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デジタルアナリティクス入門
- 4. 3
【目次】
はじめに................................................................................................................................1
1 章. 分析(アナリティクス)が求められる背景 .....................................................................4
デジタルシフトする時代 ..................................................................................................5
ビッグデータとデジタル革命 ...........................................................................................7
複雑化する分析製品と不変な原則..................................................................................11
2 章. 分析の定義と成功要因 .........................................................................................15
分析の定義と目的 ...........................................................................................................16
分析で効果を出すための成功要因..................................................................................19
3 章. 評価指標の設計方法.............................................................................................22
指標設計のポイント........................................................................................................23
指標設計のフレームワーク.............................................................................................27
組織管理の重要性 ...........................................................................................................29
4 章. 分析製品の系譜 ....................................................................................................32
意思決定支援システムの流れ .........................................................................................33
テーマ別製品カテゴリの位置づけ..................................................................................35
5 章. Web 分析のエッセンス ........................................................................................37
Web 分析の全体像...........................................................................................................38
Web への集客施策について............................................................................................45
Web サイト訪問後の活性化............................................................................................55
顧客の醸成(ロイヤリティ)について...........................................................................59
分析プロセスについて ....................................................................................................63
6 章. BI(業務分析)のエッセンス..............................................................................65
BI の成り立ちと活用領域について.................................................................................66
BI を構成する基本的技術...............................................................................................73
BI 導入に成功した企業の共通点とは? .........................................................................88
7 章. その他分析:ソーシャル/競合 .............................................................................89
ソーシャル/競合分析.......................................................................................................90
その他分析手法と今後の流れ .........................................................................................95
8 章. 伝える力を高める.................................................................................................96
メッセージをどう伝えるか? .......................................................................................101
伝える力=論理×情熱 ..................................................................................................105
- 6. 5
デジタルシフトする時代
自分が好きな人が Facebook で話題にしている製品になんとなく関心をもち、Amazon
の評価を読んで買ってみようかなと真剣に検討して、店舗にある実機展示コーナーで
色々と触ってみて、(そこでは買わずに)ネットの比較サイトを使って最安値で購入。そ
してその感想を twitter でつぶやいて皆と分かち合う。
このような消費者購買行動はもはや珍しくなくなっており、当然それに応じて、企業と
の接点(タッチポイント)やコミュニケーションの在り方も、この数年で比較するだけ
でも大きく変容を遂げています。
例えば、2013 年には遂に、楽天や Amazon などの主要サイトでの PC からのアクセス数
は昨対比マイナスとなりました。それに代わり、急激に iPhone などのスマートデバイス
系でのアクセスが急増しています。(※1)
そして、2014 年上半期で行われたある調査結果によると、EC サイトの売上の 4 割はス
マホ経由で行われ、アクセスするユーザの 5 割はスマホでアクセスしていることが分か
りました。(※2)
これにより、PC の前に座ったときだけでなく、日常生活のあらゆるシーンで持ち歩ける
デバイスを通じてネットでの情報・サービスを受信し、同時に個人がネット経由で発信
出来る環境にいるわけです。
さらに、ヒトが情報を得る・対話するためにネットを活用するだけではなく、モノの
インターネット化も進んできています。
よく「IoT(Internet Of Things)」という言葉で総称されるようになりましたが、モノに
センサーや AI 機能を取り付けることで、ヒトとモノ、またはモノとモノとの情報交換を
搭載する製品も増えてきています。
例えば、フィットネス用ウェアラブルセンサーを搭載した「Fitbit」。これは手首に装着
しておくだけで歩数、距離、消費カロリー、睡眠サイクルなどを計測/推測して PC・ス
マホにデータを自動的に同期することができます。
Softbank は、この機器を組み合わせて、活動データから未来の自分の顔を予測して表示
する「タイムマシン」機能や、24 時間 365 日無料で電話相談が可能な「健康相談」を提
供する新しいヘルスケアサービスを開始しています。(※3)
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ビッグデータとデジタル革命
実際、下図にあるように、今世界で発生しているデジタルデータのうち、大半は Web サ
イトのアクセスやセンサーなどのログや、SNS など個人が発信するデータといわれてい
ます。
【図. 構造・非構造データの情報量推移】(※4)
「ビッグデータ」という言葉は聞いたことがある人が多いと思います。
厳密な定義が決まっているわけではありませんが、上図のように、従来の構造化データ
(業務システムに蓄積されたデータ)だけでなく、今まで拾ってこなかった膨大
(Volume)・多様(Variety)・流動性(Velocity)の高いデータ群までを総称して呼ぶ
ことが多いです。
ここで押さえておくことは、データの特性よりは、なぜそのように非構造データが肥大
化したのかという点です。上記で挙げたセンサーの進化もありますが、下記に挙げた3
要素の影響も大きいです。
・モバイル
・クラウド
・ソーシャル
それぞれビジネスパーソンであればおなじみの言葉だと思いますので、ここの語句説明
は割愛します。
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【図. KGI・CSF・KPI のイメージ図】
