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Ambient Findability ? Noriyo Asano Information Architect MediaProbe Inc.
アンビエント・ファインダビリティとは、  現在急速に出現しつつある  新たな世界を表現する言葉だ。 アンビエント・ファインダビリティの 世界では、誰の居場所でも何のありかでも、 いつでもどこでも見つけることができる。 われわれはまだその世界まで 到達してはいないが、間違いなく その方向に向かって進んでいる。 ( 1 章「遺失物取扱所」より)
Pizza Flash on ACLU h ttp:// aclu.org /pizza/
Where 2.0 Conference http:// conferences.oreillynet.com /where/
5
Long Tail ロングテール
Amazon 、 eBay 、 Google 、 iTunes 、 Netflix などは すべてロングテールの申し子たちである。 これらの先行者はそれぞれ、大衆による 情報のカスタマイズを支援するべく検索を活用する。 彼らは、ユーザが見つけられないものは買えないと いうことをよく分かっているのだ。 そして、このロングテールが最終的に、 犬を振り回す尻尾  ―― つまりその企業全体の行方を 左右する重要な要因になることも理解している。 (  1 章「遺失物取扱所」より)
WORDCOUNT / Tracking the Way We Use Language / http:// www.wordcount.org /
4
Search 検索
Marcia Bates’ berrypicking, evolving search  - 1989 人間は完璧ではないし、完全に予測可能でもない。 それ以外の前提に基づくモデルは、 必ず失敗する運命にある。  (  3 章「情報とのインタラクション」より)
search サーチ Re リ
3
Intertwingled 錯綜する世界
われわれは、ネットワーク上の情報を現実世界に エクスポートするための新たなインターフェースを 作り出すと同時に、現実世界の莫大なデータを ネットワークの世界にインポートしつつある。 この大いなる錯綜状態の中で、われわれが 当たり前の存在だと思っている境界線の数々が 曖昧になっていく。  (  4 章「錯綜する世界」より)
[object Object],[object Object],[object Object],[object Object],[object Object]
2
Authority 権威
この不協和音の真っ只中で、 誰の言うことに耳を傾ければよいのか? 誰を信頼するのか? 公式な階層構造と自由なタグ定義、図書館と自由市場、 伽藍とバザール、どちらを頼りにするのか? 言葉かその人自身か、どちらに信用をおくべきか?  (  6 章「ソシオセマンティックウェブ」より)
フィクションかノンフィクションかに関わらず あらゆる情報が「現実」を形成する
1
Communication コミュニケーション
ペースの多層化( pace layering ) 「建築物やさらには社会全体が、個々にユニークかつ適切な変化率を持つ複数の層から成る構造体である」 「変化が遅い層は安定性をもたらす。変化が速い層は革新の原動力となる」 fast slow folksonomy taxonomy | ontology Semantic Web tools/standards
dotSUB – Any Film Any Language http:// www.dotsub.com /
and then…
Organic life is the ultimate technology, and all technology will improve towards biology. http:// www.kk.org/outofcontrol /
Thank you for your attention, enjoy your mind trip. Noriyo Asano [email_address] http:// del.icio.us/noriyo/ambient_findability

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Ambient Findability ?

