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映像で見る精興社の活版印刷
―そこから何を学ぶか
小 林   敏
1  はじめに
現在,日本語の組版ルール,特に電子書籍や Web の世界でのルー
ルが問題となっている.
日本語の組版ルールは,活字組版を前提に考えられてきたものが元
になっている.高く評価されていた精興社の活版印刷,その一連の作
業についての映像を見ながら,いくつかのポイントに限定し,問題点
を考えてみる.
活字組版において,どのような理由から組版ルールが考えられてき
たのか.それにより,コンピュータ組版でのルールなり,電子書籍や
Web におけるルールを検討する手掛かりがあるのかもしれない.そ
のことを問題としたい.
2  活版印刷の工程
ごく簡単に活版印刷の工程を以下に示す.
母型の製作 彫刻母型(ベントン母型)は,紙に設計された原図ど
おりに亜鉛板を腐食(字面部分)したパタンを作成し,縮小が自
在にできるパンタグラフ応用のベントン彫刻機で真鍮合金のマテ
材に彫刻して作製する.欧文活字用は文字サイズごとに母型を作
製するが,和文活字用は,数段階で作製する.
活字の鋳造 自動鋳造機に母型をセットし,活字を鋳造する.(活
字用の地金は,あらかじめ,鉛・スズ・アンチモンを溶解し,適
当な型に流し込んで用意しておく.)その他,ケイ線,行間に挿入
するインテル,字間に挿入するクワタ(全角または二分以上),ス
ペース(全角または二分未満)なども作製しておく.
活字ケースに活字を配列 印刷所によりいくらか異なるが,漢字と
仮名を区別し,漢字の使用頻度に従って準備しておく.活字を並
べた活字ケースはケース台(俗に馬という)に配置する.濁点の
精興社の活版印刷部門の閉鎖 精興社がコ
ンピュータ組版を導入したのは 1984 年で
あり,活版印刷部門を閉鎖したのは 1995
年である.
なお,大日本印刷が金属活字鋳造・組版
部門を解散したのは 2002 年である.
活版印刷技術調査報告書 青梅市文化財総
合調査報告として,精興社の活版印刷つい
ての以下の調査報告書が青梅市教育委員会
青梅市郷土資料室から刊行されている.
森啓著“活版印刷技術調査報告書 改訂
版”,2004 年 8 月 20 日
この資料は,千代田区立千代田図書館で
所蔵している.
活版印刷を解説した書籍 活版印刷,なか
でも活字組版について解説している書籍を
何冊か紹介しておく.
水沼辰夫著“欧文植字”印刷学会出版部
(工場必携シリーズ),1949 年
水沼辰夫著“文選・植字の技術”印刷学
会出版部,1961 年
川田久長ほか編“製版印刷技術総論”
共立出版(印刷製版技術講座),1960
年
欧文印刷研究会編“欧文活字とタイポグ
ラフィ”印刷学会出版部,1966 年
高島義雄執筆“印刷ハンドブック  活
版整版技術編”日本印刷技術協会,
1967 年
印刷技術一般刊行会編,“印刷技術一般
改訂版”産業図書,1968 年
藤森善貢著“エディター講座出版編集技
術〈第 2 版〉 下 巻” 日 本 エ ディター
スクール出版部,1980 年
高島義雄著“傳書活版技術”日本印刷新
聞社,1982 年
2017 年 5 月 11 日
つく仮名と特別の漢字(年月日東京都町村丁目番地号章節など)
は袖ケース,仮名は仮名ケース,漢字は使用頻度の多い順から,
大出張(おおしゅっちょう),小出張(こしゅっちょう),中出張
(なかしゅっちょう),外字(または本室)に配列していた.
文選 原稿に従って活字ケースから活字を拾い(採字),文選箱に収
める.文選箱は幅 75 mm,長さ 150 mm であり,9 ポイント活字
が 1081 本収容できる.深さ 18 mm で,活字の高さより低い.
一人前の採字能力は,1 日 8 時間労働で 1 万字くらいといわれて
いた.
植字 植字は現場では“ちょくじ”とよばれていた.原稿と文選
作字 母型が準備されていない文字は,地
金彫りや木版(木活字)などで文字を作製
し,対応することもあった.
図 1 活字台の例(“エディター講座  校正技術 Ⅱ 縦組校正編”(日本エディタースクール出版部)より)
活字ケース内の漢字の配列 一般の漢和辞
典と同じ部首順,画数順である.ただし,
精興社の青梅工場は縦組の配列,つまり右
から左への配列に対し,神田工場は横組の
仕事が多かったようで,横組の配列,つま
り左から右への配列であった.
なお,旧字体は,新字体とは別に活字台
が準備されていた.
中出張 小出張より使用頻度が少ない漢字
を配列する.文選する際に,隣合う担当者
が共同で使用する,つまり 2 人の間にあ
ることが名称の由来と聞いている.
箱は植字係にまわり,文選作業で拾っていない括弧や記号類を補
い,段落を整え,図版などを挿入し,1ページの体裁に整える.
ステッキという道具を使用し,何行かをそこで組み,それを組ゲ
ラに移す.1 ページがまとまると,柱とノンブルを配置し,糸で
しばり,置きゲラ(とりゲラ)に移動する.置きゲラには A5 で
あれば 4 ページ,B5 であれば 2 ページを収容する.
全自動式モノタイプ キーボード(鍵盤さん孔機)とキャスター
(活字鋳造機)で構成された全自動式モノタイプも使用されてい
た.キーボードで入力された文字データは紙テープに保存され,
キャスターで,紙テープの情報に従い活字が鋳造され,インテル
なども自動的に挿入できる能力もあった.しかし,精興社では多
くは,活字の文選をこのシステムで行い,植字係が組版する方法
をとっていた.
校正刷の作製 植字作業が終わると,手動または自動の校正刷機
で,校正刷を作製する.
校正作業と差換え 校正刷での校正作業は,印刷所でも行ってお
り,これを内校正(内校,うちこう)と呼んでいた.校正刷に記
入された赤字に従い,組版の修正を行う.これを差換えという.
下版 完全に訂正が終わり,校了となった組版は製版室に送られる
(原版刷の場合は印刷室に送られる).この作業を下版(げはん)
という.(コンピュータ組版でオフセット印刷する場合も下版と
よばれることもあったが,この場合は,概念があいまいで,今日
ではあまり下版という言葉は使用されないようである.)
紙型の作製 校了となった組版は,部数も少なく,再版の予定がな
い場合は,活字組版のままで印刷することも行われていた.これ
を原版刷という.一般には鉛版に複製して印刷するために,まず
紙型を作製する.組版をチェースと呼ばれる枠で固定し,活字面
の高さをそろえ,組版と紙型原紙を重ね,加圧して,紙型を作製
する.鉛版にした際に,空白部(非画線部)が地金の圧力で押し
戻され,印刷した際によごれとなる(“ケツ”がつくという)こと
を防ぐために,精興社では完成した紙型に裏貼りを施していた.
紙型は 10 回くらいの鉛版の複製に利用できたようである.
鉛版の作製 油圧式の自動鋳造機を利用し,紙型からの複製版であ
る鉛版を鋳造する.鋳造した鉛版は,円圧式印刷機用の場合,1
ページ単位で切り離し,ケツがつかないように凹部(非画線部の
空白部分)を削る作業を行う.
象嵌 鉛版を作製した後で訂正が必要になる場合がある.なかでも
重版などでは,一般に訂正が入ることも多い.この場合,紙型を
見開きの校正刷 B6 や A5 の校正刷は一
般に 2 ページ単位である.この場合,置
きゲラから校正刷機に版を移動して校正刷
を作製する.そのために見開きでの校正刷
は,かなりやっかいであり,また,活版印
刷では,台単位での作業を重視していたこ
ともあり,通常の校正刷は見開きとはなら
なかった.なお,台の定義は作業によって
一様でないが,校正刷でいえば 1 台は一
般に 16 ページである.
その影響か,初期のコンピュータ組版で
も,特に指示しないと見開きとならない例
があった.
解版 紙型取りされた組版は,活字合金を
再利用するために解版し,木インテルやア
ルミ製や亜鉛製の込め物などを取り除き,
溶かして,地金とする.
各出張ケース収容の漢字の数 西島九州男
監修“エディター講座  校正技術 Ⅱ 
縦組校正編”(日本エディタースクール出
版部,1972 年)に,各活字ケースに収容
している文字と文字数が示されている.
母型の数 精興社の活字見本帳である“和
文活字―組版・印刷の手引き”(1966
