事業展開をする日本企業は、外資系企業 の次に高い生産性を上げた。しかし、その開き は大きく、しかも多くは日本での雇用の純増を 生まなかった。 日本はすでに再改造を始めている 特に歴 史の浅い産 業で、しばしばサービスセ クターかあるいは規 制 緩 和や業 界 再 編が 進 んだ業種で、1995年以降にできた企業の多 くが2006年までに雇用者数で測った企業規 模で見ると、全企業のうちの上位1/4グルー プに名を連ねている(情報通信、保険、ホーム サービスがその例)。これはいくつかの業界に おいてダイナミックな変化が起こっていること の証左である。 そのほかのダイナミックな動きの兆候:15%以 上もの雇用削減をした業界が製造業を中心に 24あったが、サービス産業を中心に19の業種 で10%以上の雇用を増やした。これらの産業は 外資系参入企業があった業種で、彼らも新しい マーケット拡大に寄与したと考えられる。さら
  • 23. 成長戦略タスクフォース白書 !" 総論:新成長戦略のすゝめ !" 設立された独立系企業(帝国データバンクの デ ータから抽出した5 万 社 )に関する詳 細な 分析である。 深尾・権レポートの結果と同様に、この分析は 会社法や労働法、産業の規制撤廃、大学の知 的 財 産 保 有や共同研 究に関する近 年の広 範 な改 革が、日本における起 業にプラスの影 響 をもたらしていることを示唆している。以下は その事例のいくつかである。 日本の新興企業のうち目覚ましい割合の企 業が、今や急速に高いレベルの成功を収めて いる。ごく最近の2006年の時点までに設立 され生き残った、データ内全企業の5%以上 が、2008年末時点でそれぞれの業界の売 上高ランキングで90パーセンタイル以内に 入っている。また、1999年に設立された企 業の9%近くが、2008年までに同水準に到 達している。(図11参照) 注目すべきは、このトレンドが2、3の業界に とどまらず、実 際に相当広 範 囲に広がりを 見せていることである。 I C Tを活用する産 業において、より大きな 投資をすることにより生産性を高めるICT投 資と関連の無形資産を増加させる。 経済成長を加速するうえで起きる課題と障害 には下記の事柄があるであろう。 低 い 生 産 性 を 持 つ 旧 態 依 然 の 競 争 者 が 収縮し、市場退出に時間がかかる。 超過貯蓄と、多くの大企業に見られるように、 現 金を投 資や配当に回さず負債の返 済に あてることなど、機能不全に陥った企業統 治が 、最 適な利 用のための資 源の再 配 分 を阻害する。 労働市場の不全と流動性不足が、労働資源 の最適化を遅らせる。 Eberhart-Gucwaレポート:進展の兆し S t a n f o r d P r o g r a m o n R e g i o n s o f Innovation and Entrepreneurshipの 助成で書かれたEberhart-Gucwaレポートは、 1999年から2008年にかけて日本で新たに !" #" $" %" &" '!" '((( #!!! #!!' #!!# #!!) #!!$ #!!* #!!% 出所 +,,-./012,3/0145126,-0705184,90::.;6,<=->36スタンフォード大学 国内新興企業の業界売上高ランキング 業界ランキングで90パーセンタイル以内の%(設立された年別) 図11
  • 24. 在日米国商工会議所!" 総論:新成長戦略のすゝめ !" のに必 要 な 時 間 が 短くなっていることを 示している。 新規ハイテク企業のCEOの出身校が、日本 の 技 術 系 大 学 で ある 割 合 は 異 常 な ほど 高い。また、海 外の大 学も多くのハイテク 企業のCEOを輩出している。 重要な分析結果と政策的含意 深尾教授と権准教授は、タスクフォースとの話し 合いの中で、日本の核心的な問題点は、生産性 の高い投資の欠如であり、これが構造的な低い 「新陳代謝」率と高齢化し縮小する労働力によ り増幅されていると指摘している。データによる と、多くの生産的企業が育つほど多くの雇用者 が採用される。生産性を上げることは、より多く の 投 資 を日本 に惹き付 け、経 済 成 長 を加 速 させ、好循環のサイクルを作ることになる。 した がって、日 本 は 、資 本 、労 働 力 、技 術 を 生 産 性の高い用 途に配 分または再 配 分する ことを加 速する政 策を採る必 要がある。すで 平均すると、最近の新興企業は古参の競合 他社に比べ、売上高ランキングを伸ばして いるようである(図12参照)。同レポートに よると、これら新 興 企 業は平 均してわずか 2、3年で業界売上ランキングで50パーセ ンタイル(中央値)内に入ったことが示され ている。1999年に設立された企業の売上 ベースの中央 値は、2 0 0 8 年までに約 7 0 パーセンタイル水 準になっている。