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池袋物理学勉強会 1
第 0 章
nubatamax/gm3d
July 16, 2014
池袋バイナリ勉強会拠点
2
(今日だけ)こういうことにつ
いて語っておきたい
●
分かるとはどういうこと
●
たとえ話の限界
●
理論化の前提
●
モデルとは , 理論とは
●
力学変数
●
変数の選び方
●
巨視的理論
●
理論の適用範囲
●
ロードマップ
3
分かるってどういうことかな
●
例 : ヒッグス粒子の説明
–
(日本語訳がついてるので Gigazine さんか
ら引用)
–
4
ふ~ん、そうかあ…
●
電子はスキーヤーみたいなものなんだ
ね?じゃあ、坂を登るときは遅くなるん
だ?
●
その日その日の天気に当たるもので質量
って変わったりするんだね?
●
真空の中を進むときもヒッグスの抵抗で
だんだん粒子のスピードは遅くなる?
… 実際はそうではない
5
たとえ話の限界
「 A が B である」ことを説明するのに
「 C は D である」というたとえを
用いても
A と C が同じでない以上無理がある
A は B だ!
C が D なのと同じだよ!
6
「 A が B である」が一般論、
「 C が D である」がその具体例
 になっている場合は
「理解を助ける」材料としては妥当。
しかし説明が C の特殊な性質に
よっているなら「証明」ではない
雪の例は、「似ているところがある」
だけで具体例ですらない
7
逆に、具体例「 C が D である」ことを
説明するのに、上位の一般論として
「 A が B である」ことを利用するのは
論理的には正しい。
しかしそれがより分かりやすいか
どうかは別問題。
ヒッグスの場合、南部先生の「自発的対称
性の破れ」の理論が上位概念、ヒッグス粒
子はその具体例と言うことはできるが…
8
言葉による説明の問題点
定義のあいまいさ
余計な含意
定量性の欠如
9
現象が数式にどうやってモデル化
されているか
物理やその他の自然科学を
きちんと「理解」するには
数式がどう展開され、結論に
結びつけられているか
… を押さえる必要あり
10
数式による現象の表現
あなたは数を見たことがありますか?
11
「数」や「式」は論理上の存在にすぎない
我々が実際に見るのは
「ひよこ」や「りんご」や「原子」であり
数ではない
しかし、現象の主要な性質、あるいは我々が注目する
性質は数式によって表現できる
問題のモデル化
恣意性の余地
12
現象
モデル
結果
理論により結論を得るステップ
変数の選択
数学的手段
それぞれの段階で
困難が存在
実験との対比
13
モデルと現実の食い違い
●
最初からモデルは理想化されたケースと考え、現実との完
全一致を放棄(余裕があれば後から再検討)
→ ほとんどの巨視的物理、工学
●
一番最初の出発点は第一原理から得られるが、厳密に解け
ないので直ちに近似の議論に入る→原子核理論など
●
モデルが現実を(最終的には)完全に表すことを
狙う→素粒子論
●
現象に普遍的に見られるある一側面だけをなるべく一般的
にモデル化し、そこから得られる結論を調べる→数理物理
14
どこまでをモデル化するかは自明ではない
現象との一致を改善するために、今まで無視していた
要素を変数として取り入れるのはよくあること
例:物性物理で結晶や金属の性質を考える
場合、最初は原子や電子のスピン等、最も
注目する量だけを定式化するが、その後必要に
応じて格子振動の自由度を取り入れたりする
物理学では、変数の選択自体も重要な問題に
なりうる
15
物理で現象を導くとは
●
「計算するとそうなる」
–
→ モデル化した後の話
●
モデル化に関しては、自動的に決まるもの
ではない
–
→ 基本は、「こうするとうまくいく」
●
「うまくいく」かどうかは実験との対比が
決める
–
16
モデル化自体の内在的理由から
モデルに制限が付くケース
クォークは 6 種類 (u, d, s, c, t, b)
→ ユニタリティ(確率の保存)
からの結論(小林・益川)
時空は 11 次元(超弦理論)
現象との対比で却下されるケース
タキオン(超光速粒子)
→ 安定な真空状態が存在しなくなるので却下
(モデルとしては成立するが、
明らかに我々の世界を反映していない)
17
力学系
●
現実に存在する系から注目する部分の変
数だけを抽象化し、力学法則に従うと考
えた物
●
モデル化された物理系
●
我々が当面扱う力学系は「質点」が中心
18
「質点」とは…
●
属性として持つのは、
●
質量 m
●
座標 x
●
の二つのみ。
●
「大きさ」、「形」、「硬さ」などは
考えない(モデル化の時点で捨て去ってしま
っている)
19
 質点として表せるもの
●
天体
●
リンゴ
●
原子、電子…
●
剛体
いずれも、それぞれ「ある範囲」においては質点
とみなせる
