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通貨と持続可能性:
見失われた関連性
ローマクラブ
EU 支部の報告書
フィナンス・ウォッチおよびワールド・ビジネス・アカデミーに
捧げる
ベルナルド・リエター
クリスティアン・アーンシュペンガー
サリー・ゲルナー
シュテファン・ブルンフーバー
© 2012/2013
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日本語翻訳版 (二〇一二年三月)
通貨と持続可能性:
見失われた関連性
目次
ローマクラブ EU 支部マルク・デュブリュル会長の序文
ローマクラブのイアン・ジョンソン事務局長のメッセージ
世界芸術科学アカデミーのイヴォ・シュラウス会長およびゲリー・ジェイコブス理事長兼最高経営責任者による
書状
デニス・メドーズによる序文
要約
第一章 – なぜこの報告書を今?
第二章 – 経済のパラダイムを明らかに
第三章 – 危機の解剖
第四章 – 不安定性の説明: 複合流ネットワークの物理学
第五章 – 持続可能性への通貨の五つの影響
第六章 – 権力: 機構的枠組み
第七章 – 民間イニシアチブの解決策のサンプル
第八章 – 行政の解決策のサンプル
第九章 – 成長の限界を超えて?
謝辞
www.money-sustainability.net で入手可能な付録:
A: 通貨入門
B: 気候変動
C: パラダイムのマッピング
D: 複合流ネットワーク
E: 中国の洞察
F: 富の集中
著者について
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ローマクラブおよびローマクラブ EU 支部について
ローマクラブ EU 支部
フィリップ・ベルギー皇太子(名誉会長、序文作成時)
通貨に関する真実を語る
フィナンス・ウォッチおよびワールド・ビジネス・アカデミーへの
報告書への序文
われわれは通貨についての真実を述べているわけではないが、通貨は経済の中心にある。
そして経済が世界を支配している。ゆりかごから墓場まで、通貨は人間の福祉を支配しており、
地球の天然資源および環境の質を制御している。今日では、多くの点で地球生態系の限界を
超したことが一般的に認識されている。現在の生活様式は持続可能ではないという証拠がある
ためである。
政府、マスコミおよびリーダーの多くは、主流派の考えに世論を導くべくあらゆる可能な努力
を行っている。社会が成功を収めたいのであれば、現在のパラダイムを信じ続ける必要があると
いうのである。しかしながら、全てが金銭面で表現される必要があるのもまた事実である。そして、
支配的な金融システムおよび銀行業務という独占および主要な権力の外には救いはない。閉
鎖系が開放系よりも好まれ、複雑性は回避される。まことに、持続可能な解決策に関する近視
眼的な見方である。
とは言え世界には、「独創的な」思考や実践が数多く存在する。会議、刊行物そしてますま
すWWWを通じて、少なからぬ当局が現在のパラダイムの盲点を告発し、われわれに対してこ
れ以上待つことなく行動を起こすことを促している。だが、彼らのメッセージはマスコミを通じて伝
えられることはない。根本的な変革を求める叫び声があっても、少なくても欧州連合では一般民
にこれらメッセージは伝わっていない。
ブリュッセルに拠点を置くローマクラブの EU 支部は、欧州連合の各機関、各国市民および
四十年間にわたって世界を代表するシンクタンクであるローマ・クラブ・インターナショナルとの
間での橋渡しを行い、EU の持続可能な発展における考察の推進役となっている。今後数年に
おいてローマクラブ・EU 支部の理事が取る戦略的なオプションは、通貨 およびガバナンスの
問題に焦点を当てている。これには、これら分野において画期的な概念についての最先端の研
究の開始および促進が含まれる。
われわれはフェロー理事であるベルナルド・リエターに、主要な公的機関や民間部門の政策
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決定者、マスコミそして一般市民を含む、より幅広いグローバルな文脈での発展を目的とした
EU 政策の実施に関する社会的議論に貢献する、通貨と持続可能性についての報告書を準備
するよう依頼した。クリスティアン・アムスパーガー、シュテファン・ブルンフーバーおよびサリー・
ゲルナーといった共著者とともに彼はこの報告書を作成し、ローマクラブ EU 支部の承認を完全
に得た。
この問題はその性質上世界的なものであるが、ローマクラブ EU 支部はこの報告書を同名義
で主に、著名で権威があり独立した欧州の団体に対して向ける必要があると感じた。最も適切
な選択肢は、欧州議会の議員のイニシアチブとして最近発足した公益法人フィナンス・ウォッチ
であるように思われる。この団体は金融が社会のために機能するよう努めており、市民アドボカ
シーを実施し、私的利害関係を持つ金融界によるロビイングへの対抗勢力として立法者に対し
公共への議論を提示することにより、金融規制改革における社会の意見を強化している。
この文章の執筆時点ではわれわれは公益の保証人としての政府の解体を目の当たりにして
いる。ほとんどの EU 加盟国においてほぼ全てが売却されている。緊縮財政が全ての段階で強
要されている。新しいガバナンス構造が時代遅れとなった既存のものに取って代わらない限り、
社会的不安は拡大し続けるだろう。
ここ欧州連合においても大きな挑戦となる。「通貨と持続可能性: 見失われた関連性」の刊
行により、数多くの政策決定者および指導者に影響を与え、通貨問題において新しく創造的な
アプローチを選択すべく進路を変えることを期待したい。われわれは全てのレベルにおいて、道
徳的な意識の高まりを緊急に必要としている。
この短い前書きに連帯署名を行うことでローマクラブ EU 支部は、世界芸術科学アカデミー
および欧州芸術科学アカデミーに対し、この報告書へのサポートに感謝する。
マルク・デュブリュル
ローマクラブ会員
ローマクラブ EU 支部長
フェリックス・ウンガー
欧州芸術科学アカデミー理事長
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二〇一二年二月二七日
親愛なるベルナルド、
現在の経済的、政治的および道徳的危機は、この問題を生み出したものと同一のアプ
ローチを適用していては解決どころか緩和することも覚束ない。新しいアイデアや独創的な
思考、そしてパラダイムシフトが要求される。当然視されてきた従来の発想を改めて検討して
疑ってかからなければならない。通貨はそのような概念である。
世界芸術科学アカデミーは、ローマクラブ EU 支部の取り組みを保証かつ強くサポートし、
この重要で独創的な研究を十年以上前に始め、当アカデミーの会合で発表したフェロー、
ベルナルド・リエターに対して感謝の意を捧げる。リエターおよびその協力者クリスティアン・
アルンパーガー、サリー、ゲルナーおよびシュテファン・ブルンフーバーは通貨と持続可能
性: 見失われた関連性という素晴らしい研究を作成し、これは現在の通貨危機の原因およ
びその対策を理解しようとしている指導者、政策立案者、理論家が注意深く読む価値がある
ものである。
この研究は、人間資本の基本的な価値や役割を強調する世界芸術科学アカデミーの他
の取り組みを補完するものである。この報告書では通貨が、人類の福祉を社会が最大化で
きるよう意図された人工的道具であることが惹起される。現在支配的な通貨システムでは、
雇用を創出し、実際の収入を増やし社会的平等を推進する生産的な投資ではなく、不安定
な投機的投資に向けて通貨の増殖を促している。この報告書では十分に活用されていない
社会的資源、特に現在システムにより人的潜在能力が無視され無駄遣いされている失業し
た、あるいは雇用が不安定な膨大な人数の若者および成人を活用できる代替通貨戦略が
検討されている。この報告書は、政治的および経済的アクションをただちに要求している。
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著者およびローマクラブ EU 支部に対しては、この重要な取り組みに対して感謝の念を
申し上げたい。
敬具、
イヴォ・シュラウス会長 ゲリー・ジェイコブス理事長兼最高経営責任者
デニス・メドーズによる序文
ヒ素は薬品として何千年もの間使用されていた。無論、これは致死性の毒物である。しか
し短期的に病状を和らげる能力により、多くの被害者がこれを使用することとなった。より安
全な薬に代替されるには、前世紀まで待たなければならなかった。
債務の創造を通じて民間機関が発行する不換通貨は、各国政府により何百年もの間使
われてきた。その致死性の作用が明らかになっている。しかし病状を和らげる能力により、こ
の通貨は使われ続けてきた。われわれは、今世紀により安全な代替物の使用を開始できる
ものと期待する。
私は持続可能性についての文献に四十年間目を通してきた。その間、この問題に関す
る何百もの会議に参加してきた。しかし、ベルナルドの著作を目にするまで、われわれの社
会が破滅へと邁進する原因として金融システムを叙述した人に出会ったことがなかった。事
実はその逆であり、金融システムにおけるささいな変化がどのように、持続可能性に至る道
筋にグローバル社会を動かすかを特定するために幅広い努力が行われている。
水中に浸かった魚は決して火を起こすことはできない。現在の金融システムに浸かった
ままでは、われわれは決して持続可能性を生み出すことはできない。現在の通貨制度が持
続可能性を遮断するさまざまな方法を克服するような税金、金利あるいは情報開示要件は
存在しないのだ。
私はこの点について以前は考えていなかった。実際、通貨制度についてまったく考えて
いなかったのだ。人間社会における中立で不可欠なものとして、当然あるべきものと考えて
