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微積分学入門のエスキース

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  1. 1. 微積分学入門のエスキース 1 原 啓介 JAFEE デリバティブ研究部会自主ゼミ (「土曜どうでしょう」会) 26 Nov. 2022 1お気に入りの微積分学の教科書をお手元に一冊ご用意ください。本講演をより楽しめるでしょう。
  2. 2. テーマ:微積分学の教程をどのようにすべきか? ! 某出版社の依頼で微積分入門の第一稿を上げたのだが、出版には難アリな内容だったの か編集者が音信不通になり、どうやら迷宮入りしたよう ! でもおかげで色々と勉強でき、悟るところもあったので、この機会にご紹介したい ! 内容 1. 微積分入門の 3 つのジレンマ 2. 5 つの課題 (実数/区間/平均値の定理/積分/超越的関数) 3. 私ならこうしてみる (私の微積分入門)
  3. 3. 微積分学入門の 3 つのジレンマ 微積分の教科書には一般的に以下の三つのジレンマがある。どれも di-lemma の言葉通り、正 解はない。 ! 数学的厳密さ vs. 応用への配慮 ! 高校数学からの接続 vs. より進んだ解析学への接続 ! なにを選びどう語るか、分量とスタイルの問題 (精選 vs. 網羅、簡潔 vs. 饒舌) 演習 1 これらのジレンマに対して、あなたの手元の教科書で著者はどういう判断をしているようで すか?
  4. 4. 微積分学入門の 5 つの厄介な問題 具体的には以下のような問題の扱いに上記のジレンマに対する態度が表れる。 1. 実数の (再) 定義と極限の議論 2. 事実上の位相 (general topology) の内容,特に閉区間と開区間 3. 平均値の定理の扱い方 4. 積分の (再) 定義 5. 初等的な超越関数 (指数関数、対数関数、三角関数) の (再) 定義 演習 2 あなたの手元の教科書で著者はこれらの問題をどのように扱っていますか?
  5. 5. 特徴のある微積分入門たち 4 選 特徴 (クセ?) のある 4 冊を参考に挙げておく。(どれも名著である。念のため) [2] 金子晃 『数理系のための 基礎と応用 微分積分 I, II』, サイエンス社 [6] ハイラー&ワナー (ヴァンナー)『解析教程 (上, 下)』, 丸善書店 [8] ポントリャーギン『やさしい微積分』, 坂本実訳, 東京図書 (ちくま学芸文庫で再版) [9] ポントリャーギン『無限小解析 — 複素変数からの新しいアプローチ』, 清原岑夫訳, 森北出版 演習 3 上記の 4 冊のどれかをお持ちならば、その本で著者は 3 つのジレンマと 5 つの問題をどのよ うに扱っていますか?2 もし、ポントリャーギンの 2 冊を持っていれば、その 2 冊では同じ 著者でもどのように態度が違いますか? 2お持ちでなければ、以下のリンク先の AMFiL 加藤恭さん「初等解析学 (微積分学) 入門」も特徴のある例 (ただ しまだ完結していない) https://mathfi-lab.com/blog/math lectures/calculus lectures/
  6. 6. 実数の再定義 ! 高校数学では実数を数直線の直観で「定義」するが、連続性を厳密に定義しないと極限 の概念が曖昧になるため、理論的にはもちろん、応用上も微妙な問題があつかえない ! 連続性の定義の方法はおおむね以下の二通りに分けられる 1. 構成的な定義 (デデキント切断、コーシー列の同値類、etc.) 2. 公理的な定義 (上限や単調増大列の極限の存在、区間縮小法、etc.) ! どちらにも長所短所がある 1. 構成したものが我々が知っている「実数」の性質を持つことを示す必要がある 2. 公理を満たすものが存在し、良きものであることを示す必要がある 3. また各具体的方法それぞれにも使い勝手の良し悪しがある ! そして、いずれにせよかなり面倒で、相当の分量が必要になる (「夏も近いのにあの先生まだ実数のかけ算定義してるらしいよ……」) 演習 4 問題は、よく知っている「実数」と数学的実数の橋渡し。あなたならどうしますか?
