SlideShare a Scribd company logo
1 of 22
ケアを考える
「当事者」性と当事者への眼
     差し
 富山福祉短期大学 社会福祉専攻
      介護福祉専攻
 第14回「社会理論と社会システ
        ム」
当事者研究の特徴
障がいをもつ人々に関する過去の研究の動向について
批判される論点は主として2点である。
八巻知香子, 寺島彰, 山崎喜比古(2003 )「障害当事者が感じる社会の「まなざし」--国立身体障害者リハビ
リテーションセンターの入所生への聞き取りから」『国立身体障害者リハビリテ-ションセンタ-研究紀要 』
24巻, 21-28項.


1. 内面化された個人の心理状態を測定するこ
   とが、結果的に、個人差の問題に焦点をあ
   てることになり、個人への介入の方法を探
   ることに力点がおかれることになっている
   点である。
2. 外部(研究者、健常者)の視点での望まし
   さが設定されており、本人たちの意識とは
   かけはなれた目標を押しつけている、また
   は、弱者、悲惨な者、という前提で扱って
   いる点である。
当事者が位置するところ
• 特に身体・精神・器質等による「障がい者」
  はマージナルな存在として隔離・排除されて
  きた

• たとえば、施設の場所等

• 詳しくは、佐々木勝一(2008)『障害者施設
  研究序説』学文社.杉本章(2008)『障害者
  はどう生きてきたか―戦前・戦後障害者運動
  史』現代書館; 増補改訂版.を参照されたし
当事者が位置するところ

社会




     無関心層




            少し知っ   関心があ
            ている層           当
                   る・支援者
                   層       事
                           者
我々の日常の振る舞いの
                             中に社会性を発見する
                             『日常生活における自己
                             提示』(邦訳:行為と演
                             技)、精神病院において
                             社会性を維持する人たち
                             への描写『アサイラム
                             (収容所)』、他者に対
                             する顕示的/隠匿的な負
                             い目の社会的操作の問題
                             を取り扱った『スティグ
                             マの社会学』など、19
アービング・ゴッフマン(米:
                             50年代から70年代に
Erving Goffman, 1922-1982)   かけて一世を風靡した。
当事者が感じる社会の「まなざ
      し」
• スティグマ

• 社会的役割

• ステレオタイプ
社会的弱者を“弱者”たらしめる
      社会心理現象
stigma
【名】
1. 汚名、汚点、汚れ、染みとなるもの、不
   名誉(の印)、恥辱(の印)
2. 〔罪人などの体に押された〕焼き印、烙印
「結論として私が再度述べておきたいことは、スティグ
マとは、〈スティグマのあるもの〉と〈常人〉の二つの
集合に区別できることができるような具体的な一組の人
間を意味するものではなく、広く行われている二つの役
割による社会家庭を意味しているということ、あらゆる
人が双方の役割をとって、少なくとも人生のいずれかの
出会いにおいて、いずれかの局面において、このかてい
にさんかしているということ、である。」(引用文内
かっこは中川による)

アーヴィング ゴッフマン,石黒 毅 訳(2010)『スティグ
マの社会学―烙印を押されたアイデンティティ 』せりか
書房; 改訂版, 231項.
社会的役割としての社会的弱者
〈医療〉と〈福祉〉の対象となる人びとを
中心に考えてみよう!!
※ 上記の対象を思い浮かべて記入してみよ
う。




中川が想像してみて
「子ども・高齢者・疾病者・障がい者・低所得者・失業者・被災者・原発周辺
の住民」etc.
成年男子の健常者中心文化(家父長制・父
権主義:パターナリズム; paternalism)




