青森県における弥生時代水田跡発見までの小物語。10年くらい前の制作。文字が所々、抜けています。ご勘弁の程を。

1. 「弥生水田発見物語」
相 馬 信 吉

2. ●１日、３食、３６５日食べ続けても飽きない！
その秘密は？
●米が「煮られる」ことにある。
●「弾力」・「うまみ」・「香り」三要素の調和

3. ●一般的には紀元前三世紀頃に始まっ
たとされている。
●しかし、最近、弥生時代の開始年代を
５００年ほど古く見る説が登場。

4. ●一般的には、米を蒸して食べていたといわれて
いる。
●しかし、弥生土器の内側に「おこげ」が残ってい
るのが発見され、直接、甕で炊いて食べていたこ
とがわかった。

5. ●昭和48年（1973）ー青森県立郷土館開館
考古展示室の弥生時代の解説パネルに次のような
記載があった。
●「青森県が弥生時代の影響を受けた証拠として、モ
ミ痕のある土器や、焼米・管玉などが出土しています
が、稲作が行われたかどうかは大きな問題となっていま
す」
県立郷土館開館当時の弥生時代認識

6. ●昭和25年（1950）ー
東北大学の伊東信雄が
初めて田舎館村八木沢
誠次所蔵の資料を調査
。
また、青森市の成田彦
栄所蔵の田舎館村出土
の土器に西日本弥生土
器に多い円盤状の蓋を
発見。

7. 伊東信雄「東北地方の弥生式文化」昭和25年

8. ●しかし、当時はまだ、稲作農耕を証明する炭化米や、
籾痕のある土器、石包丁などは発見されておらず、万
人を納得させるだけの資料は揃っていなかった。
●慶応大学の江坂輝弥は、田舎館式土器が弥生式土器の
影響を受けていることは認めながらも、弥生式文化の特
徴である稲作が行われた証拠がないことから、これを弥
生式土器と呼ぶことは不適当で、続縄文式土器と呼ぶべ
きであるとした。
●以上のことから、伊東は田舎館村出土の土器をこの地で作
られた弥生時代の土器と考えた。

9. ●昭和31年に田舎館村で耕地整理が行われ、多くの田
舎館式土器が出土。→田舎館中学校教諭の工藤正が籾
痕のついた土器を見つけ、伊東信雄に連絡。
●昭和33年、東北大学伊東信雄によって田舎館村た柳
遺跡の発掘調査が行われ、200粒以上の焼米などが発
見された。

10. 炭化米
伊東信雄（右）と工藤正

11. ●「これで田舎館式土器が弥生式土器であり、その時代に津
軽平野で米が作られていたことが完全に証明されたわけで
ある。これは青森県農業史上の大きな事実であるばかりで
なく、日本考古学史上の重大な発見である。わたしとして
は30年前に自分のたてた仮説を自分の手で実証することが
できたわけで、まさに会心の発掘であった」（伊東信雄）
●当時の研究者の多くは田舎館式土器に伴う米の存在は認め
ても、このような寒冷地で稲作が行われたとは考えがたく、
南方の温暖な地で作られたものが交易によってこの地にもた
らされたと考え、なおも伊東の説に否定的だった。
しかし

12. ●昭和56年（1981）秋、垂柳遺跡近くをバイパスが
通ることになり、県教委が試掘調査を実施。
●調査終盤の11月3日午後4頃、白い土に覆われた
弥生時代の水田跡が調査担当者である成田誠治の
目に飛び込んできた。→後に「教科書を書き替え
るほどの発見」と称された、まさにその瞬間。

13. １１月初めには、第５層に達し、１１月３日にその層を掘り
下げることとした。第５層は灰白色の火山灰質の土層であった
。休日にも拘わらず、第５層を少しずつ掘り下げた結果、想像
していたよりも整然とした畔が見えてきた。
大畔・小畔・水路とだんだんはっきりしてくるにつけて、だ
んだん実感が湧いてくる。これが本当に弥生水田か、と自問自
答しているうちに、作業員からこの黒く見えるものは何ですか
と聞かれ、我にかえり、思わず「弥生時代の水田の跡だ」と言
ってしまった。それまで黙々と指示に従っていた作業員たちの
間から一斉に歓声が上がった。約２０００年前の人たちが耕し
ていた水田跡が眼前に現れた一瞬であった。（成田誠治）

14. 昭和56年垂柳遺跡試掘調査時水田跡確認状況

15. 工藤正「最後の物がとうとう出ましたよ」
伊東信雄「やっと出ましたね。私は初めて垂柳の
地形を見たとき、この平野では稲作以外に考えら
れないと確信していた。」
工藤正「来年の本格的発掘調査で農具が発見できれ
ば100％弥生時代の稲作栽培が実証できることにな
ります。」
工藤は昭和57年の春に本格調査を待たず、死亡。

17. 垂柳遺跡地層断面

18. 雨の日の弥生水田

19. 弥生水田に立つ伊東

21. 昭和56〜58年の発掘調査成果
●656枚の弥生時代水田跡が見つかる。
●水田は、形が正方形に近いものが多く、扇形
のものも少しある。面積は平均約８平方メー
トルである。
●田舎館式土器・石器・米などは出土したが
、農耕具の石包丁などは発見できなかった
。

22. 「垂柳遺跡発掘調査報告書」刊行
ー昭和６０年３月ー

23. 「私は自分の唱えた学説が間違いでなかったことが垂
柳水田の発掘によって証明されたのを悦ぶと共に、な
ぜ青森県のような気候冷涼の地に稲作が可能であった
か、垂柳水田によって代表される東北北部の稲作農耕
がどのようにしてはじまったのか、またそれがどのよ
うに変化して今日に至ったかについて、今後も自然科
学者を含めた同士とともに研究を進めて行く必要があ
る」
自分が唱えた学説が認められるまで、30数年の年
月を要した。御年、７３才の時であった。

25. 平成４年（1992）
県立郷土館考古展示室展示替え