年)によれば,主な文字サイズの母型の種
類(数)は,次のとおりである.
	 12 ポ	 4934 本
	 10 ポ	 1 万 5350 本
	 9 ポ	 2 万 0278 本
	 8 ポ	 2 万 5937 本
	 六号	 9145 本
	 7 ポ	 1 万 7373 本
	 6 ポ	 1 万 0680 本
	 5 ポ	 730 本
	 4.5 ポ	 284 本
	 4 ポ	 275 本
	 3.5 ポ	 206 本
線画凸版や網目版の組込み 線画凸版や
網目版(写真版)の版の厚さは,一般に
1 mm である.その厚さだけ低い込め物を
組み込み,その上に,これらの版を貼り込
む.線画凸版や線数の低い網目版は鉛版に
複製できる.しかし,書籍に使用する 100
線程度の網目版は鉛版にすると精度が落ち
るので,網目版は,複製した鉛版に貼り込
んで印刷していた.網目版は保存してお
き,重版,つまり鉛版を複製するたびに貼
り込んで印刷していた.ただし,精興社で
は,組版の段階でも,こうした網目版は組
込んでおき,鉛版に複製した際には,この
部分を削って,原版を貼り込んでいた.絵
柄の確認にもなったからである.
丸鉛版 輪転機で印刷するためには丸鉛版
を作製する必要がある.紙型を丸いシリン
ダーにそってセットして鋳造していた.
直すことはできないので,鉛版を修正する.鋳造した鉛版に加工
を施し,訂正する.1 字や 2 字の訂正は,鉛版の該当箇所に穴を
あけ,そこに活字をはめ込んで直す(1 本象嵌).部分的に組版
し,それから紙型を作製,鉛版にして,該当箇所を切り込んで直
す場合もある.切込み象嵌,あるいは紙型象嵌とよんでいた.
印刷機への鉛版の組付 オフセット印刷のようにあらかじめ面付し
ておくのではなく,円圧式印刷機の場合,1 ページ単位で切りは
なされた鉛版を印刷機上で組み付けていく.この際に,折った際
にページが続くように,また所定の位置になるように配置する必
要がある.この段階で別に作製した背丁や背票も組み付ける.
ムラトリ ためし刷りを行い,印刷面にムラがないか確認し,印圧
の少ない箇所は圧胴に薄い紙を貼り,均一になるようにする作業
を行う.版の台木の裏貼りをすることも行われる.
機械校正 ある程度のムラがとれた段階で,機械校正係に 1 枚をわ
たし機械校正を行う.校了紙との照合,ページ順,刷り位置,背
丁・背票の確認,図版の横転など問題がないか確認する.
インキの調整と印刷作業 印刷インキ,印刷用紙を準備し,印刷作
業を行う.書籍の場合,停止円筒印刷機(ストップシリンダー印
刷機)で印刷する場合が多かった.
3  活字組版から何を学ぶか
以下では,特に組版ルールと関連する問題に限って解説する.
文字サイズの単位―ポイントと級数
1 ポイント=0.3514 mm または 0.3528 mm
1 級   =0.25 mm
文字サイズの刻み方
書籍の活字組版では,号式(数)活字とポイント式活字が使用され
ていた.号式(数)活字には単位という概念はなかった.初号(42 ポ
イント)から八号(4 ポイント)まで 9 段階の大きさがあった.
ポイント式活字の大きさとしては,以下の種類があった.(すべて
の印刷所でこのすべての大きさが準備されていたわけではない.)
基準の 1/2	  5 ポ	 4.5 ポ	 4 ポ	 3.5 ポ	……ルビのみ
基 準	 10 ポ	 9 ポ	 8 ポ	 7 ポ	 6 ポ
2 ポイント差	 20 ポ	 18 ポ	 16 ポ	 14 ポ	 12 ポ
4 ポイント差	 40 ポ	 36 ポ	 32 ポ	 28 ポ	 24 ポ
文字を配置していく際に,見出しなど文字サイズで差をつける必要
がある場合,この文字サイズのリストは参考になる.
停止円筒印刷機 これは版は平らで,圧胴
が円筒の円圧式印刷機である.これには圧
胴の下から紙を差す平台,圧胴の上部から
紙を差す高台とがあった.
彫
刻
母
型
(
ベ
ン
ト
ン
母
型
)
は
亜
鉛
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を
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…
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字
面
部
分
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た
…
…
括弧書きの文字サイズ 下の例は,右側か
ら本文と括弧書きの文字サイズは以下のと
おりである(差がつく組合せはどれか).
9 ポ―9 ポ
9 ポ―8 ポ
13 Q―13 Q
13 Q―12 Q
13 Q―11 Q
13 Q―11.5 Q
括弧書きの文字サイズと位置 活字組版で
本文 9 ポイント,括弧書きを 8 ポイント
にした場合,縦組では右寄せにしていた.
それは,一般に最小幅のインテルが 1 ポ
イントであったことによる.
紙型の収縮 紙型は材料が紙なので,鉛版
を作製すると,いくらか収縮する.このた
め切込み象嵌などの際に,直さない部分と
訂正部分との行長がそろわない,といっ
た場合もある.組版段階で句読点などの後
ろを調整する,あるいは複製を繰り返し,
サイズをそろえる,といった工夫が必要に
なった.初回の鉛版作製での収縮が最も大
きく,A5 の 1 段組を例にすると 9 ポイン
トくらい収縮する場合もあった.そこで,
活字組版の印刷物の文字サイズを調べる場
合などでは注意が必要である.
文字サイズの刻み方 見出しなどで差をつ
けていく方法としては,いっそのこと比率
(パーセント)で変化させてもよいだろう.
明朝体と文字サイズ
文字サイズを大きくした場合,特に明朝体では縦線と横線の太さの
比率を変えていく必要がある.
欧文活字の字幅
和文活字と異なり欧文活字は字数が少ないので,文字サイズごとに
パタンを作成し,線の太さや字幅を調整していた.
ポイント式活字 ポイント式活字の使用
は,出版物を製作する場合,号式(数)活
字では大きさの種類が不足したという理由
があったためであろう.
図 2 和文活字の大きさ見本(“エディター講座  校正技術 Ⅰ 校正概論・予備知識編”より)
四
〇
ポ 
和
文
活
字
三
六
ポ 
和
文
活
字
三
二
ポ 
和
文
活
字 
欧
二
八
ポ 
和
文
活
字 
欧
文
二
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ポ 
和
文
活
字 
欧
文
活
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和
文
活
字 
欧
文
活
字
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一
八
ポ 
和
文
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文
活
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比
一
六
ポ 
和
文
活
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欧
文
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四
ポ 
和
文
活
字 
欧
文
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字
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書
一
二
ポ 
和
文
活
字 
欧
文
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字
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書
体
の
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一
〇
ポ 
和
文
活
字 
欧
文
活
字
に
比
べ 
書
体
の
種
類
は
少
 