この傾 向は、相当広範囲に分散されている。 ビジネス環境の大きな変化や新規参入者 にとって機会の拡大がなかったのなら、これ は驚くべき結果である。それどころか、新興 企業はゆっくりと 50パーセンタイルである 中央値へ引き寄せられると予想される。 2004年から2008年に設立されたハイテク 企業のおよそ5%が、2008年までに5億円 の年間売上を達成している。このグループの 平均的企業は設立後2年を若干上回る若さ であることから、ベンチャー企業が成功する ! !"# !"$ !"% !"& !"' !"( !") !"* !"+ # $!!* $!!) $!!( $!!' $!!& $!!% $!!$ $!!# $!!! #+++ 出所 ,-./0123-401256237-.1816295-:1;;/<7-=>.?47スタンフォード大学 国内売上高ランクのパーセンタイル (2008年時点、設立年別) 図12
  • 25. 成長戦略タスクフォース白書 !" 総論:新成長戦略のすゝめ !" 日本の新経済戦略への舵取り  大 胆 な 新 国 家 経 済 戦 略を発 表し、実 行に移 すにあたり、日本の指導者は、エコノミストで ある深 尾 、権 、Eberhart、Gucwaの 各 氏 が 提起した以下のような重要な課題を公に認め、 明確に対処する必要がある。 キーとなる存在は外資系企業、日本の起業 家 、新 規 参 入 者 : 多くの日 本 の 大 企 業 は 生 産 の 拠 点 を 海 外 に 移 すか 、リストラを 行った。将来においては、未開拓の潜在的 な 成 長 は 引 き 続 き 新 規 参 入 者 、外 資 系 企 業 、起 業 家から生み出されるであろう。 既に過 去 1 5 年にわたってこれらの新しい 事業者は、主に日本の経済成長の鍵となる サ ー ビ ス 産 業 に お い て 、雇 用 の 純 増 と 生 産 性 向 上をもたらしてきた。リストラと 異なり、彼らがもたらす生産性向上は一時的 なものではなく、恒常的である。 キーとなるリソースは 突 破 的 技 術とノウ ハウ:日 本 はその 素 晴らしい 技 術 基 盤 を 起 業や産 学 連 携といった形を通じて商 用 化するために、先に述べたような投資家や 日 本 の 教 育 機 関 に 協 力 を 求 めてい か な ければ ならない 。日本 は 、新しいノウハウ と 技 術 を 持 ち 込 む 事 業 家 をさら に 引 き 寄せ、インターネット・エコノミーの恩典を 享 受することに努力しなくてはならない。 しかし、技 術 ベースを 強 化し利 用 する 過 程においては、日本は上からの指導ではな く市 場 が 有力な 技 術の 選 別をできるよう 図るべきである。 「内に向けたグローバル化」から得る便益: これらの恩恵は対日直接投資の増加、教育 政 策の変 更 、国 境を越えるR & Dと移 民な どといった 形 で 受 けられる。このことで、 日本の労働市場に現在生じているギャップ を埋め、新しい技術やビジネス手法、戦略へ のアクセスが可能になる。 規制環境を含めて、投資に向けた魅力ある 市 場 の 創 造:日 本 を 外 国 企 業 や 国 内 に述 べたとおり、エコノミストは 一 般 的 に、 研 究 開 発や技 術 の 潜 在 的 な 利 益 は 、この 点 において極めて大きなものであると認 識して い る 。知 識 や 技 術 が より 速く拡 散 し 、市 場 化され、商業化されればされるほど、全要素生 産性の上昇は速くなる。 つまり、最も重要なのはスピードである。再配 分 が 速くな れ ば なるほど 、技 術 がより突 破 的 な力を 持 てば 持 つ ほど 、投 資 対 象となる 市 場が内外を問わず大きくなればなるほど、 より良い 方 向 へと向 かう。いかなる政 府も、 今日の急速に変化するビジネス界においては、 勝 者を選 別することは無 理であることから、 より効 率 的 な 市 場プロセスを促 進 すること がもう一つのカギになる。一 貫した競 争 政 策 は極めて重要だが、労働市場及びこれに送り 込 む 教 育 シス テム も 同 様 に 極 めて 重 要 で ある。な ぜ なら、今 日の 世 界 において、新 規 事 業 や 新 規 市 場 参 入 者 に は 、流 動 的 で 柔 軟 性 のある労 働 市 場 、そして国 際 的 に機 能 し 得 るスキル を 持 ち 、高 度 な 能 力 を 持 った 人材を輩出する有能な教育機関が必要である ためである。 これらのニーズにうまく対応していけるだけの 大胆な経済成長戦略がないため、多くの日本 企業(特に中小企業や独立企業)は、競争力の 向 上に手 間 取っている。また、生 産 性の低い 旧来の競争相手ですら市場からの退出がなく、 依然として低水準な新興企業の市場参入率の 一因となっている。こうした状況で、あまりにも 多くの有望で収益性の高い技術が閉じ込めら れたままとなっていると思われる。多くの外国 企業や国内企業さえも、日本は魅力に欠ける 投 資 市 場 であると見 ているため 、対 日 直 接 投 資の伸びや「 内に向けたグローバル化 」も 低調にとどまっている。 深尾・権レポートとEberhart-Gucwaレポート のデ ータは 、過 去 1 5 年 間 の 改 革 がようやく 有 益 な 効 果 を 持 ち始 めていることを 示して いる。両レポートは 、政 策 面でやらなければ な ら な い こと が ま だ 山 積 み で あ る こと も 明確にしている。