Editor's Notes

  1. メディアプローブ株式会社 浅野です。 本日はみなさまお忙しい中このカンファレンスにご参加いただきまして、ありがとうございます。 本書の内容についてはおそらく、一読しただけではなんのこっちゃという方も多いかもしれないですね。 実際、 US の Amazon のレビューでも、「何の役に立つのか分からなかった」という批評をしてる人もいます。 おそらく、この本がつかみどころがないと感じられるとしたら、その理由はここに書かれているのが Peter の「理論」ではなく「解釈」であるからでしょう。 私は最近、人間自体が一種のメディアになりつつあるような気がしていて、この本も Peter Morville という「メディア」を通じた現在の IT 社会の姿を記したものではないか、と思うのです。 したがってこの本を楽しむコツは、たとえるなら Peter と一緒に高い展望台にのぼって周りの景色を眺めてみるような、ちょっと非日常を味わうようなスタンスで読んでみること、ですね。 というわけで私のプレゼンでは、本書から浮かび上がってくる 5 つのキーワードをピックアップしつつ、アンビエント・ファインダビリティを探るためのヒントをご紹介できればと思います。 短い時間ですが、よろしくお願いいたします。
  2. まず「アンビエント・ファインダビリティ」という言葉が意味するものは何か?ということですが、これは画面の説明の通り、具体的にはユビキタスコンピューティング環境とインターネットの活用によって、あらゆる人やモノの位置情報が特定できる、つまり「ファインダブル」になるような世界のことを指します。 みなさんお気づきの通り、これはもうある程度まで実現している状況なのですが、いまそのプロセスにおいて非常にさまざまなメリットとデメリットが浮上してきているわけです。 メリットとは、もう少し具体的に言い換えるとビジネスチャンスであり、もっと大きなフレームで考えれば社会に貢献するシステム基盤を生み出す力といえます。たとえば RFID による家畜などのトレーサビリティの実現などがその一例ですね。 逆にデメリットのほうとして一番大きいのは、そうやってあらゆるものの所在が明らかになるとすれば、プライバシーやセキュリティをどう確保していくのかという点です。これは究極的には人間の尊厳や倫理にも関わってくる問題ですから、いずれ無視できなくなる課題です。 もちろん多くのビジネスパーソンにとっては、デメリットを気にするより儲ける方が先だというのは、無理もないことではありますが、中長期的にはアンビエント・ファインダビリティの負の側面をきちんと認識しておかないと、かえって大きなダメージを喰らう恐れもあるわけです。
  3. たとえば、本書には出てこない話ですが、アメリカ自由人権協会というわりと過激な NGO が、現在このような政府・企業による個人情報の収集に反対するキャンペーンを展開しています。アメリカではテロ対策強化などを背景に、個人の所在や身元の特定を行おうとする動きが日本よりも活発であり、その分反動も大きいわけです。 このページには、ノースウェスト航空とジェットブルー航空がプライバシーポリシーに違反して顧客の個人情報を政府機関に流した件が書かれているのですが、実際この 2 社はそれによって集団訴訟を起こされたそうです。 本書の中でも、ファインダビリティの実現とプライバシーやセキュリティの確保とのトレードオフが、重要な論点となっています。 ちなみにこのキャンペーン用 Flash はけっこう笑えるので、興味のある方はご覧になってみてください。 「アンビエント・ファインダビリティって怖いなー」というのがよく分かると思いますので…。
  4. もちろんメリットのほうはデメリットを凌駕する勢いで注目を集めつつあります。 Web2.0 バブルのきっかけを作ったのはみなさんご存知のティム・オライリーですが、オライリー社ではすでに Web2.0 ではなく「 Where2.0 」という、位置情報テクノロジに特化したカンファレンスをオーガナイズしています。今年は 6 月にサンノゼで開催されますが、きっと去年以上に注目を集めるのではないでしょうか。 あと、 INTERNET MAGAZINE のムックとして発売されたばかりの『 Web2.0 への道』という本に、ティム・オライリーのインタビューが掲載されていたのですが、そこでティムが語っていることの多くはアンビエント・ファインダビリティに関わる話だったりもしたので、やはりこのあたりが今一番熱いんだな~というのを実感しました。 ともかく、まずはアンビエント・ファインダビリティというのはただのユートピアではないんだよ、ということ、今はそのメリットとデメリットがせめぎ合いながら情報社会が変容している過渡期なんだよ、ということを踏まえた上で、 5 つのキーワードのはじめの 1 つを取り上げてみたいと思います。
