ドイツ・ネットワーク執行法について

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ニューヨーク州弁護士
望月 健太
2018年5月28日
解説
ドイツ・ネットワーク執行法（NEA）

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免責事項
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目 次
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1. ネットワーク執行法（NEA）とは
2. これまでの経緯
3. 適用対象事業者
4. 適用範囲と定義
5. 新たな義務の内容
6. 執行について
7. ソーシャルメディア企業に求められる対応
8. ネットワーク執行法に対する反応
9. ネットワーク執行法に関する事業者の対応状況
10.Facebookに対する訴訟
参考文献

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１．ネットワーク執行法（NEA）とは
 2017年7月7日にドイツ連邦参議院（German Federal Council）通
過し、同10月1日から施行されるドイツの国内法
 ドイツ語で「Netzwerkdurchsetzungsgesetz」、英語で
「Network Enforcement Act (NEA)」
 ソーシャルメディアプラットフォーム運営事業者に対し、 「違法な
コンテンツ（unlawful contents）」（※後述）に関するより厳しい
新たな義務を課すもの
 いわゆる「フェイクニュース」や「ヘイトスピーチ」の規制を目的
Source: https://twitter.com/mfa_russia/status/951771283519365121

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２．これまでの経緯
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2017年 3月14日 ネットワーク執行法案提出
2017年 3月27日 法案を欧州委員会に通知
（※法案の待機期間開始）
2017年 4月 6日 内閣による法案承認
2017年 5月19日 議会による法案の第一読
2017年 6月 1日 ディビッド・ケイ国連報告者の書簡
2017年 6月28日 法案の待機期間終了
2017年 6月30日 連邦議会（下院）による法案の可決
2017年 7月 7日 連邦参議院（上院）による法案の可決
2017年10月 1日 施行（執行機関による猶予期間付き）
2018年 1月 1日 執行機関による猶予期間の終了
※青字・赤字部分はドイツ国外の動き。

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３．適用対象事業者
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 ソーシャルメディアプラットフォーム運営事業者
① 営利目的でインターネットプラットフォームを運営する「テレメディアサービス
プロバイダー」
② ユーザーが他のユーザーとコンテンツを交換・共有できるような、またはそのよ
うなコンテンツを公開できるようなインターネットプラットフォームを運営
（SNS）
③ ドイツ国内において200万人以上の登録ユーザーを有する事業者
※現状、適用対象は10社以下と言われている。
 適用対象外の事業者（以下のような事業者にはネットワーク執行法は適用されない。）
① ジャーナリスティックで編集が施されたコンテンツを掲載しているプラット
フォーム運営事業者（ユーザーによって生成された第三者コンテンツを掲載して
いないプラットフォーム）
② 個別のコミュニケーションや特定のコンテンツの頒布を目的としたプラット
フォームの運営事業者（Eメールやメッセンジャーサービスの運営事業者）

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４．適用範囲と定義
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 適用開始時（以下の2要件を満たした時に適用。）
① 「違法なコンテンツ（unlawful content）」がソーシャルメディア
プラットフォームに掲載され、
② 当該ソーシャルメディアプラットフォームの運営事業者が、その
「違法なコンテンツ」に関する申立（complaint）を受領した時に、
適用開始
 「違法なコンテンツ」とは
① ドイツ刑法に明示的に規定されている犯罪を構成するようなコンテンツ
② 犯罪の扇動や反政府的扇動（sedition）、侮辱（insult）、ポルノ犯罪、憲法
違反の組織のプロパガンダの頒布等を含む
③ ヘイトクライムは、悪意のあるゴシップ、名誉毀損、憎悪の扇動のような犯
罪の範囲内（＝ヘイトクライムに関するコンテンツも「違法なコンテンツ」
の範疇）
④ フェイクニュースについては、「犯罪行為に関する誤解を招く情報を提供す
ることによって安寧を害する罪」のような、刑法に明示的に規定されている
犯罪の構成要件を客観的に満たす限りにおいて、ネットワーク執行法の範疇

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４．適用範囲と定義
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 対象となる犯罪の具体例
※Source: 総務省総合通信基盤局電気通信事業部消費者行政二課、「インターネット上に公開された個人に関す
る情報等の取扱いに関する研究会（インターネット上の情報に関する最近の国内外の動き①）」（平成29年8
月）、http://www.soumu.go.jp/main_content/000534881.pdf。

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５．新たな義務の内容
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① 効果的かつ透明性のある申立手続（内部制度）の確立
② 法定期限までに「違法なコンテンツ」を削除・ブロック
1）明らかに「違法なコンテンツ」については、申立受理後24時間以内
2）その他は、原則7日以内
③ マネージメント層は、違法コンテンツの処理について毎月管理
④ 違法コンテンツを処理する従業員に対し、「少なくとも」6ヵ月毎にトレーニ
ングの機会を提供
⑤ 半年に1回、ドイツ語で、違法コンテンツの処理に関する報告書を作成・公開
※但し年間の申立受理件数が100件を超える運営事業者に限る
⑥ ドイツ当局と対応できる権限を有する代表者をドイツ国内に設置
※当局から情報要請を受けた場合、48時間以内に回答する義務；
できない場合は、その理由を提示する義務
 具体的な義務の内容
違反態様によっては、最大で５００万ユーロの罰金！

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５．新たな義務の内容
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 処理義務の内容
• 申立受理後、24時間以内
• 「明らかに（manifestly）」の定義はなし
• 但し、立法関連資料によれば、「違法性について綿密な検討を必要と
しなければ（if no in-depth review is required）」、明らかである
としている
• 申立受理後、原則7日以内
• 違法性の決定にさらなる精査が必要な場合は、期限延長可
• コンテンツを掲載したユーザーに、意見陳述の機会を付与しうる
• 認可を受けた「Institution of Regulated Self-Regulation」にコンテ
ンツの査定を求め、同Institutionの決定を受け入れることに同意する
場合も、期限延長可
明らかに違法なコンテンツ
その他の不法なコンテンツ