  • 26. 在日米国商工会議所!! 総論:新成長戦略のすゝめ !! 就職でき、より良い就労機会を見つけること ができる環境を提供する必要がある。 ACCJは、日本政府がこれらの重要な課題を、 経済の回復と成長を促す効果のある新戦略と ビジョンの中核 的な構 成 要 素として認 識し、 以 下に掲げる八つの提 言 書に描かれている 具体的な政策を実行するよう提議したい。この 白書は、総 論である本 章の後に続く、各々の 章は各提言書から成り立っている。 1. 起業を促進し市場にイノベーションをもた らし未来の企業や雇用を創出する 2. 成長促進及び雇用創出のため、対日海外直 接投資の拡大を 3. 全 ては 教 育 から始 まる:日 本 の 国 際 化 、 若年層の再活性化、知識産業の推進を 4. 税制で成長と競争力を活性化させ、生産性 ある投資とイノベーションを推進 5. 日本 への 投 資 を促 進させるため 、規 制 や 法制度の透明性及びアクセスを高める 6. 「オープンコンバージェンス」の推進でイン ターネット・エコノミーの最大化を 7. 労 働 流 動 性の向 上 が 、世 界 市 場における 日本の競争力を改善 8. 投 資と成 長を刺 激するための日本の移 民 政策の緩和 また、日本がどのように金 融セクターを強 化 し、グローバルな金融センターとしての役割を 増 やす 事 ができるかに焦 点 をあてた白 書 を 年内に刊行する予定である。 投 資 家 にとってより魅 力 的 な 市 場 にする ことは 急 務である。これには 、市 場 に目を 向けた税政の改革や慣習、規制、基準等の 調 和 、そして 取 引の 複 雑 化 によるコスト 高 を生じさせる規 制 の 緩 和 が 含まれる。 また、日本にある外資系企業を日本経済に 不 可 欠なステイクホルダーとして認 知し、 審議会や研究会のような政府の諮問機関 などへの 参 加 を増 やすべく正 式メンバー として招 致 することも適 切 である。また 、 それは、企 業のガバナンスとM & A 市 場を 改 善することである。それによって、新 規 参入企業を排除している競争力がない日本 企 業 が 市 場 か ら 撤 退 す る 一 方 で 、競 争 優位性を持つ中核的企業領域にさらに投資 を行う事になる。 サ ー ビ ス 産 業 の 生 産 性 向 上 の 重 要 性: 日 本 の G D P の 8 割 は 製 造 業 で は なく、 サービス業によるものであり、日本が経 済 全 体を支えるために、輸 出 主 導 型 の 製 造 業 の 成 長 に 頼 っていられ た 時 代 は 過 ぎ 去 っ た 。I C T 及 び I C T サ ー ビ ス 投 資 の 促 進 を図りつつ 、サ ービス業 の 生 産 性と 効率性を高めることが、至上命題である。 労働市場の改善:日本の労働市場には、被 雇用者が離 職中に受けられる研 修を施す セーフティーネットに補完された、より高い 流 動 性 が 必 要である。さらに日本 の 大 学 は 、日 本 の 最 大 の 成 長 軌 道 が 依 存 す る 迅 速 な 新 規 市 場 参 入 企 業 と 投 資 家 が 求めるニーズに応えるため、より国際的で、 臨 機 応 変 で 、柔 軟 な 思 考 を 持 つ 学 生 を 輩出する必要がある。この新規雇用の多く がサービス、サービス関連産業で創出され、 そこでは迅 速な対 応と間 断のない調 整が 最 重 要 で あ る た め 、社 員 の 素 養 と 雇 用 慣行の柔軟性は特に重要である。 職場の現実:日本の労働力は減少し続けて おり、このギャップを埋めるために、国は必然的 に 女 性 や 退 職 者 、移 民 を 労 働 力として 活用しなくてはならないという厳しい現実が ある。政府は、これらの人々がもっと容易に