但し、本当にゼロから設計するということは、実務上ではまれだと思います。
例えば、新しく採用された社内 Web アナリストであれば、まずそのサイトのアクセス解
析を始めるのではなく、Web 含めた事業全体の目標・成功要因を適切な人にインタビュ
ーしていくのが現実的なアプローチです。
勿論インタビュー結果をそのままコピペするだけでは付加価値がありませんので、その
過程で自分なりの仮説を設けて、必要であれば関係者と議論を深めるのも良いと思いま
す。いずれにせよ、この段階で重要なのは全体と部分の整合性、言い方を変えると関係
者と共有するストーリーを構築することです。
(2)指標が現実的であること
次に指標の方針が固まったら次に留意すべきは、その責任者を具体的に決定し、その人
が日々の業務で実際に可視化して改善活動に活用出来ると納得してもらうことです。
悪いパターンを挙げると、理想的過ぎて確かにその指標はごもっともなのですが、実際
その数値を収集する負荷が高いもしくはアクションが紐付きにくい指標です。
ここで1つ、仮想企業のケーススタディを挙げてみます。
今まで店舗で雑貨を販売していた会社が、消費者がネットとリアルを横断的に購買する
行動が増えその需要を満たすため、EC サイトを立ち上げました。EC 単体で 10 億円が
目標として掲げられ、重要成功要因として「実店舗とのシナジーを図る」と設定しまし
た。次ページ図がその指標ツリーです。
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【図. 仮想企業の指標ツリー】
KPI1の責任者は EC 推進部のリーダーとします。さて、自分がその立場だったとしたら
どう対応するでしょうか?
確かに実店舗と EC のシナジーを図るのは一見ごもっともで特に反論はないでしょう。
しかし、そもそもこの指標を取得するのには相当なコストが発生します。
例えば実店舗来訪客に誘導 URL(識別パラメタ付与)を紙で渡してそれで計測したとし
ても、余程その企業のファンもしくは値引き優待などのインセンティブがない限り面倒
くさがってなかなかそのとおりに行動してくれません。
二次元バーコードと呼ばれる QR コードが記載したレシートを配布して、そこからスマ
ホなどのリーダーで読み取り限定特別キャンペーンサイトに誘導する、など何らかの工
夫とそれに伴う投資は必要になります。
さらに重要なことに、そのやり方だとむしろ実行は実店舗側の担当者依存になってしま
い、EC を担当する KPI 責任者自身がコントロールできません。本当にやるのであれ
ば、その権限も付与するか、KPI 責任者を実店舗のマネジメント層に適用すべきです。
実はこれは実際に O2O(Offline to Online)施策を展開するときには非常によくある、難し
い課題です。いずれにしても、KPI はその責任者が管理可能(容易に取得でき改善施策
を自身が責任持って実行させること)であることが重要です。
(3)運用方法の取り決め
設計の段階で、実行後の運用ルールまで決めないと形骸化しがちです。その際に最も重
要視すべきは「行動」です。もう少し砕いて言えば、その KPI が計画を上回るもしくは
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知り・対話して購買そしてファンになり影響を与えていくのかをライフサイクルで捉えて、それに適
した対応そして組織体制を構築するのが王道です。
つまり、どうしても組織横断での変革が要求されるため、必然的にトップマネジメントの協力が欠
かせません。
これは、業務改革を要する他のビジネスシーンでも行われてきたことです。
例えば、供給の全体最適を目指す SCM(Supply Chain Management)を例に挙げます。これも製
造側(KPI:生産数)と流通側(KPI:在庫回転率・販売数)との利害が衝突することはよくあります。
その克服例として、SCM 全体に責任を持つ取締役及び直轄部隊を設けて、先行指標の KPI の
利害調整だけでなく、その結果としての共通ビジネス目標(例:キャッシュサイクル)まで担うことで
企業の全体戦略との整合性を図ります。
構造としては同じ考え方が適用できると思います。要はチャネル横断での顧客分析を担うチー
ムを設けて、顧客像及びコミュニケーションの設計、そしてそれを図る KPI を責任もって運用して
いく役割です。各ビジネススキルにも高いものが要求されますが、なかでも日本企業だとトップダ
ウンだけで話が進むことは比較的少ないため、現場を巻き込む強いリーダーシップが重要になっ
てきます。
(2)分析担当者が必要なケース
ネット系ゲームでは、例えばある PRG では、各イベント(例:中ボスを倒した、レベルが 20 に達し
た、等)とユーザがゲームをやめる相関関係をログデータから集計・解析しています。そこから離
反に繋がるイベントを発見し、発生直後に特別アイテムを付与して興味を引き続けるなど、データ
解析結果を積極的に改善につなげています。
ここではやはり数学・統計に詳しい分析担当者が、人間の目では見えない偏りをデータの山から
見出します。その際に問題になるのが、解析結果をどう行動につなげていくのかということです。
特に、分析活動の 1 要素である「仮説発見(解のあたりづけ)」は、ある程度経験知によって磨か
れることが多いため、解析担当者とビジネス実務に長けた人がコミュニケーションを取れやすい環
境を用意することが必要となります。
データ分析が流行り、あたかも科学的な取り組み「だけ」が企業業績に貢献するのだ、という誤解
を招きかねません。
しかし、実際の分析活動は非常に地味でかつ泥臭いものです。少なくともデータ解析の元になる