九
ポ 
和
文
活
字 
欧
文
活
字
に
比
べ 
書
体
の
種
類
は
少
な
い
が
 
八
ポ 
和
文
活
字 
欧
文
活
字
に
比
べ
て 
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体
の
朱
里
は
少
な
い
が 
 
七
ポ 
和
文
活
字 
欧
文
活
字
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比
べ 
書
体
の
種
類
は
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一
種
類
の
書
 
六
ポ 
和
文
活
字 
欧
文
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書
体
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種
類
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少
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い
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一
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類
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書
体
を
そ
ろ
え
 
五
ポ 
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ん
か
つ
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お
う
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ん
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く
ら
べ 
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の
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い
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・
五
ポ 
わ
ぶ
ん
か
つ
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う
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い
の
か
ず
は
す
く
な
い
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い
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し
ゅ
る
い
の
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ょ
た
 
四
ポ 
わ
ぶ
ん
か
つ
じ 
お
う
ぶ
ん
か
つ
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く
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べ 
し
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た
い
の
か
ず
は
す
く
な
い
が 
い
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ゅ
る
い
の
し
ょ
た
い
を
そ
ろ
え
る
の
に
お
図 3 和文文字の大きさ見本の例(小塚明朝)
7 ポイント活字 精興社では,1950 年代
から 1960 年代にかけて 7 ポイント活字を
整備していった.武川武雄著“日本古典文
学の出版に関する覚書”(日本エディター
スクール出版部,1993 年)に,これに関
連した説明がある.
アラビア数字の字幅
和文との混ぜ組に使用するアラビア数字の字幅は二分が合理的であ
り,そのような数字が活字組版では使用されていた.
コンピュータ組版で使用される OpenType では,二分等幅の字形
を準備しているが,和文文字とのバランスが悪い場合もある.和文文
字と調和する二分等幅(等幅半角字形)のアラビア数字が準備されて
いるのが望ましいといえよう.以下の例は,下が二分等幅の数字を使
用している.
例 ついては 2017 年3月 25 日になって 500 人もの多くの
  ついては 2017 年 3 月 25 日になって 500 人もの多くの
1 行の行長
日本語組版でベタ組とする方針の場合,版面の設定で 1 行の行長は
使用文字サイズの整数倍に設定する.これはコンピュータ組版でもか
わらない.使用文字サイズの整数倍に設定しないと必要がない箇所で
も字間の調整が発生する.
見出しなどの字下ガリ
見出しや柱などの字詰め方向の位置を指定する場合,見出しや柱に
使用した文字サイズではなく,本文の使用文字サイズで設定すること
が一般的である.
活字組版の場合,見出しなどの字詰め方向は,そこに使用している
文字サイズのスペースやクワタを使用するので,作業上では,本文の
文字サイズよりは,そこで使用している文字サイズで指定する方が作
業しやすい.
本文の文字サイズで指定するのは,本文との文字面をそろえるため
であり,組版の合理性よりは,配置上のバランスの方が重視された結
果といえる.
割注の文字サイズ
割注の文字サイズは,活字組版では 6 ポイントを使用していた.こ
れは漢字がある最小の文字サイズが 6 ポイントだったことによる.
この 6 ポイントというサイズは,読むことを期待する場合に使用す
る最小の文字サイズの目安になる.以下の例は順に左から 6 ポイン
ト,5 ポイント,4.5 ポイントである.
例
ルビの文字サイズ
ルビの文字サイズは,一般に親文字(ルビをつける対象となる文
字)の文字サイズの 1/2 である.活字組版の場合,これが合理的であ
ったことによる.コンピュータ組版では,ルビの文字サイズの変更は
1行の行長 本文組では,1 行の行長の設
定で誤る例は少ない.
しかし,図版を配置した場合,縦組では
図版の下部(または上部)に文字を回り込
ませる例は多い.横組でも図版の左右に文
字を回り込ませる場合もある.この回り込
み部分の行長が使用文字サイズの整数倍に
なっていない例は活字組版では,まず考え
られない.しかし,DTP の組版では,そ
れなりに見掛ける.
欧文活字の字幅 欧文活字の字幅の例につ
いて,参考としてこのドキュメントの末尾
に“欧文の印刷文字の字幅”を掲げておく.
二分等幅のアラビア数字 特に数表組など
を行う際に二分等幅のアラビア数字は必要
になる.
ルビの付け方(どの語に付けるか)や,配置の方法(組
版処理方法)には多くの方法があり,これが唯一の正し
い配置方法であると決定するのはむつかしい.しかし,
やはり誤読されない,読みやすい,バランスがとれてい
る,という方法は考えられよう.その方法は,ルビを付
ける漢字一字の読みを示すのか,また,熟語の読みを示
すのか,その言葉を別の片仮名語で示すのが目的かな
ど,その目的に応じて考えていく必要がある.縦組か横
組かでも,ルビの配置方法は変わってくる.
ルビの付け方(どの語に付けるか)や,配置の方法(組
版処理方法)には多くの方法があり,これが唯一の正し
い配置方法であると決定するのはむつかしい.しかし,
やはり誤読されない,読みやすい,バランスがとれてい
る,という方法は考えられよう.その方法は,ルビを付
ける漢字一字の読みを示すのか,また,熟語の読みを示
すのか,その言葉を別の片仮名語で示すのが目的かな
ど,その目的に応じて考えていく必要がある.縦組か横
組かでも,ルビの配置方法は変わってくる.
ルビの付け方(どの語に付けるか)や,配置の方法(組
版処理方法)には多くの方法があり,これが唯一の正し
い配置方法であると決定するのはむつかしい.しかし,
やはり誤読されない,読みやすい,バランスがとれてい
る,という方法は考えられよう.その方法は,ルビを付
ける漢字一字の読みを示すのか,また,熟語の読みを示
すのか,その言葉を別の片仮名語で示すのが目的かな
ど,その目的に応じて考えていく必要がある.縦組か横
組かでも,ルビの配置方法は変わってくる.
号式(数)活字のサイズ 五式(数)活字
は,古くは印刷所により微妙にサイズが異
なっていた.矢野道也著“印刷術 上巻”
(丸善,1913 年)に実測値が掲載されて
いる.
六号活字 六号は,五号(10.5 ポイント)
の 1/8 を基準と考えれば,7.875 ポイント
になり,8 ポイントよりやや小さい.精興
社などでは,8 ポイントよりやや小さな字
面の文字を 8 ポイントの台(ボディ)に
鋳込んだ活字を準備していた.8 ポイント
ではやや大きいが,7 ポイントでは小さす
ぎるという場合に使用していた.
なお,印刷所によっては,台(ボディ)
を 7.875 ポイントとした活字を準備して
いたところもある.
読むための文字サイズ 読むことを期待し
た場合の文字サイズは,辞書のように短い
文章か,一般の書籍のように長文の文章か
によっても異なってくる.短い文章の場合
は,ある程度文字サイズが小さくてもがま
んして読めるが,長文では,そうとはいえ
ない.少なくとも 8 ポイントくらいは必
要といわれている.
可能であるが,あまり小さくするのは好ましくないであろう.
なお,活字組版では 7 ポイントにつける 3.5 ポイントのルビ活字
は,すべての印刷所で準備されていたわけではなかった.
ルビの配置処理
ルビの配置処理は,活字組版とコンピュータ組版とでは,いくつか
の点で異なっている.活字組版は,その場主義というか,原則に従い
ながらも,個別の箇所で,ルビの字数,前後に配置する文字種などか
ら判断し,工夫していた.また,字間を調整するスペースの種類も限
られていた点もあった.いくつかグループルビについて,活字組版と
コンピュータ組版での配置処理例を掲げておく.上側が活字組版で行
われていた配置例(複数の例を示す),下側がコンピュータ組版(JIS
X 4051 の考え方による)の配置例である.
版面サイズの設定
日本語組版では,基本版面など版面の設定では,1 段組の場合,文
字サイズ,1 行の行長,行数と行間で設定する.そのうえで,仕上り
サイズに対する配置位置である“刷り位置”を決めていた.(もちろん
版面サイズを検討する際には,余白を考慮しながら決めていた.)
中(半)とびらのノンブル
活版印刷では,組版では仕上りは示されず,また,鉛版も周囲の余
白はできるだけないように仕上げる.そのうえで印刷機に組み付ける
際に,指定された仕上り紙面に対する印刷位置を考慮し,鉛版を組み
付けた.校正刷でも仕上り紙面を示すトンボは示されていなかった.
また,前述したように見開きでの校正刷は,特別に必要な場合を除外
して作製されなかった.
こうしたことから,できるだけ,ノンブルは非表示としないで,中
(半)とびらでも表示した方がよいとの考え方もあった.
前付の別ノンブル
活字組版では,ノンブルの修正も含め,赤字の修正はできるだけ避
けた方がよいとの考え方があった.前付部分は後から入稿されること
も多く,ページ数が確定しないので,本文とは別ノンブルにすること
があった.この場合,前付は多くはローマ数字の小文字が使用されて
いた.別ノンブルにした場合,同じアラビア数字であると前付と本文
とが入れ違う誤りもあったからである.
7 ポイントの文字のルビ 3.5 ポイントの
ルビ活字がない場合,7 ポイントの親文字
に 4 ポイントのルビをつけていた例があ
る.
コンピュータ組版のルビ コンピュータ組
版では,一定のルールに従って配置するこ
とになるが,活字組版のように個別事情を
できるだけ組込んだ配置ルールを考える必
要がある.一方では,ある程度のルールの
簡略化も考えていく必要もある.
ルビの配置処理について,実例を多く掲
げて解説した“ルビの組版処理方法―熟語
ルビを主に”という PDF ファイルを別に
参考資料として掲げておいたので,参照さ
れたい.ファイル名は,以下である.
 ルビの配置方法 _1_2_2.pdf
この文書では,縦組と横組で共通して適
用できるいくらか簡便にしたルールの解説
もされている.また,漢文の配置処理も解
説している.
模
型
モ
 