いた。しかしベルナルドの分析を読み始めてから私はまったく異なった見識を持つに至った。
彼だけではない。たとえばトーマス・グレコもこの問題について本を書いている。しかし金融
システムに関するベルナルドの実践例、理論的理解、そして歴史的展望の深さは他を寄せ
付けない。
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今では私は、この文章で明確に証明されているように、現在優勢の金融システムは持続
可能性とは以下の五点において両立できないことを理解している:
- 経済に好不況の波を生み出す
- 短期的思考を生み出す
- 果てしない成長を要求する
- 富を集中する
- ソーシャル・キャピタルを破壊する
これらのうち一つだけでも、持続可能性への移行のための注意深く検討された計画を頓
挫させるのにおそらく十分であろう。これらが合わさることにより災害への処方箋となり、まさ
にこれが現在われわれの身に降りかかっていることである。金融システムの不安定性は、こ
れら著者が指摘するように、警告を発するに十分なものであるべきだ:
「国際通貨基金によると、一九七〇年から二〇一〇年までの間に一四五もの金融危
機、二〇八もの通貨危機そして七二ものソブリン債危機、すなわち合計でなんと四二
五ものシステム上の危機が発生している。一年あたり十件以上である! これら危機は
国際通貨基金加盟国一八〇ヶ国のうち四分の三以上に打撃を与え、何度も危機を
体験している国もある」
二〇〇八年の危機について熟知した世界でも最も真摯な識者は、不安定さの原因が変
化していないと信じている。実際、その原因の多くは悪化した。間違いなく、さらに別のグ
ローバルな金融危機が起きるだろう。
英語のことわざとして、「水揚げされた魚のような」という表現があり、これは不慣れでぎこ
ちない状況に置かれた人間あるいはものを指す。しかし魚が自ら水から出ない限り、どんな
実験を行っても火を起こすことはできない。われわれの努力によって持続可能性を達成する
見込みがあるのであれば、われわれは新しい通貨システムの実験を行うぎこちない期間を
経る必要がある。
実現可能な補完通貨システムのみでは、災難へのわれわれの突進を止めるには十分で
はない。しかし、これなしでは破滅を回避する可能性はゼロである。
この文章は素晴らしい情報源であり、異なる本四冊を書くのに十分な題材がある:
- 従来の経済的思考への徹底的批判
- 現代社会において通貨が創造される仕組みについての卓越した論考
- 気候変動および将来における金融システムの崩壊から予測されるさまざまな問題
の説明
- 現在の金融システムに対する、九つの異なる実用的な補完通貨システムの提案
このためこの本は、非常に異なった目的を持つ人たちにとって便利な出発点となる。
われわれの遠い祖先は最終的に火に基づいた技術の開発に成功した。しかしそのため
には海から離れる必要があった。われわれの子孫は間違いなく、持続可能性に基づいた技
術を開発するだろう。だがそのためには、現在の通貨システムから離れる必要がある。この
本では、それを行うための動機付けおよび予備的指示が提供される。
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デニス・メドーズ名誉教授
ニューハンプシャー、二〇一二年二月
要旨
われわれの世界は二重の意味で、持続可能性の危機という甚大な課題に直面している。
一方では気候変動、温室ガスの放出量の増大および食料やエネルギーの価格高騰により、
われわれが財やサービスを生産し消費する方法が持続不可能になったことが示されている。
他方では繰り返される金融通貨危機により、われわれの通貨システムが固有の問題を抱え
ていることが明らかになっている。二〇〇七年から二〇〇八年にかけて通貨システムを下支
えして金融危機を「救済する」という試みは、「ケインズ的刺激」により悪性の経済的副産物を
含む失敗に終わり、政府債務を急増させた。ソブリン債およびユーロ危機を受けて EU 諸国
政府は現在、極端な金融政策に走っている。年金、失業およびその他の社会的セーフティ
ネット、さらにポスト化石燃料経済への投資が何よりも必要とされている際に、これらが全て
危機に晒されている。並行して多くの公共財が民営化されつつある。
環境保護者は往々にして、「グリーンな」税金の創設や銀行に持続可能な投資への融資
を促したりする通貨インセンティブを提案することにより経済危機に対処している。それに対
しエコノミストは、金融危機は回復し、さらなる規制および公的支出のさらに厳しく長期的な
緊縮政策が必要だと語っている。よりグリーンな税制、より少ない政府予算、よりグリーンな
ユーロ/ドル/英ポンドは、お門違いではないだろうか?
金融と環境、通貨と持続可能性、あるいは別の場所に、「失われた関連性」がないだろう
か? 構造的な通貨制度の欠陥、すなわちまさに通貨の創造方法における欠陥が、厄介な
問題を生み出しているとしたらどうだろうか? 二一世紀の課題に直面するために、通貨制度
を再考しなければならないとしたらどうだろうか?
第一章—この報告書の目的
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この報告書には三つの目的がある:
 欧州および世界を襲っている金融・通貨危機が、見逃されてきた構造的原因を持つ
という証拠を提供すること。この構造的原因への対象は、今日の課題に対処する上
での必要条件である(が、十分条件ではない)。
 気候変動と少子高齢化という、世界の二つのトレンドを踏まえた上で通貨問題とその
解決策を提示すること。気候変動の最悪のシナリオを回避するためには、政府のリー
ダーシップおよび資金拠出を必要とする大規模な投資が現在必要とされているとい
う認識がある。同時に、ベビーブーマーの引退により歳入が減少する一方で、すで
に過負荷状態の社会保障への圧力がさらに増す。両方の問題はこの十年で最高潮
に達し、どちらも緊縮財政とは共存できない。われわれの現在の通貨のパラダイムを
継続すると政府は、社会や環境の問題に対処する上で無力化してしまう。
 市民、NPO、企業あるいは政府により実施可能で、持続可能性の問題において欠か
せず、多くの国を現在悩ましているいくつかの問題を構造レベルで解決する実用的
ソリューションを提示すること。
後世の歴史家はおそらく、二〇〇七~二〇二〇年の期間を金融騒乱および段階的な
通貨破綻の時代だと記すことになるだろう。通貨分野での制度的変革が破綻後にしか起き
ないことも、過去の歴史がすでに実証している。このため、まさに今こそが通貨問題につい
て目覚める時期なのである。
第二章—経済のパラダイムを明らかに
経済問題についての討議が、エコノミストの議論が根ざしているパラダイムを明らかにす
ることはほとんどない。ここではわれわれのアプローチが根ざしている概念的枠組みを明ら
かにし、現在使用されている他のパラダイムを比較することから始まる。われわれの枠組み
では環境および社会問題を「外部不経済」と考えるのではなく、経済活動を社会領域の一
部とみなし、その社会領域も生物圏の一部とみなされる。この視点により、われわれの経済、
社会および環境問題の多くに対処するのに十分な柔軟性を持つ新たな一連の実用的な
ツールの登場のための基盤が提供される。
通貨制度に関してわれわれは、三層の集団的「盲点」を蒙っている。最初の盲点は家父
長主義的な社会と関連しており、この社会は歴史的に独占権力として中央集権的に発行さ
れる単一通貨を、金利の徴収の下で発行してきた。その一方で、エジプト王朝や欧州の中
世中期などの母親中心社会では、数多くの並行通貨の仕様が促された。これにより経済の
安定性、平等な反映、そしてわれわれよりも長期的な視野でものごとを自然に考えるようにな
る経済が生まれた。
われわれの二つ目の集団的「盲点」の層は、二十世紀における資本主義と共産主義と
のイデオロギー的闘争が生み出したものである。両制度の間の細微な差異は嫌気が差すほ
ど研究されてきたが、両者の共通点、特に両者とも銀行への債務を通じて単一通貨による
国家の独占を課しているという事実については、それほど研究されないままであった。両者
の間での唯一の明らかな違いは、ソビエトの制度では政府が銀行を保有した一方、資本主
義制度ではこれは、「巨大すぎて潰せない」銀行の事例により深刻な困難が生じたときなど、
一時的にしか起きないという点である。
十八世紀以降、通貨の独占の執行者としての中央銀行の創設を通じ、制度の現状が組
織化された。組織の枠組みにより、最後の「盲点」の層が紡ぎ出される。
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これら三つの層により、単一で独占製造される通貨のパラダイムの再考に対して強力で
執拗な抵抗が存在する理由が明らかにされる。
第三章—危機の解剖
今日の為替取引および金融デリバティブ市場は、地球上にあるそれ以外のもの全てを
矮小化してしまう。二〇一〇年には為替取引量は一日当たり四兆ドルに達した。世界にお
ける商品およびサービスの輸出入総額はこの額の約二パーセントにしか過ぎない。すなわ
ち、これら市場の取引のうち九八パーセントは完全に投機的なものである。この数字には、
二〇一〇年の世界 GDP 総額の八倍にのぼる六百兆ドルもの額が想定されるデリバティブ
を含んでいない。
このような巨大市場で、二〇〇七年の金融危機が勃発した。以前の金融危機同様、納
税者負担がいくらであれ銀行を救済する以外の選択肢を持たないと各国政府は感じた。確
かにこれは一九三〇年代以降われわれが経験した最悪の危機だが、これは今回が初めて
ではない。IMF のデータによると、一九七〇年から二〇一〇年までの間に一四五ヶ国が金
融危機を経験し、通貨破綻が二〇八回、そしてソブリン債危機が七二回勃発した。すなわち、
毎年十ヶ国以上が危機に晒されたのである!
