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ウェブから読み解く空気感
筑波大学 システム情報系 佐野幸恵
共同研究者:高安秀樹(ソニーCSL),
Shlomo Havlin(Bar-Ilan Univ.), 高安美佐子(東工大)
“Identifying long-term periodic cycles and memories of collective emotion in online social media”,
PLoS ONE 14(3) e0213843 (2019).
Who?
• 佐野 幸恵 (Yukie Sano)
• 筑波大学 システム情報系 社会工学域 助教
• 博士 (理学・東京工業大学)
• 「ソーシャルメディアにおける単語出現頻度時系列の
解析とモデル化」
• 専門分野
• 社会経済物理、ネットワーク科学、ウェブサイエンス
• 略歴
• 2003年 奈良女子大学大学院 修了
• 「ネットワークの違いがダイナミクスに与える影響」
• 2003年~2007年 株式会社富士通ゼネラル SE
• 2007年 東京工業大学大学院 入学
• 2010年 日本大学 理工学部 助手
• 2014年より現職
2
ウェブと実社会
• ウェブには実社会が投影されている部分も多い
• 映画の興行収入、イベントの忘却と想起、選挙、気象など
• ウェブを発端に、実社会に影響を及ぼすことも多い
• デマの拡散が実社会の混乱を招くことも
• しかしウェブにおけるなんとなくの空気感については、
まだよく知られていない
• ここでは「集合的感情」と呼ぶ
3
デマ拡散のネットワークイベント前後での口コミ
実社会と集合的感情
• われわれは、直接、集合的感情を測定することはできないが、
集合的感情は実社会に影響を及ぼしている
• 「不安」な感情がデマの拡散を加速させることが、社会心理学の実験で
知られている
• 震災後の自粛「ムード」による消費の低下
• 集合的感情を量的に把握することは重要
• 例えば、いつまで自粛ムードは続く?いつCM再開すればよい?
4
https://www.weforum.org/agenda/2016/01/q-a-walter-quattrociocchi-digital-wildfires/
関連研究: Twitterを用いた幸福感の推移
5
Dodds, P. S., Harris, K. D., Kloumann, I. M., Bliss, C. A., & Danforth, C. M., “Temporal Patterns of Happiness and Information in a
Global Social Network: Hedonometrics and Twitter”, PLoS ONE 6(12) e26752. (2011).
http://hedonometer.org/
アメリカではクリスマスやバレンタインは幸福度が高い
(しかし、日本では幸福とは別の感情が増加)
本講演の流れ
1
• 「集合的感情」時系列の作成
2
• 感情の周期(週単位、年単位)
3
• 突発的な感情のピーク
4
• まとめと議論
6
本講演の流れ
1
• 「集合的感情」時系列の作成
2
• 感情の周期(週単位、年単位)
3
• 突発的な感情のピーク
4
• まとめと議論
7
本研究で用いるデータ: ブログ
• 様々な人が日記形式で、ウェブにテキストを投稿
• ブログも、ソーシャルメディアの一つであり、その中では
歴史が古く、長期間(〜10年間)の測定に適している
• 本研究ではブログに投稿されたテキストを用いて、集合的
感情を測定
8
・ ・ ・
・ ・ ・
24 blog providers
15 million users
1.8 billion articles
データの概要
Data is provided by Hottolink Inc.
期間: 2006/11/1~2016/10/31
• POMS(Profile of Mood State): 65項目の簡単な質問に答えることで、
被験者の一時的な感情を、6因子で測定する
9
怒り
(Anger)
混乱
(Confusion)
疲れ
(Fatigue)
緊張
(Tension)
活気
(Vigor)
抑うつ
(Depression)
集合的感情抽出の方法: POMS
Japanese versionEnglish version
• 元々は英語で開発され、1994
年に日本の心理学者によって
翻訳・発行され、広く使われ
ている
McNair, D., Loor, M., & Droppleman, L., “Profile of Mood States”, (1971).