  〈常人〉を指して
     いる
精神的抑圧 1.
「偏見」(prejudice)
 たとえば、血友病患者が苦しめられている大
きな要素はエイズ患者とみられることである。
これは、同性愛による感染が主たる原因だった
アメリカと異なり、日本の初期のエイズ患者の
多くが、輸入血液製剤を使用していた血友病患
者だったことがあり、これが大きく報道されて
偏見のもとになった(前回の配布資料を参照)。
「感染」への畏れが人びとの過剰防衛をひきだ
す例としては、これまでもハンセン病患者や結
核患者への差別などがある.
精神的抑圧 2.
「ステレオタイプ」(stereotype)
特定の集団や社会の構成員のあいだで広く
受け入れられている固定的・画一的な観念
やイメージのこと。これは、固定観念と訳
してもいいような、要するに型にはまった
とらえ方のことである。偏見と概念的に重
なるが、ステレオタイプの方がより広い現
象をさしている。
精神的抑圧 3.
レイベリング
「レッテル」など。いわゆる「非行少年」「不良」「精
神病」「犯罪者」「変質者」「落ちこぼれ」など。
「社会集団は、これを犯せば逸脱となるような規則をも
うけ、それを特定の人びとに適用し、彼らにアウトサイ
ダーのレッテルを貼ることによって、逸脱を生みだすの
である。この観点からすれば、逸脱とは人間の行為の性
質ではなくして、むしろ、他者によってこの規則と制裁
とが『違反者』に適用された結果なのである。逸脱者と
は首尾よくこのレッテルを貼られた人間のことであり、
また、逸脱行動とは人びとによってこのレッテルを貼ら
れた行動のことである。」ハワード S. ベッカー, 村上 直
之 訳(2011)『完訳 アウトサイダーズ ーラベリング
理論再考ー』
規則をつくりレッテルを貼るのは「何」
か?
1. 政府・役所・組織などのフォーマルな統
   制者であり、専門家・医師・教師
2. マス・メディア
3. 〈一般市民〉
• これらを巡って再生産されていく
• つまりレイベリングによって〈逸脱〉が
  うまれる
「差別」
特定の個人や集団を異質な者としてあつかい、平等待遇を拒否
し、不利益をもたらす行動のことである。
いうまでもなく現代社会は平等を理念として掲げた社会である。
したがって、差別はあくまでも〈不当〉である。しかし、現実
にはさまざまな差別があり、その不当性がなかなか認められな
い。

江原由美子によると、

「差別の問題点のひとつは、被差別者が不利益をこうむること
だけでなく、不利益をこうむっているということ自体が社会に
おいてあたかも正当なことであるかのように通用していること
だという」

江原由美子(1985)『女性解放という思想』勁草書房, 68項より。
「差別の問題点」
• 個人と個人、個人と集団、集団と集団のコ
  ミュニケーションを妨げる。
• 対象になった個人や集団が異議申し立てでき
  ないことが多い。
• 権力によって意図的に利用されることが多い。
• 成員のだれもが被害者にも加害者にも傍観者
  にもなりうる。
• ひとたび「逸脱」の側に〈振り分け〉られて
  しまうと、アイデンティティの危機に適応す
  るため、どんなに不当でもその社会的期待を
  受け入れざるをえない状況に追い込まれてい
  く。
スティグマとはなにか
1. マージナルな側に振り分けられた人間に対
   してあらわれるのが「スティグマ」
   (stigma)である。
2. 望ましくないとか汚らわしいとして他人の
   蔑視と不信を受けるような属性と定義され
   る。これは、ある属性にあたえられたマイ
   ナス・イメージともいえる。
3. スティグマとなりうる属性としては、病
   気・障害・老齢などの肉体的特徴、精神異
   常・投獄・麻薬常用・アル中・同性愛・失
   業・自殺企図・過激な政治運動などから推
   測される性格的特徴、人種・民族・宗教に
   関わる集団的特徴などがある。
障がい者への「まなざし」
         社会からの「まなざし」は、

1. 自立への意欲がありながら機会が開かれないこ
   と。
2. 自分が所属する集団との関係。
3. 公共の場所での不自由および不快体験。

前項「障害当事者が感じる社会の「まなざし」--国立身体障害者リハビリテーションセ
ンターの入所生への聞き取りから」『国立身体障害者リハビリテ-ションセンタ-研究紀
要 』 24巻, 23項より.