  • 27. !"成長戦略タスクフォース白書 I. 概 要 日本 の 起 業 家たちは 長 年 、国 の 経 済 発 展 や 世 界の消 費 文 化に対する貢 献で国 内 外から 称 賛 を 集 めてきた 。日 本 の 主 要 ブ ランドの 多くは、ホンダの本 田 宗 一 郎や松 下( 現パナ ソニック)の松 下 幸 之 助 、ソニーの盛 田 昭 夫 や 井 深 大 など 、ビ ジ ネスの パイオニア 達と 永遠に結びついている。 日 本 の 経 済 が 活 況 を 呈 してい た 6 0 年 代・ 7 0 年 代 、新 規 事 業 は 猛 烈 な 勢 いで 市 場 に 参 入していた。しかし、1 9 8 9 年までに新 規 参入者の割合は激減し、市場に参入した企業 の数とほぼ 変 わらない 数の企 業 が 市 場から 撤 退 するという具 合 で、経 済 成 長 を 支 える エンジンを鈍 化させることになった。日本の 政治家や政策は、新規事業を育成するという より、既存企業をいかに存続させるかに頑なな までにこだわり続けている。 市場参入率の急落や、弱い日本経済の新陳代謝 にもかかわらず、深尾・権レポートは、1991年 から2 0 0 6 年 の 期 間 、新 興 企 業 が 依 然日本 の雇用成長の大部分に貢献していたことを明らか にした。さらに、国際的に事業を展開し、研究 開発費に資金をより多く費やしている新興企業ほ ど高い生産性を示していることが分かった。 日本の経 済 的 活力は 、次 世 代の起 業 家を輩 出できるか、また、創 造力に富む持 続 可 能な 企業を育てるために必要な知識やスキル、そして ネットワー クを 企 業 家 に 与 えられるか にか かっている。それには 、彼らを支 援する市 場 主導のエコシステム(生態系)や、彼らが経済 及び 社 会 的 繁 栄 の 主 な 担い 手であることを 国 民 が 認 識 する文 化 を育 成 することなども 含まれる。 それだけではなく、日本は資 本 市 場や競 争・ 公正取引に関する補足的な政策を定めること、 労 働 市 場をもっと流 動 化させること、そして リスク・キャピタル が この 国 の 巨 大 な テ ク ノロジ ー 基 盤や知 的 財 産をより容 易に活 用 できるようにすることが必要である。これらの 変化は、産学連携や、市場主導の新規事業の 創 生を促 進し、商 品 市 場を変えるインパクト をもたらす突破的、「破壊的」な新製品やテク ノロジーを市場に送り出し、さらにはそれらを 世界市場に送り出すことを推進する。 II. 論点及び分析 日本における戦後の起業家政策: 誤った優先順位 初 め は 小 規 模 で あ っ た ホ ン ダ や ソ ニ ー 、 松 下 などの 企 業 は 、戦 後 日 本 が 急 成 長 を 成 し 遂 げ て い た 時 期 に 誰 も が 知 る 一 流 企 業へと成 長した。しかし、新 興 企 業が 経 済 成 長 へ 大 いに貢 献したことや 消 費 者 に全く 新しい概 念や商 品をもたらしたことを日本の 政 策 者は見 抜けなかった。政 府はより多くの ベンチャー 企 業の創生を支 援する代わりに、 多くの場 合 大 手 企 業 に仕えてきた中 小 企 業 を 支 援 す ること に よって 大 企 業 と 既 存 の 中 小 企 業 間 の 生 産 性 ギャップを埋 めようと 努 め た 。こ れ ら の 中 小 企 業 の 殆 ど は 新 興 企業ではない。 1989年度中小企業白書は、起業活動の低下 が 景 気 低 迷につながる可 能 性があると警 告 していた。この予測は的中し、図1に示されて いるように市場参入率が11%から約6%へと 低下した後、政府の担当者は、若い新興企業に 対する政策について真剣に再検討を始めた。 米 英 両 国の経 済が、8 0 年 代に新 興 企 業によ り刺激を受けたとの認識が高まったことから、 この 再 評 価 が 促 進された 。近 年 の 参 入 率 の 国際比較は、図2に示されているように、日本 起業を促進し市場にイノベーションをもたらし 未来の企業を創出
  • 28. 在日米国商工会議所!" 起業の促進 !" がOECD諸国の中で最下位と、著しい対比を 成している。 新 興 企 業 や 成 長 企 業 は 今 や 技 術 革 新 を もたらすものとして、また、成熟経済に雇用や 効 率 的 な資 源 再 配 分を生むものとして不 可 欠である、と広く認 知されている。さらに、成 長や競争性を促進する突破的なテクノロジー や知識のスピルオーバーの極めて重要な源で もある。 日本の近年の実績に関する表面的見解 9 0 年 代 後 半 に 広 まったこの 認 識 は 、会 社 設立のために必要とされていた最低資本金の 撤廃や、日本版LLCやLLPに当たる合同会社 !" #" $" %" &" '!" '#" '()! '()$ '()& '(&# '(&% '((! '(($ '((& #!!# #!!% 参入率 退出率 企業の参入・退出率の推移 出所 * !"#$%&'!"$()*+&,-)*$+,-./##0 図1 企業参入率の国際比較 (2000-2007の平均参入率) ! " # $ % &! &" &# &$ &% イギリス ドイツ ニュージーランド オーストラリア アメリカ 香港、中国 アイルランド フランス オランダ 日本 参入率(%) 出所 '(()*+,-./012(304+56+5057+89:6(;/4/</85().=3>!%(?"!!% 平均:10.6% #@ 図2
