高校地学，初回ガイダンス 社会ではなく理科の授業なので，四大文明仮説（否定されている）については話の分かりやすさを優先し，口頭での捕捉に留めています．

1. 気候・文明・天文学
麻布学園 理科（地学）教諭
林 隆之

2. 文明とは
• 文明が文明であるために･･･
– 農耕牧畜： 狩猟採集からの移行 （食糧生産革命）
– 交易： 商人・職人の誕生 （都市）
– 階級： 富の蓄積による支配者の誕生 （都市国家）
– 文化： 支配階級のもとで発展
• 四大文明はなぜ「四大」？
– Cradle of civilization
（文明のゆりかご）
（大同江文明を加えて五大文明と呼ぶことも･･･）

3. 四大文明
• 大河川の沿岸で発達した四つの文明
Suntory webサイト

4. 天文学は最古の学問のうちの１つ
• 地上から見える星空は
– 場所
– 時刻
によって決まる．
• 逆に，星空を見れば
– 時刻
– 場所
が分かる．
Wikipedia： 星座早見盤

5. メソポタミア文明
• チグリス・ユーフラテス川の沿岸で発達した文明
– 小麦の栽培
– 粘土板への文字情報の記録
粘土板：早稲田大学図書館 webサイト

6. メソポタミア文明の天文学
• メソポタミア文明の暦
– 太陰太陽暦の利用
「１か月」は月の運動で，１年は「太陽の運動」で決める．
• サロス周期
– １サロス＝約6585日
– １サロスの中に･･･
• 新月： 223回
• 日食： 39-40回
太陽・月・地球の位置関係が約6585日周期で変わることが，
メソポタミア文明では既に知られていた．

7. インダス文明
• インダス川に沿って発達した文明
– バーレーンを介してメソポタミア文明と交易
http://www.matrix.msu.edu/hst/guide/history140r/unit3/mod/module03.php

8. インダス文明の天文学
• 航海術の発達 （林の推測ですが･･･）
– 星空から現在位置を推定していたはず
Wikipedia:六分儀六分儀 © T.Hayashi
（六分儀自体は17世紀にニュートンが発明）

9. 宮崎 駿 「風の谷のナウシカ」（徳間出版）

10. エジプト文明
• ナイル川の沿岸で発達した文明
– エジプトはナイルの賜物 ～ヘロドトス「歴史」
– ピラミッドは農閑期の公共事業？！
Wikipedia: 三大ピラミッド

11. エジプト文明
• パピルス (papyrus)
– 粘土板と同様に文字情報を記録
– 紙の起源
– paperの語源
Wikipedia: パピルス

12. エジプト文明の天文学
• ピラミッドの向きについての規則性
Google Earth

13. エジプト文明の天文学
ピラミッドの南北辺の真北からの系統的なずれ.横軸は年代〔紀元前)，縦軸は真北
からのずれ(単位は角度の分).番号1-8は代表的ピラミッドの測定値.各点の多くは，
歳差によってずれが変化してゆく傾向(直線aとb) とよく一致している.直線aはミザー
ルの上方通過， bはコカブの上方通過の場合である.
（中村 士・岡村 定矩 著 「宇宙観5000年史」 東京大学出版会）

14. エジプト文明の天文学
• 地球の自転軸の延長にある星（「北極星」）は動かない．
• 地球の自転軸はふらついている（歳差運動）．
• 「北極星」も時間とともに変わる．
出典：「理科ねっとわーく 宇宙・天文まめ知識」

15. まとめ
• 四大文明
– 河川で～5000年前に発達した文明．
– これらの文明が種となり各地に文化が広まる．
– これらの文明では天文学が発達した．
（その頃，日本は･･･）
• 疑問
A. なぜ，各文明が同時期に離れた場所で発達したのか？
B. なぜ，各文明がいずれも天文学を発達させたのか

16. 考察：鈴木秀夫の仮説
中村 士・岡村 定矩 著 「宇宙観5000年史」 東京大学出版会

17. 考察：鈴木秀夫の仮説
• 気候変動により各地で寒冷化と乾燥化．
 草原の民や牧畜民は，狩猟採集できなくなる．
 水を求めて河川近くへ移動．
 既に定住していた農耕民と接触した．
 流入した過剰人口が奴隷や労働者となる． 階級
 支配者が知識階級を生みだした．  文化
農業革命
都市革命
天を見る機会の増加
天を見る必要性
天だけを見る人間の登場
気候が変動したことがきっかけで
文明が生まれ，天文学が発達した可能性がある

18. 参考：古代日本の宇宙観
• 日本で天文の科学知識は発達せず
– 水蒸気量の多いことが原因か？
• 現代でも国内の観測には苦戦
中村 士・岡村 定矩 著 「宇宙観5000年史」 東京大学出版会
日本は湿潤温暖

19. 参考：三内丸山遺跡と気候変動
• 鈴木仮説と同じ理屈で
三内丸山遺跡を説明
Wikipedia: 三内丸山遺跡
東京大学大学院新領域創成科学研究科 自然環境学専攻 web site