デ
 
ル
模
型
モ
 
デ
 
ル
模
型
 
モ
 
デ
 
ル
模
型
 
モ
 
デ
 
ル
避
難
所
ア
ジ
ー
ル
避
難
所
ア
ジ
ー
ル
避
難
所
ア
ジ
ー
ル
避
難
所
ア
ジ
ー
ル
避
難
所
 
ア
ジ
ー
ル
避
難
所
 
ア
ジ
ー
ル
避
難
所
 
ア
ジ
ー
ル
避
難
所
 
ア
ジ
ー
ル
欧文組版の行長 欧文組版では,使用文字
の整数倍で設定しないで,12 ポイントの
倍数などで設定する場合もあった.
余白を設定して版面サイズを決める 初期
の DTP,あるいは Word などでは,仕上
りサイズと四方の余白を決めることで版面
サイズを設定する方法をとっていた.この
場合,日本語組版では,1 行の行長,行数
と行間から版面サイズを割り出し,仕上り
サイズから引き算して,余白を割り出し,
設定せざるをえなかった.
前付と本文の組違い 私は,これまで 2
度ほど,市販されていた書籍で,前付と本
文のページの配置違いを見た記憶がある.
ノンブルの役割 ノンブルは順序を示すだ
けではなく,刷り位置の基準ともなる.そ
こで,ノンブルは一定の位置に配置する必
要がある.
柱とノンブルの位置
活字組版では,柱とノンブルの位置は,版面(基本版面)との相対
的な位置関係を指定する.活字組版では,印刷機への組付までは,仕
上り紙面は示されていないからである.
コンピュータ組版でも同様な指定方法が多いが,コンピュータ組版
では,仕上り紙面からの位置指定も可能である.
図 4 組版の例(“エディター講座  校正技術 Ⅱ 縦組校正編”より)
図版とキャプションとのアキ
図版とキャプションとのアキは,活字組版では,一般にキャプショ
ンの文字サイズの全角アキがよいといわれていた.このアキは,紙型
の収縮を考慮し,ある程度は確保しておかないといけなかったことも
理由である.線数のある程度ある網目版は,紙型―鉛版で複製するの
ではなく,精度を確保するために,複製した鉛版に貼り込むことを一
般に行っていたからである.
図版と表の配置
図版や表がそれほど多く入らない場合,図版や表を配置する原則的
な方法と,原稿でいえばこの箇所あたりであるとの概略の挿入位置を
指定する方法が活字組版ではとられていた.その指示に従い植字する
際に適当なページ(要求にほぼ該当するページ)に図版(あるいは表)
を組み込んでくれた.
校正での字送り・行送りの指示
ここでいう字送り・行送りは,文字の挿入・削除があった場合,行
中の文字を次行または前行に移動させる,あるいは次ページまたは前
ページに行を移動させる校正作業での指示である.活字組版では,挿
入や削除があった場合,どのように文字や行が移動するか,あらかじ
め分かっていた方が作業がしやすい(見通しをたてて作業できる)と
いうことから,活字組版では字送り・行送りの指示を校正刷に記入す
るのが望ましいといわれていた.
コンピュータ組版では,行の調整処理は自動処理が原則である.そ
こで,ここでいう字送り・行送りの指示は,特別の目的がない限り不
要である.
行組版のルールと行の調整処理
行の組版方法あるいは行の調整処理方法は,活字組版では,原稿で
の原則的な指示,あるいは出版社との仕事の慣行,総括的な指示に従
い,植字作業の段階で適当に処理され,問題があれば校正で赤字で指
示し,修正することになっていた.
行の組版方法は,活字組版とコンピュータ組版では同じこともある
が,調整量は,コンピュータ組版のように該当箇所すべてで均等とい
うことではなく,活字組版では植字係の判断で処理されていた.
詰める処理では括弧類の前後のアキ,読点の後ろのアキなどを詰め
ていた.空ける処理は,できれば行末の仮名の部分などで,四分スペ
ースまたは八分スペース,1 ポイントスペースなどを使用して調整し
ていた.
次ページに調整例を示す(文字サイズは 9 ポイントである).左側
の 2 つが活字組版の例(活字で組んだのではなく,疑似的に DTP で,
活字組版に倣って処理している),右端がコンピュータ組版の例であ
る.(なお,例文では調整例を示すために,カギをかなり無理してつけ
てある.)
ある程度の字詰数(1 行に配置する字数)があるのであれば,コン
網目版の貼込み 特に重版(増刷)の際の
経験であるが,版面の所定の位置に網目版
を貼り込むと,キャプションとのアキがほ
とんどない,といった場合もあり,網目版
を少し削って小さくする,あるいは製版を
やり直すという経験をしたこともある.
JIS X 4051 の図版配置方法 図版また
は表の配置位置については,JIS X 4051
では,相対位置指定による配置方法と絶対
位置指定による配置方法を規定している.
これは,活字組版での原稿との対応を示
し,植字の際に配置を決める方法にならっ
たものである.JLreq でもその配置方法を
解説している.
校正での字送り・行送り 校正での字送
り・行送りは,組版の細部が明確に分かっ
ていないと,正確には指示できない.もち
ろん,誤りのないようにするのが理想では
あるが,しばしば校正者の記入した字送
り・行送りとは異なる結果になる例もあっ
た.しかし,そうではあっても,校正者の
記入する字送り・行送りは,およその字送
り・行送りが分かる利点があった.
行頭の括弧類の配置方法 行頭の括弧類に
ついては,3 つほどの配置方法がある.精
興社では,どの出版社がどの方式かを示し
た印刷物を作成し,作業の手引きとしてい
た.
空ける箇所の修正 活字組版の空ける処理
は,めんどうな作業であり,多少の問題は
あっても,あるいは文字の挿入・削除で問
題が多少でたとしても,植字係の処理を尊
重し,できるだけ割り直しをしない,とい
うのが原則であった.
7 ポイントの字間調整 精興社では,7 ポ
イントの字間調整には六分のスペースを使
用していた.
10
ピュータ組版の空ける調整は,読者にとってそれほど気がつく事項で
はないかもしれない.これを考慮すれば,コンピュータ組版では,空
ける処理方法だけでもよい,という考え方も成り立つかもしれない.
いずれにしても,行の調整処理は,組版の評価に影響する事項であ
るが,いかにうまくごまかすかという問題でもあり,工夫を必要とす
るところである.
校正刷の赤字の修正と赤字引合せ
再校校正では,初校の赤字が正しく修正されているか,初校の校正
刷に記入された赤字を,再校の校正刷で点検する赤字引合せを行う.
この際,組版でどのような修正作業が行われているか理解しておくと
作業の助けになる.いくつか活字組版での問題点を記しておく.
―原則として活字組版では,すでに組まれた組版の手直しとなる.
そこで,修正箇所以外は,前の組版のままと考えてよい.ただ
し,複雑な修正や大幅な修正では,ステッキに戻しての組直し作
業も考えられるので,全体にわたって赤字引合せの際に,その部
分について素読みした方が安全である.
―書体の修正,文字サイズの修正は,活字の全部について文選しな
おして直すので,1 字 1 字の引合せが必要になる.
―柱,ノンブルは,コンピュータ組版のようにマスターページの修
正ですむのではなく,全ページの必要箇所を修正するので,各ペ
ージで点検する必要がある.
―字送り・行送りでは,作業中の文字の入れ違いのおそれもあるの
で,字送り・行送りされた部分でも,1 字 1 字確認していく.
―活字組版特有の誤り(初校からありえる)の例を示しておく.
ど
の
語
に
付
け
る
か
、
ど
の
よ
う
に
ル
ビ
を
配
置
す
る
か
に
つ
い
て
は
多
く
の
方
法
が
あ
る
。
唯
一
の
こ
れ
が
正
し
い
「
配
置
方
法
」
で
あ
る
と
決
定
す
る
の
は
難
し
い
。
し
か
し
読
み
や
す
い
、
誤
読
さ
れ
に
く
い
、
バ
ラ
ン
ス
が
と
れ
て
い
る
、
と
い
う「
方
法
」
は
考
え
ら
れ
よ
う
。
そ
の
方
法
は
ル
ビ
を
付
け
る
漢
字
一
字
の
「
読
み
」
を
示
す
の
か
、
ま
た
、
熟
語
の
読
み
を
示
す
の
か
、そ
の
言
葉