  • 29. 成長戦略タスクフォース白書 !" 起業の促進 !" や有 限 責 任 事 業 組 合の創 設 など、起 業 家を 後押しする様々な政策を促進することとなった。 この認 識は会 社の再 編やM & A 取引の手 段 、 労働契約の規制や報酬制度、産学の研究開発 連 携 をより柔 軟 化 させることになる一 連 の 改革を推進した大きな動機にもなった。 これらの 改 革 にもかかわらず、一 般 的 には 、 日本ではまだベンチャー 企 業の設 立や成 長 に急 速 な 進 展 は 見られないと思 われている であろう。同様に、起業家にとって十分に魅力 的である買収やI P Oなどを通したエグジット 戦 略( 投 下 資 金 回 収 手 段 )の機 会も、まだ少 ない。図3から近年の日本のIPO件数の急激 な下落が読み取れる。 既 存の日本 企 業は概して投 資 家に魅力的な エグジット戦略を提供していない。というのも、 !"# $%& $!# $!$ $'( $() $)) $!$ #& !" " !" #" %" )" $"" $!" $#" $%" $)" !"" !!" !""" !""$ !""! !""* !""# !""( !""% !""' !"") !""& 出所 +,-./0,12324, 日本のIPO件数 図3 ベンチャーキャピタル投資, 2008 100万$, 対GDP率 !"!!#$ !"!%&$ !"!#'$ !"!()$ !"')&$ !"!*&$ !"!+($ !"!*'$ !"%!#$ !"'%%$ ! %!!! +!!! ,!!! (!!! '!!!! '%!!! '+!!! ',!!! '(!!! %!!!! 日 本 (2006) イ タ リ ア 韓 国 カ ナ ダ オ ー ス ト ラ リ ア ス ペ イ ン ド イ ツ フ ラ ン ス 英 国 米 国 出所 -./012.34567468.964:7;<;=>.?7@.A7@BCDE>.34;E6F;?E@.%!!*".2?D?.E6G6EC.D;.6HB5D>.57I6CDJ67DC 図4
  • 30. 在日米国商工会議所!" 起業の促進 !" ベンチャー企業買収が自社の存続に重要だと は考えていないからである。 日本のベンチャー・キャピタル市 場の規 模の 小 ささは 、この 短 期 の エグ ジット選 択 肢 が 相 対 的 に少 ないことを反 映している。事 実 、 年 間 投 資 取 扱 高 は 米 国 の 水 準 から見ると、 絶対額でも対GDP比率でもごくわずかである (図4参照)。 これらのトレンドが続いているのにはいくつか 理 由がある。まず、業 界 専 門 情 報を有するベ ンチャー・キャピタル企業、司法サービス提供 者 及びエンジェル・インベスターなどの民 間 グループ間で横の連携が弱く、相互関連ネット ワークが不十分であることが挙げられる。 第2に、失敗を極度に恐れることや、一流大手 企 業 への就 職を好むといった国 民の性 癖に あまり変化がないことが挙げられる。起業家と なるような優秀な人材は大企業や大学にとど まる傾向がある。このところの新興企業による 不正行為に対するメディアの注目もサクセス ストーリーに影を投げかけている。 最 後 に 、お そ らく 最 も 重 要 だ と 思 わ れ る 理 由 は 、「 失 わ れ た 2 0 年 」の 改 革 や 規 制 緩和の政策に対する政治的なコンセンサスは、 新規事業の機会づくりや取引を容易にし始め た矢先に立ち消えたことである。 国 際 起 業 家 調 査( G E M )が 2 0 0 9 年 に 実 施 し た 起 業 に 対 す る 意 識 調 査 結 果 は 、 は っきりとこれ らの 問 題 を 反 映 してい る 。 図 5に 示 さ れて い るように 、日 本 国 民 は 、 G E M 調 査が分 析した「イノベーション主 導 」 経済の20カ国の中で、失敗することにもっと も大きな 恐 れを示している。また 、起 業する チャンスがあると感じている国民の数は20カ 国 中 、最 下 位 であった( 図6参 照 )。他 にも 起 業 家 になることが 賢 明 なキャリア 戦 略 で あると考える国民の割合が最も低いといった 予想とおりの結果が挙げられる。 日 本 で 起 業 す ること の 難 しさ は こ の 意 識 調 査 に現 れている。新 興 企 業 は 経 験 豊 富 な 経 営 陣を雇うことに苦 労する。また、顧 客を 獲 得することも彼らにとっては困 難で、資 金 調達の困難さに輪をかけている。