  7. 7. 平均値の定理 定理 1 ((微分の) 平均値の定理) 関数 f が閉区間 [a, b] 上で連続かつ開区間 (a, b) で微分可能ならば f (b) − f (a) b − a = f ! (c) を満たすような c ∈ (a, b) が存在する。 平均値の定理は微積分入門の礎石で、これを用いて微分の局所的な性質を大域的性質に延長 する。例えば、増分不等式 (ある区間で微分が非負なら単調増大、など) や、微積分学の基本 定理。 演習 5 お手元の教科書では平均値の定理をどこでどのように用いていますか?
  8. 8. 平均値の定理不用論 しかし、平均値の定理には根強い批判もあり、一時は不用論が盛り上がった。例えば、ディ ユドネ『現代解析の基礎』[5] によれば (下線も [5] による)、 「このよくない点はつぎのことにある: 1. f がベクトル値になるとどうしようもない。 2. 数 c については、a と b の間にあるという以外、まったく 何も 判らない。そ してたいていは、f ! (c) が区間 [a, b] の上限と下限の間の数であるいうだけ (ちょうどその値を f ! がとるという ことではなく) しか使わない。いいかえれ ば平均値の定理の真価は等式にあるのではなく、不等式 にあるのだ。 」 でも、いつの間にか下火になり、現在ではほぼすべての微積分入門で平均値の定理が用いら れている……
  9. 9. 平均値の定理なしにどうする? 1(増分不等式) 確かにディユドネの指摘通り、ほとんどの場合は以下のような増分不等式で間に合う。 定理 2 (増分不等式) 関数 f が閉区間 [a, b] 上で連続で、かつ開区間 (a, b) で微分可能で任意の x ∈ (a, b) につい て f ! (x) ≥ 0 ならば、f (a) ≤ f (b). 増分不等式は多次元にすぐ一般化できるし、微分の定義だけから導くのもさして難しくない し、(通常の理論展開とは逆に) 微積分学の基本定理から導くこともできる 3 。 3しかし後述するように、基本定理を証明するには、少なくとも「区間で f !(x) = 0 なら定数関数」が必要なの で、本質的に増分不等式を使っていることになる。
  10. 10. 平均値の定理なしにどうする? 2(積分の利用) 局所的な情報を大域的につなげるという意味では積分を利用する手もある。例えば、積分の 平均値の定理や微積分学の基本定理。 定理 3 (積分の平均値の定理) 関数 f が閉区間 [a, b] 上で連続ならば、f のこの区間での最小値 m, 最大値 M に対し、 m ≤ 1 b − a ! b a f (x) dx ≤ M が成り立つ。よって、“ 中央の積分 = f (c)” となる c ∈ (a, b) が存在する。 定理 4 (微積分学の基本定理) 関数 f が閉区間 [a, b] 上で連続微分可能ならば、 f (b) − f (a) = ! b a f ! (x) dx.
  11. 11. 増分不等式の証明 ! 平均値の定理から直ちに導かれる (通常の方法) ! 平均値の定理より f (b) − f (a) = f ! (c)(b − a). ! 仮定より f ! (c) ≥ 0 だから f (b) − f (a) ≥ 0. ! 微積分学の基本定理からも直ちに導かれる (筋は良いが、端点の処理に問題がある上、循 環論法?) ! 基本定理より f (b) − f (a) = ! b a f ! (x)dx. ! 仮定より f ! (x) ≥ 0 on [a, b] だから f (b) − f (a) ≥ 0. ! 微分の定義からダイレクトに導くこともできる ! 任意の ε > 0 について f (x) − f (a) ≥ −ε(x − a) が x = b でも成り立つことを示せば十分 ! 各点の近傍で成立している評価を線形につなぎあわせていけばよい ! (技術的には、[a, x] でしか成立していないなら、x の近傍の評価でもうちょ っと延ばせるから 矛盾、とやる) つまり、平均値の定理はこういうダイレクトな議論が面倒なので、定理の形にパッケージし たものだが、それなら増分不等式の方が筋が良い、という理屈。ディユドネ [5], ブルバキ [7] の他、和書では山崎 [11] が「平均値の定理不用論」 。