     『目に見えない“バリアー”』
バリアフリー・ノーマライゼーション・脱アサイ
          ラム

「医療社会学の名著アービング・ゴッフマ
ン,石黒 毅 訳(1984)『ゴッフマンの社会学
3 アサイラム』誠信書房」

   ☆人をしばる「施設」としての病院



◎「全制的施設」(total institution)
ちょっと長いけど引用
「いずれの施設もすべてその構成員たちの時間と関心の何ほど
かを捉え、彼らに何らかの世界を与えている。要するにあらゆ
る施設は(人々を)包み込む様々な性状(テンデンシーズ)を
もっているのだ。欧米社会の多岐多様な施設を概観してみると、
そのうちのある種の施設は、包括制の程度が大きく、他の施設
とは明確に異なっているものが認められる。これらの施設の包
括的ないしは全制的性格は外部との社会的交流に対する障壁、
ならびに物理的施設設備自体、たとえば施錠された扉・高い
壁・有刺鉄線・断崖・水・森・沼沢地のようなもの、に組み込
まれている離脱への障碍物(=障害物)によって象徴されている。
この種の施設こそが私が全制的施設と称するものであり、私が
探求したいと願っているのは、そのような施設の一般的性格で
ある。」

(E.ゴッフマン, 石黒 毅 訳(1984)『ゴッフマンの社会学 3 アサ
イラム』誠信書房, 4項より)
脱アサライム化
シート.18の障がい者への「まなざし」を内
在化させる可能性がある。
なぜか?
自分の行動に影響をもたらすスティグマ
(セルフ・スティグマ)を引き起こす。

しかし、「全制的施設」がネガティブの要
因か?
最終階に向けて
            ケアの対立
〈安全、医療ケア、相談援助〉VS 〈自由拡大の実現可能
            性〉


〈脱施設か〉 → 〈代替施設化〉〈再供
        給化〉

       以上の具体像とは?
  例えば「グループ・ホーム」や「富山型デイケア」が研究対
  象になるかも?

More Related Content

Similar to ケアを考える 「当事者」性と当事者への眼差し

平成25年前期 第4回『社会学』社会的行為 理解社会学(配布用)
平成25年前期 第4回『社会学』社会的行為 理解社会学(配布用)平成25年前期 第4回『社会学』社会的行為 理解社会学(配布用)
平成25年前期 第4回『社会学』社会的行為 理解社会学(配布用)
Shohei Nakagawa
 
妄想社会学 -夜のコミュニケーション論-
妄想社会学 -夜のコミュニケーション論-妄想社会学 -夜のコミュニケーション論-
妄想社会学 -夜のコミュニケーション論-
Tsubasa Ito
 
妄想社会学 -夜のコミュニケーション論-
妄想社会学 -夜のコミュニケーション論-妄想社会学 -夜のコミュニケーション論-
妄想社会学 -夜のコミュニケーション論-
Tsubasa Ito
 
妄想社会学 -夜のコミュニケーション論-
妄想社会学 -夜のコミュニケーション論- 妄想社会学 -夜のコミュニケーション論-
妄想社会学 -夜のコミュニケーション論-
yudemen555
 
第3,4回会合資料 ラカンを横切る
第3,4回会合資料 ラカンを横切る第3,4回会合資料 ラカンを横切る
第3,4回会合資料 ラカンを横切る
kazuhiroishibashi
 

Similar to ケアを考える 「当事者」性と当事者への眼差し (15)

平成25年前期 第4回『社会学』社会的行為 理解社会学(配布用)
平成25年前期 第4回『社会学』社会的行為 理解社会学(配布用)平成25年前期 第4回『社会学』社会的行為 理解社会学(配布用)
平成25年前期 第4回『社会学』社会的行為 理解社会学(配布用)
 
「社会」から考える ~社会学?のすすめ~
「社会」から考える~社会学?のすすめ~「社会」から考える~社会学?のすすめ~
「社会」から考える ~社会学?のすすめ~
 
妄想社会学 -夜のコミュニケーション論-
妄想社会学 -夜のコミュニケーション論-妄想社会学 -夜のコミュニケーション論-
妄想社会学 -夜のコミュニケーション論-
 
妄想社会学 -夜のコミュニケーション論-
妄想社会学 -夜のコミュニケーション論-妄想社会学 -夜のコミュニケーション論-
妄想社会学 -夜のコミュニケーション論-
 