失業、失われた経済生産、社会的断絶および幅広く広がった人類の苦しみといった結
果は、劇的なものである。二〇〇七~二〇〇八年の危機の全金融コストは未曾有のもので
ある。たとえば米国では七百兆ドルもの不良資産救済プログラムが話題に出るが、これは救
済活動における序幕のコストにしか過ぎない。このプログラムへの言及には通常、「この資金
の大部分は現在までに回収された」というコメントが続く。米国の事例が興味深いのは、裁判
所により政府と中央銀行の両者が、二〇〇七年から二〇〇八年の危機に関連した救済プロ
グラムの総額を公表するよう義務付けられている唯一の国が同国だからである。TARP に加
えて四九もの別のプログラムが米国における救済には含まれており、総額は一四・四兆ドル
となる。ちなみに、二〇〇七年における米国の国内総生産(GDP)の総額は十六兆ドルであ
る。
銀行への援助、そしてデフレ不況を避けるべくそれに続いた大規模なケインズ的景気
刺激計画は、莫大な財政赤字およびその結果として追加の公的債務を生み出した。金融危
機に見舞われた二三ヶ国では政府債務額が平均で GDP の二四パーセント増大した。アイ
スランド、アイルランド、スペイン、デンマークおよびラトビアといった欧州諸国ではさらに状
況は深刻で、政府債務の増大幅は GDP の三十~八十パーセントに達した。
この危機は最悪のタイミングで起きた。今後十年におけるベビーブーマーの退職という
高波により、公的債務に対してさらなる膨大な圧力が加わる。国際決済銀行(BIS)が二〇一
〇年に行った調査によると、二〇二〇年までに高齢化関連の債務により英国では政府債務
の対 GDP が二百パーセント超に、そしてアイルランド、イタリア、ギリシア、フランス、米国そ
してベルギーでは一五〇パーセント超になることが示されている。二〇四〇年までに、予想
された高齢化関連の費用は全ての国において、債務の対 GDP 比を三百~六百パーセント
へと押し上げる。
金融部門が推奨する解決策は、一連の強制緊縮財政政策の即時実行および政府が全
てを民営化するようにという要求である。対象となった政府財産の一覧が知られている国で
は、これには公共の道路、トンネル、橋梁、駐車場、空港、政府所有のあらゆる事務所、さら
に上下水道システムが含まれる。データが入手可能な米国の場合、これは連邦政府、州政
府および市役所の資産九・三兆ドルに達する。金融部門による米国の状況の査定では、
「公的サービスの削減による政治的痛みが資産売却による有権者の票の減少コストよりも大
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きくなると、この市場が始動する。草の根レベルではすでに政治的痛みの限界値に達してい
る」1 と記述されている。
同様に欧州でも、英国は一六〇億ポンドの民営化プログラムを発表した。イタリアで
はベルルスコーニ政権により九千もの公有地が競売された。フランスのサルコジ政権はすで
に全国の高速道路網を五十億ユーロで売却した。ギリシアの救済策の付帯条件には、五百
億ユーロもの民営化が含まれていた。そして他国も同様である。これら圧力は長期間におい
て蔓延する。しかしその後何が起こるだろうか。なぜ、事務所の家賃を払ったり、以前は国有
だった道路を従業員が通る際に通行料を払う必要が出ると、政府の信用が増すというのだろ
うか?
この道のりを盲進する前に、金融面での巨大な失敗の単なる一事例として現在の危
機を考えるのではなく、すべての金融や通貨危機に共通の、基本的かつ制度的な原因があ
るかどうか見定めることは有益ではないだろうか?
第四章—不安定性の説明: 複合流ネットワークの物理学
十九世紀より主流経済学は経済システムを閉じたものと分類した。閉じたシステムは他
のシステムあるいは外部環境と比較的それほど相互作用しない一方、開いたシステムは相
互作用する。閉じたシステムにおける知的に非常に便利な特徴は、放っておくと静的平衡に
達する点である。
この報告書では経済を、さまざまな経済主体の間を通貨が流通する複合流ネットワーク
で構成される開いたシステムとして経済を眺望することを提案する。最近になって単一の測
定基準で、構造的多様性および相互接続性を基盤とした複合流ネットワークの持続可能性
を測定することができるようになった。主要な発見は、効率と復元力という、どちらも同様に必
要不可欠だが相互補完的な要素の間での決定的なバランスを保った場合にのみ、複合流
システムが持続可能になるという点である。復元力を犠牲にして効率に過度の重点が置か
れると、多様性が犠牲となる。この結果自動的に、唐突なシステムの崩壊が起きる。
われわれは、銀行への負債を通じて創造される単一の国の通貨という、どの国でも同じ
種類の交換手段が流通している世界レベルでの通貨モノカルチャーを擁している。このよう
なモノカルチャーにより、脆く持続不可能なシステムが生まれる傾向にある。完全に異端で
はあるが持続可能性のチャンスを得るための構造的な解決策は、利用可能な通貨手段およ
びその創造主を多様化することである。すなわち、われわれは通貨の生態系を必要としてい
るのだ。
第五章—どのようにして通貨が持続可能性に影響を与えるのか
通貨あるいは金融危機は非常に破壊的になる可能性があり、当然ながら持続可能性と
は両立しない。より知覚が困難なことは、われわれの通貨制度に組み込まれたメカニズムの
うちいくつかが – 危機にない場合 – どのようにして個人および集団的行動を形成するか
である。プラスの影響の中でも、現代の通貨が歴史的に例を見ない形で企業や科学の爆発
的革新を引き起こしたことを認めなければならない。しかし、持続可能性とは直接両立しな
い、以下の五つのその他のメカニズムも存在する:
 好不況の波の拡大: 銀行はある分野あるいは国に対して資金の提供あるいは回収
を同時に行い、好不況の景気循環の波を拡大する。これは、銀行部門自身を含む
全てにとって不利益をもたらす。最悪のシナリオでは、銀行同士が相互不信に陥ると
いう、われわれの現状となる。
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 短期的思考: いかなる投資評価においても、「割引された資金の流れ」が標準の慣
行となっている。なぜなら、銀行への債務通貨は金利を生み、将来の費用あるいは
試算の割引により不可欠的に短期的思考に導くためである。
 成長の強制: 複利、すなわち金利への金利というプロセスにより、経済に対して指数
関数的な成長が強要される。しかし指数関数的な成長は、その定義上有限の世界
においては持続不可能である。
 富の集中: 世界中で中産階級が消えつつあり、富の多くが上層部に流れ、底辺の
貧困層の割合が増加している。このような不平等により幅広い社会問題が発生し、経
済成長にも悪影響を及ぼしている。経済問題に加え、民主主義そのものの存続も脅
かされている。
 ソーシャル・キャピタルの引き下げ: 相互信用および協力行動といったソーシャル・
キャピタルは歴史的に測定が難しかった。しかしながら、測定が行われると常に、特
に工業化された国ではソーシャル・キャピタルが磨耗する傾向にあることが明らかに
なっている。最近の科学的研究では、自己中心的で非協力的な行動を通貨が推進
していることが明らかになった。これらの行動は、長期的な持続可能性とは両立しな
い。
一般的に思われているような、行動面において中立で受動的な交換手段とは大きく異
なり、従来の通貨は幅広い行動パターンを深く形成しており、上述されたそのうちの五つは
持続可能性とは両立しない。この種類の通貨の独占の継続的強要により、地球における人
類の将来が影響を受けている。
第六章—権力: 機構的枠組み
通貨の歴史は、権力と密接に絡み合っている。歴史家ニーアル・ファーガソンは、議会、
専門的な課税官僚組織、政府債務および中央銀行という四つの主要な機構の登場を通じ
て現代の通貨の枠組みが金融戦争へと発展した方法を示している。この「権力の四角形」は
十八世紀の英国でまず最適化されて産業化、そして全世界的帝国を生み出した。これと同
一の通貨の取り決めが全世界に広がり、今日では実質上世界どこでも根本的な構造となっ
ている。
銀行制度と政府との関係は何百年にわたって変化していないと多くの場合思われてい
る。必ずしもそうではないことが、フランスのケーススタディにより示されている。実際、一九七
三年以降フランス政府は民間部門のみから借り入れ、それにより新たな債務に金利を支払う
ことを強制されている。この変化がなければ、現在のフランス政府の債務は現在の七八パー
セントではなく、わずか八・六パーセントであったことであろう。さらに、マーストリヒト条約およ
びリスボン条約により、同じプロセスが署名国全てに一般化された。
実施可能な根本的解決策の一つとしては、政府自身が通貨を発行し、その後徴税とい
う形で回収するという方法がある。この方法は一九三〇年代に「シカゴプラン」として知られ