  12. 12. 閉区間、開区間と位相の問題 1 区間の端点の処理の問題 ! 上の定理 1, 2 でもそうだったが、微積分入門には「f が [a, b] で連続で (a, b) で微分可 能ならば……」という仮定が多い ! 理由は端点で微分が定義しにくいからではない(そもそも、端点での微分可能性が不用だとい う、より良い主張なのだから) ! 閉区間 (コンパクト集合) 上の連続関数の良い性質を使いたい & 仮定をぎりぎりに弱めたい ! [a, b] 上で連続微分可能にしてしまうと、f (x) = √ x on [0, 1] のような簡単で大事な例まで外 れてしまう ! このように閉区間と開区間それぞれの位相的性質をフルに使おうとすると、区間の端点 の処理が大変 この区間の端点の処理を徹底すると (書く方も読む方も) 相当面倒なので、ほとんどの教科書 では「区間」の語を曖昧に使うなどして、適当にゴマカシている (例外としては 吉田伸生 [12] など)。
  13. 13. 閉区間、開区間と位相の問題 2 位相 (general topology) の問題をどうあつかうか ! 微積分入門の中心は連続で微分可能な関数の解析学なので、本質的に位相の性質が効い ている ! 例えば最大値の定理 (「閉区間上の連続関数は最大値を持つ」) ! それに依存して一様連続性、積分の定義など ! 区間だけで押し通すか、開集合や閉集合の概念まで持ち出すか、さらに事実上「位相入 門」レベルまでやってしまうか ! 抽象的な位相の概念で扱う方がかえってやさしい、という面もあり、なかなか悩ましい
  14. 14. リーマン積分の難しさ ! f の [a, b] 上のリーマン積分の直観的定義 ! [a, b] の分点 a = a0 < a1 < · · · < an < an−1 = b に対し、各小区間 [aj−1, aj ] 内に標本点 xj をとる ! S = " (aj − aj−1)f (xj ) をリーマン和と言う。リーマン和は分点と標本点のとり方に依存して いる。 ! 分点を増やして「どんどん細かくしていくと」S がある値に収束するとき、それが f のリー マン積分 ! 問題点 ! 「どんどん細かくしていくと」の収束の意味の難しさ (ある分割が存在して、その任意の細分において は…… or 分割のサイズ (小区間の最大長さ) が小さくなるとき……) ! どのような仮定で (分点や標本点に依存せず) 一意な値に収束するかの議論の難しさ ! (以上が難しくないと言うなら、ダルブーの定理 4 がリーマン積分の定義に果たす役割を正確 に述べてみよ。閉区間上の連続関数がリーマン積分可能であることを示すのに、ダルブーの 定理は必要か否か?) ! 極限、微分、積分との交換など良い性質を保証することの難しさ (強い仮定が必要だったり、 その証明も難しかったり) 4おおまかに言えば、リーマン和の収束の議論において、分割を細かくすることを分割のサイズを小さくすること と思って良い、という定理
  15. 15. リーマン積分不用論 以上の問題からして、リーマン積分による積分の定義には批判も根強い。やはりディユドネ [5] によれば、 「この権威ある名 5 がなければ、これはとうに消えていたのではないかと疑うに 十分である。というのは、(リーマンの天才への正当な畏敬はさておいて)、今日で はその “ 理論” はせいぜいが測度と積分の理論の中程度の演習といった重要性のも のであることが、現役の数学者には明らかなことであるから (……)」 とは言え、リーマン積分は伝統的に標準の地位を確立していて、微積分学教程の中での扱い 方も (洗練されているものは) 洗練されていることも確か。(ダルブーの定理を表に出さず、分割のサイズの みで議論する本が多いようだが、ゴマカシ方の洗練度はいろいろ) 演習 6 お手元の教科書ではリーマン積分はどのように定義されていますか?どのような仮定での リーマン積分の存在をどのように証明していますか? 5リーマンのこと。直後の「これ」はリーマン積分のこと