  5. 5、4、3、2、1とカウントダウンしていきます。
  6. まずはトリガーとして、本書でもとりあえずキャッチーなキーワードから話が始まります。 おなじみの「ロングテール」が登場します。
  7. ロングテールとファインダビリティの関係は、要するに「見つからないものは売れない」ということであり、それは裏返せば「見つかったものは売れる」ということに非常に近いのです。 たとえば、 iTMS で取り扱い楽曲の中で 1 回もダウンロードされなかった曲は無いと言われているのが良い例ではないでしょうか。 iTMS にしろ Amazon にしろ、ロングテールの勝者というべきサービスは、バズマーケティング、アフィリエイト、レコメンデーション、カスタマーレビューなどなど、ありとあらゆる手法を駆使して、非常に多角的なファインダビリティを実現しています。 ロングテールの尻尾の先をお金に変えていくためにファインダビリティがどれだけ重要か、よく理解できると思います。
  8. ところで、ロングテールは EC サイトで扱っている商品だけに関わる現象ではありません。 この「 WORDCOUNT 」というサイトでは、世界最大のコーパスである British National Corpus で収集している書き言葉・話し言葉の中にある 1 億サンプルの英単語の利用状況を分析して、 Flash で視覚化した言語のロングテールを見ることができます。 言語のロングテールは、たとえばフォークソノミーにおいても現れていると言えるでしょう。 Peter も本書の中で、言語という体系におけるロングテールに着目しています。 この図でも分かるように、とにかくロングテールの尻尾はとてつもなく細く長いので、そこでいかに効率的にファインダビリティを実現するかといえば、とにかく検索が重要になってくるわけです。 検索でヒットしさえすれば、尻尾のどこに位置していようと、一瞬でファインダブルになるからです。
  9. というわけで、次のキーワードは:
  10. サーチ、検索です。
  11. 検索に関して、本書の重要な背景となっているのは、いまや検索の対象が単なるテキストや画像だけでなく、オフラインに存在する物理的なモノや人にまで広がってきている、ということです。 ・商品 ・お店 ・不動産 ・友達・恋人・結婚相手 etc ・・・ 厳密に言えば、物理的なモノや人に付加されたメタデータが検索の対象になっている、ということです。もちろん、アンビエント・ファインダビリティの実現のために、これが不可欠な要因となるわけです。
  12. 検索対象の拡大は、検索の目的を変化させ、さらには検索における UI の進化をもたらしました。 たとえば、古典的な「存在検索」の場合、たとえば真鍋かをりさんのブログにアクセスしたくて「真鍋かをり ブログ」というキーワードで検索をかけると、 50 万件以上のページがヒットしますが、その中で正解は 1 つだけです。何件ヒットしようと、 1 番目に表示される真鍋ブログにアクセスするという目標達成にはなんら影響しません。 昔はこのような唯一の正解がある存在検索が頻繁に行われていたので、 Google が出現した時に“ I’m Feeling Lucky” ボタンなどというものが用意されていたのでしょう。 しかし、図のカカクコムの例のように、たとえば購入するパソコンを探したいというコンテクストにおける検索では、唯一の正解というものはありません。十分な数の妥当な検索結果をもとに、ユーザが自分の判断によって正解にたどりつくことが求められるわけです。 当然、このような検索において重要なのは、すべての結果集合の中から、ユーザの要求にふさわしい検索結果をどれだけもれなくピックアップできるかということになってきます。そして検索結果ページは、ユーザがそれを精査するために役立つ UI を備えていなければいけません。そのため、結果表示の UI もこれだけ多様化しているわけです。 つまりいまや、多くのサーチはリサーチに進化しつつあると言えるのではないかと思います。 そこでこれからの検索のポイントは、ユーザのコンテクストおよび情報のアバウトネスをいかにうまく取り込めるかということにかかってくると思うのですが、すでに米国 Yahoo の Yahoo Mindset や、 Google のパーソナライズドサーチ、 Amazon の A9 など、革新的な試みは山ほど出てきていますね。 ファインダビリティ実現の鍵となる検索に関しては、これからもますますイノベーションが続くでしょう。