ていた。通貨創造の国有化により銀行は、単なる通貨の仲介業者の地位に留められること
になる。シカゴプランでは将来の銀行破綻の可能性を劇的に減らし、ソブリン債務危機を全
て即時に解決するが、これにより民間部門の通貨独占が公的部門に移行するに過ぎない。
これでは、必要とされている通貨生態系に近づくことはできない。
公的見解では、全ての家計同様政府も、活動に必要な資金を稼ぎ出す必要があるとさ
れている。これは税収による収入あるいは債券発行による債務を通じて達成される。この場
合、銀行は単に預金を集めそのお金の一部を、政府を含む信用に足る個人および機関に
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貸し出す仲介業者としてのみ行動することになる。しかし、公式には無から生み出されるフィ
アット通貨が普遍化した一九七一年以降、このシナリオは完全なフィクションとなった。
フィアット通貨のパラダイムにより、このシナリオに別の解釈が提供される。フィアット通貨
では課税の主要目的は、それ以外には内在的な価値を持たない通貨への需要を喚起する
ことにある。選択された通貨のみでの納税義務が、通貨に価値を与える。このため主権国家
の政府は、納税という形で要求することにより、価値を与えたいものを選択できる。こうして政
府は、この選択された通貨を得るために払うべき努力の種類を規定することができる。この解
釈は学会の強力な裏づけがあるが、公式見解の推進では無視されている。
公式見解では、匿名で万能の「金融市場」の前では政府は完全に無力である。フィアッ
ト通貨のパラダイムではその性質上政府は、銀行債務通貨と同時並行で別の通貨に価値を
与えることが選択できると考えられる。二一世紀の課題に対処するには、政府がそうする必
要があるというのが、われわれの提案である。
第七章—民間イニシアチブの解決策のサンプル
画期的な動機のシステムの例九つが、この章および次の章で紹介されている。これら
は全て従来の銀行債務通貨と同時並行で機能して、費用対効果の高い電子媒体を使用す
ることができ、利用者にとってできる限り透明性を確保するものでなければならない。これら
システムの自己管理を高めることにより透明性は、詐欺の可能性を削減する上で大きな役割
を果たす。システムの紹介順番は、最も簡単で賛否両論を巻き起こす可能性が最も少ない
ものから始まり、最も複雑で革命的なもので終わる。最初の五つの事例は、NGO あるいは企
業により民間の手で開始可能なものであり、以下の通りである:
 ドラランド: 「学習国家」の創造目的でリトアニア向けに提案されたシステム。この国で
は誰もが学んだり、および/あるいは教えたりするボランティアになれ、夢を叶える手
伝いする目的の通貨ドラで報酬を受け取る。これは NGO による導入が最適である。
 健康トークン: 予防医療の提供業者と協力している NGO のイニシアチブで、健康問
題が発生する前の予防が目的。健康トークンは健康な行動に褒賞を与えて促進し、
社会に対する長期的な医療費を削減する。
 自然貯蓄: 生きた樹木に完全に裏づけされた金融貯蓄商品。これは、インフレから
の保護という点でどの国の通貨よりも優れた貯蓄通貨である一方、同時に地域の再
植林へのインセンティブを提供し、これにより長期的な二酸化炭素排出量を抑える。
また、別の長所としては小規模貯蓄とも非常に相性がよい。
 C3: 中小企業に運転資金を提供することによって失業を減らす企業間(B2B)システ
ム。ネットワークの決済通貨は良質の請求書により担保され、必要に応じて従来の通
貨に換金できる。保険業および銀行は、このシステムにおいて重要かつ儲けの出る
役割を果たす。C3 は今日ブラジルとウルグアイで運用されており、後者では政府が
あらゆる税金の支払い手段として C3 を受け取っている。
 テラ: 長期的思考が多国籍企業にとって儲けが出るようにし、企業の短期的な金融
面での優先課題と社会および環境の長期的なニーズとの競合を解消するグローバ
ルな B2B 通貨の提案。グローバル経済に重要な商品およびサービスのバスケットに
より完全に担保される、インフラおよび破綻の心配のない通貨となる。テラは既存の
各国の通貨とは異なるグローバル通貨になり、通貨影響圏の周辺での地政学的緊
張を緩和する。
- 14 - (please subtract 26 pages for correct number)
第八章—行政イニシアチブの解決策のサンプル
次の四つの画期的な動機のシステムの例は、市町村、地方あるいは国レベルで開始さ
れる行政のイニシアチブであり、以下の通りである:
 トレケス: ボランティア活動に加え、貧しい地区において環境にやさしい行動および
社会的絆を推進する都市ベースの取り組み。ベルギーのヘント市で二〇一〇年より
運用されている。
 びわ: 日本最古かつ最大の琵琶湖の環境修復および保全の人件費を賄う、日本の
滋賀県向けの提案。県内在住の家庭には、自主参加あるいは強制参加の両方の形
態を取り得る。
 Civics: 市町村あるいは地方政府に対し、財政に負担をかけずに市民活動を推進さ
せる提案。これら活動により社会的、教育的および/あるいは環境にやさしいプロジェ
クトの人件費を賄うことができる。これらシステムは、貢献の強制という形態を取ること
もできる。
 ECOs: 全国あるいは欧州全体のシステムで、気候変動の防止や適応プロジェクトと
いった大規模の環境プロジェクトの決定的な要素への資金提供を可能にする。企業
に対して売上に応じて、ECOs でのみ支払可能な貢献を政府が課す。これは、大企
業にとって新手の法人税とみなされることから、九つの提案のうち最も意見が分かれ
るものとなる。このような取り組みでは政府は、手に負えない気候変動に対して「宣
戦」するが必要になる。
この九つのシステム – 民間のものが五つと行政のものが四つ – は、異なる通貨生態
系のメリットが明らかになる前に全て導入される必要はない。各地区、都市、地方あるいは国
が、導入するシステムの種類を選択することができる。世界ですでに運用されているさまざま
なその他のデザインとともに、このような新しい交換手段の組み合わせはそれぞれ、適切な
通貨生態系が出現する機会を提供する。このようなシステムのうちいくつかは失敗する。しか
し、樹木のように最も成功する種類が自発的に繁茂することとなる。特に、各システム種別に
おいて最も適切なガバナンス構造が何かについてわれわれは、まだまだ多く学ぶ必要があ
る。
第九章—成長の限界を超えて?
H・G・ウェルズは、「歴史は教育と大惨事との競争である」と述べた。この特別な競争の
課題は、今日ほど困難であったことはない。誰もが学習をする必要がある:
 今日のエリート、特に金融エリートにとって、経済歴史学者アーナルド・トインビー2、
あるいはより最近ではジャレド・ダイアモンド 3 の古典的著作に目を通すことが重要
であるように思われる。トインビーは二一もの文明の滅亡を、富の過度な集中、およ
び手遅れになるまで状況への対応に重点を移さなかったエリートというわずか二つの
原因で記録した。ダイアモンドは文明滅亡の直接的原因として環境破壊に焦点を当
てた。現在われわれは同時に、この三つの原因の限界に直面している。文明が滅亡
するとエリートでさえ保護されないことは、歴史が教えている。
 経済学の訓練を受けた者にとって、必要な発想の転換は彼らが受けた教育に秘めら
れたパラダイムを見つめ、この報告書で用いられるアプローチを比較することである。
- 15 - (please subtract 26 pages for correct number)
 一般民衆にとって必要とされる最も重要な学習は非直線性、とりわけ直線状と指数
関数的成長の違いを理解することである。現在われわれは、ますます非直線的な世
界に対処している。これら異なった動力の理解は、われわれに起きていることおよび
それに対しての対処法の理解において有益であろう。
終わりに、われわれの現在および将来の問題を解決する上で補完通貨を特効薬とみな
すのは、現実離れした甘い期待である。しかし、いかなる効果的な解決策においても通貨の
再考は必要な要素である。われわれはもはや、持続可能性と通貨制度の間の失われた関
連性を見過ごすわけにはいかないのである。
1Euromoney, April 2010, p. 85.
2Arnold Toynbee, A Study in History, Vol I to VI (Oxford: Oxford University Press, 1939).
3Jared Diamond, Collapse: How Societies Choose to Fail or Succeed (New York: Viking, 2005).
4Paul Hawken, Blessed Unrest (New York: Viking, 2007), p. 4.