を
別
の
片
仮
名
語
で
示
す
の
が
目
的
か
な
ど
、
そ
の
目
的
に
応
じ
て
考
え
て
い
く
必
要
が
あ
る
。
ど
の
語
に
付
け
る
か
、
ど
の
よ
う
に
ル
ビ
を
配
置
す
る
か
に
つ
い
て
は
多
く
の
方
法
が
あ
る
。
唯
一
の
こ
れ
が
正
し
い
「
配
置
方
法
」
で
あ
る
と
決
定
す
る
の
は
難
し
い
。
し
か
し
読
み
や
す
い
、
誤
読
さ
れ
に
く
い
、
バ
ラ
ン
ス
が
と
れ
て
い
る
、
と
い
う
「
方
法
」
は
考
え
ら
れ
よ
う
。
そ
の
方
法
は
ル
ビ
を
付
け
る
漢
字
一
字
の
「
読
み
」
を
示
す
の
か
、
ま
た
、
熟
語
の
読
み
を
示
す
の
か
、
そ
の
言
葉
を
別
の
片
仮
名
語
で
示
す
の
が
目
的
か
な
ど
、
そ
の
目
的
に
応
じ
て
考
え
て
い
く
必
要
が
あ
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。
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に
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け
る
か
、
ど
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う
に
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ビ
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配
置
す
る
か
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つ
い
て
は
多
く
の
方
法
が
あ
る
。
唯
一
の
こ
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が
正
し
い
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置
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」
で
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と
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い
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み
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い
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法
」
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考
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ビ
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け
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漢
字
一
字
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み
」
を
示
す
の
か
、
ま
た
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み
を
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の
か
、
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葉
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別
の
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名
語
で
示
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の
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的
か
な
ど
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そ
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目
的
に
応
じ
て
考
え
て
い
く
必
要
が
あ
る
。
コンピュータ組版の修正 コンピュータ組
版では,文字の挿入・削除などがあった場
合,行の調整処理はやりなおしとなる.そ
の意味で,コンピュータ組版の修正は,常
に活字組版でいう組直しになる.字送り・
行送りで文字が入れ替わるおそれはないと
考えてよいだろうが,行の調整処理などに
ついて問題がでないかどうかの確認は必要
になる.
コンピュータ組版の柱などの修正 コン
ピュータ組版では,柱やノンブルは,マス
ターページ(あるいはマスター)とよばれ
るページの修正で一括して修正できる.し
かし,適用するページの誤りは考えられる
ので点検は欠かせない.
この半年ほどで,私は 2 度ほどマスター
ページの適用間違いと考えられる誤りを見
た記憶がある.
また,白ページ(何も印刷されないペー
ジ)には,通常ノンブルを表示しないが,
この白ページにノンブルを印刷してある例
は,かなりの頻度で目にする.
活字組版の赤字と修正 活字組版では,で
きるだけ組まれている版を生かすことを考
え,熟語の 1 字を直す場合,熟語全体を
直す赤字にしない.また,あらかじめ赤字
部分の文字を文選して作業するので,校正
刷の赤字通りに直していると考えてよい.
コンピュータ組版では,熟語など,熟語単
位で直した方が修正しやすいし,直しの際
に文字入力されるので,(印刷所では赤字
通りに直すといっているが)必ずしも赤字
通りでない場合もあるかもしれないので,
注意が必要である.
を
申告
す
る
こ
と
の
卍
と
い
う
卍
に
ビ
ール
の
季
節
で
ビ 
ル
の
季
節
で
は
8倍
で
あ 
た
は
「
文
字
」
に
つ
で
H氏
と
X氏
は
で
H
氏
と
X
氏
は
11
4  いくつかの課題
Web などの表示を考えた場合,活字組版の原則は,そのままでよい
のか,変更が可能なのか.その他の課題を含め,いくつかの問題点を
示しておく.今後の検討を期待したい.
ベタ組とツメ組
活字組版では,通常は正方形の台(ボディ)を持った活字をベタ組
で並べていく.写植やコンピュータ組版ではツメ組が可能である.
大きな文字の見出し,行間を詰めて収容字数を多くしたい,あるブ
ロック組の文字をグレースペースとして考えてデザインしたい,とい
ったように目的があればツメ組は考えられる.
しかし,通読を予定している本文組では,できれば避けてほしい
な,というのが私の気持である.それは,私の読書経験からでたもの
で,ある程度のスピードで本を読もうとすると,ツメ組はあまり読み
やすいと感じないからである.それなりのスピードで読んでいくとき
は,字間が通常でないと,目が素直に字面を追っていかないというこ
とである.
いずれにしても,Web を考慮した場合,和文文字のベタ組という原
則は,どの程度維持していく必要があるか,読みやすさの問題と関連
させて検討していく必要があろう.
行間は変更可能か
活字組版では,版面サイズを揃える必要性が高かった,あるいは紙
の不透明度が十分でなく,裏に印刷した行が透けて見えることもあ