感情時系列の構築:単純な足し上げ
• 感情kに関する時系列 Xk(t):
ここでnk は、感情kに紐づいている単語数であり、xk
i(t) は感情kに紐
づいている単語iの時系列
• 感情kの時系列は、 全数で規格化した時系列 Zk(t):
ここでY(t)は単語によらない、ブログ全体の時系列
• 最終的に平均が0、標準偏差が1になるよう標準化した時系列を扱う
10
10年間の集合的感情の推移
11
東日本大震災
(2011)
混乱
疲れ
活気
怒り
抑うつ
緊張
主成分分析によるゆるやかな変動
• 半年ごとを1点にまとめると、
緩やかに感情が変動している
ことがわかる=感情が突然動
くのではなく、記憶を持ちな
がら変化する証拠
12
1点が半年に相当
第2主成分までの累積寄与率 96%
ランダマイズした結果
本講演の流れ
1
• 「集合的感情」時系列の作成
2
• 感情の周期(週単位、年単位)
3
• 突発的な感情のピーク
4
• まとめと議論
13
週ごとの感情周期
14
• 東日本大震災のあった週を除く9年間の平均
月曜憂鬱
金曜は週末の天気が不安
土日は緊張が減少
週末疲れ
混乱疲れ活気怒り抑うつ緊張
土日は怒りが減少
15
季節ごと(月次)
の感情周期
新年度の始まりに緊張
• 東日本大震災時を
除く9年間の平均
混乱
夏は疲れが多い
活気
怒り
抑うつ
緊張
疲れ
ある日の空気感 – 緊張が高まる日
2月14日 4月7日
16
混乱
疲れ
活気
怒り
抑うつ
緊張
混乱
疲れ
活気
怒り
抑うつ
緊張
ある日の空気感 – 連休前後
4月24日から5月8日
17
5月7日
連休中明け
疲れと抑うつが高い
混乱
疲れ
活気
怒り
抑うつ
緊張
混乱
疲れ
活気
怒り
抑うつ
緊張
連休は緊張が低下
ある日の空気感 - 特異日
1月1日 12月31日
18
1年で最も
混乱と抑うつが高い日1年で最もPOMS感情が少ない
1年で最も活気が高い日
混乱
疲れ
活気
怒り
抑うつ
緊張
混乱
疲れ
活気
怒り
抑うつ
緊張
本講演の流れ
1
• 「集合的感情」時系列の作成
2
• 感情の周期(週単位、年単位)
3
• 突発的な感情のピーク
4
• まとめと議論
19
周期除去後に残る感情のピーク
• 東日本大震災:感情のピークがずれながら現れる
20
混乱のピークは震災3日後
抑うつ-落ち込みのピークは震災2日後
緊張-不安のピークは震災1日後
震災当日
周期除去後に残る感情のピーク
21
2008年 地震
混乱緊張
2016年
首都圏大雪
2009年 台風 2011年 台風
緊張
緊張
台風は近づいてくるので、前兆がある
地震は前兆がない 前日深夜からの大雪
本講演の流れ
1
• 「集合的感情」時系列の作成
2
• 感情の周期(週単位、年単位)
3
• 突発的な感情のピーク
4
• まとめと議論
22
まとめと議論
• 10年間の日本のブログら、6次元の感情を抽出
• 感情には長期記憶があり、緩やかに変化
• 感情には季節・週・日次の周期が存在
• 周期性を除去後に残る感情のピークは、主に緊張の感情であり、
自然災害が対応
• 今後、感情同士の影響関係を捉え、どのように空気感が関わり
合って変化していくのか、分析を進めている
23
24
バラバシ氏も来日!
発表・スポンサーお待ちしています!

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Notas do Editor

  1. 20分間 - プロフィール文(100字程度) 2003年奈良女子大学 大学院 物理科学専攻修了。博士(理学)。 企業でシステムエンジニアとして勤務後、退職して東京工業大学の博士後期課程へ進学し、学位を取得。 専門は社会経済物理で、主にソーシャルメディアに関する研究に従事。 - 講演タイトル ウェブから読み解く空気感 - 発表概要(200字程度) 東日本大震災後の自粛ムード、慶事の祝賀ムードなど、世の中の「空気感」は、 実体経済にも大きく影響するにもかかわらず、捉えることは極めて困難である。 本研究では、10年間ブログデータを用い、なるべく単純な方法で、6つの感情からなる空気感を定義した。 得られた結果からは、空気感は季節や週の周期性を持つこと、長期間に渡って緩やかに変化し続けることが示唆された。
  2. APFA: Applications of Physics in Financial Analysis
  3. Twitterが本格的に始まったのは2008年頃、instagramは2010年頃。
  4. 心理学的な裏付け、英語での先行研究もある
  5. After removing the weekly and yearly periodicities, there still remain some spikes. For example, the 3.11 earthquake was a special case where Tension continued to increase more than one month (37 days), followed by Depression and Confusion.