  16. 16. リーマン積分なしにどうするか? ! だからと言ってルベーグ積分を展開するのは無理だが、有力な代替法はある ! 例えば、 「コーシー積分」6 (高橋『微分と積分2』[1]、ディユドネ [5]、山崎 [11]) ! [a, b] のある分点 a = a0 < a1 < · · · < an < an−1 = b に対し、各 (aj−1, aj ) で定数 cj となっ ているような関数 f を階段関数と言う (各分点 aj での f の値は気にしない) ! f の積分は " (aj − aj−1)cj で定める ! 階段関数の列 fn が g に一様収束するとき、g の積分を fn の積分の極限値で定める ! 一様収束の概念が必要なことは欠点だが、長所が多い ! 定義が明解 ! 定義されるクラスも十分広い (「方正関数」7 ) : すべての点で左極限と右極限の両方が存在す るような関数 (左極限と右極限が一致する必要はない。もちろん端点では片方だけでよい) ! 良い性質を持ち、それらが「階段関数では自明、一様収束なので保存」のワンパターンで簡 単に示せる ! 極限との交換なども同様 6ディユドネ [5] によるこの名前は複素積分を想像させるせいか、あまり用いられていない 7ディユドネ発案の “fonction réglée” の森毅による訳語。英訳は “regulated function”。通常の “regular” (正則) を避けた語と訳語と思われる
  17. 17. 初等的超越関数の再定義 ! 無理数冪乗、指数関数、対数関数、三角関数は高校数学で導入されるが、その扱いは連 続性の直観や、幾何学的直観によっている ! 微積分入門のかなりの部分は、これら初等的超越関数の性質を微分や積分で調べること なので、これらの再定義が教程に含まれる ! 無理数冪乗や指数関数は通常、有理数からの極限で定義する ! 実数 r に収束する有理数の列 qn をとって、xqn の極限で xr を定義 ! 標準的かつ正攻法だが、この議論を厳密に行なうのは結構めんどう ! 対数関数は通常、指数関数の逆関数として定義 ! ネイピア数 e は (1 + 1/n)n の極限で定義したり、指数関数の値や傾きを通じて定義したり 色々な手がある ! 三角関数は通常、幾何学的直観によって三角比を一般化することで「定義」 ! しかし、 「角度」を厳密に定義するのが問題 (標準的には、線積分を用いて弧長で定義する) ! 複素平面に単位円を描いて、もっともらしくやることはできるが、この事情は本質的に変わ りない
  18. 18. 無限級数で定義する方法 他の方法としてメジャーなのは、無限級数で以下のように定義する方法: exp(x) = ∞ " k=0 xk k! = 1 + x + 1 2! x2 + 1 3! x3 + · · · , sin(x) = ∞ " k=0 (−1)k x2k+1 (2k + 1)! = x − 1 3! x3 + 1 5! x5 − · · · , cos(x) = ∞ " k=0 (−1)k x2k (2k)! = 1 − 1 2! x2 + 1 4! x4 − · · · . ! 確かにこの方法は完全に厳密で、各一行しか要しない簡潔な定義 ! だが、まず関数の一様収束の概念とその性質の準備が必要 ! さらに、これらが我々のよく知る直観的な指数関数や三角関数 (三角比) としての性質を 持つことを示すのがかなり難しい ! なお、この方法は複素解析の範囲で初めて真の威力を発揮するので、隔靴掻痒の感もある
  19. 19. ! 他にも色々な方法がある。例えば、三角関数ならば無限積や、積分、または微分方程式 を使う方法など ! しかし、いずれにせよ三角関数の定義が一番の難問で、なかなか決定版がない 演習 7 手元の教科書では、どのような方法で指数関数、対数関数、三角関数を定義していますか? それは数学的に十分に厳密でしょうか、また、どのように性質を導いていますか?