ビジネスの仕組みを把握していなければ、本人にとってはすごい発見をしたと思っても、それがビ
ジネスの成果につながるとは限りません。
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意思決定支援システムの流れ
指標設計を終えると、実際にどのようにデータを収集・集計・表現するのかがポイント
になり、今の時代では専用の分析ソフトウェアが必須となっています。
まずは、データを元に意思決定を支援する分析ソフトの歴史及び特徴について触れてい
きます。
分析という言葉はこの数年で急速に市民権を獲得しましたが、歴史的には何十年も前か
らコンセプトとしては唱えられています。
古くは DSS(Decision support system:意思決定支援システム)や EIS(Executive
Information System:経営層向け情報管理システム)などと呼ばれ 1970 年代には登場
しています。そこから 1989 年に BI という言葉が初めて提唱され、今でもよく使われて
います。
これらが取り扱ってきたのは、基本的には「社内に蓄積されたデータ」でそれらを構造
的に(決まったフォーマットで)格納する仕組みとして DWH(データウェアハウス)
も同時に成長しています。このあたりの基礎知識は BI の章でも改めて解説します。
2000 年代に入って、日本の企業でも ERP(Enterprise Resource Planning:統合基幹業
務システム)・CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理システム)
といった基幹系システムが整いだしました。ERP 普及以前はこのように業務データを総
合的にデータ格納すらしていない企業も少なからず存在したため、ERP の普及は BI 推
進の追い風になりました。(最近では BI 機能を融合させた基幹系製品も出ています。)
次に起こったのが Web やセンサーなどの技術発展です。Web で発生するデータ分析につ
いては 2000 年代よりアクセスログ解析が中心となり、さらにはソーシャルデータの分析
も活発になってきました。
センサーについて一番有名な事例が、建設機器メーカーコマツの「KOMTRAX」です。
よく書籍にも登場するのでご存知の方も多いと思いますが、2001 年に開発された、建設
機械の情報を遠隔で確認するためのシステムです。
車両に GPS を搭載してセンサーが稼働状況など必要なデータを収集し、故障の事前予
兆・稼働状況などデータを顧客に提供して付加価値を創出しています。(8)
これが古くからある BI と異なるのは、社外のデータ、特に顧客側で発生したものである
ため、より戦略的に活用できる可能性を秘めているということと、データ構造が大量か
つ定型化されていない(標準的に使われてきた Relational DB では処理するのが困難)
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Web 分析の全体像
Web サイトに関する分析もいくつか手法が存在します。その中でも基本的なものは、サ
イト訪問履歴を解析する「アクセスログ解析」です。
そのほかにも、ネット広告効果分析、SNS で発生するデータを解析するソーシャル分
析、他サイトを調べる競合分析ツールなど周辺領域もありますが、まずは本書内では基
本的なアクセス解析の知識を中心に紹介していきます。
分析の進め方として、以前にも触れたとおり、全体のストーリーを意識して行うと効率
的かつ組織としても説得性のある取り組みが出来ます。
Web の場合では、まずサイトに来ていただく「1.集客」と、来た後の動きをつかむ
「2.回遊」、そして目的達成後(EC なら購入)に再利用してファンになってもらう
「3.醸成」に大別することが出来ます。
【図. 訪問者行動で見たサイトの構造化】
サイトに訪問したあとに、そこから離れることを離脱、中でもそれが訪問最初のページ
であれば直帰と呼びます。そしてサイトの目的となる行動(EC なら購入、BtoB サイト
なら問い合わせ、等)のことをコンバージョンと呼びます。
最後の語句は直訳すると「転換」なので、目標達成の意として違和感あるかもしれませ
んが、そういうものだとして覚えておきましょう。
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次に計測指標について触れます。
初期のアクセス解析では、ヒット数がよく使われてきましたが、これは1サイトを構成
する部品全てをカウントするので今では余り使われません。
代わりに訪問数計測でよく使われるのは PV(Page View)ですが、Web では顔が見えな
いので、例えばあるページで 100PV と計測しても、それが 100 人訪問した結果なのか1
人が 100 回来たのかまでは分かりません。
従って、解析ソフトでは、ブラウザに保存される Cookie 情報などを使って、その PV が
ある一連のサイト訪問の中でのものなのか、それとも別なのかを判別することが出来ま
す。(但し Cookie 設定にも依存するので収集できないこともあります)
【図. アクセス解析で代表的な訪問指標】
この「セッション」「ユニークユーザ(または訪問数)」もアクセス解析では頻出用語
で、その計測定義の違いは知っておく必要があります。
例えば、新規顧客開拓を注力している Web サイトであれば、いくら PV やセッションが
増えてもユニークユーザ数が増えない限り目標到達とはいえません。
これらを元にして目標達成するための評価指標を設計していきますが、今までに触れた