り,表裏で出来るだけ行位置が揃っていた方がよいといった考え方も
あり,日本語組版では,いったん決定した行間を変更することは,通
常は行われていない.英文の場合,見開きページの行数または下端を
揃える,あるいはウイドウ,オーファンを避けることが強く求められ
ていたので,行間を変更することもあった.
Web では,枠組が変更されることもあり,その段階でどの程度,行
間(あるいはフォントサイズ)を変更できるか,また,その際のルー
ルはどうあるのが望ましいのか,検討されていく必要があろう.
版面サイズの変更
見た目にも版面サイズが揃っていた方がよく.また,版面サイズ
は,活字組版の場合,作業上そろえる必要があったので,版面サイズ
をできるだけ維持するように組版を行っていた.例えば,段落の間に
図版,数式などを挿入する場合,図版や数式の前後を空けるなどの処
理を行い,版面サイズを揃えていた.また,見出しなども行ドリで指
定し,版面サイズに半端がでないような工夫もしていた.
Web で 1 ページ表示を基本とする場合,この版面サイズの維持を
どの程度考慮した方がよいのか,検討していく必要があろう.
本の読みやすさを考える 本の読みやすさ
を考える場合,きびしい条件での読書,あ
るいは近視や老視など,読書にあまりよい
条件を持っていない人の経験が参考になる
かもしれない.
私の本の読み方 私は,通常の本の読み方
以外に,本の内容によっては,いくつかの
読み方をしている.
例えば,個人的には“漢字読み”とよ
んでいるが,漢字だけを主に読んでいく方
法である.日本語の文章での文字の使い方
は,一般的にいえば,概念を表す部分(名
詞・動詞・形容詞・形容動詞など)は漢字
を使用し,補足的につく部分(活用する語
の語尾,助詞・助動詞,形式名詞など)は
平仮名を用いる.そこで,主に漢字だけを
読んでいく方法でも,ある程度の意味を読
み取ることが可能になる.
もうひとつの方法は,個人的に“段落
読み”とよんでいるが,段落を単位に読ん
でいく方法である.これはどんな本でもで
きる方法ではないが,段落の構造に注意し
て書いてある本では可能である.つまり,
先頭の文でトピックや主張を提示し,以下
の文では,その内容を補強し,必要があれ
ば,段落の最後の文で結論や要点を述べる
という形式で書かれた本である.このよう
な本では,段落の先頭の 1 文だけ(必要
に応じて段落最後の文も)を読んでいく方
法が可能になる.これでも,それなりに内
容を把握できるケースがある.
行送り方向の組版処理 行送り方向の組版
処理の問題点については,アンテナハウス
の以下の URL で“日本語組版における行
配置の課題”という PDF ファイルを無料
で配布している.この PDF ファイルでは
版面サイズを揃える例も掲げてある.
http://www.cas-ub.com/project/
 publications/nihongokumihan.pdf
横組の長音記号 横組の長音記号(音引
き)は,縦組用を 90 度回転させた字形と
は異なる.しかし,活字組版では,印刷所
によっては横組用の字形の活字を準備して
いないところもあった.この場合,縦組用
を 90 度回転させた字形を許容していた例
もある.次に例を示す.上側が縦組用を
90 度回転させた字形である.
トレーラー
トレーラー
ー
ー
12
行頭・行末そろえ
日本語組版の本文組では,通常,各行で,先頭文字を行頭に揃え,
末尾の文字を行末に揃える“行頭・行末そろえ”が選択される.
欧文は単語単位で 2 行にわたる分割を行う.そのために先頭文字
は行頭に揃えるが,行末はなりゆきとする“行頭そろえ”が選択され
る場合もある.欧文で“行頭そろえ”を選ぶと,行末は,それぞれの
行で全て異なってくることも多い.
これに対し,日本語組版では特別の文字を除外し,文字単位で 2 行
にわたる分割が許されているので,“行頭そろえ”を選んだ場合,欧文
の組版のような行末にはならない.一部がわずかに乱れるということ
になる場合もある.そこで,多くの本文組で“行頭・行末そろえ”が
選ばれている.
コンピュータ組版,あるいは Web の表示では,形態素解析ソフト
を利用し,自動処理で,文節,あるいは助詞や助動詞を除外した単語
単位での 2 行にわたる分割を行うことも考えられる.このような場
合には,本文組であっても“行頭そろえ”を選ぶことも日本語組版の
選択肢としてでてくる.もちろん原稿の内容にもよるが,こうした組
版方法も検討されてよいのではなかろうか.例を次に示す.
熟語ルビについて
活字組版では,特に名称はつけられていなかったが,熟語にルビを
つける場合,個々の漢字の読み方を重視するとともに,熟語としての
まとまりを考慮し,個別の箇所で配置位置を決めていた.コンピュー
タ組版でも個別箇所での工夫はあったが,自動処理としては考慮され
てこなかった.
Web の表示などを考慮すると,自動処理を考えていく必要があ
る.その場合,活字組版での処理をその通り実現しなくても,その考
え方を取り入れながら,ある程度の簡略化したルールを考えていく必
要があろう.
熟語ルビ 熟語ルビは,JIS X 4051 の第
3 次規格で規定された方法である.
JIS X 4051 の熟語ルビの配置処理方法
は,活字組版の方法とは異なり,かなり簡
略化した方法が規定されている.
前述した“ルビの組版処理方法―熟語ル
ビを主に”に実例を掲げて,その配置処理
方法を解説してある.
難
し
い
漢
字
の
読
み
方
を
示
す
場
合
や
、
外
国
の
翻
訳
語
(
外
来
語
)
に
仮
名
で
読
み
・
意
味
を
示
す
場
合
に
、
振
り
仮
名
(
ル
ビ
)
を
よ
く
利
用
す
る
。
し
か
し
、
こ
の
ル
ビ
の
付
け
方
(
ど
の
語
に
付
け
る
か
)
や
、
配
置
の
方
法
(
組
版
処
理
方
法
)
に
は
多
く
の
方
法
が
あ
り
、
こ
れ
が
唯
一
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正
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い
方
法
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あ
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決
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の
は
難
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い
。
そ
う
で
は
あ
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が
、
や
は
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誤
読
さ
れ
な
い
、
読
み
や
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い
、
バ
ラ
ン
ス
が
と
れ
て
い
る
、
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う
方
法
は
考
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ら
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よ
う
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難
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い
漢
字
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読
み
方