  20. 20. 私の試案 — 三つのジレンマへの対処方針 ! 理論にも応用にも十分な程度の厳密さを目指す ! しかし、直観的な理解を優先し、直観と厳密の橋渡しをする。例えば、証明では常にま ず直観的なプロットを説明してのち、厳密な証明を行う ! 一変数実数値の微積分入門として最低限の内容を簡潔に (ポントリャーギン [8] の態度 8 ) 8「本は入念に書けば書くほど薄くなり、それだけ書く労力が大きくなる。おおざっぱに言って、著者が綿密さを 2 倍にすれば、本の厚さは半分になる。つまり 2 倍の労力に対して、支払いは半分になる。したがって、著者への支 払いは、なされた仕事の 2 乗に反比例する」(ポントリャーギン)
  21. 21. 私の試案 — 実数の連続性は「上限の存在」で ! 実数を有理数と同じ加減乗除の演算と等号不等号の順序 9 を持ち、以下の「上限の存在」 による連続性によって有理数を拡張したものと「定義」 ! 上限の存在: 上に有界な部分集合は上限を持つ (上に有界でない場合は +∞ を上限と考 えることにすれば、 「任意の部分集合が上限を持つ」) ! 上限の存在 (とその系「有界単調増加列は極限を持つ」) が大抵の場合に一番直接的に使 えて、直観的にもわかりやすい ! 構成的/公理的の分類で言えば、公理的な定義だが、高校数学からよく知っている「実 数」の実感を生かせる気がする ! 連続性以外は「演算と順序」がある、という程度の説明で、厳密さは十分だろう 9厳密に言えばアルキメデスの公理「任意の元について、その元より大きな自然数がある」も必要だが、有理数の 拡張であることから自然に仮定されていると考えてよかろう
  22. 22. 私の試案 — 平均値の定理より積分で ! 微分の局所的情報を大域的に拡げるのが主旨なら積分を使うのが筋ではないか ! その意味では微積分学の基本定理を言葉通り「基本」にしたい ! 基本定理の以下の部分は積分の平均値の定理で証明できる (積分の平均値の定理は積分の 性質だけで証明できる) ! f が [a, b] で連続ならば、[a, b] 上で d dx # x a f (t) dt = f (x). ! しかし、以下の部分を証明するには、f の原始関数 F が定数を除いて一意に定まること が必要 ! F が [a, b] で連続微分可能ならば、任意の x ∈ [a, b] について F(x) − F(a) = # x a F! (t) dt. ! よって先に、 「導関数が 0 ならば定数関数」だけは微分の定義から導いておく。ちょ っと 辛いが、微分の定義だけから局所的性質を区間に拡げる練習にもなる
  23. 23. 私の試案 — 「平均値の定理」追放の問題点など ! 実は「導関数が 0 ならば定数関数」を直接証明するのは、増分不等式を示すのと本質的 に同じなので、基本定理を証明してその系として増分不等式を導くのは無駄 ! (ふつうは「f ! (x) ≥ 0 なら単調増加」を f と −f に適用して、 「f ! (x) = 0 なら定数」を 導くものなので、一見は綺麗に見えて、実際はわざと遠回りした感じ) ! 現実的には、増分不等式を微分の定義から示して、基本定理の証明のところで、実は必 要なのは「導関数が 0 ならば定数関数」だけだし、基本定理から増分不等式を示すこと もできるよ、とコメントする程度か ! 「積分中心主義」を徹底するなら、やや常識破りだが、微分より先に積分を導入する手 もあるかもしれない (個人的には、微分より積分の方が基本的でやさしい のではないか、 と思っている)
  24. 24. 私の試案 — 区間だけで簡単に ! 微積分入門では位相の言葉は一切なしで (「開集合/閉集合」の語も用いない) ! 関数の定義域としては区間と、区間からいくつかの点を除いたものだけ ! 「閉区間で連続、開区間で微分可能」問題にはこだわらず、主張が弱まっても閉区間に そろえて可 ! 定義域に含まれる任意の閉区間で定義されていれば十分、性質がわかるでしょう、という態 度 (cf.「局所コンパクト」)