●
ただしそれが無条件に正しいと思い込んではいけ
ない→理論の適用限界
20
力学系の状態
●
力学系の状態は、各時刻における力学変
数の値が分かれば決まったことになる。
●
( モデル化が済んだ後の)物理学における
中心課題→力学変数の時間発展を調べる
こと
21
式で言うと
●
一次元空間(直線上)を運動する粒子
●
●
3 次元空間の場合
●
●
矢印の代わりに太字で書いたりする
●
n 次元空間でも同じ
●
22
一次元の場合で言うと、関数 x(t) が定まれば
質点の運動が分かったことになる
23
ニュートンの運動方程式
●
x(t) を定める方程式
●
●
●
f: 質点に働く力
●
m: 質点の質量
●
a: 質点の加速度
●
… という形で最初習うが
24
運動方程式の見方
●
まず、 a と書くと x(t) と関係ない量に見え
るが…
●
●
なので、運動方程式は
●
のように見る
( 加速度の定義 )
25
f(x): 質点に働く力
質点が位置 x にあるとき、質点に働く力は f(x)
→ 位置によって力が決まる
2 階の微分方程式
積分 積分
26
積分による時間発展の追跡
●
x(t) をすべての時刻 t において知りたい
●
初期データとして与えられているのは時
刻 t0 における x と速度 v のみ
●
いきなりすべての時刻 t について考えるの
は大変
●
とりあえず、 t0 からほんのわずかな時間
Δt だけ経過した後の位置を求めてみる
27
ごく短時間の間ならば、速度はほぼ一定のはず
→ 等速直線運動!
でも速度も次の瞬間には変わっているはず
→ どの程度変わるかは加速度から分かる!
上と全く同じ考え方
28
a0 は与えられていないが
●
加速度は運動方程式が教えてくれる
–
( f(x) は与えられているものとする)
29
t0 における情報から、 t0 + Δt における状態が求まった!
とすると、まったく同様に
30
実際には、有限の大きさの Δt では
誤差が生じる
Δt→0 、繰り返しの回数を無限大にした
極限が積分操作
31
積分と運動方程式を組み合わせることにより、
初期値 x0 と v0 から未来永劫にわたって
x(t) 、 v(t) が決まる
古典力学は決定論→ラプラスの悪魔
ただし、実際の現象に適用するには、 x0 、 v0 を無限の精度で
知ることはできないので、予測の精度には限界がある
32
f(x) を与えることが
「状況設定」にあたる
●
自由粒子
●
●
静電気力、重力
●
●
●
バネ振り子( aka. 調和振動子)
33
既知の解の例
●
自由粒子
●
●
●
●
調和振動子(バネ振り子)
(等速直線運動)
34
重力・静電気力の場合
●
一次元では困難が生じる
●
●
x が x=0 に近づくにつれて力が大きくなる→速
度も無限大に(初期値によるが)
●
3 次元( 2 次元でも可)に拡張すれば解消される
●
モデル化に問題、ないしは適用限界がある例
実際の解は煩雑なので書かない
35
参考: 3 次元の場合
36
37
時間発展を追うことが物理学の中心課題であるため、
時間微分に関しては特別な省略記法を用いる
( Φ は任意の関数)
38
ロードマップ(夢)
古典力学
特殊相対論
量子力学
場の量子論
超弦理論
一般相対論
… まずは古典力学の終わりが見えてきたら次を考えましょう
39
今後の進め方
●
第 2 回からは基本的にテキストに即して進みます
●
テキストがあるのでこんなに資料は作りません
–
必要に応じてピンポイントで
●
予習は…まあできる範囲でがんばって
●
基本的には講師がしゃべりますが、計算の必要な
ところなど、やってみたい人がいるようなら候補
者を募ります
●
ときどき理解度チェックタイムを入れます!
40
進め方(続)
●
Google グループに参加してください
●
https://groups.google.com/forum/#!forum/
ikeph
●
当面水曜固定で行きます
●
隔週で大丈夫ですか?
●
あと、次回から会場費 500 円です!
–
このスペースの維持のため
41
勉強会と関係ないお願い
●
先日「準天頂衛星アプリコンテスト」に応募して初めての android
アプリを作りました
●
SatelliteDust - みちびきのささやき -
–
ポエムなタイトルですみません
●
Google Play から検索してダウンロードできます
●
怪しくないので動かしてみて、よかったら動作報告や感想をおねが
いします(現在ダウンロード数による評価期間中なので!)
●
強引にこの勉強会と関係づけるとすれば…
–
パーティクルの運動に今日やった位置と速度の Δt毎の更新の考えを使っ
ています
–
衛星の軌道計算にも古典力学を使っています

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