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６．執行について
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 違反態様に応じた罰金
最大500万ユーロの罰金 • ドイツ国内に代表者を設置しなかった場合
• 法執行当局からの情報提供要請に回答しなかった
場合
最大50万ユーロの罰金 • 報告義務を果たさなかった場合
• コンプライアンス体制や申立管理制度を確立・監
督し損なった場合
• 違法コンテンツを削除・ブロックし損なった場合に、厳しい罰金が待ってい
る。
• 連邦司法局（Federal Office of Justice）が罰金を科すに先立ち、コンテン
ツの違法性について裁判所に先決的判断（preliminary ruling）を求めうる
（但し、「義務」ではなく「裁量」）。
備 考

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７．ソーシャルメディア企業に求められる対応
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 体制整備および報告義務
①適用対象となるソーシャルメディアプラットフォーム運営事業者は、
2018年1月1日までに、以下の事項につき整備する必要。
• 必要な社内コンプライアンス体制を新たに確立するか、または既存の
社内コンプライアンス体制を強化
• 必要な申立手続（compliance procedures）を設置
②適用対象となるソーシャルメディアプラットフォーム運営事業者は、
2018年中頃までに、以下の事項を実施する必要。
• 違法コンテンツに関する申立や、その他関連する申立の処理について
の、最初の報告書を発表

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８．ネットワーク執行法成立に対する反応
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 合憲性を疑う声
• ネットワーク執行法については強い批判。
• Baker & McKenzie法律事務所によれば、本法に反対する者がドイツ
連邦憲法裁判所で本法の合憲性を争う旨の声明を発表したとの事。
• 詳細は、http://www.bakermckenzie.com/-
/media/files/insight/publications/2017/07/al_germany_social
mediahatespeech_july2017.pdf?la=en。
 ドイツ国外の反応
• 2017年6月1日、言論および表現の自由に関する国連特別報告者であ
るディビッド・ケイ氏（David Kaye）は、ドイツ政府に対し、ネッ
トワーク執行法について懸念を有する旨の書簡を発出。
• 国際人権規約（自由権規約）や関連する決議等に照らし、主に7つの
懸念点を挙げている。
• 詳細は、
http://www.ohchr.org/Documents/Issues/Opinion/Legislation
/OL-DEU-1-2017.pdf。

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９．ネットワーク執行法に関する事業者の対応状況
 Facebookの対応状況

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１０．Facebookに対する訴訟
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 事実の概要
• ドイツの新興右派政党「ドイツのための選択肢」（AfD）のアリス・バイデル氏は、
Facebookに対し、自身を「Nazi swine」呼ばわりし、また同姓愛者であることを悪意
をもって非難する投稿に、ドイツのユーザーがアクセスできなくするよう要求。
• これに対し、Facebookはすばやく対応、ドイツのIPアドレスを有するユーザーがその
投稿を見れないようにした。
• しかし、同投稿が、ドイツ国外にいるか、あるいはIPアドレスがドイツ国外にあると
みられるユーザーから依然閲覧可能となっていた。このため、バイデル氏は訴訟提起。
• 2018年4月27日、ハンブルグ地方裁判所は、VPNを使えば依然として閲覧可能になっ
ているとして、バイデル氏勝訴の判決。
• 同4月30日、Facebookに対し差止命令が下され、関連する投稿をドイツ国内で完全に
閲覧不可としない限り、最大で25万ユーロの罰金、またはドイツ国内に所在する
Facebook幹部に対する最大2年の懲役に服することになると判示。
• 既に関連する投稿は削除された模様だが、Facebookは裁判所から判決内容に関する書
面を待っているとの事。
※もっとも、この勝訴判決が発表される直前に、別の侮辱的投稿があり、バイデル氏が
Facebookに削除を求めるも、コミュニティースタンダードに従って削除しなかった
ため、別の差止訴訟が提起された模様。
ネットワーク執行法の地理的適用範囲について、
引き続きフォローする必要。

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参考文献
• Bundesministerium der Justiz und für Verbraucherschutz, Act to Improve Enforcement of the
Law in Social Networks (Network Enforcement Act), 12 July 2017,
https://www.bmjv.de/SharedDocs/Gesetzgebungsverfahren/Dokumente/NetzDG_engl.pdf;js
essionid=BD0ED1B7219BB444A2EE628AAB213205.1_cid324?__blob=publicationFile&v=2 .
• DW, AfD co-leader Alice Weidel suing Facebook over hate speech deletion 'omissions‘, 24 April
2018, http://www.dw.com/en/afd-co-leader-alice-weidel-suing-facebook-over-hate-speech-
deletion-omissions/a-43512566 .
• ZDNet, Facebook's new court defeat: This time it 'may have free speech implications‘, 1 May
2018, https://www.zdnet.com/article/facebooks-new-court-defeat-this-time-it-may-have-
free-speech-implications/ .
• MEEDIA, Nächste Einstweilige Verfügung: AfD-Chefin Alice Weidel setzt sich erneut gegen
Facebook durch, 14 May 2018, http://meedia.de/2018/05/14/naechste-einstweilige-
verfuegung-afd-chefin-alice-weidel-setzt-sich-erneut-gegen-facebook-durch/ .
• Outside the beltway, Germany Social Media Hate Speech Ban Having Global Impact, 21 May
2018, https://www.outsidethebeltway.com/germany-social-media-hate-speech-ban-having-
global-impact/ .
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