妄想社会学 -夜のコミュニケーション論-
妄想社会学 -夜のコミュニケーション論- 妄想社会学 -夜のコミュニケーション論-
妄想社会学 -夜のコミュニケーション論-
 
AIDコミュニケーションクラス#03 (2013年7月22日)
AIDコミュニケーションクラス#03 (2013年7月22日)AIDコミュニケーションクラス#03 (2013年7月22日)
AIDコミュニケーションクラス#03 (2013年7月22日)
 
ヘイトスピーチと反ヘイト運動: 3種類の《二正面作戦》という難題
ヘイトスピーチと反ヘイト運動:3種類の《二正面作戦》という難題ヘイトスピーチと反ヘイト運動:3種類の《二正面作戦》という難題
ヘイトスピーチと反ヘイト運動: 3種類の《二正面作戦》という難題
 
予測としての身体と愛
予測としての身体と愛予測としての身体と愛
予測としての身体と愛
 
2013jpa sympo asano
2013jpa sympo asano2013jpa sympo asano
2013jpa sympo asano
 
Personal Media Strategy - パーソナルメディア戦略
Personal Media Strategy - パーソナルメディア戦略Personal Media Strategy - パーソナルメディア戦略
Personal Media Strategy - パーソナルメディア戦略
 
Encamp fukuyama
Encamp fukuyamaEncamp fukuyama
Encamp fukuyama
 
第3,4回会合資料 ラカンを横切る
第3,4回会合資料 ラカンを横切る第3,4回会合資料 ラカンを横切る
第3,4回会合資料 ラカンを横切る
 
R232★ 加藤恵美・いとうたけひこ・井上孝代(2018). 自死遺児の語りにおける自己開示・発見・リカバリーの過程:手記『自殺って言えなかった』のテキス...
R232★ 加藤恵美・いとうたけひこ・井上孝代(2018). 自死遺児の語りにおける自己開示・発見・リカバリーの過程:手記『自殺って言えなかった』のテキス...R232★ 加藤恵美・いとうたけひこ・井上孝代(2018). 自死遺児の語りにおける自己開示・発見・リカバリーの過程:手記『自殺って言えなかった』のテキス...
R232★ 加藤恵美・いとうたけひこ・井上孝代(2018). 自死遺児の語りにおける自己開示・発見・リカバリーの過程:手記『自殺って言えなかった』のテキス...
 
障害者差別解消法と社会的養護
障害者差別解消法と社会的養護 障害者差別解消法と社会的養護
障害者差別解消法と社会的養護
 
公式サイト用01
公式サイト用01公式サイト用01
公式サイト用01
 

More from Shohei Nakagawa (7)

新型コロナウイルス感染症対策に係るNPO等支援のための緊急アンケート調査レポート
新型コロナウイルス感染症対策に係るNPO等支援のための緊急アンケート調査レポート新型コロナウイルス感染症対策に係るNPO等支援のための緊急アンケート調査レポート
新型コロナウイルス感染症対策に係るNPO等支援のための緊急アンケート調査レポート
 
H26年『社会学』@富山病院看護学校第1回講師用
H26年『社会学』@富山病院看護学校第1回講師用H26年『社会学』@富山病院看護学校第1回講師用
H26年『社会学』@富山病院看護学校第1回講師用
 
文化を視る 終章
文化を視る 終章文化を視る 終章
文化を視る 終章
 
第11回『社会学』「文化を視る」
第11回『社会学』「文化を視る」第11回『社会学』「文化を視る」
第11回『社会学』「文化を視る」
 
2013 前期 第7回社会システム理論の深みへ「プレゼン」
2013 前期 第7回社会システム理論の深みへ「プレゼン」2013 前期 第7回社会システム理論の深みへ「プレゼン」
2013 前期 第7回社会システム理論の深みへ「プレゼン」
 
第5回支配の諸類型と権力・暴力装置(配布用)
第5回支配の諸類型と権力・暴力装置(配布用)第5回支配の諸類型と権力・暴力装置(配布用)
第5回支配の諸類型と権力・暴力装置(配布用)
 
第13回『ケアを考える』
第13回『ケアを考える』第13回『ケアを考える』
第13回『ケアを考える』
 

ケアを考える 「当事者」性と当事者への眼差し