今の日本の 若者はバブル経済崩壊以降に出生したため、 生まれてこのかた好景気というものを知らず、 リスク回 避 的になっていることが 要 因として 挙げられる。起業家を希望したり、新興企業で 働きたいと考える人があまりにも少ないままで は起業家精神の普及促進は困難である。 ! " #! #" $! $" %! %" &! &" "! 韓 国 チ リ ノ ル ウ ェ ー フ ィ ン ラ ン ド 米 国 ベ ル ギ ー ス イ ス オ ラ ン ダ 英 国 ス ロ ベ ニ ア ハ ン ガ リ ー ア イ ス ラ ン ド デ ン マ ー ク ド イ ツ イ タ リ ア ス ペ イ ン ギ リ シ ャ フ ラ ン ス 日 本 出所 '(()*+,-*(./012312/2415673(8+/70+19($!!:(541;2< 失敗することへの恐れ 図5
  • 31. 成長戦略タスクフォース白書 !" 起業の促進 !" しかしこれに関しては朗報がある。イスラエル、 アイルランド、チリ及び 韓 国 など様々な 国に おける近年の経験から、規制緩和の推進、新規 参 入 者や移 民の支 援 及び新たな事 業 形 態や 新テクノロジーを迅 速に導 入し広めることを 優先順位の上位に据えた政策を実施すれば、 政 府 の 指 導 者 が「 起 業 」に 対 する 考 え 方 を 変えることができることを示している。30年前、 チリやアイルランドでは政府関係の仕事に就 くことが最も望ましいと考えられていた。イス ラ エ ル で は 、軍 事 関 係 の 仕 事 が トップ で あった 。現 在これらの 国 で は 、ベンチャー・ キャピタル市場や起業活動やそれらについての 意 識は大きく改 善されている。政 府は政 策に よって変化をもたらすことができるのである。 最近の兆候 日本の 起 業 環 境 にはほとんど改 善 が 見られ な いという 表 面 上 の 印 象 にもか か わらず、 日本が90年代後半に開始した様々な改革が、 ようやく新 規 参 入 者 のためのビジ ネス環 境 や機会にポジティブかつ大きな影響を与えて いる兆候が見られる。 Stanford Program on Regions of Innova- tion and Entrepreneurship(SPRIE:地域 イノベーションと起業に関するスタンフォード 大学の研究科)の後援で書かれたEberhart- Gucwa レポートは、帝国データバンクから提 供された日本で1999年から2008年に新たに 設立された5万社のサンプルを基に独立企業に 関する詳細な分析を提示している。 日本の新 興 企 業のうち相当な割 合の企 業 が、今や急速に高いレベルの成功を収めて いる。2006年に設立され生き残った企業 を見た場合でも、その5%以上が2008年末 時点でそれぞれの業界の売上高ランキング で 9 0 パー センタイル 以 内に入っている。 また 、1 9 9 9 年 に 設 立 され た 企 業 の 9 % 近くが、2008年までに同パーセンタイルに 到達している(図7参照)。 このトレンドは2、3の業界にとどまらず、事 実、比較的広範囲に広がりを見せている。 平均すると、最近の新興企業は古手の競合 他社に比べ、売上高ランキングを伸ばして いるようである。同レポートによると、これ ら 新 興 企 業 は 平 均 してわず か 2 、3 年 で 業 界 売 上ランキングで5 0パーセンタイル (中央値)内に入ったことが示されている。 1999年に設立された企業の売上ベースの 中央値は、2008年までに約70パーセンタ イルになっている(図8参照)。この傾向は、 ! "! #! $! %! &! '! 日 本 韓 国 ベ ル ギ ー ス ペ イ ン ド イ ツ 英 国 フ ラ ン ス イ タ リ ア ギ リ シ ャ 米 国 ス ロ ベ ニ ア ハ ン ガ リ ー デ ン マ ー ク ス イ ス オ ラ ン ダ フ ィ ン ラ ン ド ア イ ス ラ ン ド ノ ル ウ ェ ー チ リ 出所 ())*+,-.+)/012342303526784)9,081,2:)#!!;)652<3= 機会の認識 図6