KGI(Key Goal Indicator)・CSF(Critical Success Factor)・KPI(Key Performance
Indicator)を定義して体系的に(要は偏った指標だけをみずに)閲覧する仕組みを作るこ
とが重要です。
下図に、EC サイトでの指標ツリーの参考例をのせておきます。最近では、Web 以外の
チャネルとの相互送客も活発化しているので、訪問者の立場にたった理想的な動線が
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・Web ビーコン型:Google Analytics
Google が 2005 年に買収した Urchin の
技術を元に作られたサービス。制限付き
で無償利用が可能で、ハイエンド向け有
償サービス(年間 1200 万円)として
Google Analytics Premium も提供。
Google 広告管理との連携により、広告
効果分析も可能。2014 年にマルチプラ
ットフォームを意識した Universal
Analytics が正式リリースされ、今後は
それにシフト予定。
・サーバログ型:Site Tracker
アクセス解析の初期はこの収集方式が
主流であり、その中での代表的な製
品。
各ページへのアクセス数や経路解析な
ど、基本的なアクセス解析機能は具
備。
現在は開発元の製造停止に伴い、
2014 年 12 月末をもって新規販売も停
止。(既存サポートは継続)
・パケットキャプチャ型:RTmetrics
NW 機器に流れるパケットを直接捕捉
して解析するため、大規模処理及びリ
アルタイム処理に強い。また、Web ビ
ーコン型・サーバログ型いずれにも対
応可能であるため、ハイブリッド型。
社内データと掛け合わせた BI アドオン
機能によって拡張も可能。
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【図. 消費者購買モデルの代表例】
どのモデルを採用したにせよ、各プロセスの心理にあるお客様にどのようなメッセージ
をどのように届けるのかがポイントになります。
例えば AISAS では、デジタル技術を活用して消費者が主体的に検索(Search)したり、
購買体験を他者と分かち合ったり(Share)する点を考慮しています。そのモデルでは必
然的に、ユーザ同士の柔らかい会話から訪れる単なる興味本位のユーザ(チェリーピッ
カーと呼ばれます)が増加します。つまり、どこから流入してきたのかによって分別し
ないと、良し悪しの判断をすることが出来ません。
今の時代はどちらかというと、AISAS や ARASL のほうが実情に近いのではないかと思
います。従って、集客においては流入元別での分析は非常に重要といえます。この段階
では勿論リアル(店舗配布の紙チラシなど)からの集客も考慮に入れる必要がありま
す。
いずれにしても、集客は1つの通観点ですので、訪問後のお客様への対応も考慮してお
く必要があります。
次は、インターネット広告をどのように評価するのか、その代表的な指標についてご紹
介します。
基本となるネット広告評価指標
基本となるネット広告評価指標は、ある程度パターン化されているため、まずは次ペー
ジでその代表的なものを整理しておきます。
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【図. アドネットワークの登場前後】
次に、アドネットワークの 2 年後(2010 年頃)に「アドエクスチェンジ」が登場し、各媒
体やアドネットワークが抱える広告枠を交換できる仕組みが整いました。
イメージとしては、各国通貨内で取引していたものを通貨間取引が出来るようにルール
を統一したようなものです。
これを活用することで、それぞれが別の課金体系であっても、インプレッション課金ベ
ースに統一されて入札することが出来るようになります。
つまり、これで広告の取引市場が整備され、需要(広告主側)と供給(媒体側)とが、
インプレッションごとに広告枠の価格が決定されることになりました。
また、今までは単に広告出稿プラットフォームの段階的な広がりについて触れました
が、「取引」について忘れてはいけないのが、ユーザがサイトに訪問(インプレッション
発生)するたびに売買取引が行われているということです。
もちろんサイト訪問時に体感的に遅れて広告を表示させるわけにはいきません。遅くと
も 0.1 秒内に入札・落札・表示という一連の処理を行う必要があります。
これを実現したのが「RTB」と呼ばれる技術で、元々は金融取引で使われていた技術を
活用しています。
RTB を使うことで、広告配信枠の市場化で高度に複雑化した取引でも、最も高い金額を
つけた購入者の広告を表示するといった方式が可能になります。尚、補足すると、最高
値で落札方式にすると不当に高くなるリスクがあるため、2 位の入札+1 円で落札される
「セカンドプライスビッティング」という方式がとられることが多いようです。
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すると各 DSP はそれぞれ抱えているネットワーク内で予選オークションを行い、DSP
ごとに 1 つの広告コンテンツが優勝して名乗りをあげます。
その結果を SSP に返し、SSP は各 DSP で勝利した広告コンテンツ同士で決勝オークシ
ョンを行い、最終的に表示するコンテンツが決まります。広告主は、3PAS でその効果
測定を行うことが出来ます。
【図. DSP/SSP/3PAS を通じた広告出稿】
アドネクがもたらす広告、マーケターの再位置づけ
新しい広告技術の仕組みについて触れてきましたが、この入札時における条件として
