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イノベーション マネジメント
第9回
事業モデルのデザイン
収益モデルのバリエーション
中川功一
大阪大学大学院経済学研究科
Koichi NAKAGAWA
Graduate School of Economics, Osaka University
収益モデル
誰に
Target
何を
Product
どういう経路で
Place
Promotion
どういう関係で
Relation
どういう収益モデルで
Revenue Stream
1.まず「何を誰に売るか」
を考える(前回まで)
2.次に「顧客との関わり
方」を設計する
3.収益をどういう形で上げ
るかを考える
4.マーケティング・サイド
全体を総合的に調整する
ビジネスモデル・キャンバス右側(再掲)
⇒商品プランを核に、
ターゲット設定・マーケ
ティングプランをファイ
ン・チューニングする。
イノベーションでだれが儲けるか
どんな革新的なイノベーションも、パイは4者での分け合い
自社
顧客
競合
他社
供給
業者
自社がイノベーションを達成したとしても、その利益が全て自社に入ってくるわけではない
=これは経済原則であり運命。
だが、イノベーションの労苦に見合った取り分を獲得するためには、製品・サービス設計と
同様に、収益モデルもしっかり設計されなければならない。
⇒儲け方も、賢くならなきゃ
出所:Teece (1986)Profiting from technological innovation.
Research Policy, 15 (6)285-205.より中川改訂
収益モデルの考え方:
マーケティングのSTPで「応用問題」を解く
Product:
「何を」売るか
Price:
「どういう価格で」
Place:
「どの流通経路で」
Promotion:
「どう認知させるか」
Positioning:4P
Segmentation+
Targeting
「誰を」顧客とする
か
5
「誰に何を売るか」の基本はマーケティングのSTP。
だが、新事業開発では、STPを「どこでどう儲けるか」
=「収益モデルのバリエーション選択」という応用問題
を解くために用いる。
収益モデルは
「アイデア・ひらめき」の勝負ではなく
「引き出しの数」の勝負である
多くの事例・手法を知り、その中から製品・サービス・
顧客特性に合わせ、適切なものを選ぶ作業
セグメンテーション&ターゲティング
現代では、企業のターゲット市場は3次元的にとらえる
Segmentation+Targeting:誰を顧客とするか①
まず、垂直的な位置取りを再検討する
=そもそも今の領域でよいのかを見つめ直す
コンピュータ本体:
一番、儲からない領域
コンピュータ部品・ソフト:
MS、インテルは「PCだって作
れるけど、あえて作らない」
川上で儲ける 川下で儲ける
ITソリューションビジネスに
シフトし、世界中で10兆円以
上の売上を上げる
産業のメイン領域
収
益
性
※産業の利益が川上川下にシフ
トする現象を「スマイルカー
ブ」などとも呼んだりする
演習
「自動運転」ビジネスに存在する垂直的な事業位置取りを
挙げたうえで、どこに参入するのが望ましいか考えよ。
• 技術
• 自動運転車に固有の技術を開発し、特許を押さえる。
• 部品
• その技術を実装した部品を開発し、部品として覇権を狙う。
• 車
• クルマを生産し、クルマでビジネスをする。
• 運用サービス
• タクシー、データ収集、レンタカーやディーラー?
• 保守点検
• 実はここがチャンス?
11
価格
品質
Upper
Lower
Middle
どこがマス・マーケットになるかは、産業によって異なる。
品質・機能の割り切りも、ときには必要
Segmentation+Targeting「誰を」顧客とするか②
次に、水平的な位置取りを再検討する
良いものを出せば勝てる…時代ではない
Segmentation+Targeting「誰を」顧客とするか③
ニッチ市場の可能性
総売り上げは小さいが、確かに存在する、すき間市場
大企業が狙いとしないその市場を狙うことは、
早期のベンチャー企業にとってメリットが大きい
マニア、オタク、特殊用途市場はベンチャーの機会が充実
演習
「自動運転車」は、市場内のセグメントとしては
どこを狙うのがよいか?
• 高級品として売る
• 社会的成功者のためのクルマとして売る
• ニッチ市場向けの車として売る
• 特定の制限区間内で使う。工場内、テーマパーク内、リゾート、離島
• 障がい者向け、高齢者向け
• 普及品として売る
• 従来のクルマの代替品として売る
• 貧困層・地域向け低価格品として
• さまざまな機能を切り捨て、従来のクルマや鉄道とは異なる新しい移
動手段として貧困地域に普及させる
計算してみる
• 需要予測は厳密に(厳しく見積もるくらいで丁度よい)
• いくらで売れば、どのくらい売上がたつのかを計算する
• コストも計算してみる。この段階では、ざっくりでよい。
• 現段階で、どのくらい黒字が見込めるだろうか?
収支計算の例
収入の部 備考
収入 36,000 月額150万円 20店舗 ※損益分岐は10店舗
合計 36,000
支出の部
ソフトウェア償却費 4,000 VRコンテンツ開発1億円、管理アプリ開発2,000万円(3年償却)
ソフトメンテナンス費 3,000 保守費、バージョンアップ開発費(年額)
選手契約料 300 5万円/月×5名
内装償却費 1,200 内装初期投資600万円(10年償却)
備品費 7,200 VR1台10万円×36台(1年で交換)
人件費 12,672 時給1,500円 1日16時間
合計 28,072
営業利益(万円) 7,982 利益率22%
施設概要
スペック 60坪 定員36名
営業時間 月〜金 8:00〜22:00
あるサービス施設のベンチャー事業案
20店舗体制、3年目の状況と仮定
単価いくらでどのくらい展
開できれば
黒字化できるか
確認すべきこと
• 価格設定の妥当性
• 顧客数予測の妥当性
• 黒字化に必要な展開規模
いずれも根拠(ファクト)が必要なので、可能な限り詰めること
ただし。。。
ファクトの重さに、
アイデアが潰されないように。
アイデアあってこそのファクト
• ファクトが積み重ねられない=今までに誰も成し遂げてないから。
=だからこそ、イノベーションのアイデアとしては面白く、魅力
的。
• そんな中でも魅力的なアイデアをファクトで固めるのがイノベー
ターの仕事。
• だが、そんな原則を振りかざしても、ファクトがないものはない。
そんな時は、アイデアをどうか信じてほしい。
• 名だたるイノベーターを思い浮かべてほしい。ジョブズ、ザッ
カーバーグ、あるいは井深大でもよい。彼らは、ファクト起点に、
イノベーションを起こしているだろうか?
• アイデアから入るか、ファクトから入るか。この違いがイノベー
ターとそうでない者との違いであるとする学者もいる。
• 魅力的な機会の探索から入り、それを見つけたら飛びつくのがイ
ノベーター。
• 慎重な検証から入り、ひとつのゴールに向かってファクトを重ね
るのがすぐれた大企業リーダーの思考。
アイデアあってこそのファクト
数字を軽んじるベンチャーに未来はないが、
数字では測れないものを軽んじるベンチャーにも
未来はない
まとめ
ファクトとアイデアのバランスをとる作業こそが、
収益モデル設計
イノベーションマネジメント9

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