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合
や
、
外
国
の
翻
訳
語
(
外
来
語
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仮
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み
・
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合
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付
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ど
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語
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組
版
処
理
方
法
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一
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法
は
考
え
ら
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よ
う
。
難
し
い
漢
字
の
読
み
方
を
示
す
場
合
や
、
外
国
の
翻
訳
語
(
外
来
語
)
に
仮
名
で
読
み
・
意
味
を
示
す
場
合
に
、
振
り
仮
名
(
ル
ビ
)
を
よ
く
利
用
す
る
。
し
か
し
、
こ
の
ル
ビ
の
付
け
方
(
ど
の
語
に
付
け
る
か
)
や
、
配
置
の
方
法
(
組
版
処
理
方
法
)
に
は
多
く
の
方
法
が
あ
り
、
こ
れ
が
唯
一
の
正
し
い
方
法
で
あ
る
と
決
定
す
る
の
は
難
し
い
。
そ
う
で
は
あ
る
が
、
や
は
り
誤
読
さ
れ
な
い
、
読
み
や
す
い
、
バ
ラ
ン
ス
が
と
れ
て
い
る
、
と
い
う
方
法
は
考
え
ら
れ
よ
う
。
後注の行間 後注は,本文より文字サイズ
を小さくする.それに伴い後注の行間も狭
くする.引用文などの文字サイズを小さく
する例もあるが,これも同様である.
段落の間に後注を挿入する場合,版面サ
イズが揃わなくなる.一般に本文と後注の
間は,本文の行間と同じにし,後注の後ろ
と本文の間は,本文行間+アルファとし,
ここに半端を入れて版面サイズを揃える.
後注がページの末尾に配置される場合は,
本文と後注の行間を本文行間+アルファと
し,ここに半端を入れて版面サイズを揃え
る.
これに対し,横組で数式や図版を挿入
し,左右に文字を配置しない(回り込みを
しない)場合,ページの中程に挿入すると
きは,後注とは異なり,数式や図版の前後
に半端を等分して配分し,版面サイズを揃
える.
13
ルビの配置位置の原則
親文字列とルビ文字列の配置処理については,コンピュータ組版や
Web では,自動処理が原則である.また,Web では今後,縦組表示
と横組表示が選択できるということも考慮すると,親文字列とルビ文
字列の中心を揃えるという方式を原則にしてもよいように思われる.
多言語処理とレイアウト
今後は様々な場面で多言語処理が必要になってくるであろう.その
際にレイアウト面での問題も考えておく必要がある.
例えば,日本語と英語の文字サイズと行間だけについて考えてみて
も,日本語の書籍で一般的に採用される文字サイズは 9 ポイント(最
近はやや大きくする例もあるが)であるのに対し,英語では,9 ポイ
ントでは小さすぎ,10 ポイントあるいは 12 ポイントといったサイ
ズも選ばれている.行間も日本語では多くの文字が仮想ボディいっぱ
いであるが,英語では小文字を主に使用し,その多くが短字(short
letter)であるので,行間は日本語より狭くてよい.
このように考えていくと,日本語の場合と,英語の場合では,基本
的な配置方法について変更する必要があり,(もちろんフォントによ
り異なるとしても),デフォルトとして選ばれる配置方法,あるいはガ
イドラインなり目安も必要になってこよう.
基本版面の設定とその維持
書籍では,文字サイズと 1 行の字詰,行数と行間,段数と段間で設
定する基本版面とよばれる枠組を設定し,個々の箇所では,それをで
きるだけ維持するように処理している.
それでは Web の表現にあっては,こうした基本的な枠組を考える
必要があるのか,ないのか.もしあるとすればどのようなものか.そ
して,その各ページに対する適用は,どのようにしたらよいのか.こ
うしたことも検討されていく必要があろう.
肩ツキと中ツキ 肩ツキと中ツキという
用語の意味については,2 つの考え方があ
る.
①肩ツキと中ツキは,あくまで,親文字
1 字に対し,ルビ 1 字の場合に限っての配
置方法である.
②親文字 1 字でルビ 1 字の場合と限定
したものではない.親文字の先頭とルビの
文字列(ルビ文字列)の先頭を揃える方法
が肩ツキであり,親文字の文字列(親文字
列)とルビ文字列の中心を揃える方法が中
ツキである.
活字組版の考え方は,親文字 1 字に 3
字以上のルビが付く場合は,前後に配置す
る文字種(文字クラス)により個別の箇所
ごとに工夫していたので,一般には,①の
ように考えてきた.
コンピュータ組版では,その処理を明確
にする,あるいは一律に処理する必要があ
り,親文字の上端を揃えるのなら,ルビ文
字が 3 字以上つく場合も,同様な処理に
するということで,②の意味で使用してい
る例がある.
基本版面とその適用 基本版面とその適用
処理については,W3C の技術ノートであ
る“⽇本語組版処理の要件”(JLreq)の
“2.5 基本版⾯の設計要素の各ページに対
する適⽤”で,基本的事項についての解説
がある.
行の調整処理例 10 ページに掲げた行の
調整処理例について,コンピュータ組版の
例は調整した行を,活字組版の例は校正記
号で調整処理方法を次に示す.
ど
の
語
に
付
け
る
か
、
ど
の
よ
う
に
ル
ビ
を
配
置
す
る
か
に
つ
い
て
は
多
く
の
方
法
が
あ
る
。
唯
一
の
こ
れ
が
正
し
い
「
配
置
方
法
」
で
あ
る
と
決
定
す
る
の
は
難
し
い
。
し
か
し
読
み
や
す
い
、
誤
読
さ
れ
に
く
い
、
バ
ラ
ン
ス
が
と
れ
て
い
る
、
と
い
う「
方
法
」
は
考
え
ら
れ
よ
う
。
そ
の
方
法
は
ル
ビ
を
付
け
る
漢
字
一
字
の
「
読
み
」
を
示
す
の
か
、
ま
た
、
熟
語
の
読
み
を
示
す
の
か
、そ
の
言
葉
を
別
の
片
仮
名
語
で
示
す
の
が
目
的
か
な
ど
、
そ
の
目
的
に
応
じ
て
考
え
て
い
く
必
要
が
あ
る
。
ど
の
語
に
付
け
る
か
、
ど
の
よ
う
に
ル
ビ
を
配
置
す
る
か
に
つ
い
て
は
多
く
の
方
法
が
あ
る
。
唯
一
の
こ
れ
が
正
し
い
「
配
置
方
法
」
で
あ
る
と
決
定
す
る
の
は
難
し
い
。
し
か
し
読
み
や
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い
、
誤
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さ
れ
に
く
い
、
バ
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ン
ス
が
と
れ
て
い
る
、
と
い
う
「
方
法
」
は
考
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ら