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「通貨と持続可能性: 見失われた関連性」要約

  • 1. - 1 - 通貨と持続可能性: 見失われた関連性 ローマクラブ EU 支部の報告書 フィナンス・ウォッチおよびワールド・ビジネス・アカデミーに 捧げる ベルナルド・リエター クリスティアン・アーンシュペンガー サリー・ゲルナー シュテファン・ブルンフーバー © 2012/2013
  • 2. - 2 - (please subtract 26 pages for correct number) 日本語翻訳版 (二〇一二年三月) 通貨と持続可能性: 見失われた関連性 目次 ローマクラブ EU 支部マルク・デュブリュル会長の序文 ローマクラブのイアン・ジョンソン事務局長のメッセージ 世界芸術科学アカデミーのイヴォ・シュラウス会長およびゲリー・ジェイコブス理事長兼最高経営責任者による 書状 デニス・メドーズによる序文 要約 第一章 – なぜこの報告書を今? 第二章 – 経済のパラダイムを明らかに 第三章 – 危機の解剖 第四章 – 不安定性の説明: 複合流ネットワークの物理学 第五章 – 持続可能性への通貨の五つの影響 第六章 – 権力: 機構的枠組み 第七章 – 民間イニシアチブの解決策のサンプル 第八章 – 行政の解決策のサンプル 第九章 – 成長の限界を超えて? 謝辞 www.money-sustainability.net で入手可能な付録: A: 通貨入門 B: 気候変動 C: パラダイムのマッピング D: 複合流ネットワーク E: 中国の洞察 F: 富の集中 著者について
  • 3. - 3 - (please subtract 26 pages for correct number) ローマクラブおよびローマクラブ EU 支部について ローマクラブ EU 支部 フィリップ・ベルギー皇太子(名誉会長、序文作成時) 通貨に関する真実を語る フィナンス・ウォッチおよびワールド・ビジネス・アカデミーへの 報告書への序文 われわれは通貨についての真実を述べているわけではないが、通貨は経済の中心にある。 そして経済が世界を支配している。ゆりかごから墓場まで、通貨は人間の福祉を支配しており、 地球の天然資源および環境の質を制御している。今日では、多くの点で地球生態系の限界を 超したことが一般的に認識されている。現在の生活様式は持続可能ではないという証拠がある ためである。 政府、マスコミおよびリーダーの多くは、主流派の考えに世論を導くべくあらゆる可能な努力 を行っている。社会が成功を収めたいのであれば、現在のパラダイムを信じ続ける必要があると いうのである。しかしながら、全てが金銭面で表現される必要があるのもまた事実である。そして、 支配的な金融システムおよび銀行業務という独占および主要な権力の外には救いはない。閉 鎖系が開放系よりも好まれ、複雑性は回避される。まことに、持続可能な解決策に関する近視 眼的な見方である。 とは言え世界には、「独創的な」思考や実践が数多く存在する。会議、刊行物そしてますま すWWWを通じて、少なからぬ当局が現在のパラダイムの盲点を告発し、われわれに対してこ れ以上待つことなく行動を起こすことを促している。だが、彼らのメッセージはマスコミを通じて伝 えられることはない。根本的な変革を求める叫び声があっても、少なくても欧州連合では一般民 にこれらメッセージは伝わっていない。 ブリュッセルに拠点を置くローマクラブの EU 支部は、欧州連合の各機関、各国市民および 四十年間にわたって世界を代表するシンクタンクであるローマ・クラブ・インターナショナルとの 間での橋渡しを行い、EU の持続可能な発展における考察の推進役となっている。今後数年に おいてローマクラブ・EU 支部の理事が取る戦略的なオプションは、通貨 およびガバナンスの 問題に焦点を当てている。これには、これら分野において画期的な概念についての最先端の研 究の開始および促進が含まれる。 われわれはフェロー理事であるベルナルド・リエターに、主要な公的機関や民間部門の政策
  • 4. - 4 - (please subtract 26 pages for correct number) 決定者、マスコミそして一般市民を含む、より幅広いグローバルな文脈での発展を目的とした EU 政策の実施に関する社会的議論に貢献する、通貨と持続可能性についての報告書を準備 するよう依頼した。クリスティアン・アムスパーガー、シュテファン・ブルンフーバーおよびサリー・ ゲルナーといった共著者とともに彼はこの報告書を作成し、ローマクラブ EU 支部の承認を完全 に得た。 この問題はその性質上世界的なものであるが、ローマクラブ EU 支部はこの報告書を同名義 で主に、著名で権威があり独立した欧州の団体に対して向ける必要があると感じた。最も適切 な選択肢は、欧州議会の議員のイニシアチブとして最近発足した公益法人フィナンス・ウォッチ であるように思われる。この団体は金融が社会のために機能するよう努めており、市民アドボカ シーを実施し、私的利害関係を持つ金融界によるロビイングへの対抗勢力として立法者に対し 公共への議論を提示することにより、金融規制改革における社会の意見を強化している。 この文章の執筆時点ではわれわれは公益の保証人としての政府の解体を目の当たりにして いる。ほとんどの EU 加盟国においてほぼ全てが売却されている。緊縮財政が全ての段階で強 要されている。新しいガバナンス構造が時代遅れとなった既存のものに取って代わらない限り、 社会的不安は拡大し続けるだろう。 ここ欧州連合においても大きな挑戦となる。「通貨と持続可能性: 見失われた関連性」の刊 行により、数多くの政策決定者および指導者に影響を与え、通貨問題において新しく創造的な アプローチを選択すべく進路を変えることを期待したい。われわれは全てのレベルにおいて、道 徳的な意識の高まりを緊急に必要としている。 この短い前書きに連帯署名を行うことでローマクラブ EU 支部は、世界芸術科学アカデミー および欧州芸術科学アカデミーに対し、この報告書へのサポートに感謝する。 マルク・デュブリュル ローマクラブ会員 ローマクラブ EU 支部長 フェリックス・ウンガー 欧州芸術科学アカデミー理事長
  • 5. - 5 - (please subtract 26 pages for correct number) 二〇一二年二月二七日 親愛なるベルナルド、 現在の経済的、政治的および道徳的危機は、この問題を生み出したものと同一のアプ ローチを適用していては解決どころか緩和することも覚束ない。新しいアイデアや独創的な 思考、そしてパラダイムシフトが要求される。当然視されてきた従来の発想を改めて検討して 疑ってかからなければならない。通貨はそのような概念である。 世界芸術科学アカデミーは、ローマクラブ EU 支部の取り組みを保証かつ強くサポートし、 この重要で独創的な研究を十年以上前に始め、当アカデミーの会合で発表したフェロー、 ベルナルド・リエターに対して感謝の意を捧げる。リエターおよびその協力者クリスティアン・ アルンパーガー、サリー、ゲルナーおよびシュテファン・ブルンフーバーは通貨と持続可能 性: 見失われた関連性という素晴らしい研究を作成し、これは現在の通貨危機の原因およ びその対策を理解しようとしている指導者、政策立案者、理論家が注意深く読む価値がある ものである。 この研究は、人間資本の基本的な価値や役割を強調する世界芸術科学アカデミーの他 の取り組みを補完するものである。この報告書では通貨が、人類の福祉を社会が最大化で きるよう意図された人工的道具であることが惹起される。現在支配的な通貨システムでは、 雇用を創出し、実際の収入を増やし社会的平等を推進する生産的な投資ではなく、不安定 な投機的投資に向けて通貨の増殖を促している。この報告書では十分に活用されていない 社会的資源、特に現在システムにより人的潜在能力が無視され無駄遣いされている失業し た、あるいは雇用が不安定な膨大な人数の若者および成人を活用できる代替通貨戦略が 検討されている。この報告書は、政治的および経済的アクションをただちに要求している。
  • 6. - 6 - (please subtract 26 pages for correct number) 著者およびローマクラブ EU 支部に対しては、この重要な取り組みに対して感謝の念を 申し上げたい。 敬具、 イヴォ・シュラウス会長 ゲリー・ジェイコブス理事長兼最高経営責任者 デニス・メドーズによる序文 ヒ素は薬品として何千年もの間使用されていた。無論、これは致死性の毒物である。しか し短期的に病状を和らげる能力により、多くの被害者がこれを使用することとなった。より安 全な薬に代替されるには、前世紀まで待たなければならなかった。 債務の創造を通じて民間機関が発行する不換通貨は、各国政府により何百年もの間使 われてきた。その致死性の作用が明らかになっている。しかし病状を和らげる能力により、こ の通貨は使われ続けてきた。われわれは、今世紀により安全な代替物の使用を開始できる ものと期待する。 私は持続可能性についての文献に四十年間目を通してきた。その間、この問題に関す る何百もの会議に参加してきた。しかし、ベルナルドの著作を目にするまで、われわれの社 会が破滅へと邁進する原因として金融システムを叙述した人に出会ったことがなかった。事 実はその逆であり、金融システムにおけるささいな変化がどのように、持続可能性に至る道 筋にグローバル社会を動かすかを特定するために幅広い努力が行われている。 水中に浸かった魚は決して火を起こすことはできない。現在の金融システムに浸かった ままでは、われわれは決して持続可能性を生み出すことはできない。現在の通貨制度が持 続可能性を遮断するさまざまな方法を克服するような税金、金利あるいは情報開示要件は 存在しないのだ。 私はこの点について以前は考えていなかった。実際、通貨制度についてまったく考えて いなかったのだ。人間社会における中立で不可欠なものとして、当然あるべきものと考えて いた。しかしベルナルドの分析を読み始めてから私はまったく異なった見識を持つに至った。 彼だけではない。たとえばトーマス・グレコもこの問題について本を書いている。しかし金融 システムに関するベルナルドの実践例、理論的理解、そして歴史的展望の深さは他を寄せ 付けない。