  • 32. 在日米国商工会議所!" 起業の促進 !" 上 記 のトレンドと同 様 に相 当 広 範 囲 に広 がっている。 これ は 、新 規 参 入 者 にとって商 機 をもた ら す ビ ジ ネ ス 環 境 の 大 き な 変 化 が な かったのなら、驚くべき結 果である。それ どころか 、新 興 企 業 は 5 0 パーセンタイル である中 央 値 へとゆっくり近 づくもので あると想定されている。 2 0 0 4 年 から2 0 0 8 年 に設 立されたハイ テク企 業のおよそ5 %が 、2 0 0 8 年までに 5 億 円 の 年 間 売 上 を 達 成している 。この グループの平均的企業は設立後2年を若干 上 回る若さであることから、ベンチャー 企 業が成功するのに必要な時間も短くなって いることを示している。 新規ハイテク企業のCEOの出身校が、日本 の技 術 系 大 学である割 合は異 常なほど高 い。また、海外の大学も多くのハイテク企業 のCEOを輩出している。 Eberhart-Gucwaレポートの分析結果は、 会社法や労働法、産業の規制撤廃、大学の技 術資産や共同研究に関する近年の広範な改革 が、日本における起業にプラスの影響をもたら していることを示唆している。 新たな機会は新たな参入者を引き寄せるため、 多くの場合、新興企業は新しい「破壊的」なテ クノロジーやメソッドを導入したり、あるいは 特 定の産 業の現 状 維 持を揺るがす変 化から 生じる機会を利用しようとして現れる。ACCJ は、このようなダイナミクスが日本で加速して いると確信しているが、それらは必要な改革、 規 制 緩 和やリーダーシップがあることにより 続くものである。 日本の指導者への進言: 機会を拡大し、リスクを減らす 日本政府は、国家の将来の繁栄を左右する新 会社やクリエイティブで突破的な新技術や新 製品を生み出すため、先導して起業家精神を 育む基盤を作らなければならない。ベンチャー 企業の成功は究極的には民間セクター次第で あるとはいえ、政府は触媒としてまだ実現され ていないポテンシャルを伸ばす機能を果たすこ とができる。 !" #" $" %" &" '" (" )" *" +" #!" #+++ $!!! $!!# $!!$ $!!% $!!& $!!' $!!( 出所 ,--./0123-401256237-.1816295-:1;;/<7-=>.?47 スタンフォード大学 業界ランキングで90パーセンタイル以内の%(設立された年別) 国内新興企業の業界売上高ランキング 図7
  • 33. 成長戦略タスクフォース白書 !" 起業の促進 !" 日本の指導者が先ずしなければならないのは、 起業とは価値がある企てであり、国家成長政策 の中核となすべきことを宣言することである。こ のようなリーダーシップは、21世紀の新たな 産業の中で起業家たちが初めから世界に打っ て出るのに必要な国境を越えたつながりを築 く上で支えとなる。 成功しているベンチャー企業を認め、賞賛する ことも国民の強い興味を集め、必要不可欠であ る政策への政治的支援を築くために極めて重 要な役割を果たすことになろう。政財界の最高 幹部は、日本経済の未来を担う重要な存在とし て起業家に注目するべきである。また、起業家 は利益のみを追求するため欲深い、あるいは規 模が小さいので取るに足らないというイメージ を払拭しなければならない。 新興企業の成功にとっては、商品市場の拡大 や「 売 れる機 会 」が 不 可 欠である。成 熟した 市場で新たな製品、サービス、またはビジネス モデルを持たず、既存の競合他社と正面から ぶつかろうと思う企 業は少ない。日本 政 府は 農 業 や ヘ ルスケアなど 規 制 の 強 い 産 業 や、 収束するインターネット、メディア、コミュニケ ーションの産業で規制改革を推進することに より、新たなビジネスチャンスを生み出すこと ができる。( インター ネット経 済 に関 する本 白書の章を参照されたい。) 政府はまた、起業家精神にあふれたライバルを 攻撃しようとする既得権による試みを鈍らせる 競争政策を追求することにより、チャンスを生 み出すこともできる。これはより多くの新規参 入者を既存の生産性の低い企業、深尾教授が 指 摘する退出しない低 生 産 性の既 存 企 業と 競争に向かわせることになる。OECDの調査に よると、競争政策は多くの国の新規参入率に 大きな影響を与えることが判明している。 最後に、政府は補助金などの形で公費を使う のではなく、小 企 業 優 先プログラムを通し、 新 興 企 業 が 政 府を新 規 顧 客として獲 得する ことによって、手助けすることができる。[優先 ! !"# !"$ !"% !"& !"' !"( !") !"* !"+ # $!!* $!!) $!!( $!!' $!!& $!!% $!!$ $!!# $!!! #+++ 出所 ,-./0123-401256237-.1816295-:1;;/<7-=>.?47-スタンフォード大学 国内売上高ランクのパーセンタイル (2008年時点、設立年別) 図8