  13. そこで次に、本書独特の重要なキーワードが出現します。
  14. “ Intertwingle” という単語は、辞書に載っていません。これは、ハイパーテキストを発明したテッド・ネルソンが編み出した造語です。 この言葉を翻訳する上では、かなり悩んだ末に、多種多様なファクターが分かちがたくこんがらがっている状況を表現するのに一番ふさわしい訳語として、「錯綜」という言葉を選んでみました。
  15. Peter は本書の中で、これまで二項対立的に捉えられてきた多くの物事が、いまや分かちがたく錯綜しつつある点に注目しています。 特に本書の 4 章「 Intertwingled 」では、従来オフラインにあったモノや人がどんどんネットワーク化されていき、ファインダブルになっていく状況について論じています。 その鍵を握るのは GPS 、 RFID 、 IPv6 などのテクノロジーであり、モノや人のファインダビリティを実現するのに欠かせないのはもちろん位置情報の認識です。
  16. そしてこれまでのインターネットとは要するに「コンピュータのインターネット」だったわけですが、オフラインに存在する「モノ」がネットワークに参加しつつある今、「モノのインターネット」が議論の的になっています。 Wikipedia ではオブジェクト・ハイパーリンキングという項目で解説されていますし、最近では「 Blogject 」という新語が出現して注目を集めています。これは見てお分かりの通りブログとオブジェクトを足した造語ですが、たとえば AIBO がその一例です。モノ自身が自律的に情報を収集し、ブログなどの形で記録・公開することができるようになっているのです。つまり、コンテンツを生み出す主体が人間だとは限らなくなってくる。 そういう事態を背景に、今年の 2 月には Blogject をテーマにしたワークショップがスイスで開催されたりしています。 しかし、このようにネットワーク化された情報が爆発的に増大していけば、ファインダビリティはどんどん低下していきます。本当に必要な情報がどこにあるのか、ますます判断が難しくなる。 その判断において非常に大きな影響を及ぼすのが、情報の信頼性のよりどころとなる「権威」というファクターです。
  17. 実は先日 Peter が来日したときに、このプレゼンで取り上げる 5 つのキーワードを話して、どれが一番重要だと思うかたずねたところ、彼の答えは:
  18. この「権威」でした。 本書を書き始めたばかりのころは、これがそんなに重要なファクターだとは自分でも気づいていなかったそうなのですが、執筆が進むにつれてもっとも着目すべき問題だと認識するにいたったそうです。
  19. 我々はよくネット上で「ソースの信頼性」を問題にしますが、言うまでも無く誰もが非常に主観的な尺度で信頼性、つまりソースの権威を判断しています。 ただし、情報のネットワーク化によるファインダビリティの向上によって、信頼性を判断するための材料は、手に入れようと思えば昔に比べるとずっと多く見つけられるようになっています。 しかし、この「その気になれば」というところが厄介で、人間はすぐに楽をしたがる動物なので、ほどほどで手を打とうとする傾向にある。だから下手するとネットがプロパガンダの道具になったり、ポピュリズムを加速させる仕掛けにもなりかねないのです。 本書ではネットの信頼性を揺さぶった有名な例として Googlebombing などが取り上げられますが、今や権威というものをどう認識し、それにどう従うかは、我々個人にとって大きな責任になりつつあるのです。
  20. ちょっと話が逸れますが、法学者の白田秀彰さんが Hotwired の連載の最終回で「現実 2.0 」というなかなか面白いエッセイを書かれています。 私たちの世界観を形成しているほとんどすべての知識が、何らかのメディアを通して獲得されていることはよく指摘されるが、私たちはそのことをあまり意識していない。それくらい現実はあやふやで、だからこそ意外と簡単に変えられるものなんだと。仮想現実に逃げ込まなくても、ちょっとしたことで現実は変わるということを論じています。 「社会は、ハックできる」という彼の言葉には、ハッとさせられるものがあります。 権威というものも結局は思い込み、よくいえば主観的判断に依存するものなのです。 したがって、あまりに客観性を失って判断を誤る危険を冒さないためには、当然ながら他者とのコミュニケーションというものが不可欠になってきます。
  21. したがって最後のキーワードは:
  22. コミュニケーションです。 本書を丹念に読んでいただけると、 Peter がいかにコミュニケーションというものを重視しているかが見えてくるはずです。 垂直的コミュニケーションと水平的コミュニケーションのいずれについても、その重要性が語られます。