れ
よ
う
。
そ
の
方
法
は
ル
ビ
を
付
け
る
漢
字
一
字
の
「
読
み
」
を
示
す
の
か
、
ま
た
、
熟
語
の
読
み
を
示
す
の
か
、
そ
の
言
葉
を
別
の
片
仮
名
語
で
示
す
の
が
目
的
か
な
ど
、
そ
の
目
的
に
応
じ
て
考
え
て
い
く
必
要
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け
る
か
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配
置
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か
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唯
一
の
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う
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そ
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法
は
ル
ビ
を
付
け
る
漢
字
一
字
の
「
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み
」
を
示
す
の
か
、
ま
た
、
熟
語
の
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み
を
示
す
の
か
、
そ
の
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葉
を
別
の
片
仮
名
語
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示
す
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か
な
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目
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に
応
じ
て
考
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て
い
く
必
要
が
あ
る
。
欧文の印刷文字の字幅
小 林  敏
07_08_09
和文の印刷文字の字幅は,原則として全角である(モノスペース).これに対して欧文
の印刷文字は,それぞれの文字ごとに固有の字幅をもっている(プロポーショナル).
欧文の印刷文字の固有の字幅とは,いったいどのようなものなのか,それを具体的に数
値で示したデータは少ない.そこで,コンピュータ組版ではないが,活字組版と写真植字
の例を次に示しておく.
1 バスカービル(モノタイプ社,イギリス)の欧字の字幅
欧字活字の字幅は,読みやすさを維持するために,小さな文字になるに従い相対的に字
幅は広がり,大きな文字になるほど相対的に字幅を狭くしている.単純に同一の原図を拡
大または縮小しているわけではない.各文字サイズごとに原図を用意していた.
以下では,欧文活字のバスカービル(モノタイプ社,イギリス)の字幅がどのように決
まっていたかを示す(モノタイプ社の資料を元に記述されている“出版編集技術  第二版”
(日本エディタースクール出版部,1980 年)の記事による).
1)1/18 が最小単位の基準
1/18 を最小単位の基準として採用している.その元になる大きさは全角である(後述
するが,正確にいうと全角ではない場合がある).主な文字の字幅は,次のようになる.
文字の後ろに 1/18 の何倍であるかを示す数値を掲げてある(アラビア数字については字
幅を示す数値をゴシック体にしている).9 という数値の文字の字幅は,9×1/18=1/2 の
計算から,いちおう二分の字幅と考えてよい.
A 13 B 11 C 13 D 14 E 12 F 11 G 14 H 15 I 8 J 8 K 15 L 12 M 18
N 14 O 15 P 11 Q 15 R 14 S 10 T 13 U 15 V 14 W 18 X 15 Y 13
Z 12 Æ 18 Œ 18  15
a 9 b 10 c 8 d 10 e 8 f 5 g 9 h 10 i 5 j 5 k 9 l 5 m 15 n 10 o 9
p 10 q 10 r 7 s 6 t 6 u 10 v 9 w 13 x 9 y 9 z 8
1 9 2 9 3 9 4 9 5 9 6 9 7 9 8 9 9 9 0 9
, 5 . 5 : 7 ; 7 - 6 – 9 ( 7 ) 7 [ 7 ] 7 ? 10 ! 7 / 6 ‘ 5 ’ 5
以上のようになっているが,基準が全角の場合,アラビア数字の字幅は全て二分という
ことになる.“M”は全角であるが,“n”は二分ではない.コンマ・ピリオドも一般に字
幅は四分といわれているが,四分よりわずかに大きい.斜線の“/ ”の字幅は三分である.
2)基準となる全角のサイズ
前述したように,文字サイズにより相対的な字幅を変更する必要がある.これは,基準
となる全角を変更することで実現している.次に示すのは,それぞれの文字サイズにおけ
る基準となる全角の大きさである(いってみれば相対的な全角とでもいえるか).上段が
文字サイズ,下段は,それぞれの文字サイズにおける基準となる相対的な全角の大きさの
サイズである(ポイントは“ポ”と略す).
文字サイズ	 6 ポ	 8 ポ	 9 ポ	 9.5 ポ	 10 ポ	 11 ポ	 12 ポ	 14 ポ
字幅の基準	 6.75 ポ	 8.25 ポ	 9 ポ	 9.5 ポ	 10 ポ	 10.75 ポ	 12 ポ	 13 ポ
9 ポ,9.5 ポ,10 ポ.12 ポの場合の全角は,文字サイズと同じであり,和文組版でいう
全角ということになる.これに対し,それ以外の 8 ポや 6 ポの文字サイズの全角は,文字
サイズより大きくなり,文字の字幅は相対的に広くなる.6 ポの“M”の字幅は 6 ポでな
く,6.75 ポ,8 ポの“M”の字幅は 8.25 ポになる.これに対し,14 ポの“M”の字幅は
13 ポとなる.9 ポの“M”の字幅は,文字サイズと同じ 9 ポである.アラビア数字の字幅
でいえば,8 ポは 4.125 ポ,9 ポは 4.5 ポ,14 ポは 6.5 ポとなる.
2 写真植字における欧字の字幅の例
写真植字の場合,欧字の字幅は,一般に 1/16 を基準に決められている.16 級の場合は,
その設定されている数値の歯送りにすればよいということである.
16 級以外の場合は,比例計算を行う.1 歯単位でしか字送りが処理できない場合(移動
できない場合),計算の結果,小数点以下の数値がでたときは,適当にまるめる.従って,
小さな文字サイズのときは,欧字の字間が正確に印字できない例もあった(その後,1 歯
以下の字送りができる,あるいは自動的に歯送りを設定できる機構をもった機種も製造さ
れるようになった).
また,文字サイズごとに応じた字幅の調整の仕組みはなく,文字盤の字母を拡大・縮小
して印字したので,小さな文字サイズの場合は,活字組版と異なり字幅が狭くなった例も
あった.
以下は,ガラモンドの主な文字の字幅の数値である(“写植 NOW[1]”(写研,1980 年)
による).
416	 ijl.,ʻ’-;:!
516	 Ifrst?()
616	 Jz
716	 Sacevy$
816	 FLbdghknopquxfifl1234567890
916	 EPff£
1016	 BCRTZæ%
1116	 AVXYw¥
1216	 DGHKNOQUmœffiffl
1416	 MÆ
1516	 WŒ

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