「ヒト(オーディンス)」をターゲティングすることが出来るようになったのが分析の視
点では重要なポイントです。
これらアドテクの登場により、このオーディエンスデータの蓄積/取引処理可能な質・量
が飛躍的に高まったことで、単価だけでなくオーディエンスも入札条件として広告配信
が利用できるようになりました。つまり、「どの枠に出稿するか」という長年慣習として
いた考え方から、「どんな人に広告を出すか」という理想的な考え方をある程度実践する
ことが出来るようになりました。
ここでそもそも広告のあり方について改めて考えてみる必要があります。
Web の世界では今まで、広告の効果は慣習的に「クリック」に依存してきました。しか
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し、Web 以外では、スーパーのチラシ、TV CM、町でみかける看板・ポスターなどの広
告には当然クリックという概念はありません。
Web での活動がリアルと融合しつつある今のデジタル時代で、Web だけ広告クリックだ
けというのはどうみても不自然です。Web 広告でも、最終的な広告クリックだけでな
く、見てもらうこと(インプレッション)も効果に組み込むべき、というのは自然な考
え方です。
上記の考えを踏まえて育ってきているのがアトリビューションで、直接コンバージョン
(目的達成となる行動)までの経路での行動も含めて、貢献度を評価するための分析手
法です。
アドテクと分析技術の進化によって、従来では処理コスト上現実的ではなかったこれら
のデータを捕捉、分析することが出来るようになりました。
アトリビューション分析には、貢献分配方法によって様々なモデルがありますが、いず
れにしても重要なのは、顧客の気持ちになってどのようなプロセスを経てあって欲しい
行動を起こしてくれるのか、という深い洞察です。それがないと、アトリビューション
も宝の持ち腐れとなります。
【図. アトリビューションの考え方と代表的なモデル】
- 56. 55
Web サイト訪問後の活性化
次に、集客活動の次にあたる「回遊」について触れたいと思います。
改めて回遊での目的を書くと、サイトに来てくれた訪問者の満足度をいかに高めて目的
となる行動(コンバージョン。以下 CV と呼称)に導いていくのか?ということです。
今回は、サイト訪問後から切り出した話にフォーカスしますが、勿論集客と訪問後の回
遊はセットで改善を図るのが理想です。そして改善の1要素であるクリエイティブ制作
側との協調も重要です。(Web 制作に関する手法については本書では触れません)
直帰率の考え方
まず回遊を分析する際に初めに着目すべきものとして、直帰率(訪問サイトのはじめの
ページだけみて離脱した割合)があげられます。おそらくアクセス解析に携わっている
方は、多くがこの指標をチェックされていると思います。
ここで注意したいのは、直帰率をどう評価するかです。
例えば、直帰率が 50%だとしたらそれをどう判断するでしょうか? 残念ながら業界共
通の基準値というものはないので、あくまでシーン毎に判断するしかないです。
その判断に至る考え方として、
(1) そのページだけで見た時系列での比較
(2) 同様なページとの比較
(3) セグメント(分類)別での比較
の3種類が存在します。実際にはこれらを組み合わせることになると思いますが、まず
は個別に説明します。
(1)は同じページ対象なので分かりやすいと思います。あとはどういう期間で見るか
と特別なイベント(キャンペーンや外部環境で突発的にアクセスが増えた、等)を除去
するかです。期間についてはどこまで解析にリソースを避けるか次第です。一般的には
週・月単位が多いです。
(2)はキャンペーンサイト同士の比較などが当てはまります。通常の入り口ページと
期間限定の LP(ランディングページ)を比較しても誤解を招くだけなので、ページの位
置づけは明確にしておきましょう。
(3)ですが、セグメント候補としては、
・流入別(検索エンジン、リスティング広告、その他広告、SNS、アフィリエート、
直接リンク(E メールやブラウザお気に入りから等))
・新規/再訪者
・顧客属性(性別・年齢層・住所等)
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顧客の醸成(ロイヤリティ)について
今回は、一度企業に接点を持ってなにがしかのプロファイルを提供して CV(購買、資料
請求等)に至ったユーザと、どう向きあうのかについて触れたいと思います。
CRM(Customer Relationship Management)という言葉はなじみのある方が多いと思
います。顧客の関係性をマネジメントしていくことで、生涯価値の最大化を目指すコン
セプトです。
ここではまさに CRM がテーマです。昔からある有名な法則として、新規顧客に販売す
るコストは、既存顧客に販売するコストの 5 倍かかるというものがあります。
勿論業態によってその実状は異なると思いますが、今の日本市場のように全体として競
争はますます激化し、同時に人口が減少している現状を見ると、昔以上に既存顧客を大
事にしていく必要があるでしょう。
また、今までも幾度か触れたとおり、今は消費者間での評判・口コミの影響力が強くな
っているため、ファン層を築くことでそれが集客の仕掛けとなる好循環も期待できま
す。
Web における顧客スコアリング方法
今までの Web 分析と異なるのは、匿名での行動ログだけでなく属性情報、場合によって
はその顧客へ E メール・DM 等で発信することも出来るということです。
従って、それまでは集客・サイト改善が主目的だったのに対し、例えば下記のような顧
客への対応策を踏まえた分析が求められます。
・顧客が離反していかないようにするには?