  23. まず垂直的コミュニケーションについては、コミュニケーションの包括概念であるインタラクションの重要性を示すモデルとして、いま IA の世界で非常に注目を集めている「ペースの多層化」のモデルが登場します。 Peter は情報の分類体系に関して、上層にあるフォークソノミーに類する創発的体系で得られた価値が、時間の経過につれて下層にあるタクソノミーやオントロジーへ埋め込まれていけば、アーキテクチャ全体の健全な進化が生じると論じています。 ただし、ペースの多層化はいままさに議論の渦中にある概念で、 IA の間でも解釈に幅があります。 先日の IA サミットで、タギングが情報アーキテクチャにどう影響するのかを論じた「ペースレイヤリングからレジリアンス理論へ」という非常に興味深い論文が発表されて、いま議論の的になっています。レジリアンス理論と言うのは環境社会学の概念らしいのですが、その論文ではペースの多層化モデルで重要なのはレイヤ間の速度の違いによって生じる摩擦であり、それは破壊力にもつながるということが述べられている。 このモデルの真価についてはまだまだ議論が続きそうですが、情報システムを設計する上で多くのインスピレーションを与えてくれる重要なモデルであることは確かです。
  24. 一方、水平的コミュニケーションについては、ファインダビリティ向上のためには異なる企業部門や専門領域の間でのコミュニケーションが不可欠であることと、境界オブジェクトの活用によるコミュニティ間の共通理解の形成の重要性が語られます。 これでちょっと思い出したのが Joi のブログで知った「 DotSub 」というサービスです。 これはユーザが映画の字幕の翻訳テキストをブラウザ上で簡単に付加していくことができるサイトで、百式さんでもとりあげられていました。 映画というのはそれ以外の手段では伝えられない独自の普遍的な表現力を備えたメディアとなりうるので、ネットを活用して非常にわずかなコストで言葉の壁を乗り越えることができれば、豊かな文化的コミュニケーションが実現できるというのが彼らのビジョンです。 映画というリソースを境界オブジェクトとして活用しようとする優れた事例と言えます。 結局、セマンティック Web のコンセプトというのも単にマシンとマシンのコミュニケーションを可能にするだけの話ではなく、最終的にはそれが人と人とのコミュニケーションの進歩につながると考えられているわけですし、 Web2.0 的なアーキテクチャの存在価値も、より高度なインタラクションとコミュニケーションを実現することにあるだろうと思います。 アンビエント・ファインダビリティの世界は、より豊かな未知のコミュニケーションを育む土壌となるべきなのです。
  25. これから本書をお読みいただくみなさんには、以上の 5 つのキーワードを頭の隅っこに置いておいていただければ幸いです。 最後にもう一枚だけスライドをご用意しました。
  26. Peter が 3 月の IA サミットで行ったプレゼンの資料に、 Kevin Kelly の「 Out of Control 」という本が登場していました。 これは『「複雑系」を超えて―システムを永久進化させる 9 つの法則』という邦題で翻訳もされていて、ものすごく面白そうなのでぜひ読みたいと思っているのですが、 Kevin のサイトに行ったら主要なテーマの一つとして上記のような一文がありました。 「有機的生命体こそ、究極のテクノロジーである。 そしてあらゆるテクノロジーは、生態的進化を遂げるだろう」 個人的な見解ですが、ペースの多層化というのも建築物という従来非常にスタティックに捉えられて来た対象を有機的に解釈したモデルだと思いますし、 90 年代から注目されてきたソーシャル・キャピタル理論なども、社会のインフラをハードではなくソフトの面から有機的に捉える試みではないかと思います。 我々が拠って立つネットワークやテクノロジー、果ては社会的インフラが有機的に進化していること、そして我々がそれらを有機的に進化させることについて考えてみるのが、いま一番面白い視点なのではないかと思いますし、 Peter もそこに関心を向けているのかもしれません。
  27. 試しにこの一週間ほど、アンビエント・ファインダビリティに関連するニュースを del.icio.us でタギングしてみました。興味のある方は図の URL をご覧になってみてください。 アンビエント・ファインダビリティの具体像の一端が、わずかながら見えてくるかと思います。 私のプレゼンは以上です。お付き合いくださいまして、ありがとうございました。