  • 34. 在日米国商工会議所!" 起業の促進 !" プログラム(例えば、いわゆるセット・アサイド では、小規模企業に機会を与えるため、各省庁 の 支 出 の 一 部 を 小 規 模 企 業 からの 調 達 に 割り当てることを義務付ける。) 移民政策の章で述べているように、海外の起 業家が日本に移住しビザを取得することをより 簡単にし、迅速化することで、政府は肯定的な 意図を示すこともできる。 労働の流動性の重要性 労働の流動性は、個々の新興企業にとっても 全 体 にとっても成 功 するために重 要 な 要 素 である。ベンチャービジネスにとっては、エン ジニア、科学者、その他の技術系エキスパート に加えて、経 営 、財 務 、法 律 、知 的 所 有 権 や マー ケティング などの 専 門 性 を備 えたベテ ランの人材が必要不可欠である。 日本の新興ベンチャー企業にとって最も大き な 挑 戦 の 一 つ は 、経 験 豊 富 なマネジメント チームを作ることである。日本の会社における平 均的な在職期間は、米国の2倍程度も長く、大手 企業の有能な社員は新興企業を立ち上げたり、 新興企業に転職したりすると失うものが多い。 転 職 先 が 倒 産しても元の会 社に戻 れないば かりか、他に職を探すことも容易ではない。また、 ベテランの力なくしては、新興の起業家はよく ありがちな失敗を何度も繰り返し挫折する。 例えば、2005年に三菱総合研究所が行った 調査結果は、日本経済の研究者が実際固定化 していることを示している(図9参照)。 日本における緊急課題の一つは、正社員がつ ながりを切ることなく、元の組織に復帰できる 形で、ベンチャービジネスに参加できる柔軟な 方法を考案することである。それにより倒産の 際のバックアップオプションを提供することに なる。日本のセーフティネットの強化も大いに 助けとなるだろう。(労働力の流動性やセーフ ティネットの改善の必要性に関する章を参照 されたい。) 出所: 日本の研究者の可能性は限られている 研究者の数と団体内/間の転職2003年 大学 !"#$%%& 公共団体/非営利団 #"$'(' 民間企業 #()$*!& *$%%% +$+(&, %!*, '$*!) !$)&# +!$%(! '"* %*) +$+)! 図9
  • 35. 成長戦略タスクフォース白書 !" 起業の促進 !" 排除ではなく、資本市場を発展させる 資本がベンチャー企業の設立や成長に必要で あるのは当然である。そのため、政 府が 資 金 調達に関する適正な政策を図ることは不可欠 である。直接政府から来る有り余る資金が民間 セクターの資金供給を締め出し、非効率企業に 資金が渡り結果的に公的資金が浪費されると いう機能不全の依存関係を作り出している。 政 府 の 最 も 基 本 的 な 役 割 は 、民 間 資 本 の 流 れ が 利 益 を 上 げ、成 長 する 能 力を 示して いる 新 たなビジ ネスに 向 かうことを 確 か な もの にするた め 、適 切 な イン セン ティブ を 設 定 することである 。政 府 が 直 接 的 な 補 助 金 、借 入 保 証 、その他の手 段に踏み 込むと、 上 記 の 問 題 が 起 きる 可 能 性 が あ る た め 、 将 来の新 規 参 入 者も含めて新 興 企 業が市 場 勢力に立ち向かうチャンスを奪うことになる。 市 場 原 理 に 対 応 させることによって、国 内 外 において投 資 対 象としてのみならず 競 争 力 の あ る 魅 力 的 な 企 業 を 生 み 出 すこと が できる。 日本はしばしば「リスクマネー」の欠如に悩ま されていると言われる。この認 識は正 確では ない。実際は余剰資本・貯蓄があり、新興国株 投資やオルタナティブ投資などに運用されて いる。しかし、日本 の 若 い 企 業 はこのような リスクマネーを国 内の 機 関 投 資 家 から呼び 込むのに苦労している。事実、機関投資家から の資金調達は、米国が80%であるのに対し、 日本では3%程度に過ぎない。 このような状況の下、日本政府がベンチャー企 業を助けるために取ることのできる最善の方策 とは投資方針を変更し公的年金資金のほんの 一部をベンチャービジネスへの投資に向ける ことである。ただしこの場合、その判断を民間 の運用業者に委ねる場合に限るという条件で のみ許可する。現在、主要政府系年金基金の ポートフォリオにベンチャー・キャピタルへの 投資は基本的に組み入れられていない。 これら公的年金基金がその資金のほんの一部 を投 資に値するベンチャー 企 業に振り向け、 民 間のファンドマネージャーが運用するとし たら、そのメッセージは市 場に大きな影 響を ! "! #! $! %! &!! &"! &#! &$! &''( &''$ &'') &''% &''' "!!! "!!& "!!" "!!* "!!# "!!( 日本 韓国 中国 台湾 インド イスラエル シンガポール +,-,./01231.4 52.60107..589:12;<.8=>.?@233.A821B2:7.CD:2518:7.E2312:.=8:. F312:30 30@.G9;D32;;.H6950 3.036.I2;20:5J.7+3DK2:;D1<.8=.F@@D38D;. 再生可能エネルギー関連特許の数 .+3DK2:;D1<.8=.F@@D38D; 図10