  • 7. - 7 - (please subtract 26 pages for correct number) 今では私は、この文章で明確に証明されているように、現在優勢の金融システムは持続 可能性とは以下の五点において両立できないことを理解している: - 経済に好不況の波を生み出す - 短期的思考を生み出す - 果てしない成長を要求する - 富を集中する - ソーシャル・キャピタルを破壊する これらのうち一つだけでも、持続可能性への移行のための注意深く検討された計画を頓 挫させるのにおそらく十分であろう。これらが合わさることにより災害への処方箋となり、まさ にこれが現在われわれの身に降りかかっていることである。金融システムの不安定性は、こ れら著者が指摘するように、警告を発するに十分なものであるべきだ: 「国際通貨基金によると、一九七〇年から二〇一〇年までの間に一四五もの金融危 機、二〇八もの通貨危機そして七二ものソブリン債危機、すなわち合計でなんと四二 五ものシステム上の危機が発生している。一年あたり十件以上である! これら危機は 国際通貨基金加盟国一八〇ヶ国のうち四分の三以上に打撃を与え、何度も危機を 体験している国もある」 二〇〇八年の危機について熟知した世界でも最も真摯な識者は、不安定さの原因が変 化していないと信じている。実際、その原因の多くは悪化した。間違いなく、さらに別のグ ローバルな金融危機が起きるだろう。 英語のことわざとして、「水揚げされた魚のような」という表現があり、これは不慣れでぎこ ちない状況に置かれた人間あるいはものを指す。しかし魚が自ら水から出ない限り、どんな 実験を行っても火を起こすことはできない。われわれの努力によって持続可能性を達成する 見込みがあるのであれば、われわれは新しい通貨システムの実験を行うぎこちない期間を 経る必要がある。 実現可能な補完通貨システムのみでは、災難へのわれわれの突進を止めるには十分で はない。しかし、これなしでは破滅を回避する可能性はゼロである。 この文章は素晴らしい情報源であり、異なる本四冊を書くのに十分な題材がある: - 従来の経済的思考への徹底的批判 - 現代社会において通貨が創造される仕組みについての卓越した論考 - 気候変動および将来における金融システムの崩壊から予測されるさまざまな問題 の説明 - 現在の金融システムに対する、九つの異なる実用的な補完通貨システムの提案 このためこの本は、非常に異なった目的を持つ人たちにとって便利な出発点となる。 われわれの遠い祖先は最終的に火に基づいた技術の開発に成功した。しかしそのため には海から離れる必要があった。われわれの子孫は間違いなく、持続可能性に基づいた技 術を開発するだろう。だがそのためには、現在の通貨システムから離れる必要がある。この 本では、それを行うための動機付けおよび予備的指示が提供される。
  • 8. - 8 - (please subtract 26 pages for correct number) デニス・メドーズ名誉教授 ニューハンプシャー、二〇一二年二月 要旨 われわれの世界は二重の意味で、持続可能性の危機という甚大な課題に直面している。 一方では気候変動、温室ガスの放出量の増大および食料やエネルギーの価格高騰により、 われわれが財やサービスを生産し消費する方法が持続不可能になったことが示されている。 他方では繰り返される金融通貨危機により、われわれの通貨システムが固有の問題を抱え ていることが明らかになっている。二〇〇七年から二〇〇八年にかけて通貨システムを下支 えして金融危機を「救済する」という試みは、「ケインズ的刺激」により悪性の経済的副産物を 含む失敗に終わり、政府債務を急増させた。ソブリン債およびユーロ危機を受けて EU 諸国 政府は現在、極端な金融政策に走っている。年金、失業およびその他の社会的セーフティ ネット、さらにポスト化石燃料経済への投資が何よりも必要とされている際に、これらが全て 危機に晒されている。並行して多くの公共財が民営化されつつある。 環境保護者は往々にして、「グリーンな」税金の創設や銀行に持続可能な投資への融資 を促したりする通貨インセンティブを提案することにより経済危機に対処している。それに対 しエコノミストは、金融危機は回復し、さらなる規制および公的支出のさらに厳しく長期的な 緊縮政策が必要だと語っている。よりグリーンな税制、より少ない政府予算、よりグリーンな ユーロ/ドル/英ポンドは、お門違いではないだろうか? 金融と環境、通貨と持続可能性、あるいは別の場所に、「失われた関連性」がないだろう か? 構造的な通貨制度の欠陥、すなわちまさに通貨の創造方法における欠陥が、厄介な 問題を生み出しているとしたらどうだろうか? 二一世紀の課題に直面するために、通貨制度 を再考しなければならないとしたらどうだろうか? 第一章—この報告書の目的
  • 9. - 9 - (please subtract 26 pages for correct number) この報告書には三つの目的がある:  欧州および世界を襲っている金融・通貨危機が、見逃されてきた構造的原因を持つ という証拠を提供すること。この構造的原因への対象は、今日の課題に対処する上 での必要条件である(が、十分条件ではない)。  気候変動と少子高齢化という、世界の二つのトレンドを踏まえた上で通貨問題とその 解決策を提示すること。気候変動の最悪のシナリオを回避するためには、政府のリー ダーシップおよび資金拠出を必要とする大規模な投資が現在必要とされているとい う認識がある。同時に、ベビーブーマーの引退により歳入が減少する一方で、すで に過負荷状態の社会保障への圧力がさらに増す。両方の問題はこの十年で最高潮 に達し、どちらも緊縮財政とは共存できない。われわれの現在の通貨のパラダイムを 継続すると政府は、社会や環境の問題に対処する上で無力化してしまう。  市民、NPO、企業あるいは政府により実施可能で、持続可能性の問題において欠か せず、多くの国を現在悩ましているいくつかの問題を構造レベルで解決する実用的 ソリューションを提示すること。 後世の歴史家はおそらく、二〇〇七~二〇二〇年の期間を金融騒乱および段階的な 通貨破綻の時代だと記すことになるだろう。通貨分野での制度的変革が破綻後にしか起き ないことも、過去の歴史がすでに実証している。このため、まさに今こそが通貨問題につい て目覚める時期なのである。 第二章—経済のパラダイムを明らかに 経済問題についての討議が、エコノミストの議論が根ざしているパラダイムを明らかにす ることはほとんどない。ここではわれわれのアプローチが根ざしている概念的枠組みを明ら かにし、現在使用されている他のパラダイムを比較することから始まる。われわれの枠組み では環境および社会問題を「外部不経済」と考えるのではなく、経済活動を社会領域の一 部とみなし、その社会領域も生物圏の一部とみなされる。この視点により、われわれの経済、 社会および環境問題の多くに対処するのに十分な柔軟性を持つ新たな一連の実用的な ツールの登場のための基盤が提供される。 通貨制度に関してわれわれは、三層の集団的「盲点」を蒙っている。最初の盲点は家父 長主義的な社会と関連しており、この社会は歴史的に独占権力として中央集権的に発行さ れる単一通貨を、金利の徴収の下で発行してきた。その一方で、エジプト王朝や欧州の中 世中期などの母親中心社会では、数多くの並行通貨の仕様が促された。これにより経済の 安定性、平等な反映、そしてわれわれよりも長期的な視野でものごとを自然に考えるようにな る経済が生まれた。 われわれの二つ目の集団的「盲点」の層は、二十世紀における資本主義と共産主義と のイデオロギー的闘争が生み出したものである。両制度の間の細微な差異は嫌気が差すほ ど研究されてきたが、両者の共通点、特に両者とも銀行への債務を通じて単一通貨による 国家の独占を課しているという事実については、それほど研究されないままであった。両者 の間での唯一の明らかな違いは、ソビエトの制度では政府が銀行を保有した一方、資本主 義制度ではこれは、「巨大すぎて潰せない」銀行の事例により深刻な困難が生じたときなど、 一時的にしか起きないという点である。 十八世紀以降、通貨の独占の執行者としての中央銀行の創設を通じ、制度の現状が組 織化された。組織の枠組みにより、最後の「盲点」の層が紡ぎ出される。