  25. 25. 私の試案 — リーマン積分よりコーシー積分 ! 積分はコーシー積分 (階段関数の一様収束) で定義。リーマン積分は使わない ! 関数列の一様収束は入門レベルでも必須の知識だと考える ! 可積分関数として具体的に示すのは、閉区間上の連続関数だけ ! 開区間、無限の区間などの上の積分 (広義積分) は、端点に関する極限として簡単に触れ るだけにとどめる ! 前述のように、定義域に含まれる任意の閉区間で定義されているのだから十分よく性質はわ かる、と考える
  26. 26. 私の試案 — 初等的超越関数は積分で定義 ! 指数関数と対数関数 ! まず、対数関数 log(x) を以下の積分で定義し、指数関数 exp(x) はその逆関数として定義する log(x) = # x 1 1 u du ! 定数 e は exp(1) で定義する ! 三角関数 ! まず、逆正接関数 arctan(x) を以下の積分で定義し、tan(x) はその逆関数として定義。他の 三角関数はこれから順次定義する。幾何学的には角度を 弧長ではなく扇形の面積で 定義した ことになっている (このアイデアはちょ っとした盲点かも。see Hardy[13])。 arctan(x) = # x 0 1 1 + u2 du ! 定数 π は 2 arctan(+∞) で定義する ! 初等的な超越関数をどれも積分から定義する統一感が長所 ! それぞれの関数がよく知られている性質 (指数法則や加法定理、etc.) を持ち、直観的な それらの意味に一致することを示すのも積分計算で統一感があるし、置換積分や部分積 分の応用例になる
  27. 27. 私の試案 — 応用は初等的超越関数と微分方程式 ! 積分で定義することで、指数関数、対数関数、三角関数の性質の研究が微積分の良い応 用問題になる ! 他の応用としては、微分方程式入門 (具体的解法、局所解の存在定理など) を挙げるくら いで入門としては十分 ! 微分方程式も微分による局所的性質を積分で大域的につなぎあわせる、の心
  28. 28. 私の試案のまとめ ! 積分中心主義 ! リーマン積分は不用。階段関数の一様収束による積分の定義を採用 ! 積分を微分より先に定義する(そののち微積分学の基本定理を証明してから、積分の弱点を微 分で補い、微分の弱点を積分で補う) ! 微分の平均値の定理は不用。局所的性質の大域化には積分を用いる ! 指数関数、対数関数、三角関数は すべて積分で定義する ! 「微分の局所的性質を積分で大域的につなげる」 の精神を中心に ! 実数は上限の存在で連続性の厳密性を担保。他の性質は直観的に済ませる ! 位相の内容は表に出さず区間だけで、かつ端点の微妙な問題もできるだけ簡単化して避 ける (積分も閉区間でしか定義しない) ! 応用は初等的超越関数の性質の探究と微分方程式入門だけにとどめる ! ポイントでは直観的説明と厳密な証明の両方を与え、前者を先に後者を後に
  29. 29. 参考文献 ! [1] 青本和彦『微分と積分1』, 高橋陽一郎『微分と積分2』 (岩波講座 現代数学への入 門), 岩波書店 ! [2] 金子晃『数理系のための基礎と応用 微分積分 I, II』, サイエンス社 ! [3] 小平邦彦『解析入門 I, II』, 岩波書店 ! [4] 杉浦光夫『解析入門 I, II』, 東京大学出版会 ! [5] ディユドネ『現代解析の基礎 1, 2』, 森毅訳, 東京図書 (『1』 」に一変数微積分の章が ある (第 8 章「微積分」)。全体は解析学の高度な教科書) ! [6] E. ハイラー&G. ワナー (ヴァンナー)『解析教程 (上, 下)』, 蟹江幸博訳, シュプリン ガーフェアラーク東京 (丸善書店より新装版) ! [7] ブルバキ『数学原論 実一変数関数 (基礎理論) 1」, 小島順・加地紀臣男訳, 東京図書 ! [8] ポントリャーギン『改訂新版 やさしい微積分』, 坂本実訳, 東京図書 (ちくま学芸文庫 で再版『やさしい微積分』) ! [9] ポントリャーギン『無限小解析 — 複素変数からの新しいアプローチ』, 清原岑夫訳, 森北出版. ! [10] 森毅『現代の古典解析 — 微積分基礎課程』, 日本評論社 ! [11] 山崎圭次郎『解析学概論 I, II』, 共立出版 ! [12] 吉田伸生『微分積分』, 共立出版 ! [13] G.H.Hardy “A Course of Pure Mathematics”, Cambridge

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