・リピート購入してもらうには?
・優良顧客に育成していくには?
もう少し、上記の表現を分析的に言い換えると、下記のとおりです。
(1). 離反していく要因は何か?
(2). どんな顧客がリピーターになっているか?
(3). 顧客をどう評価しているか?
早速各テーマに絞ってみてみましょう。
(1)離反防止について
離反防止要因を探るには、アンケートという昔ながらの手法もありますが、直接インタ
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以前は RFM に関わるデータを収集するコストがかかっていましたが、今では比較的にハードル
が下がっているので、既存顧客の収益化を課題としている Web サイトはぜひトライしてみてくださ
い。
どの要素をどうスコア化して、そして何よりそのスコアを元にどう対応していくのか、というシナリオ
設計が最大のハードルですが、残念ながらこれには最善策は存在しません。地道に仮説検証を
繰り返していきながら効果を見定めていくことです。
いずれにしても、多くの Web サイトでなかなかここまで分析出来ていないというのが
少々勿体ない気がします。
(3)顧客の評価方法について
顧客分析とは結局、顧客をどのように評価して対応していくのかに尽きます。基本的に
は CRM の考え方にのっとり、いい意味でお客様を差別化し、各層への対応方法を整理
しておくことに他なりません。
今までの話も総括して、まずは顧客をどのように整理するのかを図でまとめることは重
要です。そうしないといつまでたってもマス的なアプローチ、もしくは属人的・惰性的
な判断に任せてしまうことになります。
その分析方法が分からないという方のために、ベンダーによっては顧客分析ソフトでテ
ンプレートを用意しています。まずは模倣からでもかまいませんので、大事なのはまず
小さくてもいいのではじめの一歩を歩むことです。是非チャレンジしてみてください。
【図. 顧客分析テンプレート(RFM)】
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分析プロセスについて
今まで、Web 分析の基本的な考え方をご紹介してきましたが、最後に分析の手順につい
て触れます。
もし始めて読者の皆様が Web アナリストとして任命されて、アクセスログ分析を行う場
合を想定します。(既存で既にサイトはあるとします)
まずやってはいけないことは、考えなしにデータと格闘しようとすることです。
そうではなく、まずはこのサイトの目的と現状の指標(よしあしはともかく)とそれら
に責任を持つ方々の理解に努めることです。
特に初めは取り扱っている商材もわからないことも多いので、各指標に関係する担当者
へのインタビューを実施して、商材をどのように売っているのか、Web サイト以外も含
めて、まずビジネスの仕組みを理解しようとすることです。
これは単に自身の理解だけではなく、今後必ず協調すべき時期が出てくるので、関係作
りという意味合いもあります。
その現状理解、そして各指標の見直しが仮に終わったとして、次に指標をどのような順
でみていけばよいか?について触れますが、一般的には下記で行うことをお勧めしま
す。
1. 主要 KPI(PV、UU(Unique User)、直帰率、CV、顧客獲得数 等)の時系列推移
2. サイト流入内訳の傾向を把握→(広告・検索・SNS・直 URL 等)
3. 主要ページ(入口・出口(コンバージョン)・Landing 等)の分析