  • 10. - 10 - (please subtract 26 pages for correct number) これら三つの層により、単一で独占製造される通貨のパラダイムの再考に対して強力で 執拗な抵抗が存在する理由が明らかにされる。 第三章—危機の解剖 今日の為替取引および金融デリバティブ市場は、地球上にあるそれ以外のもの全てを 矮小化してしまう。二〇一〇年には為替取引量は一日当たり四兆ドルに達した。世界にお ける商品およびサービスの輸出入総額はこの額の約二パーセントにしか過ぎない。すなわ ち、これら市場の取引のうち九八パーセントは完全に投機的なものである。この数字には、 二〇一〇年の世界 GDP 総額の八倍にのぼる六百兆ドルもの額が想定されるデリバティブ を含んでいない。 このような巨大市場で、二〇〇七年の金融危機が勃発した。以前の金融危機同様、納 税者負担がいくらであれ銀行を救済する以外の選択肢を持たないと各国政府は感じた。確 かにこれは一九三〇年代以降われわれが経験した最悪の危機だが、これは今回が初めて ではない。IMF のデータによると、一九七〇年から二〇一〇年までの間に一四五ヶ国が金 融危機を経験し、通貨破綻が二〇八回、そしてソブリン債危機が七二回勃発した。すなわち、 毎年十ヶ国以上が危機に晒されたのである! 失業、失われた経済生産、社会的断絶および幅広く広がった人類の苦しみといった結 果は、劇的なものである。二〇〇七~二〇〇八年の危機の全金融コストは未曾有のもので ある。たとえば米国では七百兆ドルもの不良資産救済プログラムが話題に出るが、これは救 済活動における序幕のコストにしか過ぎない。このプログラムへの言及には通常、「この資金 の大部分は現在までに回収された」というコメントが続く。米国の事例が興味深いのは、裁判 所により政府と中央銀行の両者が、二〇〇七年から二〇〇八年の危機に関連した救済プロ グラムの総額を公表するよう義務付けられている唯一の国が同国だからである。TARP に加 えて四九もの別のプログラムが米国における救済には含まれており、総額は一四・四兆ドル となる。ちなみに、二〇〇七年における米国の国内総生産(GDP)の総額は十六兆ドルであ る。 銀行への援助、そしてデフレ不況を避けるべくそれに続いた大規模なケインズ的景気 刺激計画は、莫大な財政赤字およびその結果として追加の公的債務を生み出した。金融危 機に見舞われた二三ヶ国では政府債務額が平均で GDP の二四パーセント増大した。アイ スランド、アイルランド、スペイン、デンマークおよびラトビアといった欧州諸国ではさらに状 況は深刻で、政府債務の増大幅は GDP の三十~八十パーセントに達した。 この危機は最悪のタイミングで起きた。今後十年におけるベビーブーマーの退職という 高波により、公的債務に対してさらなる膨大な圧力が加わる。国際決済銀行(BIS)が二〇一 〇年に行った調査によると、二〇二〇年までに高齢化関連の債務により英国では政府債務 の対 GDP が二百パーセント超に、そしてアイルランド、イタリア、ギリシア、フランス、米国そ してベルギーでは一五〇パーセント超になることが示されている。二〇四〇年までに、予想 された高齢化関連の費用は全ての国において、債務の対 GDP 比を三百~六百パーセント へと押し上げる。 金融部門が推奨する解決策は、一連の強制緊縮財政政策の即時実行および政府が全 てを民営化するようにという要求である。対象となった政府財産の一覧が知られている国で は、これには公共の道路、トンネル、橋梁、駐車場、空港、政府所有のあらゆる事務所、さら に上下水道システムが含まれる。データが入手可能な米国の場合、これは連邦政府、州政 府および市役所の資産九・三兆ドルに達する。金融部門による米国の状況の査定では、 「公的サービスの削減による政治的痛みが資産売却による有権者の票の減少コストよりも大
  • 11. - 11 - (please subtract 26 pages for correct number) きくなると、この市場が始動する。草の根レベルではすでに政治的痛みの限界値に達してい る」1 と記述されている。 同様に欧州でも、英国は一六〇億ポンドの民営化プログラムを発表した。イタリアで はベルルスコーニ政権により九千もの公有地が競売された。フランスのサルコジ政権はすで に全国の高速道路網を五十億ユーロで売却した。ギリシアの救済策の付帯条件には、五百 億ユーロもの民営化が含まれていた。そして他国も同様である。これら圧力は長期間におい て蔓延する。しかしその後何が起こるだろうか。なぜ、事務所の家賃を払ったり、以前は国有 だった道路を従業員が通る際に通行料を払う必要が出ると、政府の信用が増すというのだろ うか? この道のりを盲進する前に、金融面での巨大な失敗の単なる一事例として現在の危 機を考えるのではなく、すべての金融や通貨危機に共通の、基本的かつ制度的な原因があ るかどうか見定めることは有益ではないだろうか? 第四章—不安定性の説明: 複合流ネットワークの物理学 十九世紀より主流経済学は経済システムを閉じたものと分類した。閉じたシステムは他 のシステムあるいは外部環境と比較的それほど相互作用しない一方、開いたシステムは相 互作用する。閉じたシステムにおける知的に非常に便利な特徴は、放っておくと静的平衡に 達する点である。 この報告書では経済を、さまざまな経済主体の間を通貨が流通する複合流ネットワーク で構成される開いたシステムとして経済を眺望することを提案する。最近になって単一の測 定基準で、構造的多様性および相互接続性を基盤とした複合流ネットワークの持続可能性 を測定することができるようになった。主要な発見は、効率と復元力という、どちらも同様に必 要不可欠だが相互補完的な要素の間での決定的なバランスを保った場合にのみ、複合流 システムが持続可能になるという点である。復元力を犠牲にして効率に過度の重点が置か れると、多様性が犠牲となる。この結果自動的に、唐突なシステムの崩壊が起きる。 われわれは、銀行への負債を通じて創造される単一の国の通貨という、どの国でも同じ 種類の交換手段が流通している世界レベルでの通貨モノカルチャーを擁している。このよう なモノカルチャーにより、脆く持続不可能なシステムが生まれる傾向にある。完全に異端で はあるが持続可能性のチャンスを得るための構造的な解決策は、利用可能な通貨手段およ びその創造主を多様化することである。すなわち、われわれは通貨の生態系を必要としてい るのだ。 第五章—どのようにして通貨が持続可能性に影響を与えるのか 通貨あるいは金融危機は非常に破壊的になる可能性があり、当然ながら持続可能性と は両立しない。より知覚が困難なことは、われわれの通貨制度に組み込まれたメカニズムの うちいくつかが – 危機にない場合 – どのようにして個人および集団的行動を形成するか である。プラスの影響の中でも、現代の通貨が歴史的に例を見ない形で企業や科学の爆発 的革新を引き起こしたことを認めなければならない。しかし、持続可能性とは直接両立しな い、以下の五つのその他のメカニズムも存在する:  好不況の波の拡大: 銀行はある分野あるいは国に対して資金の提供あるいは回収 を同時に行い、好不況の景気循環の波を拡大する。これは、銀行部門自身を含む 全てにとって不利益をもたらす。最悪のシナリオでは、銀行同士が相互不信に陥ると いう、われわれの現状となる。
  • 12. - 12 - (please subtract 26 pages for correct number)  短期的思考: いかなる投資評価においても、「割引された資金の流れ」が標準の慣 行となっている。なぜなら、銀行への債務通貨は金利を生み、将来の費用あるいは 試算の割引により不可欠的に短期的思考に導くためである。  成長の強制: 複利、すなわち金利への金利というプロセスにより、経済に対して指数 関数的な成長が強要される。しかし指数関数的な成長は、その定義上有限の世界 においては持続不可能である。  富の集中: 世界中で中産階級が消えつつあり、富の多くが上層部に流れ、底辺の 貧困層の割合が増加している。このような不平等により幅広い社会問題が発生し、経 済成長にも悪影響を及ぼしている。経済問題に加え、民主主義そのものの存続も脅 かされている。  ソーシャル・キャピタルの引き下げ: 相互信用および協力行動といったソーシャル・ キャピタルは歴史的に測定が難しかった。しかしながら、測定が行われると常に、特 に工業化された国ではソーシャル・キャピタルが磨耗する傾向にあることが明らかに なっている。最近の科学的研究では、自己中心的で非協力的な行動を通貨が推進 していることが明らかになった。これらの行動は、長期的な持続可能性とは両立しな い。 一般的に思われているような、行動面において中立で受動的な交換手段とは大きく異 なり、従来の通貨は幅広い行動パターンを深く形成しており、上述されたそのうちの五つは 持続可能性とは両立しない。この種類の通貨の独占の継続的強要により、地球における人 類の将来が影響を受けている。 第六章—権力: 機構的枠組み 通貨の歴史は、権力と密接に絡み合っている。歴史家ニーアル・ファーガソンは、議会、 専門的な課税官僚組織、政府債務および中央銀行という四つの主要な機構の登場を通じ て現代の通貨の枠組みが金融戦争へと発展した方法を示している。この「権力の四角形」は 十八世紀の英国でまず最適化されて産業化、そして全世界的帝国を生み出した。これと同 一の通貨の取り決めが全世界に広がり、今日では実質上世界どこでも根本的な構造となっ ている。 銀行制度と政府との関係は何百年にわたって変化していないと多くの場合思われてい る。必ずしもそうではないことが、フランスのケーススタディにより示されている。実際、一九七 三年以降フランス政府は民間部門のみから借り入れ、それにより新たな債務に金利を支払う ことを強制されている。この変化がなければ、現在のフランス政府の債務は現在の七八パー セントではなく、わずか八・六パーセントであったことであろう。さらに、マーストリヒト条約およ びリスボン条約により、同じプロセスが署名国全てに一般化された。 実施可能な根本的解決策の一つとしては、政府自身が通貨を発行し、その後徴税とい う形で回収するという方法がある。この方法は一九三〇年代に「シカゴプラン」として知られ ていた。通貨創造の国有化により銀行は、単なる通貨の仲介業者の地位に留められること になる。シカゴプランでは将来の銀行破綻の可能性を劇的に減らし、ソブリン債務危機を全 て即時に解決するが、これにより民間部門の通貨独占が公的部門に移行するに過ぎない。 これでは、必要とされている通貨生態系に近づくことはできない。 公的見解では、全ての家計同様政府も、活動に必要な資金を稼ぎ出す必要があるとさ れている。これは税収による収入あるいは債券発行による債務を通じて達成される。この場 合、銀行は単に預金を集めそのお金の一部を、政府を含む信用に足る個人および機関に
  • 13. - 13 - (please subtract 26 pages for correct number) 貸し出す仲介業者としてのみ行動することになる。しかし、公式には無から生み出されるフィ アット通貨が普遍化した一九七一年以降、このシナリオは完全なフィクションとなった。 フィアット通貨のパラダイムにより、このシナリオに別の解釈が提供される。フィアット通貨 では課税の主要目的は、それ以外には内在的な価値を持たない通貨への需要を喚起する ことにある。選択された通貨のみでの納税義務が、通貨に価値を与える。このため主権国家 の政府は、納税という形で要求することにより、価値を与えたいものを選択できる。こうして政 府は、この選択された通貨を得るために払うべき努力の種類を規定することができる。この解 釈は学会の強力な裏づけがあるが、公式見解の推進では無視されている。 公式見解では、匿名で万能の「金融市場」の前では政府は完全に無力である。フィアッ ト通貨のパラダイムではその性質上政府は、銀行債務通貨と同時並行で別の通貨に価値を 与えることが選択できると考えられる。二一世紀の課題に対処するには、政府がそうする必 要があるというのが、われわれの提案である。 第七章—民間イニシアチブの解決策のサンプル 画期的な動機のシステムの例九つが、この章および次の章で紹介されている。これら は全て従来の銀行債務通貨と同時並行で機能して、費用対効果の高い電子媒体を使用す ることができ、利用者にとってできる限り透明性を確保するものでなければならない。これら システムの自己管理を高めることにより透明性は、詐欺の可能性を削減する上で大きな役割 を果たす。システムの紹介順番は、最も簡単で賛否両論を巻き起こす可能性が最も少ない ものから始まり、最も複雑で革命的なもので終わる。最初の五つの事例は、NGO あるいは企 業により民間の手で開始可能なものであり、以下の通りである:  ドラランド: 「学習国家」の創造目的でリトアニア向けに提案されたシステム。この国で は誰もが学んだり、および/あるいは教えたりするボランティアになれ、夢を叶える手 伝いする目的の通貨ドラで報酬を受け取る。これは NGO による導入が最適である。  健康トークン: 予防医療の提供業者と協力している NGO のイニシアチブで、健康問 題が発生する前の予防が目的。健康トークンは健康な行動に褒賞を与えて促進し、 社会に対する長期的な医療費を削減する。  自然貯蓄: 生きた樹木に完全に裏づけされた金融貯蓄商品。これは、インフレから の保護という点でどの国の通貨よりも優れた貯蓄通貨である一方、同時に地域の再 植林へのインセンティブを提供し、これにより長期的な二酸化炭素排出量を抑える。 また、別の長所としては小規模貯蓄とも非常に相性がよい。  C3: 中小企業に運転資金を提供することによって失業を減らす企業間(B2B)システ ム。ネットワークの決済通貨は良質の請求書により担保され、必要に応じて従来の通 貨に換金できる。保険業および銀行は、このシステムにおいて重要かつ儲けの出る 役割を果たす。C3 は今日ブラジルとウルグアイで運用されており、後者では政府が あらゆる税金の支払い手段として C3 を受け取っている。  テラ: 長期的思考が多国籍企業にとって儲けが出るようにし、企業の短期的な金融 面での優先課題と社会および環境の長期的なニーズとの競合を解消するグローバ ルな B2B 通貨の提案。グローバル経済に重要な商品およびサービスのバスケットに より完全に担保される、インフラおよび破綻の心配のない通貨となる。テラは既存の 各国の通貨とは異なるグローバル通貨になり、通貨影響圏の周辺での地政学的緊 張を緩和する。
  • 14. - 14 - (please subtract 26 pages for correct number) 第八章—行政イニシアチブの解決策のサンプル 次の四つの画期的な動機のシステムの例は、市町村、地方あるいは国レベルで開始さ れる行政のイニシアチブであり、以下の通りである:  トレケス: ボランティア活動に加え、貧しい地区において環境にやさしい行動および 社会的絆を推進する都市ベースの取り組み。ベルギーのヘント市で二〇一〇年より 運用されている。  びわ: 日本最古かつ最大の琵琶湖の環境修復および保全の人件費を賄う、日本の 滋賀県向けの提案。県内在住の家庭には、自主参加あるいは強制参加の両方の形 態を取り得る。  Civics: 市町村あるいは地方政府に対し、財政に負担をかけずに市民活動を推進さ せる提案。これら活動により社会的、教育的および/あるいは環境にやさしいプロジェ クトの人件費を賄うことができる。これらシステムは、貢献の強制という形態を取ること もできる。  ECOs: 全国あるいは欧州全体のシステムで、気候変動の防止や適応プロジェクトと いった大規模の環境プロジェクトの決定的な要素への資金提供を可能にする。企業 に対して売上に応じて、ECOs でのみ支払可能な貢献を政府が課す。これは、大企 業にとって新手の法人税とみなされることから、九つの提案のうち最も意見が分かれ るものとなる。このような取り組みでは政府は、手に負えない気候変動に対して「宣 戦」するが必要になる。 この九つのシステム – 民間のものが五つと行政のものが四つ – は、異なる通貨生態 系のメリットが明らかになる前に全て導入される必要はない。各地区、都市、地方あるいは国 が、導入するシステムの種類を選択することができる。世界ですでに運用されているさまざま なその他のデザインとともに、このような新しい交換手段の組み合わせはそれぞれ、適切な 通貨生態系が出現する機会を提供する。このようなシステムのうちいくつかは失敗する。しか し、樹木のように最も成功する種類が自発的に繁茂することとなる。特に、各システム種別に おいて最も適切なガバナンス構造が何かについてわれわれは、まだまだ多く学ぶ必要があ る。 第九章—成長の限界を超えて? H・G・ウェルズは、「歴史は教育と大惨事との競争である」と述べた。この特別な競争の 課題は、今日ほど困難であったことはない。誰もが学習をする必要がある:  今日のエリート、特に金融エリートにとって、経済歴史学者アーナルド・トインビー2、 あるいはより最近ではジャレド・ダイアモンド 3 の古典的著作に目を通すことが重要 であるように思われる。トインビーは二一もの文明の滅亡を、富の過度な集中、およ び手遅れになるまで状況への対応に重点を移さなかったエリートというわずか二つの 原因で記録した。ダイアモンドは文明滅亡の直接的原因として環境破壊に焦点を当 てた。現在われわれは同時に、この三つの原因の限界に直面している。文明が滅亡 するとエリートでさえ保護されないことは、歴史が教えている。  経済学の訓練を受けた者にとって、必要な発想の転換は彼らが受けた教育に秘めら れたパラダイムを見つめ、この報告書で用いられるアプローチを比較することである。
  • 15. - 15 - (please subtract 26 pages for correct number)  一般民衆にとって必要とされる最も重要な学習は非直線性、とりわけ直線状と指数 関数的成長の違いを理解することである。現在われわれは、ますます非直線的な世 界に対処している。これら異なった動力の理解は、われわれに起きていることおよび それに対しての対処法の理解において有益であろう。 終わりに、われわれの現在および将来の問題を解決する上で補完通貨を特効薬とみな すのは、現実離れした甘い期待である。しかし、いかなる効果的な解決策においても通貨の 再考は必要な要素である。われわれはもはや、持続可能性と通貨制度の間の失われた関 連性を見過ごすわけにはいかないのである。 1Euromoney, April 2010, p. 85. 2Arnold Toynbee, A Study in History, Vol I to VI (Oxford: Oxford University Press, 1939). 3Jared Diamond, Collapse: How Societies Choose to Fail or Succeed (New York: Viking, 2005). 4Paul Hawken, Blessed Unrest (New York: Viking, 2007), p. 4.